シンフォギアの消えた世界で アナザー 作:現実の夢想者
とはいえメンバーはあの頃のようにはいきませんが。
「思いのままにっ!」
「「只野さん(ししょー)、今のは一体何です(デス)か!?」」
最後のフレーズを歌い切ると同時に曲が終わり、予想通り切歌と板場さんが真っ先に声を上げた。
それを見て苦笑する響達。その中に一人だけ小首を傾げる少女がいた。
「今のもカメンライダーとやらか?」
「そう。仮面ライダーゴースト。詳しい話はあえて省くけど、彼は歴史に名を遺した偉人達の魂と絆を結んで戦ったヒーローだ」
「色々気になる事が多すぎデスよ! あの目玉のお化けみたいなのは何デスか!?」
「何でパーカーみたいなの着てるんですか!?」
「それよりも僕は歌詞が響きました。人はいつか死ぬ。当たり前の事をこうして改めて告げられる事で、毎日をもっと大切に生きようって思いました」
「うっ、エルちゃんの純真さが眩しい……」
板場さんの反応はよく分かる。エルは相変わらず何事にも素直だな。
にしても、やっぱり板場さん達にもエルフナインじゃなくエルって呼び方を教えてよかった。
最初はどうしてこんな小さな子がって風だった三人も、エルが特オタな一面がある事で子供らしい部分もあると感じてくれたようだし、親しくなるには呼び方が可愛らしいってのは大きいからな。
……まぁマリアがいたらまたこうやって特オタへ染めてと文句を言われてたと思うけど。
それにしても、あの時はビックリしたなぁ。あの板場さん達が初めて俺の世界へ来た日の翌朝、起きてきた板場さんからこう言われたのだ。
――あのっ、こっちのカラオケって高いですか? 高くないなら今度こっち来た時に行ってみたいんですけど。アイマスの曲、歌ってみたいんです。
俺がエルやキャロルを誘って行こうと思ってたから丁度良かったんだよなぁ。
ならばと彼女達の方で予定を合わせてもらった。俺は仕事でも休みでも日中は付き合えるからだ。
そうして今日を迎えている。俺の感覚ではほんの一週間だが、響達からするともうあれから半月以上が経ったらしい。
その間に当然だがクリスがまた留学先へ戻った。だが、俺が見送りをしたいと言ったら本人に遠慮されてしまったのだ。
――仁志に見送りされると留学先へ戻れねー気がするんだよ。だから、その、気持ちだけ受け取っておく。
そう言われたのが俺の感覚で五日前。クリスは俺と数時間だけ過ごして戻っていったので、その翌日が出発日だったんだろうと思う。
で、今俺達は車を使って初めて来るカラオケ店にいる。
いや、たまには車を動かさないとバッテリーが……と思ったのだ。
それと、大勢の女の子を連れ回す事になるのであまり歩きはどうかと思ったのもある。
それにしても、この経過日数のズレはもしかして今年度中にこっちとあっちの日付までズレを無くすつもりなんだろうか?
もしかして、ここと向こうのズレを解消しないと不味い事があるんじゃないか?
依り代の力が消えてないのはそれに備えてるんじゃないか?
あるいは、悪意は倒し切れてないのか?
「あの、兄様? どうかしましたか?」
「え? あ、ああ、何でもないよ」
今はそういう話をしない方がいいだろうと判断し、俺はマイクをテーブルへ置いてソファに座る。
次に歌うのは誰だろうと思っていると、マイクを持っているのは切歌と調だった。二人で歌うんだろうかと思っていると、モニターには“READY!!”と表示される。
「ししょー、聞いてくださいデス!」
「私達で歌う~……」
「「「「「「「READYっ!」」」」」」」
そこから始まるのは女子高生七人による“READY!!”の熱唱。
前もって話し合ったのか歌割までしていて、まるで本当にアイドルのライブを見ている気分になった。
エルとキャロルも七人のそれを知らなかったらしく、エルはキラキラとした表情で、キャロルは呆気に取られた表情で聞いていた。
俺もコールを入れて盛り上げ、途中からはエルとキャロルにも参加してもらって楽しんだ。
で、その歌終わりに板場さん達三人から思わぬ提案があった。
「動画を上げたい?」
「はい。その、こっちでならあたし達もアイドルっぽい事しても平気かなって」
「ビッキー達に聞いたら、色々反応があって楽しかったって」
「なので、私達もやってみたいと思ったんですが、ダメでしょうか?」
アイドル活動をしてみたい、か。やっぱり女の子はどこかでそういう願望や欲求を秘めているんだろうか?
まぁたしかにこっちなら板場さん達は私生活を探られても怖くないし、住んでるとこも存在しないから不安はないか。
「いいよ。でも、出来ればオリジナル楽曲で上げたいんだよなぁ」
「オリジナル楽曲、かぁ」
「ビッキー達はギアでやってたの?」
「あ、うん」
「そうなると私達では難しいですね」
「既存の歌じゃダメですか?」
「ダメじゃないけど……あっ、そうだ」
そこである事を思い出す。例の“戦姫咆哮ギアヴァヌラス”のイベントで追加された曲がある。
何故か依り代の方のゲームにも追加されたそれに、彼女達で歌詞を付けてもらって歌ってもらうのはどうだろうと思ったのだ。
そう話すと意外と乗り気になったのが寺島さんだった。
「面白そうです。作詞という事ですよね?」
「うん。曲は依り代で聞けるから、これを貸しておくよ。それと同時に他に三人で歌いたい曲やそれぞれで歌いたい曲を考えておいて」
「え? ソロも?」
「当然。君達三人はドライディーヴァ、つまりこっちでの翼達三人と同じでユニットとしても稼働して、でもソロでもやって欲しい。そうだ。アイマスで言うなら竜宮小町だ」
「「「あ~……」」」
納得というような三人に俺は苦笑する。いや、アニマス本編を見てくれた事で説明が楽になったなぁと思ったんだ。
そこで三人はならばとアイマスから曲を選ぶ事にしたらしい。で、俺はアドバイスを求められたので……
「生まれた愛を育てて。信じる力に変えて」
板場さんには我那覇響をイメージして“Is This Love”を……
「自分に勝てるのは自分」
寺島さんには四条貴音をイメージして“DREAM”を……
「じゃあねなんて言わないで。またねって言って」
安藤さんには星井美希をイメージして“relations”を覚えてもらう事に。
要するにあのアイドルギアで足りなかったところを三人に埋めてもらう感じだ。
それに彼女達ならある意味でフェアリーの立ち位置にピッタリだし。
それにしてもさすがは音楽院へ通ってるだけあるよな。三人ともすぐに歌を覚えてしまったのには驚いたのなんのって。
とりあえずそれぞれのソロを動画にして“戦姫絶唱シンフォギアチャンネル”へとアップする事に。
それにしてもアニマスを見たからか、響達もかなりアイマス曲を歌えるようになってるなぁ。
“READY!!”もそうだし“CHANGE!!!!”もだ。ガイドボーカル付きではあるけど“自分REST@RT”まで歌ってくれたし。
……エルとキャロルが歌えず悔しそうだったので、二人には俺と一緒に“W-B-X”を歌ってもらった。
で、ラスサビ前は二人だけで歌ってもらう事にしたのだが……
「「僕らを繋いだ風を止めたくない~」」
これが実に良かった。本当に二人なら翔太郎とフィリップになれるだろうと思えるぐらいマッチしてた。
まぁ、歌い終わった後で板場さんからWについて色々聞かれたけど、ね。
「兄様、前に教えてくれたWの挿入歌を歌ってください」
「ああ、EXTREME DREAMだな」
「はい! 聞いてみたいです!」
可愛い妹分というか娘分にこう言われては歌わぬわけにはいかない。
さすがにこれは本編映像はないが、歌詞はきっとみんなに響くはずだ。
ついでに連続で“Nobady’s Perfect”を入れておく。
「誰かを信じる前に信じられた~。自分であり続けよう、Nobady’s Perfect」
Wの後半を彩った名曲だ。近い内にエルとキャロルにW本編を見せてやりたい。
特に終盤はこういうバディ物として泣ける展開が待っている。
それと、平成二期の方向性をある意味で定義づけた“仮面ライダー”という称号の重さと意味を描いてもくれてるしな。
「弱さを知れば人は強くなれる~」
続いての“Nobady’s Perfect”には誰もが静かにしてくれた。
そもそも穏やかな曲調だ。そこへメッセージ性の強い歌詞が乗る事で思わず黙ってしまったんだろう。
勇ましさはない。雄々しさもない。けれど人として大事な事をこの歌は歌ってる。
作品内の決め台詞でもある“お前の罪を数えろ”を歌詞に入れてるところもあって、これはやはりおやっさんこと“鳴海壮吉”の歌だしな。
「仁志さん、今のは?」
「仮面ライダーWの挿入歌の一つだよ。主人公がおやっさんと慕い、仮面ライダースカルでもある鳴海壮吉のキャラクターソングの一面もある、かな」
「誰も完璧ではない、か。今の俺には刺さる言葉だ」
「お前の罪を数えって、あの歌詞はやっぱり?」
「ああ、エルの想像通りだよ。Wでの決め台詞だ」
「決め台詞? どんな感じなんです?」
板場さんの問いかけに俺はマイクを置いてポーズを取る。
気分は変身した直後のW。マフラーを風になびかせてな感じだ。
「さぁ、お前の罪を数えろ!」
これはこの台詞の意味が分かるとよりカッコよさを増すんだよなぁ。
「こんな風に怪人、ドーパントなんかへ告げるのさ」
「お前の罪を数えろ、かぁ。どういう意味かしら?」
「気になるデスよ。ししょー、Wは話数どれだけデスか?」
「一年のシリーズだからクウガと同じぐらいと思ってくれ」
「かなりのボリューム……」
「しかもWは主役の映画だけじゃなくゲストでも中々出番の多い映画もあるし、スピンオフもあるしで、全部見ようとすると結構あるんだ」
「「「「「「「「「へぇ~(ほぉ)……」」」」」」」」」
そこから少しだけWの話をする事になった。
メモリチェンジや二人で一人など興味を惹く要素もあるし、主人公がハーフボイルドな探偵という事に、Wがご当地ヒーローである事を教えるとみんな(主に板場さん)が驚いたりした。
そうなると自然と見たくなってくるのがエルや切歌、そして板場さんだろう。
「ししょー、次のお休み前に連絡くださいデス!」
「はい。僕のゲートリンクへお願いします」
「あるいはこっちから連絡するべきかも。もうすぐ大型連休あるから」
「あー、シルバーウィークか。成程ね。それなら何とかなるか。っと、そうだ。板場さん、クウガを今日貸すから持って行って」
「ありがとうございます! いやぁ、気になってたのよねぇ」
「で、みんなはネタバレ禁止」
「「「「「はーい(デス)」」」」」
「キャロルは……知らないか」
「ある程度は知っている。エル……から聞いたからな」
板場さん達へ一瞬だけ目をやってキャロルはそう言った。
成程。真実はエルの記憶から知っただろうな、これ。
ちなみに板場さん達にはキャロルはエルの双子の姉で、姉妹揃ってS.O.N.Gで研究員をしている天才少女と説明してる。
嘘ではない。それに機密に抵触するかもしれないから詳しい話をするのもと、そう判断したのだ。
「んじゃ、ここからは俺はしばらくマイクを持たないから。みんなの可愛い歌声や綺麗な歌声を聞かせてもらおうかな」
「そういう事なら……」
「歌うわよ~っ!」
「でも私達はガイドボーカル付きですけどね」
「違いない」
「ちょっとっ! 折角盛り上げようとしてるんだから水差さないっ!」
本当に賑やかだな。板場さん達が増えただけであの頃を凌ぐ勢いの活気だよ。
そんな風に思いながら俺は響達の歌を楽しむ事にした。キャロルも響とだったり切歌とだったりとデュエットをしていて、何だか心があったかくなった。
今度はここにクリス達もいて欲しい。そんな風に思いながら時間は過ぎていくのだった……。
カラオケが終わり、二次会ではないが少々遅めの昼食会が帰り道にあったファミリーレストランで行われる事となった。
そこはリーズナブルな値段が売りの店であり、平日にも関わらず結構な人数の客で賑わっていた。
「「「「「「「安い……」」」」」」」
メニューを見た学生組が声を揃えるのがその証拠。ピザやパスタ、ドリアなどメニューは豊富なのに値段が彼女達の予想を完全に下回っていたのである。
「そうなんですか?」
「俺達は外食をしないからよく分からん」
一方エルフナインとキャロルはメニューを見ても首を傾げるばかり。
基本本部内の食堂しか使わない二人にとって外食は縁のないものであり、エルフナインは上位世界では自由に外出出来たが、何かを買う際は誰かに支払ってもらうしかなかったため値段は知らない事が多かったのだ。
「まぁここは特に安さを売りにしてるチェーンだからな。で、何を食べる?」
「やっぱりピザでしょ!」
「エスカルゴって珍しいよね。カタツムリみたいだし、ちょっと食べるのは勇気いるかも……」
「ヒナって意外とチャレンジャーなとこ見てるね。まぁ気持ちは分かるけど」
「そうですね。立花さんはどうです? 何か気になる物はありますか?」
「私はぁ……ミラノ風ドリアとかいいかなって」
二つのテーブルに分かれて座る仁志達。響達同級生五人で一つのテーブルを使っていて、仲良さそうにメニューを眺めて談笑していた。
「調っ調っ、デザートがいっぱいデスよ」
「……ホントだ。どれも美味しそう」
「キャロル、何がいい?」
「…………お前と同じでいい」
「僕と? でも僕はキャロルに選んで欲しいんだ」
「じゃあピザとパスタのどちらかをそれぞれが一つ選ぶといい。それを分け合って食べるんだ」
エルフナインとキャロルの希望を叶える方法を告げ、仁志は優しく二人の頭へ手を置いた。
「エルもキャロルもお互いの好みを知りたいんだろ? もしくは相手に好きな物を食べて欲しいじゃないか? それを相手も思ってるんだから好きに選ぶといいよ。切歌と調もそうするといい。何も全部一人で食べ切る必要はないんだしさ」
「「「「はい(分かった)(デス)」」」」
すっかり父親モードの仁志である。だが、そんな彼を隣のテーブルから響達が眺めていた。
「何だか只野さんってあの子達のお父さんみたいね……」
「うん、だね。年齢もあってか、エルちゃんとキャロルちゃんは本当に娘みたいだし」
「暁さんや月読さんも妹か姪のようです」
「うん、そうなんだよ。こっちにいた頃から仁志さんはエルちゃん達の保護者みたいな事してたから」
「実際、何度か私や調ちゃんといる時はお兄さんを装った事もあるしね」
「「「へぇ……」」」
「未来、それ初耳なんだけど?」
「話してないからね。ある種デートだったし」
「「「「その話詳しく」」」」
女三人よれば姦しいとはよく言った物で、響達五人はメニューを時折眺めながら会話へ興じ始めたのだ。
それを今度は仁志達が見つめていた。
「……凄いな、女子高生」
「はい、会話をしながらメニューの相談まで始めてます」
「無駄に情報処理能力が高いな」
「でも、アタシや調も友達と話してるとあんな感じデスよ?」
「うん」
「は~……やっぱり女の子というか女性は凄いわ」
半分感心半分呆れの気持ちで仁志はそう告げるとメニューへ目を向ける。
(相変わらず値段が良心的だけど、ちょっと社会人としては情けないかもしれないなぁ。人数が多いのもあるけど、選ぶ店がいつまでもこういう場所ばかりじゃ……)
動画収入があるとはいえ、仁志はしがない雇われコンビニ店長。その収入はけして多いとは言えないレベルだった。それで本来は家族四人で暮らせる家を借りているのだから支出は多いと言える。
動画による収入がなければ今の暮らしは本当に際どいものとなる事を仁志は理解していた。故に最近彼は何とか自分だけでも今の暮らしを維持できる方法を模索している。
(一番確実なのは資格を取ってそういう道をってやつだけど、問題は今更勉強出来るかだよなぁ。それ以外だとシフトの日数を増やすか早朝の時間まで残業するかだし……)
週六日勤務か週五日勤務の上夜十時から朝九時までの長時間勤務。そうなれば仁志は家に帰って寝るだけの生活になるだろうと予想していた。なのでそれは簡単だが最後の手段であるという認識を持っていたのだ。
ただ、それを聞けば時間のズレがなくなっている今、翼が身の回りの世話をすると言ってやってくるだろうし、下手をすれば響や未来が学院卒業と同時に同棲を始める可能性があるのだが。
そうこうしている間に仁志達の注文は決まり、ドリンクバーへ行き女性陣がキャイキャイとはしゃぐのを他所に、キャロルとエルフナインが切歌にミックスドリンクを作られてそれを調と仁志が苦笑する一幕があった。
やがてそれぞれのテーブルにピザやパスタなどが運ばれてくる。
「エル、熱いから気を付けて」
「はい、ありがとうございます調お姉ちゃん」
「キャロルはサラダ、まだ食べるデスか?」
「じ、自分でやるからいい」
「まぁまぁ、そう言わずに。切歌、多いよりは少ないぐらいでいいと思うぞ。ピザやパスタも食べるしな」
「りょーかいデス」
傍から見れば家族連れにしか見えない仁志達に……
「美味しそ~……早速一切れっと……アチッ!」
「ビッキー、慌てないでもピザは逃げないって」
「わぁ、見てください。このドリア、お値段の割にこんなに量があります」
「ホントね。てか、パスタも思った以上にしっかりしてるわ」
「ねぇ、やっぱり後で何かスイーツ頼んでみよっか」
「「「「さんせ~」」」」
完全に女子会にしか見えない響達と、彼らが一緒のグループとは思えない雰囲気の違いがあった。
エルフナインとキャロルの世話を焼きつつ自分達も食べる切歌と調。そんな四人を優しげな眼差しで見つめる仁志。
それとは違い終始華やかな響達女子高生組は、ピザなどを食べながら追加注文のスイーツをどうするかと話し合う。
食べ終わった時には誰もが心からの笑顔を浮かべて店を出る後ろで、仁志は決して安くはない金額となった支払いを済ませながら人知れず苦笑いを浮かべていた。
そんな事を知らず、切歌はエルフナインと手を繋いで駐車場に止めてある車へと向かって歩いていた。
「エル、美味しかったデスね!」
「はいっ! 今度は姉さんやヴェイグさんを連れてきたいです!」
「デスデス。みんなで来たいデス」
「キャロルはどうだった?」
「まぁ不味くはないな。その、調の料理には負けるが」
「ふふっ、ありがとう」
切歌がエルフナインと手を繋いでいるように、調は何とキャロルと手を繋いでいた。
実はエルフナインとキャロルは時々切歌や調と共に過ごしているのだ。とはいえ、護衛対象である二人が出歩くのは色々と面倒が多いため、切歌と調が本部を訪れ宿泊するというものではあるが。
その際には調がエルフナインとキャロルのために腕を振るい、四人で仲良く食事をする事となっていたのだ。
そういう事もあるので、キャロルは婉曲的ではあるが照れくさそうに調の料理を褒める。そんな彼女に調は嬉しそうに微笑んでみせた。その光景は髪色こそ違え姉妹のようであった。
そんな先を行く四人の後ろ姿を眺め、感慨深そうにしているのが響と未来だった。
「何だかいい感じだね、キャロルちゃん」
「うん、そうだね。切歌ちゃんや調ちゃんとも仲良くしてるみたいだし、エルちゃんとも時々ケンカするんでしょ?」
「みたい。ケンカ出来るぐらい仲良くなったんだなぁって思うよ」
「そう、だね。ケンカ出来るってそういう事だから」
「うん。私も未来とちゃんとケンカ出来るようになったの、そういう意味だしね」
そこで互いへ顔を向け合い、小さく微笑み合う響と未来。
かつてのエルフナインとキャロルはケンカではなく主張のぶつけ合いだった。そこには相手を理解しようとする気持ちはなく、ただ自分の考えを告げるだけだったのだ。
それが今の二人はちゃんとケンカをしていた。自分の事を知って欲しいと思うと同時に相手の事も知ろうとするやり取りなのだから。
そして店の出入り口付近では弓美達三人が仁志を待っていた。
「あれ? どうしたの?」
「いえ、御馳走になったからお礼をって思って」
「そういう事です。御馳走様でした」
「いやぁ、スイーツ頼んだ後で支払いが只野さん持ちって思い出したもんで……」
若干申し訳なさそうな創世に合わせるように弓美と詩織も同じような表情を浮かべる。
だが、そんな三人に仁志は軽く微笑むと片手を小さく動かした。
「いやいや、こんな可愛いお嬢さん達と一緒に過ごせて、軽い女子校の教師気分を味わわせてもらったんだ。それに比べれば安い出費だよ。だからあまり気にしないでいいから。その感謝の気持ちだけでも十分だしね」
それを響が聞けば小さく笑った事だろう。何故ならそれは、響とクリスを連れてシャワーを浴びさせるためにネットカフェへ行った際そのままな仁志の在り様を示していたのだから。
「でも……」
「いいからいいから。こう見えてもそれなりに稼ぎはあるんだ。それに君達はまだ学生だし、ここは大人に甘えなさい」
「そうですか……。分かりました。それなら、改めて御馳走様です」
「詩織?」
「そうだね。只野さんがこう言ってるし、お言葉に甘えますか。御馳走様です」
「創世まで……」
「板場さん、これがお互い社会人とか学生なら割り勘でいいけど、俺は三十のおっさんでそっちは学生だ。収入も違うし立場も違う。なら、素直に奢られてくれると助かるよ。いつか君達が職に就いたら缶チューハイでも奢ってくれればいいからさ」
「只野さん……分かりました! おつまみもつけてあげますねっ!」
「ああ、期待して待ってるよ」
そんなやり取りを終えてから仁志は三人と共に車へと向かった。
「ししょ~、早く来てくださいデース!」
「ああ、ごめんごめん。今開けるよ」
仁志がキーを使って車のロックを遠隔解除すると、切歌達が後部座席側のドアを開けて次々と乗り込んでいく。
それはさながら女子校の部活遠征にも似た光景だった。仁志は本当に自分が女子校の教師にでもなった錯覚を覚え、ないないとばかりに一人小さく首を左右に振って運転席へと向かう。
(さて、帰りも安全運転で行くとしますか)
そんな事を思いながら仁志はシートベルトを締めつつ一度だけバックミラーを見た。
「お昼が遅めになったから、晩ご飯もいつもより遅くするデスか調」
「う~ん……今夜はエルやキャロルと一緒に食べようかなって思ってるから二人次第」
「なら僕は遅くして欲しいです」
「俺は……俺も遅くでいい」
「未来、私達はどうする? いっそ本部の食堂で食べてく?」
「そうだね、どうしよっか」
「ねぇ、あたし達はどうする?」
「いっそ只野さんを御招待するのはどうでしょう?」
「俺を?」
「そうだね。前と同じで食材とかこっちで用意して、只野さんにさっきのお礼って形で晩ご飯を御馳走するのもいいね」
食べたばかりでもう夕食の話を始める仁志達。ただし、仁志を招待するとなれば響達が黙っているはずもなく、結局この日も以前のように仁志が仮眠を取っている間に響達が食事の用意をする事となり、そのままなし崩し的に彼女達を泊める事となる。
ただ、この日は仁志が休みのために寝る場所を彼だけ二階ではなくリビングとした。
響達は気にしなくてもいいと言ったのだが、仁志は頑としてそこは譲らなかった。
――大人としては当然だし、男としても当然の事だから。
こうして仁志は一人リビングへ布団を敷いて寝る事となった。
だが、日付が変わろうとした辺りで微かに階段を下りる音が聞こえ始める。
しかも一人ではなく複数分だ。やがて音は消え、静かにリビングへと続くドアが開けられた。
「……やっぱり寒いね」
「うん、早くお布団に入りたい」
「それよりもししょーとキモチイイ事してあったかくなるデスよ」
「とりあえずギア、展開しよっか」
ドアを静かに閉め、仁志の布団へとそそくさと近寄る四つの人影は、眠る仁志を確認すると小さく聖詠を唱えた。
「ん……? なんだ……?」
何か光のようなものが生まれたと気付き、仁志はゆっくりと目を開ける。
するとその視界には……
「……へ?」
ギアインナー姿の響、未来、切歌、調が映ったのだ。
「あっ、起きちゃった」
「ちょうどイイデスよ。起こす手間が省けたデス」
「え? は?」
「師匠、どうしたの? まだ寝惚けてる?」
「そうじゃないんだと思うよ。状況が理解出来ないんじゃないかな?」
「え、えっと、これは一体どういう事?」
理解しつつはあるが納得出来ない。そんな心境で問いかけた仁志へ、四人は妖艶に笑みを浮かべて口を揃えてこう告げるのだ。
――夜這い、です(デス)……。
まぁ、ご想像の通り、この直接の続きはアチラです(汗
にしても、この流れに見覚えあるなぁ(苦笑