あの日見た青年は、空虚でした 作:Cross Alcanna
さて、この小説もいよいよ最終回を迎えました。ここまでこれたのも、皆様の温かく、時に厳しいコメントのお陰です。紆余曲折ありましたが、この小説もここで一段落です。まだ次回作も予定しておりますので、そちらもご愛読いただけると幸いです。
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では、本編を開始します。
[河川敷]
「ふぅ、偶にここに来ると、何だか落ち着くなぁ。……何でだろ?」
あくる日。ワチャワチャし始めた僕の日常の1ページの中での、ほんの僅かな休息。誰にも邪魔されない、伸び伸びとしたひと時。ここで過ごす緩やかな時間は、僕の中で格別なものになっていた。
「……どうせついでだし、明日のスケジュール確認でもしておこうかな」
そう言って、僕は胸ポケットの手帳を取り出し、スケジュールの記載されているページを探す。
変な話ではあるけど、この動作は数え切れないほどやったお陰か、ページをめくる音が心地良い速さで、かつ迅速に見つけられるようになってきていた。……それだけスケジュールが埋まってる日が多いのかと実感すると、また溜め息が出るんだけど。
「明日は……日菜姉のバンドのコーチかぁ。日菜姉、大人しくしてくれ……ないよね」
今まで日菜姉のバンド練習は見ていなかったから、こうしてたまに入れるように頼まれて入れるようになったけど、その件での反動か、練習に行くと、隙あらばベタベタ。残りのメンバーからは暖かい目で見られる始末。辞めて欲しい。
「……ふぅ、大変な毎日になったなぁ」
──凪、君?
「…………へ?」
そんな慌ただしくも楽しい毎日に、そんな一言を漏らしていると、僕の脳を真っ白に染め上げる声色。赤の他人なら、ただ警戒するだけなんだけど、この声は
「……ましろ…ちゃん?」
……そう、あのライブ以降全く姿を見なかった僕の記憶の中にいた子。美しい白髪を纏っている彼女の蒼い目が、僕を瞳の中に写している。…僕も同様に、彼女の姿を瞳にしっかりと写しているのだろうか。
「ようやく……会えたね!」
「わっ……ましろちゃん…」
この子、普段は人見知りのような態度を取る代わりに、僕相手になるとグイグイと距離感を詰める行動をとる。何でかは知らないけど。そこは昔も今も変わってないみたい。
「たまたま人がいないから良いけど、高校生がこうしてる姿を見られたら、ましろちゃんは恥ずかしいんじゃないの?」
「…うん。でも、凪君に会えて、こうしてる事の方が断然嬉しいから……」
「……そっか、じゃあ何も言わないよ」
…そんな事を言われようものなら、つい頬が緩んでしまう。全く、そんな事を言われたら、注意しづらいじゃんか。……まぁ、僕も嬉しいんだけどさ。
「でね?透子ちゃんが……」
暫く互いの事を話して少し経つと、今度は最近の事を話し始めていた。…本当に、ずっと続けばいいと思える程、僕には心地良い時間だった。それはましろちゃんもそうらしく、僕も…いや、その辺を歩く通行人にも分かる程に表情が緩んでいる。…それくらい僕の事を思ってくれているのだったら、僕も嬉しいなぁ。
「…そうだ、凪君は今は何をしてるの?」
「僕?今はそうだなぁ……」
そうどもりながら、僕はさっき見ていた手帳を開く。それが気になったのか、ましろちゃんはソォっと僕の手帳の中身を見ようとしている。そして中に書いてある内容を読み取ったのか、少し驚いた表情を浮かべている。
「……これ、全部凪君のスケジュール?凄い量の予定だね……同い年の予定には見えない…」
「あはは……同級生にもよく言われるよ」
そう、自分で言うのも何だけど、僕のスケジュールはビッシリ埋まってる。主にRoseliaのバンド練習に付き合う事が多いんだけど、たまに日菜姉のバンド……確かパスパレだったかな?の練習にも駆り出される事もあり、それに加えて作詞と作曲までも請け負うようになって、隙間時間さえ無いくらいだ。…もう少し、休暇が欲しいんだけどなぁ、アハハ。
「…ねぇ、凪君。1つ、聞きたいんだけど……いいかな?」
「…?何かな」
そうして感傷に耽っていると、不意にましろちゃんが僕にこんな質問を投げてきた。
「…今、楽しい?」
……果たして、
「うん、楽しいよ。とっても」
「そっか、良かった。…ずっと心配してたから、ようやく安心した」
…何だか申し訳ないなぁ。もしかして、あの時僕が楽しい人生を送りたいって言った事……ん?ましろちゃんの指が…額に?
「…もう。私に申し訳ないって顔してる。気にしなくって良いのに」
「…嘘、そんなに分かりやすかった?」
「うん。凪君の考えてる事は粗方分かるけど、そうじゃなくても分かるくらいには表情に出てたよ」
…そこまで行くと怖いよ?ましろちゃん。僕の事を理解して、ましろちゃんは何を目指す気なの?
…にしても、少し前までの僕だったら、こんなに気持ちを顔に出さなかったのかな。事の顛末を知ってるから思うけど、僕の精神はもうボロボロだったように思う。それが今では、紗夜姉と日菜姉のお陰で家族もいて、色んな人と繋がって、色んな事に巻き込まれて、こうしてましろちゃんとも再会して……
「…不思議な人生だなぁ」
「…どうしたの?」
「あ、特に深い意味は無いんだ。ただ、今こうしてる事が、どうにも不思議で……」
小さい頃の自分に、君はこんな人生を歩むんだ、なんて言っても、絶対信じないだろうなぁ。…まぁ、未来から人が来るなんてファンタジー染みた技術、今日にはないんだけど。なんだかんだ楽しい人生だから、不満なんてないけどね。寧ろ満足してるまであるからね、うん。
「そうだね。実は私も少しそう思ってたんだ」
「…そうなの?」
正直、ましろちゃんが僕と似た事を考えていた事が驚きだ。いかんせん、ファンタジー寄りな発想であるから、ましろちゃんがそんな事を考えるとは露にも思わなかった。自分で言うのも何だかって感じだけど、詩的な発想だし。
「凪君と別れてから、色々あってね?知ってるかもしれないけど、私月ノ森に入学してバンドもしてるんだ。昔の私だったらこんな事してるなんて、思いもしなかったよ」
「…そっか。…ん?ましろちゃん、月ノ森に行ってるの?」
「うん。…知らなかった?」
「初知りなんだけど」
月ノ森……一時期色々調べていた時に目にしたり噂を聞いた事があったけど、確かこの辺随一のお嬢様高校だって噂をはじめ、色々と話のタネになる事も多いあの月ノ森か。ましろちゃん、相当努力したんだろうなぁ…凄いや。
「……な、凪君…」
「……ん?」
「そ、その……どうして…頭、撫でて……?」
「…へ?あ、ごめん」
どうやら、無意識のうちにましろちゃんの頭を撫でていたらしく、少し頬を赤らめながらましろちゃんがおずおずと尋ねてきた。まぁ、公衆の面前でこんな事されるのも恥ずかしいだろうしね。そう思って頭から手を離すと、小さく「あっ……」と、まるで撫でられる事を惜しむような声を出したましろちゃん。……まさかね?僕の予想通りなら……
「ぁっ……ふふっ」
…マジか。さっきどけた手をまた頭に乗せて撫で始めると、頬を赤らめながらも、嬉しそうにするましろちゃん。ましろちゃん、少し甘えん坊になってる?…気のせいだと思うけど……まぁ良いか。
…そうだ、せっかくだし、ましろちゃんの歌声、聞いてみたいなぁ。あ、でもましろちゃんってバンドマン(マンで良いのかな?)だから、安易に歌ったりしたらダメだったりするのかな?
「ねぇ、ましろちゃん。ましろちゃんの歌、聞いてみたいんだけど…ダメかな?」
「良いよ。…でもその代わり……」
あ、意外にもあっさり許可下りた……って、ん?その代わり?そう言われると怖いんだけど……
──凪君も、一緒に歌おう?昔歌ってたあの曲を。
……あの曲かぁ、懐かしいなぁ。
──約束をしただろう 遥かなどこかいつか 名前さえ忘れても消えない灯火
昔、あの孤児院で色んな約束をした記憶が、どこか懐かしい。一緒に歌う事だったり、いつか一緒に街に行こうだったり…これからはそれも叶っていく。名前を忘れても、断片的に残っていた記憶が、灯火のように蘇っていく。
──ここまで生き延びた命で答えて その心で選んで その声で叫んで
数奇な人生の果てに、かながらに生き延びたこの命で、僕自身の問いに答える為に歩こう。そうして得た心を選りすぐって、けたたましくも叫んで、今日を生きていく。
──一番好きなものをその手で離さないで やっとやっと見つけたよ ちゃんとちゃんと聴こえたよ
僕にとって欠かしてはならない貴女を、ようやく記憶から現実に引っ張ってこれた。もう離さない。聞き逃さない。…そうするものか。
──受け取った自由に帰り道奪われて 来るはずのない迎えをしばらく待っていた
私にとって貴方がとても大切だと知ってから、ずっとあの頃の思い出に縋っていた。会えるはずもない貴方の事を、ずっと待っていた。…いつか、また2人で過ごせるんじゃないかなんて思って。
──理由も意味も価値をなくして 何を探すの 鏡の前
次第に自分も分からなくなって、見つかりそうにもない、終わりの見えない探し物をしていたように思える。そう感じながら、毎朝鏡の前の自分に、形容の無い言葉を投げかけていた。
──隔たりを砕いてどうぞ行っておいで どれだけ臆病でも欲張りの動物
それでも、私はあの時の約束の為に、今までの私を覆っていた殻を砕いて。例え臆病でも、結局私は夢を叶えたい、貴方との繋がりが欲しいだけの、エゴイズムな動物に過ぎない。…貴方との繋がりを望んでも、許されるのかな。
──無様に足掻こうとも 証を輝かせて
どれだけ汚くても、どれだけ無様に見えても。私が掴んだ夢は、貴方との繋がりは、持ち続ける。誇り続ける。
──指先で触れた消えない灯火 約束をしただろう 遥かなどこかいつか
時に出てくる貴女(貴方)との記憶に触れて。あの時の見えぬ未来に馳せた願いを想って。
──ここまで生き延びた命で答えて その心で選んで その声で叫んで 名前さえ忘れても 何度でも呼んで
今貴方(貴女)に会えたこの瞬間まで生きてきた全てを以て、全てを言おう。全てを笑おう。全てを分かち合おう。いつか、僕達(私達)が朽ちるその瞬間まで、ずっと。
──隔たりを砕いてどうぞ行っておいで 眼差しのシリウス欲張りの動物
そんな数奇な人生を打ち破って、望むものを手に入れるそんな僕(私)は、はてしなくエゴを孕んだ動物だろうか。
──これは誰のストーリー どうやって始まった世界 一番好きなものをその手で離さないで
これは僕達(私達)の
──やっとやっと見つけたよ ちゃんとちゃんと聴こえたよ
ようやく見つけた。ようやく聞こえた。ようやく君に届いた。……僕(私)から、この言葉を。
──ただいま おかえり──
ということで、『あの日出会った青年は、空虚でした』本編完結です。
最後は、とある曲の歌詞を一部抜粋したものとなっています。2人の辿った道に、まさしくこの曲が合うのではないかと思い、小説内に入れました。だいぶ前に凪の記憶の中で2人が歌おうとしていた曲も、今回登場したこの曲です。
さて、次回作についてですが、もしかしたら少々お時間をいただく事になるやもしれません(普通に投稿開始する可能性もありますが)。次回作は今井家中心のお話となります。そろそろRoseliaの面々の小説も一段落しそうですね。…順当に行くとは言いませんがね。
では、ここまでのご愛読をありがとうございました。他の作品でお会いしましょう。