「っな!?本気なの翠ねー様!月(ゆえ)さんと楼杏(ろうあん)さんが!」
蒲公英が叫んだのは真名
月は董卓の真名で楼杏は皇甫嵩の真名であった
董卓は農耕に従事していたが羌(きょう)族ら異民族の居住地を放浪し顔役らすべてと交流しまとめ上げた
皇甫嵩は真面目で慈悲深く、人々から心服された、霊帝からじきじきに公車へと丁寧に招かれたことを機に仕官した
それによって同郷である董卓も招かれた
「あぁ!あの二人は霊帝様にお声をかけていただいたんだ。こんな涼州の田舎でくすぶっているよりも都へでて働いた方がここに居るよりは何倍も民が救われる」
翠はこぶしを握り締めて自分に力が無いことを痛感していた。村が黄巾党によって滅ぼされる・
報告を受けて村に向かうが辿り着いた時にはもう虐殺は終わっているのだ
「月はあぁ見えて腕が立つ!涼州の民だから馬にも乗れる!楼杏はあの人望がある!すぐに二人とも上の階級へと行けるだろうさ。だからあの二人を都へと連れて行ってくれないか?」
苦笑いをしながら翠はエドワードへともう一度頼んだ
「兄さん・・・」
「・・・わかった。でも一度二人に会うことは可能か?人となりは自分の目で確かめたい。俺達は道は知らないけれど護衛にならなってやるよ」
「・・・あぁ!じゃあすぐに連れて行く。蒲公英、鶸、蒼!支度しな。エドワードは蒲公英の馬に一緒に乗ってくれ。後ろの鎧は荷車を用意しよう」
「えぇ!翠ねー様なんで私がこいつを乗せないといけないの!」
「うるさい!あたしが決めたんだ!文句言っている暇があるならさっさと馬連れてこい!」
こうしてエルリック兄弟と馬姉妹は董卓と楼杏が待つ村へと向かった
その道中・・・
「っち!なんど見ても気分が沈んじまうな・・・」
「あれが被害にあった村ですか?」
アルフォンスが荷台に腰掛けながら村があった場所を見て翠へと問いかけた
「あぁ、被害にあったのは最近なんだ、助けに行った時には数人しか助けられなかった。夜中に奇襲をかけてきやがったんだ」
翠はもっている手綱をさらに強く握りしめた
この時代、盗賊は腐るほど居る、戦争も起きる、食料を求めて難民も来る。
都や街に比べて村には軍隊や警備隊など居ない
あったとしても自警団が主である
村によっては自警団すらない場所も存在していた
そんな村を黄巾党は襲い略奪し虐殺していた
「その黄巾党って奴等の特徴ってのはなんなんだ?」
「狂った宗教団体さ!その天辺に張角ってのが居る!自分のことを大賢良師って公言している。こいつがどんな病気でも直せるんだと!噂じゃ南華老仙と言う仙人に『済民要術』という天書を授かり、妖術を覚え治病を行い太平道を広めたらしい。それを村々で奇跡を施すもんだから、今の漢王朝に不満を持っている連中が張角こそ天子に相応しいと役所の門などに「甲子」の二文字を書いて信者を呼びかけたんだ」
今分かっているだけでも数万の信者が張角を筆頭にその姉妹でもある、張宝(ちょうほう)と張梁(ちょうりょう)に心酔しきっていた
その三姉妹が黄色い手布を髪にゆわえていた為、信徒の証として黄色い布を巻くことで太平道の信者だとわかるようになっていた
黄色い布を身に着けていたのでその信者、賊達を総称して黄巾党と呼ぶことになったと翠は聞かせてくれた
「楼杏達が賊を撃ったあとにその布をみたらこんな文字が書かれていたみたいでな」
【蒼天己死、黄天當天、歳在甲子、天下大吉】
蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし。歳は甲子に在りて、天下大吉
甲子革令と呼ばれこの年は徳を備えた人に天命が下される「革令」の年、すなわち変乱の多い年とされた
それを張角が率先して漢王朝に対し神に成り代わろうとしていたのだ
「黄巾党はすごい勢いで増え続けている、最近じゃ荊州・揚州で兵を集めさせていたってのも情報が入ってるんだ、だからここも時期に暴動が起きるかもしれない。だからその前にあの二人を都へ連れて行きたいんだよ」
「っは傲慢だな!その張角ってのは!どこかの神話にあったなぁ~確か【太陽に近づきすぎた英雄は蝋で固めた翼をもがれて地に落とされた】ってな」
「あたし達が仰ぐのは天子様だけだ!あんな宗教が治める国に未来はないからな・・・」
「翠ねーさん、村が見えてきましたよ!」
エドワードと翠の話を固唾を飲みながら聞いていた鶸が遠目ながら村が見えたことを告げた
「よし!話は終わりだが、これで黄巾党がどういう宗教かわかっただろう!こんな奴らにまけらんねぇからな!」
「その張角ってのがうさんくさい奴ってのは分かった。しかし規模がでかすぎると思うんだが大丈夫なのか?」
翠は話は打ち切るが、黄巾党の規模のでかさにエドワードが追及した
「あぁ、楼杏が都に行けば軍を預からせて貰えるらしいからな、それにほかの諸侯達も自分の領地を黄巾党に荒らされたくないからな、次々に兵をあげて自分の領地周辺くらいは守ってるさ」
「そっか、しかしその張角ってのに会ってみたいよな!そのどんな病気も直すってのがいまいちわからねぇ。」
エドワードが蒲公英の後ろに掴まりながら、ん~と考察してると村の方から若い女性が3人歩いてきた
「ねぇ~ちぃちゃーん!それおねーちゃんにもちょーだいよー」
「駄目よ!さっき自分の分食べてたじゃない!これは私のなの!!」
「天和姉さんもちぃ姉さんもいい加減にして!そろそろ本当にまずい事になりそうだから、急いで荊州に行かなきゃならないんだから!」
「だって~れんほーちゃん!おねーちゃん全然おなかいっぱいじゃないんだもん!」
若い三姉妹が食べ物について騒ぎながら横を通りすぎて行った
見た感じは若い姉妹で荷物を持っていることから旅人か大道芸人ではないかと思われる
そんな姉妹を気にすることなく村へと進むと二人の女性が出迎えてくれた
「お疲れ様!馬超さん!」
「あらあら!これは随分大人数でのご帰還ね」
みんなを出迎えてくれたのは
人形みたいに可愛らしく大人しそうな董卓と
目つきは鋭いがどことなく優しそうな楼杏の姿であった