シンフォギアの消えた世界で アナザー   作:現実の夢想者

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ほのぼの話(のはず)です。


日々平穏?

 その日、俺は大みそかを控えてどうしようかと卓上カレンダーを前に唸っていた。

 

「う~ん……元日を休みにしたのはいいけど実家へ帰るかどうか迷うなぁ」

 

 何せ大晦日は勤務だ。明けの状態で実家へ帰るにしても、一旦着替えたりシャワーを浴びるなりして身なりを整えないと色々言われるに決まってる。

 で、そうやって色々気をつけないといけないぐらいなら、ここに残ってダラダラと過ごして体を休めた方がいいような気もするのだ。

 

「子供がいれば話は違うんだが……」

 

 もしそうなれば確実両親が帰ってこいと言うだろう。

 まだ会わせてはいないが、エルやキャロルなんて絶対気に入って可愛がるのが目に見えているし。

 

「どう違う?」

 

 聞こえた声は俺のすぐ横でこたつに入っているキャロルのものだ。

 丁寧に白いスジを除去したみかんを口に頬張り、その甘さに満足そうに一瞬笑みを見せる辺りが可愛い。

 ただ俺はそれに気付いてない振りをしてカレンダーを見つめ続けた。

 そうしないとキャロルが可愛い笑みを見せなくなると分かっているからだ。

 

「簡単だよ。俺の両親が孫に会わせろって言ってくる」

「成程な。納得だ」

 

 そう言ってキャロルはみかんをまた口へ入れる。

 今度はその顔が若干歪む。すっぱかったのだろう。そんな顔も可愛い。

 

「で、そろそろ教えてくれてもいいだろ?」

「何をだ?」

「何でキャロルがここへ来てくれたのか」

 

 俺がそう聞くとキャロルは気恥ずかしそうに顔を横へ向けてみかんを食べるだけだ。

 実は来てからずっとこうなのである。会話自体はしてくれるし、不機嫌という訳ではない。

 ただどうして来たのかと聞くと口を閉じる。仕方ないので別の話題を振ったり、あるいは無視していると口を開くと、そんな事の繰り返しなのだ。

 

 ただ何となくだけどエルが一緒じゃない辺りで察しはつけられる。

 おそらくだがあの時計の事だろう。

 でも自分から言い出す切っ掛けがないからただ時間を潰すしかないと、そんなところかな。

 

「まぁいいんだけどね。ここはある意味フリースペースだ。好きな時に来て、好きな時に使ってくれていい」

「それでいいのか?」

「いいよ。もし許されるならエルとキャロルがここで暮らしてくれてもいい」

「……無理だな。時間経過の差がある」

 

 そう言うとキャロルはどこか残念そうにこたつ机に頭を乗せた。

 

「いっそお前がこちらへ来い。住家も用意出来る」

「嬉しいお誘いだけど遠慮させてくれ。両親と音信不通にはなれない」

 

 こっちを見つめるキャロルは子供の顔をしていた。

 どうしてそんな事を言うのと、そんな心の声が聞こえてきそうな顔だ。

 だからそっとキャロルの頭を撫でる。

 普段なら嫌がるか不満そうな表情をするだろうキャロルが、この時だけは何も言わずに撫でられたのには驚いたけど。

 

「キャロル」

「何だ?」

「俺の事、あの男とかお前って呼ぶのは構わないんだけどさ」

「ああ」

「出来ればもう少し別の呼び方してもらえたら嬉しいんだけど、どう?」

「……例えば?」

「そうだなぁ……只野は?」

「……嫌ではないが他にはないのか」

「他? じゃあ……おじさん?」

 

 ずっとキャロルを撫でながら会話する。

 どことなくキャロルが眠そうになっているのはこたつの魔力だろうか。

 もしそこに俺が撫でてるからというのが一因としてあるのなら結構嬉しいんだけども。

 

「……小父さん、か」

 

 ポツリと呟いてキャロルがこっちを見つめた。

 その表情は何とも言えない感じだった。嫌じゃないが呼ぶのに抵抗があるって、そんなとこだろうか。

 それでも俺はキャロルの頭を撫で続けた。エルもこうしてあげると喜んでくれたし、セレナやザババの二人もそうだった。

 多分年少組はスキンシップにどこか飢えてるんだと思う。キャロルもお父さんを亡くしてからはそういう機会を失っただろうし、近い物があるのかもしれない。

 

「まぁ、無理にとは言わないから。今まで通りでも嫌じゃないし」

「小父さん」

「うん、そうやって呼んでくれても……え?」

 

 思わず手を止める。視線の先にはちょっとだけ恥ずかしそうな顔をしたキャロルがいた。

 

「ふ、二人だけの時はそう呼んでやる。それでいいか?」

 

 まるでいつかの響やクリスみたいだなと思いながら、俺は笑顔を返して止めていた手を動かした。

 

「ああ、十分嬉しいよ。ありがとな、キャロル」

「……別に大した事じゃない」

 

 それから5分と経たずにキャロルは夢の世界へと旅立った。

 なので俺は二階へ行き、エル用の布団を敷いてからリビングへ戻り、キャロルを抱えて階段を上る事に。

 布団へ寝かせたところで俺も昼寝でもしようと思って隣に布団を敷いて眠った。

 

 で、目を覚ましたら、何故かキャロルだけじゃなくてエルまで俺の布団で寝ていたのには驚いた。

 後で聞いたら、こっちへ遊びに来たエルはリビングに誰もいない事で寝室にいると察して階段を上ったらしい。

 そこで既にキャロルが俺の布団で一緒に寝てるのを見てズルいと思ったらしく、ならば自分もと空いていた左側から布団へ入り、俺にくっつくように寝たのだそうだ。

 

「兄様とキャロルを見てたら、僕も同じ事をしたいって思ったんです」

「そっか」

「お、俺は別に寝惚けてこちらの布団に入っただけで……」

「うんうん」

「そもそもキャロルはどうして一人で兄様の家へ遊びに行ったの? 僕も誘ってくれれば良かったのに……」

「それは、その……お、お前にはやりたい事が沢山あると思ってだな」

「例えば?」

「ぷ、ぷらも、だったか? あれだ」

「へぇ、エル、まだプラモ作ってるんだな」

 

 俺を挟んで繰り広げられる姉妹の会話に笑みを浮かべていたが、まさかまだエルがプラモ作りを続けてくれていたとは驚きだ。

 向こうには向こうのアニメや特撮があるのでそれを教えてもらおうと思ったが、少し考えて止めておいた。

 それはいつか向こうへ行って、ゆっくり出来るようになったらの楽しみにしようと思ったからだ。

 

 エルが楽しそうにプラモ関係の話をしてくれるのを聞きながら、俺はキャロルへも適度に話を振る事に終始した。

 キャロルはまだ趣味のようなものがないらしく、エルがプラモを作るのを眺めているぐらいらしい。

 なのでエルからキャロルにも何かオススメの趣味はないかと言われてしまった。

 

「一緒にプラモって言うのは?」

「俺はああいうのは見てるだけでいい」

「ふむ……じゃあ……」

 

 エルはあの日々で何でも興味を示してくれたし、そもそも研究者という一面があった。

 細かな事も嫌がる事なく出来るし、何よりプラモを勧めた理由はWをエルが大好きになったからだ。

 こうなるとキャロルにも好きという前提があった方がいい。ただ、今の俺じゃキャロルの好きな物なんて……。

 

「あっ、ゲームはどうだろう?」

「「ゲーム?」」

「錬金術師が主役のゲームがあるんだ。人気シリーズだし、触れてみてもいいんじゃないかな?」

「ほぉ、興味はある。どういうものだ?」

「ちょっと待ってくれ。とりあえず布団から出よう。このままじゃまた寝るしな」

 

 そうして寒さに体を縮めるエルやキャロルを先導する形で階段を下り、リビングへ入ると二人は我先にとばかりにこたつの中へと入った。

 それが可愛らしくて思わず笑みが浮かぶ。俺もこたつへ入り、スマホでアトリエシリーズと入力して検索。

 

「……これだよ」

 

 スマホをエルとキャロルの前へ置いて、大体の概要というかどういう内容かを把握してもらう事に。

 二人はスマホの画面を見ながら時々ふんふんとばかりに頷いていた。

 

「兄様、世界を救うのはもう飽きたってどういう事ですか?」

「えっと、従来のRPG、つまりロールプレイングゲームはこの国だと勇者が世界を救うって系統が主流だったんだ。で、この作品はそういうのが目的じゃないよって事を表したキャッチコピーだよ」

「成程な。それだけでも俺は気に入ったぞ」

「僕もちょっと気になるかも。錬金術師じゃなくて錬金術士って辺りも含めて」

「じゃ、出来るようにゲーム機買うか。どれなら出来るか見せてくれ」

 

 こうして年を越した辺りでリビングにゲーム機が一台増える事に決まる。

 俺からキャロルとエルへのお年玉としてだ。

 

 それからのキャロルは人生で初めて触れたTVゲームにドハマりし、暇さえ出来るとこっちへやってきてリビングでゲームをやるようになり、エルもそれに付き合う形でやってきて姉妹仲良くゲームを話題に意見交換や感想を言い合うなど、とても微笑ましい時間を過ごしていくのだ。

 

 そしてある時こたつに入りながらキャロルがゲームをする様を見て、俺はとても子供らしくなったなと思う事となる。

 

 そうそう、可愛い双子姉妹がゲームをやりに来るだけでなく、時には切歌達なども交えてパーティーゲームをやるようになったりと、これからの俺達の生活に欠かせない物となる事も追記しておく事にする……。

 

 

 

 元日は実家へ帰る事に決め、クリスマスを越えたある日の事、俺はいつものように店から帰宅し飯を食べ、散歩をしてから汗を流して仮眠を取った。

 で、目を覚ました時にはもう時刻は午後四時を過ぎていて寝室は真っ暗。

 布団を出た瞬間の寒さに意識を否応なく覚醒させられながら階段を下りていると、何故かリビングから人の気配がする。

 

「誰か来てるのか?」

 

 首を傾げながらドアを開けると暖気と共に視界に愛らしい笑顔が二つ入ってきた。

 

「「おはよう(デス)、師匠(ししょー)」」

「……おはよう、切歌、調。それといらっしゃい」

 

 こたつに入りながら出迎えてくれたザババコンビに言葉を返し、俺はドアを静かに閉める。

 と、そこである事に気付いた。切歌と調がエプロンを着けている。

 

「もしかして二人して晩飯を?」

「デスよっ!」

「それと、出来ればお泊りもさせて欲しい」

「泊まり?」

 

 調と切歌が言うには、今日は本来マリアと一緒に過ごせるはずだったのだが仕事の関係で駄目になり、ならばと夕食用に買った材料を持って俺にご飯を二人で作って食べさせようと思ったらしい。

 マリアが駄目になっていなければなかった話とはいえ、俺は弟子を自称してくれる可愛い二人に心から感謝を述べた。

 既に下準備は終わっているらしく、後は俺が起きるのを待っていたそうだ。本当に何から何まで頭が下がる。

 

 で、いっそご飯を作って食べたらさよならじゃ寂しいからと、それもあって泊まりにしたいとの事だった。

 そう言われたら俺も拒否は出来ない。弦十郎さんの許可も取っているとの事で、ゲートリンクがあるおかげで緊急時も連絡可能というのがその裏にはあるようだ。

 

「じゃ、ししょーはここで待ってて欲しいデス」

「美味しいご飯作るから」

「分かった。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 幼な妻な雰囲気を醸し出す女子高生二人のエプロン姿に幸せな気持ちとなりながら、俺は出来上がるまでリビングで待つ事に。

 とはいえ本当に何もしないと言うのもどうかと思ったのでテーブルを拭いたりするぐらいはさせてもらった。

 

「切ちゃん、野菜はお願い。私はお肉をやるから」

「ガッテンデス」

 

 今晩の献立はまだ教えてもらっていないが、何となく鍋なんじゃないかとは思う。

 それにしてもいいものだ。あの頃を思い出すよな、やっぱり。

 あの平屋暮らしの終盤は、マリアがバイトでいない時がこんな感じだった。

 調が切歌やセレナを指導する形で夕食を作っていて、エルは今の俺のようにテーブルを拭いたり、あるいは食器を用意したりしてたっけ。

 で、それを俺とヴェイグが居間から眺めてるって感じだった。

 それを懐かしいなと思うぐらいには、もうあの暮らしは過去になってしまっている。

 

 リビングでボケ~っとしていると、やがて二人が戻ってきて同じようにこたつへ入る。

 どうやらあとは少し待つだけらしい。やはり鍋かと思ってワクワクしながら待つ事に。

 

「そういえばししょー、ゲーム機買うって聞いたデスけど」

「エルから?」

「うん。でもキャロルも教えてくれた。面白そうな物を教えてもらったからって」

 

 実はザババコンビはエル繋がりでキャロルとも仲が良いらしく、お姉ちゃんとは呼ばれないものの慕われてはいるようだ。

 特にエルが切歌に趣味が近いためか、調はキャロルからよく相談を受けるのだとか。

 GXを知っている身としては色々と感慨深くなる話だ。あのキャロルが今や可愛い女の子をしてるんだもんなぁ。

 

「ああ、うん。二人して楽しそうに話してたよ」

「アタシもこっちのゲームやってみたいデス! ししょー、何かオススメないデスか?」

「え?」

「知ってるかもしれないけど、私達ゲーム好きでよくやってる。こっちじゃ色々あって出来なかったけど……」

「デスよ。でも、あの頃はガガガとかGガンとか、面白い物を沢山ししょーが教えてくれたデスから問題ナッシングでした」

「うん。けど、今後は逆にああいう時間の使い方の方が難しいかも」

 

 成程。あの頃はこっちで生活していた。その中で寝る前やバイト前に夕食の支度前を視聴時間に当てられた。

 けど、今後は短時間しかこっちにいられないか短期間だ。以前のような長期間で見る事は出来ない。

 その点ゲームなら物にもよるが好きな時にセーブ出来て中断が可能。上手くすれば向こうへ持っていってやる事も出来る、か。

 

「じゃ、二人にはあれがいいかもしれないな」

「「あれ?」」

 

 今人気の据え置きでも持ち運びでも使えるゲーム機。それを二人にはプレゼントしよう。

 祝えないかもしれない誕生日プレゼントだ。そう言えば二人も断れないし喜んでくれるはずだと思った。

 案の定そう告げると二人は嬉しそうに笑ってくれた。代金も動画収入の方から出すので心配ないとも付け加えれば完璧だ。

 

 で、今はスマホで二人へプレゼントするゲーム機を見せている。

 

「おおっ、これデスか」

「知ってるの、切ちゃん」

「とーぜんデス。本屋さんでバイトしてた時、攻略本とかも少しだけ関わらせてもらったデスから」

「そうなんだ」

 

 えっへんと胸を張る切歌につい笑みが零れる。

 本当に可愛いなぁ。ただ、可愛いだけじゃない事も今の俺は知っている。

 

 ……今夜仕事で良かったかも。じゃなかったら確実二人と……なぁ。

 

 その後二人は様子を見にキッチンへと向かった。

 俺は鍋敷きをこたつの上に置いておこうとその後を追う事に。

 

「よっと……どうデスか調」

「……うん、もう大丈夫そう」

 

 あの二人を奥さんにもらったら今の光景が日常になるんだろうかと、そんな事を考えながら鍋敷きを手にリビングへと戻る。

 鍋敷きをこたつ机の上に置いたら次はお椀を三人分用意し、ついでにコップも三人分運ぶ。

 後は飲み物をと思ったところで両手で鍋を持つ切歌と片手に紙パックの緑茶を持つ調が現れた。

 

「お待たせデース!」

「師匠、お茶持ってきたよ」

「ありがとう。お椀とコップは用意してあるから」

「うん、分かった」

「っと、これでいいデスね。調、調、お箸をお願いするデス」

「はいはい」

 

 そこからは鍋を囲んで賑やかな食事となった。

 今回の鍋はごま豆乳鍋。優しい味で油揚げや豆腐との相性が抜群。

 野菜や肉も優しく包むその味に、三人して笑顔が止まらなかった。

 〆のうどんがまた美味しく、終わってみれば大満足の晩飯だった。

 

 ちなみにごま豆乳鍋を選んだのはマリアのためだったらしい。

 美容と健康のためのチョイスだそうだ。それを聞けば本人は悔しがる事だろう。人気者も大変である。

 

 後片付けまで二人にお任せして、俺は風呂の支度をする事に。

 可能ならこのまま二人と楽しく過ごしたいけどそれは叶わぬ願いだ。

 店長が土壇場で休むなど論外だし、何よりオーナーに迷惑がかかる。

 

「ししょーししょー、今度のお休みいつデスか?」

「休み? 明日だけど?」

「明日か……。切ちゃん」

「デスね」

 

 何かをやり取りして頷き合う二人を眺め、俺は何だろうと首を傾げる。

 すると二人はこっちを見てきた。

 

「実は私達、明日から連休」

「ああ、土日って事ね」

「デス。なので予定も訓練ぐらいデス」

「成程」

 

 以前だったら分からなかった事も今は分かる。

 何せ二人して女の顔をしているからだ。

 

「……明後日までここで寝泊まりしてくれるか?」

 

 そう問いかけた瞬間、二人が嬉しそうに頷いてくれた。

 さてと、こうなると明日仮眠を取った後散歩を兼ねて駅前のドラッグストアへ行っておこうかね?

 確実にアレを使う羽目になりそうだし、な。

 

 そう思ってると、二人揃って体の位置を俺へ近付けるようにこたつを移動する。

 そしてその直後、俺の股間を触る二つの手があった。

 

「切歌? 調?」

「師匠、ちょっと暑くない?」

「お鍋とおこたで汗かいちゃったデスよ」

「……こたつの電源切ったから」

 

 その言葉に二人が妖艶に微笑むとこたつの中へともぐる。

 俺はチラリと時計を見た。

 

「午後六時、か……」

 

 勤務開始まで四時間。いろいろ考えると家を出るまで三時間四十分あるな。

 なら、九時ぐらいまでは平気だろうと、そんな事を考えている間にもザババコンビはしっかり行動していた。

 

「……切歌、調、頼むから零さないでくれよ?」

「当然。師匠の子種、絶対零さない」

「しっかり飲み込んでみせるデス」

「お願いするな?」

 

 こたつ布団を捲り上げて見えた愛らしくも淫らな笑顔へそう告げ、俺はそのまま二人のしたいようにさせた。

 いっそ駅前の散歩には二人も連れて行こうか。アレを選ぶ時に意見を聞いてみたい、なんて下手したら捕まるかもしれないから止めておこう。

 

 やがて聞こえ始める淫靡な水音。くすぐったさにも似た感覚を味わいながら、俺はこたつの中へと両手を入れて切歌と調の頭を撫でた。

 きっと今日の勤務は普段よりも辛く感じるだろうな。体力温存しておきたいけど、果たして二人がそれをさせてくれるかどうか。

 

「……俺、死んだら地獄行きだなぁ」

 

 心の底からそう確信して俺は快楽に身を委ねる事にした。

 踏み止まっていた一線を一度でも越えると人間は弱くなるんだと、そう実感しながら……。

 

 

 

「そろそろ時間じゃないか?」

「……もうちょっとだけ」

 

 俺の腕の中でもぞっと動く可愛い存在。

 柔らかな感触と甘い匂いがしてきて、正直またすぐにでもスイッチが切り替わりそうになるけど何とか抑える。

 何せ今俺がいるのは自分の借りてる家でもなければ、そもそも俺の暮らしている世界でさえなかった。

 根幹世界のとある場所にある所謂愛が名前に入っている宿泊施設。そこの一室に俺はいた。

 

 事の始まりは今から十時間以上前までさかのぼる。

 夜勤明けで寝ていた俺を何者かが優しく揺り起こしたのだ。

 目を開けて視界に入ってきたのは銀髪の可愛い女性、クリスだった。

 

――クリス?

――寝てるとこ悪い。カレンダー見たけど、今日休みだよな?

――え? ああ、うん。

――ならいい。何も言わず一緒に来てくれ。あたしには時間がないんだよ。

 

 そうして俺はクリスと一緒に根幹世界へと移動し、そのまま連れられるままに現在地へと到着したのだ。

 さすがにその頃には俺も意識がしっかり目覚めていたので、どういう事か説明をと聞くとこう返された。

 

――あたし、明日にはこの国を離れるんだ。

 

 もうそれだけで分かった。しばらく俺と会えなくなる。ならその前にせめてって、そういう事だろうと。

 

 まだ日も出てる内から俺とクリスは互いを求め合った。

 当分会えなくなる。それも今までと違って会おうと思えば会えるという訳じゃない。

 物理的にそれが出来ない。だからこそクリスは、おそらくだけど長期休暇になるまで俺と会えなくてもいいと思えるぐらい繋がっていたかったんだと思う。

 

 もうホテルの部屋から一歩も出ず、ずっと俺はクリスと一緒にいた。

 トイレ以外は離れる事もしなかった。

 この時程クリスが小柄で助かったと思った事はなかった。それと体力作りをしていて良かったとも。

 

「クリス、そろそろシャワーを浴びないと」

「……一緒に浴びてくれよ」

 

 まるで子供の様なクリスに俺は苦笑して頷いた。

 バスルームまでクリスを運ぶように移動する。

 クリスはずっと俺とくっついていたいと言うので結局シャワーもそうなった。

 体を拭いて互いに服を着てホテルを出ると向かうのは当然空港だ。

 荷物に関しては既にほとんどを送っているそうで、その辺りの配慮はさすがクリスだと思った。

 

「なぁ仁志」

「ん?」

 

 空港へ向かう電車の中、クリスと腕を組みながら恋人繋ぎをして右手で吊革に掴まっていると、不意に声をかけられた。

 顔をそっちへ向ければクリスが真剣な表情でこっちを見上げている。

 

「あたし、二十歳になるまでは何があっても留学を続ける。でも、二十歳になったら」

「もしかしたら留学を止めて帰国するかも?」

「それだけじゃねぇ。その、移住もする可能性がある」

 

 つまり俺の世界で暮らすって事か。クリスが二十歳って事は約二年だ。

 その時、クリスは人生の中で大きな決断を下すって事だろう。

 もし移住となったら……俺がクリスを支えないといけない訳だ。そして俺はそれを嫌がらないし励みにさえ出来る。

 

「……分かった。その時はまた話し合おう」

「おう」

 

 そこから会話はなかった。ただクリスは俺へ少しもたれかかるように体を寄せてくれた。

 それが信頼感のようにも思えて、俺はその半身に感じる重みを支えていけるようになりたいと強く思った。

 

 電車が目的の駅へ到着し、俺はクリスと共に動き出す。

 やがて俺達は空港内へと足を踏み入れる。するとロビーの中で待っていたであろう響達を遠くに見つけた。

 

「ここまで、だな」

 

 クリスがそう言って手を離そうとする。だから俺はそれを止めず、クリスが離れた瞬間こっちへ抱き寄せた。

 

「……何すんだよ?」

 

 聞こえてきた声はどこか不機嫌そうなもの。

 多分だけど、どれだけの気持ちで手を離したと思ってるんだと言いたいんだろう。

 それは分かっているけど、だからこそこうしたかった。

 

「また会えるから。出迎えるのは難しいかもしれないけど、絶対にまた会うから。何があろうと、俺は君と再会するから」

 

 だから安心して行ってらっしゃい。その言葉は敢えて言わなかった。

 伝わると思ったからじゃない。伝わらないでもいいと思ったからだ。

 

「……ん」

 

 たったそれだけの返事。それで十分だった。

 伝わったと、そう言ってもらえた気になった。

 何故ならその声には、噛み締めるような嬉しさがあったから。

 

 響達と合流するとクリスが当然ながら輪の中心となった。

 それを眺めて微笑む俺の隣へそっと翼がやってきたのはそんな時だった。

 

「仁志さん」

「何だ?」

 

 そしてそこで俺は自分の迂闊さを呪った。

 

――私が迎えに行くって言ったのに、どうして雪音と一緒だったのかな?

 

 これが原因で俺は翼を連れて一緒に帰る事となり、その日の勤務を体を気遣いながら行う事となるのだが、それはまた別の話……。

 

 

 

「はじめまして、只野仁志と申します」

「はじめまして。私はナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤです。ナスターシャで結構ですよ」

「ありがとうございますナスターシャさん。俺の事も好きに呼んでくれて構いませんから」

「では、只野さんとお呼びしましょう」

 

 今、俺はセレナに連れられて初めてマムことナスターシャさんと対面していた。

 場所は当然F.I.Sの建物内にある発令所のような部屋だ。

 セレナはナスターシャさんの隣にいて、ヴェイグがその腕の中に納まっている。

 

 そこから少しの間、俺はナスターシャさんから色々と質問を受ける事となった。

 セレナがあの日々でどうしていたのか。悪意とはどういった物だったのかと様々な事を聞かれた。

 俺は分かる範囲で色んな事を話し、それにナスターシャさんは満足してくれたようだった。

 

「マム、私の部屋にお兄ちゃんを案内したいんだけどいいかな?」

「いいでしょう。中々面白い話も聞けました。只野さん、またいつでも来てください。貴方の知識は私達には価値のあるものが多いのです」

「そうですか。お役に立てるようで嬉しいですよ」

「出来る事ならセレナが思っているのとは違う意味でここにずっといて欲しいぐらいです」

「ま、マムっ! お、お兄ちゃん、私の部屋に行こっ!」

 

 微かに笑みを浮かべながらの言葉にセレナが恥ずかしそうに顔を赤くする。

 本当にこうして見てると祖母と孫だな。マリアとなら母と娘と言ってもいいけど、セレナだとやっぱりそっちの方がしっくりくるし。

 

 照れ隠しのように俺の手を強く引っ張るセレナに苦笑し、俺はナスターシャさんへ軽く会釈して部屋を出た。

 それから少し歩くとセレナの足が止まる。そこには一つのドアがあった。

 

「ここが私の部屋だよ」

 

 そう言ってセレナがドアを開けるとそこは可愛らしい雰囲気が……

 

「あまりないな」

 

 年頃の女の子が暮らしていると思うには小物などが無さ過ぎる。

 でもそれは仕方ない。セレナはあの日々を過ごすまで自分で物を買うという経験を出来ないでいた。

 そしてここではお小遣いをもらったとしても使い道がないときてる。これじゃ小物なんか増えるはずがない。

 

 こうなると俺の世界でぬいぐるみでも買ってあげるべきだったかもな。

 

「どうしたのお兄ちゃん。何か気になる?」

「あー、いや、考えてみたらみんなの自室に入るのはセレナが初めてだなってね」

「そうなんだ。ふふっ、私が一番なんだね」

 

 嬉しそうにそう言ってセレナはベッドへと座った。

 その横へヴェイグを置いてこっちを見つめるので、俺はヴェイグの隣へと座る事にした。

 

「さてと、これからどうすればいいんだ?」

「えっと、お兄ちゃんに任せるよ? 帰りたいならお見送りするし、お泊りするならマムに許可を取るし」

「じゃ、部屋を用意してもらうのは悪い気がするからもう少ししたら帰ろうかな」

 

 そう言うとセレナが小さく笑った。その笑みは俺が今まで見た事のないものだ。

 言うならば、そう、女の笑みだろうか。

 そんな事を考えている俺へセレナは手招きをした。

 

「何だ?」

「お兄ちゃん、耳貸して?」

 

 可愛く言われたので顔をセレナの方へ近付けると、耳元に小さな声でこう告げられた。

 

――私の部屋で一緒に寝ればいいんだよ。それで、赤ちゃん作る練習、しよ?

 

 思わず勃起しそうになった。

 弾かれるように顔を動かすとそこには照れ笑いを見せるセレナがいた。

 

「せ、セレナ……」

「だ、ダメかな?」

「一体何の話をしてるんだ?」

 

 と、そこで聞こえる不思議そうな声。

 目を動かせば小首を傾げるヴェイグがいた。

 何となく気まずい。色んな意味で気まずい。

 

「えっと、まぁ色恋の話だ」

「色恋? ああ、そうか。俺には分からない話だな」

「うん、ごめんなさいヴェイグさん」

「いやいいぞ。そういう話をしてる時のセレナ達は優しい匂いがするからな」

 

 嬉しそうに微笑むヴェイグだが、俺は正直どうなんだろうと思った。

 あの夜の事は今も強く記憶に焼き付いている。

 どうもそれは俺だけじゃないらしく、あれからちょくちょくみんな(主に翼)が俺の家にやってきて、まぁ温もりを求めてくる求めてくる。

 マリアは仕事的に難しいのだろうが、その反動で来た時はもう本当に凄い事になって嬉しいけど大変なんだよなぁ。

 

 それにしてもクリスを除く年長組は本当にこれまでの反動のように俺へ甘えてくれてる。

 クリスも留学してなかったら同じようになっていたと思うけど。

 

「セレナ、それはちゃんと俺の部屋に来た時にしようか。ここじゃ」

 

 後片付けとかが難しいからと、そう言おうとした俺へセレナはパァっと明るい笑顔を浮かべて身を乗り出してきた。

 

「分かった! じゃあ今からマムに許可を取ってお兄ちゃんのお家に行けばいいんだっ!」

「え?」

「待っててお兄ちゃん! 私、すぐマムからお出かけの許可もらってくるからっ!」

「あっ、セレナっ!」

 

 止める間もなく部屋を出て行くセレナ。

 伸ばした右腕の先で寂しくドアが閉まっていく。

 

「タダノ、今日は仕事か?」

「……休み、だけど」

「なら大丈夫だろう。そうだ。俺は久しぶりにベントーが食べたい」

「弁当?」

 

 ヴェイグの口から出た弁当という言葉に疑問符を浮かべて詳しい話を聞くと、どうもヴェイグも陽子さんのいつもの弁当を食べた事があるらしい。

 で、どうやら俺と同じで生姜焼きが気に入ったらしく、その味が恋しくなっているとの事。

 うん、すっかり日本食にハマったヴェイグである。

 

「分かった。じゃ、今夜は陽子さんの店で弁当を買ってくるよ」

「本当か!?」

「ああ、俺も久々に食べたくなってきたしな」

「おおっ!」

 

 嬉しそうに笑うヴェイグにこっちも笑みが浮かぶ。

 そこからヴェイグと食べ物を話題に盛り上がった。

 ヴェイグはカレーが好きなのでこっちでも食べる事はあるらしいが、やはりというかやや辛いらしくマリアや調のカレーが懐かしいとの事。

 

 なので俺は辛味を緩和させる手段を教える事にした。

 

「ソース?」

「それをかけてやれば辛さが多少薄れるよ。あとは飲み物として牛乳とかラッシー……は無理か」

「らっしー?」

「ラッシーや牛乳は膜みたいものを作って舌をコーティングしてくれるんだよ。それで辛さを敏感に感じなくなるから本来よりも辛くないって思えるんだ」

「ふんふん」

 

 こういう時のヴェイグと接してると、まるで小さな男の子の親になった気分になる。

 まだ親になるには色々未熟な俺だけど、エルとヴェイグのおかげで多少親の気分を体験出来た。

 だから、いつか、きっといつか親になりたい。奥さんが誰かとか、自分の状況がどうなってるとか分からないけど、それでも子供は欲しい。

 

 ……コンビニ店長じゃ限界あるし、本気で何か考えないとなぁ。みんなの動画収入に頼るのもどうかと思うし。

 

「ただいま! お兄ちゃん、ちょっと待ってて。すぐにお出かけの用意するから」

 

 そこへ上機嫌なセレナが戻ってきた。

 どうやら許可は出たらしい。

 ナスターシャさん、俺とセレナとヴェイグだけなら安心って事ですか?

 正直あの頃ならそうかもしれないけど今は若干怪しいんですよ?

 

 そんな事を思っている間にもセレナが鼻歌混じりにお泊りセットを準備し始めたので、俺はヴェイグを抱えてドア近くへ移動する。

 

「タダノ、何ベントーを頼んでくれるんだ?」

「いつものにするよ。それを二つ、しかも大盛りかな」

「おおもり?」

「ヴェイグ一人でいつもの弁当一つはちょっと多いだろ? だから俺とセレナのご飯の量を多くして、ヴェイグへおかずと一緒におすそ分けしようと思うんだ」

「そうか。たしかに前も切歌に少し食べてもらったし、それがいいかもしれない」

 

 ヴェイグは体の大きさもあって小学校低学年の子供が食べられる量が精々だ。

 陽子さんとこの弁当はそう考えるとちょっとボリューム過多だろう。

 なので俺とセレナの分のご飯を増やし、ヴェイグにそれを分けて、更におかずもつけてやるぐらいが丁度いいはずだ。

 

「お待たせ!」

 

 振り向けば、ニコニコ笑うセレナが片手に大き目のバッグを持って立っていた。

 そのバッグはあの旅行の際に用意した物だ。思い出もあるからだろうが、セレナが元々それぐらいの大きさのバッグを持っていなかった事も関係しているんだと思う。

 まぁ、本来は大荷物を持って移動するなんて事が早々ない子だしな。

 

「荷物持つよ」

「ありがとうお兄ちゃん」

 

 セレナからバッグを受け取り、代わりにヴェイグをセレナへ渡す。

 さて、では移動するとしますか。

 

 道中ナスターシャさんへどう言って許可をもらったのか聞くと、本当に素直にお願いしたらしい。

 ゲートリンクもあるし、上位世界はある意味安全が確立されている事もあってか外出しない事を条件に外泊許可が出たようだ。

 

「マムはお兄ちゃんを信用してるって言ってたよ」

「そっか」

 

 その一言がどういう意味かは聞かないでおいた。

 セレナは多分知らないだろうし意味はないと思ったのもある。でも、何となくこれはセレナを通じて釘を刺されているような気がする。

 

――セレナはまだ成人していないのですよ?

 

 そんな声が聞こえてきそうだ。

 うん、やっぱりセレナとはもう数年健全な距離感を保つとしよう。

 

「あっ、そうだ。ねぇお兄ちゃん」

「ん?」

 

 俺が決意を新たにしていると、前を歩いていたセレナがこっちを振り返って微笑んだ。

 

「今日は夜更かししてもいいよね?」

 

 悪戯っ子のような表情で笑うセレナへ俺は苦笑交じりに頷いた。

 まだまだ子供らしいところもあるんだなぁと、そう思って。

 

 この日の夜、俺は自分の考えが甘かった事を思い知る事となるのだが、それはまた別の話……。

 

 

 

「紹介するね。こちら、只野仁志さん」

「この前板場さんに渡した作品の持ち主だよ」

「どうも、はじめまして。只野仁志です。楽しんでもらえたかな?」

 

 今、俺は根幹世界にある装者達御用達のファミレスに来ていた。

 そこには俺以外可愛い制服姿の女子高生しかおらず、しかも人数も五人という凄さだ。

 

 ……ただ、今の俺はこれぐらいでは動じなくなっている。

 慣れって凄いなぁ。もう可愛い女の子に囲まれても緊張もドキドキもしないのだから。

 

「そりゃあもうっ! これぞヒーローって感じで最高でしたっ!」

「お、落ち着きなって」

「騒がしくてすみません」

「いいよいいよ。そこまで楽しんでもらえたのならこっちも貸し甲斐があるってもんさ」

 

 そう、俺は響を通じて板場さんへ勇者王ガオガイガーを貸していた。

 響や未来も見てみたかったという事で前もって二つあるBOXの一つだけを渡したんだが、それを五人で週末に一気見したらしい。つまり原種編前までと言う事だ。

 

 まぁ“勇者、暁に死す”は一種の最終回みたいなテンションだから仕方ない。

 

「でも、私も見て分かりました。切歌ちゃん達が気に入るはずだって」

「うんうん。単なるロボットが戦うだけじゃなくて、それを支える人達の戦いや関わりとか、親子の絆や友情に愛情ってものが描かれてるもんね」

「そうなのよね。それに勿論主軸はロボットなんだけど、人間とそれでないものの差は何だって事にも触れてる気がするのよ。心があれば体は鋼鉄でも人と呼んでいいんじゃないかって」

「あっ、うん。それは思った。あのアニメに出てくるロボット、すっごく人間くさいもん」

「ですね。言葉を喋らないロボットさん達も感情があるように見えましたし」

「プライヤーズだね。じゃあ、ピッツァとの決戦は熱くもあり辛くもありだったんじゃない?」

 

 俺の問いかけに五人が小さく頷いた。

 あの戦いでガオガイガーを助けるためにプライヤーズはその身を犠牲にするような行動を取る。

 それがガオガイガーに勝利を掴み取らせる切っ掛けとなるんだから熱い展開だよ。

 

 ちなみに板場さん達には、響が弦十郎さんの許可を得て俺の事をある程度ではあるが教えているらしい。

 まぁ上位世界の作品を貸して見せるだけなので、許可を出しても大きな実害はないと判断されたのが大きいとは思う。

 それにしても、本当にこの子達は優しくて器の大きな子達だ。

 板場さんは分かってはいたが、後の二人もアニメなどに興味がないのではなく、付き合って見る中でちゃんと自分なりの視点を持って作品を楽しんでくれたようだ。

 

 そうやってしばらくガガガ関連の話をしていたんだが、話が途切れたタイミングで安藤さんからある意味予想出来た質問が飛んできた。

 

「あの、只野さんってビッキーとヒナの好きな人の事知ってますか?」

 

 その質問と同時に響と未来が揃ってこっちを見て小さく苦笑いを見せた。

 成程、どうやら好きな人がいると言ってしまったらしい。

 多分誘導尋問をされたんだろう。その辺りは寺島さんか安藤さんがやったのかな?

 

「え? お互いじゃないの?」

「いや、そういうボケいいですから」

 

 板場さんのツッコミに思わず笑う。いや、見事なもんだ。

 

「ボケって訳じゃないよ。そっちが好きな人って言ったから真っ先に思い浮かぶ事実を挙げただけだって。好きな異性とは言われなかったし」

「むぅ、そう言われるとこれ以上突っ込めないわね」

「たしかにこちらも言葉が足りませんでした。お二人が互いを強く思い合っているのは少し関われば分かる事ですし」

「だねぇ。と、言う事で、改めて聞きますけど好きな男性、知ってますか? あっ、いるのはもう分かってるんで」

 

 いないと言う事で逃がしてはもらえないか。さて、どう返すべきか……。

 恋愛対象としてとは言われてないと再度逃げる事は出来るが、さすがにそれはくどい。

 となるとちゃんと答えるべきなんだが……よし。

 

「知ってはいないけど心当たりはある」

「「「お~っ……」」」

 

 三人娘の瞳が輝く。やっぱり女の子ってのはこういうのが好きなんだなぁ。

 

「二人がこっちでコンビニバイトしてたってのは聞いた?」

 

 揃って頷く三人を見てならばなんとかなると思った。

 ただ、おそらく三人共目星はつけてると思うんだよなぁ。

 まぁいいか。精々無様に踊りましょう。

 

「そこの店の店長だと思うよ。二人もバイト関係で色々助けてもらったみたいだし」

「店長、か……」

「おいくつの方ですか?」

「三十は越えてるんじゃないかなぁ」

「大体一回りは違うのかぁ。でも、まぁ、許容範囲かもね」

「こ、この話はもういいでしょ?」

「そ、そうだよ。もうおしまいにして」

「せめてあともう一つ。その人、カッコイイですか?」

 

 板場さんの問いかけに俺は苦笑して響と未来へ目を向けた。

 

「それは俺じゃなくて二人に聞いてくれ。生憎女性と男性の容姿に対する評価基準と採点方式は異なるからさ」

 

 それもそうかと頷いた三人は響と未来へ好きな異性の容姿に関して質問する。

 二人はその追及に若干困りながらも、凄くカッコよくはないけど頼りになって優しい(響談)や普段は柔らかい雰囲気だけどいざとなると頼もしい(未来談)と返した。

 まっ、要するに容姿は優れていないって事だ。俺もそこに関しては欠片として自慢などないので同意する。

 

 それでもまだ板場さんが食い下がりそうだったので、俺は持ってきていたガガガのBOXの残りを差し出して強制的に話題を変えた。

 それとついでに板場さんに特撮はどうだと探りを入れ、少しだけクウガの話をすると食いついた。

 響や未来も面白くて色々考えさせられたと言った事も大きかったと思う。

 こうして次回はクウガを貸す事になって、三人娘とはお別れする事に。

 

「只野さん、今度はゆっくり話をしたいですっ!」

「うん、そうだね。今度は板場さんの話を聞かせて欲しいよ」

「完全に趣味が一致していましたね」

「ホントだよ。こう考えるとこの子ってやっぱ男の子寄りなんだねぇ」

「これでは恋人を作るのは難しいかもしれません」

「うっ! や、やっぱりそうかな?」

「どうだろ? 俺みたいな男ならむしろポイント高いと思うよ。趣味が合うって結構大事だしさ」

 

 そう言った瞬間、板場さんがキラキラした目を向けてきた。

 

「ですよねですよねっ! わたしも只野さんと話してて久しぶりに心の底から趣味の話が出来そうだなって思いました!」

「あー、はいはい。そこまでそこまで。これ以上はまたの機会にしなって」

「ちょっ!? いいじゃないもう少しぐらい!」

「お騒がせしました。では、またの機会に。ごきげんよう」

「気を付けて帰るんだよ」

「あ~っ! 只野さぁ~んっ!」

「板場さん、またね~っ! 今日は楽しかったよ~っ!」

 

 安藤さんに引きずられるように連れて行かれる板場さんに苦笑しながら手を上げる。

 寺島さんはそんな俺に小さく笑みを見せて会釈し、安藤さんも軽く手を振ってくれた。

 板場さんは手をぶんぶんと振ってくれ、アニメで見た時以上のパワーを感じた。

 

 そうして三人が見えなくなったところで、突然俺の両腕がまるで拘束されるかのように響と未来によって掴まれる。

 

「只野さん?」

「もしかして板場さん達も?」

「いやいや、そんな欲望はないよ。大体今だってヒイヒイ言ってるんだ。これで他の女性に色目やら欲情やらしたら死ぬよ」

 

 心の底からそう言うと二人は納得してくれたのか何も言わずに歩き出した。

 俺はと言えば、二人の女子高生を侍らせているのにあまり嬉しくない。

 まぁ二人して若干怒気を放っているのだから当然と言えば当然か。

 何しろ、結果はどうであれ、俺が板場さんに気に入られた事は間違いないからだ。

 二人からすればこれ以上俺に女性の影が増えるのは勘弁して欲しいのだろう。

 俺も正直あの三人娘と男女的な意味での深い関係など望んでもないし狙ってもない。

 ただ、切歌やエルと同じでオタク話が出来る異性(しかも可愛い)というのは貴重であり、どうしてもテンションが上がってしまうのだ。

 

 ……ただそれを言っても言い訳にしか思われないだろうから言わないけれど。

 

「そういえばこの後二人はどうするんだ?」

「仁志さんとふらわーに行こうかなって」

「食べてみたくないですか、ふらわーのお好み焼き」

「食べたい」

 

 即答だった。だって迷う必要もない。

 ふらわーのお好み焼きなんて漫画飯ならぬアニメ飯だ。食べないでいられようか。

 こうして俺は二人に連れられるままふらわーを訪れる事になる。

 そこで俺は気付くのだ。これが響と未来によるある種の巧妙な罠だった事に。

 

「おや、久しぶりだね。そちらの人は?」

「「彼氏です」」

「彼氏?」

「「はい」」

 

 その後の俺をみるふらわーのおばちゃんの目の険しい事険しい事。

 しかも俺は根幹世界のお金を持っていないため、当然支払いは二人にお願いする事となり、よりその眼差しが厳しさを増した。

 

「……響、未来、今回の事は俺が悪かった。板場さんに対して接近し過ぎたと反省する。だから今後は今回のような事は勘弁してくれないか?」

 

 店を出ようとしたところで二人がおばちゃんに呼び止められたので、俺は一人で店から少し離れた場所で響と未来を待ち、合流した二人へそう切り出した。

 おばちゃんが二人に何て言ったかは容易に想像が出来た。絶対俺と別れなさいとか、あんな男とは付き合っちゃダメとか言われたはずだ。

 

「仁志さん、趣味の話出来る女の子に弱過ぎます」

「面目ない」

「でも、反省してくれたならいいです。それとおばちゃんにはさっき呼び止められた時に二人で、本当はバイトでお世話になってた店長さんって言っておきました」

「え?」

「今日は、前までお世話になってたお礼みたいな感じでふらわーのお好み焼きをごちそうしたって、そういう事にしておきましたから。もうおばちゃんは仁志さんの事、変な目で見てないですよ」

「良かったぁ……」

 

 一気に心が軽くなった。いや、本気で食べてる間の視線は痛かったんだよ。

 この後、俺は響と未来と別れて帰る事になる――と思ったんだが……

 

「じゃ、行きましょう!」

「只野さん、今日はお休みなんですよね?」

「あ、ああ」

 

 何故か二人は制服姿のまま本部まで同行し、ギアを展開するとそのまま俺の世界までついてきたのだ。

 その目的がある意味男の欲望を刺激する事だったと気付いた時には手遅れだった、

 何故ならその時、俺は大人の女の色香を漂わせる響と未来が身に纏うリディアン音楽院制服の魔力に魅入られてしまっていたから……。

 

 

 

「それじゃ、第二回の飲み会開催を祝して……」

「「「「乾杯」」」」

 

 場所は我が家のリビング。そこで俺とドライディーヴァはいつかのように飲み会を開催していた。

 今回は、俺以外の三人それぞれがこれはと思うシャンパンとツマミを選んできての飲み会だ。

 俺は場所を提供する事で費用を免除されている。何せ三人はそれぞれの世界じゃ有名人でおちおち飲み会も出来ない。

 奏と翼が一緒にいるだけで騒ぎになるし、マリアがいればそれは余計だ。

 なので俺の世界でしか三人揃っての行動は大っぴらには出来ないのである。

 

 それにしても、最初は奏の選んでくれたシャンパンを飲む事になったけど……思ったよりも飲み易いんだなぁ。

 てか普通に美味しい。酒をこんなに美味いと思ったのは初めてかもしれない。

 

「奏、これ凄いな。高いんじゃないか?」

「ん? まぁね。でも、この面子で飲める機会なんてそう頻繁にはないじゃん? だったらこれぐらい安いもんだよ」

 

 いくらかは言わない辺りで俺は察した。言ったら飲むのを躊躇う金額なんだろうと。

 

「翼、どう? シャンパンを飲むのは初めてじゃない?」

「ああ、だが思った以上に飲み易くて驚いている。前回飲んだカクテルはジュースみたいだと思ったが、これはちゃんと酒だと思えるのに……」

「香りがいいだろ? あと見た目もお洒落だと思うんだよね、あたしは」

「そうだよなぁ。シャンパングラスなんて持ってなかったけど、こういうの飲むとちゃんとしたグラスを用意して良かったと思うよ」

 

 俺の家には当たり前だがシャンパングラスもなければワイングラスもなかった。

 だから慌ててそういう物も置いてある百均へ行き、グラスを四つ買ってきたのだ。

 さすがにシャンパンを冷やすような洒落た容器までは気が回らなかったので、以前海へ行く際に買ったクーラーボックスへ氷と水を入れて冷やしている。

 でも、それが何だが逆にギャップがあっていいと奏もマリアも笑ってくれたので良しとした。

 

「でもさ、こうしてまた四人で飲めるなんて正直思ってなかった」

「そうね。思えばあれからもう少しで半年になるのね」

「体感で、という注釈が付くがな。ただ、私も向こうでは酒は飲まないようにしているから、これが二回目の飲酒となるが」

 

 翼の言葉にらしさを感じて笑ってしまう。

 

「ははっ、もしかして向こうではお酒で失敗なんて出来ないから?」

「……以外にないでしょ」

「そういえばあの時の翼、ころころ笑ってたもんね」

「笑い上戸の気質があるのよ。可愛いと思うわ、酔った翼は」

「むっ、私は酔ったら可愛げが出る訳ではない。仁志さんの前だけそうなれるんだ」

「嬉しいよ翼。さっ、グラスを」

「あっ、ありがとう仁志さん」

 

 嬉しそうに微笑んでシャンパンを口にする翼はとっても可愛い笑顔だ。

 やはり高いだけあってあっという間に奏の持ってきたシャンパンは空になり、次は翼の買ってきたシャンパンを開ける。

 

「あら、ロゼを選んだのね」

「綺麗な色だね。これで選んだ?」

「ううん、私はアルコールに疎いから叔父様に良い店を教えて頂いて、そこの方に予算を告げて選んでもらったんだ」

「じゃ、早速味わってみますか」

 

 グラスを傾けてシャンパンを口の中へ入れると、奏の選んだ物とはまた違う味わいに思わず感嘆の息が漏れた。

 こういう時自分の語彙力の無さを痛感する。美味いとしか言えないのだ。

 

「……美味いなぁ」

 

 結果これしか感想が出せない。もっと小説とか読んでおくんだったと思いつつ、俺はグラスへ口を付けると傾ける。

 色鮮やかな液体がゆっくりと流れ落ちるように口の中へ入り、その瞬間何とも言えない芳醇な香りを広げた。

 香りだけでも酔ってしまいそうなそれを味わいながら、視界には三人の美女がいるという天国のような状況だ。

 幸福とはこういう事を言うんだろうなと思って俺は口の中の液体を転がした。

 

「あら、これもいいわね。翼、ボトルを見せて」

「ああ」

「普通飲み会にシャンパンなんて選ばないけど、だからこそ特別感あるよねぇ。仁志はどう?」

 

 あの夜から奏は俺の事を状況問わず呼び捨てにするようになった。

 何でも関係を持った以上は隠すような事はしたくないんだそうだ。

 

「そうだなぁ。俺からすれば君達との時間はいつだって特別だから今更だよ」

 

 そう返して俺はグラスの残りを一気に飲み干す。

 気のせいか三人の視線が俺へ集まっているような気がして目を動かす。

 

「どうかした?」

「……ホント、仁志ってそういうところは変わらないのね」

「うんうん。だからこそ余計惚れちゃうんだろうけどさ」

「仁志さん、今の言葉、酔ってるから言ってる?」

「素面だろうと酩酊してようと同じ事を言うよ。さっきのは、俺にとっての事実でしかないんだからさ」

 

 グラスをテーブルへ置いてそう言い切る。

 カッコつけるようにじゃなく、何て事ないようにだ。

 あの出会いから始まった時間は俺にとって常に特別だ。

 それは今も変わらず輝き続け、増々その眩しさを増している一方だ。

 

「とはいえ、少しは酔ってるかもしれないな。その、ドライディーヴァっていう存在に、さ」

 

 ちょっとキザっぽい事を言ったせいか顔が熱い。

 自分には似合わないと痛感しながら俺は空いたグラスへシャンパンを注ごうとして、何故かグラスを取り上げられた。

 

「えっと、マリア? 何のつもりだよ?」

 

 俺の目の前にはグラスを手にして妖艶に微笑むマリアがいる。

 で、何をするのかと思って見ていると、彼女は自分のグラスの残りをクイッと口へ含んでそのまま……

 

「んっ……」

 

 俺の口へと流してきた。ついでとばかりに舌まで入れるおまけつきで。

 以前だったら驚いていただろう行為も、今の俺はどこか苦笑混じりで受け止められるようになっていた。

 それだけではなく、ならとマリアへ合わせて舌を絡める事までやってのけたのだから俺も成長したもんだ。

 

「……ごちそうさま」

「むしろそれはこっちの台詞かもな」

「「マ~リ~ア~?」」

「っ……な、何よ? 羨ましいならそっちもやればいいじゃない」

 

 不機嫌そうな声でこちらに詰め寄ってくるツヴァイウィング。

 その姿にマリアが小さく怯えながら反論するのを見て俺は苦笑する。

 で、こうなったらもう流れは一つしかない。

 なので俺はまず翼の手からグラスを奪い、その中身を口に含むとキスをした。

 

「んっ……」

「ちょっ! あたしより翼ぁ?」

「むしろ奏だから最後に回したんでしょう。じっくりしてくれるわよ」

 

 奏とマリアのやり取りを聞きつつ、俺は翼の口内を蹂躙する。

 大した抵抗もなく翼がこちらに全面降伏してくれたおかげで侵略はあっさり終わった。

 

「……これで少しは気は晴れた?」

「うん……でも、出来ればもっと飲みたいな」

 

 トロンとした顔で笑う翼は本当に魅力的だった。

 妖艶さと可愛さが同居してるようで、とても性欲をそそる状態と言えたのもある。

 ただ今手を出せばとんでもない事になるのは分かってるので何とか踏みとどまった。

 

「仁志、次はあたしだからね?」

「分かってるよ」

 

 差し出されたグラスを受け取り、その僅かな中身を口に含むや奏からキスしてきた。

 成程。どうやら奏は攻めたいらしい。でもそうはさせない。

 

「んんっ!」

 

 どうして中身が少ないのかはそういう事だろう。

 要は奏はディープキスをしたいだけなのだ。

 その証拠に俺が舌を絡めに行くと嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「マリア、あれって……」

「いいのよ。好きにさせてあげましょ。後で私達も……ね」

「……そうだな。なら残りはマリアの選んだ物か……」

「ふふっ、これは期待していいわ。私が初めて飲んだ時に衝撃を受けた物なの」

「そうなのか。それは楽しみだ」

 

 翼とマリアの会話が右から左に抜けていく。

 それぐらい俺は奏とのキスへ意識を向けていた。

 何せ奏はこれでもかと胸を押し付けてきていたから。

 

「……奏?」

「いいじゃんこれぐらい」

 

 やはり確信犯か。

 

「俺がもうそういうのに弱いって知ってるだろ?」

「だからやってるの」

「……どうせ後で嫌でもそうなるんだから少し我慢してろ」

 

 低めの声でそう囁くと奏が小さく震えて頷いた。

 もしかして今ので若干感じた?

 

 ……有り得る。あの頃も奏はM属性見せてたし強気攻めが弱点か。

 

「で、何でそっちは二人だけで飲み始めてるんだよ?」

「あら、だってそっちはそっちで二人だけで楽しんでいたじゃない」

「そうだよ。だから私とマリアは先に飲んでるんだからね」

 

 若干拗ねてる二人は可愛いけど、このままだと酒を美味しくは飲めない。

 なのでそこからは甲斐甲斐しく酌をして二人のご機嫌取りに終始した。

 幸いそこまで怒っている訳ではなかったようで、すぐに二人は笑みを浮かべて俺にシャンパンを勧めてくれた。

 奏へもそれと同じぐらいでシャンパンをグラスに注がれていて、今は上機嫌でグラスを傾けている。

 

 美味い酒と気の合う仲間。俺はそこまででもないが三人の歌姫は日頃のストレスを吐き出すかのようにシャンパンを飲み、三本のボトルはあっという間に空となった。

 

「ん~? ……もうこれないよマリア」

「当たり前でしょ? 四人で飲んでるんだもの。無くなるのだって早いわよ」

「ちぇっ……三本あったのにすぐだったなぁ」

「奏もマリアも飲むのが早いんだよ。仁志さんも今回は早かったし」

「美味い酒ってホントペースが上がるんだな。俺が今まで飲んだ中でトップクラスに美味い酒だったよ」

 

 あと言わなかったけどさっきからずっと翼と奏が隣にいて、俺の肩に頭を置く様にしてるんだけど……。

 それにマリアなんて背中を預ける形でくっついてるし、これってやっぱりそういう事なんだろうか。

 

「っ」

 

 そんな事を考えていたら三人がこっちを見つめている事に気付いた。

 その眼差しは艶を秘めていてこれまでとは違う雰囲気を漂わせている。

 言うなれば誘う女の顔、だろう。あるいは期待している女の顔かもしれない。

 ちらりと時計へ目をやれば夜も更け、早い人ならもう就寝を考え始める頃合いだ。

 

「……汗、流さないでもいいのか?」

「「「どっちの?」」」

 

 返ってきたのはまさかの問いかけ。

 どっちの、か。つまりそれは流したいと強く思ってないって事か。

 

「俺の」

 

 ならこっちだろう。

 

「私は気にしないわ」

「同じく」

「当然」

 

 即答、ね。しかも熱っぽく三人して手を俺の下半身へ伸ばしてくる。

 うん、間違いなくこれはあれだ。完全に交わりの味を占めて発情期みたいになってる。

 実際、俺も後五歳若かったら性欲を抑えられていたか不安な程そういう欲求は強いからなぁ。

 

「……じゃ、今夜はここで布団敷くか」

 

 そう告げた瞬間、ドライディーヴァが三匹の雌犬へと変わったのが分かった。

 無言で翼が立ち上がってリビングを出て行くのと同時にマリアと奏が左右を陣取り、その豊満な胸を押し付けるようにしてきたのだ。

 

「仁志ぃ、キスぅ」

「ズルいわよ奏。仁志、私もぉ」

 

 ……正直これだけでもエロさが爆発してるよな、この二人。

 まぁ多分アルコールが入った事と既に男を経験した事が合わさって今までにない程過激な事が出来るようになってるんだと思うけど。

 

 この二人、攻めてる時は強気でイケイケになるのはいいんだけど、攻められると一転して一気に弱くなる辺りがそっくりなんだよなぁ。

 

 なのでこっちから攻めてみる事にした。

 

「左右から挟まれてどうやって二人とキス出来るんだっての。俺の口は一つだ」

「ふふっ、どっちとしたい?」

「仁志、ここはまずあたしとするとこだって」

「あれ、今選択権は俺にあるよな。……違うか、奏?」

「っ」

 

 最後だけ低い声で告げると奏がビクンと震える。

 あの頃も時々暴走しそうになる奏をそうやって抑えたけど、まさかここまで効くとは。

 さて、じゃあどちらか、ではなくどちらも、にしますか。

 

「二人共、舌を出してくれるか?」

「「レェ……」」

 

 ……うん、自分で言ったのにあまりの素直さとエロさに一瞬意識が飛んだ。

 

ふぃふぉふぃ~、ふぁやく~(仁志~、早く~)

きしゅ、しふぇ~(キス、して~)

「っ!?」

 

 俺が一向に行動しないからか、奏とマリアが舌を伸ばしたままでキスをねだってきた。

 そのエロくて情けない顔に俺は大きく唾を飲んだ。

 当然それだけじゃなくて俺の雄の部分も反応する。

 でも、今は性欲じゃなくてまだ愛情で二人を愛したい。

 

「じゃ、俺の舌を二人で舐めるようにキスしようか」

 

 そうやってエロいキスをしていると聞こえてくる階段を下りる音。

 やがてドアが開いて翼が戻ってきた。

 

「布団持ってきた……けど……」

 

 聞こえた声に目を動かせば、そこには畳んだ布団を抱えてこっちを若干拗ねるような眼差しで見つめる翼がいた。

 

「仁志ぃ、私達とキスしてるんだからこっちに集中して」

「ぁ……ご、ごめん。でもその前に、翼」

「……何ですか?」

 

 うわ、完全に拗ねてる。言葉遣いが丁寧になってるけど声に怒りが宿ってるし。

 

「その、お詫びになるとは思わないけど今夜は一番最初に翼を抱きたい」

「っ!?」

「うわ、仁志って本当に外しちゃダメな時は外さないよね」

「本当よ。色々とあの夜から吹っ切れて頼もしさも増してるし、困っちゃうわよね」

「って言いながらしれっと自分だけでキスを再開しようとすんなって」

「わ、私も混ざるからっ! 場所開けてっ!」

 

 結局このままの流れで俺達は朝まで求め合う事となる。

 ただ翌朝も割と元気だった三人とは違い、俺が完全にバテバテになっていたのは年齢のせいだけではないと思いたい。

 

 ……もっと体力作り、やんないと駄目かもしれないな。

 そんな風に思いながら俺は三人の女性の匂いがする布団で眠った。

 

 ちなみに起きた時に見た割烹着姿の翼にムラッとして押し倒す事になるのだが、そのせいでしばらく翼が家に来ると割烹着を着るようになって困る羽目になるとはこの時の俺は知らなかった……。




あの夜の出来事で装者達(セレナも含む)は完全に女として覚醒しました。
その結果、御覧の通りの有様です。
悪意がいた頃手を出していればどうなったかはお分かりでしょう(汗

ちなみにふらわーの一件が原因(まぁ創世辺りは薄々気付いてますが)で響と未来の想い人が只野であると気付かれます。
だってあの子らもふらわー知ってるし行く事ありますからね。
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