「んん…朝かぁ………ふわぁぁぁぁぁ~………」
朝が来て、凛音は目を覚ます。
今は6時をやや過ぎた頃。目覚ましよりも早くは起きたが、普段からすれば遅めの起床だ。
大きくあくびをしながら体を伸ばし、気持ちを切り替え立ち上がる。
顔を洗うための道具を揃え、凛音は部屋を出る。
「うーん、今日はまだ眠いわね…昨日がいろいろとありすぎたからかしら…」
いまいちスッキリしない様子で、何度かあくびをしてしまう凛音。
昨日の激動っぷりを考えれば、疲れが残るのも無理はない。
2階にある自室から洗面所へは階段を降りる必要があり、凛音はその道を歩きながら今日の予定等を思い浮かべつつ、洗面所へと向かう。
寮内にはうるさくない程度にクラシック音楽が流されており、起きたばかりの凛音にはとても心地よかった。
また、キッチンからは朝食を準備しているのか香ばしい香りが漂い、凛音の体をより目覚めさせる。
一歩歩く度に目を覚ましていく。
そんな感覚にやや胸を踊らせて、凛音は階段を降りた。
「おや、おはよう凛音君。朝早いんだね。良いことだ。」
階段を降りた先にて、凛音に声を掛けた人物。
それは、この寮の長たる者、王牙であった。
手には空のマグカップを持っている事から、キッチンにでも向かう所だったのだろう。
「おはようございます王牙プロ。えぇ、親から自立した生活をと言われ続けていますので。」
「私はプロではないよ。親しみを込めて先生と呼んで欲しい。」
「…では王牙プロ、また後程。」
ややそっけない態度を取り、王牙から離れていく凛音。
「困った子だ」と王牙は苦笑いし、キッチンへと向かう。
「何故かしら…私、王牙プロをあまり好きになれないのよね…」
理由は定かではないものの、何処と無く好きになれず、そっけない態度を取った事を少しばかし後悔する。
まあ、昨日あれだけ自分から尊厳を奪い取っていった光夜の師であり、光夜を高く評価ばかりしている王牙をいまいち好きになれないのも頷けはする。
首を振り、気持ちを切り替えた凛音は洗面所の扉を開く。
「ん?…おぉ、白皇か。朝早いんだな。」
「えっ、はっ…!?はわわ…!?」
そこにいたのは、上半身裸の光夜であった。
頭にバスタオルを被って髪の毛を拭いている所から、風呂上がりなのだろう。
引き締まった上半身を目の当たりにして、凛音は顔を赤く染めて固まっている。
「…どうした?なんかおかしいか?」
固まる凛音の目線が自分に向いているのを感じ、光夜は自分の身体を見回す。
「ご、ごごごごめんなさい!私ったらノックもせず!」
はっ!と我に返るなり頭を深く下げて謝り出す凛音。
光夜は意味不明と言った表情だ。
「は?いや、男ってのは上裸見られた程度で気にしねぇって。それより顔洗いにでも来たのか?」
「はぇっ!?え、えぇ!その通りです!」
凛音はいそいそと、1つ間を空けた洗面台に備えてある椅子に座り、手際良く顔を洗い始める。
女性の身だしなみというものをあまり身近で見たことのない光夜は興味こそあれど、昨日の今日でなんとなく気恥ずかしく、なるべく凛音を見ないようにと、ドライヤーで髪を乾かし始める。
お互い無言なまま。
なんとも気まずいが片方は洗顔中、もう片方はドライヤーを起動中。話しかけるのも気まずい。
が、
「…あっ、そうだ。頼みがあるんだけど。」
「…何かしら。」
ドライヤーを切り、光夜が声をかける。
丁度顔を流し終えた凛音は、タオルで顔を吹きながら光夜を睨み、警戒した様子で答える。
「あんたの部屋の向かいに心の部屋があるんだけど、戻り際起こしてくれないか?あいつ朝弱いんだよ。」
「…何故私が?貴方も近いじゃない。私の隣なのですから。」
そう、この2人、部屋が隣同士なのである。
男女で区別されている訳ではないので仕方はないが、最初その事を知った時の凛音の取り乱しっぷりはそれはもう凄かった。
「男の人がすぐ隣なんて嫌!しかもよりにもよって暁君だなんて!」と喚き、鍵を閉めればいいという光夜の発言によって「そういう事じゃない!!」とよりいっそう喚いていた。
「この後朝食の手伝いしないといけないんだわ。あいつ身だしなみに時間かかるから早めに起こさないといけなくてさ。」
「…仕方ないわね、良いでしょう。起こしてきてあげます。心さんのために。」
そう言うなり、凛音は立ち上がるとスタスタと出ていった。
「…ずいぶん嫌われたなお前。」
ガラガラと、扉を空けて浴室から姿を現したのは辰覇。
どうやらいつ出るのか様子を伺っていたようだ。
「おう辰覇。なんでずっと上がって来なかったんだ?ずっと湯の中にいたらのぼせちまうぜ。」
光夜が新品のバスタオルを辰覇に投げ渡しつつ問い掛ける。
「馬鹿野郎。お前の上裸見て取り乱すような女がいたんだぞ?素っ裸の俺が現れてみろ、俺まで嫌われちまう。」
そう言い返しながら、辰覇は濡れた身体をバスタオルで拭いていく。
筋肉隆々。たくましいその身体はとても高校一年生とは思えない。
「なんだよ辰覇。お前白皇に好かれたいのかよ?」
「あんな美少女にわざわざ嫌われても得なんかあるものか馬鹿野郎。それに『あの』白皇家の人間だから尚更だ。お前ももう少しうまく行動しろ。痛い目見るぞ。」
「うまく、ねぇ…」
辰覇の最もな言葉を受け、光夜は口を紡ぎ、部屋を後にするのであった。
「…まったく、アイツもまだまだガキだな。さて、俺も手伝いに行ってやろうかね。」
1人残った辰覇も、朝の用意のため、少し急ぎ目に支度を始めるのであった。