シンフォギアの消えた世界で アナザー 作:現実の夢想者
「……よし、寝癖は直したし忘れ物も……ないな」
俺がそう言うと目の前にいる奏とセレナが小さく苦笑した。
「忘れ物って、仁志先輩に必要なのは依り代とゲートリンクだけだろ?」
「ふふっ、お兄ちゃんのお金は向こうじゃ使えないんだからね?」
「分かってるよ。それでも一応持っていくんだって。戸締りはするけど、どれだけ留守にするのか分からないし」
おそらくだけど、向こうの方が時間の流れが遅い、と思う。
だからこそあまり長居はしたくないのが本音だ。
念のために前もってエルから連絡をもらって、これまでの事から逆算して連休を取ったけどどうなる事やら。
……どうか無断欠勤とかになりませんように。
そう心で願いながら俺は奏とセレナに続いてゲートへと入る。
こうしてこの中へ入るのも久しぶりだ。
裂け目は今もそのままで、元に戻るかと思ったけどそんな様子もなくなったらしいので、きっと余程がない限りこのままなんだろうとの事。
「じゃ、行くよ」
「はい」
「ああ」
奏を先頭にセレナと隣り合ってゲートの中を行く。目指すは根幹世界、ギャラルホルンだ。
クリスの見送りをするためなのだが、それは空港でという訳ではない。
実は今日S.O.N.G本部にてクリスの壮行会があるのだ。
送別会でないのは当然なのだが、まさか壮行会を開催するとはさすがはそういう事が好きな風鳴弦十郎さんである。
それにしても、俺がほかの世界に行くのは初めてだ。それも根幹世界かぁ。
時間のズレ、俺に都合よく起きてくれないかなぁ。
店長が無断欠勤とか本気で笑えないんだよ。
どうしても仕事の事が頭の中をちらつく中で奏の背中を見つめていると、突然ゲートリンクが振動した。
「はい、こちら只野」
『兄様、今はゲート内ですか?』
聞こえてきたエルの声に笑みが浮かぶ。
「ああ、そうだよ。奏とセレナと一緒にギャラルホルンへ向かってる」
『分かりました。では、みなさんと一緒にお待ちしてます』
たったそれだけのやり取りだけど、それでも小さく笑みが浮かぶのは気分はエルの父親みたいなものだからだろうか。
チラッと横を見ればセレナも微笑んでいる。こっちは完全お姉ちゃんだから仕方なし。
「見えたよ」
聞こえた声に目を動かせば見るのは二度目の根幹世界のゲート。
そこへ入っていく奏を見ながら俺も遂に自分の世界以外のゲートへと足を踏み入れる。
「っと、ここが潜水艦の中か……」
当然だけど空気はある。むしろ美味しい。
……なんて言ったらマリアに何て言われるんだろう。
そんな事を思いながら振り返ってギャラルホルンを見つめた。
「兄様っ!」
聞こえた声に顔を向けると笑顔でこっちへ駆け寄ってくる可愛い少女の姿。
「エル、元気そうだな」
「はいっ!」
しゃがんで頭を撫でる。あの日々で見慣れた顔と少しだけ違うけど、俺にとってはよく知るエルでもある少女を。
するとその後ろから似た顔が現れる。そちらは俺があの日々で見慣れていたようで、少し違う部分がある少女。
「来たのか。あいつらは食堂で待ってるぞ」
「よっ、キャロル。元気かい?」
「ああ」
「こんにちはキャロル。元気そうで良かった」
「そちらもな」
少しエルよりも目付きが悪い彼女はキャロル。
平行世界のキャロルの助けもあって、遂に彼女達は別々の存在として生活をしているのだ。
……おかげで俺とクリスは揃って卒業し損ねたんだが、今はそれで良かったと思ってる。
と、キャロルの目がこっちへ向いた。
「久しぶりだねキャロル」
「俺はそこまででもないが、まぁそうだな」
微笑みかけると何故か顔を逸らされる。実はエルと双子の姉妹となってからこうなのだ。
初めて会った時はちゃんと顔を合わせてくれたのだが、あの再会以降妙に距離を感じると言うか、避けられてるような気もする。
エルの振りをした時はしっかり顔を合わせてくれたので、きっとキャロルとしては顔を合わせ辛い理由があるんだと思うけど……ちょっと悲しい。
「兄様、キャロルは恥ずかしがってるだけですから。僕と一緒に兄様と会えるのを楽しみにしてましたし」
「よ、余計な事は言うな! 俺は先に戻っているっ!」
やや急ぎ気味に歩き出す背中を見送り、俺はエルの言う事が事実なのだと確信出来た。
いや、考えてみればここへわざわざ出迎えに来てくれた時点で嫌いなはずはないからな。
「キャロル、どうしたんでしょうか?」
「あれは照れてるんだよ。エルとは違って、キャロルの奴は仁志先輩を兄って感じには見れないんだろうさ」
「お兄ちゃんって感じに見れない?」
「ああ。だよね、仁志先輩」
「かもしれないな。エルはかなり最初に、しかも自発的に俺を兄と呼んでくれたけど、キャロルはそういう訳じゃないし」
そう返して俺はエルの体を持ち上げて肩に乗せる。
「さて、案内よろしく」
「あっ、はいっ!」
俺はこの中を知らないに等しいのでエルに道案内を頼む事にした。
別に奏やセレナでもいいけど、ここは本部内が一種家でもあるエルに頼むのがベストだろう。
こうして俺はエルの案内に従う形で本部内を歩いた。
時折見かける職員の方達には不思議そうな目で見られたが、奏やセレナが居る事でその関係者のように見られたのか特に怪しまれる事もなく無事食堂へ到着。
「兄様達をお連れしました」
「みんな、久しぶり」
食堂内には響達装者全員と弦十郎さんを始めとするメインスタッフの姿があった。
うん、何というかやっぱりまだどこか実感が薄い。だって、自分がS.O.N.G本部内にいて、風鳴弦十郎さん達と同じ空間にいるんだもんなぁ。
エルを下ろして前を向くと響達七人がそれぞれ笑みを見せてくれる。
だが、今は先に挨拶するべき人達がいるのでそちらへ歩み寄る。
「やっと直接会えました。只野仁志です。ご支援、本当にありがとうございました」
「こちらこそ会えて嬉しく思う。風鳴弦十郎だ。悪意との戦いを支えてくれて本当に感謝に堪えない」
差し出された手を握り返す。うん、逞しいなやっぱ。俺じゃ束になっても勝負にならない。
「紹介しよう。とはいえ、もう既に知っているかもしれないが……」
「あっ、はい。藤尭朔也さんと友里あおいさん、ですよね」
「本当に知ってるのか……」
「そう響ちゃん達が言ってたでしょ」
「そ、それはそうだけど……」
どうやら藤尭さんは俺に若干の距離感を抱いてるらしい。
まぁみんなも最初はそうだったんだし、別に気にしない。
「はじめまして、只野仁志です。えっと、あまり会う事はないと思いますが、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
軽く頭を下げて挨拶終了。さて、最後はっと……。
「はじめまして、緒川慎次さん、ですよね? 只野仁志です」
「こちらこそはじめまして。はい、僕が緒川慎次です」
翼のマネージャーであり飛騨忍者の末裔へ挨拶をする。
「あの、緒川さんは飛騨忍軍の末裔なんですよね?」
「ええ、そうですよ。それが?」
「いやぁ、実は俺の世界に飛騨忍者が主役の作品がありまして。仮面の忍者赤影って言うんですけど、戦国時代を舞台に活躍する正義のヒーローなんです。俺、てっきり飛騨忍軍って創作かと思ってたんですけど、実在するんだと貴方で知りまして」
「そうだったんですか。それは興味がありますね」
「いやいや、使う忍法はそちらの方が凄いですよ。まぁ大凧で空を飛ぶのは同じですけど」
「おや、それは余計に興味が湧きました。よろしければ今度詳しく教えていただけますか?」
「あ、はい。じゃあ漫画と特撮とありますんで、漫画の方を買って持ってきます。俺も一度ちゃんと読んでみたかったし」
「映像もあるんですね。出来ればそちらも」
「あー、その辺でいいだろうか?」
おっといけないいけない。ずっと話してみたかった事を本物の忍者へぶつけていたら話に夢中になっていた。
見れば響達は苦笑していて、キャロルなどは呆れた顔をしている。
オペレーターの二人は……うん、対照的な反応だな。藤尭さんが微妙な顔で友里さんが小さく苦笑している。
「すみません。俺からすると緒川さんはある意味ヒーローに近いもので」
「そうか。まぁ、話は会が始まってからにしてくれ。それなら俺も止めない」
「分かりました」
たしかに仰る通りだ。こういうとこで俺はまだまだ大人になり切れてないんだなと実感する。
「はい、飲み物をどうぞ。中身は緑茶ですから」
「あ、どうもありがとうございます」
気付けば友里さんが紙コップを差し出してくれていた。
うん、出来る女って感じが凄い。秘書とか向いてそう。
……そういえばセレナの世界じゃ警察で警部、だっけ? やっぱり仕事が出来るんだろうな。
「それでは、これより雪音クリス君の壮行会を始める」
で、ステージには弦十郎さんが立っていた。
っと、ちょっと待てよ?
「あのっ!」
「ん? どうかしたか?」
申し訳ないと思いつつ弦十郎さんの挨拶を遮る。
何せここにはもう一人いないと困る存在がいるんだ。
「セレナ、ヴェイグは出て来たくないって?」
「ううん。ただ、後でもいいって」
「じゃあ、ヴェイグ、今出てきてくれないか? お前にも乾杯して欲しいんだ」
そう言うとセレナの前にヴェイグが現れる。
そして俺は持ってた紙コップをその手へ持たせた。
「ほら、中身は緑茶だ。これならヴェイグも飲めるだろ?」
「ああ、ありがとう」
「いいって事さ。えっと、すみません。もう一つ紙コップもらえますか?」
「でしたらこちらをどうぞ。中身は同じですので」
「すみません。ありがとうございます」
今度は緒川さんがいつの間にか近くにいた。
本当にここの人達凄すぎる。人類の自由と平和を守る組織は違うなぁ。
「挨拶を遮ってしまいすみません。どうぞ続けてください」
「いや、構わない。さて、なら全員飲み物は持っているか? ……よし、それではクリス君の留学が良き未来へ繋がる事を願って、乾杯っ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「乾杯っ(!)」」」」」」」」」」」」」」」」
こうしてクリスの壮行会は始まった。
まず主役であるクリスへ大勢が集まる中、俺はそれを少し離れた位置で眺める事に。
「行かなくていいんですか?」
「え? ああ、はい。今はおっさんが近寄れる状況じゃないんで」
聞こえた声に顔を動かせばそこには緒川さん。
なので思っている事を口にして緑茶を飲む。
「おっさん、ですか」
「ええ、三十にもなればあの年頃からは立派な中年ですしね」
「耳が痛いですね。僕も覚悟しませんと」
「緒川さんは、おっさんじゃなくておじさんって呼ばれる方ですから心配いりませんよ」
「違うんでしょうか?」
「違いますよ。伊賀と甲賀ぐらい違います」
「それは中々ですね」
「おいおい、男二人で盛り上がっててどうする?」
そこに登場の弦十郎さん。手にしている紙コップがまるでミニチュアかと思う程のミスマッチ感だ。
この人には一升瓶とかが似合いそう。あるいはよくある壺みたいな感じの酒瓶だろうか。
「司令……」
「いや、むしろ自然な流れだと」
「かもしれないが、君はクリス君達と一緒にいるべきではないか?」
「……俺は元々違う世界の人間ですし、正直クリスが留学してもしなくても物理的距離が大きく変わる訳じゃありませんから。それにどうなるにしても、俺は彼女が選んだ道が少しでも幸の多い未来へ繋がるように願うだけですよ」
響や未来に何か言われて恥ずかしそうにしているクリスを眺め、俺はそう噛み締めるように告げる。
迷いながらも歩き出そうと決めたクリス。もしその道を変える事になる時、俺はその傍で支える事は出来ないかもしれない。
だけど、せめて気持ちだけでも傍にいると伝えようとは思う。ただ、それは今じゃない。
今は仲間であり大事な友人達との時間を過ごさせてあげたいんだ。
俺は後で構わない。それに、そんなに長々クリスへ言うべき事もない。
それは、前に会った時に伝えてあるしな。
「ふむ、そうか。君がそう言うのなら俺は構わんが……」
「あっ、そうだ。風鳴さんは映画観賞が趣味ですよね? もし良かったら俺の世界の映画、いくつかお貸ししますよ」
「本当か? それは願ってもない。実はな、響君達から君が見せたという特撮映画の話を聞いて興味が湧いているんだ」
やった。グリッドマンコラボのストーリーで何となく分かってたけど、弦十郎さんは特撮ファンでもあるらしい。
これならゴジラやガメラとかの怪獣映画は鉄板だろう。ウルトラマンだっていけるかもしれない。
いやぁ、切歌やエルでもいいんだけど、出来れば同性の方がこういう話はし易い。
緒川さんもとりあえずは漫画から様子を見て、もし可能ならアニマスやデレアニを進めて……。
「な、何だか意外な感じで距離を詰めてるな……」
「当然でしょ? 人間嫌いのヴェイグと親しげに話せるのよ?」
「……納得」
後ろから聞こえた会話に俺はちょっと物申したくなったので振り返る。
すると藤尭さんと友里さんが軽く驚くのが見えた。
「あの、一つだけ訂正させてください。今のヴェイグは人間嫌いじゃありません。自己中心的な人間が嫌いなだけなんです」
あの日々でヴェイグは俺達と関わってその認識を変えてくれた。
人間全てが悪い訳じゃない。人間の中にも優しくていい奴はいると、そう思い直してくれたんだ。
「それに、そもそもヴェイグを人間嫌いに、人間不信にしたのは俺達人類です。ヴェイグだって最初から人間を嫌ってた訳じゃありません。あいつは、最初は人間が好きだったんですから」
無邪気な頃のヴェイグはそうだった。それが以前のような考えになったのは、人間の身勝手で酷い振る舞いを見て、それによって仲間を失ってしまったからだ。
「只野君、それぐらいにしてやってくれ。彼女も悪気があった訳じゃない」
「分かってます。それに怒ってる訳じゃありません。ただ、ヴェイグの事を誤解したままでいて欲しくなかったんです。友里さんも、響達と同じで優しい人ですから」
あったかいものを渡す相手に合わせて味の調整するなんて、本当に相手の事を思って動ける人じゃないと出来ない事だ。
だからこそ、そんな優しい人にヴェイグをただの人間嫌いと思っていて欲しくないと思った。
今のヴェイグなら、友里さん達とも笑顔で話してくれるだろうからと。
「友里さん、今のヴェイグは人間だからって理由だけで相手を判断しませんから。一度話してみてください。あと、あいつは甘いコーヒーが、いや市販されてるようなコーヒー牛乳みたいなのが好きなんです。もし良かったら、あいつへはそういう感じのあったかいもの、出してやってください」
「そうなんですね。ええ、分かりました。甘めのあったかいものを渡して話しかけてみます」
「甘いカフェオレみたいなのが好きなのか。じゃ、コーヒーゼリーとかはどうなんだろう?」
「あ~、それは俺は知らないです。でも、苦いのは好きじゃないみたいなので、出来ればコーヒーロールとかの方がいいかも」
「成程なぁ。よし、今度来た時に御馳走してやるか」
良かった。これならヴェイグももっとここの人達と仲良くなれるだろう。
それに藤尭さんの料理スキルは凄いらしいから、これはヴェイグが藤尭さんに懐く可能性が出て来たな。
さて、じゃそろそろクリス達の方へ行きますかね。
みんなも俺に来いと呼んでるしな。
クリス先輩のそーこー会が終わった後、アタシ達はししょー達と一緒に本部の外へ出ました。
なんと、今夜はみんなでお泊り会なので、その買い出しも兼ねたお散歩デス。
お泊りの場所はししょーのお家デス。二階の部屋全部を使えばアタシ達全員で寝られます。それなら構わないって司令が許可を出してくれました。
ただ、ししょーはちょっと嫌がってましたけど。
「ししょー、どうしてお泊り会は嫌デスか?」
「むしろここで嬉々として頷く方がどうかって話だよ。俺、あっちでもみんなと一つ屋根の下は旅行の時しかなかっただろ?」
「響達とはあったじゃないですか」
「それは事情があったし、初日なんてタオルで腕を縛ってもらったんだぞ、俺」
それは初耳デス。
みんなが響さんとクリス先輩へ目を向けると、二人は苦笑しながら頷きました。どうやら本当らしいデスね。
「でもさ、そう言いつつもこうやって付き合ってくれてる辺り仁志先輩も嫌じゃないんだろ?」
「本当に嫌ならとっくに帰ってるよ。それに、まぁ、またこうやってみんな揃って過ごせる機会は当分ないからさ」
そう言ってししょーがクリス先輩を見ました。
クリス先輩はそんなししょーに何故か恥ずかしそうに頬をかきました。
これ、照れてるんデスかね? でも照れる理由に心当たりがないデス。
「お兄ちゃんもお仕事あるしね」
「そうそう。あと丁度いいからみんなに教えておくよ。車を買ったんだ」
「ま、マジデスかっ!?」
「切ちゃん、声大きい」
「ご、ごめんなさいデス」
で、でもししょーが車を買ったなんて驚きデス!
一体どんな車デスかね? 前にあのお家で見てたカタログに載ってた中にあるとは思うデスが……。
「本当に買ったのね」
「ああ。みんなの動画が残ってくれたおかげだよ」
「動画収入込みでローンを組んだのかよ?」
「そういう事。じゃないとコンビニ店長が新車の中型車なんて買えないよ」
だけどそう言うししょーはどこか楽しそうに笑ってました。
買った車は海や旅行に行った時のような車だそうデス。
最大で十四人まで乗れる車らしくて、完全にあのレンタカーと同じデスし。
そこから話題は当然デスがししょーの買った車になりました。
キャロルも興味があるのか色々聞いてたのには驚いたデスけど。
ししょーは、出来ればみんなで温泉に行きたいって言いました。
あのプールと違って一緒に入る事は出来なくても、雪が降り積もる中でお風呂に入って雪明かりってもので星を見るって事がしたいって。
「雪明りの中、露天風呂で星空を……か。いいじゃん。風情ばっちり」
「ふふっ、そうだね。仁志さんとしてはそこに熱燗?」
「そうそう。まぁ飲みはしないだろうけどロケーションとしては最高だよな。いかにも冬の露天風呂って感じで」
あつかんって何デスかね? 飲まないって事は飲み物デスけど……あったかい物なんデスかね、やっぱり。
「こっちでなら部屋付きで利用出来るわよ?」
マリアがそう笑って言うとししょーも笑顔で首を横に振りました。
「いや、気持ちは嬉しいけどそれじゃダメだよ。俺はね、君達全員が何の肩書もなくいられる場所で過ごさせたいんだ」
その言葉にみんなが笑顔になりました。
ホントにししょーは変わらないデス。アタシ達を装者じゃなくて女の子って扱いたいって事デスし。
「周囲に気を配らないと面倒な事になるなんて、たまの旅行や休みぐらい解放されたいだろ?」
ししょーの言葉はマリアや翼さん、奏さんへ向けられてるって分かりました。
だって、その三人が嬉しそうに笑ってたデスから。
その後はコンビニへ入って飲み物を買う事に。
ただ、ししょーはやっぱりコンビニ店長さんだからか時々目付きが違ってて、店長さんモードのししょーの目はちょっとカッコ良かったデス。
十人以上もいるから荷物も結構な量になったデスけど、ししょーと奏さんが持つだけで十分な感じデス。
というか、ししょーの近くにずっとエルがいる辺りが微笑ましいデスなぁ。
それと、こっそりそんなエルの近くにいるキャロルもデス。ししょーに甘えたいならそう言えばいいのに出来ない辺り、クリス先輩みたいデスね。
「あっ、そうだ。エル、出来ればでいいんだけど」
「何ですか?」
本部に戻るなりししょーが横のエルへそう話を振りました。
当然デスが、エル以外もそれに興味を見せます。アタシも、デスけど。
「このゲートリンクの通信機能だけ持った奴、作れないかな? 出来れば二つ」
「可能ですが、どうしてですか?」
「その、今後もこういう形で俺がこっちや奏の世界やセレナの世界に行く事もあるかもしれないだろ? その時、父さんや母さんに何かあっても分かるようにしたいんだ。勿論必要がなくなったら返却するよ」
そう言ってししょーはエルの目線へ自分の目線を合わせるようにしゃがみました。
「どうかな?」
「分かりました。司令へ相談します」
「うん、お願いするな。でも、ダメだって言われたらいいよ。正直俺にこれがもらえただけでもありがたいって思ってるんだしな」
ししょーは手首にあるゲートリンクをそっと撫でました。
アタシからすれば当然の権利だと思うデスが、やっぱりししょーは違うんデスね。
悪意との戦いは、ししょーじゃなかったら勝てたかどうか分かりません。ツインドライブや色んなヒーローの知識があったからこそ、アタシ達は悪意と最後まで戦い抜けたんデス。
「そんな事は……」
「いや、客観的に見れば俺の両親へのゲートリンクは必要ないんだよ。あの世界との接点は俺で十分な訳だし、おそらくだけど今後も俺の世界にノイズやら錬金術師が出てくる事は有り得ない。可能性があるとすれば、それこそ時空を超えた侵略者とかでウルトラマンのレベルだ。もうシンフォギアでどうこうのレベルを超えるはずだよ」
さらっと笑うししょーデスが、それぐらい有り得ないって思ってるって事デスか。
でも、今回の事を考えるとちょっと笑えないデス。
「ちょっと仁志、止めて。悪意の事があったんだから笑えない話よ、それ。悪意は、ある意味で不滅なんだし」
「だからだっての。たしかに人間が自分勝手に生きる限り、第二第三の悪意は生まれるはずだ。けど、それが俺の世界へ侵攻するのはもう止めるはずだって」
「ど、どうしてですか?」
「簡単だよ。もしまた悪意が生まれたなら、下手に俺の世界へ手を出すと余計な力が邪魔をするって分かったはずだ。なら、触らぬ神に祟りなしって事で無視を決め込むだろう。何せ依り代は今もまだ残ってるんだし」
納得デス。たしかに下手にししょーの世界へ手を出すと、また依り代が色々力を貸してくれそうデスよ。
「こいつが今も依り代状態なのはそういう事なんだと思う。そしてこいつがただのスマホに戻った時こそ、本当の平和が訪れた時かもしれない」
その瞬間、ししょーの手の中にある依り代が淡く光った気がしました。
まるでししょーの言う通りだって言うみたいにデス。
じゃあ、やっぱりまだ悪意が復活する可能性はあるって事デスか。
ししょーの言う通り、アタシ達が好き勝手して生きていると悪意は復活する可能性が高いデス。
ウルトラマンで言うならヤプールデス。ライダーで言うならショッカーデス。戦隊で言うなら……黒十字そーとーデス。
人の心の闇がある限り、悪い奴は必ず出てきてしまうんデス。
「だからこそ、アタシ達は心の光を無くさずに生きていかないとデスねっ!」
「ああ、そうだよ。始まりは小さな光でも、それがいつか繋がり合って大きな光になるんだ。可能性という輝きが希望と言う名の光となって、きっと必ず笑顔の明日を創るんだから」
ししょーの言葉はまるでヒーローみたいデス。
今もどこかでヒーロー達が平和のために戦ってるはずデス。
だからアタシ達も、ギアをみんなの笑顔のために使っていきたいデスね。
「あるライダーのゲームでこういう台詞がある。人々の賞賛を浴びる事のない戦い。それでもいいと。そしてある戦隊はこう悪へ告げる。人も知らず世も知らず、影となりて悪を討つ。ヒーローとは、もしかすると本来そういう生き方なのかもしれない。本当に強く優しい心じゃないと続けていけない生き方、それがヒーローなんだと思う」
思わず胸を押さえました。何て、何て辛く苦しい言葉デスか。
誰にも知られず、感謝も何も言われる事無く、それでもみんなのためにって戦い続けるんデスから。
やっぱりヒーロー達はスゴイデス。カッコイイデス!
だけど、やっぱりちょっぴり悲しいデスよぉ。
「だからこそ、みんなはヒーローでいないでくれ。それらしくあるのはいいけど、そのままであるのだけは止めて欲しい。仲間と支え合い、友人と笑い合い、決して孤独にならないで欲しい。まぁ、みんなの場合はそこまで心配してないけどさ」
「そうだね。何せ今は仁志先輩がいるし」
「そうだな。タダノがいる」
セレナの腕の中でヴェイグがそう言って笑いました。
今回の事があるまではセレナぐらいしか友達じゃなかったヴェイグも、今やエルやししょーと仲良しデスし、アタシ達とも友達になってくれました。
そうデス。孤独じゃないデス。たった一人に見えても、その背中を多くの人達が支えているってアタシは沢山のヒーロー物で学びました。
一緒に肩を並べるだけが戦いじゃない。信じて待つ事も戦いデス。
アタシ達で言えば司令達がそれデス。だからししょーはアタシ達を戦隊ヒーローみたいだって言ってたんデスし。
「なら俺にもみんながいる。例えもう会えなくなったとしても、心は繋がってる。俺はもう二度と生きるのを諦めないよ。この胸に、この心に、みんなとの時間が、思い出が、笑顔が、焼き付いてるからね」
そう優しい顔で言い切ってししょーは歩き出して、少ししてから振り返りました。
「なんて、ちょっとヒーローかぶれが過ぎるか」
「いえ、そんな事ないです。仁志さんは、私達のヒーローですから」
響さんのその言葉にアタシは頷きました。
ししょーはあの世界でアタシ達を支えるために一生懸命でした。
たった一人でアタシ達が暮らしていけるように頭を使って、お金も使ってくれました。
それだけじゃなく、みんなが一緒になって楽しんだり出来る時間を作ってくれましたし、もっと仲良くなれるように色々してもくれました。
……アタシ達の笑顔のために、いつだってししょーは全力でした。
今思うと、ししょーはみんなのお父さんやお兄ちゃんみたいでしたね。
響さんの言葉に照れながらししょーは頬をかきました。
でも、そのすぐ後に……
――なら、みんなが俺の支えだよ。
って、そう言って歩き出しました。
支え、デスか。だけどそれならししょーもアタシの支えデス。
支え合いの関係デスかね。うん、アタシ達にピッタリデス!
「あっ、仁志さん! ここからギャラルホルンの場所までの道知らないのに先行かないでくださいっ!」
「ああ、そうだった。いや、やっぱり最後にオチが付く辺り、俺はヒーローにはなれないなぁ」
そうやって苦笑するししょーデスけど、そんなししょーだからみんなこうしていられるって思うデスよ。
ししょーはアタシ達へエッチな事をしようとしませんでした。
いつだって頑張って悪意にアタシ達が利用されないようにしてました。
それがなくなった今だから、ししょーもエッチな事、少ししてくれるようになりました。
大人のキス、アタシ大好きデス。ししょーとペロペロ舌を絡ませるの、くすぐったいけど嬉しくなるデス。
お腹の下、少しデスけどキュンキュンするのも、大好きデス。
「じゃ、団体様ごあんな~い」
司令達に一応挨拶して上位世界へ出発デス!
ししょーがどこか笑いながらコンビニで買った物が入った袋を片手にギャラルホルンへ入っていきます。
それにしてもいつの間にかししょーと司令が仲良しさんな感じでした。
緒川さんとも何か話してたデスし、気になるデスね。
そうこうしてるとあっという間に裂け目へ到着デス。
ゲートをくぐればお久しぶりのししょーのお家デス。
「うわっ、たったあれだけしか過ごしてないのにもうこっちも夜になってる……」
そう言ってししょーが時計を見て苦い顔をしてました。
えっと、やっぱり時間が大きくずれたんデスかね?
「もしかすると、今回は俺達に合わせたのかもしれないぞ」
その言葉にししょーだけじゃなくてアタシ達も顔を動かしました。
「キャロル、どういう意味?」
「過去のデータから推測すると、ここのゲートは来訪者によって時間をその時々に合わせて処理しているように思う。今回、その男は休みを取っている。だからもう夜になっていた俺達の時間帯へ合わせてここへの到着時刻を調整したのかもしれん」
「あ~……成程なぁ。となると、依り代がある事がその発動条件かもしれないな」
そこでししょーは荷物へ目を向けてからこっちを見ました。
「とりあえず、まずは宿泊の準備をお願い出来るか?」
「ならあたしは翼と二階へ上がって布団を敷いてくるよ」
「あっ、なら私も手伝います」
「未来が行くなら私も行きまーす」
「なら風呂は俺が引き受けた。マリアと調は買った飲み物とかの事よろしく」
「ええ、引き受けたわ」
「任せて」
な、何だか知らない間にししょー達が動き出してます。
で、エル達は見慣れない物の中へ足や手を入れてくつろいでますし。
「これがこたつか……」
「はい、どうですかヴェイグさん」
「あったかくていいな。セレナはどうだ?」
「とってもあったかくて寝ちゃいそうです……」
「寝るな。寝ると風邪を引くぞ」
こたつ、デスか。噂には聞いてますデスよ。
一度入ったら二度と出れなくなる悪魔の発明らしいデス。
……でも、ヴェイグが猫や犬みたいにセレナの横でクッションを枕にしてるのは可愛いデスね。
「あっ! ししょー!」
「へ? どうかした?」
お風呂場へ行こうとするししょーを慌てて呼び止めます。
えへっ、実は今良い事を思い付いたデスよ。
「キャロルもいるデスし、ここは大きなお風呂に行くのはどうデス?」
「あ~……そういう事ね。別にいいんだけど、この時期は帰り道寒いぞ?」
「デデッ!? そ、そうでした……」
ししょーの世界は冬まっただ中デス。せっかくお風呂であったまっても冷めちゃうデスかぁ……。
「いや、待てよ……。ここはあそこへ行くか。やっとあいつを活躍させられる機会だし」
およ? 何だか風向きが変わったデスね……?
そこからししょーはマリア達に意見を聞き始めて、最終的にはみんなから多数決を取った結果、見事スーパー銭湯に行く事が決定したのデス!
なのに何故かししょーはお家の鍵をマリアに預けると、アタシ達にお家で待ってるように言って外へ出ていきました。
で、しばらく待ってるとエルのゲートリンクにししょーから通信が入りました。
『あー、聞こえてる? 悪いんだけど全員外へ出てくれるか? 出来るだけ早く頼む』
一体どういう事デスかね?
そんな会話をみんなでしながら外へ出ると、そこには一台の車がありました。
海や旅行に行った時に使った車そっくりデス。
「さぁ、早く乗った乗った」
運転席からししょーが顔を出してるので、どうやらレンタカーを借りてきてくれたみたいデス。
あれ? でもここからあのお店までもっと時間かかるはずデスよね?
そんな事を思いながら車に乗り込むと、後から乗ったセレナが運転席へ近付いていくのが見えました。
「お兄ちゃん! これが買った車なんだねっ!」
「「「「「「「「え(な)っ!?」」」」」」」」
「そうなのか。だから普段よりも早かったんだな」
「俺には色々よく分からんが、そこまで驚く事なのか?」
まさかの発言にアタシ達がビックリしてるとヴェイグとキャロルは事のじゅーだいさが分かってないみたいでのほほんとそう言いました。
そこでマリアが最後に乗ってきて助手席のドアを閉めるなり、アタシ達を見てため息を吐きました。
「とりあえずみんな座ってシートベルトして。セレナもよ」
「そうしてくれると助かるよ。路上は出来るだけ早めに動かないと邪魔になるしさ」
そう言われてアタシ達は慌ててそれぞれ座席に座りました。
シートベルトを締めながらアタシはあの頃の事を思い出します。
ししょーが車のカタログをもらってきて、アタシ達あの家のみんなで眺めてあれこれ言ってた事を。
あの家から歩いて少しした場所に駐車場があって、エルとセレナはヴェイグとそこへ行ったって教えてもらいました。
「兄様、どこへ向かうんですか?」
ゆっくりと車が動き出すとエルがそうししょーへ質問しました。
アタシも気になってたのでししょーの答えに耳をかたむけます。
「うーん、何と言えばいいのか難しいなぁ。まぁスパリゾートって表現を使ってたはずだからそれが一番かな? で、そこは午後から入浴料が半額になるんだよ」
「ここから遠いんですか?」
「車なら30分もあれば着く。とにかく楽しみにしてて」
ししょーがそう言うならきっと楽しい場所のはずデス。
それにしても車まで手に入れちゃったデスか。ししょー、本当にこうと決めたら本気でやっちゃうんデスね。
「切ちゃん、楽しみだね」
「デスね!」
何よりもみんなでお出かけって言うのが嬉しいデスよ。
しかも今回はキャロルまでいるデスし、ワクワクが止まらないデス。
こうやってみんなでいると、あの頃を思い出します。
楽しくて、あったかくて、毎日が幸せだった、あの頃を……。
やっぱり、アタシはここでみんなと暮らしたいデス。
ししょー、こんな気持ちはダメデスか? 装者失格デスか?
そう思いながらアタシは運転席のししょーを見つめ続けました。
寝る前にししょーに聞いてみるデス。
アタシの弱い気持ちを、ししょーのあったかさで強い気持ちへ変えてもらうために……。
駐車場へ車を止め、響達は初めて訪れた場所を見上げる。
目的地である施設の隣には立派なホテルがあった。
「ホテルと隣接してるようだな」
「ああ。多分大浴場を兼ねてるんじゃねーか?」
「そういう事。さて、中へ入ろうか」
「エル、キャロル、レッツゴーデス!」
「はいっ!」
「急かすな」
小走りで建物の入口へと向かう切歌とエルフナイン。キャロルは急ぎこそしないものの、その後をしっかりとついて歩く。
「ふふっ、キャロルもちゃんとついていくんですね」
「うん、普段からエルと仲良くしてるからね」
「セレナ、俺はしばらく隠れる。ここは人が多いからな」
「あっ、分かりました。でも、必ず体は洗ってもらいますからね?」
「……分かってる」
最後に若干嫌そうに返してヴェイグはセレナの中へと消える。
その言い方に苦笑しながらセレナと調も建物の入口へと向かう。
「凄い車の数だねぇ。これ、絶対あのスーパー銭湯よりも人がいるよ」
「当たり前だよ。奏、ここはホテルを利用してる人達も使うんだからね?」
「こりゃヴェイグは下手したら風呂に入れないかもしれねーな」
「最悪体を洗ってあげるだけで終わるわ。何とか隙を見つけて浸からせてあげたいけど……」
「仁志さん、何とかならないかな?」
「う~ん……洗い場は多分いけると思うけど……」
翼の問いかけに仁志は難しい顔をしながら歩く。
と、その顔が何かを思い付いたようなものへ変わった。
「露天風呂ならもしかしたらいけるかも。この時期は寒いし、つぼ湯もあったはずだから」
「「「「「「つぼ湯?」」」」」」
「ああ、壺を湯船にしているお風呂があるんだ。それはいくつかあるからヴェイグも入れるかもしれない。っと、ごめん。先に行く」
そう言って仁志は少し急ぎ気味に動き出した。
エルフナインが早く来て欲しいと言うように手を振っていたからである。
「……完全に父親を呼ぶ娘じゃねーか」
「うん、そうだね。エルちゃん、仁志さんといると完全に子供モードだ」
「クスッ、見て。キャロルが只野さんに文句言ってるよ、あれ」
「あれも完全に娘、だな」
「ホントだよ。仁志先輩、すっかり二児の父親だね」
「ただ、片方は反抗期みたいだけどね」
マリアの表現に響達は揃って苦笑する。
実際キャロルの仁志への対応は反抗期のそれに似ていたのだ。
こうして仁志達はラッコがイメージキャラクターのスパ施設へと入っていく。
受付を仁志が済ませ、彼からそれぞれタオルや館内着などが入ったバッグとロッカーキーを受け取り、まずは入浴してから施設内を見て回る事になったのだ。
「じゃ、俺は風呂から上がったら休憩所にいるから」
「ええ。じゃあ私達もそうするわ」
女性陣代表であるマリアへ待ち合わせの場所を伝え、仁志は一人男湯へと向かう。
一方先んじて脱衣所へ入った響達はと言うと……
「あっ、未来、クリスちゃん、ここじゃない?」
「……そうだね。この並びにあるはず」
「だな」
ロッカーキーの番号案内を頼りに動く響、未来、クリスの仲良しトリオ。
それぞれ目当ての番号を見つけ、鍵を開けてロッカーの中へまずはバッグを置いた。
「いやぁ、何だかワクワクしてきた」
「違いねぇ。想像よりも規模がでかいしな」
「お客さんの数もあそことは違い過ぎるもんね」
「っと……その分お風呂の数も多いみたいだし、楽しみしかないよ」
「露天風呂もあるって話だし、風邪引かないようにしっかり内風呂であったまってから入れよ?」
「勿論っ!」
「入る事は確定なんだ……」
上機嫌で会話しながら服を脱いでいく響達。
どうしても上位世界へ来るとあの頃の感覚へと戻ってしまうためである。呼び出しも訓練もない頃の気持ちへと。
同じようにテンション高く服を脱いでいるのが切歌であった。
「フンフンフ~ン……ああ、楽しみデスよ。どんなお風呂があるデスかね~」
「切ちゃん、楽しみにするのはいいけどあまりはしゃぎ過ぎないでね?」
「大丈夫デスよ。アタシもそこまで子供じゃないデス。えへへ、エルやキャロルと一緒に全種類せーはするデスよ」
「……十分子供」
「ん? 何か言ったデスか?」
「ううん、何でもない」
ザババコンビが会話している後ろでは、翼と奏が服を脱ぎ終わってロッカーの鍵を閉めていた。
「これでよしっと。翼、そっちは?」
「こっちも大丈夫だよ」
「じゃ、行こうか」
「うん」
それぞれに違った魅力を放つツヴァイウィングに小さな女の子が見惚れるように動きを止めて見上げる。
そして母親だろう女性の傍へと駆け寄ると、純真な眼差しでこう尋ねて母親を困らせるのだ。
――おかあさん、どうやったらあのおねえちゃんたちみたいになれる?
ちなみにそれに対して母親は、好き嫌いせずご飯を食べていればなれると返し、十年後娘から嘘つきと文句を言われる事となる。
その母娘の近くでは、マリア達(表向き)四姉妹も手首へロッカーキーを着けてタオルを片手に浴場へと向かって動き出していた。
余談ではあるがヴェイグも一度姿を見せて服を脱いでいて、その服はセレナのロッカーの中に入っている。
「エルはセレナと一緒に行動してね」
「はい」
「キャロルは出来るだけ一人で行動しないでくれる?」
「分かっている」
「セレナ、エル達の事、出来るだけ見てあげて」
「うん、任せて姉さん」
傍から見れば外国人然としている四人だが、その会話が綺麗な日本語であるために周囲には意外な印象を与えていた。
セレナがエルフナインと手を繋ぎ、キャロルはそれを横目にしながら歩く。が、その小さな手をそっとマリアが掴んだ。
「何だ?」
「周囲の目を意識して」
「……そういう事か」
自分の外見ではまだまだ一人で行動させるのは不安が残ると周囲は思う。
そうキャロルは判断し、多少不服ではあるがマリアと手を繋いで浴場へと足を踏み入れる事にした。
「「「わぁ(ほぉ)……」」」
「あら、中々いいじゃない」
キャロル以外は以前訪れた事のある場所にどこか似てるだろうと予想していたため、所謂旅館などの大浴場のように風情を演出してある事に驚いたのだ。
そしてキャロルは初めて触れる日本の風呂文化に感心していた。
四人はまず洗い場へと向かい、そこで切歌や調、奏と翼と期せずして合流する事となる。
「えっと……姉さん、大丈夫です」
「俺とエルが両隣だ。心配いらん」
「うん、分かった」
幸いにして洗い場は元々後方からしか見えない作りになっており、しかもセレナの両隣をエルフナインとキャロルが取ったため覗き込むような心配もなくなった。
そうなれば後は余程がない限り見られる心配はない。こうしてヴェイグがセレナの腕の中へ現れる。
「さっ、体洗いますね」
「ああ、分かった。手早く頼む」
「ダメです。しっかり洗わないと」
手に備え付けのボディソープを出して泡立てるセレナ。
それを鏡で見ながらがっくりと項垂れるヴェイグと、そんな彼を横目で見て小さく微笑むエルフナインとキャロル。
そこを抜き取れば完全に仲良し三姉妹と言うしかない光景だ。
「「む~……」」
「な、何? 二人して私の事をジロジロと見て」
体を洗い終えた切歌と調はこれから体を洗おうとしているマリアの肢体を舐めるように見つめていた。
しかも、その眼差しにはどこか嫉妬や羨望が混じっている。そう、二人は感じていたのだ。マリアが以前よりも綺麗になったと。
「何だかマリアのお肌が前よりもツヤツヤしてる気がするデスよ」
「うん。以前にも増して珠の肌」
「あ、ありがとう」
「「どうやったらそうなるの(デス)?」」
「え? そ、そうね……」
そこでマリアの脳裏に浮かぶのは、仁志と二人きりでの夜の時間。
しっかりと自分の裸体を見せつけ、また彼の裸体をしっかりと見た大人の時間だった。
「…………異性の目を意識する、かしら」
若干頬を赤めながらそう答え、マリアは入念に体を磨く様に洗い始める。
まるで誰かに見せたいから磨く様に。
そんな彼女に切歌と調は直感で察したのだ。何か仁志とあったのだろうと。
こそこそと洗い場を離れて動き出すザババコンビとは対照的に、のんびりと体の泡を落としているのは翼と奏だ。
「思った以上に家族で来てるんだね、ここ」
「うん、そうだね。子供の声や姿が多いよ」
「……いいもんだよね、ああいうの」
「本当に。私も子供が欲しくなるなぁ」
「子供かぁ。あたしには縁のない話だって、そう思ってたんだけど……」
泡を全て流し終えた奏はそっと自身の腹部を触った。
「やっぱさ、変わるもんだよね、人間」
「変わるよ。一つの出会いで私達は大きな変化を起こしたじゃない」
「たった一つの出会い、か。うん、そうだ。翼達との出会いもそうだった」
噛み締めるようにそう告げると奏はゆっくりと立ち上がった。
翼もそれに呼応するように立ち上がる。
「さてと、じゃあ風呂に入るとしますか」
「そうだね。どれから入る?」
「パッと見ただけでも色々あったもんなぁ……」
互いに笑みを浮かべながら歩き出す二人。
それはこの世界では当たり前となったツーショットだ。
そして残る響達三人は洗い場を離れて内風呂で体を温めた後……
「「「はぁ~……」」」
露天風呂がある外のエリアへと向かい、そこにあった寝ながら湯に入れる、その名も“寝風呂”にて幸福感に浸っていたのだ。
低周波マッサージも兼ねているため、三人は表情を緩ませながらぼんやりと空を見上げる。
周囲が明るい事も手伝って夜空はそこまで綺麗ではなかったが、日常的な状況ではない事が三人の気分を旅行のそれへ変えていた。
「何だか軽い温泉旅行な気分だよ~……」
「だね~……」
「やっぱ空が見えるってのがでかいよなぁ~……」
星などはあまり見えないが、それでも外で風呂に入るという行為は特別感があり、三人の少女はその疲れを湯の中に溶かしていた。
「クリスちゃん」
「ん?」
「向こうに行っても私達の事、忘れないでね」
「……どうやって忘れろってんだよ、このバカ」
「むっ、クリスちゃん?」
暗に名前で呼べという響の問いかけにクリスは一瞬ではあるがたじろく。
だが、そこで傍にいるのが未来である事を思い出し、ある意味での覚悟が決まった。
「……忘れようとしても忘れられるか。響も、未来も、あたしの大事な、その、友達だ」
既に二人きりでは名前で呼ぶようになっていた響と未来。
ならば、この二人の前ではそうしようと、クリスが一歩踏み出した瞬間であった。
勿論この後響がテンションを上げて大きな声を出したため、即座にクリスと未来によって注意と仕置きが行われた事を記す。
風呂から最初に上がった切歌達年少組は渡された館内着に着替え、マリアから教えてもらった通り仁志が待っているだろう二階の休憩所へとやってきた。
「ほぇ~……すごいデスね」
「うん、全部の座席にモニターがある」
「兄様はどこでしょう?」
「えっと……同じ格好ばかりだから分かりにくいね」
「……あれじゃないか?」
キャロルの指さした方へ全員の顔が動く。
そこにはリクライニングシートを倒せるだけ倒し、脱力するように寝そべる仁志の姿があった。
「ししょー発見デス」
「周りの迷惑にならないように静かに近付こう」
「「「はい(分かっている)」」」
ちなみにヴェイグはエルフナインの腕の中で黙っていた。
ただ、少しだけ周囲の様子を見て回るように顔を動かしてはいたが。
「あ~……久々に足を伸ばして風呂に入ったなぁ」
こそこそと自分へエルフナイン達が近付いてるとも知らず、仁志は今にも寝そうな顔でモニターを眺めていた。
そこに映っているのはどこかの連続ドラマだ。ただ、彼はそれにまったく興味はなかった。
何も考えず、ただ最初から流れていた映像を見ていただけである。
と、そこで急に彼の視界が塞がれた。
「だ~れだ?」
聞こえてきたのはセレナの声。
だが仁志は気付いていた。セレナの手にしてはやや自分の視界を塞ぐ手は小さい事を。
「……声を出してるのはセレナで塞いでるのは、エル?」
そう仁志が告げると後ろの方から数人の感嘆する声が聞こえた。
それと共に視界が開けたので、仁志は体を起こして後ろを振り返る。
「おっ、みんな似合ってるじゃないか」
「えへへ、そうデスか?」
「これ、意外と可愛いです」
「うん、あと動きやすい」
装者年少組の言葉に笑みを浮かべながら仁志は目を双子の姉妹へと向ける。
「兄様、どうでしょう?」
「お、おかしなところでもあるのか?」
「いや、エルもキャロルも似合ってるなぁってね。とても可愛いよ」
「えへへ、ありがとうございます」
「ふ、ふん。別に感想など求めていない……」
嬉しそうに笑顔を見せるエルフナインと顔を背けるもどこか嬉しそうなキャロルの反応に、仁志はその笑みを深くすると財布を取り出して千円札を調へと差し出した。
「俺はここにいるから何か飲み物でも買っておいで。お釣りは返してくれるか?」
「うん、分かった。みんな、行こう」
「ししょー、ありがとデス」
「お兄ちゃんの分は?」
「俺はいいよ。一応風呂上りに飲んだから。エル、ちょっとヴェイグと話したい事があるんだ」
「分かりました。じゃあ兄様、ヴェイグさんをお願いします」
「あいよ」
ヴェイグをエルフナインから受け取り、膝の上へ乗せる仁志。
それを見てキャロルがやや呆れた顔を見せた。
「滑稽だな」
「かもな。でもいいよ。さっ、キャロルも見てくるといい。風呂上りの水分補給は大事だしね」
「お前は本当に来ないのか?」
「行きたい気持ちはあるけど、誰かが来た時に俺がここにいないと面倒だろ?」
「……それもそうだな」
どこか残念そうに言葉を返してキャロルも切歌達を追うように休憩室から出て行く。
それを見送る仁志へ膝上のヴェイグがボソッと呟いた。
「途中若干だが優しい匂いがしたぞ。キャロルもタダノと話すと嬉しいらしい」
「へぇ、それは良い事を聞いたよ。ありがとなヴェイグ」
「それで、一体何を話したいんだ?」
「ん? ああ、お湯に入れたのかなぁってね」
「そういう事か。ちゃんと入ったぞ。ただ乾かすのは大変だった」
そうしてしばらく仁志がヴェイグと話していると、程なくして響達も休憩所へ到着。
飲み物を買ってきたエル達もそこへ戻って全員揃った事を受け、仁志は施設内を見て回る事を提案した。
勿論それに反対する者はなく、仁志達はぞろぞろと団体行動を取る事になった。
シアタールームやカラオケルーム、マッサージにまんが図書館、卓球コーナーやタタミコーナーなどなど、色んな物が存在するそこは時間を潰そうと思えばいくらでも潰せる場所だった。
まんが図書館では全員が見た事のない漫画を興味深そうに見つめ、卓球コーナーでは一部が対戦で盛り上がる中、残った者達はその応援で盛り上がる。
自動販売機コーナーでは主に年少組が中心となって目を輝かせ、一階にあるオープンカフェやゲームコーナーなどを見た後、再度軽く汗を流して仁志達は帰宅の途に就く事に。
「よしっと、みんな乗ったか?」
「「はーい」」
「シートベルトは?」
「バッチリデス!」
「師匠、いつでも発進出来るよ」
「分かった。ならメインエンジン点火!」
調の言い方で仁志が悪乗りを始め、それに響達は大なり小なり苦笑した。
「すぐにそういう事を始めるんだから……」
「いいじゃん。仁志先輩らしいよ」
「そうですね。只野さんらしいです」
まるで妻のような雰囲気で苦笑する三人。
すると、突然響が手を勢いよく伸ばした。
「仁志さん! 出来れば何か食べて帰りたいですっ!」
「お前な……」
「立花らしい、と言いたいところだが、私も軽く小腹が空いたな」
「先輩まで……」
「ふふっ、そんな顔をするな。雪音はどうだ? ラーメンやうどんぐらいは食べられるのではないか?」
「そ、それは……」
恥ずかしそうに顔を赤め、クリスは顔を背けた。
壮行会は既に二時間近く前の事。
そこで満腹になる程料理を食べた訳でもないため、クリスもラーメン一杯程度なら食べられる程には空腹感を持っていたのだ。
「よし、じゃあ意見を聞こう。何か軽く食べて帰りたい人、手を挙げて~」
「「「「「「はーい」」」」」」
声を出しながら手を挙げたのは数人だが、挙手だけなら全員だった。
そう、ヴェイグだけでなくキャロルまで赤い顔で小さく手を挙げていたのだ。
それを見た仁志は嬉しそうに微笑むと、車をゆっくりと発進させる。
「じゃ、うどんにしよう。チェーン系列だけど中々美味しいところがあるんだ」
「うどんかぁ」
「アタシはきつねうどんにするデスよ。甘いお揚げがたまらないやつデス」
「じゃあ私は天ぷらうどんでもするか」
「おおっ、それもいいデスなぁ」
「兄様、うどんの種類ってどれだけあるんでしょうか?」
「そうだなぁ。基本はかけ、ざる、釜揚げにぶっかけで、レギュラーメニューはカレーや月見、天ぷらにキツネやタヌキってとこかな」
「きつねは分かりますがたぬきはどういう物が入るんですか?」
「天かす。要するに天ぷらを揚げた時に出る物だよ」
「なんでそれでたぬきなの?」
思わぬ、ある意味では当然の疑問を投げかけるセレナに対し仁志は返す言葉に詰まった。彼もそこまでは詳しくなかったのだ。
そうなればエルフナインがスマートフォンを駆使して情報を得ようとする。
この上位世界での暮らしですっかり検索する事を覚えたエルフナインは、すぐに“たぬき”の由来を調べた。
「えっと、天かすは天ぷらの具を意味するたねがない物だからたね抜きと言っていたようです。で、それを入れるからたね抜きがたぬきとなっていった、と言うのが有力だそうです」
述べられた情報に誰もが感心する中、キャロルは一人ずっと不思議そうに小首を捻っていた。
「キャロル、どうしたの?」
「……そもそもうどんとは何だ?」
そこから始まるうどんを話題にした雑談会。
何も知らないキャロル。そんな彼女へ響や切歌が中心となって説明とは名ばかりの、どのうどんが美味しいかを語る流れへとなっていったのだ。
「キャロルちゃん、最初は無難に天ぷらうどんをオススメするよ」
「ダメデス。ここはシンプルにきつねうどんを」
「シンプルならかけうどんじゃない?」
「兄様が前教えてくれたのは、うどんを一番美味しく食べるなら釜揚げだと」
「カレーうどん、オススメ」
「汁が跳ねない様に気を付けて食べないといけないけどね」
「待ちなって。キャロルも困るだろ。そんなに色々言われたらさ」
「実際困ってるぞ。正直言えば、きつねだのてんぷらだのかれーだのも分からん」
後ろから聞こえてくるやり取りに笑みを浮かべたままハンドルを握る仁志。
そんな彼を助手席に座って見つめているのはマリアだった。
「完全にキャロルも染まったわね」
「染まった?」
「ええ、この雰囲気に、よ」
「……違いない」
揃って小さく笑みを浮かべる二人は、まさに夫婦と言った雰囲気だった。
この後訪れたうどん店にて、キャロルは仁志にメニューを委ね、彼と一緒の釜揚げうどんをエルフナインと二人で食べる事になる。
その食感や味にキャロルは首を傾げながらもきちんと食べ切り、更に響や切歌から天ぷらやきつねなどの味も少し味わい、興味を覚えたようにメニューを眺めるのだった……。
車を駐車場へ止めに行った仁志さんに先んじて、みんなで仁志さんのお家へ入る。
リビングもすっかり冷えてて暖房を入れながらエルちゃん達はこたつで温まり、私達はサンタギアを展開した。
というか、カレンダーを見てこっちはもうすぐクリスマスなんだって気付いた。
「ただいまぁ」
ある程度リビングが温かくなった辺りで仁志さんが戻ってきて、私達の姿を見てしばし硬直。
「えっと、仁志さん?」
「っああ、ごめん。こんな売り子いたら店のケーキ予約爆上がりだろうなぁって思っちゃって」
「「「「「「「「「「「「ケーキの売り子(うりこ)?」」」」」」」」」」」」
そこで仁志さんは今のお店でやってる試みを教えてくれた。
私やクリスちゃん、未来に調ちゃん、そして奏さんは何となくだけど懐かしく思うような話を。
エルちゃん達はただクリスマスケーキって言葉に目を輝かせてた。
そこで仁志さんが一枚のチラシを見せてくれた。
それはお店で張り出してるケーキのチラシだった。
「うわぁ、美味しそう……」
「兄様、これはお店で作るんですか?」
「まさかまさか。出来上がった物を仕入れて売るんだよ」
「残念だなぁ。あたしがいたら一つは絶対売れたんだけど」
「あぁ、あの浪人生か。奏が辞めて一週間ぐらいで深夜では見なくなったよ」
若干仁志さんが微妙な顔をした。
で、何故かそれに奏さんが嬉しそうに笑った。
「クリスマス商戦ってものね」
「まぁそうとも言えるかな。ケーキとチキンだけだけどね」
そう言って仁志さんは時計を見た。
時刻はもう10時を過ぎてた。あっという間なんだなって思う。
「エル、一度本部へ連絡をしてくれないか? セレナ、奏もそれぞれの世界へ連絡を。もし時刻をこっちが根幹世界へ合わせたのなら、今はそっちと同調してるかもしれない」
「分かりました。姉さん」
「うん」
「さてさて、どうだろうね」
結果、三人が通信して確認したら時刻が一致した。
これには師匠達も驚いて、明日の朝になったらまた通信をする事になった。
そこでも時刻が合うとすれば、今回はどうしてそうなったのかを考えないといけないからみたい。
で、さすがにそろそろエルちゃん達は寝た方がいいとなって、エルちゃん、キャロルちゃん、セレナちゃんが最初に歯磨きを始めた。
仁志さんは一人二階へ上がって暖房をつけて、そのまま着替えてくるみたい。
「えへへ、ししょーサンタギアを気に入ってたデスね」
「うん、可愛いって言ってくれた」
「それにしてもクリスマスケーキ、か。あたしがこっちに来た時はまだ十一月だったんだけど」
「時間の流れ方がおかしいままです。このままじゃ、最悪只野さんだけ歳を重ねていく事に……」
「ああ、本気で勘弁だっての。ただでさえ歳が離れてんだ。逆なら構わねーけど……」
「私達が一つ年齢を重ねる間に、仁志さんが二つも三つも重ねるのは、嫌だな……」
「そう、ね……。本当に、それは嫌」
「せめて、せめて同じ場所にいられないなら、同じ時を生きたいです」
私がそう言うとみんなが頷いた。
だって、好きな人と同じ世界にいられないどころか同じ時間さえも生きられないって辛いよ……。
「なぁ、もしかして時間が一致したのは、タダノも入れた全員が揃ってるからじゃないのか?」
そんな時、ヴェイグさんが言った言葉に私達は顔を上げた。
どういう事って意味じゃなく、そうかもしれないって思って。
「依り代と、その欠片を持ってる人間が全員揃った。だから時間のズレがなくなったって事は考えられないか?」
「ヴェイグ、いい着眼点だよ。その可能性は十分ありえる」
「ええ。この事はまた明日にでも話しましょう。さすがに今夜はもう、ね」
「時間も時間だし、エルやセレナも眠くなってくる頃だろうな。キャロルは……どうだろうか?」
「意外とあいつも眠いかもしれねーぞ、先輩。色々と見慣れない物や知らない場所に触れたからな。疲れてるだろ」
「私達だって結構疲れてるしね。あそこ、色んなお風呂あって楽しかったし」
「デスデス。正直マンガはゆっくり読んでいたかったデスよぉ」
「あれが無料で読み放題。ネカフェとは違う意味でお得」
「お風呂も入り放題だし、休憩所や映画もタダだもんね」
至れり尽くせりってああいう事じゃないかなって思う。
飲み物もお水で良ければタダだしね。
……なんて言ったらまたクリスちゃん辺りに呆れられそうなので黙っておこう。
その後エルちゃん達が戻ってきたら、次は切歌ちゃんと調ちゃんが歯磨きに。
そしてエルちゃん達はすぐにこたつの中へと入る。
よっぽど気に入ったんだなぁ。キャロルちゃんまでトリコにするこたつ、恐るべし!
切歌ちゃんと調ちゃんの次は私と未来。
何て言うか、これも大家族か合宿みたいで楽しいって言うと……
「うーん……たしかに家族みたいかも。合宿とは……違うかな?」
「そうなんだ?」
「うん。合宿だとしたら、まずこんな時間まで起きてちゃダメって言われるから」
成程、納得。さすが中学時代に陸上やってた未来は合宿ってものをよく知ってるや。
歯を磨いてうがいをしたら翼さんと奏さんと交代するためにリビングへ。
そこでは、マリアさんが眠そうなエルちゃんとセレナちゃんをこたつから出して、切歌ちゃんと調ちゃんに二階へ連れて行くように言ってて、お母さんみたいだなって思った。
「キャロル、ヴェイグをお願い出来る?」
「仕方ないな。おい、上へ行くぞ」
「いやだ……。おれはここでねる……」
うわぁ、寝惚けたヴェイグさん、可愛い。
クッションにうつ伏せになって、こたつからトロンとした表情で顔だけ出してるの、すっごく可愛い!
「風邪を引くぞ」
「……だいじょうぶだ」
「ちっ! 根拠のない事を言うな。ほら、掴まれ」
「ううっ……あったかさがにげる……」
キャロルちゃんとヴェイグさんのやり取りはとっても心があったかくなる。
あと、マリアさんが口元を隠して喜んでる。
多分だけど、ヴェイグさんが可愛いからだろうなぁ。
翼さんも小さな声で「可愛い……」って言ってるし、クリスちゃんさえも「あんなぬいぐるみ欲しい……」って呟いてるし。
結局ヴェイグさんは、キャロルちゃんに少し強引にこたつから連れ出されて二階へと運ばれていったのでした。
するとそれと入れ替わりに冬仕様になった寝間着の仁志さんが下りてきた。
「いやぁ、階段の寒さは凄いな。眠気マックスだったらしいはずのエルとセレナが揃って目を覚ましたぞ」
「そう」
「ああ。で、二人して布団へ入るなり即座に眠気全開へ戻ったけどな。しかも俺の布団に」
「は? 仁志のかよ?」
「そうそう。まぁ、俺が中に入って温まってたからなんだけど」
そう言って楽しげに笑う仁志さんは本当にお父さんって感じ。
だからかつられてこっちも笑っちゃう。
だって想像出来たから。仁志さんのお布団に入って幸せそうに眠るエルちゃんとセレナちゃんが。
ちなみにキャロルちゃんはヴェイグさんと一緒に奥の部屋に敷いたエルちゃん用の布団へ入ったらしい。
そこでセレナちゃんも寝る事になってたから、エルちゃんと一緒に寝ちゃった事でキャロルちゃんはマリアさんが来るまで一人になる事が寂しいんだろうって、そう仁志さんは予想してた。
切歌ちゃんと調ちゃんは仁志さんともう少しお話したいからって布団に座って待ってるみたい。
なので私と未来も二階へと向かう。
仁志さんが言ったように寒い中階段を上がって、寝室へ入ると一気に温かくなる。
「あっ、響さんと未来さんデス」
「聞いたかもしれないですけど、エルとセレナが師匠のお布団で寝ちゃったんです」
「……みたいだね」
私と未来の視線の先には天使の寝顔をしたエルちゃんとセレナちゃんがいた。
そうやって寄り添うように寝てると本当の姉妹みたいだ。
起こさないように静かに私と未来は自分達の布団へ移動してその上に座る。
「そうだ……」
ふとキャロルちゃんが気になって、私はそっと奥側の部屋を覗いて見た。
すると、キャロルちゃんも既に寝てた。ヴェイグさんと一緒に寝てる姿は、まるでこっちにいた頃のエルちゃんみたいで笑みが零れちゃうぐらい可愛い。
「おっと、本当に寝てるね」
「うん、可愛い寝顔」
そうしてると奏さんと翼さんもやってきて、後はマリアさんとクリスちゃん、そして仁志さんを待つだけに。
「何だか不思議だね。あの頃でもこういう事はなかったし」
「うん。だからこそ、こっちに来たって感じがするけど」
そう未来が言うとみんなが頷いた。
たしかにみんなで集まった事は何度もあるし、お泊りだってあの旅行でしてる。
けど、パジャマで全員集合って実は初めてかもしれない。
その内マリアさんとクリスちゃんも上がってきて、残るは仁志さんだけ。
その待つ間、エルちゃんとセレナちゃんを起こさないようにみんな黙ってた。
二人の寝顔を見つめて、ただただ笑顔を浮かべてたんだ。
「っと、お待たせ、でいいのか?」
遂に仁志さんが来た事で全員勢揃い。ただ、エルちゃん達はもう寝てるけど。
「う~ん、何だか俺の場違い感が凄いな」
「そうですか?」
私達の事を見て仁志さんが苦笑する。
一体どこが場違いなんだろう?
「仲良し女子の集いに男が紛れ込んだ感がどうしても、ね」
「まぁ、それはある意味間違ってないんじゃない? なっ、マリア」
「ふふっ、かもしれないわ。実際、仁志と出会う前はそうだったもの」
「知ってる。それが、どうしてこうなれたのか自分でも不思議だよ」
「それは只野さんが只野さんだったから、としか言えないかも。ねっ、響?」
「うん、そうだね。仁志さんがエッチな人だったらこうはなれてないです」
心からそう思う。この人は私と出会った時、真っ先に私の事を思って色々話をしてくれた人だ。
騙すとか嘘を教えようとかせず、ただ素直に私が危なくならないように心配してくれた人だ。
そして、それを私以外のみんなにもして、出来るだけ笑っていて欲しいって言ってくれた人だ。
「あー、うん。自分の欲望に素直な生き方してたらそもそも依り代がなかったと思うよ。選ばれてないんじゃないかなぁ」
「自分よりも相手の事を心配出来る仁志だから選ばれたのかもな」
「デスよ。ししょーだから依り代も、星の声も選んでくれたデス」
「うん、きっとそう。師匠だから選ばれた」
「かな? もしそうなら嬉しいよ。これからも依り代に愛想尽かされない生き方をしないとな」
そう言って仁志さんはそっと寝てるエルちゃんの頭を撫でた。
その瞬間、嬉しそうにエルちゃんが笑って、みんな笑顔になる。
「あれ? そういえばキャロルとヴェイグは?」
「奥の部屋で寝てます。エルちゃんの布団です」
「そうなのか。じゃ、マリアの布団は空いてる?」
「当然空いてるけど……」
「じゃあ、布団を入れ替えてやろう。悪いけど誰かギアを展開してくれないか? 出来れば三人がいい。二人は俺の布団を移動させて、一人はマリアの布団をこっちへ運んでくれ」
なのでマリアさん達ドライディーヴァがギアを展開して動き出した。
翼さんと奏さんがエルちゃんとセレナちゃんが寝てる布団を持ち上げて、マリアさんが自分の布団を運んできたのを見て、二人がエルちゃんとセレナちゃんごと奥の部屋へ布団を移動させる。
入れ替わるように仁志さんの布団があった場所にマリアさんの布団が来たところで、仁志さんが懐かしそうに笑った。
「何だろうなぁ。これもある意味俺の布団みたいなもんだったな」
「勝手な事言わないの。まぁ、たしかに私以外でこれを使ったのは貴方だけだけど……」
「ちょっとした冗談だって。っと、どうやら無事移動完了らしい」
仁志さんにつられるように顔を奥の部屋へ向けると、翼さんが静かにふすまを閉めるところだった。
きっと明かりや声でエルちゃん達が起きないようにって配慮だ。
翼さんらしいって思って笑顔になる。きっといいお母さんになるだろうな、翼さんも。
「いや、いいもの見れたよ。四つの可愛い寝顔をさ」
「ああしていると本当に姉妹かと錯覚してしまうぐらい、エルもキャロルもセレナも愛らしい寝顔だった」
「そう。じゃあ、あとでこっそり見せてもらいましょ」
ドライディーヴァのそういうやり取りは何だか新鮮かも。
三者三様の良いお母さんグループって感じがするし。
「でも、ししょーはマリアの布団で寝るとして、マリアはどうするデス?」
その瞬間、若干の間が空いた。
「セレナの布団で寝るわ」
絶対嘘だって思った。きっとマリアさん以外の全員がそう思ったはず。
「仁志先輩、いっそあたしと翼と一緒に手前の部屋で寝ようよ」
「ダメだっての。それよりもここで寝かせた方が安心だ」
「えっと、安心も何もないだろ? そもそもそういう事出来ないし、この状況なら」
仁志さんが不思議そうに首を傾げるけど私はそうは思わない。
だって、その気になったら一階へ下りてお風呂場でエッチな事出来るもん。
「それよりもせっかくまたこうしてみんな揃ったんだ。なので何か今じゃないと話し合えない話をしよう」
そう仁志さんが言ったら前に話した名乗りの話題を切歌ちゃんが出した。
結局全員で名乗る事がなかった事を寂しく思ってたらしい。
で、ならと仁志さんが全員での名乗り口上を考える事に。
「う~ん……人数がバラバラでも通用するってなると……」
「そもそもどういうのがあるんだ?」
「銀河を貫く伝説の刃っ……とか、人の命は地球の未来っ……とか」
「カッコイイデス……」
仁志さんの傍には切歌ちゃんと調ちゃん、それと背後にこっそりクリスちゃんが座ってる。
向かいには私や未来、翼さんに奏さんとマリアさんだ。
こうして見ると、まるで仁志さんを囲むような感じに座ってるなぁ。
「じゃあ、希望って言葉は入れたい」
「なら光もデス」
「奇跡は……キャロルちゃんが嫌がりそう」
「音に関係する言葉は欲しいわね」
「あるいは歌だろうか」
「あとは何があるかな?」
「そうだなぁ……」
「こっちにあったっていうあたし達の作品名を戦隊みたいに言うのはどうだ?」
「ん、了解。参考にさせてもらうよ」
そんなやり取りさえも久しぶりだ。
住んでる世界は違うけど、その心は、願う事は同じ仲間。
それがこうしてまた一緒に過ごせてるのが嬉しい。
その中心にいる人は、きっと自分の事をどこにでもいるような存在って、そう言うはず。
だけど仁志さん、貴方は自分をただの人だって言うけど、もう私達にとっては特別な人なんです。
エルちゃんもヴェイグさんもキャロルちゃんさえも、勿論私だって仁志さんと会えなくなったらきっと泣き続けちゃうぐらいに。
今まで出会ってきた人達はみんなある意味特別な人だけど、仁志さんはその中でも特に違う存在だ。
だって、本当に一般人だから。組織に属してる訳でも、錬金術やギアが使えるでも、ましてや師匠みたいな力がある人でもない。
本当に、道を歩いている人達のほとんどと同じような存在だ。
そんな人が、たった一人で私達を助けようと必死になってくれて、考えてくれて、笑顔にしてくれた。
今までで一番厄介な相手と戦ったのに、その戦いを最後まで支えてくれたんだから。
「あっ、こういうのはどうだ? 希望と輝く光のシンフォニー。戦姫絶唱、シンフォギア」
その名乗り口上にみんなが笑う。きっとエルちゃん達も今の聞いたら笑顔になってくれるはず。
みんなを笑顔に出来る人。みんなを笑顔にしようとする人。
うん、やっぱりそうだよ。
仁志さん、貴方は十分ヒーローです!
とりあえずはこれにて一段落です。
以降は……アンケート結果を参考に考えます。
まぁ続けるとしてもこの続きからです。
……エロでもエロじゃなくても大変そうだなぁ(汗