コンペイトウ宙域でガンダム試作2号機による核攻撃が行われようとした時とほぼ同時刻、連邦軍宇宙軍事拠点ペズンではクロエ技師長による複数の機体の調整が行われていた。
「ヴァイスリッターとフィルマメントの再調整はOKね、後はこの子だけか……。」
一年戦争時、ジェシー・アンダーセンとアンナ・フォン・エルデヴァッサーが搭乗していた機体の隣にあるのは白一色で染められたガンダム。
EC社によるガンダム開発計画のプランにあった3機の内の最後の1機『RX-78 EC-03 ガンダム アルベド』であった。
「驚いたな。まさか新型のガンダムまであったとは。」
声を掛けて来たのは『箱』を届けに来た運送屋の男だ。
「えぇ、本当はジェシーくんの失踪事件で本来3機分降りる筈の予算が降りなくなって本来連邦軍に見せられるのは開発資金を何とか捻出させたルベドって名付けた狙撃機だけだったんだけど、アンナちゃんがどうしても完成させたくてEC社単独で時間をかけて製造していたのよ。彼の為にね。」
「コンセプトはヴァイスリッターと同じだと言うわけだな。ルベドという機体の戦闘データも見させてもらったがあの戦争でエルデヴァッサーが乗っていた青い機体を発展させた様に見えた。」
「貴方が乗る事になるヴァイスリッター1号機と、マリオンちゃんが乗っているヴァイスリッター2号機。両機とも体裁上は『兵装』試験機としての側面が大きいのだけれど、この子を含めたガンダム達はどちらかと言えば『換装』試験機としての意味合いが大きいわ。」
「換装……?」
「ニグレド、ルベド、アルベド。この3機は砲撃、狙撃、白兵戦にそれぞれ特化させた機体なのよ。ニグレドが圧倒的な火力を持って多数の敵を殲滅し、残った敵をアルベドが高速で駆逐し、ルベドが本命を射抜く。その為に状況に適した装備に切り替えたり時には機体各部ごと付け替えたり、そういうコンセプトで開発するつもりだったの。」
「成る程、しかし実際はそう上手くは行かないだろう?如何に優れた機体やパイロットでも一瞬の隙で生死を左右されるのが戦場だ。」
「確かにね、それでもお偉い様に見せるのにはそういうウケが良くて分かりやすい内容の方が良いのよ。事実ニグレドの事件があるまでは予算は潤沢に降りる筈だったし。」
「やっている事はジオンのモビルスーツバリエーションの技術と似てはいるな。戦争末期に開発されたゲルググは高機動型や砲撃型と言ったバックパックや細部の部品の交換で様々な戦局に対応するつもりだったようだからな。実際にそれがやれたのはキマイラ隊など一部のエース部隊にのみとなったらしいが。」
「あら、随分と詳しいのね運送屋さん。昔取った杵柄というやつかしら?」
「ふっ、誰にでも過去はあるものさ。俺にも……奴にもな。」
整備クルー達が忙しなくアルベドの調整を進める中、その様な話をしているとカルラ・ララサーバル軍曹が血相を変えて現れる。
「大変だよセンセー!運送屋!『箱』が!物凄い音を立てて動き始めた!」
「遂に来たか……アンダーセンの告げた『刻』が。行こうクロエ技師長。そうだ、誰かに現在のエルデヴァッサー達の状況を確認させるんだ。それとサイド8のガルマ代表にも連絡を。」
「分かったわ!誰か!アンナちゃん達の現在地点と状況を早急に確認して!それからサイド8へも連絡を!」
言伝を頼み、急ぎ彼らが持って来た『箱』が安置されていた部屋へ向かう。
そこには運送屋の妻と騒々しい警報音と共に中に入っている人間を『解凍』する為に動いている
「目覚めるよアナタ。
「2年……長い刻だったな。」
装置のモニターが次々と工程完了の緑のランプへと変わって行く。
2人が運んできた『箱』それはコールドスリープ装置、そしてそれが封印していたものそれが今開かれる。
ーーー
「……。」
長い、長い時間が止まっていた。そう感じるし実際そうだったのだろう、徐々に戻って行く身体の感覚に命がまた動き出すのを感じる。
「おはよう、
長い銀髪の女性、その姿と声に身体と心が完全に覚醒する。
「マルグリット……。」
いつか見た夢、そして本来であれば未来にあった光景、そして
頬を涙が伝った、……違う彼女はもういないのだ、どこにも。
「いや、すまない
「漸く目覚めたかアンダーセン。」
「
かつて俺と戦って、俺が大事な人を奪ってしまった2人。それが今の俺を助けてくれている。その現実にまた心に感動が込み上げてくるのが分かる。
「ジェシーくん!」「シショー!」
「クロエ……ララサーバル……今まですまなかった。」
「本当によ!貴方がいなかったせいでみんな……みんなどれだけ悲しんだと思っているの!」
「シショー……目覚めたばっかりだから今はやらないけどさ、後でブン殴らせてもらうよ、じゃないとアタイもみんなも気が済まないからさ……!でも、でもさ……おかえりシショー……!アタイは今本当に嬉しいんだ……!」
涙を流している2人に、それほど心配をかけさせたという負目はあるが、今はそれ以上にやらないばならない事がある。
「あぁ、事が終わったら幾らでも罰は受けるさ。本当に悪かった。……それで今アーニャ達はコンペイトウか?」
このコールドスリープ装置は核バズーカが発射される動作、それもGP-02がアトミック・バズーカを放つ時の動作が行われた時に解除されるようになっている。
事のキッカケは本来俺がこうなろうとならまいと、デラーズ紛争が起きてしまった時の保険として用意していたものだ。
ガンダム・センチネルの月面の戦いで連邦の鎮圧部隊が月面降下の為に予め機体に組み込まれていた降下プログラムを作動した時に教導団が仕組んだ理論爆弾と呼ばれるトラップが作動し機体が停止するという事態が起きた。
これを利用する事で0083年に起こり得るであろう最悪の事態を阻止する事が出来るし、もしも俺達がそこにいたらガトーを倒すことも不可能では無かったかもしれない。その為に仕組んだ罠であったのだが、あの件があった事で眠らざるを得なくなった俺はこのコールドスリープ装置の解除とも紐付ける事にしたのだ。
コンピュータウイルスの様に仕組まれたこのデータはまず試作2号機の機体から広域通信で『その動作が行われた』ことを確認したというデータと予め録音していた音声を発信するようになっている。
ミノフスキー粒子下では大規模な通信は本来不可能ではあるが、歴史通りであるならば間違いなくコンペイトウの周辺で大艦隊相手に行われているものだ、小規模なレーザー通信が機体から他のMSや艦船へ伝播していく、そしてそれらがコンペイトウ司令部に受信されればコンペイトウの外縁に置かれている通信機器によりミノフスキー粒子の影響下から離れ、更に遠くへと通信が拡散されて行く。
俺の狙い通りなら、理論上は俺が何処にいても2号機の核発射後に間を置かず目覚めている筈だ。
今の状況は掴めないがリング・ア・ベル隊が宇宙艦隊の一部である以上は観艦式に参加している可能性は高い。クロエやララサーバルがここに居て、他のメンバーが見当たらないという事は全員が参加している訳でもないだろうが、まずは状況を確認しなければ。
「待ってて、今確認している最中よ。」
「急いでくれ、事態はあまり猶予を与えてはくれないだろうからな。」
シーマ様が海賊をやっていない以上、歴史通りにコロニーが奪取されている可能性はあまり高くはないだろう。
しかしそれは俺の知っている歴史の流れだったらの話で、キシリアがアクシズにいる以上このデラーズ紛争で動いていないとも言い切れないのだ。
下手すればキシリアとデラーズが手を組んで仲良く共闘している可能性も……はないか。キシリアはともかくデラーズは蛇蝎の如く嫌っているのだし。
しかしの紛争を利用して何らかの手を打っていないとも限らない。彼女の狡猾さはこれからの歴史でどう悪影響を与えるか定かではない。
《コロシテヤル……!》
「……っ。気づいたか。」
心の中にもう一つの心が存在する様な感覚がまた目覚める。
深い憎しみと怒りを感じる、
「クロエ技師長!エルデヴァッサー大佐の所在が分かりました!な……!?アンダーセン大尉!?」
リング・ア・ベル隊の隊員が報告の為に部屋に入ってくる、俺の存在に驚きを隠せないでいる。当たり前の話ではあるが。
「混乱しているでしょうけど報告をお願い!」
「は、ハイ!現在リング・ア・ベル隊のアマテラス、曙光の両艦はコンペイトウ宙域にあるようです。曙光は観艦式に参列し、アマテラスは奪われたアナハイムのガンダム追撃の任に当たっているとのこと!」
「なら……今まさに奪われたガンダムによる核発射が行われようとしたんだろう。俺が目覚めたのはそういう事だ。」
「どういう事だいシショー!?」
「クロエ、俺がいなくなった後で俺の戦技データは連邦軍に提出したか?」
「……?えぇ、貴方が纏めていたデータの大半は軍に提出したわよ?」
「その中にモーションパターンが一部暗号化されていたのは知っているな?」
「うん。軍は問題視しなかったしゴップ連邦議会議員もその内容が判明する時が来るならどういうタイミングなのか興味があるって軍に言っていたみたいで、そのままの状態で連邦軍の基本OSに組み込まれたわ。」
ゴップ将軍が……やっぱりあの人は頼れる人だ。
「あのデータの中には特定のモーションパターンを取ることで機体にロックが掛かるようにシステムトラップを仕組んでいたんだ。コンピュータがバズーカ砲の連結、発射姿勢の固定、そして冷却用のシールドを作動させ弾頭を発射するという行動が取られた時にトラップが作動する様に仕組まれていた。」
「待ってジェシーくん……どうして貴方はそこまで『そんなことが行われる』なんて分かっていたのよ。ニグレドの件にしたって貴方には不可解な行動が多すぎるわ、疑いたくはないけれど。」
「……俺はこの0083年までに起こり得そうな事は知っていたんだ。未来予知と言ってもいい。」
「シショー、もしかしてシショーはニュータイプじゃ……。」
「そう捉えてくれても構わない。そしてニグレドの件は……あれは……。」
何と言えば良いのか、実際俺にも上手く説明できない。
何故
「っと、一先ずはアーニャ達に連絡を取ってくれ。敵の本命は観艦式の襲撃じゃない。」
「どういう事だ、アンダーセン?核を積んだガンダムが連邦軍の一大軍事パレードを襲撃する、これが敵の作戦の本命じゃないと言うのか?」
「あぁそうだグレイ。確かに観艦式襲撃はインパクトのある行動だ。だがそれは単なるテロでしかない、奴等が本当に狙っている事はなんだ?」
「そう言えば……。デラーズは処刑された筈のギレン総帥がまだ生きていて、その解放を求めていると言っていたな。それを狙っているのか?」
「……何だって?」
処刑された筈のギレンの解放?……それは俺の考えからは思いもしない内容だった。
考えろ……デラーズがそう宣言するという事は少なくともギレン信者であるデラーズはそれを信じていると言う事だ。それなら奴の中ではそう信じる確証があるはずだ……となると本来の歴史とは異なりデラーズの目的はコロニー落としで地球の環境を破壊し宇宙への依存度を上げる事より……いや、それも含めてギレンの解放も考えている可能性が高い。
何故ならコロニー落としを強行する姿勢を見せれば生きている場合のギレンの解放だって場合によっては有り得ない話じゃないからだ。
「なぁクロエ、コロニー再建計画はどうなっている?」
「コロニー再建計画?サイド3やサイド8に損傷したコロニーを移送させて修復させる?」
「あぁ。今現在移送中のコロニーはあるのか、それが今どうなっているか知りたいんだ。」
「……分かったわ、確認させる。」
困惑しながらもクロエはペズンの通信司令部に確認を取らせる。その間に俺は眠っていた間の出来事を大まかに聞いた。
「……成る程な、ガンダムニグレドがトリントン基地に現れたのか。」
「その報を受けて俺とヘルミーナはガルマ代表からお前の回収を頼まれたんだ。お前が告げた刻が近づいているとな、その時になった場合にお前がスムーズに動けるように、お前を回収した後はキャスバル代表の指示でペズンまで運ぶに至った訳だ。」
「その点についてはあの二人の判断に感謝だな。此処にいたからこそ打てる手は多い。」
「彼に頼まれて貴方の為の機体と彼ら2人の機体も用意したわ。一体何をするつもりなのジェシーくん?」
「2人の機体……?どういう事だグレイ。」
「前に言ったろう、いつかお前達の力になると。今がその時さアンダーセン。」
「けれど……ヘルミーナさんはどうするつもりだ、それに2人には子供もいるじゃないか!もしもの事があったら……!」
「大丈夫だよジェシーさん。この人は私には戦わなくても良いって言ったけど、戦う事は私が決めたの。そして私もこの人も死ぬつもりなんてないから。それにこの事は貴方が言える事でもないんだよ?」
……アーニャを護る為に敢えて死んだ様に見せた俺が言えた台詞ではない。
確かにそれはそうなのだが……。
「子供はマハル孤児院に預けてきた、俺達にもしもがあってもシーマさんは笑いながらちゃんと面倒見てやると言っていたよ。しっかり五体満足で帰って来ないと許さないとも念押しされたがな。」
「……すまない、2人とも。」
2人のパイロット能力は折り紙付きだ、手助けをしてくれると言うならこれほど心強いものはない。
「クロエ技師長!大変です!ペズン司令部が緊急の通信をキャッチしました……!先程仰られていたコロニー移送の件に関わっています!」
慌てて報告に来た兵に場の雰囲気が変わる。
「何が起こったの!?」
「ハッ!サイド8へ移送中であったコロニー、アイランド・イーズとアイランド・ブレイドがデラーズ・フリートにより奪取されミラーを破壊された二基は回転が生じ互いに衝突し内一基が現在月に向けて進行中とのことです!」
……史実通りか。本来それを行うシーマ様は今は連邦軍の監視下だ、となると他の誰かが代わりにそれを行っている筈だ。
そして懸念するべきは本来裏切りを視野に入れて明確に動いていた彼女とは違うということだ。
このコロニージャックを行ったのが誰か分からない以上デラーズ・フリートは全戦力を以て行動してくると見るべきだ。
「これが敵の狙いって事ジェシーくん!?」
「……恐らくは違うなクロエ。奴らは月にコロニー落としをすると見せかけて地球へのコロニー落としを敢行するだろう。」
「だが既にコロニーは月の重力に引かれ始めている筈だ、あれだけの質量を持ったコロニーは自発的に航路を変えられる訳ではないぞアンダーセン。」
「月には……艦艇用のレーザー推進装置がある筈だ。」
「……!確かにそれを使えばコロニーに火を入れる事が可能って訳ね……、ジェシーくんの言葉を信用するなら有り得ないとも言い切れない悪魔のような作戦ね。」
予想が外れて本当に月に落ちさえすればアナハイムも打撃を受けて後々の未来にも響くかも知れない、だがそれは有り得ないと言っても良いだろう。
劇中ではアナハイムのオサリバン常務の独断で築いている様に見えるデラーズ・フリートとの関係も、実際は何処まで根深くアナハイムが関わっているか……。
「奴らは地球にダメージを与える為に地球に向けてコロニーを移動させるだろう、だからこそ今の内に地球周回軌道まで俺達は向かう必要がある。」
「足は用意している、俺達の艦なら移動だけならピカイチの性能をしているぞ?」
「あの輸送艦、パッと見たら普通の輸送艦にしか見えなかったけれど?」
クロエの質問にグレイはニヤリと笑う。
「外見だけ見ればな。だが俺達『エンタープライズ』は仕事の為に色々と金を掛けているんでな。速度だけなら軍の艦船すら凌駕する特別品さ。」
「それは頼れるな……。そうだクロエ、俺の為に用意している機体はなんだ?ヴァイスリッターか?」
俺の愛機、ヴァイスリッターであれば近代化改修さえしていれば今でも第一線で戦える筈だ。『彼』の乗っているガンダムニグレド相手では分が悪いかもしれないが……。
「いいえ、違うわ。ヴァイスリッターはこのグレイさんが。フィルマメントにはヘルミーナさんが乗るわ。」
「……グレイ。」
「乗らせてもらうぞアンダーセン、お前の誇りに。」
「ヘルミーナさん、フィルマメントは……。」
「大丈夫、あの機体には姉さんの心も感じるから。大丈夫だよジェシーさん。」
この二人は、俺の知らない数年の間で更に強くなっている。
マルグリットを死なせるに至った機体達に何の躊躇いも無く乗ると……そう言ってくれているのだ。
「ジェシーくん、貴方にはガンダムに。ガンダムアルベドに乗ってもらうわよ。」
「ガンダム……。」
一度MSデッキに移動し、ヴァイスリッターとフィルマメントに挟まれるように置かれた白いガンダムに目を向ける。
俺の知らない、俺の為に用意されたガンダム……。
「ガンダムアルベド、ヴァイスリッター1号機と2号機の戦闘データを反映させた高機動型のガンダムよ。特質するべきは……。」
「待ってクロエ技師長、此処からは私に説明させてもらえるかしら?」
話しを遮ったのは科学者の服装をした女性、俺が眠りに着く前から知っている女性だ。
「ルーツ博士。お久しぶりです。」
「生きていると聞いて驚いたわアンダーセン大尉。急いでいると聞いてるから込み入った話は今度にするとして、この機体に組み込まれているシステムについて説明するわね。」
リョウ・ルーツの母親である彼女が関わっているシステム、それは俺がいなくなる前からマリオンと彼女が試行錯誤して作っていたシステムだ……。
「通称NT-A、ニュータイプアシストシステム。正直言って未だに完成しているとは言えるレベルではないけれど試作タイプの物を積んでいるわ。システムを起動させる事でマリオンちゃんの回避パターンを学習させたAIが適宜その時に最適な回避運動を取る。けど気をつけて欲しいのは戦闘行動中にシステムを起動するというのは本来当然の事なのだけれど、これはあくまで試作タイプでパイロットとマシーンの間で齟齬が発生する可能性が高い。言っている事は分かるかしら?」
「……システムの回避パターンに俺の思考が追いつかない可能性がある。そういう事ですね?」
「そう。システムがその時の最適解を導き出して動いてもパイロットがそれに着いて行けなかったら意味がない。動きを追いきれず混乱したところを狙われる可能性が高くなるわ。本当ならもっとマシーンの動きにパイロットが違和感を覚え無くなるレベルにするか、コンピュータがそのまま攻撃行動に移るかまでしたかったけど無理だった。だからシステムは積んでいるけど合わないと思ったら無理に使わないでちょうだい。」
「了解です。……多分問題ない筈だ、今の俺なら……。」
もう、あの時の弱いままの俺ではない。アーニャを護る為に、例え俺の血を未来に残せなくなっても、やるべき事をやったのだから。
「それとジェシーくん、システム以外にもこの機体には
「助かるよクロエ……みんな、ありがとう。」
本来であれば、こんな現れ方をした俺にここまでしてくれるとは思っていなかった。
だからこそ、みんなの期待を裏切らない。
「クロエ、アーニャ達に通信を。俺の名前で『リング・ア・ベル隊は全部隊 地球周回軌道にてデラーズ・フリートのコロニー落としを阻止せよ。』と暗号通信を。」
「分かったわ!」
「俺とララサーバル、グレイとヘルミーナさんで地球周回軌道へ向かう。サイド8のガルマ代表には手筈通りに動くよう俺から連絡する。」
「よっしゃぁ!アタイもグノーシスで出るよ!グリム達が必死こいて戦ってるってのにアタイはずっと留守番だったんだ、溜まった鬱憤は晴らさせてもらうよ!」
「機体の整備に私も輸送船には乗り込むわ。行きましょう、二度とコロニー落としなんて悲劇を繰り返さない為に。」
「……あぁ!」
俺とクロエ達、そしてグレイらで輸送船『エンタープライズ号』に乗り込む。
そこのブリッジで、俺はフッと笑みが生まれた。
「社長、出航の準備は出来ています。」
逞しい髭をした中年の男性がそうグレイに話す。何処かで見た事のある顔に似ていた。
「助かるよキャプテン、みんなも準備は良いか?ここからは忙しくなるぞ。」
「大丈夫ですよお頭、キャプテンも早く仕事を終わらせてコロニーにいる娘さんに会いたいってもうずっとうるさいんですから!」
そうちょっかいを出す若手のクルーを足蹴にしながら、キャプテンと呼ばれた男は出航の準備を整える。
「早く帰りたいのは社長もそうだ、親って言うのは子供が何より大事なんだ。だから全速前進で素早く荷物を運び届けるぞ、良いな!」
キャプテン……恐らくはスベロア・ジンネマン大尉がそう喝を入れると、クルー達は皆大声で叫ぶ。
『アイアイサー!』
「エンタープライズ号、発進!」
ジンネマン大尉の声と共に輸送船はゆっくりと動き出す。
そしてペズンの宇宙港から発進すると同時に、輸送船とは思えない程のスピードで船は加速を始める。
「待っていてくれアーニャ……今度こそ、今度こそお前を護ってみせる。」
彼女の望んだ未来のために、今度こそ俺は力にならなければならない。
その為に、彼を……
そう心に誓い、俺達は地球周回軌道まで進むのであった。