あの日見た青年は、空虚でした 作:Cross Alcanna
今回は前回に引き続きの回となっております。ましろが何を聞いたのか、それを知った凪達は何をするのか。これからの展開において必要不可欠な要素となりますので、是非とも読んでいただければと思います。
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では、本編を開始します。
[回想]
「あ……あのっ!」
私達がいつも通り、廃墟でもどかしい時間を過ごしていた。そんないつも通りに、今日は何やら違う何かが水を差そうとしていた。私達にそう訊ねたであろうその少女は、とても綺麗な白い髪を備え、宝石のように輝いていた瞳を持っていた。そんな彼女の瞳は、私達の反応を今か今かと待っているかのように、私達を捉え続けている。
「…子供がここに来るものじゃないだろう」
横にいた彼が、まずそれを指摘する。好奇心なのか、はたまた別の理由があるのかはわからないが、こんな少女が寂れた廃墟に来るなんて、危険の他に何と言えるだろうか。頭を抱えたかったその心を抑え込み、様子見を兼ねて少し黙ってみる。すると、彼女は私達に困惑をもたらす一言を放ってきた。
「それはわかってます。ただ……
『……!?』
彼女からは出る事が考えられなかった名前が出てきたため、私達は驚愕した。彼は平常心が保てていないように見えるため、私は勝機を保たないと……あら?この子、もしかして……
「…ましろちゃん?」
「…はい、景華さん」
…まさか、求めていた人の片割れからここに来てくれるとは。嬉しい誤算だった。彼も、そのやり取りを聞いていたみたいで、ようやく落ち着いてきたみたい。…とは言っても、私は未だに動揺しているのだけれど。ここに越していたのね。
「ましろちゃん、元気だったかしら?」
「はい、楽しく過ごしてます」
その言葉に添えられた笑みを見て、私はそれが紛れの無い真実である事を確信する。この子は昔から、楽しい事を話す時は笑顔になるという癖(と言って良いのかはわからないけど)があった。今も健在なのね。まぁ、綺麗な笑顔だし、笑う事は良い事だから、とやかく言うつもりははなから無いけれども。
「…景華さん、そろそろ」
「あら、そうね。ましろちゃん、何が聞きたいの?」
昔の思い出に浸りかけていた私を、彼が引き留めてくれたところで、ようやく本題に移る。ましろちゃんは
「その前に1つ、確認したい事があるんだけど……ましろちゃんって、凪って子、知ってる?」
「…その名前は、知らないです。見た目ならわからないですけど……」
それを聞いた私は、こんな見た目なんだけどと言いながら、その場で描いた凪君をましろちゃんに見せる。すると、ましろちゃんは目を見開き、驚いた表情を浮かべる。
「…この人、知ってます!」
「良かった、なら話が早いわ。この子、元は麗君なのよ」
「……やっぱり、そうだったんですね」
あら?そこまでは辿り着いてたみたい。それとも、ここで確信したのかしら?まぁ、そこは置いておくとして。ここからは柊さんにも説明してもらいましょうか。そういう意図の目線を送ると、彼はそれを了承したのか、話を始める。…やっておいて何だけど、どうしてこれで伝わるのかしら?
「…ましろ、凪はこの近くに居を構えてる可能性がある。凪は先日に一度だけここに来た。まだお前の事を思い出していない可能性が否めないが、それでも着々と思い出してるみたいだ。来るかはわからないが……次にお前か俺達の所に来たら、ある程度までは思い出してると思って良いだろう」
そこまで彼が喋ると、彼は一呼吸した後、それに続く言葉を紡ぎだす。
「もし俺らの所に来たら、お前についても言うつもりだ。…と言うより、全てを話すつもりでいる。凪の心がそれを受け止めきれるかが心配だが…正直、俺らもそれは嫌だ。アイツがずっと俺らを思い出さないのは……少し、クるものがある」
そう最後に言った彼の表情は、珍しく悲しげなソレだった。いくら彼でも、愛着を持って接していた彼に忘れられ続けるのは、どうやら寂しいみたい。…まぁ、そう言う私もそうなんだけどね?…ん?あっ、私にバトンパスしたって事かしら?
「…じゃあましろちゃん、凪君について、話すわね」
「はい、お願いします」
────
「まずは凪君は、この付近に住んでるかもしれないわ」
「…本当なんですか?」
「えぇ、少し聞き込みをしたけど、この付近に住んでるらしいのよ。…怪しまれると嫌だから、深くまで聞けなかったけどね」
そう溜め息を零す景華さん。でも、これは良い情報だ。どこかで会える可能性が高い事を示唆しているから。前回はライブの時だったけど、近くに住んでる事が分かった以上、ショッピングモールとかで見かける可能性も出てきたとも取れる。
「それに加えて、少しずつだけど、記憶を取り戻しそうになっているわ。前回ここに来た時に、それらしい事があったけど、あれから落ち着いて、情報を整理していると思うわ。多分、もう一回ここに来る可能性もあるわ」
「なら、その時は私の所にも来るようにそれとなく言っておいてくれませんか?」
「元からそのつもりよ。と言うよりも、後一押しするだけで良さそうな感じもあるし」
そういう事なら、私も麗君と会える日も近いかも。…なんだか嬉しいなぁ。なんて考えていると、柊さんが私に向けて話しかける。
「…取り敢えず、ましろは帰ると良い。もう暗くなり始めているぞ」
「…あっ、そうですね。じゃあ、宜しくお願いしますね」
柊さんの言葉を聞いて、私は外を見てみたが、太陽が傾き始めていた。それを見て、私は「ありがとうございました」と、会釈しながら言って、その場を後にした。……麗君と会える日、楽しみだな。
「…とまぁ、こんな感じ。…どう?ましろちゃんについて、何か思い出した?」
「……あれって、ましろちゃんだったのか」
景華さんがそう訊ねてきたけど、僕は真っ先にあのライブの事を思い出していた。回想を語る時にましろちゃんの容姿についても説明してもらったから分かるけど、あの時見た人と一致していた。…どうしてライブの事が真っ先に思い浮かんだのかは、僕も分からないけど。
「…はい、ましろちゃんを…僕はこっちに来てから見た事がありました」
「ふむ、記憶がないとはいえ、もう既に互いに接触していたのか。予想以上の収穫だな」
どこか感心するようにそう言うのは、柊さん。ここまでで、ある程度の事は思い出した。…ただ、これで全てではない。まだ、残ってる事がある。
「…2人は、僕の…何ですか?」
…そう、これが僕が特に気になっている事その1。ましろちゃんとの関係は聞かなくても良さそうだけども、少なくとも僕と何か関係があったような気がしてならない。これは、記憶を呼び起こすのに重要な鍵になっている、そんな気がした。僕の質問から少し経って、口を開いたのは景華さんだった。
「……私達はね、君がいた淵光孤児院で働いているの。君とましろちゃんの事を、お世話してたのよ?」
…そうだ、確かにそうだ。景華さんの一言を聞いて僕は、パズルのピースがはまるかの如く、その時の情景が想起される。…じゃあ、あの時の少年と少女の断片的なやつは、孤児院での記憶だったのか。確かにあの時見た記憶の中に、景華さんと柊さんっぽい人もいた気がする。
「……淵光孤児院」
「そうだ、その孤児院にいたんだ。…その様子だと、思い出したみたいだな?」
「…はい」
僕の一言を聞いて、どこか安心したような表情をする2人。ようやく話に一段落が付いた所で、僕は姉さん達の方を見る。…ずっと空気だったからね。
「…凪、どう?」
「大方思い出せたかな。…そういえば姉さん、ましろちゃんについて、何か知ってたりしない?」
何となくではあるが、2人にそう訊ねてみた。勿論、知らないと返ってきても別に問題ないんだけど。…と言うより、こんな簡単に情報が出る事もない気がするし……。
「うーん、あっ!おねーちゃん、最近よく聞くバンドあったよね?確か……」
「…Morfonicaの事?」
「そうそれ!あのバンドの中にましろって子がいた気がするんだけど?」
…?突然日菜姉が紗夜姉に話しかけたと思ったら2人で何やら話し始めて…も、もるふぉ…?蝶々か何かの話かな?というか、どうして今になって蝶の話なんて……?そんな風に考えていると、今度は日菜姉が僕に話しかけてきた。
「凪君!もしかしたらすぐにましろちゃんって子に会えるかもしれないんだ!」
……へ?いやいや、そもそも知り合いじゃないでしょ。日菜姉達との接点も思いつかないし……また日菜姉の突拍子もない発言かぁ。なんて思っていると、意外な事に、紗夜姉から横やりを入れられる。
「凪、私達がバンドをやってる事は知ってるわよね?」
「うん、よく練習に行ってくるって言ってるもんね」
突然そんな事を聞かれる。…何で今?
「ましろちゃんもね、バンドやってるかもしれないんだよ~」
「……はい?」
まさかの発言。顔から判断するに、日菜姉達の言ってることはマジっぽい。…マジかぁ。でも、ましろちゃんの夢が、あの時のアレだとしたら、納得がいく。ましろちゃん、良い方向に変わったんだなぁ。
「いつ会えるかは分からないわ。でも、もしどこかで会ったりしたら私達から言っておくわ」
「うん、2人共、ありがとう」
最近、ガールズバンド時代だ、なんて言われてたりしたるけど、あながち間違いでもないんじゃないかな?ましろちゃんのバンドに姉さん達のバンド。知ってるだけでも3つ。…あれ?花園さんもバンドやってたっけ?…まぁ、いいや。
「そうだ、ましろちゃん達のバンドの名前ってわかったりする?」
「Morfonicaよ」
あぁ…さっき聞こえたもるふぉって、それの事だったんだ。ようやく繋がったよ。…ふぅ、ここに来て沢山の事が分かったけど……
「……
『…………』
…そう、僕が気になっている事の最後はこれ。僕の推測では、ここで起こった出来事の影響で記憶が飛んでると思ってる。正直、これの成否なんてどうでもいい。ただ、気になるんだ。僕が何をしていたのか、何が起きたのか。…2人が言い淀んでるのが、若干気になる所ではあるけど。
「……凪君、正直に言うとね?これは言うかどうか悩んでたの。これは他の事よりも凪君への負荷が多い記憶なの。凪君も予想してるかもしれないけど、恐らくこの時の出来事のせいで、脳が記憶を抑えてると考えてるわ」
「……やっぱり、景華さんもそう考えますか。そうですよね、残る怪しい箇所がそこしかありませんし。…思い出しても思い出さなくても、もしかしたら支障がない記憶なのかもしれませんし、無闇に引っ張り出すことも無いかもしれません」
「…なら……」
そう僕の言葉を遮るように言う柊さんの言葉を、「ですが」と、更に遮る。確かに、ましろちゃん関連の記憶は滞りなく繋がった…と思う。……でも、それでも。
「……僕は、
……そう、答えは単純明快な僕のエゴイズム。
正直、今の自分に至るまでの道を知らないのは、もう沢山。紗夜姉にしろ日菜姉にしろ、自分が辿った道を知ってるし、
「……本当に、知りたいのね?」
「はい。……もう、記憶云々で慌てるのも、もう沢山ですから。知れる時に知らないと、もう一生知らないままですから。……それは、少し寂しいので」
自分でも分かるくらいに儚く、僕は笑いながらそう言った。辺りを見てみると、姉達も景華さんも、そして柊さんまでもが僕に悲しげな表情を浮かべながら見ていた。…その目に、僕はどう映ってるのかな。ふと、僕はそんな事を考えた。
「……その頃の凪君はね、とある家に引き取られてたの。連絡が何回かあったけど、楽しく過ごしてるって言われて、私もホッとしていたのよ」
不意に、景華さんが僕の最後の記憶について、語り始める。…僕は、1度引き取られてたんだ。……ん?だとしたら、なんで紗夜姉達に引き取られてたんだ?
「……
…ここで、雰囲気がガラリと変わった気がした。心なしか、景華さんの声色も変化したように感じる。
「……凪君…いえ、神那 麗君。貴方を引き取った家は、火災でなくなったわ。お父さんとお母さんも、その時に……」
……ようやく全ての断片の意味がわかった。いつぞやに見たアレも、僕の記憶だったのか。あの時は火を見てパニックを起こしたから、たまたま記憶が顔を出したって事か。
「それで、私達が麗君を引き取ろうとした時には、麗君は搬送された病院にいなかったの。…正直、私達は焦ったわ。でも、すぐには動けなかった。……貴方にトラウマを与えていたらどうしようかって思って。
……孤児院で過ごしていたと聞くあたり、僕は幼いながらに親に先立たれたと考えれる。…親に捨てられた線も、無いでもないけど。いずれにしろ、以前にも親と離れ離れになった事は確定で、だから二度もって言ったようだ。
「…そう、だったんですか。だから、あそこの部屋にしわくちゃになった
「…………あぁ、そうだ。あの時この記事を見た衝撃は、今でも忘れていない」
あの新聞紙、確認してみたら、とある家の火災についての記事であって、少年だけが助かったそうな。……最早、それが誰かなんて、考察するまでもないだろうけど。
「……麗君、ごめんなさい。守ってあげられなくて……」
「……すまなかった」
ふと、2人が僕に頭を下げた。2人はきっと、ずっとそんな罪悪感に駆られていたんだろう。ここで僕と出会わなかったら、一生拭うことの出来ないソレを抱きながら、今日まで生きてきたんだろう。……僕は、それを咎めるつもりも無いし、寧ろそこまで想ってくれる2人には……
「……いえ、そこまで僕の事を想って下さって、ありがとうございます」
こう言うべきだろう。とびっきりの笑顔付きで。だって、2人は悪くないし、そう思わないで過ごす選択肢だってあったはず。でも2人は、
「……そう言って貰えて、嬉しいわ」
「…ようやく、自分を許せた」
誰にも聞こえなさそうな声で、そう呟く2人。……うん、2人共、憑き物が取れたような良い顔をしてる。……じゃあ、僕から最後の一言。
「景華さん、柊さん」
『……?』
──ただいま!!
ということで、第27話が終わりました。
文量がかなり多くなりました。今までの回の中で、1番しっかり心情描写などを頑張りました故に、こうなってしまいました。少し反省。
さて、凪が無事に記憶を取り戻したところで、もう最終回も間近です。が、次回では終わりませんので、悪しからず。
次回『青年は、謳いました』