機動戦士ガンダム 紺碧の空へ   作:黄昏仮面

97 / 126
第21話 閃光 そして──

 

「ウラキ!今の通信を聞いたか!?」

 

「あぁ、ソーラ・レイって……あのソーラ・レイの事か!?」

 

 戦闘の最中、エルデヴァッサー大佐の広域通信を受信したガトーと交戦中の俺達は驚く。

 士官学校の教本で習ったジオンの戦略兵器、コロニーによる巨大なレーザー砲がソーラ・レイだった筈だ。

 戦後どの様な扱いをされていたかは知らなかったが、まさかこのコロニー落としを阻止するために用意されていたなんて……!

 

『ソーラ・レイだと!?バカな!何故ソーラ・レイを連邦が用意できると言うのだ!』

 

 困惑するガトー同様、俺達もまた何故そんなものが用意されていたのか混乱している。

 しかしこれはデラーズ・フリートの策を潰す決定打になる。通信で送られて来た情報ではソーラ・システムとは違いソーラ・レイは戦闘宙域からある程度の距離がある場所に存在している、これでは今から敵が部隊を送ってももう間に合わない。

 

「残念だったなガトー!お前達の計画は失敗だ!潔く降参するんだ!」

 

『ふざけた事を……!我々の戦いはまだ終わってはいない!』

 

 何回かの競り合いを起こした後、ガトーは反転し撤退を開始した。

 

「待てガトー!逃げるつもりか!?」

 

『逃げる?貴様の相手をしている暇が無くなっただけだ、命拾いした事を喜ぶのだな!』

 

「なんだと!」

 

「追うなウラキ!ソーラ・レイの発射が迫ってるんだ、下手に追えば射線に入りかねない!」

 

「くっ……!」

 

 レイの言う通り、このままガトーを追えば奴を倒せたとしても無事では済まないだろう。

 心残りは積もる程あるが、確かに今やるべき事はソーラ・レイの射線から一刻も早く離れる事だ。

 

「オープン回線を開いて味方の誘導を開始しようレイ!」

 

「分かった!」

 

 かつてバニング大尉はア・バオア・クーの戦いの最後、連邦ジオンに関係なく互いに広域通信を発信し助け合ったと言っていた。

 ならば今だって同じ事が出来るはずだ……!

 

 

 

ーーー

 

 

「ソーラ・レイ……よもや連邦はそこまで用意していたとはな。」

 

 地球への落下コースを辿っていたコロニーを眼前に、勝利を確信していた筈のエギーユ・デラーズは最早自分達に勝ち目がない事を悟ると大きく息を吐いた。

 

「申し訳ありませぬギレン総帥、このデラーズ……御身を助ける事叶わず命を散らす事となりました。」

 

 ギレンに詫びるかの様にそう呟くとデラーズはブリッジクルーに向けて喋り始める。

 

「総員退艦準備、脱出艇でアクシズ艦隊と合流せよ。」

 

「か……閣下!」

 

「二度は言わぬ、急げ。」

 

 勝算はあった、この時この瞬間まで揺るぎない勝利が目の前にあった筈だった。

 コロニーの落下により、次の策が発動しギレン総帥は解放される筈であった。

 

 それが全て無駄になったのだ。

 

「閣下!早く乗船を!」

 

「ワシは行かぬ、最後の最後まで戦い抜く事がワシがギレン総帥に出来る最後の忠義なのだ。往け、我々の意志を絶やさず再びジオンの精神を見せる為に。」

 

「閣下……。」

 

 脱出艇が離れて行くのを確認し、全てを見届けて目の前に聳えるコロニーを見つめる。

 

「ここまでやれたのだ、悔いはない。」

 

『閣下!?何故脱出をなさらないのですか!閣下!』

 

 眼前にノイエ・ジールが降り立つ。

 

「ワシはここまでだ。後はガトーよ、お主らに任せる。」

 

『何故です!アクシズに合流すれば幾らでも捲土重来の時は訪れます!あの時閣下が私に教えて下さった事ではありませぬか!?』

 

「マハラジャ・カーンやキシリア・ザビの様な売国奴と共に耐え忍ぶのはワシには到底許容出来ぬ事なのだガトー。しかしお前にはアクシズでやるべき事がある。」

 

『私がアクシズでやるべきこと……!?』

 

「お主の本来の義を通す相手、ドズル・ザビの忘れ形見であるミネバを救えるのはガトーお主だけだ。」

 

『ミネバ様……。』

 

「ワシの命がここで潰えようと、意志はお前達が引き継ぐと信じておる。往けガトーよ、散って行った者達の意志を継ぎ、次こそは腐敗した連邦に鉄槌を下すのだ。」

 

『閣下……!』

 

「さぁ!往け!」

 

 通信を切るとガトーは遂に諦めたのかアクシズ艦隊の方へ向かって行く。

 

「これで良い、後は若人達に任せられる……。」

 

 コロニーに寄り添うように並ぶと目を瞑り今までの事を思い返す。

 ギレンと共に歩み、そして駆けて行ったあの戦争を。そして無念に散って行った者たちの姿を。

 

「ジオンの精神は終わらぬ。これからも続いて行くのだ。」

 

 そして大きな光を確認すると同時に、エギーユ・デラーズの意識は消えた。

 

 

 

ーーー

 

 

 絶え間ない剣戟が続く、お互いに声も無く、有るのは信念を掛けた魂の一振り一振りであった。

 

「……クッ!」

 

 肉薄するニグレドの一撃一撃の重みに気圧されそうになる。

 それでも尚踏ん張る様にこちらも追撃の手を緩めない。

 

『……チィッ!』

 

 アーウィン・レーゲンドルフの苛立つ声が聞こえる、彼からすれば何故強化人間となった自分と同様の戦闘機動を取れているのか不可解に思うだろうか?

 いや、もう彼は気づいているのかもしれない。

 

 俺もまた、彼と同じ様に()()()()となっている事に。

 

 しかし強化人間と一言で言っても種類は多岐に渡る、俺の場合は彼のような連邦式では無く旧ジオン式、それもニュータイプ的な強化と言うよりは薬物の摂取や投与による身体的能力の底上げによる強化である。

 感応能力も一定は上がっているだろうがアムロやシャアにはハナから到底及ぶ様なレベルでは無く、またアーウィン・レーゲンドルフのようなマインドコントロールなどによること強制的な感応波の増幅も無いのでニュータイプという方向への強化とはあまり言えないだろう。

 それをコールドスリープが行われる前にガルマとキャスバルの協力で行った、彼らはそれを反対していたが……。

 

 しかし、彼と相対して戦うには充分なレベルになれた、そうじゃなければまた死んでいただろう。

 

 長い時間が流れているかのような感覚の中、喋り出したのは彼の方だった。

 

『見事だよジェシー・アンダーセン、未来を変える為にその身体を強化してまで戦おうとするその勇気と自己犠牲にはな。』

 

「お前もそうだ……!ソロモンでマルグリットを俺が殺してからずっと、彼女の事を想い孤独に戦っていた……!」

 

 その行動の是非はともかく、彼がどれだけマルグリットを愛していたか……それを考えるだけで胸が痛くなる。

 俺がこの世界にいなければ、例え死が二人を別つ事になろうとその最後の瞬間まで二人は永遠の愛を誓えていたのだから。

 彼がその追体験し、その絶望の中で俺とこの世界を恨み、その歪みを正そうとする姿はきっと間違えているのだろうが、彼なりのマルグリットへの手向けなのだろう。

 

『ハァ……!ハァ……!』

 

 聞くのが痛々しくなるほど苦痛を含ませたその呼吸、それでも機体の動きが全く変わらないのは彼の精神力からだろう。

 だが此方ももう譲ったりはしない!

 

「全力を出し尽くせジェシー・アンダーセン!俺は今度こそお前の思いを受け止めてみせる!」

 

『ならそのまま斃れろやぁぁぁ!』

 

 再度の剣戟、その最中で大きく光が輝いた────

 

 

 

ーーー

 

 

『何故だ……!何故私の攻撃が読み取られる……!』

 

 カリウスは困惑していた。圧倒的な機動力と火力を持つ同胞から譲り受けたMA、その全てが目の前の3機を遥かに凌駕していると自負していたにも関わらず、何一つ攻撃が当たる事なく難なく回避されていく。

 

「もう降伏しろ!お前達に勝ち目はない!今の通信を聞いただろう!」

 

 グレイは彼に降伏を促す、これ以上の戦闘の継続は何も生まない。ただ憎しみが増えていくだけだと感じながら。

 

『黙れ!我々の星の屑は終わってはいない!亡くなった同胞の為!我々は死しても戦わなくてはならないのだ!』

 

「違う……!生きて同胞達の意志を継いで行く事が俺達の使命だ!死んだ人間に引き摺られて生きても彼らは喜んだりはしない!」

 

 自分の恩人達がそう願った様に、生きて未来を築く事があの戦争で生き残った自分達が彼らにしてやれる事なのだ。

 

『売国奴の言う事など聞く耳持たぬ!消え去ってしまえ!』

 

 メガ粒子の光が放たれる、それを回避すると同時に急速に接近しヴァイスリッターのビーム・ルガーランスがヴァル・ヴァロの装甲を貫いた。

 

『くっ……!』

 

「……。」

 

 装甲を抉じ開けるがビームを放たず、グレイはそのまま幾つかの武装の射出口を同じ様に装甲だけ破壊していく。

 

「これでもう戦えないだろう。生きろ、それがあの戦争で亡くなった者達への本当の弔いだ。」

 

 そういうとグレイはヘルミーナとマリオンを連れてアマテラスへと帰還しようとする。

 

『情けをかけたつもりか!?我々は貴様らの施しは受けない!同胞達の無念はこのヴァル・ヴァロに灯っているのだ!』

 

 ヴァル・ヴァロは半壊した機体ごと、それを一つの質量弾としてグレイにぶつけようとスピードを上げ始めた。

 

「……ッ!馬鹿野郎!!!」

 

 グレイはヴァル・ヴァロがぶつかる直前に機体を翻し、回避すると同時にビームを放つ。

 

『ジーク・ジオ───!』

 

 グレイは爆散するヴァル・ヴァロを見つめ、虚しい気持ちに襲われる。

 これで良かったのか、本当にこれしか彼に道は無かったのかと……。

 

「……行きましょうグレイさん。ここは危険です。」

 

「……あぁ。」

 

 頷くと同時に進路をリング・ア・ベル隊の旗艦アマテラスへと向かおうとする。

 

「……待ってアナタ。」

 

「どうした、ヘルミーナ?」

 

 フィルマメントが一度立ち止まる、まだソーラ・レイ発射まで猶予はまだあるがそれでも立ち止まるのは危険だ。

 

「……二人は先に行って、私は行くところが出来た。」

 

「……?どういうことですかヘルミーナさん?」

 

 困惑するマリオン、それはグレイも同じであった。

 

「どういう事だヘルミーナ?ここは危険だ、一刻も早く退避しなければ。」

 

「……ごめんなさい、私にも上手く言えないけど……姉さんが呼ぶ声が聞こえるの。」

 

「マルグリットが……?」

 

「うん、だから少しだけお別れ。……きっと私じゃなきゃ駄目な事が残ってる。」

 

 決意を秘めたヘルミーナの声にグレイは頷いた。

 

「分かった。だが絶対に戻って来いよ?お前がいる場所が俺の居場所なんだ。」

 

「うん……ありがとうアナタ。」

 

 フィルマメントは機体を反転させると未だ戦闘の光を灯す2機のMSの元へと向かい出す。

 その時フィルマメントから一言、通信が入った。

 

【私の我儘を許してくれてありがとうございます、()()()()。】

 

 一瞬聞こえたその言葉にグレイは一瞬立ち止まり、そしてこう言った。

 

「お前には……俺の我儘に付き合わせっぱなしだったからな……。ヘルミーナがそれで良いのなら構わないさ()()()()()()……。」

 

 2機のヴァイスリッターはアマテラスへと帰還する。間も無く放たれる光から逃げるように。

 

 

 

ーーー

 

 

「アンナ隊長!間も無くソーラ・レイのコントロール圏内に入ります!」

 

「分かりました、再度広域通信を発信した後で状況の確認が取れ次第発射に移ります。各員は速やかにソーラ・レイのコントロールの受領を急ぐように。」

 

『了解!』

 

 急がなければならない……かつてはそれを止める為に、そして今はそれを撃つ為に。

 ……この一発で全てが終わるとは思えない、数多の陰謀が渦巻くこの戦いはこのコロニーを止めただけでは終わらないだろう。

 けれど、けれど今の私には信頼する仲間が、そして愛する人がいるのだ。

 彼らと共に道を歩み続ければいつかはきっと……。

 

「リング・ア・ベル……。」

 

 鈴を鳴らし続ける、戦いという愚かな行為を止める為の鈴を……。その為のこの部隊なのだから。

 

 再びの退避勧告を発信し、間も無くソーラ・レイのコントロールも受領されるだろう。

 

『エルデヴァッサー大佐、聞こえているか?』

 

 通信が入る、ガルマ代表からだ。

 

「はい、聞こえていますガルマ代表。間も無くソーラ・レイのコントロール機能の引き継ぎが終わります。……あのコロニー落下を阻止出来るのは貴方達のおかげです、ありがとうございます。」

 

『礼はアンダーセン大尉に言うのだな。我々は彼の当たるかも分からない賭けに乗っただけさ。彼の様な未来を予知するニュータイプでいたからこそ我々はあのコロニーを止められた。』

 

 未来の予知……、本当はそうではなく彼は別の世界から着た人間だという彼の言葉を信じるのであれば最初から起こり得る可能性として彼は最初から考慮していたものなのだろう。

 だがそれがどんな思惑でも構わない、父や祖父をそして多くの人々を死に追いやったコロニーが止められるのであれば。

 

「彼は自分がニュータイプであるという事は否定すると思いますよガルマ代表、彼や私にとってのニュータイプとは、未来を予期するエスパーではなく未来を正しく導いて行く新世代の人達全てを言うのですから。」

 

 そう、人々は変わっていく。変わって行かなければならない。

 同じ人類同士の血を流す戦いに終止符を打ち、そして子供達の為の未来を築くのが今私達がやらねばならない事なのだ。

 

『フッ、彼もそう言っていたよ。自分はエスパーなどではないとね、だが私は彼や君の様な未来を見つめて最善を尽くそうとする者はやはりニュータイプだと思っているよ。……このソーラ・レイを放てば貴方は否応無しにこの先の連邦軍の立ち位置を迫られる、本当に良いのだな?』

 

「はい。私には彼や仲間達……そして()()()()がいますから、信じてくれている者の為にもう逃げたりはしないと誓いました。」

 

『ならこのソーラ・レイは君に任せる。……頼んだぞエルデヴァッサー大佐。』

 

 その言葉と共に、ソーラ・レイのコントロールが此方に移る。

 

「ソーラ・レイのコントロール権を受領しました!いつでも発射できますアンナ隊長!」

 

 ジュネットの言葉に頷く。射線上に味方の部隊がいない事を確認する、しかし幾つかのデラーズ・フリートの部隊は継戦しているようだが通信を聞き入れなかった以上はもうどうしようもない。

 

「……ソーラ・レイ!発射!!!」

 

 かつて多くの命を奪った兵器が、今度は大勢の人を救う為に光を放った───

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。