「こ、これが…ガンドラ…なんて禍々しい…」
破壊竜ーガンドラ・ギガレイズ。
攻撃力は0だが、爆発的な攻撃力、破壊力を秘めたモンスターである。
その禍々しきオーラは観客だけでなく、凛音すら圧倒し、呼吸する事を度々忘れてしまう程に威圧感を撒き散らしていた。
そのソリッドビジョンとは思えない程の迫力。間違いなく《本物》である。
しかし…
「ふ、ふふ…でも貴方、やはりだめだめね。ユニゾンビのデメリット効果、忘れているのかしら?」
そう、せっかく出したにも関わらず、今現在、破壊竜―ガンドラ・ギガレイズは攻撃出来ない。
それは、ユニゾンビの効果のデメリットである、「この効果の発動後、ターン終了時までアンデッド族以外の自分のモンスターは攻撃出来ない」という制約。
どれだけ威圧感があろうと、凛音からすれば「鎖の付けられたままの犬」である。
「…だが、この攻撃力を越える札は無いだろう?」
「ええ。次のドローで返せなければ、私は守るのみ。
でも、私は神に愛された者。そのモンスターを対処するカードくらい、引いてみせるわ。」
それは虚勢でも無ければ願望でも無い。
次のドローで必ず引くという、自信であり事実。
「…ならば、破壊という手段。封じさせてもらう。俺は墓地に存在する《妖刀-不知火》の効果を発動!戦神-不知火と共にゲームから除外する事で、アンデッド族シンクロモンスターを特殊召喚する!!」
「くっ…異次元からの埋葬だからこそね…」
本来、妖刀-不知火の効果は墓地に送られたターンには発動が出来ない。
しかし、異次元からの埋葬は「墓地に送る」、ではなく「戻す」。
墓地に置く方法が異なれば処理も異なる。
このルールの裏をついてこそ、デュエリストとしての実力の高さを証明する事になる。
「燃えよ魂。遠き過去より紡いだ力、現世に舞い降り我が道をその炎で照らせ!《炎神-不知火》!!」
光夜の叫び声と共に巻き起こる、フィールドを埋め尽くさんとする程の熱き火炎。
神秘的な光を纏いながら、その中から現れるは馬に乗った1人の和風の男の姿。
静かで、それでいて儚げな雰囲気を纏うその男は、不知火の起源にして頂点。
その攻撃力、青眼の白龍すら捩じ伏せる。
炎神-不知火の攻撃力、3500。
「炎神-不知火は自分のアンデッド族が破壊される場合、代わりに墓地の不知火モンスターをゲームから除外する事が出来る。」
この炎神-不知火は、墓地の不知火モンスターをコストに、自分のアンデッド族モンスターを破壊から防ぐ事が出来る。
だが…
「…ふぅ、そうね、えぇ凄いわ。でも、先程から私が言っている事が理解出来ていないみたいね?そのガンドラは、ドラゴン族であって、アンデッド族ではないのよ。青眼の白龍が炎神に攻撃された所で…っ!?」
やれやれと首を降りつつ説明し続ける凛音。
だが、途中でふと気づいた。そして、光夜を見た。
光夜は、笑っていた。
その手には、残された1枚の手札。
「あ、あなた…まさか…その手札…」
わなわなと震え、顔面蒼白になる凛音。
観客達も、その自体を理解している者達が多数だったようで、ざわめいていた。
現実とは思えない『先』を、予測出来てしまっていたからだ。
「…あぁ、そうさ。俺のこの残された手札は!」
「嘘よ!こんな!こんな奴に私が!」
「フィールド魔法、《アンデッド・ワールド》!!!」
光夜がそのカードをオープンした瞬間、会場は大騒ぎになる。
なぜならそのフィールド魔法は、フィールド、墓地に存在するモンスターを、アンデッド族へと変更する。
つまり…
「さぁ、これで破壊竜―ガンドラ・ギガレイズは攻撃が可能になり!更には破壊を炎神が防ぐ!」
お互いに手札は無く、伏せカードは無し。
モンスターの数も同じ。
それなのに、状況はまるで違う。
この瞬間、白皇 凛音は敗北が決定したのだ。
持てる限りの壁を容易く粉砕されて丸裸にされて、自分なんかよりも圧倒的な実力を持っている無名のデュエリストによって。
「破壊竜―ガンドラ・ギガレイズは、元の攻撃力は0。しかし、お互いのゲームから除外されているカードの数1枚につき攻撃力を300アップする!」
「うそよ…ありえない…私が…私が…」
壊れたかのように、凛音は同じような言葉を呟くのみ。
凛音の除外されたカード 15枚。
光夜の除外されたカード 27枚。
合計枚数は42枚。
ガンドラ・ギガレイズの攻撃力…
12600
「さぁ、待たせたな白皇!俺のバトルフェイズだ!」
「い、いや…やめて…」
今にも泣きそうな凛音。
だが、光夜には負けられない理由がある。
先へと進むための覚悟がある。
たとえ天から恵まれたような美貌を持つ美少女からの懇願であろうと…やめるわけが、ない。
「バトルフェイズ!炎神-不知火で蒼眼の銀龍を攻撃!!」
炎神は、馬を走らせる。
そして、刹那。蒼眼の銀龍を通り抜けた。
蒼眼の銀龍は悲しく咆哮をしながら、首を落とされ消滅。
そして、凛音を守るのは、攻撃表示の無防備な、攻撃力たかだか3000程度の青眼の白龍のみ…
「いけガンドラ・ギガレイズ!デストロイ・ギガレイズ・バースト!!」
「きゃぁぁぁぁぁあああ!!!」
ガンドラの身体中に敷き詰められた赤い珠。
その全てが強く輝き、ビームを放ちながら、口からそれよりも広大な熱線を放射。
ソリッドビジョンであるにも関わらず、会場全体を攻撃し、観客達にまで被害を与える。当然会場はパニックだ。
そして、その口から放射された熱線はまっすぐ、青眼の白龍を飲み込んだ。
凛音を守ろうとするかのように翼を大きく広げ、負けじと熱線を放射したものの、それごと飲み込まれ、塵と化す。
凛音のライフ、-1600。「青眼」という攻撃力が自慢のモンスターを使用していたにも関わらず、ただの一撃で凛音は敗北してしまったのだ。
凛音を守ろうとした青眼の熱線が爆発したのか、ガンドラの熱線は進行をやや遅め、熱線が凛音に届く前にその爆発が凛音の身体を吹き飛ばした。
身軽な女の子であり、精神を疲弊して気を抜いていた凛音の身体は宙を舞い、頭から落下していく。
このままでは危ない。
そう誰もが思った時…
ガシッ!
1人の大男が現れ、凛音をキャッチ。おかげで、凛音は怪我1つ無く無事だった。
「えっ、あ、ありが…きゃっ!」
ソリッドビジョンが全て消え、凛音が自分を助けてくれた男を見ながら礼を述べ…ようとすると、大男は凛音を降ろし、とっさの事で着地出来なかった凛音は尻餅をついてしまう。
睨み付けてくる凛音を他所に、男は光夜の元へと歩きだす。
「…どうだったよ、俺の初陣は。」
「ほざけ光夜。人がせっかくくれてやったアグニマズドを罠チェックのために使い捨てやがって。」
「まあそう言うなよ辰覇(しんば)。裏返せばあれが無かったらしんどかったんだ。とても役に立ったさ。」
2m近くはあろう巨躯。
ガタイの良さと表情の固さから威圧感を撒き散らす辰覇と呼ばれた男。
光夜のすぐ前までいくと、仲の良さそうな(?)会話を始める。
「こ、この私を放置するなんて…なんなのこの人達………」
美少女とチヤホヤされるか強すぎて畏怖されてきた凛音に目もくれず雑談し始める2人を見て呆然としてしまう凛音。
と、その凛音の声に気づいた光夜が、凛音を見る。
「なぁ白皇。あんたは俺の事を『名も知らない』って言ったよな。それはそうさ。何故なら、俺達は今日に至るまで、大会に出る事を禁止されてたんだからな。」
「「「!!??」」」
大会に出る事が少ない者も、決していない訳ではない。
だが、この遊戯王が盛んな時代において、大会に出て名をあげることをしないのはかなり特異であり、さらに言えば『禁止されている』というのは引っ掛かる言葉であった。そして、『俺達』とも。
「そ、それはいったいどういう…」
「それはね、私がそうさせたんだ。白皇家のお嬢さん。」
凛音の背中に向かって声が響く。
現れたのは、眼鏡を掛けた和風の男。
聞き覚えのある声に振り向き、凛音はその男の顔を見て、驚愕する。
いや、凛音だけではない。
観客達のほぼ誰もが驚愕した。
そして、光夜と辰覇だけは、嬉しそうに笑うのだった。
「…やぁ、先生。俺のデュエルはどうだった?」