あの日見た青年は、空虚でした 作:Cross Alcanna
また新作を出しました。が、しばらくは前の2作品の方を優先して書くので、こちらの投稿はかなり遅めです。そねでも良い方のみ、お楽しみ下さい。
では、本編を開始します。
【本編】青年は、拾われました
[道中]
「今日もちゃんと練習したのかしら?日菜」
「うん!千聖ちゃんにも褒められたんだ~!」
「……そう」フフッ
とある日。私と日菜は今日、2人共練習の日だった。今はその帰りだ。
最近は日菜との関係も良好で、毎日が楽しい。日菜曰く、最近は協調性が出てきている、等と褒められるようになっているのだとか。姉として、日菜の成長は嬉しいものだ。
「……おねーちゃん!?あれって……」
ふと、日菜が声色を変えて呼び掛ける。
いつもの日菜の声色とは全くといって良い程焦燥が垣間見えているので、私もつい焦ってしまい、日菜が指を指す方向へと目をやる。
「……!?何……あれ」
自分の目を疑わざるを得なかった。目の前にいる人を認識したくなかった。いや、本能が拒絶した。
そこには、体全体が傷付き、腕がプランとしてる男子がいた。恐らく、腕の関節も上手く動かせられない程なのだろう。そんな人を、私の精神が素直に認識してくれるはずもない。
しかし、いかにももう倒れそうである。……助けないといけない。見捨てるなんて選択が出来るはずもなかった。
「日菜!病院に連絡して!」
「う、うん!わかった!」
[花咲川病院 病室]
「………………?」
「あっ!目、覚めた!ちょっと待っててね!おねーちゃん呼んでくるから!」タタタ!
病室で眠っていた彼を助けた内の1人である
…事情もわからないものを1人、置いてけぼりにするのはどうなのかとも見られそうだが。
しかし、それも長くは続かなかったようで……
ガラッ
「目が覚めたみたいですね」
彼を助けたもう1人の人物、
「……大丈夫ですか?体が優れないとか、ないですか?」
「…………?」
ベッドで体を横にしている彼は首を傾げる。まるで、体が優れないとは何かとでも言わんばかりに。
どうして知らない素振りをしているのか、という第三者の疑問を置き去りにし、不意に日菜が1つ訪ねる。
「ねぇ!君の名前、教えてよ!」
そう、名前である。これを知らないと呼ぶときとかに困る場面があるのは言うまでもない。
……が、どうやら日菜はそんな考えは全く持ち合わせていないようだ。恐らく、ただの興味から出た言葉なのだろう。
しかし、彼の口から発せられた言葉は、彼女らの予想を遥かに上回るものであった。
──…………名前……ない…
『……え?』
……それは、私達を困惑させるのに、十分過ぎた。それ故、私達はすっとんきょうな声をあげてしまった。
…自分でも、私らしくないとは思う。そう考えている合間も、重苦しい空気は漂い続ける。
……どうも、居心地が悪い。
「…………日菜、彼を見てて。私は先生を呼んでくるわ」
「う、うん!でも……お母さんには、どう連絡しよう…?」
「私がしておくわ。日菜は、彼に話しかけて待っていてちょうだい。……彼に迷惑をかけない程度によ?」
「うん!」
この空気から脱してしまいたいと思ったのか、はたまたそうしないといけないとふと思ったのか、日菜の元気な返事に少しの不安を抱きながら、私は先生を呼びに病室を出る。
……お母さんにも、連絡しないといけない。そんな大事なことすら今の今まで忘れていた程、今も私は焦っているのだろうか。
…私に問いただしたものの、結局答えは思い浮かばなかった。
「ねぇ、君って何が好きなの?」
この人について、何となく知ってみたいと思った私は、そんな他愛も変哲も無いような質問を投げていた。
少し考えるように黙った彼を見ていると、この人が口を開いた。
「…………歌」
「歌?」
「………うん。…………歌、歌うのも……聞くのも…………好き」
アイドルバンドをやっているからだろうか、もう少し深堀りしてみようと思った。…のだが、私らしくもなく熱くなってしまう。
「へぇ~!どんな曲が好きなの!?」
「…………」ウーン
「……あ、もしかして……曲の名前、わからない?」
「…………うん」
「そっか~……わかったら教えてよ!」
「…………」コクリ
そんなちんけなやり取りをもう何分していただろうか。私はふと、そんな事を思う。5分だろうか、それとも、30分以上だろうか。
そんなどうでもよさそうな脳内予想は、1つのノックによって終わりを告げた。誰だろうか。
「はーい」
「日菜、私よ。……開けて良いかしら?」
「うん!君も、良いよね?」
「…………」コクリ
「良いって~!」
「……じゃあ、入るわよ」
ガラッっと開けられた扉の先を見る。
おねーちゃんと、知らない男の人がいた。
白衣を着ている点から見て、医者だと推測する。
「日菜、先生を連れてきたわ」
「気軽に
予想的中。一緒に来たのは、この人の手術を担当した
私と性格が似ていて、気さくで優しい雰囲気を醸している。フランクな口調が、この人の性格を表している。
「……来て早々悪いんだけど、君に幾つか質問がしたいんだ、良いかな?」
職務モードにでも突入したのか、さっきのフランクな口調は影を潜め、堅い口調が顔を出した。
「…………」コクリ
「ありがとね。じゃあ早速……」
田野辺さんは幾つか質問を彼に投じた。その中で、こんなやり取りがあったのが、私としては印象深かった。
「聞くところによると、君は名前がないんだね?」
「…………」コクリ
「……酷なことを聞くかもしれないけど、君の両親は……?」
「…………」フルフル
「……わからない、と?」
「…………」コクコク
「……そうか、わかった。じゃあ、続けるよ?……」
一通り質問を終えたのか、田野辺さんが立ち上がる。それとほぼ同時だろうか、病室の扉が、勢い良く開いた。
……今度は誰なのだろうか?第3回脳内予想大会が開こうかと思っていると、その人が疲弊気味に、声を出す。
「2人とも、その子の容態は?」ハァ…ハァ……
「問題ないみたいだわ」
「今は疲れて寝てるみたいだよ~」
「そう……良かったわ」
……そういう事か。
……おねーちゃんが電話で呼んだのは、つい10分くらい前だった。急ピッチで来たみたい。
納得したところで、はたして仕事はどうしたのだろうか?という新たな疑問が生まれる。ただ、聞くのも野暮だろうかと考え、脳から出すことは止めにした。
「先生、この子……どうなるんですか?」
「……引き取り先がいなければ、孤児院に送られるでしょうね」
……テレビとかで聞いたことはあったけど、いざこうして目の前でそれをやられると、それとは違う印象を持つ。
こう……感情が複雑っていうか……言葉に出来ない気持ちになる。
「……私が引き取ります」
「……お母さん?」
「……本当に?」
……おかーさんはとても優しい性格だから、困った人は放っておけない。
正直、私もこうするのだろうかと、私の予想の1つに挙がっていたので驚きこそしなかった。私は別に良いと思う。寧ろ、そうしたかった。
…が、いきなり子がもう1人増える(=自身の負担が増える)事をこうも即決して大丈夫なのか、とは思ったのだが。
「2人は……良いかしら?」
「うん!私は大丈夫!」
「ええ、私も問題ないわ」
「……じゃあ、手続きをしないとですね。申し訳ありませんが、そちらでやってもらうことになりますが……」
「いえ、大丈夫です」
「わかりました」
こうして、この人の編入手続きを始めようとお母さんが病院を後にする。……そんな中、この子はというと……
「…………」スースー
寝てた。相当疲れてたのかな?
……あの身体じゃあ、無理もないか。
にしても、可愛い寝顔だなと、不意に思ってしまう。何だろうか、幼稚園児の寝顔のような可愛さというか……
「……日菜」
「?」
そんな思考を重ねていると、おねーちゃんが話しかけてくる。何だろう……いつもより真剣な顔つきだ。
…いや、大体いつもこんな顔だっただろうか?
「……この子に、沢山の事を教えてあげましょう。恐らく、物事を知れずに今まで過ごしてると思うわ」
「……うん!勿論だよ!!」
……第一に、迷惑って思われてないと良いけど。
……それはそれとして、この子の名前はどうするのだろうか?
どうやら今日は、脳には休みがほとんどなさそうだ。
ということで、第1話が終了しました。
あらすじに関しては、もっとよさげなものが思い付いたら随時更新します。今作は、結構シリアス多めでいこうかと考えています。オリキャラは……今のところ出る予定です。
次回『青年は、家族ができました』