「ジュネット、現在の状況の説明を。」
地球周回軌道上に辿り着くまで残り数時間となり、現在の状況を再確認する為主だったメンバーはアマテラス、曙光の両艦のブリッジに集まり通信を開始する。
現在アマテラスには私、アンナ・フォン・エルデヴァッサーとEC社幹部であるアレクサンドラ・リヴィンスカヤ、ビスト家から離れたアルベルト・ビスト氏、そしてパイロットであるマリオンさん、フィーリウスさんとガイウスさんバネッサさんのEC社アグレッサー部隊がおり、曙光にはジュネットとグリム隊の面々が編成されている。
「ハッ、現在デラーズ・フリートが強奪したコロニー『アイランド・イーズ』は地球に進路を取り、地球の重力に完全に引き込まれる阻止限界点まで残り半日あるかないという分析がメルクリウスより演算されました。我々リング・ア・ベル隊は先駆けて行動出来た分、補給や休息を速やかに済ませる事が可能であったので部隊としての行動には問題ありませんが、問題は他の連邦艦隊の動きにあります。」
ブリッジのモニターに宇宙の各拠点やサイドコロニーの宙域図が映る。
「現在連邦軍は地球軌道艦隊、ルナツー防衛艦隊、各サイド防衛艦隊、コンペイトウ艦隊がコロニー落下の阻止の為に動いてはいるが、地球軌道艦隊以外の艦隊は各サイドがデラーズ・フリートに呼応、或いは更に隠されたデラーズ・フリートの兵力がある場合の対処に備え十分な戦力が投入されておらず、更にコロニーは当初月に向けて進路を取っていた為コンペイトウ艦隊主力を始め月に向かった艦隊は推進剤不足に陥り追撃は間に合わないと見られている。」
ワイアット提督は私の言葉を幾分かは信じてくれたのか一定の戦力を地球周回軌道に派兵してくれはしたが、やはりステファン・ヘボン准将を始めとした主力部隊は月へ向けており十分な戦力とは言えない。
戦力は有れば有るだけリスクが減るが、敵の真意がコロニー落としだけとは限らない現状では下手に地球にだけ兵力を集中出来ないのも事実なのだが。
「更に現在の連邦主力艦隊の通信と最大望遠から確認できる最終防衛ラインの布陣はお世辞にもコロニー落としに対して有効とは言えない部分もある。……アマテラス。」
『現在地球周回軌道に集結している艦隊の布陣と、考えられる敵の兵力、更にコロニーの阻止限界点までの時間を考慮して戦力の分析を行いましたが、コロニー落としの阻止が可能な確率は約6割とジュネット大尉の懸念通り十分な戦力とは言えません。しかし──』
「何かあるのですね。」
『はい。主力艦隊の通信内容、更に投入されている作業ポッドの多さから恐らくはソーラ・システムが投入されている可能性があります。ソーラ・システムは前回の大戦で失われた物を再度製造したソーラ・システムⅡが生産されているのでそれを使用するので有ればコロニー落としの阻止は十分可能だと思われます。』
「思われる、では駄目なのです。ジェシーの予言ではソーラ・システムの投射が行われてもコロニーはその姿を維持していたと言っていました。敵の妨害もあっての事ではありますが。」
『コロニーに対してソーラ・システムが使われた実績が無い以上、正確な破壊の確率は計算不可能です。』
「であるならば私達はどんな手を用いてもコロニー落としを阻止しなければなりません。主力艦隊がどれだけの戦力を投入していたとしても、最後の最後まで油断をしてはならないのです。」
「そうでなくともあれだけの質量を持った兵器を破壊する事は困難を極めます。間も無く主力艦隊との通信圏内に入り次第我々は主力艦隊と連携して動く必要がある。」
ソーラ・システムがジェシーの予言通り使用されるのであれば敵の反抗があるのは間違いない。
大まかな予測は同じではあったが、敵の兵力は常にジェシーが言っていた事より多かったのだ。今回デラーズ・フリートが全戦力を投入している事を考えると油断など到底出来はしない。
それに……彼はコロニーは北米大陸に落とされたとも言っていた。何としてもコロニーの落下だけは絶対に防がなければならない。
「各員、到着までに最後の休息を取って決戦に備えておくように。」
『了解!』
決着の時が、間も無く始まる。デラーズ・フリートのこと、ガンダムニグレドのこと、そしてジェシーのこと……。
ーーー
「提督!何故私の第3艦隊を動かさないのです!」
南米ジャブロー、地球連邦軍の本拠地でジョン・コーウェン中将は連邦宇宙軍第1艦隊司令であるジーン・コリニー大将に対して叫ぶ。
「先程も言っただろう。既に周回軌道上にはソーラ・システムを展開中だ、君の艦隊はその護衛に専念させる。」
「しかし!ブリティッシュ作戦でも万全の対策を我々は出来なかったのです!万が一に備え艦隊での攻撃も視野に入れなければ!」
「くどいなコーウェン中将、元はと言えば君の開発したガンダムが強奪されたのが遠因となった今回の騒乱だ、これ以上君の言動に我々は振り回されたく無いのだよ。」
「くっ……!」
他の幕僚達も同じように冷ややかな目を向けている、確かに戦術核装備のガンダムさえ開発していなければもっと別の形になっていたかもしれない。
しかし今はその様な事を言っている場合では無いはずだ、万全に万全を期さなければこのジャブローにコロニーが落ちてくる可能性すらあると言うのに。
「既に打てる手は打ち尽くしているのですよコーウェン中将、貴方も男なら覚悟を決める時ではありませんかな?」
「ジャミトフ……!貴様何様のつもりで……!」
ジャミトフ・ハイマン准将は彼を嘲笑う様に言葉を発すると、モニターに映るルナツーの宇宙図に目を向ける。
「提督、ネオ・ジオンの方はよろしいので?」
「うむ。既に手筈通りに事は進めた、蛇の道は蛇と言うが、ジオンにはジオンをぶつけるのが良いだろう。」
「ネオ・ジオン……?どういう事ですか提督!」
「ネオ・ジオンもデラーズ・フリートにはうんざりしているという事だ。今回の件で彼らはいち早く我等への支援を表明していたのだよ。彼らからすればテロリストと化した残党軍は目の上の瘤なのだから当然だがな。」
自分の預かり知らぬ所で既に彼らは動いていた、その事実に今の自分の影響力がどれだけ少なくなっているのかを知り、ジョン・コーウェンは歯を噛み締めた。
「この一戦、彼らはギレン・ザビの解放を求めているのかも知れんが我々の地位を確固たる物にするだけだと気付かぬのは愚かだと言う事だ。」
クククと笑うジーン・コリニーであったが、直後の報告に彼は驚愕する事となる。
「コリニー提督!大変です!アクシズが……、アクシズの艦隊が地球周回軌道に向けて進軍していたとの報告が!」
「何だと!?アクシズの監視はどうなっていた!」
「そ、それが……!アクシズを監視していた艦隊の約半数が敵に寝返りアクシズの動向を隠していた模様で……!」
これにはコリニー提督も他の幕僚も焦りを見せる。しかし戦力差から見れば依然此方が有利ではある、問題なのは……。
「……エルランの仕業か……!」
オデッサの戦いで連邦軍を裏切り、レビル将軍を死に追いやったエルラン中将。
劣勢になるとマ・クベと共に宇宙へ上がりその後の動向は不明だが、ジオンが彼を殺す理由が無い以上未だに生きている可能性は高い。
そして、かつて連邦軍中将という高い地位にいた彼であるならば内通者を抱え込む事が可能である筈だ。
実際にこの騒乱の中でも敵の残党軍の多くが戦後連邦軍が鹵獲したMS用に用意された武装や弾薬を使用しているとの報告がリング・ア・ベル隊からされている、それも連邦軍の輸送経路や一年戦争中の混乱で部隊の情報が正確ではない今の状況なら内部を深く知る者であれば幾らでも横流しが可能だろう。
「だが……所詮は少数兵力、今更アクシズ如きが何をできると言うのだ。」
考えられる敵の兵力を計算してなお、此方が優勢だと確信する幕僚達。
「その通りだ、キシリア・ザビが如何に手を打とうと我々にはソーラ・システム……それに
ジャミトフ・ハイマンは怪しげな笑みを浮かべる、ジョン・コーウェンは他にもまだ彼らが策を弄している事実に驚きを隠さなかった。
(敵も味方も……信用ならぬ状況とは……!地球圏はどうなると言うのだ……!)
権力の為の戦い、この騒乱ですら彼らにとっては政争や自身の地位の為の道具にしか過ぎない。
だが、自分ですらそうだったのだ。ガンダム開発計画でレビル閥を吸収し連邦軍で確固たる地位を築く……その為に今までやってきたのだ、その自分が彼らを軽蔑出来るわけもない。
(だが……私にもまだ可能性は残されている。)
ガンダム試作3号機、あれさえあればコロニーの撃破も不可能ではない。
私のガンダムでコロニーさえ破壊してしまえば、今までの失態など大きく挽回できるのだ。
「頼んだぞシナプス大佐、君だけが頼りだ……。」
結局ジャブローの中では誰一人として市民のこと、アースノイドのこと、スペースノイドのことなど考えてはいなかった。
あるのは権力という欲、その為にひたすら自分の為に動く。それが今の地球連邦軍の在り方なのだ。
ーーー
「ククク……補給に感謝する……『大佐』殿。」
ザンジバルの中で、ガンダムニグレドの補給を終えたアーウィン・レーゲンドルフは『大佐』と呼ばれる男に感謝の言葉を告げる。
しかし、その口調に感謝の気持ちなどは皆無だというのは聞いた者全てが思うだろう。
「こちらこそ感謝するアーウィン・レーゲンドルフ。コンペイトウでは連邦軍艦隊の足止めに成功し、そして我々にそのガンダムの情報を提供してくれるのだ、補給程度では足りぬくらいだよ。」
「ククク……別に貴様らの為にやったことじゃあない、それにこのガンダムのデータも、もう何もかも必要無くなるんでな。」
脂汗を流しながら大量の薬を飲み込むアーウィン・レーゲンドルフ、それはもう余命が幾許もない事をフォルシュ・リューゲに告げるようであった。
「それで、君はこの後どうするつもりだね?」
「勿論アンタ達について行きコロニー落としを見届けさせてもらう。」
「君は連邦軍では無いのか?」
「おいおい、連邦軍がジオン残党に補給を頼むと思っているのか?そんな思ってもいない事は口に出さない方が良い、俺の気持ちを知りたいならそう言えば良いのさ。……俺は全てを壊す、この腐った世界を変えてあるべき刻の流れに戻すんだ。その為にコロニーは何としてでも落とさなくちゃあなぁ。」
ニュータイプか?と刻の流れという単語にそう思ったフォルシュ・リューゲであったが、それ以上の聞き込みはするつもりは無いのか言及することもなく話を続ける。
「君がこの世界自体を恨んでいるのは何となく分かった。我々の邪魔をしないのであれば支援はさせてもらう。その戦力は我々にとっても有益だからな。」
そう話していると、ブリッジに通信が入る。
『大佐、フォルシュ・リューゲ大佐。聞こえているか?』
音声が荒い。どうやらかなりの遠方から通信しているようだ、アーウィン・レーゲンドルフは誰の声か聞き取ろうとしたが無理である事を察した。
「ハッ、聞こえております閣下。」
『デラーズ・フリートの星の屑作戦は最終段階に以降した様だな。我々も現在地球圏に移動している、先遣隊は間も無くデラーズ達と合流するだろう。』
「……。」
アーウィン・レーゲンドルフはこの声の主がキシリア・ザビだと確信した。声自体はちゃんとした確認が取れないがこの口調、そしてアクシズの人間であるならばこの大佐という男が閣下と呼ぶ相手など一人しかいないだろう。
『先遣隊にはノイエ・ジールを載せてある、それをガトー少佐にでも預けて連邦軍を追い込め。だが決して貴様は深追いせず頃合いを見て退却せよ。』
「心得ております閣下。」
『戦いはこの一戦で終わりではない、我々はまだ雌伏の刻を過ごさねばならない。』
「えぇ。あるべき未来のために。」
『期待しているぞ大佐。』
通信が切れる。フォルシュ・リューゲは幾分か恍惚の表情を浮かべている様であった。
その姿に虫唾が走るのをアーウィン・レーゲンドルフは抑えながら話を続ける。
「アクシズも元気そうで何よりだな、キシリア・ザビのお陰でマハラジャ・カーンの頃よりも過ごし易いんじゃあないか?」
「……そこはそこに住む将兵のみぞ知る所だな。あそこは冷える、身体も魂もな。」
「アステロイドベルトまで行った人間達が、未だに地球に惹かれるのはその暖かさからか?そこで暮らしていけるならずっと引き篭もっていりゃいいのにな。」
「それではいずれ滅びを迎える。革新を迎える事もなくな。」
「革新……か。」
少なくとも自分の知る未来とは別の道を歩むだろうという事だけはアーウィンは予想する。コイツらは自分が見た未来のアクシズよりも面倒な存在になるだろうと、しかしそれはもう自分とは関係のない事だった。
「さぁ……ラストダンスまであと少しだジェシー・アンダーセン……今度こそお前を殺してやる……!」
行き場を無くした彼の怒りは、何処に還るのか。今はまだ誰も知らずにいた。
ーーー
「ガンダムアルベド、大層な機体だな。俺には勿体ないくらいだ。」
輸送艦エンタープライズの中で、自分の乗るガンダムのデータを確認しながらクロエにそう語りかける。
「そりゃあね、ジェシーくんが眠っている間に色々やることやってますから。」
少し嫌味が入っているが、そう感じないように優しくクロエは答えた。
「……アーニャは怒っているだろうな。」
「えぇ勿論、アンナちゃんだけじゃなくてリング・ア・ベル隊のみんなもフィーリウス隊のみんなもね。みーんなジェシーくんが死んでないと思って今まで戦ってたんだから。」
「シショー、今はとやかく聞かないし聞いてる場合でも無いからアタイは深く突っ込まないよ。けどね、やるこたぁやらないと行けない。コロニーは破壊できそうかい?」
ララサーバルの問いに少し間を置いてから答える。
「大丈夫……だと思う。連邦軍本体もコロニー迎撃の準備はしているだろうし、こうやって俺たちも動いてる。それに……。」
「……それに?」
「ネオ・ジオンにも色々と準備させてるんだ、彼らの用意さえ終わっていれば……。」
少なくとも、俺が復活しようがしまいが、この騒乱は何とか解決するように色々と事前に手は打ったんだ。コロニーは北米大陸ところかジャブローにすら、地球にすら落ちないように事前に計画してる。
「俺がサイド8を出る前には色々とガルマ代表は手を打っていたみたいだが……何をするつもりなんだアンダーセン?」
グレイが質問する。まぁ隠しておく必要もないし言っておくか……。
「そうだな。事前にこの期間に────」
俺がこのデラーズ紛争が始まると思われる時に用意していたこと。それを教えると全員が黙り込んだ。
「そりゃあ……シショー、確かにそれなら心配する必要は……。」
「とんでもない事を考えたわねジェシーくん……。」
「先の通信でガルマ代表は準備は終えていると言っていたから本当に大丈夫だとは思う……けど100%とは言い切れない。」
「うん。それはアンダーセンさんが眠る前に私たちに言っていた事が微妙に違っているからその可能性もあると思う。」
ヘルミーナさんがそう予感する。俺の感覚よりずっと信じられる。
「だから精一杯やる事をやらなきゃな。アーニャの為にも……未来の為にも……。」
色々な事に決着を付けなければならない。
デラーズ・フリートがここで綺麗に片付いてくれれば、グリプス戦役に繋がる事も無くなるだろう……。
だが
「……。」
けど、やらなくちゃならない。今の彼はあの時より弱っているはずだ。
数年前、全てを見通されるようだった感覚が今はもう無い。
俺の策が読まれていたら、この確実とも言える計画は失敗に終わる。その為に数年眠っていたんだ、これ以上彼に好き勝手はさせられない。
『社長!間も無く地球周回軌道に到着します!』
ジンネマン船長の艦内通信が入る、グレイが言うだけあって本当にこの艦は足が早い。
「戦いは既に始まっているな……。」
大なり小なりの爆発が断続的に続いている、もう小競り合いは開始しているようだ。
「俺が先陣を切り開く!ガンダムの発進準備を!」
MSデッキへ向かい、俺の為に用意された白いガンダムに乗り込む。
B・W・Sは既に搭載されており傍目から見ればMAに見えるだろう。
「ジェシーくん。そのB・W・Sの仕様は分かってるわね?そのままでも強いけど、小回りが必要になってパージした後の方も肝心よ?」
「わかってるよクロエ、こんな装備を良く思いついてくれたもんだ。」
「元々は貴方が提案していたものを採用しただけ、使い道を誤らないでね?」
「了解だ!」
カタパルトデッキに移送され、発進シーケンスに突入する。
「アンダーセン、俺達も少し遅れて発進する。生憎お前の機体には追いつけそうもない。」
グレイとヘルミーナさん、ララサーバルの機体にはグノーシス用に開発された高機動ユニットが装着されている。アーニャのガンダムに使用されているものの量産型らしいが機動性はかつてメガセリオンに搭載されていたエーギルユニットよりも更に上がっているようだが、流石にMA並の機動力には劣るらしい。
「道は俺が切り拓く、後に続いてくれ!」
「頼もしいな、任せたぞアンダーセン。」
機体の各種ステータスにオールグリーンのランプが付く。いよいよだ、アーニャを護る……その為の戦いが再び始まるんだ……!
「ガンダム!発進どうぞ!」
「ジェシー・アンダーセン!ガンダムアルベド発進する!」
白いガンダムが宇宙を駆ける。
護るべき者を、再び護る為に。