「…およ、凛音ちゃーん!朝早いんだね~?」
自室へと戻ろうと歩き、階段を昇ろうとした凛音に声をかける人物。
雷兎であった。
うっすらと汗をかき、タオルやらを手に持っている様から、これから朝風呂なのだろうか。
「あら、おはよう天童君。貴方は…朝から汗をかいているのかしら?」
やや馴れ馴れしい雷兎の事が苦手気味な凛音ではあるが、世間話くらいはと言葉を返す。
これが関係ない立場なら我関せずも出来るが、同じ寮に住む同士。
無駄な争いは早々起こしたくはないのである。
「まあね~。朝は起きたら筋トレしてんのよ。辰覇までとはいかずとも男らしい肉体欲しいじゃん?」
そう言いながら、雷兎は手ぶらの左腕に力こぶを作り、ニカッと笑う。
「くすくす、天童君も十分筋肉付いてると思うわよ?私としては天童君くらいの身体の方がカッコいいと思うわ。」
「えっ!」
「じゃあ、またね。」
不意に褒められて戸惑う雷兎をよそに、凛音は階段を登っていく。
ふと見せた笑顔、その可憐さに雷兎の心に電流が走る。
「うわっ、めっちゃかわえぇ…惚れる…」
惚れっぽい性格の雷兎。
その姿が見えなくなるまで、凛音を眼で追ってしまっていた。
「…ふぅ、さて、早く起こさなきゃ…」
手荷物を自室に置き、凛音は心の部屋の前に。
扉には『こころのへや』と書かれた動物のネームプレートがぶら下がっており、ほんとに男なのだろうか?と凛音は疑うしかない。
自分よりも女の子らしくある心という存在にややもやもやした気持ちを抱きつつ、凛音はドアノブを回して部屋へと入る。
「心さーん?起きてるかしらー?もう朝ですよー?」
心に呼び掛けつつ部屋の奥にあるベッドへと歩みを進める凛音。
どこを見てもメルヘン、ファンシー、プリティという言葉が似合うような可愛らしい部屋。
大きくフカフカそうなベッドには動物のぬいぐるみがいくつも置かれ、その中にピンク色のもふもふしたウサギのぬいぐるみを抱きしめて眠る心の姿を発見。
(うっ、か、かわいい…!なにこのかわいい生き物!?)
そのあまりの可愛さに思わずスマホを取り出して写真を撮ろうとする凛音。
シャッターを押す寸前になってはっ、と我に返る。
(い、いけないわ凛音!相手の許可も無しに写真を撮るなんて盗撮じゃない!で、でもかわいいぃぃ………)
その可愛さの前にキャラ崩壊を始める凛音。
ベッドの側まで近づき、心の寝顔を眺める。
「………はっ!起こさなきゃ!心さん!起きて!もう朝よ!」
ぼーっと眺めて数分。
ようやく我に返る事が出来た凛音はベッドに上がり、心を揺すって起こす事に。
「ん~………ん~………」
揺すられてもグズる心。起こすのはとてもはばかられる。が、早く起こさねば自分も時間に余裕が無くなる。
意を決して再度起こす。
「起きなさい天宮心!貴方もう高校生なのよ!シャキッとしなさい!」
「ほぇっ!?」
凛音の活の入った声に驚き飛び起きる心。
ようやく起きた…と凛音は安堵する。
「んぅ~…?おはよぉ~………」
クシクシと目を擦りながら、気の抜けた声をあげる心。
起きている普段よりも幼げな雰囲気。思わず加護欲を掻き立てる。
「っ…お、おはよう心さん…もう朝よ、起きなきゃっ!?」
「あとごふ~ん…」
凛音に抱き付いてまどろむ心。
不意の事に抵抗出来ず、心と一緒にベッドに倒れこむ凛音。
聞こえるのは、心の寝息だけ。
「 も、もぉ~!心さん起きて~!私も朝の準備あるんだから~!!」
「えへへぇ~、あったか~い…」
心から逃れようともがく凛音だが、心の掴み方が絶妙でうまく抜け出せない。
「心ぉー!いい加減起きないと飯抜くぞ!…あっ………」
扉をバンッ!と開けて現れたのは光夜。
どうやら凛音に起こすように頼んでも思ったより遅かったために結局自らやってきたようだ。
が、凛音と心の状況を見て口をパクパクさせ、狼狽し始めた。
「あ、暁くん…」
「そ、その…ごめんなさい…」
狼狽している光夜を見て名前を呼ぶ凛音。
またやっちまったと、光夜はスススッと部屋を去ろうとする。
「ふぇっ!?ちちち違うの!助けて暁くん!暁くーん!!!」
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「えへへぇ~ごめんごめん!朝はどうにも苦手でさ~!」
あれから、凛音のヘルプを聞いた光夜が心を引き剥がし、そのまま洗面所に運んで心の顔に水をかけて起こすという暴挙をぶちかまし、心はようやく完全に目を覚ました。
光夜が心を連れていった後、凛音はどっと疲れた様子で自室に戻り、朝の支度を終わらせて食堂へと降りた。
「もう、全然起きなくて困ったんですから!結局暁君が来るんなら私行かなくても良かったんじゃ…」
「いやまさかそこまで起きないとは思わなくてさ…朝からすまんかった。」
「いえ、謝る程では無いけれど…(心さんのかわいい寝顔見られたし…)」
朝食を食べながら、凛音、心、光夜は会話をする。
既に数人は朝食を終えた、もしくは食べずに寮を出たようで、食事をしているのは10人もいなかった。
「それにしても、夢の中で手に持ったフニフニした感触はなんだったんだろ~?大きくて掴み心地良かったんだよねぇ~」
「「ぶふっ!?」」
心がふと発言。
凛音、光夜は吹き出しそうになる。
「~~~~!!こ、心さ~ん!!」
「ふぇぇ!?なになに!?」
「…////」
唐突に心を怒号する凛音。驚いて飛びはね、狼狽える心。
何故か顔を赤らめる光夜。
他からすればちんぷんかんぷんだろう。
「まったく騒がしい…テレビがよく聞こえねぇじゃねぇか…」
騒がしい3人を眺めながら、文句を垂れながらリモコンでテレビのチャンネルを変える辰覇。
と…
『天皇創世学園朝のニュースです。
昨日、「獅子神 王牙の弟子」を名乗る新入生が、一年生、二年生のおよそ10人に挑み、打ち倒したとの報告が届きました。その新入生の名前は『繰崎 綺羅麗(くるさき きらら)』。』
「「「!??」」」
ニュースから聴こえてきた聞き覚えのある名前。
凛音、花道、水面は思わずテレビに目が釘付けになる。
『新入生の繰崎 綺羅麗は左腕に謎の紋章を刻まれた腕章を付け、倒した者達に「この紋章を目に刻み込んでおくといい。これが我々を象徴する証だ」と発言していたとの事で、この紋章を目にしたら獅子神 王牙プロの弟子として注意するように。また、昨日に白皇家の才女、白皇 凛音を入学初日に打ち倒した暁 光夜は獅子神 王牙の弟子達のリーダー格との事であり、総じて同レベルだとの情報。野良デュエルを持ちかける際は心して人を選ぶように。』
絶句。光夜や辰覇ですら重苦しく口を紡ぎ、光夜は額に手を当ててため息。
(なお、心は食事をする事に夢中でニュースの内容をろくに聞いていなかった)
このニュースは学園に関係する者達に広く知れ渡る。
それは問題ではない。
『入学初日にたった1人が10人ものデュエリストを倒した事』が問題なのだ。
明らかにやり過ぎだった。
前日に光夜、辰覇が予想していた事は、最悪の方向で的中していたのであった。