大きな閃光が過ぎ去る、しかしその大きな光すら目に入らず互いの魂を削りながら二機のガンダムは攻防を続けていた。
その光がコロニーを包み込む瞬間、アルベドの攻撃はニグレドの攻撃よりも早く機体に到達した、それはアルベドに搭載されたNT-Aというシステムがミリ単位とも言えるレベルで回避行動を行いニグレドの攻撃を躱したのだ。一撃の下にサーベルを持っていた右腕を破壊された黒いガンダムは沈黙した。
「ハア……っ!ハア……ッ!」
全身から吹き出す汗に耐えきれずパイロットスーツのヘルメットを外す、汗は頭上に舞い上がり水溜まりを作り吸い出された。
『……ッ。クソが……。』
「終わりだジェシー・アンダーセン、俺の勝ちだ……。」
全てが静まり返ったような静寂の宇宙が全ての戦いに終わりを告げているように感じる。
これで本当に終わりなのか、それはまだ分からないが俺と彼との決着は決まったと言って良いだろう。
『最初から分かっていたさ……俺とお前が戦うとしたら俺にもう勝ち目は無いとな。』
「……何故もっと砲撃やファングを使わなかった、あれを使われていたら……。」
『お前の知る
息が途切れ途切れになっている。彼に残された時間はもう少ない。
「俺がマルグリットを殺しさえしなければ……お前にこんな辛い思いをさせる事もなかった……俺がお前を乗っ取りさえしなければ……!」
『お前の情けはいらない……。もう俺はジェシー・アンダーセンじゃないんだ、貴様に魂を乗っ取られたその日からな……お前がジェシー・アンダーセンなんだ、今のこの世界のな……!』
「……。」
『この戦いが終わろうと、俺が穿った綻びはお前の知る未来よりも過酷になるだろう……!楽に世界を変えられると思わない事だな……!』
「覚悟の上だ……。例えどんな世界になろうと、より良い未来に変えてみせる。お前とマルグリットが過ごした、あの平和な日々の様に……。」
何気ない日常と愛する者の笑顔、それが当たり前の世界に変えてみせる……変えなくちゃ行けないんだ。
『アーウィン!』
その時、巨大な機体が俺達のそばに近づいて来た。
これは……ガンダム試作3号機!?
『アーウィン!アーウィンなんだろ!?返事をしてくれ!』
『レイ……?貴様が試作3号機に乗っているのか、コウ・ウラキは……そうか1号機は健在か、だから……。』
「いえ、俺はレイと一緒にガンダムに乗っていますよアーウィンさん。」
ステイメンからコクピットを開き出て来たのはあのコウ・ウラキだ、どうやらこの世界の試作3号機は漫画版のようにステイメンとオーキスでパイロットが必要な仕様のようだ。
そして彼と共に現れた緑髪の少年……確かレイ・レーゲンドルフという少年らしいがあの姿は……。
「
「……!?誰だ!今僕をその名前で呼んだのは!」
しまった、不用意に発言したのを聴かれていたか。出来れば彼とまでは戦いたくないが……。
「よせ……レイ、そんな奴に構う必要はない。言わせておけば良いんだ。」
「アーウィン……!どうしてこんな事を……!」
ニグレドのコクピットを開き、彼と邂逅するレイという少年に俺もまたコクピットから降りる。
「……。」
「白いガンダム……、貴方は一体……?」
コウが疑問を投げかける。確かに彼からしたら俺は見知らぬ人間だろうから当たり前の反応か。
「俺はリング・ア・ベル隊のジェシー・アンダーセン大尉だ。君は……コウ・ウラキ少尉……いや、中尉か?」
「い、いえ自分はコウ・ウラキ少尉であります。ジェシー・アンダーセン……大尉?まさかエルデヴァッサー大佐の?」
少尉……?原作なら戦時階級とはいえ中尉に昇格していた筈だが……可能性としてはバニング大尉が死んでいない可能性があるな。
「あぁ、彼女のフィアンセだ。……それより今は彼の事だ、君達は彼が気になって来たんだろう?」
「えぇ、ソーラ・レイの発射後に未だ輝く戦闘の光を発見したので確認した所ガンダムニグレドでありましたから……。彼はレイのお兄さんなんです。」
兄……か。血は繋がっていないだろうから恐らくは研究所を通じて知り合ったのだろう。
だが彼を心配するレイの姿は、まさしく家族を心配するそれと同じだ。
「これは俺の復讐だった。その為にお前に近づき、お前を利用した。お前は騙されていただけだ。」
「嘘をつくなアーウィン!そんな……分かりやすい嘘をつかれても僕はもうアーウィンを見捨てたりなんてしない!あの時アーウィンが僕を救ってくれたから僕は今こうしてここにいて、
コロニー落としを阻止するために、みんなが思い思い戦っていた。彼の中にもその思いはあったのだろう、そしてそれはソーラ・レイによって叶えられた。
「ハッ……、俺にとっては落ちてもらわなければならなかったんだ。それが無ければ……この先の未来は……。」
「それは違う、コロニーが落ちても未来はもうお前の知った様にはならない、本当は分かっていたんだろう?」
大きく変わった未来では、コロニーが落ちたとしても確実にティターンズが発生するかは分からない。それはクワトロとなるシャアが今はネオ・ジオンにいることやアクシズで暗躍しているだろうキシリアの存在など幾つもの本来の道筋とは違う存在があるのだ、仮にティターンズが出来たとしても彼が望む30バンチ事件が起こり得るとは言い切れない。
「それでも……それでも同じ未来を辿りたかった……マルグリットと共に歩んだ筈の刻だけが俺の最後の繋がりだったんだからな……。」
彼はそれが彼女の為になるとは思っていないだろう、あくまで彼の自己満足……それは彼も分かっているはずだ。
「お前は……あの時ペズンでニグレドに乗っていた男だな!お前のせいでアーウィンは!」
「よせ、レイ。もう良いんだ。もう……な。」
既に余力は何も残されてはいない。もう死を待つだけの体だ、既に何もかも諦めているのだろう。
「アーウィン・レーゲンドルフ、マルグリットは確かに死んだ。けれど未来が変わり、彼女の代わりに妹であるヘルミーナさんは生きて今子供がいるんだ。」
「妹……。」
アーウィンは思い返す、違う未来ではマルグリットと出会う前に衰弱死した彼女の妹がいたことを。
「今彼女は愛する人と共に生きている。お前とマルグリットがかつて歩んだ道のように……。」
「それが……どうした。俺には関係ない……俺にはマルグリットが全てだったんだ。」
その言葉の直後、バーニアの光がこちらに近づいて来る。あれは……フィルマメント?
「……!ヘルミーナさん……!?どうして……?」
【ありがとうジェシー、彼を止めてくれて。】
フィルマメントから降りてニグレドのコクピットへ向かう彼女のパイロットスーツ越しに聞こえた声は……まるで……。
「……マルグリット……?」
アーウィン・レーゲンドルフが大きく目を見開く。その先には彼が夢にまで見た女性が立っていた。
「……ジェシー。」
アーウィン・レーゲンドルフにジェシーと呼びかける彼女は、ヘルミーナさんでは無い。これは……。
「お前なのか……マルグリット……っ!」
「……。」
涙を流しながらアーウィン・レーゲンドルフに近づく彼女を見て確信する。彼女が……マルグリットが此処にいる事を……。
「貴方がした事は……決して許される事ではありませんジェシー……。」
彼を抱きしめ、そう彼女は声を発する。
「……そうだろうな、これは俺のエゴ……俺が勝手にお前の弔いの為だけにやった事だ。」
「それでも……
「私は貴方を許します。」
彼の凶行は決して許される事ではない。
敢えて世界を混乱に貶めようとした事は、この世界の今後を如何に混沌に導いてしまうことなるのか俺ですら予測が付かない。
しかしそれでも……彼を許す存在は必要だろう、俺のせいで自分の人生を台無しにされたのだから……。
「例え世界の全ての人が貴方を恨んでも。例え世界から貴方の存在が否定されても私は貴方を愛しています。」
「今更……なんだ……!俺の前から消えて、今の今まで姿を見せてもくれなかったのに……何故今更……!」
彼女の魂さえ認識できれていば、彼はこんな凶行を起こさなかったかも知れない。だが恐らくは彼女の魂は彼女を死に追いやった俺やアーニャの中でずっと漂っていたのだろう……。
「今だから、還ってこれた。貴方の傍に……。もう一人のアナタ、そして彼を支える彼女のおかげで。」
「お前は奴らに殺されたんだぞ!」
「でも、だからこそこうやって妹は生きている。愛する人とその人との子供と共に。」
そうだ、マルグリットやジェシー・アンダーセンが歩んだように……今はグレイとヘルミーナさんがその道を進んでいる。
「俺は世界の全てが憎い……!お前を殺したアイツらも!本当の未来を知りもせずに歩むこの世界の人間も!」
「ジェシー……そんなに自分を責めないでください……。」
「自分を……責めるだと……!?」
「貴方は本当は何も憎んではいない、そうでしょう?」
「馬鹿を言うな!お前は見ていたんだろう!俺がこうやって、奴の知る未来の知識を使い世界を混沌に誘っていたのを!」
「……それでも、あの二人なら世界をより良い方へ導いてくれると信じていたのでしょう?」
「違う!違う……!俺は……俺は……。」
「変わろうとする世界、人の意志が希望へと迎える可能性があの刻よりも多く分かれているこの世界。貴方は敢えて世界を混沌に貶めた。けれど……それでも変えてくれると信じているのでしょう?」
「分かったことを言うな!」
「分かるよ、だってジェシーの事なんだから……。」
その言葉はまるで別の未来を歩み、共に生きた伴侶としての言葉に近かった。
彼女もまたあの刻を識り、その存在を同化させたのだろう。
「だから私は貴方を許します、この先の未来……私達が見た刻よりも多くの悲劇、そして絶望が訪れる。けれどその先に人が希望を持って生きる未来に辿り着けると信じているから……。」
「ジェシー……。私は貴方に出会えて幸せだった。あの刻の中で私は妹を亡くし朽ちていくだけの地獄を見た。けれど貴方に出会いそして未来を歩んで、そして同じ時に死ねた。それは非業の死ではあったけど、最後まで触れてくれた貴方の温もりを私は忘れません。」
そう言ってマルグリットは再び彼を抱きしめる、その最後の時をまた共に歩むように。
「俺は……何度生まれ変わってもお前を探し続ける。」
「えぇ。」
「何度生まれ変わろうと、また巡り会って……そしてまた恋に落ちる。」
「私も、また貴方に恋をします。」
「……長かった。この地獄の中で、ただひたすら世界を変えてきた……。」
アーウィン・レーゲンドルフは俺を見つめ、そして……。
「もう、お前の知る未来は何処にもない。俺が壊そうとした世界をお前が別の意味で壊したのだからな。」
「あぁ。もうこれから先の未来に俺の知識は殆ど役に立つことはないだろうな。」
機体や武装、そういう知識はまだ必要になるかもしれないが未来の出来事を知る術はもうない。これから先の未来はどう変わるかすら俺には見通しがつかない。
「だがこの世界を変えた責任は果たせ……!お前が望むより良い未来というヤツを作って見せろ……!それが俺を乗っ取ったお前の使命だ……!」
「あぁ……変えてみせる。仲間達と共に。」
俺一人では難しいかもしれない、だが俺には仲間がいる、かけがえのない仲間が。
「……レイ。」
「アーウィン……。」
アーウィン・レーゲンドルフは弟のレイに手を伸ばすと彼はしっかりとその手を握りしめる。
「お前はもうプロト・ゼロでもゼロ・ムラサメでもない。一人の人間として好きに生きろ……。」
「今まで……今までありがとうアーウィン……兄さん……ッ。」
「ジェシー……アンダーセン……愛する人を護りきれよ……それが……ジェシー・アンダーセンという人間なのだから……。」
別の未来で父親から贈られた言葉を、アーウィンはもう一人の自分に託す。
「あぁ……絶対に。」
「……これで……ようやく還れる……俺の魂の居場所……マルグリットの……そばに───」
戦いが終わった、ペズンから始まる一連の戦いに終止符が打たれた。
だが、それは俺の……ジェシー・アンダーセンという男に起因する中での戦いだ。
デラーズ紛争、ジオン公国軍残党のガンダム強奪から始まった世界の歪みはコロニー落としの阻止で一応の決着はついた。
しかし、彼らが起こしたこの蜂起は新たな戦いの鐘を鳴らす序章に過ぎなかった。