「これより、大罪人スアデラ・アルブラーカを処刑する」
「むにゃむにゃ……はあ!?」
 
 気が付くと首を台に固定されていた。
 上向きに首をひねると、斜めの形状の巨大な刃がギラリと光る。

 もしかして、これはギロチン……? 

「ウェイウェイウェイ! ちょ、逃げられねーし! な、なんで!? どうして!?」
 
 どうしてこんなことになったんだ!? 
 あたしはさっきまで自室で乙女ゲーをプレイしていたはず。
 それがどうしてこんな絶体絶命のピンチに陥っているのか。

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悪役令嬢に転生したけどギロチンに首が挟まってた

「これより、大罪人スアデラ・アルブラーカを処刑する」

「むにゃむにゃ……はあ!?」

 

 気が付くと首を台に固定されていた。

 上向きに首をひねると、斜めの形状の巨大な刃がギラリと光る。

 

 もしかして、これはギロチン……? 

 

「ウェイウェイウェイ! ちょ、逃げられねーし! な、なんで!? どうして!?」

 

 首はがっしりと挟まれ、手首も首横の枷に嵌められている。

 台に阻まれて見えない身体を必死に動かすが、全身を縄で縛られているらしく、芋虫のようにくねることしかできない。

 

「往生際の悪いお方だ」

「ええっ、とりあえず開放しなさいよ!」

「それは無理な話です」

「なんでよ!?」

「忘れたとは言わせません。王子とその未来の妃への暗殺未遂、はたまた王国へのクーデタを計画していたことを」

「知らねーよ!?」

 

 どうしてこんなことになったんだ!? 

 あたしはさっきまで自室で乙女ゲーをプレイしていたはず。

 それがどうしてこんな絶体絶命のピンチに陥っているのか。

 

「いやだー! 殺されるー!」

「恐怖に気が狂ったか……もうよい、楽にしてさしあげろ」

「やめろー!」

 

 ブチンと縄が切断される音がして、刃がレールを滑る金属の音が耳に近づいて来た。

 

「うおおおおおおお!!! タイム!!!」

「はい、タイムです」

 

 突然目の前に少女が現れ、すべての動作が停止した。

 ギロチン台の下から聞こえていた観衆の声が、執行人の呼吸が、完全に消え失せた。

 そして、あたしの首が切り飛ばされることもなく、いまだにつながっている。

 

「よーし、これで異世界の雰囲気を味わってもらえたかなぁ? とりあえず──」

「味わってもらえたかなぁ、じゃねえ!!! どういう状況だコラ!? てか、テメエ誰だよ!?」

「ひええ」

「こっちのセリフだゴラァ!」

 

 両手を頭に抱えてうずくまる幼い少女。

 白くヒラヒラとした衣装に、背中から輝く羽。

 きわめ付きに頭上の金の輪。

 

「わ、私は女神さまより派遣された一介の天使にすぎません」

「んなモンみりゃ分かるわ!」

「質問に答えただけなのに怒鳴られた……」

「こっちは死にかけたんだぞゴラァ!」

 

 いきなり知らない場所で殺されかけ、責任者らしき存在がのほほんとしていやがる。

 怒るのも当然だ。

 

「それで? あたしは現世で死んだの? トラックに轢かれた覚えはないけど」

 

「いえ、飲まず食わずで100時間ゲームし続けた結果の衰弱死です」

 

「あたしのバカヤロー!」

 

 

 どうりで死んだ時の記憶が薄いわけだ。

 それだけ身体を痛めつければ意識も混濁していたに違いない。

 

「本当はまだ死ぬはずじゃなかったんです。手違いで……申し訳ありません」

 

 これもまたなんというあるある言い訳。

 いや、そんな生活送ってたら普通に死ぬと思うんだが。

 

「……で、どんなチートをくれるの?」

「ずいぶんと物分かりがいいんですね」

「当たり前でしょ、何番煎じだと思ってるのよ。いつもワンパターンで恥ずかしくないのかしら」

「そ、そういうことは口にしないほうが……」

 

 ちなみに、あたしは生前にやっていた乙女ゲームの世界に、悪役令嬢のキャラとして転生させられたらしい。

 ホントに芸のない。

 そんなのネットの海に掃いて捨てるほど投稿されていたわ。

 

「というか、何よこの状況。さっさと助けなさいよ」

「すみません、我々、天上の者は下界の出来事に干渉できないことになっておりますので」

「ええ!? じゃあこれあたしがどうにかしないといけないの!?」

「はい、そういうことになりますね」

 

 ちょ、じゃあこのまま時間が進めば死んじゃうじゃん!

 それはさすがに困るんだけど。

 異世界無双する前に死ぬなんてイヤー! 

 

「そもそもなんでこんなアホみたいなタイミングで憑依? 転生? するのよ」

「それは、異世界の雰囲気を感じてもらってから能力を選ばせたほうがいいんじゃないかなぁと思いまして」

「でもあと一秒後に死ぬわ。意味が分からないんだけど?」

「……ちょっと時間がずれちゃいまして、てへっ♡」

 

 ……は? 

 

「あんたなんてことしてくれてんのよ!」

「ひえっ! スミマセン! スミマセン! あ、あと十秒で時間が動き出しますからそろそろ」

「ええええええええ!!!???」

「時間を止めるって結構エネルギー使うんですよねぇー」

「はあああああああ!!!???」

「なにか一つ能力を授けます! それで生き残って!」

 

 なんという無理ゲー。

 この天使は馬鹿なのか? 

 いや、大馬鹿でしょ。

 せめて時間があればなにか案が出せるのに! 

 

「そうだ! あたしの首をメチャクチャ固くしなさい! どんなものにも負けない【最強の首】が欲しいわ!」

「わかりました! スキル【最強の首】をあなたに授けます! では素敵な転生ライフを!」

 

 送れるわけねーだろ! 

 なんだよ【最強の首】って! 

 もっと華やかなチートが欲しかった! 

 

 その瞬間、天使は去り、世界に動きが戻った。

 そしてギロチンは首に落ちると、ガキンと鋼鉄にでもぶつかったような音を立て、割れてしまった。

 

「モゲエエエッ! って、生きてるうううううううう!!!」

「なん、だと……?」

 

 想像以上に首が強い。

 痛みなんてこれっぽっちも感じてない。

 それどころか、刃を壊してしまった。

 

 しかし、事態は未だ深刻なまま。

 複数人の兵士が、クソデカ斧を肩に担いでやってきた。

 

「ちょい待ち! なんでまだいんのよ!」

「魔女め、首だけで処刑具を破壊するとは。だが、我々の斧には勝てまい」

 

 兵士たちが左右に立ち、餅つきのように交互に斧を振り下ろす。

 しかし、斧は高い音と火花を出して、粉々に砕けてしまった。

 斧を握る腕は衝撃で砕け、骨が突き抜け、血濡れとなった。

 

「スゲー! 首チート強すぎでしょ!?」

「面妖な……お前ら、何としても首を落とすのだ!」

 

 後ろからぞろぞろと大量の兵士たちがやってくるも、誰一人として首に傷をつけられない。

 それどころかすべての武器が破壊され、身体にも甚大な被害をもたらしている。

 

「無駄よ!」

 

 首を力強く振って拘束具を破壊する。

 頭と手が自由になり、近くに落ちていたギロチンの破片で縄を切断する。

 

 もう何もあたしを抑えるものはない。

 立ち上がると、恐れをなした兵士たちが下がり、周囲に大きな空間が生まれた。

 

「ば、化け物め……」

 

 首が極端に強い化け物ってなんだよ。

 

「そうだ! あの剣士を連れて来い!」

「もうここにいますよ。大陸最強の【剣聖】である、この俺が」

 

 音もなく、誰にも悟られることなく、フィールドに一人の男がたたずんでいた。

 速度を重視した最低限の武装と、腰に掛けられた禍々しい鞘。

 引き抜くと夜のように美しく、暗く、不気味な剣がその身を露わにする。

 

「これは【魔剣クビカリ】と言いましてね。首を切り飛ばし、その血を啜る度に、より美しく、より鋭くなっていくんです」

 

 なんという厨二病。

 できればあたしもあんなのが使えるチートにしたかったのに!

 

「……うーん、さすがにアレには勝てないかも」

 

 そもそもあたしのチートは【最強の首】。

 首以外を切られたら死んでしまうことは容易に想像できる。

 そういう意味では、戦闘は避けたいのだが。

 

「では、参る!」

「まずいッ!」

 

 ……いや、名前からメタ読みして、相手はおそらく首を切ることにこだわっている。

 ならばここは、一撃で決める! 

 

「何をしている!?」

「来なさい!」

 

 剣の軌道に首を合わせて全力でぶつかる。

 ものすごいエネルギーを首に感じて、後ろに吹き飛ばされそうだ。

 ……でも。

 

「こんなところで死ねないのよ!!!」

 

 【最強の首】が【魔剣クビカリ】を打ち破った。

 

「ウワーッ!?」

 

 剣聖は衝撃で地面を抉りながら弾き飛ばされ、魔剣クビカリは空中で分解して砂になった。

 

「これが、次に流行る【首無双】よ……。小説情報のキーワードに載せておきなさい」

 

 

 

 その後、脱出に成功したスアデラ・アルブラーカは命からがら大森林に逃げ込み、凶悪な野生動物との戦いの中で【首刀流(しゅとうりゅう)】を完成させ、悟りを開く。

 森を出てから繰り広げられた数々の冒険は伝説となり、彼女は後にこう呼ばれた。

 

 【華麗なる首令嬢】と。

 

 

 

(了)


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