「やぁ光夜。やや無茶しすぎではあるが、素晴らしいデュエルだった。久しぶりに熱いデュエルを見させてもらったよ。それと辰覇も久しぶりだね。また大きくなった。風格が備わってきているね。それと白皇のお嬢さん、お怪我はないかな?光夜が派手にやりすぎてしまったようで申し訳ない。」
柔らかい物腰で、光夜、辰覇、凛音にそれぞれ声を掛けながら歩み寄ってくる男。
凛音はその顔を知っている。観客達もだ。
会った事がなかろうと、その顔を知らずしてプロを目指す等出来ないだろう。
「な…なんで…どうして貴方がここに…?………獅子神 王牙(ししがみ おうが)プロ…」
そう、この男はかつて、数年に渡って世界の頂点に立ち続けた、正真正銘『世界トップクラスの』プロデュエリストである。
だが、驚かれる理由はそれだけではない。
「おい、嘘だろ…」「獅子神プロ!?えっ、本物!?」「近年大会どころかメディアにすら姿見せて無かったはずじゃ!?」「えっ、獅子神プロとあの入学生知り合い!?」「その隣のデカイ奴も!?」
ざわめきは収まる事などなく、むしろ騒がしくなっていく。
白皇家の者を一撃の元打ち倒した無名の入学生。
その友人らしき大男。
そして、その2人の知り合いのように接するはかつての『最強』。
話題が尽きる事などないのだ。謎は増えるばかりである。
そんな中、王牙はフィールドの中央へと歩き、辺りを見回して、手を真っ直ぐ伸ばす。
そのしぐさを見て、観客は注目し、静かになっていく。
しばしの静寂の末、王牙は大衆へと向け、口を開いた。
「はじめまして諸君。君たちは私の事を知っているようだね。察しの通り、私の名前は獅子神 王牙。この学園の卒業生であり、元プロデュエリストだ。」
モニターと、フィールドに内蔵されたスピーカーを通して「元」という一言に、一同は騒然とする。
確かにここ数年は大会等に姿を見せていなかったのだが、今はプロデュエリストではない、と言っているのだ。
「私がメディアや大会に姿を見せなくなった事。それによって行方不明説が噂されていた事。全てに理由がある。そして、私は全ての用意を終え、この学園に帰ってきた。私はね、次の自分となる、後継者。つまりは弟子達を育てていたのだ。そのうちの2人が、ここに立っている、先程のデュエルにてあの白皇家を打ち倒した暁 光夜と、坂本 辰覇だ。」
全てが、繋がった。
王牙が姿を消したのは、光夜達を育てあげるため。
光夜達が大会に出なかったのは、「無名を貫き通したまま」王牙直々に、時がくるまで育てられるため。
そして今、王牙率いる弟子達はこの学校に姿を現した。
この世界的にも大スクープな自体は今、モニターを通してあらゆるメディアへと流れ、ニュースとなっている事だろう。
それを知っているのかどうかは不明だが、王牙は続けて口を開く。
「私の弟子はこの2人だけにあらず。何人いるのかはあえて伏せよう。その方が面白い。そして君たちプロを目指す若者達に告げる。残念ながら君たちの欲する椅子は、既にいくつも『予約』されている。早めに諦める事を勧めよう。」
あまりに大胆な発言。
だが、先程の光夜の見せたデュエルを見るに、どの弟子も『同レベル』なのは明白。
自分の夢見た未来を打ち砕かれた者達は、悔しそうに項垂れていく。
「…なぁーんだ、プロデュエリストを目指すなんて言ってたような奴等が揃いも揃ってやる前から諦めるのかよ。」
ふと、王牙とは別の声。
それは、光夜だった。
かなり想定外だったようで、王牙も面食らって光夜を見つめる。
「俺達はプロになる。それは絶対さ。でもな、戦う相手が最初から勝ちを諦めるような連中ばかりの世界なんて、何もおもしろくなんてないね。先生が嫌ったそんなくそったれな世界なんて。」
はっ、と俯いていた観客達は顔を上げる。
そう、負ける事は当然何度もあるだろう。
相手が格上な事などこれから先何度もあるだろう。
だが、「だからどうした。」
これから先つらくて心が折れる日も来るだろう。
だが、それは戦ってもいない「今」では無い。
それに気づいた者達の眼には、確かに戦いの灯火が燃えていた。
そう、光夜は皮肉を言いつつも、観客達の心に火を付けたのだ。
自分の強力なライバルを増やす結果になろうとも、自分が負ける事が起ころうとも。
理由はおそらく、ただデュエルを「全力で楽しむ」ために。
それに気づいた王牙は、思わず笑みを浮かべる。
弟子の、大きな成長を感じ取れたからだ。
「…まあ、弟子の中でも『最底辺』の俺に勝てないと思うようじゃ結局プロなんて無理だと思うけどな!」
自らを『最底辺』だと言って退ける光夜に観客は一喜一憂。そしてその『最底辺』に完膚なきまでに負けた凛音は絶句する。
(…なぁにが最底辺だよ。爆発力なら俺達の中でもピカ一のくせに。まあ、連中を焚き付けるためにはその発言が良いのかもしれないが。)
辰覇は光夜の考えを読み取る。
辰覇は光夜とは長い付き合いだ。彼の皮肉を込めたメッセージの真意等、読み取る事は容易い。
「…さて、これにて私の言いたかった事、それと光夜達のデュエルは終わりだ。解散としようか。君たちのこれからを、楽しく見させてもらう。」
王牙の発言と共に、観客達は帰り支度を始める。
そんな中、ふと光夜は気になった事を王牙に問いかける。
「…あっ、そうだ。先生はここに来たけど、教師にでもなったのか?」
「ん?あぁ、そういえば言っていなかったかな。私はお前達の住む寮の寮長になったんだ。これから毎日顔を合わせるさ。」
「へぇ~寮長にねぇ~………はっ!???」
光夜ですら驚愕。帰ろうとしていた観客達もまた振り向き、驚愕。
まさかの発言が、今日は多い。
「えっ、はっ、えっ!?もしかして『あの』寮の!?この学校の数ある寮の中でも結構いいとこだよな!?」
「そうとも。あの寮は私のかつて住んでいた所でね。今日正式に私が寮長になった。君たち弟子を除けば、あの寮に住むのは一桁くらいしかいない。気楽で良かろう?」
王牙は満足そうに笑う。思わぬサプライズに言葉を失う光夜と辰覇。
だが、近くで最高の師匠がいるのだ。悪い事な訳はない。
「…ん~、まあビックリはしたけど、先生がいてくれるのはうれしい事だな。なら早速寮に行こうぜ。辰覇、先生。」
結局は嬉しさが上回り、ニッコリと笑って喜ぶ光夜。
その笑顔に満足したのか、王牙も微笑み、うなずく。
ふと、光夜は忘れていた事を思いだした。
「あっ、そうだ。白皇、あんたも俺達と同じ寮な。俺の奴隷なんだし。」
「………えっ?」
次からは日常(?)パートです