アベンジャーズ・ジャパニーズヒーロー 作:ヤカラナリ
その日、俺はアフリカのワカンダと言う場所に訪れていた。
ワカンダは最近、自国で採掘される特別な鉱石の存在とその活用法を公表した国だ。その技術は1世紀以上先の未来技術の様でその範囲は医療・通信・軍事・製造などとにかく多岐にわたる。
しかしその技術を得ようと多くの国の人々が足を運び、1つ1つを見れば小さな…しかし塵を積めこんで山を作ったかの様な多種多様な問題を抱えた国でもあった。
そんな国へ俺は日本の大学の夏休みを使って旅行に来たごくごく普通の…少しだけエスパー的な一般人の日本人大学生だよ。
本当に少しだけだよ?あんまり強くないよ?エスパー能力。
物を浮かせたり飛ばしたり、自分で飛べたり…まぁそんな感じ。『スゲーじゃん!』て思われるかもしれないけど正直な話使えない。
だってさ…俺がこの能力で得した時なんて女の子のスカートをめくった時くらいだぜ?でっかい岩持ち上げるとかほぼ無理、ボーリングの玉持ち上げただけでまぁまぁ疲れるし、使い過ぎるとガス切れして暫く使えなくなる。
つーか、俺のエスパー能力は感覚的に文明の利器に負けてる。(エスパー能力よりスマホのが便利)
まぁそんな俺はワカンダの郊外で観光を楽しんでいた。カエルは鶏肉みたいってよく聞くけどホントだね、むしろカエルの方が味がしっかりしてて、好み的にカエルの方が好きかもしれない。その姿が生理的に受け付けなければ…。
あと黒豹ののTシャツに一目惚れした。黒の生地に黒のプリントとか言う頭の悪いクール感!!決してオススメして来た店員さんのおっぱいが大きい事に感動したからではない。でも黒肌の大きいおっぱいは素晴らしい。
一休みに入ったオープンカフェでメロンソーダに出会った。日本でもワカンダでもメロンソーダはメロンソーダだ。メロンの果実なんて一滴も入っていない着色料マシマシで不健康な色したメロンソーダは日本で飲むメロンソーダとまったく同じ味で俺の心を解きほぐしてくれる。
嗚呼、なんて素晴らしいメロンソーダ。
なんかスキンヘッドの女の人がいた。何処ぞの民族衣装的な装いで気が強そうな感じだ。でもよく見れば美人さん?スキンヘッドはオシャレ説?
近くにヤベー組織のアジトがあるらしい。怖いもの見たさで行きたくなったけどやっぱり怖いから辞めた。実は高校時代の文化祭でやってた隣のクラスのお化け屋敷にすら行けなかったのは秘密。
暇そうな地元警察の人にオススメのレストランを聞いた。
SUSI!?何故?なんでこんなところにSUSIが?!
ワカンダの王様ポスターがあった。見慣れてないからなのかな?黒人さんてみんな同じ顔に見えてしまう。でもいい人らしいよって○チャンネルの人が言ってたし、古事記にも優しいって書いてあったらしい。ワカンダの王様はいいひと。
立ち寄った公園で日本人と遭遇。関西人だったけどここでは日本人。広い公園の端にはバスケットコートが2つのあって現地の子供達が楽しそうにあそんでいる。出会った関西人と子供達の試合を見ながら何気ない雑談をした。
日本を離れて数日なのにすでに懐かしく感じている。
遠くでなんか爆発した。なんだなんだと現地の野次馬さんたちと音がした方に向かっていると廃船場で爆発が起きたらしい。最初は残った燃料がなんか爆発したのかと思ったけど一層派手な爆発と1つの船から飛び出した2つのロボットが空中で撃ち合っているのを見て何かの抗争的なものだと分かった。
アレは噂に聞く『アイアンマン』?トニースタークっていう有名な社長が乗る正義のロボットらしき物。はへー…俺のエスパーの100倍すごい動きで戦ってるよ、本職のヒーローは凄い。
なんて思いながら対岸の火事的な感じで観戦していると近くで別の破壊音がした。その方角を向いてみると緑色の怪物が暴れていた。
緑色の怪物は屋台や民家を壊し、時折咆哮を上げて街を恐怖に陥れるーーってマジか!!
俺は緑の怪物に向かって走り出す、現地の人達が逃げ惑う中、緑の怪物を軽く観察すると人っぽい見た目だ。しかし身長より縦幅の方が大きく、腕に至っては俺の胴体と同じくらいの太さだ。
緑の怪物に目測100メートル位に近づいた俺は近くの石をエスパー能力と掛け合わせて投げる、普通の人なら骨折するくらいの威力はある筈の投石は右肩にポヨンと当たって全く効いてないのが分かった。
全く効いてはいなかったが緑の怪物に俺へのヘイトを向けることは成功したらしく俺に向かって突進して来た。俺は邪魔になると背負っていたカバンを下ろして緑の怪物へ走る
緑の怪物は突進しながら右手を大きく振り上げ俺に落としてくる、俺はエスパー能力で軌道をずらしながら大きく回避して第一撃を避ける、続けて迫る左拳を同じ要領で躱す。
それを1つ2つと繰り返すうちに遠くからパトカーのサイレンが聞こえた、なんとかコイツの相手をしているうちに警察が来てくれたらしい。
途端にカキュンと鳴った、緑の怪物の頭に銃弾が当たったらしいが…無傷だ、嘘だろ?
どうやら俺に当たらないように注意しながら緑の怪物へ銃撃しているらしいが、結局は傷1つ合わない緑の怪物。
緑の怪物は苛立ったのか俺から目を離して他の警察官へと向おうとしてーーさせるか!
俺から目を離した瞬間、怪物に肉薄してがむしゃらに殴る蹴る叩く、振り払おうとした怪物の拳を避けながら距離をとって、今一度エスパー投石!
怪物がこちらへ向けた目を見て俺は精一杯の見栄を張って
「もっと遊ぼうぜ!緑ゴリラ!!!」
言葉が通じたのか咆哮を上げて緑ゴリラは俺に突進、俺も突進しながら相手を考察する。
まず攻撃方法は腕のみで足技や噛み付きの類は無し、
俺のようなエスパー能力も無ければ肩からロケットランチャーが起動する事もない、シンプルだ。
ただし当たると致命傷、下手しなくても死ぬ、掠っただけで吹っ飛ばされる。またシンプル故にパワーとスピードで押してくる。
対応策としては【攻撃する勢いで回避】が最適?
背中を向けたら死ぬと思うし退く事を考えた瞬間死ぬ。
次に勝利条件、現状不可能と言っていい。
銃弾すら跳ね返す皮膚に俺の攻撃が効くわけがない、何処ぞのゲームよろしく“火に弱い”とか“水に溶ける”なんて可能性も無くはないが検証は不可。
ただし、“現状”だ。
これだけの騒ぎだ、既に軍隊的なものが動いているだろう。特にワカンダの新技術は軍事的にも大きな力を持つ(らしい)
または警察官達も何か策があるかもしれない。
つまりは“被害を抑えつつ時間を稼ぐ”現状はかなりいい展開と言っていい。警察は避難活動を始めてるだろうしこの緑ゴリラを抑えてるだけで十分だ。
問題が2つ、
1つは“ガス切れが近い”あと数分で俺はエネルギー使い切って能力を使えなくなる、エネルギー尽きたら?死ぬ。でもそれを考えてはいけない。
2つ目は“打てる手札がない”俺だけに絞ればもうやれる事はエネルギー使い切るまで躱し続ける事だけだ。まぁ分かってはいるけど後は“逃げることすら出来ない”
1つ2つ3つ、攻撃を躱してタイムリミットが迫るのを感じる。余裕があるわけではない、だけどここまで考えて退く事もできず戦い続けるしかない俺の頭に浮かぶ…、
“浮かんでしまった”
【怖い】
ただ一瞬の恐怖に体が強張る、そしてその一瞬は俺が詰むには十分過ぎた。
怪物の拳が俺を捉える、回避は不可能。持っている全てのエネルギーをなんとか防御に回し…そのまま吹き飛ぶ、何かの店の扉に激突して中にぶち込まれる。
運良くソファに受け止められた俺は意識半分に怪物を見る。
俺から目を離して勝鬨のような咆哮を上げていた。
心の何処かに安堵と達成感が産まれた。
(俺にしては良くやった)
(後は誰かが何とかしてくれる)
(俺にできる事はもうない)
言い訳がましいがそういうもんだろう。
むしろ運が良かったのかもしれない。
何気無く窓の外を見るとーー
SUSIレストランを教えてくれた警察官がおっぱいが大きい服屋の店員さんを背負って走っていた、店員さんの足はありえない方向に曲がっていて肩から大量の血が出ていた。
「行くか」
能力はもう使えない、でも行かなきゃいけない、理由なんて分からない。でも戦わなければならない。
足はガクガクとしていてろくに立てそうにない、
(でも折れてるわけではない)
当然怖い、
(だからなんだ)
十分戦った、
(本当にそうか?)
勝手に湧いてくる言い訳を振り払って立ち上がる。
屁っ放り腰だ、情けない、
(戦わない理由にはならない)
ふと周りを見るとこの店は銃を売ってる店だった。
棚にあった名前もわからないマシンガンのような銃を手に掛け落ちていた拳銃を二丁拾ってズボンのポケットに一丁ずつ仕舞う。
壊れた入り口から警察官を威嚇する怪物を睨む。
「まだ終わってねぇぞオラァァ!!!」
銃口だけ怪物に向けてマシンガンを撃ちまくる、
ガガガガッと鼓膜が破れそうな音と銃弾が怪物に向かうが当然のごとくダメージはなさそうだ。
俺に気がついたのか吠える怪物に無策突進する
途中で球が切れたマシンガンを投げ捨てて右側のポケットにある拳銃を撃つ、
拳が来る、転ぶように躱す、
撃つ、撃つ、撃つ、
両手を握ってハンマーのような拳の振り下ろしを躱す、
飛び散る瓦礫に足がやられる、
痛い、
(だからなんだ!)
一心不乱に撃つ、撃つ、撃つ、弾が切れた、
持っていた銃を捨てて最後の銃を構えて撃つ、
カシャン、と間が抜けたような音がした、弾が入っていなかった、カシャンカシャンと引き金を引く無駄、
怪物はノッシノッシと俺に歩み寄る、
怖(くない!)
一か八か立ち上がる、右足が痛むが立てない事はない、
拳を握る、もうどうにでもなれ!!!!
「うおおォォォォ!!」
吠える、走る、戦う!
怪物の拳を避けて殴る蹴る叩く、突き飛ばされた、転がりながら何とか意識は保つ、
「まだだ!少しでも時間を稼ぐ!!!」
瓦礫に手をかけてなんとか立ち上がる都合よく手元にあった鉄パイプを握って杖のように使いながら…
前へ…前へ!
そしてーー
「良くやったジャパニーズ、後は引き受けよう。」
赤のボディに黄金のアクセント、俺の身長を優に超えるロボットが俺と怪物の間に降り立つ。
その姿はまさに【ヒーロー】
俺はその姿に安心して意識を手放した。