遊戯王‐creator‐   作:月花撩乱

2 / 25
1話~伝説の始まり~

4月7日。そう聞けば、大抵の人間が思い付く事。

そう、学校の入学式だ。

おおよその学校と呼べるものは、この日近辺を「始まりの日」とする。

その例に漏れず、この話の舞台となる、『天皇創世学校』も、今日この日を、入学式としている。

 

「おはよー!」「おはよー、これからもよろしく!」

「これからはライバルだからな!」「お前には負けねぇよ!」

 

わいわいガヤガヤと、元気で騒がしい声が多数、この広大な敷地にある、これまた特大な体育館を目指して歩いていく。

 

彼等は、一般的な学生とは少しばかし異なる。

高めな授業レベルに加え、彼等はプロの「デュエリスト」を目指し、それを授業に取り組み、学ぶ。

それがこの天皇創世学校の最も大きな特色。

異常な程広い敷地に、幾多もの寮や学科棟がそびえ立ち、ここを出ることなく生きてさえいけるだけの物資の充実性がある。

カードゲームが世界でも最も盛んな競技として存在するこの世界においても、これほどまでに広大な学校は、離島にあるデュエルアカデミアを除けば数える程も無いだろう。

 

「見て!あの人!」「わぁ、きれい…!」

「おいおい、あの胸元の紋章は…!」「マジかよ…よりにもよって俺達の世代か…」

 

ある少女を見て、周りにいる者達が皆口々に声を出していく。

透き通るような白い肌、蒼く宝石のような瞳。それを内包するは見下すかのようなつり目。

可憐な姿とは裏腹に、そのややふくよかな胸元には、高貴なる白き龍の紋章を刻まれており、他の学生とは明らかに違うと言える風貌をしている、そんな少女は屈強な男を4人程引き連れ、優雅にゆらゆらと歩いている。

それはまるで、皇のきまぐれによる凱旋のごとし。

それを目にした者達は、たちまち目を奪われ、その白き龍の刻まれている意味を理解し、絶望する。

彼女は「白皇 凛音(はくおう りんね)」。

この学校の創始者達の一人である白皇家その子孫であり、代々プロデュエリスト、もしくはカードゲーム会における重鎮、天皇創世学校の役員等、この学校にとても強い結び付きを持ち、それゆえ当然の如く子供でさえもプロに張り合えるだけの腕前を持つ。

そんな者が一人現れた。それはつまり、この世代でのプロデュエリストの「枠」は既に一つ潰れたと言ってもいいのだ。

憧れと羨望と絶望。あらゆる声をBGM代わりに、凛音はさほど興味など無さそうに体育館を目指す。

(ふっ、くだらない…私の姿とこの紋章を目にしただけで項垂れる弱い者ばかりが同級生だなんて。私と張り合える人はいないのかしら…)

 

そう、彼女は中学時代でさえ、張り合える者など殆んどいない程に突出した腕を持ち過ぎた故、退屈な時を過ごしてきたのだ。

(とはいえ、流石に高等学校。少しは張り応えのある人はいるといいのだけど。)

 

そんなのいるわけもないか。そうため息を吐き、道を歩いていく凛音。

だが、彼女は知るよしもない。高等部には、自分の想像も越えるような「化物」が待ち構えている事を。

 

「…はぁ~、白皇(はくおう)、か。……なんか、相撲の力士みたいな名前だなぁ。」

「「「っ!?」」」

ふと、すぐ側の原っぱから聞こえた、白皇家への侮辱とも聞こえる男の呟き。

それは凛音の耳に入り、辺りにいた学生達はその凛音の放つ迫力に怖じ気づき、静まり返ってしまう。

「いま、なんて言ったのかしら…?そこの貴方…!」

大人しそうな見た目からは想像も出来ない程の張り上げた力強い声。彼女の側にいる男達も、その声に思わず萎縮する。

が、当の少年は気にする事なく、のそのそと起き上がり、朗らかに笑いながら喋りだすのだ。

 

「いやぁ、怒らせちまったのか。悪い悪い。いや決して悪口として言った訳じゃないんだ。横綱のように高い位にいそうなカッコいい名前だなって、素直に思ったのさ。」

 

立ち上がるなりパンパンと服を払って汚れを落としつつ凛音の前に立つ少年。

背丈は170を少し越えたくらいだろうか。

根元が黒い金髪の、上着を羽織った彼は悪気もなくヘラッとしている。

 

「お前、この方に近づきすぎだ!この方がどなただと思っている!」

 

当然、取り巻きの男達は少年を近づけぬようにと怒号する。が、

 

「お待ちなさい。今、私がこの者と『二人で』会話をしているのよ。」

 

威圧。有無をも言わさぬ威圧。

男達はたじろぎ、すごすごと引き下がった。

 

「…貴方、名前は?」

 

名を問うは凛音。腹立たしい相手ではあるが、だからこそ名を知るべきと思った。

自分に挑発的、侮辱的態度をとり、なおかつ威圧しても相変わらずヘラヘラしている者だ。

もしかしたら、自分の関わりの無かった、同世代の『強者達』の誰かなのかもしれないからだ。

 

「おっと、挨拶が遅れたな。

俺の名前は《暁 光夜(あかつき こうや)》。よろしく、レディ。」

 

左手を胸元に当てつつ右手を広げ、少し屈んで挨拶をする少年、光夜。

世に言うイケメンに値する彼の風貌からなるその滑らかなる所作は、野次馬をしている少女達をついドキリとさせる。が、

 

「…そう。残念ね、貴方の名前は初めて聞いたわ。

強者のどなたかと思って期待はしたのだけれど。私の事も知らない程度ならそもそも大したこと無さそうね。」

 

落胆。それもそのはず、凛音の知る中に、光夜の名前は当てはまらない。

つまり、大会で優勝したりどこぞの有名人だったりという事のない、『単なる一般人』の、それも世界的に有名な白皇家の怖さすらしらないレベル。

底辺の怖いもの知らずとしか思えないのだから。

 

「ずいぶんご挨拶じゃないか…まあ、これが井の中の蛙、ってやつなんだろうなぁ…」

 

周囲が凍りつくかの如く、凛音から恐ろしい殺気。

完全に怒らせてしまったようだ。

 

「…貴方、どうやら立場をわかっていないみたいね…

いいわ。この私、『白皇 凛音』が命じます。

 

今日この場にて、貴方を『退学処分』とします。」

 

その言葉には流石に光夜も驚く。

何故なら、自分と同年代の少女から退学処分を言い渡されるだけで無く、周りの野次馬からも罵倒の嵐が飛び交ってくるのだから。

 

「えっ、いや、なんで君に退学なんて言われないといけないんだ?」

「私の家系は古くからこの学校に多額の寄付をしているの。そしてそこらの教員と同等、もしくはそれ以上の権力を持つ事を許されている。貴方一人退学にするなんて、簡単なのよ?」

 

どこまでも見下した、冷めた眼で光夜を見つめつつ淡々と告げる凛音。

 

「いやぁ、流石に入学早々退学は困るな~。

なんとか許してくれないか?」

 

あくまであわてふためく事もすがり付く事もせず、困り顔をして問いかける光夜。

 

「どうして貴方程度の虫にたいして情けをかける必要があるのかしら?さようなら、虫さん。」

 

ふんっ、と興味を無くしたように凛音は歩き始める。

しかし、

 

「…なんだ、白皇家ってのは相手の力量も見極められなければ権力だけで物を言うのか。こんなのが偉ぶって頂点だなんて言うんなら、この学校も大したことないんだな。」

 

再三の侮辱を受け、凛音は立ち止まる。

発言したのはやはり光夜。もちろん悪びれる様子などない。

 

「…今、なんて言ったのかしら…」

 

「聞こえないふりはよせよ臆病者の井の中の蛙。相手が強いかどうかも見極められない程度の実力で権力振りかざしてふんぞり返るんだ、さぞ負けるのが怖いんだろう?」

 

今度は凛音が光夜に見下されている。

それがわかるほど、先ほどとはまるで別人かのような表情と雰囲気。

その雰囲気を直に味わい、ようやく凛音は理解した。

この男は、普通では無いのだと。

「あの」白皇家の者を相手にして、頭を下げる事も無く、あまつさえ見下す者など普通はいないのだ。

しかし、周りの者達はそれがわからないらしく、凛音を侮辱した事を蔑んだりし続けている。

 

「…いいわ。貴方にチャンスをあげます。

放課後、私とデュエルしましょう。もし仮に勝てたなら、もしくは私が貴方を認めるような事があったのなら、退学は取り消してあげる。」

 

凛音からの唐突の提案を聞いて、野次馬達はざわめく。

あの白皇 凛音がこうも簡単に発言を曲げるなんて、と思っているからだ。

 

「おっ、本当に?いやぁ~ありがたい。

それならもっと条件変えようぜ。俺が勝ったらあんたは俺の下僕な。で、俺が負けたら…俺は死んでもいいぞ。」

 

まるで既に勝ったかのような発言の後、衝撃的な提案。

だが、

 

「…えぇ、いいわ。私に勝てる人なんて、数える程度しかいなかったの。その私に勝てると思っている命知らずの貴方の顔、今日限りで見なくて済むなら嬉しい要求よ。」

 

光夜の提案を承諾した凛音。

その発言を聞いた光夜。

2人は満足そうに微笑む。

既に野次馬達には付いていけない世界である。

 

「そろそろ急がなくては遅刻してしまうわ。ではごきげんよう。」

 

凛音が去っていったのを皮切りに、野次馬達も急いで散らばっていく。

そんな喧騒の中、光夜も歩き始め、一人呟く。

 

「…だから言ったんだよ。井の中の蛙、ってな。」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。