シンフォギアの消えた世界で アナザー 作:現実の夢想者
アイマスはテレビではなく劇場版の方です。
切歌が本編中でパッケージを見たと言った物ですね。
あの装者達全員が改めて揃った夜以降、俺の世界とみんなの世界の時刻はズレが無くなっていた。
いや、ゆっくりとズレが正されたというのが正解なのかもしれない。今では俺の世界での時刻とみんなの世界の時刻は完全に一致していたのだ。
まだ日付は相変わらずズレているのだが、そちらにも動きというか変化が起きていた。
というのも、俺の世界が新年を迎えて一か月が経過するかしないか程度なのに、みんなの方は何と夏が終わろうとしていたのだ。
実はこれには訳がある。俺は詳しくは知らないけど、どうも響達の世界に平行世界からの来訪者が来たそうだ。
で、その来訪者は本部内で暴れたそうで、シンフォギアのデータを狙っていたらしい。
その手下と思われる大量の蛇に似た生物を相手に防衛を強いられた響達は地味に苦戦を強いられる――はずだった。
……まぁ装者に加え、ツインドライブという掟破りがあった時点で相手に勝ち目はなかったって事だ。
いやぁ、あの時はびっくりした。急にエルから通信が入って、すぐに響達七人をツインドライブにして欲しいと言われたんだから。
よく事情は分からないけど、ヤバい事には違いないと思ってリビルドギアツインドライブにしたんだけど、それが正解だったらしい。
まぁ、そこからも色々とあったみたいだけど、その一件が原因で俺の世界と響達の世界との誤差とも言うべき時間の流れがまたある程度縮まったのだ。
つまり、世界の方があの停止していた時間の流れを取り戻しているような感じがある。
今現在響達の世界は夏休み終盤で、俺はさすがにそれを知った時愕然となったぐらい、俺の世界と彼女達の世界は月日のズレが減り出していた。
まっ、ある時期から来訪者がいきなりピタリとなくなったのでおかしいなとは思ったんだけども、まさかそんな事になっているとはなぁ。
「「「「「「「わぁ……」」」」」」」
で、今俺は響達女子高生七人と共にアニマス劇場版を鑑賞中だったりする。
切歌のバイト先だった店で俺が借りてきたんだけど、その理由は勿論その切歌がもう一度見てみたいと言ったからだった。
ちなみに場所は何と俺の家。三人娘達も遂に上位世界来訪という訳だ。
何せ彼女達は全員女子寮住まい。家族でもない男性が訪れるなどもっての他なのである。
それと、彼女達の来訪は依り代のおかげで何の問題もなく終わった。
その事を報告すると、エルとキャロルがゲートリンクにも改良の余地があると唸っていた。
何せゲートリンクだと一人一つ必要なのが、依り代なら同じ場所にいれば複数でも効果範囲内という事だし。
既に映画も終盤。アリーナでのライブシーンを前に、七人の女子高生達は目をキラキラとさせている。
ああそうそう、クリスは学院時代の同級生達とお泊り会なので誘えず、エルとキャロルは誘ったけど断られた。
何でも今日は休みではないらしく、根が真面目な二人は仕事へ勤しむとの事。
――すみません。さすがに当日ではお休みをもらう訳には……。
――俺達も一応給料をもらっている身だ。無断欠勤も出来んし仮病もな。また今度にしてくれ。
そういう返事を聞き、俺は近い内に二人のために何らかのイベントを計画しようと思った。
一番簡単なのはカラオケだろうな。エルとキャロルならあのメモリアイベントのような事をしてくれるに違いないし。
「おおっ! このアングルの動かし方凄いじゃないっ!」
「ホントホント! まるで本当のカメラで撮影してるみたいだねっ!」
「サイリウムが色取り取りで本当に綺麗ですっ!」
板場さん達三人娘は最初こそ男の家に上がるという事に緊張してたみたいだけど、すっかりそんなものは消え去って、今では純粋に映画を楽しんでいるようだ。
「やっぱりみんな可愛いし歌も素敵だし、何よりバックダンサー全員でライブ出来るのが感動だよ~」
「響らしいよね、そういうの。でも、私も同じ気持ちかな」
「デスデス! 春香さんの決断が本当にいい結果に繋がってホッとするデスよぉ~」
「みんないっしょにって、プロの世界じゃ簡単なようで難しい事なんだね。でも、本当の強さって甘さも弱さって考えない事だから」
「そうだな。貫ければ甘さも強さだ。優しさってのは最後まで貫いた時にこそ強さとなるんだと俺は思うよ」
板場さん達とテンションの差があるように感じられるが、響達も表情や声からちゃんと熱のようなものを出している。
その証拠に視線はずっとモニターへ釘付けになっていた。切歌など身を乗り出して食い入るように画面を注視している程だ。二度目だからかもしれないが、今回は細かな部分へも目を向けている気がするし。
圧巻のライブパートが終われば、後はエンディングが待つのみ。
あれだけ盛り上がっていた板場さんも既に落ち着き、765プロアイドル達とプロデューサーのやり取りへ耳を傾けていた。
そして流れるED曲とその後の簡単なアフターストーリーらしき絵の数々。
実はここはアイマスファンなら思わず心躍る一枚絵が存在している。
シンデレラガールズという、本来であれば直接の繋がりを見せないはずの作品のキャラが、何と765プロアイドル達のライブを見つめている絵が出てくるのだ。
つまり、アニマス世界とデレアニ世界が繋がっていると暗に示唆する絵という訳だ。
明るくライブ感に溢れたED曲が終わり、映画が終わると俺はDVDを停止させた。
それを合図に響達七人が思い思いに腕を伸ばしたり背筋を伸ばしたりと動き、まさに映画を見終えた直後という雰囲気だ。
「いや~……面白かったわねっ!」
「うんうん、最後のライブは最高だったねっ!」
板場さんと響が同じテンションで笑みを見せ合う事にこちらまで笑みが浮かぶ。
「アイドルって本当にこうなのかなぁって思うと色々見る目変わるよね」
「そうですね。翼さんにお話を聞く事が出来れば色々と見えてくるかもしれません」
「デスデス。TVの方も見たいデスよ。マリアや翼さんの意見を聞きたいデス」
「私も春香さん達の始まりが見てみたい。何があってどうやってあの位置まで駆け上がったのか、それが知りたいな」
「只野さん、これの前って長いんですか?」
みんなの感想を聞いてほっこりしていると未来からそんな質問が飛んできた。
なので全二十五話に特別編が一話の計二十六話と教える。
「大体時間に直すと半日ぐらいかな? 本編だけならそれぐらいだよ」
と、何故か俺がそう言うと板場さんと切歌が揃って腕組みを始めた。
で、安藤さんと寺島さんが苦笑し調が呆れ顔をする。
響と未来は……苦笑してからこっちを見てきた。するとつまりこれは……
「もしかして、泊まって夜更かしするつもりかい?」
「「駄目です(デス)か?」」
やはりそういう事らしい。俺の家にはあの頃みんなが使っていた布団が残っているため、急な来客にも対応できない事はない。
しかも部屋も二階は三部屋あるので七人なら余裕だ。加えて彼女達は夏休み中だから宿泊しても不安はないと。
「う~ん……」
駄目押しに俺は今夜仕事なのでここは彼女達だけとなる。そこまではいい。
問題があるとすれば、だ。布団にもしも、もしもあの行為による残り香などがあった場合である。
「……いいよ。どうせ俺は今日仕事だしね」
そう告げると板場さんと切歌、そして響が嬉しそうにハイタッチって、響? 君は泊まりたいって言ってなかったよね?
「あの、本当にいいんですか?」
「今日仕事って事は夕方からですか?」
「えっと、夜勤やってるんだよ。だから戸締りとかはよろしくね」
不安げな安藤さんと寺島さんへそう返して俺は立ち上がり、二階へ向かおうと動き出す。
「あれ? 師匠、どこへ行くの?」
「二階だよ。お客さん用の布団だけでも今から干そうと思ってね」
「あっ、じゃああたし達が」
「いやいや、力仕事は男に任せて欲しいな」
「でも……」
「いいからいいから。もし気が引けるなら、向こうで宿泊の用意をしてくるついでに晩飯の買い物をしてきてくれると助かるかな。人数もいるし、鍋でよろしく」
「分かりました。ユミ、それでいい?」
「いや鍋って今真夏だしって……」
そこで板場さんが何かを思い出した顔になった。
「こちらは今真冬ですからね。鍋というチョイスはナイスです」
「代金は私達で出しておきますね」
「悪いね。こっちでの宿泊費やレンタル費用代わりだと思ってくれると助かるよ」
それを最後に俺はリビングを後にする。
階段を上がってマリア、奏、翼の布団をベランダへ運んで干してリビングへ戻ると響達の姿は消えていた。どうやらちゃんと宿泊準備に戻ったらしい。
「さて……急いでレンタルと駅前のドラッグストアへ行くか」
アニマス全話をレンタルし、ついでに消臭スプレーを買ってきて念のため布団や枕などへ振りかけるのだ。
そうと決まれば善は急げと、俺は上着と財布に鍵を持って家を出る。
「う~っ、寒い寒い」
寒風吹きすさぶ中、家の施錠をして若干急ぎ気味に歩いて駅前を目指す。
それにしてもまさかあの三人まで俺の部屋で泊まる日が来るとはなぁ。
まぁ、さすがに彼女達とは何事もないし起こすつもりもない。
九人もの装者達で俺の許容量はとうに決壊しているんだ。
そこへ更に中身を注ぐ程俺はバカでも大物でもない。
「まっ、そもそも響達もあの状況があればこその現状だしなぁ」
一人そう呟いて俺は歩く。
もしあの出会いがただの偶然であり、悪意なんて存在がいなければ、俺と響達は、いや下手すれば響と出会っただけで終わった可能性があるな。とにかく俺が九人の装者達と出会えて関わる事が出来たのは、悪意という脅威がいたからだ。
そして彼女達と俺が今の様になれたのも、共通の敵と事を構えて同じ時間を過ごした事が大きく関わっている。
それがなければ響の口から俺の世界の異常さが伝わって、最悪二度と関わる事はなかっただろう。
「……そういう意味では悪意が結んだ縁、なのかね」
だとすれば俺にとっては疫病神であり福の神でもあったのか。
まさしく表裏一体だな。災い転じて福となすだ。
そんな事を考えながら歩いている内にレンタルもやっている本屋へ到着。
店内へ入り階段を上がって二階のレンタルフロアへ。
幸い目的のアニマスは全部あったので一気にまとめて手にしてレジへ。
「いらっしゃいませ。ご利用日数はどうなさいますか?」
「えっと、一泊で」
笑顔が似合う女性の、格好からして社員さんだな。
愛らしい感じのする、きっと同性からも異性からも好かれるタイプだろう。
会員証を財布から出しながらそんな事を思っていると、何故か前方から視線が。
顔を上げてみると店員さんと目が合う。でも驚いた様子もなく、どこか不思議そうな感じな表情だ。
会員証を渡すと手慣れた感じで店員さんが処理していくけど、一度だけ不思議そうな顔をしたのが気になった。
と、そこで思い出す事があった。
ここで切歌が働いていた頃、仲良くしてもらった社員の女性がいたという話を。
「あの」
「はい?」
勘違いでもいい。もし違ったなら俺が痛い奴になるだけだし。
「俺、ここで働いてた切歌とは兄妹じゃないんですよ。親戚みたいなもんです」
「あっ、そうなんですね。良かったぁ。苗字が違うからどういう事だろうって」
ビンゴ。どうやら切歌が俺の事を簡単に兄のようなものと伝えていたんだろう。
過去にここへ来た時は一緒に切歌達がいたし、そこを見て尋ねたりしたんだ。
そこで少しだけ彼女、愛衣さんと話をした。
彼女もアニメが好きらしく、特に好きなのが“ARIA”という本物っぷりには驚いた。
しかも、切歌へハガレンの事を教え、アイマスを薦めたのも彼女らしい。
ただ切歌は今どうしてるのかと聞かれたのは困ったが、バイトに精を出し過ぎて成績を落としてしまったので、現在もヒイヒイ言いながら勉強に励んでいるとだけ返して誤魔化した。
「じゃ、切歌ちゃんにもし良かったらまた戻ってきてって言っておいてください」
「伝えるだけ伝えておきます」
勤務中にあまり話し込むのもと思って話を切り上げて俺は階段へと向かう。
あの感じだと彼女はオタクというよりはアニメ好きってとこか。
板場さんよりは響ってとこだ。今後ここへ来る時はあの人を探してしまいそうだな。
……アイマスなら誰推しか聞いてみたいし。
「うし、次はドラッグストアだな」
階段を下りて店の出口へ向かいながらそう呟いて外へ出る。
相変わらず風は冷たいがこれもこの後の楽しみを思えば何てことない。
何せ今夜は七人もの女子高生と飯が食えるのだ。しかもアニマスを見ながら、だろうし。
まるで学生の頃出来なかった事を今になって体験しているようで複雑だが、それでも弾む気持ちを止める事は出来ない。
俺はそんな気持ちのまま足取り軽くドラッグストアへ向かうのだった……。
「こんな早い時間から電車に乗ってるの!?」
気付いたら思った事が口から出たので慌てて手で口を押さえる。
まぁ手遅れだったけど。みんなこっち見て笑ってるし……ううっ、恥ずかしいわ。
今あたしは只野さんがレンタルしてきてくれた“アイドルマスター”って作品を見てる。
一話目は各アイドル達の紹介を兼ねた話らしくて、それはまぁよくある感じだけど、まさかまさか主人公の春香が早朝から電車に乗って事務所へ来てるとか……。
「そうなんだよ。春香は765プロの中でも特に遠方から事務所へ通ってる。勿論学校へも行きながらだ。たしか片道二時間ぐらい電車でかかるんじゃなかったかなぁ」
「響だったら無理だね」
「うん、さっすがに暗い内から起きて、自転車乗って、電車で一時間以上は無理かなぁ」
多分だけどここにいる誰でも同じ感想だと思う。
にしても、先に劇場版を見たからか初々しい感じが凄い。
ここからこの子達があんな輝くアイドルになっていくんだと思うと、本来とは違った意味でワクワクする。
「この真って子、可愛いね」
「見た目がボーイッシュなのを気にしてるんですね」
「アタシ達で言うと翼さんデスかね?」
「強いて言えば、だな」
翼さん、かぁ。本当ならただ学院の先輩ってだけのはずな人だけど、ひょんな事から顔見知りで友人、とは言えないけど知人ではあるのよね。
まぁ繋がりで言ったらあたしより只野さんの方が深いかもしれない。
何せこの世界で支え合ってたみたいだし、ね。
少し話を聞いた感じだとアニメみたいな展開や時間を過ごしてたみたいだし、こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、少し羨ましいと思う事もあった。
誰にも知られず、世界を守るってヒーローそのものだから。
「賑やかだなぁ」
「まるであの頃のアタシ達みたいデス」
「うん、似てるかも。ただここまで騒がしくはなかったけど」
「へぇ、雪歩ちゃんって男の人が苦手なんだ」
「それにしても度が過ぎていませんか?」
「男の人が苦手でアイドルって、ある意味斬新だよね」
「斬新なら何でもいいって訳じゃないでしょ。アニメ……だったわね、これ」
口癖みたいになってる言葉を言おうとして、実際アニメだったと気付いて頬を掻く。
でも、まだ信じられないのも事実なのよね、あたし達もこの世界じゃアニメのキャラクターだって。
見せてもらったけど、たしかにあたし達だった。アニメにするとあんな感じなのね、あたし達って。
「板場さん、これはたしかにアニメだけど、もしかしたらどこかに」
「ああ、そうだったっけ。平行世界って形で存在してる可能性が高いのよね」
それがあたしが教えてもらった話だ。
この、上位世界、だっけ。ここにある特撮やアニメ、ゲームなんかの創作物はどこかに現実として存在してる可能性が高いらしい。
只野さんはそれを“マルチバース”って表現してた。平行世界だけじゃなく多次元宇宙も存在しているんじゃないかって。
正直ちょっと理解が追いつかなかったけど、ここの存在がある意味でそれと言われたら納得出来た。
あたし達の世界とは別の出発点や要素が存在する地球があるって事だって。
「CDの手売りかぁ……」
「いかにも駆け出しアイドルって感じだね、こりゃ」
「小鳥さんも事務員にしては可愛らしいですが、実はアイドルだったりとかするんでしょうか?」
「おっ、寺島さん鋭い。実は小鳥さんはかつてアイドルだったんだよ。しかも、おそらく765プロの社長がそのプロデュースに関わってる」
「いいわねそれ。じゃあ、今は引退してるって事?」
「そうなる。しかも、小鳥さんのアイドル時代の出来事がこのアイマスの物語に大きく関わってるみたいでね。その辺りを後半に少し触れるから楽しみにしてるといいよ」
只野さんの説明は一種のネタバレだけど、それがかえって興味を惹くように言ってくれるから嬉しい。
知ったから残念って思うんじゃなく、知った上で楽しめるように補足をしてくれるからだ。
この辺り、大人って感じがする。ネタバレをしてもいいラインと、したら楽しめないラインが分かってるんだと思うから。
アイマスは正直思ってたよりもリアルだった。
アイドル達が簡単に成功していくんじゃなく、少しずつ成長し、仕事やレッスンへ励んで、それぞれの性格や持ち味を見せながら話が展開するのは楽しくもあり分かり易くもあった。
で、いよいよ折り返しが見えてくるって辺りで一旦休憩というか、夕食作りとなった。
只野さんは一話が終わった辺りでお昼寝をするために二階へ上がっていったので、あたしがそれを起こしに行く仕事を任された。
正直ちょ~っと納得いかない。いや、だって後輩ちゃん二人は料理へ駆り出され、未来も当然そちら。
で、響や創世に詩織はお布団をベランダから運ぶって事になってた。
これじゃ、まるであたしが役立たずみたいじゃない。あたしだって料理の手伝いや布団を運び込むぐらい出来るっての!
……ま、まぁ、たしかに適任ではないと思うけどさ。
「只野さ~ん、起きてくださ~い」
それでも二階に上がってすぐの部屋の中央でどーんと布団を敷いて寝てる只野さんを起こす。
ついでに窓を開けて、そこからの冷気で目覚ましを期待するのと同時にベランダ側からすぐ入れるようにした。
ううっ、それにしても冷たい風がバンバン入ってくるわ。あたしの世界じゃ暑くて仕方ないのに。
まるで海外旅行にでも来た気分ね。ただ、出来ればもっとバカンスな感じがする場所が良かったけど。
「うひゃ~、風が冷たいよ」
「そうですね。でも、お布団は若干温かいです」
「だねぇ」
布団を抱えながら部屋の中へ三人が入ってくる。勿論響達だ。
両手で布団を抱えているから仕方ないかもしれないけど、これだけは言わせてもらおう。
「いいから早く入ってよ。あたしはヌクヌク出来る布団も何もないんだから」
「ああ、ごめんごめん」
三人は部屋の中へ入ったのを見てあたしは窓を閉める。
あ~、風がなくなるだけでも結構違うわ。
「板場さん、ごめんね。それにしても、仁志さん、まだ寝てるのかぁ……」
「そうなのよ。一応声かけて揺すってみたんだけどね」
「ふふっ、ならいっそ只野さんのお布団に入ってみますか?」
「「「えっ!?」」」
詩織の発言にあたし達三人の声が一致すると同時に顔が同じ方を向いた。
「じょ、冗談です。さすがに家族でもない、しかも異性と同衾なんていけませんし」
「「「どうきん?」」」
「えっと、男女が同じ布団で寝る事です」
「「「へ~」」」
詩織ってこういうとこ物知りよね。
それにしても男の人と、しかも年上の人と一緒の布団、ねぇ……。
「む~……」
改めて只野さんをじっと見つめてみる。
髪は短く切り揃えてあって清潔感がある。顔立ちは……まぁハンサムって訳じゃないけど悪いとも思わない。
十年ぐらい一人暮らししてるらしいし、おそらく最低限の家事能力はあるわね。
収入に関しては……未知数だけど夜勤って事はそれなり? ただ一人なら良くても夫婦でってなると多分苦しい財政のはず。そうなるとあたしも働いてって形か。別に嫌じゃないけど子供とか考えるとねぇ……。
「え~と……ユミ? もう只野さん起こさないの?」
「っ!? そ、そうだったわねっ!」
創世に言われて我に返る。何で最後には結婚相手の選定みたいな考えしてんのよ、あたしはっ!
「只野さんっ! 起きてください只野さんっ!」
大き目の声を出しながら激しく体を揺さぶってみる。
け、決して照れ隠しとかじゃない。うん、違うから。
「う~…………いたばさん?」
寝惚けた顔であたしを見つめる只野さん。そうしてると年上らしさゼロだわ。
「はい、板場です。もう晩ご飯出来ますから起きてください」
「……あぁ、そういうことか。うん、ありがとう。すぐいくよ」
ふにゃって感じで笑うとまるで子供みたい。いや、少年って言うべきかしら。
とりあえずこれでよし。あたしの役目は果たしたわ。
「じゃ、先に下に行ってますからね」
「うん。わざわざありがとう」
背筋を伸ばすように起き上がって両腕を上げる只野さんを確認してからあたしは階段を下りる。
創世と詩織もすぐにあたしの後を追って階段を下りてくる。
と、そこで気付いた。一人足りないって。
「響は?」
「ビッキーなら只野さんが二度寝しないように見張るってさ」
「クスッ、たしかに有り得ないとは言えませんね」
「うん、納得だわ」
何せあたしと話してる時の只野さん、完全眠そうな顔のままだった。
あれなら二度寝しても不思議じゃない。それを危惧した響はさすがこっちであの人と過ごしてただけあるわ。
「あれ? 響さんはいないデスか?」
階段を下りてリビングへ戻ると暁さんが不思議そうな顔で小首を傾げる。ホント可愛い子よね、この子も。
「ビッキーは二階で只野さんが二度寝しないように見張ってる」
「見張り?」
「そうよ。すっごく眠そうな顔してたから心配なんでしょ」
でも何故かあたし達の言葉を聞いて暁さんは難しい顔をしたかと思うと……
「じゃ、アタシはそんな響さんがししょーに負けて二度寝させちゃわないようにお助けしてきますデスっ!」
「「「え?」」」
そんな事を言って階段を駆け上がっていったのだった。
何て言うか、本当に似てるわよね、あの二人。
「あの、切ちゃんどうしたんですか?」
そこへ暁さんの相棒とでもいうべき月読さんがやってきた。
エプロンと三角巾をしてるので新妻というか幼な妻感が凄いわね……。
「立花さんが只野さんが二度寝しないように見張っていると教えたら、その立花さんが只野さんに言いくるめられないように手助けすると」
「……そういう事ですか。もうっ、切ちゃんったら。そう言ってただ師匠といたいだけなんだから」
むぅって感じに膨れ顔になる月読さんは、それはそれで可愛いと思った。
それにしても師匠、かぁ。どうしてそう呼ぶようになったかは教えてもらったけど、暁さんはともかく月読さんは冗談半分が本気になったって感じなのよねぇ。
まぁ只野さんはあたし達からすると歳の離れた兄って辺りだし、ある意味親戚のおじさんって雰囲気だ。
親しみやすいのは否定しないし、後輩の二人が懐くのも無理ないわね。
「にしても良い匂いしてるね。こっちは飲み物やお菓子担当だったから知らないけど何鍋?」
「えっと、皆さんの好き嫌いが分からなかったので、なべしゃぶにしようって未来さんが」
「なべしゃぶ?」
「しゃぶしゃぶとは違うの?」
「食べやすい大きさに切ったお野菜をお出汁ベースの鍋つゆで煮て、それに火が通ったら豚肉をしゃぶしゃぶしてお野菜を巻いて食べるんです」
「ナイスです。それなら皆さん食べられます」
「あれ? 三人だけ? それに切歌ちゃんもいないみたいだけど……」
そこへ未来が姿を見せたのでさっきの説明をしようとした辺りで階段を下りてくる音が聞こえてきた。
少しするとまず只野さんが、そのあとから何故か頭を擦る様にしている見張り役の二人が現れる。
「ビッキー、切歌ちゃんもどうしたのさ?」
「頭でもぶつけたのですか?」
「え、えっと……ははは」
「ししょーに怒られたんデス……」
「二度寝をするなって言った二人がどうして俺の使ってた布団に入って温まり出すのかな? しかもあのまま放置したら二人して寝てたよな? てか響は半分寝かかってたし」
「響……」
「ビッキーらしい……」
「「「同感(です)」」」
「あはは……面目ない」
こんな感じで晩ご飯前は過ぎた。
ちなみになべしゃぶはとっても美味しかった。
というより、大勢で食べるお鍋が美味しかった。またこうやって大勢で集まって鍋パーティーとかやりたいわね。
う~ん、やっぱりビッキー達と只野さん、何かある。
そんな事を考えながらあたしは今、一人でお風呂に入りながら天井を見上げてた。
「切歌ちゃんに聞いたら只野さんはコンビニの店長さんだし、ふらわーのおばちゃんが言ってたビッキーとヒナがつれてきてたバイト先の店長ってのも只野さんだろうし、これ、確定だよね」
あのファミレスでの会話で只野さんはこっちの質問をそれとなくかわしてきた。
ユミは何も思わなかったみたいだけど、多分テラジも気付いてたはずだ。
「普通好きな人って聞かれたら異性って考えるのに只野さんはビッキーとヒナを挙げた。それ、つまり素直に答えたくなかったって事だよね?」
返ってくる言葉はない。ビッキーはヒナと、切歌ちゃんは調ちゃん、ユミはテラジともうお風呂に入った後だからここにはあたししかいない。
只野さんはシャワーだけ浴びたらしい。お風呂にどうして入らなかったのか聞いたら、自分は男で三十のおじさんだからだって言ってた。
あたし達に気を遣ったんだと思う。家主なのに申し訳ない事させちゃったなぁ。
「しかも……」
時刻は既に夜十時近く。只野さんはあたしがお風呂に入る前に仕事のためにコンビニへ向かった。
何だかそれが本当に大人って感じがした。お父さんがこんな時間に仕事に行くとかなかったから余計かも。
そうそう、アイマスは既に第二部へ突入してる。961プロってのが出てきて、ライバルアイドルのジュピターって男性三人組との関わりも増えてきたし。
「……アイドル、かぁ」
ぼんやりと考える。あたし達の世界じゃアイドルってちょっと敷居が高いけど、こっちじゃ地下アイドルや歌い手なんてのもいて、その気になって頑張れば誰でもなれるらしい。
何でもビッキー達もこっちでそれらしい事をしたみたいで、歌を唄って動画で上げてたなんてねぇ。しかも結構な人気だったそうだ。
まぁ、やっぱり翼さん達アーティスト組には負けてたらしいけど、ね。
でも、アイドルというか自分達の歌を世界に向けて発信したのは事実だ。
それで見知らぬ誰かが反応し、応援してくれてるのも。
「戦姫絶唱シンフォギア、か。あたし達もそこの中の登場人物で、ビッキー達はその作品ごと自分達を消そうとしてた恐ろしい相手と戦ってた……」
それを支えたのが只野さん。お金も人脈もない、本当の一般人だったけど、それでも世界の危機だってビッキー達のために色々と頑張ってた人。
……そして、きっとビッキーとヒナの好きな人。
「まっ、それも当然か」
大人の男の人が自分達のために一生懸命頑張ってくれてる姿を間近で見つめ続けたんだもんね。
あたしでもちょっとは気になっちゃうかも。ただ、それだけで惚れるかどうかは疑問符が付く。
つまりビッキーとヒナが惚れた理由は他にもあるってとこ。
「っと、そろそろ出ますか」
この後は夜更かししてアイマスを全部見ないといけない。
ユミやテラジとは結構やる事だけど、ここにビッキーやヒナ、更には切歌ちゃんと調ちゃんがいるのは珍しい。
ガオガイガー、だっけ。あれを見た時だってあたし達にビッキーとヒナまでだったしね。
お風呂から上がって体を拭いたらパジャマへ着替える。そのまま髪をバスタオルで拭きながらリビングへ戻ると、ジュースやお菓子などが用意されててもう鑑賞会の続きの準備は終わってた。
「おっ、来たわね。じゃ、再開するわよ」
「デスっ!」
すっかりコンビのようなノリのユミと切歌ちゃんに思わず苦笑。
只野さんの趣味とこの二人はかなり共鳴するからね。仕方ないか。
「待たせちゃった?」
「いえ、それ程でもありませんよ」
「うん、気にしないでいいから。みんなでどのアイドルが一番好きかって話をしてたし」
「おっ、面白そうな話じゃん。で? ヒナは誰?」
「私はやっぱり春香ちゃん、かな? 元気で明るくて、ちょっとドジって、どこか響に似てるし」
うん、ヒナの意見にあたしも同意。ただ、あれだけ派手な転び方はしないと思うけどさ。
「それなら私は千早ちゃんかなぁ。何だか翼さんと似てるんだよね」
「あっ、それ分かります。歌が好きなところや髪色、それと人との接し方の不器用さは似てます」
ビッキーの意見に結構な事を言うのは調ちゃんだ。意外だなぁ。この子、前までこんなにズバズバ年上の人の事言わなかったのに。
「テラジは?」
「好きとは違いますが、女性としてあずささんや貴音さんに憧れます」
「ああ、いいよね。大人の女性って感じするよ、あの二人」
ほんわかとだけど優しくて包容力のあるあずささんと、ミステリアスだけどどこか可愛い貴音さん。
しかも、二人してスタイルもいいときてる。身近だと……マリアさんが近いかな。
「安藤さんは誰ですか?」
「あたし? そうだな~……」
パッと思い浮かんだのは金髪が印象的なあの子だ。
自由奔放で、天真爛漫で、でもその奥にたしかな情熱や芯が見えた、そんなアイドル。
「美希、かな」
「「「「「「あ~……」」」」」」
で、何故かユミや切歌ちゃんまで納得するような声を出した。
何? そんなにあたしが美希って言うのしっくりくる?
「いや、何て言うかピッタリだなって思ったのよ。あっ、ちなみにあたしは響」
「ビッキー?」
「違うわよっ! 分かってて言ってるでしょ!」
「まあね」
お決まりの流れってやつだ。いや、だって響って名前のアイドルが出てきた瞬間、絶対こういうやり取りやらないとって思ったしさ。
「アタシは真美と亜美に自分と調を重ねたデスよ。ただ、多分その場合はアタシが亜美デスね」
「私はやよいちゃんかな。あの歳でおさんどんを完璧にこなすなんて凄い」
「そうだったね。大家族だったし」
「あの話いいよね。特にお嬢様なのにもやしを食べて美味しいって素直に言っちゃう伊織ちゃんが」
「ししょーに少し聞いたデスけど、伊織は家族全員で顔を合わせるのが一年に数えるぐらいしかないらしいデス」
「うわぁ、それは寂しいね」
「そういう意味でも対照的なんだね、やよいちゃんと伊織ちゃんって。だから仲良しなのかな?」
「ちょっと、そろそろアニメに集中してよ。今回は真のメイン回みたいなんだから」
話が盛り上がりそうなところでユミからの注意が飛んだ。
なのであたし達も意識をアニメへ向ける事にする。画面の中では真がプロデューサーと二人でデートみたいな事を始めていた。
年上男性と二人きりで、か。しかもアイドルがお忍びでだ。これ、現実的に考えると結構危ないよね。
でも、アイドルって言っても年頃の女の子って考えれば当然だよ。あたしもちょっとだけ憧れがない訳じゃないし。
「年上の彼氏、ですか。何だかドキドキします」
「まぁあたし達は女子校で教師達も女性だからね。中々年上の男性、それもイケメンなんて出会う機会ないわよ」
「だねぇ。最近出会った年上男性は優しそうだけどイケメンかって言われると判断に困るね」
あたしがそう言うと明らかにビッキーがチラッとこっちを見た。
うん、やっぱりだ。ビッキーの好きな人は只野さんで決まり。ならヒナもか。
ただヒナは無反応。この辺ビッキーよりもヒナの方が手強い。
「それって只野さんよね? ま、あの人っていい人止まりな感じがするもの。あたしも彼氏って関係よりは趣味仲間って方がしっくりくるし」
「年齢が一回り違いますけど、そこは気にしないんですか?」
テラジがそう言うとユミはあっさりと頷いてみせた。
どうやらユミにとっては年齢よりも趣味を理解出来るか否かが重要みたい。分からなくはないけどね。
ただビッキーやヒナの気持ちも分からないでもないんだよなぁ。
只野さんって、少ししか接してないけどイイ意味で普段は年上っぽくないから。
親しみやすいって言うか、あまり男って感じの視線や雰囲気こっちへ向けないしさ。
あたしもユミもテラジも、とびっきりとは思わないけどそれなりに容姿は良いと、思う。
スタイルは……まぁキネクリ先輩みたいな爆発力はないけど、そこそこ良いと思うし。
でも、欠片としてそういう視線や空気、出さないんだよね。そこが、正直ちょっといいかもと思う。
どうしても同年代の男の子ってなるとそういうの出してくるからなぁ。
「大人、かぁ……」
「はい?」
思わず呟いたら隣のテラジに聞かれてた。
「あ、えっと、やっぱり年上の良さってこっちへエッチな事をガツガツ求めてないとこかなって」
「あ~……かもしれません」
「それ、只野さんだからだと思うよ?」
「ですね。私も師匠だからだと思います」
「うん、かも。何せ私や調ちゃん、こっちでバイトしてた時に……ね」
「その話も気になるけど、今はアイマスに集中! てか、真がすっごく乙女で可愛いんですけどっ!」
「デスデス! アタシも今度ししょーとゲーセンデートとかしてみたいデス!」
うん、今聞き捨てならない言葉が聞こえた。まさか切歌ちゃん、只野さんに恋してる?
まぁ、今のがそういう意味じゃなくて憧れとか興味からの発言って可能性もなくはないけど……ねぇ。
あたしもそこからは本当にアイマスへ意識を向け続けた。
すると少しして急展開がやってきた。
「歌えなくなった……?」
「まるでいつかのビッキーみたいだね」
「……じゃあ、きっと今の千早ちゃんは迷ってるんだよ。心が、歌を唄う事をどこかで嫌がってるんだ」
何とアイドル達の中で歌姫的存在だった千早が唄えなくなってしまった。
原因は週刊誌に過去をすっぱ抜かれたから。
交通事故で亡くなった弟さんを、よりにもよって千早が見殺しにしたなんて、そんな内容で過去の記憶をほじくり返されて。
「酷い……。人の過去を、しかもこんな風にある事ない事混ぜて書くなんて……」
「月読さん、でもこれ、意外と普通にある事なのよ。ゴシップ誌ってのは売れればいいって考えの本だから」
「特に芸能人はそういうの狙われてるもんね」
「千早さん、そういうのと縁が遠そうだったから余計かもしれません。内容や見出しがセンセーショナルなのも、余計衆目を集めると読んだんです」
あたしを含めて全員が何とも言えない顔で話を見つめる。
歌姫が唄えなくなった。歌への情熱が人一倍強かった千早はそれが理由で引きこもっちゃったし、これからどうなるんだろう……。
「……あの時とは逆ですね」
そう私が呟くと皆さんが揃って頷きました。
画面の中では一人でモニターを見上げる春香さんが映し出されています。
アイドル全員が忙しくなり、最初の頃のようなみんなでいる事が難しくなった事。
それが“みんな仲良く”をモットーにしていただろう春香さんの精神を弱らせていきました。
更に美希さんと二人で挑んだ舞台でのやり取りが拍車をかけ、トドメが頼れるプロデューサーさんを自分のせいで入院させてしまい、その結果春香さんは心を病んでしまい、休養する事となってしまったんです。
それを、似たような状態から春香さんに助け出された千早さんが何とかしようと動いて、事務所からの生放送と言う形でアイドル全員で春香さんへ呼びかけています。
正直胸が熱くなりますね。ナイス、なんて言葉だけじゃ足りないぐらい、この描写はくるものがあります。
「みんな揃って765プロなんだね。映画の時、どうして春香ちゃんがあそこまで全員でにこだわったかがよく分かるよ」
「これが、この事があったから春香は可奈ちゃんを見捨てなかったんだわ。ああ、もう一回映画見たくなってきた。今見たら、きっともっと色んな事が深く分かるはずよ」
立花さんと弓美さんの言葉に私も頷きます。この後があの映画なので当然ですが、今見ればまた違った感想を抱きそうですね。
それにしても、本当に765のアイドルの皆さんは仲が良くてナイスです!
「団結力が765プロの強みだもんねぇ。その中心は春香ちゃんって訳か」
「だからセンターなんだろうね。みんなの中心にいる人って、そういう人が多いし」
「デスね。響さんとかししょーとかデス」
「うん」
「あ、あはは……そう言われるとちょっと照れくさいかも」
そう言って頬を掻く立花さんですが、やはり只野さんもそういう方なんですね。
初めてお会いした時は優しそうな男性としか思いませんでしたけど、立花さんや小日向さんを見つめる眼差しはどこか違って見えたので、創世さんからこっそり二人が好きな人かもしれないと言われた時は驚きよりも納得したぐらいでした。
まぁ少し前にふらわーへ行った時、おばちゃんからあの事を教えてもらったので間違いなく只野さんがお二人の好きな人と確定はしましたけど。
そんな事を考えている間にお話はいよいよ最終回となりました。
チラっと時計を見れば、時刻も既に日付けが変わっていて、もう丑三つ時を通り越してしまいそうになっています。
ううっ、お肌には悪いですが仕方ありません。
この作品、弓美さんが普段選ぶ物とは違って、激しい戦いも恐ろしい陰謀などもありませんから安心してみていられるので。
……終盤は少しだけハラハラしましたけどね。
「「「「「「「「READY&CHANGE!?」」」」」」」
まさかのサプライズです! 前半と後半のOPがここにきて合体しました!
最終回のライブは一体どうなるんだろうと思っていたらこれです!
ああっ、私もサイリウムを持って振りたい気分ですね!
「おおっ! ここのカメラワークも凄いわっ! これがあっての映画だったのねっ!」
「雪歩ちゃん、カメラ目線でウィンクしたよ。成長を感じるねぇ」
「うっわっ! 鳥肌出たよ~! これ、実際に見てみたいなぁ……」
「調、今度これカラオケでししょーの前で歌うデスよ」
「いいかも。私と切ちゃんで分担だね」
「衣装可愛いなぁ。ねぇ響、アイドルギア、頑張ればこれにもなってくれると思う?」
「どうだろ? でもでも心象変化ならいけなくもないかも?」
気になる事が聞こえてきましたが、ギアに関係するなら機密かもしれません。なので聞くのは止めておきましょう。
と、そこでふと思いました。只野さんは、もしかすれば教えてくれるかもしれないと。
立花さん達は装者だし組織に属しているから守秘義務があります。でも只野さんは世界も違う一般人です。
……これ、契約書の穴を突くような考えな気がしますが、いいのでしょうか?
「これ、新曲って事、かな?」
そんな中、聞こえてきた音楽と画面の中に現れた曲名に弓美さんが首を傾げました。
「何だか独特な曲名だね」
「デスね」
「あ~、ここで回想シーン入れるんだ。何だか最終回って感じだよ」
映し出されるのはこれまでの各アイドル達の印象的な場面の数々です。
これまで見てきた話を思い出しながら、聞こえてくる歌の歌詞にジーンとなって、涙は流れませんが胸に迫るものがありました。
ライブシーンが終わった時には、本当にライブを見終えたような感覚が私にはありました。
周囲を見れば響さん達も同じような感覚らしく、どこか脱力しています。
ふふっ、弓美さんと暁さんがまるで姉妹のように同じ状態で放心していますね。
その後はライブ後のちょっとした物語が流れて、事務所の移転は出来ないで雑居ビルの一室のままとなってしまい、最後はみんなでお花見という平和で穏やかな描写でエンディングへ。
それにしても、もしかすると春香さんはプロデューサーさんが好きなのでしょうか? お財布を渡すのといい、美希さんからの追及に顔を赤める事といい、無自覚かもしれませんが。
見終わった後はディスクをケースへ戻して袋の中へ板場さんが片付けました。これで後は返却するだけですね。
「ん~っ……っはぁ、じゃ、歯磨きして寝ようか」
「そうだね。結構深い時間になっちゃったし、出来るだけ静かに動こう」
「でもさ、だからってすぐに寝れそうにはないでしょ」
「あ~、結構最後はほのぼのだったけど、ライブシーンでかなり興奮したしね」
「それでも横になっておくべきです。暗い部屋で目を閉じて横になるだけでも体を休める事が出来ますし」
このままだと朝までダラダラと喋ってしまうと思ったので、すかさず弓美さん達へそう指摘しておきます。
小日向さんもいるので大丈夫だとは思いますが、念には念をと思うのは悪い事ではないはずですし。
「そうだね。いくら夏休みだからって徹夜は駄目だよ」
「そうですね。クリス先輩の見送りも近いですし……」
「その時寝不足顔だったら怒られるデスよ……」
「あ~、キネクリ先輩ならきっとそうだね」
「じゃ、歯磨きが終わった人から二階へ行きましょ。感想の言い合いはあ~……起きてご飯食べたらにするわ」
こうして私達は順番に歯磨きをしてから二階へ上がり、既に敷いていた布団へ入って眠る事に。
真っ先に暁さんと立花さんが寝て、次に月読さんと弓美さんが寝息を立て始めました。
私は中々眠れません。思ったよりも気分が高揚しているようです。
「ね、ヒナ。まだ起きてる?」
そんな時、創世さんの声が聞こえました。
「どうかした?」
「その、さ、ヒナとビッキーの好きな人ってやっぱり?」
「……うん、そうだよ。只野さんの事」
あっさりと、本当にあっさりと小日向さんは創世さんの問いかけを肯定しました。
しかも声から分かるぐらい嬉しそうに。
「せ、世界違うのに?」
「関係ないよ。好きになるって、本気で好きになるってそんな事関係ないぐらいの気持ちなんだよ。私は、それをここで知ったから」
さらりとではありますが、そこには強く重い気持ちが込められていました。
創世さんが言葉を飲み込んだのがその証拠だと思います。
……それ程の強い好意を、小日向さんは只野さんに抱いたのですか。
立花さんとまるで恋人か夫婦のようだった小日向さんでさえも、そこまでなってしまうのが恋というものなのですね。
「と、歳も離れてるよ?」
「世の中見てみると、一回り差は珍しくなくなりつつあるよ。十八歳と三十歳だから変に思うだけで、これが二十歳と三十二歳だとどう?」
「いや、そう言われると……」
何故でしょう? 急にそこまでおかしな年齢差な感じがしなくなりました。
これが偏見というものなんでしょうか? まだまだ私も心や視野が狭いようです。気を付けないと。
「そっちも本気で誰かを好きになったら分かると思う。恋の、愛のエネルギーって凄いんだって」
「…………みたいだね」
小日向さんの言い方と声で創世さんも何かを感じ取ったんでしょう。噛み締めるようにそう言いました。
「じゃあ、寝ようか。おやすみ」
「うん、おやすみヒナ」
お二人のやり取りを聞きながら私もぼんやりと考えます。
誰かを、異性を本気で好きになるとどういう感じなんだろう、と。
ここへ来た事で立花さんと小日向さんは恋をしました。そして、それは今のところ順調のようです。
そこでふと思いました。お二人の気持ちを只野さんは気付いているのでしょうか?
もし気付いているのなら、立花さんと小日向さん、どちらを選ぶのでしょう?
……それも少しだけ聞いてみたいですね。そう思いながら私も意識を手放した。
「たっだいま」
朝となり、勤務を終えた仁志が久々にシュークリームを廃棄三つと購入四つの合わせて七つを袋に入れ、どこかテンション高めに帰宅しリビングへと足を踏み入れたが、そこには誰もいなかった。
調か未来が出迎えてくれるかもと淡く期待していた仁志はがっくりと肩を落とし、ため息を一つ付くと無人のリビングへ呟いた。
「まぁ、これが現実か」
おそらくまだ全員寝ているのだろうと思い、仁志はゲーム機の傍に置かれているレンタル用の袋へ手を伸ばして中身を確認。
「全部入ってるか。じゃ、返却に行ってくるかな。っと、その前にっと」
手にしていたシュークリームが入った袋を持ってキッチンへと移動し、そこにある新しい冷蔵庫へとそれをしまう。
響達との繋がりが消えなかった事もあり、昔から使っていた冷蔵庫では小さいと考えた彼が動画収入から購入した物の一つであった。
他にも洗濯機やダイニングテーブルなども購入し、以前購入したソファも含め一人暮らしとは思えないような家具家電が今の彼の暮らしには存在しているのだ。
こうして再び仁志は早朝の道を寒さに身を縮めながら歩いて駅前へと向かう。
そして、あのレンタル店に置かれている返却用BOXの中へ手にしていた袋を入れると来た道を再び戻った。
冬の寒さは和らぐどころか強くなる一方で、それでも今の仁志には辛いとは思えないものだ。
何故なら彼には本来であれば有り得ない絆と出会いが残ったからだ。
創作物であったはずの世界が、存在が、実在しただけでなく自分と接点を持って繋がっているのだから。
見目麗しい美女や美少女。それらと親しくなれただけでも御の字なのに、あろう事か男女関係を、それも所謂ハーレム状態を許容されていたのだから幸運にも程がある。
仁志は、それは色んな巡り合わせの結果だと思っていた。
事実、それは間違っていない。全平行世界や平行宇宙を闇に沈ませたかもしれない悪意の企み。それが全ての始まりなのだ。
けれど、一つだけ彼が忘れている事が、いや信じ切れていない事がある。
響達が只野仁志という男を信頼するに至ったのは、紛れもなく彼が優しさと強さを内に秘めていたからだと。
(さてと、帰ったら熱いシャワーでも浴びて、軽く飯食べて寝るかぁ)
響達を見送ってやりたいがそこまで起きていられるとは思えない。
そんな風に思って仁志は再び家の鍵を開けて中へと入る。
この一時間半後、彼へ起きてきた女子高生達が思わぬ提案をするのだが、それはまた別の話……。
ちなみにアイマスのワンフォーオールというゲームでは、各アイドルごとにあるソロ曲と連動する特別衣装があり、思い出アピールを使用するとその見た目が変化するという物が存在します。
……アイドルギアも、もしかしたらそういう事が起きるかもしれないからツインドライブ非対応なのかもしれませんね。