退学を取り消してもらうため、負けられないデュエルが幕を開ける。
あれから数時間経過した放課後。
朝に起きた「とある事件」の影響によるざわめきは多数あれど、入学式はつつがなく終了。
入学生代表は、当然のごとく白皇 凛音。
朝の事などまるで無かったかのように、きびきびと、気品溢れる言葉を口にしていた。
入学生が終わった昼過ぎ。
学園にいる生徒の大半は一つの施設へと集まっていた。
『デュエルコロシアム』という、観客数1000人を内包出来る、かつ天井から降りた大きなモニターからデュエルを観戦することの出来る、天皇創世学園の誇る特製デュエルフィールド。
対戦するのはもちろん、入学初日から事件を起こして退学を命じられた暁 光夜(あかつき こうや)と、退学を命じた少女、名家たる白皇家の娘、白皇 凛音(はくおう りんね)。
初日から『あの』白皇家の者のデュエルとあっては、対戦相手がどこの馬の骨であろうと見ない訳にはいかない。
既にフィールド上にて静かに待つ凛音。
まだかまだかとざわめく観客。
凛音がフィールドに上がっておよそ10分。
ようやく光夜が姿を現した。
「…いやぁ、悪い悪い。この学校敷地広すぎて迷子になってたぜ…」
「…いえ、構わないわ。明確な時間指定をしなかったのだもの。それにしても、逃げずにここに来た事、まずは褒めて差し上げます。」
焦る素振りもなくゆったりと登場し、凛音と約2m程の距離でにこやかに話し出す光夜。
光夜はいわゆるイケメンに値し、モニターに映るその朗らかな表情についドキリとする少女は多数。
しかしながら、凛音には何も影響は無さそうで、淡々と会話を交わす。
「そりゃあ来ない訳にはいかないだろう。あっ、入学式の演説良かった。お疲れ様。」
「あら、それはありがとう。でも今さら胡麻をすろうとしても無駄よ?」
光夜の労いを軽くあしらう凛音。
既に今日でいなくなる相手としか認識していないのだ。
「ではデュエルの前におさらいよ。
ライフは8000。先攻はドロー無し。サレンダー無し。
貴方が勝てば退学取り消しと私を下僕に。
貴方が負けたら、貴方は今日でその命を絶つ。それで良かったかしら?」
凛音から発せられる衝撃のルール。
お互いに負けられるはずのないデュエル。
特に、白皇の血筋の凛音に勝つという無謀とも言える内容で、光夜は生死がかけられている。
だが、
「おう、オッケーだ。せっかくのデュエル、楽しもうじゃないか。」
あっけらかんと承諾。
自分の命が惜しくないのだろうか?
「では始めましょう?先攻は…」
「あぁ、先攻はあんたに譲るよ。レディファーストって奴さ。」
先攻の方が有利になりやすい遊戯王において、光夜は先攻を譲ると言い出す。
後攻がどうしても欲しいのか、それともただの馬鹿なのか。
観客が戸惑う中、準備は進んでいく。
お互い腕に機械を装着し、そこにある窪みに己のデッキを置く。
すると機械が作動しはじめ、やがてグラフィックのディスクを形成する。
それを確認するなり、2人はモノアイのような機械を顔に装着。
これで準備は出来た。
「…ふう、では、良いかな?」
「…えぇ。私達のデュエルを」
「「始めよう(ましょう)」」
暁 光夜と白皇 凛音、2人の命運をかけた決闘が、今始まった。
「お言葉に甘えて私の先攻。まずは…
《青き眼の賢士》を攻撃表示で召喚。召喚した時にデッキからレベル1の光属性チューナーを手札に加えます。私が手札に加えるのは、《エフェクト・ヴェーラー》。」
ソリッドビジョンによって実体化するモンスター。
リアルにしか見えないその迫力に、観客は大盛り上がりである。
「ヴェーラー…強いカード持ってくるな。」
「続いて、手札にある《太古の白石》をコストとして捨て、《ドラゴン目覚めの旋律》を発動。デッキから攻撃力3000以上、守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2枚まで手札に。私が加えるのは、《青眼の白龍》、《青眼の亜白龍》。
そして、手札の青眼の白龍を見せる事で、青眼の亜白龍を特殊召喚。来なさい、オルタナティブ!!」
右手を天に掲げ、凛音が叫ぶ。
現れたは、白き龍。飛翔し、翼を羽ばたかせて降臨したその龍は、美しくも恐ろしい、その青き眼を光夜に向け咆哮。
青眼の亜白龍、攻撃力3000。
コロシアムすら揺るがす程の衝撃に、観客は思わずビビり、光夜はすぐに理解する。
「…すげぇ、これが『本物』…」
「えぇそうよ。白皇家は安っぽい《偽物》なんて使わないの。それが私達白皇家の『誇り』だもの。
そして、手札の青眼の白龍をコストに、トレードインを発動!デッキからカードを2枚ドローします!
更に、青き眼の賢士と青眼の亜白龍でシンクロ召喚!私の元に姿を見せなさい。《青眼の精霊龍》!!!」
チューナーという性質を持つモンスターを元手にモンスターを足していき、レベルの合計値のモンスターを呼び出すシンクロ召喚。
2体のモンスターが分解され、一筋の光となる。
その光が爆発して輝き、その光の中から一体の龍が現れる。
青眼の精霊龍、守備力3000。
「す、すげぇ…」「なんて美しさ…」
観客からは驚きの声が沸き起こる。
先程の青眼の亜白龍とは違い、静かに現れた半透明の白龍。あまりの美しさに、凛音すらうっとりしている。
「あぁ、なんて美しいのかしら…そして、私はカードを2枚セット。そしてエンドフェイズに墓地に眠る太古の白石の効果。デッキから青眼の白龍を攻撃表示で特殊召喚!」
現れたのは、原典(オリジナル)の中の原典。
最強の通常モンスター、青眼の白龍。
攻撃力3000のスペックは下手な効果モンスターすら容易く撃ち滅ぼす。
そして、この青眼の白龍、先程の青眼の亜白龍よりも威圧感が凄いのだ。
流石の光夜でさえ、一筋の冷や汗を垂らす。
「これで私のターンは終了よ。さぁ、足掻いて見なさい。」
凛音:ライフ8000 手札2枚。
フィールド:EXゾーン・青眼の精霊龍(守備表示) メインモンスターゾーン・青眼の白龍(攻撃表示)
魔法・罠ゾーン・2枚セット
満足そうにターンを終了する凛音。
そして、ここから謎に包まれていた光夜のターンが幕を開けるのである。
「…俺のターン、ドロー。まずは…
手札から《封印の黄金櫃》を発動!」
「…封印の黄金櫃!?」
封印の黄金櫃。
デッキからカードを除外して、2枚ターンの時間を掛けて手札に加えるカード。
手札交換として見れば強くはないが、除外することに意味のあるカード。
その除外する事によるメリットの強さ故に制限(デッキに1枚しか採用出来ない事)カードに指定されている。
この時点で、光夜への警戒心を一気に高める凛音。
「デッキから除外するのは…《ネクロフェイス》!
ネクロフェイスは、ゲームから除外されるとお互いのデッキを上から5枚除外する!」
「くっ、まさかネクロフェイスだなんて…」
ネクロフェイスは想定外の凛音。
苦悶の表情を浮かべながら、凛音はデッキから上を捲る。
《トレードイン》
《青き眼の乙女》
《復活の福音》
《ドラゴン目覚めの旋律》
《エフェクト・ヴェーラー》
(こ、これくらいなら痛くなどないわ…えぇ、問題ない。)
「…俺の除外されたカードは…」
怖じ気づいたものの、除外されて困るようなカードがろくに無かったため、安堵する凛音。
続いて、光夜のデッキから外されたのは…
《不知火の影者》
《不知火の宮司》
《異次元からの埋葬》
《手札抹殺》
《ネクロフェイス》
「またネクロフェイス…!?しかもそのテーマは…!!」
凛音を驚かせ続ける驚異的な引き。
ネクロフェイスは、連鎖するのだ。
そして、『不知火』は除外を得意とするテーマ。
彼等もまた、効果を発揮する。
「ネクロフェイスが除外されたんでもう一度お互いのデッキを除外する!更に、ゲームから除外された《不知火の影者》、《不知火の宮司》がそれぞれ効果を発動!
影者で宮司を特殊召喚。宮司は精霊龍を対象に取り、破壊する!」
「っ!?なんですって!?」
僅か1枚の黄金櫃から暴れだした光夜。
驚愕の色を隠しきれない凛音ではあるが、この程度ならば問題はない。
「くっ、仕方ない…青眼の精霊龍の効果発動!自身をリリースし、光属性のシンクロモンスターを守備表示で特殊召喚します。来なさい、《蒼眼の銀龍》!」
青眼の精霊龍を早い段階で失ってしまったが、凛音は潔くその効果を発動。精霊龍は別の龍を呼び、凛音の守護を託してフィールドから消えた。
この蒼眼の銀龍、特殊召喚され時に自分フィールドのドラゴン族モンスターを効果対象、破壊効果から護る効果を持つ。
そのため、今場にいる青眼の白龍、蒼眼の銀龍は対処するのが非常に困難である。
蒼眼の銀龍、守備力3000。
が、光夜は気にする事なく、手札からカードを1枚取り出し、高らかに宣言した。
「ならば、その上に手札から速攻魔法、《大欲な壺》を発動!ネクロフェイス2枚と不知火の影物をデッキに戻し、1枚ドローする!」
「大欲な壺…まさか…!」
大欲の壺とは、ゲームから除外されたモンスターを3枚デッキに戻し、1枚ドローするカード。
これにより、ネクロフェイスは再びデッキの中に。
光夜の意図に気づいて狼狽する凛音をよそに、光夜は大欲な壺の効果で選択した3枚を戻して1枚ドロー。
その後宮司を特殊召喚する。
そして再びネクロフェイスの効果で凛音はカードを除外する事に。
《青眼の白龍》
《復活の福音》
《ハーピィの羽根箒》
《白き霊龍》
《太古の白石》
(くっ、重要なカードばかり…)
2度目の除外は、凛音の精神にすらダメージを与えた。
もし長期戦になったなら、この5枚の除外は確実に凛音を苦しめる事を知っているからだ。
そして、除外すればするほど有利になるのが光夜のデッキ。
彼のネクロフェイスの処理が始まる。
《不知火の宮司》
《不知火の武部》
《不知火の武士》
《仁王立ち》
《ネクロフェイス》
「またネクロフェイス!!???」
予想外過ぎる引きに、思わず冷静さを失う凛音。
だが、凛音の地獄はこれからであった。
「更にいくぞ!ネクロフェイスの効果にチェーンして不知火の武部と武士の効果!武士で除外されている武部を手札に!武部によりデッキから1枚ドローし、1枚捨てる!!」
「な、なによこれ…なんてめちゃくちゃな…!」
ひたすら回し続ける光夜を、凛音はただ見ている事しか出来ない。
「武部の効果で1枚ドローし、手札から《不知火流 才華の陣 》を墓地に送る!」
光夜が何がしたいのか、ほとんどの者がついていけていない。
そんな中、またしてもネクロフェイスが凛音のデッキを蝕んでいく。
《青き眼の賢士》
《青き眼の祭司》
《調和の宝札》
《白き霊龍》
《青眼の亜白龍》
(うぅ、また強いカードばかりが…)
まるでゴミのように取り除かれていく凛音のカード達。辛くない訳がない。
そして、続く光夜の除外は…
《不知火流 転生の陣》
《シノビネクロ》
《ハーピィの羽根箒》
《妖刀ー不知火》
《ギャラクシーサイクロン》
(…さ、流石にネクロフェイスは打ち止めのようね…まあ、あれだけ除外した所でこの布陣を破るなど…)
ようやく止まった連鎖に、凛音は安堵する。
この盤面なら、まず負ける事はないと知っているからだ。
「…さて、ここからだな。」
「…えっ?」
そう、光夜はまだ、動き始めたばかりなのであった。
彼はまだ、走り始めたばかりである。
さぁお立ちあい。
これからが、光夜の真骨頂!