シンフォギアの消えた世界で アナザー 作:現実の夢想者
今回は以前あった学生組との夜で覗いたキャラが出てきます。
それとアンケートを行いますのでもし良ければご協力ください。
「こ、これなんかいいんじゃないでしょうか?」
そう言ってスマホの画面の中にある一つの時計を指さすのはエル――ではなくそれに扮したキャロルだ。
今、俺はキャロルとこたつに入りながらスマホを使って時計を物色していた。いつかの約束した時計を選んでもらっているのである。
とはいえ、あれはキャロルがエルの振りをした時のやり取りだもんだから、こうやって一人でこっそりとやってきたのだろうと思う。
ちなみに本物のエルはきりしらと一緒にセレナのところへ遊びに行っているそうだ。これはセレナからの情報なので間違いない。キャロルも誘ったけどたまにはゆっくり寝ていたいと断られたらしい。
……その理由はこれのため、か。そう思うと何とも可愛らしいじゃないか。
「あ、あの、兄様? どうかしましたか?」
「ん? いや、エルが選んでくれたのなら何でもいいからさ」
色々と思い出していたからとは言わない。本気でキャロルが選んでくれた物なら何でもいいと思ってたし。
「むっ、それはダメです。兄様の感性でもちゃんと考えてください」
「はいはい。とはいっても、俺は基本安ければそれでって感じだからなぁ」
「それです。もう少しそういう観点以外の見方もするべきだと思います」
「う~ん、それはちょっと否定し切れないんだよな……」
実際もう三十にもなって、物の見方がまず値段というのはどうかと思わないでもない。
パッと見て、いいなと思うかどうかを考え、次に値段となるようにするべきかもしれないな。実際特撮やアニメグッズなどはそういう感じだから、それを他の物にも当てはめるべきか。
そこから少しの間、キャロルは俺の膝の上で次々と候補を挙げてくれた。俺はそれを見て、唸ったり謝ったりテンション上げたりと色んな反応を返した。
で、結果として木製の壁掛け時計に決定。やはり見た目が無機質よりは温かな印象があると言う事でそれになった。
「さてと、約束も果たしてもらったところで、一つ俺は君に謝らないといけない事があるんだ」
「謝らないといけない事?」
膝上で小首を傾げるキャロルへ俺は申し訳ない顔をして頭を下げる。
「すまない。実はあの時、君がエルじゃなくキャロルって分かってた」
そう言って俺はキャロルの反応を待った。怒られるか呆れられるか、あるいはそのどちらでもない反応をされるのかと身構えながら。
けれど、一向に反応はなかった。怒声もため息も、何なら息が漏れるような音さえ聞こえなかった。
どれぐらい沈黙していたのだろう。俺が膝上の温もりが微かに動くのを感じた瞬間……
「そうか……。分かっていながら今日まで黙っていたのか」
「その、ごめんな。嬉しかったんだよ」
「? 嬉しかった、だと?」
そこで頭を上げるタイミングだと思ってゆっくりと頭を上げる。するとキャロルの不思議そうな表情が視界に入ってきた。
「ああ。キャロルにとってはちょっとした冗談やおふざけだったんだろうけど、俺からすれば初めてのキャロルからの歩み寄りだった。だからそれだけで終わりたくないって思ってね」
「……それで時計を選んで欲しいと言い出したのか」
「そういう事。本当にありがとうキャロル。こうやって最後まで付き合ってくれてさ」
途中で自分が約束した事だと言い出しても良かったし、あるいはエルの振りをしてさっさと選んで終わらせる事だって出来たはずだ。なのにこういう風に二人きりの機会を設けてくれて、ちゃんと考えて選んでくれたから感謝しかない。
「こうやって騙す形になってごめん。でも」
「いや、それなら俺の方だ。まず俺が出来心でエ、エルの真似などしなければ良かっただけだ」
「キャロル……」
視界に映るキャロルは、照れくさそうに顔を背けて髪を人差し指で弄っていた。
そうしていると本当に年頃の少女にしか見えない。
「じゃ、お相子って事で」
「……ああ、それでいい」
そこでホッとしてキャロルの頭を優しく撫でると彼女は顔を背けた。多分照れてるんだろう。笑みを浮かべているから恥ずかしいんだと思う。
そんなとこが可愛くて、俺は笑みを浮かべたままキャロルの事を撫で続けた。そうしていると、その内キャロルも顔を背けているのが馬鹿らしくなったのかこっちを向いてくれ、ややブスッとした表情を見せてきた。
「いつまで撫でてるつもりだ?」
「嫌ならすぐ止めるよ」
「…………小父さんがしたいのなら好きにすればいい」
キャロルからのおじさん呼びをいただきました。何だか気分は本当に親戚のおじさんだ。
「そっかそっか。じゃあもう少しだけこうさせてもらうな?」
「好きにしろ」
「うんうん。キャロルは可愛いなぁ」
「っ!? そ、そういう事は言わなくていいっ!」
「何で?」
「な、何ででもだっ!」
「可愛いものを可愛いと言って何がいけない?」
「お、面白がっているだろうっ!」
「キャロルが可愛いのは事実だよ。君のお父さんもそう言ってたじゃないか」
「ズルいぞっ! こういう時にパパの事は言うなっ!」
顔を赤くして言い返してくるキャロルはとても愛らしかった。何というか、素直になれないところや可愛いと言われる事への耐性が低い辺りが愛しい子だ。
思い返してみれば、エルも最初の頃は可愛いという褒め言葉に首を傾げていたっけ。うん、本当に良く似てる姉妹だ。
「何を思い出してニヤニヤしているっ!」
で、そんな俺へキャロルがつり目になって睨んできた。けれどそれさえも可愛いのだからズルいのなんのって。
結局この後キャロルに本気で怒られるまで、俺は可愛い可愛いと言い続けた。
まぁそのせいでしばらく口を利いてくれなくなったんだけど、それでもすぐに帰らず一緒に昼寝をして、夕食を食べてくれたので優しい子だなと思う。
「時計が届く日が分かったら連絡するから来てくれるかい?」
「……気が向いたらな」
最後にそう言葉を交わしてキャロルを見送り、俺は勤務へと向かった。
今夜の勤務はオーナーとなので余裕だなと思っていたら思わぬ事を聞かれた。
「彼女、ですか?」
「うん。いや高山さんや南條さんが絶対出来たって言うもんだから」
「あ~……」
何とも答え辛い話題だ。誤魔化す事も出来るが、おそらくあの二人はある種の自信があって話してるはずだし、下手な誤魔化しは余計それを強めてしまうかもしれない。
「て事は、あのお二人の事だから割と踏み込んだ事言ってるんじゃないですか? 例えば天羽さんとか」
「ああ、南條さんはそう言ってたね。高山さんは月読さんが怪しいって」
うわぁ、さすがは女歴が長いだけある。どちらも当たりだ。
「あの、オーナー、自分で言うのも何ですけど、天羽さんだってそうですが月読さんなんて年齢差が……」
「だよねぇ。僕もそう言ったんだけど、高山さんはむしろそこが安心感になってるからって」
あ~、調の本質を見抜いてるのか。母親やってる人は凄いな、本当に。
「それに天羽さんはジョギング一緒にしてたよね? いくら見返りがあるとはいえ嫌いな相手と勤務終わりにそんな事しないだろうって」
「……かもしれませんね」
一般的にはオーナーや南條さんの感じ方が正しいと思うので肯定しておく。実際そうだったし、な。
「ただ僕はそれで言うなら立花さんだと思うんだけどね」
「へ?」
まさかの意見に間抜けた声が出た。オーナーはこっちに含みがあるような笑みを浮かべていたからだ。
「立花さんは明らかに只野君へ嬉しそうな笑顔見せてたからねぇ。気付かなかった?」
「あれが彼女の場合普通だと思ってましたので……」
「いやいや、あれは脈ありだと思うよ? ただ、さすがに成人と未成年との恋愛を推奨するのは世間体的にどうかと思ったし」
「それに、絶対という確証がなければけしかけた後で違ったってなると面倒ですからねぇ」
オーナーが苦笑して頷いたのを見て、俺はクリスや未来の想いの秘め方に内心で感嘆の息を吐いた。
あの二人はその胸の内を気取られる事無く過ごし切ったんだなぁ。ある意味で女性らしいかもしれない。
その話はそこで終わった。ただオーナーから「もし結婚とかを考えて転職する前に相談してくれる? 色々と力になれる事もあるかもしれないしね」と言われたので、その時は絶対に相談しますとだけ返した。
結婚、かぁ。現状じゃ結婚は出来ても子供が厳しい。コンビニも今後増々厳しくなっていくだろうし、どうなってもある程度食っていける方法を考えないといけないかもしれないな。
そんな事を考えながらその日の勤務時間は過ごした。チラチラと頭の片隅を過ぎるみんなの世界へ行くという選択肢を振り払うように懸命に動きながら……。
キャロルと新しい約束を交わした二日後、俺の家にキャロルとエルの姿があった。それだけじゃない。実はヴェイグも一緒だ。
「これが新しい時計か」
「キャロルが選んだと聞きましたけど」
「そうだよ。中々お洒落だろ?」
「「はい(ああ)」」
「まぁ、こいつが選ぶ物は大抵が安物然としていたからな」
二階の寝室というか一番大きな部屋に届いたばかりの時計をかけると、それを見つめてエルとヴェイグが嬉しそうな顔をし、キャロルはそれにどこか誇らしげな顔をした。
ちなみにヴェイグが一緒なのはセレナのところへ遊びに行った際にエルが昔を思い出した事が切っ掛けらしい。要はあの頃のエルはよくヴェイグと一緒にいたために懐かしくなったと言う事だ。
で、それを聞いてセレナが少しの間ヴェイグにエルと一緒に過ごしてあげて欲しいと頼み、ヴェイグもそういう事ならと少しの期間エルと一緒にいるそうだ。
「さてと、じゃあどう過ごす?」
「「「とりあえずこたつへ戻る」」」
揃った意見に思わず苦笑し、ならばと俺達は下へ戻った。リビングへ入るなり金髪の双子姉妹がこたつの中へ素早く入り、妹の方の膝へ座る形でヴェイグもこたつの中へ。
「俊敏だなぁ」
「えへへ、こたつは僕らの部屋にはありませんから」
「買おうと思えば買えるんだが、二人してそこで寝てしまいそうで止められている」
「マリア?」
俺の問いかけに深く頷く双子姉妹。どうやらしっかりマリアはこの二人のお母さん役をしているようだ。
「こっちも似た理由だ。マムがこたつで眠る事の危険性をマリアから聞いたからな」
「ははぁ、セレナの部屋も人の出入りがある訳じゃないからな。しかもセレナはあの世界で唯一の装者だ。風邪をひかれちゃ困るもんな」
「そういう事らしい。代わりに“ほっとかーぺっと”と言う物を用意してもらったぞ」
「おおっ、それも結構暖房器具としては優秀なものだよ」
一番凄いのはこたつとの併用だけど、そこまでやると本気でこたつむり量産状態となる。切歌や響など一発でそうなってしまうだろう。
何せこたつをつけない状態でホットカーペットだけつけていれば、こたつ布団の保温効果のおかげでこたつ使用時と同じようにあったかくなって眠くなるのだ。
「ああ。おかげで今の俺の寝床はそこになってる」
「ベッドじゃないのか?」
そういうのがあってもてっきりセレナと一緒に寝てると思ってた。
「俺はそれでもいいと言ったんだが、セレナがクッションをそこに置いてくれてな。セレナの部屋の中の俺の場所にしてくれたんだ。勿論一緒にベッドで寝る時もあるがな」
「だからヴェイグさんの場所だけ暖かかったんですね」
「ああ。まぁ、まさか切歌が寝てしまうとは思わなかった」
「……あいつらしい」
俺も口には出さないけど同じ事を思った。切歌らしいなって。ホットカーペットがあったかくて眠くなったんだろう。おそらくだけどヴェイグのクッションを枕代わりにしたんじゃないだろうか。
「なぁヴェイグ」
「ん?」
「切歌、クッションを枕にしてなかったか?」
「「その通りだ(です)」」
「どこまでも期待通りの奴だな」
キャロルの〆に俺は何も言えない。いや、うん、本当に予想通りだった。
そこからはこたつに入りながらエルキャロがゲームを始め俺とヴェイグが眺める時間となった。
そうしていると、ふとエルからこんな事を聞かれた。
――兄様、ギアのようなウルトラマンを御存じですか?
どういう事だと思ってエルの話を聞いてみると、どうやらギャラルホルン絡みでまたアラームが発生しマリア達旧F.I.S組が対応したそうで、そこで何と三人は宇宙人やウルトラマン達に似た見た目のパワードスーツを着て戦う存在と出会ったらしい。
そこまで聞いて俺が思い当ったのは“ULTRAMAN”だった。漫画で展開しているもので、初代ウルトラマンと一体化していたハヤタ隊員の息子、だったかな? それが主人公の作品だ。
俺は一巻を試し読みで読んだだけだが、俺が望んでいるウルトラマンらしさがあまり感じられず、むしろ平成ライダーのような感じがして敬遠している作品でもある。
まさかそれと出会うなんて、本気でこっちにある創作物は平行世界として存在してるのか?
「……そうですか。兄様は知っているだけで詳しい事は分からないと?」
「ああ。あれも一種のパラレルワールドなんだよ。メビウスへ繋がらない世界線だ」
「メビウスと言えばマムがタダノの話を聞きたいと言っていたぞ。どうもあの映画を見たらしい」
「へぇ、じゃあ近い内に顔を出さないとな」
ナスターシャさんのウルトラマンへの感想か。凄く興味がある。
可能なら今すぐにでも行きたいが、さすがに勤務があるので無理だ。
「そこでマリア達は新しいギアを手に入れたそうだ」
「えっ!? まさかウルトラマンギア!?」
「はい。姉様がウルトラマンで、切歌お姉ちゃんがセブン、調お姉ちゃんがエースだそうです」
ラインナップを聞いて首を傾げる。何でマンとセブンときてジャックじゃなくてエースなんだ? と、そこで気付いた。もしかしてあの作品って昭和ウルトラマンが全員地球へ来てない設定かもと。
「しかもだ。話を聞くにかなりの出力らしい」
「と言うと?」
「姉様達が言うにはエクスドライブと同等かそれ以上かもしれないそうです」
「飛行が出来て光線も撃てるし、切歌に限れば頭部にアイスラッガーもあったらしい」
「お~……」
どうやら完全にモチーフのウルトラマンらしくなれたようだ。にしても、飛行可能かぁ。たしかにそりゃエクスドライブ以上だ。
なので依り代で確認してみようとして、ギアを展開してないとそれが出来ない事を思い出す。ウルトラマンギアツインドライブ、気になるなぁ。
と、そう思ったのでエル達に予想してもらう事にした。俺はちなみにグリッター化と言うと三人からもそれだと言われて一瞬で終了したけど。
「ただ、姉様達は自力でなれる気がしないと言っていました」
「そうなの?」
「どうもそれになった時も色々と条件が重なった結果だったらしい。切歌の言葉を借りるのなら、心の光に溢れないとなれないギアだそうだ」
心の光に溢れる、か。成程、ならきっと簡単にはなれないだろう。逆に言えばそれぐらいじゃないとウルトラマンの力は使えないし使ってはいけないと言う事だ。
……テラノイドの話、みんなに見せておくべきか? あるいはイーヴィルティガか。
「そういえば今夜の食事はどうするんだ?」
ヴェイグがくりっとした瞳でこっちへ問いかけてきた。どうやら今夜はこっちで飯を食べたいらしい。いや、多分泊まりだろうな、この感じは。
そうなると食堂などでは食べられないものにするべきか。でも、俺に出来る料理なんて限られてるし、そもそも冷蔵庫の中にも食材なんてなかったはずだ。
「よし、買い物に行こう」
「「「買い物?」」」
「そう。四人だけど手巻き寿司をやろう」
あの日々で初めて全員で集まった際の夕食だ。キャロルにも簡単に寿司の事を知ってもらえるし、何より楽しいはずだ。
こうして俺達は四人で買い物へ出る事に。エルとキャロルには手を繋いでもらって俺の前を歩いてもらい、ヴェイグはエルが抱えている。これなら双子姉妹と親戚のおじさんに見えない事もないはずだ。
「キャロル、エルの手を離さないように頼むな」
「分かってる。少し目を離すとすぐにどこかへ行くからな」
「そんな事ないよ。むしろ僕よりキャロルの方がそんな感じです兄様」
「何だと?」
「実際、この前外へ買い物に行った時真っ先にいなくなったのキャロルだったじゃないか。調お姉ちゃんが探しに行ってる間、僕は切歌お姉ちゃんと長椅子に座って待ってたんだもん」
「あ、あれは美味そうな匂いがしてだな……」
「知ってるよ。キャロル、クレープ屋さんの前でサンプル眺めてたって調お姉ちゃんが教えてくれたから」
何とも可愛い光景だ。そうかぁ。クレープかぁ。女の子だもんな。クレープとか気になるよな、うん。
そのまま軽い口喧嘩のようなやり取りをするエルとキャロルを眺め、時に窘めながらスーパーへ。カゴを手に持ち、前を歩く双子姉妹に先に行きすぎないように注意してまずは胡瓜をカゴの中へ入れる。
大葉も入れて、次はメインの刺身コーナーへ行く前に手巻き海苔を購入し、ついでに寿司酢も小さ目の物を購入しておく。
「さて、どれを買う?」
「マグロは欲しいです。ヴェイグさんが好きですし、僕も食べたいので」
「了解。キャロルは?」
「俺はよく分からん。そもそも生魚を食べるのか?」
「ああ、そっか。刺身って珍しい食べ方なんだっけ。んじゃマグロが入った盛り合わせを一つ買って、甘海老や蒸し海老とかのない物を追加で買っていくか」
「あっ、なら僕、うにが食べたいです」
「うにとはどれだ?」
「えっと……あっ、このオレンジ色の物だよ。前に話題になったんだ。プリンにおしょうゆをかけるとこれの味になるんだって」
「プリンにしょうゆ? 奇妙な事をするな……」
目をキラキラさせてうにを眺めるエルと訝しむキャロルに心が和む。それとさり気無くヴェイグも目をキョロキョロさせているのが愛らしい。
ただこのままだとウニを買う事になるなぁ。それに四人じゃ食べ切れない量の魚介を買う事にもなりそうだ。まぁそれならそれで考えよう。そう思いながら俺は双子姉妹を微笑ましく見つめた。
口論ではなく笑みを浮かべ合ったり小首を傾げたりする愛らしいやり取りを行う、当たり前のようで当たり前でなかった光景を……。
「ほ、本当にいいのでしょうか?」
「気にしなくていいよ。むしろこっちとしては助かったぐらいだから」
目の前で手巻き海苔を片手に申し訳なさそうな顔をしている寺島さんにそう告げ、俺は視線をテーブルへと向ける。そこには色んな刺身などが存在し、それに加えて細く切った胡瓜や大葉が乗った皿もある。
今もキャロルが甲斐甲斐しくヴェイグの分の手巻き寿司を作っているし、エルはウニと胡瓜を巻いた物を食べて笑顔を浮かべている。本当に平和で微笑ましい光景だ。
どうやら寺島さんは何か俺に用があったらしく、俺が根幹世界へ手巻き寿司の参加者を探しに行ったらギャラルホルン前で彼女が響や未来といるところに出くわしたのだ。いや、あの時は驚いたなぁ。
そこから何故か寺島さんだけこちらに送り届けて響と未来は帰り、酢飯作りをエル達三人にやってもらっている間、俺は彼女と二人で胡瓜を切ったり大葉を切ったりと細々とした事をやって今に至るのだ。
「それにしても俺に用って何?」
「え、えっと、それは食事が終わった後にしていただけないでしょうか?」
肝心の用件についてはこの調子。響と未来が寺島さんだけ残した事に何か関係していると思うんだけど……皆目見当がつかない。
「それにしても、ヴェイグさん、でしたか。とても可愛らしいですね。ナイスです」
「ん?」
「もし良かったら触らせてもらっても?」
「…………少しだけだ」
「ありがとうございますっ! では……もふっもふっ」
「ううっ、やっぱりくすぐったい……」
このようにヴェイグも寺島さんの事を嫌ってはいない。いや、むしろ初対面から物怖じせず接してくるからか好印象さえ受けてる可能性もある。
それにしても、こっちに来た当初は同じ事を調や切歌がしようとしたら嫌がったらしいのに、それが今や初対面の寺島さんに許してあげるとはなぁ。
本当に少しだけヴェイグをもふった寺島さんは丁寧にお礼を述べ、そのお返しにとヴェイグの分の手巻き寿司を作ってあげた。
「どうでしょうか? 上手く出来たと思いますけど……」
「ああ、美味いぞ。ありがとうシオリ」
「いえいえ、これは先程のお礼ですわ」
今はお気に入りになった蒸し海老と胡瓜のマヨネーズ醤油巻を手に嬉しそうに笑っている。寺島さんもそんなヴェイグにニッコリと微笑んでいた。
「見て見てキャロル。綺麗に出来たよ」
「……まぐろにさーもん、そしてきゅうりか。たしかに見た目がいいな。なら俺は……」
「えっと、サーモンに大葉だけ?」
「最後にこいつを少量かける」
「わぁ、いくらが綺麗だね」
「どうだ。中々いいだろう。海の親子巻と言ったところか」
「え? いくらってサーモンの卵なの?」
「あの男が似たようなものだと言っていたぞ」
「そうなんだ……」
双子姉妹は手巻きの見た目を競うようにしながら食べている。あれはあれで可愛いもんだ。
それと、後でちゃんとした説明を二人にしておこう。うん、切歌辺りに今の話をされて、そこからマリア辺りへ伝わると色々面倒だし。
で、揃って手巻きを口にして同時に笑顔になるエルキャロ。本当に心があったかくなる光景だよ。そうだ。あれを写メして今度マリアや響に見せてやろう。
そう思ってスマホでエルキャロを撮ったり、ヴェイグと笑い合う寺島さんを撮ったりしてから、俺も手巻き寿司を作り始める。寺島さんはいいとこのお嬢さんらしく、エルやキャロルの面倒をさり気無く見てくれ、ヴェイグとも終始笑顔が絶えない会話をしていて傍から見てれば完璧だと思う程だった。
俺の飲み物まで気付くとおかわりを注いでくれてたしなぁ。いい奥さんになるだろうな、彼女も。
そうして食事を楽しんでいると、エルが伸ばした手を止めてこっちを見上げてきた。
「ど、どうしましょう兄様。もうノリがありません」
「マジか……」
「タダノ、どうするんだ?」
「よし、残った酢飯と刺身でミニ海鮮丼を作ろう」
出来るだけ酢飯を乗せ過ぎないように作った影響で先に手巻き海苔が全滅したので、仕方なく残った酢飯とネタを使っての海鮮丼作りへシフト。で、これで思ったよりもヴェイグやエルが喜んだのだ。
「おおっ、全部乗せられたぞっ!」
「ですね! あっ、ヴェイグさん待っててください。今スプーンを渡します」
「もう俺が持ってきた。受け取れ」
「おおっ、キャロルありがとう」
「エルちゃん達はどうしますか? スプーンいるなら渡しますよ?」
「じゃあ僕はそうします」
「俺は箸でいい」
「じゃ、キャロルはこれを使ってくれ」
本当にミニもいいとこの海鮮丼だが、それがお店などでは食べられない感じがあって良かった。
こうして綺麗に全て食べ切り、後片付けを俺と寺島さんにキャロルでやっている間、エルとヴェイグは風呂掃除をしてくれた。
何というかこれはこれで家族みたいだなと思う。ただ、この場合は俺がシングルファザーで娘二人とペット一匹で暮らしているところへ、娘達が姉と慕っている近所の学生が来てくれてるみたいな感じだけど。
……嫁さんとは死に別れたならいいが、何となく逃げられた設定の方がしっくりきそうでやだなぁ。
「これでラストだよ」
「分かりました。……キャロルちゃんお願いします」
「分かった」
俺が洗って寺島さんが拭き、キャロルが戻す。そんな流れ作業も終わったところでキャロルは早々にこたつへと戻っていく。その背中を見送り笑みを浮かべていると寺島さんの視線を感じたので顔を向ける。
「っ」
で、何故か顔を赤くされたんですが、これは一体どういう事でしょうか?
と、そこで思い出す。元々彼女は俺に何か用があってここへ来ようとしてた事を。
「えっと、寺島さん? そろそろ用件を教えてくれてるかな?」
「そ、そうですね。なら、その……」
「あー、うん。じゃあ悪いけど二階へ上がってくれる? ついでに布団を敷いておきたいんだ」
「わ、分かりました」
先に寺島さんを二階へ向かわせ、俺はキャロルへ進路相談を受けると言ってから階段へ向かった。
寒さに身を縮こませながら寝室へ向かい、ドアを開けて中へ入ると寺島さんが布団を出して敷いてくれていた。しかも既に俺の布団が敷いてある。
「あっ、只野さん。エルちゃんのらしいお布団はあるんですけど、キャロルちゃんのは見当たらないんです」
「ああ、うん。キャロル用の布団はないんだ。でも多分エルと一緒に寝ると思うから心配ないよ。ありがとう」
「いえ、ご飯を御馳走になったのでこれぐらいは」
「それなら準備や洗い物でって、それはもういいか。じゃあ本題に入ろうか」
「は、はい……」
お互い布団の上へ座る。で、俺は寺島さんが話し出すのを待とうとしたら……
「実は、私、見てしまったんです」
いきなりそう話を切り出されたのだ。見てしまったと、そう言われても俺は首を傾げるしかなかったけれど。
「見てしまったって……何を?」
「その、只野さん達の交わりです」
瞬間、頭の中が真っ白になった。これまではある意味俺へ好意を持っているセレナやエルにキャロルだから何とか誤魔化せたし事が大きくならずに済んだ。だけど、寺島さんは別だ。彼女は響や未来の友人というだけで、俺と何かある訳じゃない。
「それは……えっと……」
どうすればいいのか。考えてもいい考えは浮かんでこない。と、そこで思い出す事があった。
彼女はそもそも響や未来と一緒にここへ来ようとしていた。つまりこの事を二人へ話したんじゃないだろうか? その上で二人が彼女をここへ連れてこようとしたのは、何故だ? まずそれを確かめよう。
「寺島さん一ついいかな?」
「何でしょう?」
まったく恥らう事も臆する事もない寺島さんを見て、本当に彼女は思い切りがいいというか度胸があると感じる。俺だったらこうはいられない。どこかでビクビクしてしまうだろうなぁ。
「響と未来には話したのかい?」
「はい。なので只野さんのご意見も聞きたいと思いました」
俺の意見、か。つまり響と未来は寺島さんが納得し切れない答えを返したか言ったのか。
「それで、どういう事への意見を聞きたいの?」
「只野さんは立花さん達との関係をどうなさるつもりですか?」
飛んできたのは当然の問いかけ。そして、それ故に答えは簡単だった。何せそれを俺はあの頃の終盤、散々してきたんだから。
「響達が俺から離れたいと言わない限り、俺は彼女達と共に生きていく。それだけだよ」
「……出来るんですか、そんな事が」
「出来るか分からない。でも、そうしたいと思ってる。そのために俺に出来る事を続けていくだけだね」
「無責任とは思いませんか? 世界が異なっているのに」
「そう言われても仕方ないとは思うよ。でも、俺が自分の世界を捨てて彼女達と寄り添うとなれば、響達の性格から考えて俺の事を嫌いになっても捨てられないだろ?」
「そ、れは……」
「なら、無責任と思われても現状ままを続けるしかないと思うんだ。で、いつか俺はこっちで彼女達と一緒に暮らせるようにしたい」
「こっちで、ですか?」
「そう。響達は俺に愛想を尽かしても戻って装者としての稼ぎや立場で生きていけるからさ。まぁ、マリアはどっちにしろ時々は向こうへ戻らないといけないだろうけど」
一度として迷う事無く言葉が出てきた。それに心なしか寺島さんが驚いているようにも見える。ただ、これはもう何度も考え、悩み、今も迷っている問いかけだ。
だからこそ俺に言えるのはこれだけだ。
「俺が心から願っているのは、いつかみんながただの女性に戻れる事なんだよ。シンフォギアが必要なくなってくれる世の中になってくれる、あるいはする事」
「それでは先程の言葉と矛盾しますけど?」
「そんな事はないよ。仮にノイズやアルカ・ノイズが二度と出なくなり、シンフォギアが必要ない世界になったとしても、いつまた必要になるか分からないだろ? その時、ギアを起動出来てかつ功績のあった存在は貴重だと思うんだ。指導員や相談役としても、ね」
「…………そうですわね」
そこで寺島さんがため息を吐くのが見えた。それと同時に目を閉じるのも。
そこからしばらく彼女は何も言わず、その状態で黙り込んだ。俺の話を聞いた上で響や未来の話を思い出して色々と考えてるんだと思う。
俺はその間ずっと待った。理解してくれとは言えないし納得してくれなんてもっと言えない。ただこっちの意見を聞いてくれるだけ有難いなとは思う。
何せ彼女からすれば俺は大事な友人二人と可愛い後輩二人へ手を出しているなんて男だ。その考えや意見を聞こうとしてくれるだけでも心が広いと思うから。
おそらく響や未来の親なら問答無用で別れなさいだろうし、マムがご存命なら渋い顔をしただろう。いや、マムなら意外と本人達さえいいのならと受け入れてくれそうだなぁ。
「つまり只野さんは皆さんと本気で向き合い、愛し合っているという事でいいですか?」
「そうだね。少なくても俺は何があっても響達を捨てるなんて事はしないし出来ないと誓えるよ」
ハッキリと告げる。ただし叫ぶのではなく静かに力強い感じで。その方が俺の想いや決意を分かってもらえると思ってだ。
寺島さんは俺の答えを聞いて小さく頷き、そしていきなり恥ずかしそうな顔をして俯いてしまった。
「え、えっと?」
「……い、今になって恥ずかしくなってきました。あの、この事は誰にも、特に弓美さん達に言わないでくださいね?」
「ああ、うん。それは勿論だけど……」
どうやらGXの時のように今まで強い自分を演じていたようだ。それが終わって反動が出たんだろう。
とりあえずこれであの夜の事は本当に終わったな。でも、寺島さんが覗いていたとは……。
……うん、ヤバいね。お嬢様みたいな感じの子がむっつりスケベか。ありがちだけどそれがイイ。
「ねぇ、寺島さん?」
「な、何ですか?」
だからちょっとだけ意地悪してみたくなった。これもきっとドライディーヴァというMユニットのせいだ、うん。
「初めて見たセックスが複数プレイってどうだった?」
「っ?!」
その瞬間寺島さんが真っ赤になった。でも怒鳴ったり立ち上がったりしないところを見ると気が動転してるんだろうか?
「しかも響達がみんな気持ちよさそうにしてたもんね」
「あああの」
「俺のチンポも見ちゃった?」
「っ!?」
ボンっと聞こえてきそうな感じで寺島さんが真っ赤になって俯いた。あ~、可愛いなぁ。もう響達じゃ見れなくなった反応だよ。
まぁそうしたのは俺なんだけども。
「あれから大変だったんじゃない? ふとした時に思い出したりしてさ」
「…………はい」
小さく、だけどたしかに寺島さんは俺の言葉を肯定した。うわぁ、まさかここまで初心とは。さすがは女子校通いで女子寮暮らし。言葉遣いから察するにいいとこのお嬢様なんだろうなぁ、やっぱ。
「それで響や未来へつい聞いちゃったんだね。あんな事をして平気なのかって」
「…………はい」
うん、ヤバいぐらいSっ気が強くなってきてるのを感じる。そろそろブレーキかけないと不味いな。てか、これって大問題な事をしてるぞ、俺。
「すまない。全部セクハラだ。本当に申し訳ない」
頭を深く下げて謝る。訴えられたら一発アウトだと気付いた。いや、まぁ彼女はこの世界の住人じゃないから無理だけど、そういう問題じゃない。なので本気で頭を下げる。
今更何を言ってるんだと言われそうだけど、それでも謝らないでいいとはならない。いかんな。本気でみんなとの交わりで色々とおかしくなってる。
「い、いえ、いいんです。そもそも私が首を突っ込んだのがいけないんですから」
「それは君が友人を心配しての事だ。親切心からの行動とスケベ心からの行動は同じに捉えちゃいけない」
「スケベ心、ですか。えっと、只野さんは立花さん達を愛しているんですよね?」
「うん。でも、その、寺島さんが覗いてたって思ったらちょっとからかいたくなって、そしたら可愛い反応が返ってきたもんだから調子に乗りました。本当に申し訳ないです」
いや、本当に言葉がない。ここにみんながいれば集中砲火で叩かれた事請け合いである。
「え、えっと、とりあえず頭を上げてください」
「……いいの?」
「はい。可愛いと言ってくれたので許します」
可愛い言い方でそう告げられてはいつまでも頭を下げているのも良くない。折角寺島さんが広く大きな心で許してくれたのだ。有難く思いながら頭を上げさせてもらおう。
「ちなみに立花さん達にはこう言われたんです。只野さんは本気でみんなを大事にしたいって思ってる。だからその気持ちが変わらない限り今の状況を受け入れられるって」
「……そっか」
俺の気持ちが、決意が変わらない限り、か。成程、俺が愛想尽かされるとすればやはりそれは俺が折れたり諦めた時だな。
「さてと、じゃあ下に戻ろうか。それで本部まで送るよ」
「はい、お願いします」
こうして俺は寺島さんをギャラルホルン前まで送る事に。その際護衛としてキャロルがダウルダブラを展開してついてきてくれたのは嬉しかった。
「まさかキャロルちゃんが大人だったなんて。これからはキャロルさんと呼べばよろしいでしょうか?」
「別にどちらでも構わない。普段はあの姿でいるしな」
「そうですか……。あの、それは変身なのでしょうか?」
「変身、か。近いかもしれないな」
道中でキャロルの変化に寺島さんが目をパチクリさせて質問するのを聞いて俺は笑みを浮かべていた。
何せキャロルがどう呼んでもいいと彼女へ言ったからな。本当に丸くなったもんだよ。
ゲートを通ってギャラルホルン前に出るとそこには響と未来がいた。
丁度迎えに行こうと思っていたらしく、二人へ寺島さんを託して俺はキャロルと共に来た道を戻る事に。
ただ、去り際響と未来が寺島さんに聞き込みを行っていたので、確実に俺のセクハラは白日の下に晒される事だろうと思う。
……明日にでも謝っておこう、うん。
自分の中ではキャロルは覗くぐらいなら仲間に入れろと大人モードになって乱入すると思っていますし、エルも覗く必要はもうないので有り得ません。
そうなると三人娘の誰かとなりますが、何となく弓美は途中でバレてしまいそうなイメージがありますし、創世は証拠を残すような事をしない気がします。
……まぁ一番は詩織ちゃんがムッツリだと可愛いなって思ったからなんですけど(苦笑
三人娘に関して
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彼女達は現在のポジションのままで
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詩織だけハーレム入り
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創世だけハーレム入り
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弓美だけハーレム入り
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いっそ三人もお手付きしよう