シンフォギアの消えた世界で アナザー 作:現実の夢想者
マスコットキャラが一人追加になります。
「ヴェイグの同胞が生きてたんだってっ!?」
ゲートリンクから入った通信を聞き、俺は慌てて根幹世界を訪れていた。ギャラルホルン前にいた俺の出迎えであろうキャロルへ開口一番そう声をかけると、彼女は俺の大声に眉を顰めながら小さく頷いた。
そこからキャロルと共に発令所へ向かう中、彼女は俺へ簡単に何があったかを説明してくれた。
何でもとある小国がデュオレリックを封じると共にシンフォギアさえも圧倒できる程の物量と性能を持ったメカを作り出した。それには呪いの魔剣の欠片が使用されており、それがデュオレリックの制御を不安定にさせるとの事。
ツインドライブならば関係ないと出来るだろうが、そのメカに使用されている魔剣の影響かついさっきまでゲートリンク間の通信が出来なかったらしい。
で、その小国へ潜入し事態を何とか解決しようとしたのだが、そこにあるメカの製造工場の奥にヴェイグの同胞である“ドヴァリン”という存在がいたそうだ。
「だが、話によるとそのドヴァリンとやらは正気を失っているらしい」
「正気を?」
「ヴェイグ曰く人の心の闇に触れ続けて、ドヴァリンは光を忘れてしまったそうだ。今のドヴァリンは闇に囚われているらしい」
そこでキャロルの足が止まる。どうやら発令所に着いたらしい。
中に入るとそこには弦十郎さん達発令所メンバーと何故か未来、奏、セレナ、そしてヴェイグだけがいた。響達の姿はそこにはない。
「只野君、よく来てくれた」
「いえ、ヴェイグの同胞が見つかったなんて聞いたら大人しくしてられませんから」
「タダノ……」
「ヴェイグ、良かったな。どんな形であれ仲間が生きてたんだ。あとはそれを本来の状態に戻してやるだけだぞ。依り代の力とヴェイグの想いがあれば心の光はきっと届くさ」
悲しそうな顔をしているヴェイグへ敢えて明るくそう言った。ヒーロー物でよくある展開だからこそ、俺は最悪の結末を避けるために楽観的で前向きな発言をする事にした。
元に戻せたけど命を落とすなんて結末、俺は絶対嫌だからな。
「心の光、か。そうだな。ああ、タダノの言う通りだ」
「兄様、早速なんですが響さん達六人だけをツインドライブにしてもらえますか?」
「分かった。そういえば響達はどこに?」
「敵が襲撃を予告してきた。その迎撃のために各地へ散っている」
「成程な。自社の製品を売り込むためにシンフォギア相手でデモンストレーションってか」
死の商人らしい発想だ。だからこそ本来の切り札であるデュオレリックを封じてみせたか。なら、つまり逆を言えばそれが発揮されれば勝ち目がない訳だ。
なので早速俺は依り代のゲームを起動し響達六人だけをツインドライブへ変えようと思ってふと思いとどまる。
リビルドギアなら見た目が色合い以外通常時と同じなので向こうの目論見を粉砕するには丁度いいだろう。そう思って俺は響達六人をリビルドギアへと変えた。
それをエル達へ説明すると全員が苦笑した。
「只野君も中々食えないな」
「ですねぇ。見た目は通常ギアに近い状態なのに、出力はエクスドライブ並のギアですよ」
「デュオレリックよりもある意味強い状態ですし、相手側とすれば驚愕以外の何物でもないでしょうね」
「兄様らしいです」
「まったくだ。だが俺もそのやり方は嫌いじゃない」
「ホント、良い性格してるよ仁志はさ」
「ふふっ、ですね」
「お兄ちゃんらしいね」
ちょっとだけ張りつめていたような空気が緩んだ気がした。聞けばこれから装者三人は再び相手の本拠地へ潜入するそうだ。だから若干ピリピリしてたんだろうな。
なので俺は依り代をヴェイグへ渡す事にした。ドライブチェンジは出来ないが、きっとこいつの持つ破邪の力はヴェイグなら引き出せると思って。
「いいのか?」
「ああ。ヴェイグの仲間なんだろ? ならヴェイグの手で助け出してやるんだ。人間の事は出来るだけ人間自身の手で、ドヴェルグの事は出来るだけドヴェルグ自身の手で解決しないとさ」
「……分かった。依り代、必ず返しに戻る」
「その時はドヴァリンさんを紹介してくれよ?」
「ああっ! 勿論だ!」
依り代をしっかりと抱えてヴェイグが凛々しく頷いた。うん、これなら大丈夫のはずだ。俺が一緒に行ければいいんだが、おそらく邪魔にしかならない。
いざとなったらミレニアムパズルへ隠れられるヴェイグの方が安全性は高いしなぁ。
こうして俺は出発する四人を見送り、発令所で待つ事になった。程なくして始まる響達と謎のメカとの激突は、やはりリビルドギアである事もあってかみんなが圧倒して、互角というより優勢を維持し続けた。
「やっぱり凄いな……」
「そうだな。いざとなったら俺が援軍に行ってやろうと思っていたが、この分なら必要ないか」
「こう考えるとリビルドギアツインドライブじゃないと倒せなかった悪意は凄かったんだと改めて感じます」
エルの言葉に頷きながら俺はモニターを見つめ続けた。やがて響達が見事にメカの軍団を片付けてしまった。補充速度を撃破速度が上回ったのだろうな。
で、ついでに追加も止まったのだ。きっと奏達が成功したんだ。そう思っていると通信が入った。
『司令、聞こえますか?』
「ああ、聞こえている。未来君、そちらの状況はどうなった?」
『はい、依り代の力でヴェイグがドヴァリンさんを助け出してくれました。それと』
『例の機械はドヴァリンが元に戻った事で停止したよ。で、事の首謀者も確保済み』
「了解した。後の事はこちらで引き受ける。すぐにそちらに人を向かわせるのでそれまで待機していてくれ」
『了解。っと、仁志聞いてる?』
「ああ、聞こえてるよ」
まさかのご指名に内心疑問符を浮かべながら返事をすると……
『お兄ちゃん、ヴェイグさんがお礼を言いたいって』
『タダノっ! お前のおかげでドヴァリンを助け出せたっ! 本当に、本当にありがとうっ!』
涙ぐんでいるんだろう。セレナの声もヴェイグの声も若干涙声だった。
「俺は何もしてないよ。ドヴァリンさんを助け出したのはヴェイグの勇気と希望の光だ。それに依り代が応えてくれただけさ」
『それでもだっ! そうだっ! ドヴァリンがお前に会って話をしたいと言ってくれたぞっ!』
「そうか。ならその時を楽しみにするよ。みんな、気を付けて帰ってきてくれ。ああ、そうそう。響達も無事だよ」
俺がそう告げると弦十郎さんが小さく苦笑するのが見えた。
「俺の台詞を盗らないで欲しいんだがな」
「あっ、すみません」
「いやいい。聞いての通りだ。全員気を付けて帰還してくれ」
『『『『『『『『『了解』』』』』』』』』
装者全員が返事をするのを聞きながら、ふとあの頃を思い出した。カオスビーストとの最後の決戦前の、あの時を。
あれからもう三か月以上が経った。早いものだなと思う。去年は俺にとって間違いなく激動の年だった。そしてそれは今も続いている。
新年明けてから今までも新しい出会いというか関わりが増え、今また新しい出会いをしようとしている。
ドヴァリンさん、か。これでヴェイグもこれまで以上に人生、いやドヴェルグ生に張り合いが出るだろう。そして、願わくばそれがドヴァリンさんの張り合いにもならん事を……。
依り代によって呪いから解放されたドヴァリンはしばらく根幹世界で療養する事となり、ヴェイグはセレナからのすすめもあってもうしばらくエルフナインやキャロルと共に過ごす事となった。
未来、奏、セレナに与えられたイグナイトモジュールは当然消失。だがツインドライブが健在な今、それに対する悲しさなどなかった。
ドヴァリンも毎日のように見舞いに訪れるエルフナイン達が歌うヒーローソングに癒され、当初よりも早い時間で回復、遂に仁志との対面を果たす事となる。
「はじめましてドヴァリンさん。只野仁志って言います」
「ドヴァリンだ。そちらの事はヴェイグから聞いてる。俺の事も呼び捨てでいい」
「なら遠慮なく。これからよろしくドヴァリン」
「ああ」
握り合う手と手。それを見つめて嬉しそうにしているのはヴェイグだった。
「それでタダノ、ドヴァリンがお前の世界に行ってみたいらしい」
「俺の?」
「そうだ。ヴェイグから聞いたが神の世界らしいじゃないか。俺も一度行ってみたくてな」
「成程ね」
まるで少年のようなキラキラとした眼差しのドヴァリンに、仁志はドヴェルグ族の共通属性は純粋な好奇心なんだろうなと思って微笑んだ。
そこから話はドヴァリンの今後に変わる。ヴェイグがセレナの傍にいるのでそちらにするか迷っていると言われた仁志は、ならばと一つのアイディアを出した。
「ここに残る?」
「それも一つの道だと思うんだよ。あえてヴェイグと違う場所で人を見つめ直してみるっていうのもさ」
「タダノの世界はダメか?」
「う~ん……俺の世界でもいいんだけど、仕事の兼ね合いでドヴァリンと生活リズムがずれるんだよ。それに俺の世界じゃドヴァリンが他の人間を中々見れないしね」
「そうか……残念だ」
言葉通り肩を大きく落としてドヴァリンはため息を吐いた。するとその肩へヴェイグが手を乗せる。
「ヴェイグ?」
「ドヴァリン、なら奏の世界はどうだ?」
「かなで? ああ、あの赤い髪の人間か」
「ああ。あそこもここと近い感じだ。そして奏はセレナと同じでたった一人で装者をしてる。ドヴァリンがいてやれば寂しさが減ると思うんだ」
「寂しさ、か……」
何かを思い出すような眼差しを天井へ向けると、ドヴァリンは目を閉じてしばし黙った。それを見つめ、仁志とヴェイグは何も言わずにドヴァリンの言葉を待った。
やがてドヴァリンはゆっくりと目を開けると仁志とヴェイグへ顔を向けて笑みを見せた。
「ありがとう、タダノ、そしてヴェイグ。そうだな。俺は必要とされてるところへ行きたい。カナデが俺を必要としてくれるのならそこへ行こう」
「そうか。うん、それがいいと思う」
「そうだな。もし奏が言わない場合はエル達が必要とするだろうしな」
「そうか。エル達もとても優しい匂いがするからな。俺もここは気に入ってるぞ」
男三人での他愛ない会話がそこから始まる。基本は仁志が話をすすめ、時々ドヴァリンが質問や疑問を浮かべるとヴェイグが補足や説明を入れるを繰り返した。
それは仁志にはあの平屋での時間をどこか思い出させる事だった。ヴェイグと同じく純粋な子供のような部分を持つドヴァリンは、彼と同じように仁志の話に興味を示していき、特にロボットなどの話に強く興味を抱いたのだ。
そうしているとそこへエルフナインとキャロルがセレナと共に姿を見せた。
「ヴェイグさん、そろそろ帰りましょう」
「分かった。じゃあなタダノ、ドヴァリン。また会おう」
「おう」
「ああ、また会おう」
セレナの中へと入ったためにヴェイグの姿は見えなくなる。それを見送り、仁志は視線をエルフナインとキャロルへ向けた。
「で、どうして二人が?」
「えっと、兄様の世界へ行きたいなって」
「俺は護衛も兼ねてる」
「そっか。よし、ドヴァリン、とりあえず一緒に来るか?」
「いいのか?」
思いがけない提案にドヴァリンが目を輝かせる。仁志としてもエルフナインとキャロルが来るならドヴァリンが来ても大丈夫と判断出来るためだ。体験生活ならぬ体験訪問の提案をドヴァリンが断るはずもなく、弦十郎の許可も得て仁志達はドヴァリンと共に上位世界へと向かう。
辿り着いた世界でドヴァリンは匂いがほとんどない事に目を見開き、仁志は自分が夕食の買い物へ出ている間エルフナインとキャロルへ留守番を頼んだ。
「ドヴァリンさん、一緒にゲームをやりませんか?」
「げーむ?」
「はい、これです」
「……初めて見る物だ。一体どう使うんだ?」
「ええと……」
「とりあえずやってみるのが早いだろ。ドヴァリン、まずは見てろ」
初めて見るゲーム機やその映像にドヴァリンは目を見開き、初めてやったゲームに驚いたり楽しんだりと子供のような反応を見せ、エルフナインとキャロルを笑顔にさせる。
「よし、そろそろドヴァリンも自分だけでやってみろ」
「お、俺だけか?」
「ドヴァリンさん、この国にはこういう言葉があります。習うより慣れろ、です」
「習うより慣れろ、か……。分かった」
そこから始まるドヴァリンのよちよちプレイにエルフナインとキャロルは笑みを零す事になる。
勿論それだけではなく彼へ助言を行い、また手本を見せたりとゲームに慣れるように尽力していく。
それは、さながら姉弟のようでもあった。慣れないドヴァリンへエルフナインとキャロルが自分達の経験から手を貸し、そのプレイスキルを少しずつではあるが向上させていく様は姉と弟のようであったのだ。
「今度は四人でやるぞ」
「うん。ドヴァリンさん、もう一人でも平気ですか?」
「まだ不安はあるがやってみる」
パーティーゲームでもあるそれは最大四人までプレイ可能。それを利用し、CPUを入れた四人でのプレイを開始。
もう慣れているキャロルとエルフナインと違い、やはりどこか操作がおぼつかないドヴァリンではあったが、それでも生まれて初めてのゲームは楽しいようで終始表情をコロコロ動かして上機嫌だった。
三人のゲームは仁志が帰宅し夕食の支度をしている間も続き、その薄っすら聞こえる声や音をBGMに仁志は笑みを浮かべながら簡単な夕食を作る。
それはまるで父親だ。子供達の世話をする親のような雰囲気で仁志は豆腐をサイコロ状に切り、ひき肉を炒め、料理の素を使ってアンを用意し麻婆豆腐を作っていく。
やがてその匂いが漂ってきたのか三人の鼻が動き、ゲームを中断してキッチンへ三人が動き出すのだ。そこで仁志にあれこれと準備を頼まれ、エルフナインとキャロルが手伝いを始め、ドヴァリンは一人仁志の足元で質問を繰り返す。
「タダノ、それは何だ?」
「麻婆豆腐って料理だよ。これは広東風だな」
「かんとん?」
「中国って場所の郷土料理の括りの一つさ。他に北京、上海、四川とあるんだ」
「どう違うんだ?」
「う~ん……簡単に言うと、北京が高級料理が多くて、上海は海鮮系が強くて、四川は辛い料理や酸っぱい料理が強い」
「かんとんは?」
「そうだなぁ……。一番万人受けする料理が多い、かな?」
それらはあの頃マリアがヴェイグ相手に繰り広げていた事と同じだ。期せずしてドヴァリンもヴェイグと同じ事をしていたのである。
そして、それは仁志にも同じ事が言えた。ただ、彼の場合は幼い頃の自分をドヴァリンに重ねていたが。
「よし出来た。全員テーブルへ着く様に」
「はーい」
「「分かった」」
完全子供モードのエルフナイン。キャロルとドヴァリンは平常運転ではあるが、その意識は仁志の手にある深皿の中身へと向いている。
炊き立ての白米へ少し赤みがかった肉アンと白い豆腐がかけられていき、簡易的な麻婆飯が四つの茶碗で作られた。
「これがまーぼーどーふか?」
「正確には麻婆飯になるかな」
「僕、食べるのは二回目です。これ、辛いんだよキャロル」
「そうか」
かつて中華街で昼食を食べた際、一口だけもらった事を思い出してエルフナインが笑みを浮かべる。ちなみにその時は中々辛めだったので、一口だけでもエルフナインには刺激の強い味であった。
「あー、多分エルが食べたのよりは食べやすいよ。これ、甘口だから」
「カレーみたいだな」
「そうなんですね。少し安心しました」
「タダノ、もう食べてもいいか?」
「あっ、ちょっと待ってくれ。えっと、じゃあ手を合わせて」
「? こう、か?」
仁志の呼びかけでエルフナインとキャロルが同じ動きをしたのを見て、ドヴァリンも両手を合わせて仁志へ問いかける。それにヴェイグを思い出して仁志は笑った。
「ああ、それでいいよ。で、俺の言う事を繰り返してくれ」
「分かった」
「いただきます」
「「「いただきます」」」
こうしてドヴァリンへも日本式の食事マナーが教え込まれる事となる。初めて食べる麻婆飯にキャロルとドヴァリンは満面の笑みを浮かべ、エルフナインは前回食べた時より好みだと告げ二杯目をよそってくるなりすぐに麻婆飯へと変えてしまう程だった。
「タダノ、これは美味いな! 気に入ったぞ!」
「そうか。それは良かったよ」
「ああ。これは奏の世界でも食べられるのか?」
「言えば食べられるとは思うけど、エルが言ったようにこれも辛さが色々あるんだ。しかも今食べてるのは広東風で食べやすい辛さだから、本来はこうだと思わない方がいいかも」
「そうなのか? 難しいな」
そう言って小さなスプーンを口に咥えたまま腕を組むドヴァリンを見て、仁志だけでなくエルフナインとキャロルも笑みを浮かべる。
あっという間に麻婆豆腐は完食され、ドヴァリンは満足げに腹部を擦り、それさえも仁志達の笑顔を作った。
洗い物を仁志が大人モードとなったキャロルと一緒になって片付ける中、ドヴァリンはエルフナインと風呂掃除を始める。
「こうか?」
「はい、上手ですよドヴァリンさん」
「そうか。エル、磨き残しがあったら教えてくれ。全部綺麗にしてみせるから」
「分かりました」
スポンジを両手に湯船の底を磨くドヴァリンを眺め、エルフナインはニコニコと笑顔を浮かべていた。
ヴェイグとの経験値がこの中で一番あるエルフナインは、ドヴァリンとの時間でその違いを誰よりも感じ取っていた。
(ドヴァリンさんはヴェイグさんよりも責任感が強い気がする。ゲームをしてる時もミスした時にかなり気にしてたみたいだし、その辺りが聖遺物を作ってた職人らしさなのかもしれない)
ドヴァリンは現在何か作る事を忌避していた。要するに聖遺物となるような物を作り出したくないのだ。
それはやはり闇に囚われていた頃の事が影響している。呪いの魔剣を作り出し、それを使って世界を滅ぼそうとしていたドヴァリンは、助け出された後その腕を封印する事に決めたのだ。
――俺はやってはいけない事をしてしまった。ヴェイグの言葉を借りるなら、心の光を手放してしまったんだ。そんな俺はもうこの腕を振るってはいけない。いや、振るうつもりはない、だな。お前達が良い人間なのは分かる。ただ、お前達と繋がりを持つ人間も良い奴とは限らないからな。すまない。
弦十郎達が良い人間と分かっても、ドヴァリンは決してドヴェルグとしての腕前を見せようとはしなかったのだ。その判断を弦十郎も当然だと受け入れ、その事にそれから触れる事はなかった。
風呂掃除を終えた二人はリビングへ戻り、こたつへ入ると一瞬で表情を緩めた。
そんな二人を見て仁志が笑みを浮かべ、ふと思いついたようにドヴァリンへ尋ねたのだ。
「なぁドヴァリン」
「ん~?」
「ドヴァリンはドヴェルグの職人みたいな存在だったんだろ? ヴェイグが持ってるような道具、作れないのか?」
「あの、兄様」
「ドヴァリンはもう」
弦十郎とのやり取りを知っているエルフナインとキャロルがやんわりと話題を打ち切ろうと口を開くも、そんな二人にドヴァリンは笑みを浮かべて首を横に振った。
「いやいい。グレイプニルか。作れない事はないがどうしてだ?」
「あれがあればドヴァリンも俺の中に隠れる事が出来るんじゃないか? それならここで一緒に暮らせるなってさ」
その考えにドヴァリンは一瞬面食らった顔をして、それから嬉しそうに笑った。
「あははっ、そうか、そうだな。タダノの言う通りだ。あれがあれば俺はタダノの中で隠れていられるか」
「そうそう。そうなれば一緒に暮らすのも難しくないぞ」
「ははっ……うん、かもしれない。だがすまないタダノ。俺はもう道具作りを辞めたんだ」
「え? そうなの?」
「ああ」
「そっかぁ。じゃあせめてヴェイグにその知識や技術を教えてやってよ」
「何?」
「えっとさ、ヴェイグはずっと一人で仲間や友人が自分に会いにきてくれるのをミレニアムパズルの中で待ってたんだ。だからドヴェルグとしての技術や知識は誰にも教えてもらえてないんだ。ドヴァリンは腕の良い職人だったんだろ? ならその全てをちゃんと誰かに受け継がせるべきだよ」
「しかし……」
仁志の意見はドヴァリンにも響いた。それでも首を縦に振る事を躊躇ってしまうのだ。何せ彼はその腕のせいで辛い目に遭い、苦しむ者達を生み出してしまったのだから。
「ドヴァリンが心配してる事は分かるよ。でも、君のその腕だって誰かが教え、導いて得たもののはずだ。そしてそれは先人の知恵と努力と挑戦の結晶でもある。それを君の代で終わらせちゃいけない」
「先人の知恵と努力と挑戦の結晶……」
「そうさ。ドヴェルグ族の歴史の一つが君の中に宿ってる。それをヴェイグにも伝えてやって欲しい。そうする事で君達の仲間達や先祖達の生きた証が残り続けるんだから」
ドヴァリンの心をしっかりと掴むような言葉だった。昨日から今日、今日から明日。そうやって連綿と受け継がれてきたもの。それをちゃんと継承するべきだと仁志はドヴァリンへ告げたのだ。
そうする事で自分達一族の歴史は、存在は残っていくんだと、そうドヴァリンは思って言葉がなかった。
「君がどうして職人を辞めたかは聞かないけど、だからって受け継いだものを捨てるのはどうかと思う。ヴェイグは君から見ても成長してたんだろ? なら新しい世代に、いや自分とは違う存在にその技術や知識を託してみたらどう? そうする事で何かドヴァリンの中でも変わる事があるかもしれないし、見つかる事があるかもしれない」
「ヴェイグに……か」
「ああ。せっかく再会出来たんだ。数少なくなった同族だからこそ、手を取り合って支え合い、励まし合い、教え合うべきだと思うんだよ。一度俺達人間のせいで辛い目に遭った君だからこそ教えられる事があるだろうし、俺達とここで暮らしていたヴェイグだからこそ君に言える事があるだろうから」
そう優しく告げる仁志にドヴァリンはかつての人間の友人達を思い出していた。優しい匂いをさせていた頃の人間達を。
自分達と寄り添い、支え合い、手を取り合って生きていた頃の、そんな人間を。
「……そうだな。俺もかつてしてもらったようにヴェイグへ教えてみるか」
「それがいいよ。意外と教えるって難しいし、新しい発見もあるもんだからさ」
「ああ。タダノ、感謝するぞ。俺はまた独りよがりな生き方をしそうになってた」
「いやいや、俺こそちょっと出しゃばったかもしれない。ドヴァリンが考えて決めた事を翻意させようとしちゃったし」
「いいんだ。俺はどうやらまだ視界が曇ってたらしい。その曇りをお前が払ってくれた。ありがとう」
「えっと、じゃあどういたしまして。それと、俺からもありがとう。ヴェイグもきっと喜ぶと思うよ」
二人のやり取りをずっと眺めていたエルフナインとキャロルは、そこでやっと会話が終わったと察して大きくため息を吐いた。
「兄様らしいですけど、ちょっとドキドキしました」
「まったくだ。ドヴァリンが意固地になったらどうするつもりだった?」
「その時は謝るだけだよ。でも、何となくドヴァリンがヴェイグに相談せずに決めたんだろうなって思ってさ。だからせめてあいつの事を少し考えて欲しくてね」
そう言うと仁志はドヴァリンへ顔を戻した。
「ドヴァリン、やっぱり君はヴェイグとは違う場所で過ごす方がいいと思うんだ。ヴェイグに色々教えるなら常に一緒じゃない方がいいと思うし」
「どうしてだ?」
「一人で考えたい時もあるだろうし、教えた事や教わった事を見つめ直す際にすぐ頼れる相手がいるのは時にマイナス、良くない事にもなりかねないんだ」
「成程な。定期的にヴェイグと会う方がいいのか?」
「その方が今はいいと思うってとこ。まぁ一緒に暮らしてもそれはそれで良い事があるとは思うし、無理強いはしないからっと、そうだ」
そう言って仁志は何かを思い出したかのようにその場から動き出した。
「どうした?」
「ドヴァリンへいい物をあげようと思ってさ」
「いいもの?」
「そう。はい、これ」
不思議そうに首を傾げたドヴァリンへ仁志が差し出したのはあの“人をダメにするクッション”であった。
それを受け取り、ドヴァリンはまずその感触を確かめた後に寝そべって……全身を脱力させた。
「これはいいな……。体が沈むようだ……」
「ヴェイグもそれを気に入ってたからさ。俺の頼みを聞いてくれたお礼だ。それ、もらってくれ」
「いいのか? ……ありがとうタダノ」
力強く頷く仁志にドヴァリンはフニャフニャの笑顔で感謝を述べてそのまま目を閉じる。程なくして小さな寝息が聞こえてきて、仁志達三人は軽く驚いた後で小さく苦笑した。
その後は出来るだけ静かに三人は過ごし、風呂に入れるようになるとエルフナインとキャロルがこたつを何とか出て移動開始。その背を見送り、仁志はぼんやりと考えるのだ。
(ドヴァリンやヴェイグは、これからどうしていくんだろう? そもそもドヴェルグってどうやって増えるんだ?)
たった二人のドヴェルグ族。平行世界にもそれが存在しているのか否か。それは仁志も知らない事だ。
そしてその寿命も知らない。だからこそ仁志はこたつ机に顎を乗せて呟いた。
――もしも二人が俺達を見送る事になったら嫌だなぁ……。
知り合った人間達と死に別れ、それでも尚生きていかねばならなくなった時、二人はどうするのだろうと、そんな事を思って仁志はチラリと視線を眠るドヴァリンへ向けた。
「……もしドヴァリンを助けられなかったらヴェイグは一人きりになってたかもしれないのか」
今はセレナが、そして自分達がいるから寂しくないが、それも永遠ではない。しかもヴェイグの方が長命な可能性が高い以上、仁志の不安はあながち間違ってはいないだろう。
そのまましばらく仁志は、無言でドヴァリンを見つめ続けた。新しく得た異種族の友人の今後に幸多い事を願いながら……。
「エル、起きてるか?」
「すー……」
小声で隣で眠るエルへ声をかける。当然のように返事はない。よし、これでいい。あとはあまり冷たい風が入らないように布団を抜け出すだけだ。
ゆっくりと布団から這い出ると、俺は静かに階段へと向かう。時計を見れば現在時刻は朝の六時を過ぎたところか。チラリと見ればまだドヴァリンも寝ている。
あの後、あいつは九時までドヴァリンを寝かせてやり、優しく起こして一緒に風呂へ入って少ししてから仕事へ向かった。だからそろそろ帰ってくる時間だ。
「寒いな……」
こちらは季節が俺達の世界と異なっている。真冬の早朝に帰宅するあいつは、きっと寒さに身を震わせて帰ってくるだろう。
なので風呂を準備しておこうと思う。それと、出迎えもしてやるつもりだ。あいつはかつては必ず誰かにおかえりと言ってもらっていたからな。お、俺がそうしてやればきっと喜ぶだろうし。
リビングへ入ると既に暖房が動いていた。どうやらタイマー予約というものをしているらしい。こたつの電源を入れ、俺は予期せず温かな室内を通りキッチンへと向かう。
「少しはマシか……」
若干寝室よりは寒さが和らいでいる気がする。それでも寒い事に変わりはないので風呂場へ向かい、昨晩の内に湯は抜いて軽く水で洗い流して置いた湯船に栓をし、あとは勝手に湯を張ってくれるのをこたつに入って待つ事にする。
「……意外と遅いな」
あれからいつ帰ってくるかと思って玄関へ続くドアを見つめ続けているが一向に帰ってくる気配がない。時計へ目をやれば六時半になろうとしている。
風呂はもう入れるようになったが、肝心な奴がいなければ何も意味はない。まったく、一体何をしてるんだ? 俺達がいる事を忘れてやしないだろうな?
「……まさか、何かあったのか?」
この世界にはノイズや錬金術など存在しないが、だからと言って危険がない訳ではない。車などによる交通事故は当然存在するし、刃物などの凶器を持った強盗だっている。
依り代はノイズを防ぐ事は出来てもそれらまで何とか出来るとは思えない。そうなればあいつは身を守る術などない以上どうなるかは……っ!
「ただいま~……」
様子を見に行こうと立ち上がった瞬間聞こえた声に俺は思わず息を吐いた。そこから素早くこたつの中へと戻り、何食わぬ顔でドアを見つめると、あいつが疲れた顔で姿を見せた。
「あれ?」
「ご苦労だったな」
「あ、うん。っと、そうだ。これ、良かったら食べて」
そう言ってあいつが差し出した袋の中にはシュークリームが三つ入っていた。
と、いかん。ぼんやりしてるとあいつが着替えてしまう。
「おい」
「ん? 気に入らなかった?」
「違う。その、風呂に入れるぞ」
「え?」
「い、一々疑問を浮かべるな。お、俺が支度してやったんだ。有難く温まってこい!」
「分かった。ありがとうキャロル」
嬉しそうに笑みを浮かべながらタオルなどを用意してリビングを去っていくあいつを見送り、俺はふとある事を思い出していた。
それは、この場所で行われたあの乱れた宴。間違いなくセレナ以外の装者全員があいつと男女の仲に、肉体関係になった時の事だ。
正直言えば、俺はそれまであいつの事をパパみたいなものだと思っていた。エルへの対応や俺への対応など、どこかパパを思わせるものが多かったからだ。
それが、あの夜を切っ掛けに変えられてしまった。向こうがどう思っているかは分からないが、俺はもうそれまでと同じには思えなくなった。
極めつけはきっと、小父さんと呼ぶようになった事だろう。あれで俺の中で一気にあいつを、あの男を親しい他人と捉えるようになってしまったからな。
……まぁ、俺自身が受け入れた事だ。今更それに関してどうこう言うつもりはない。
「そろそろいいか」
あいつが風呂へ向かって一分は経過した。もうこちらへ戻ってくる事はないだろう。
それでも出来るだけ静かに移動する。心音が勝手に早くなっていき、煩くなっていく。脱衣所を見ればあいつの寝間着と下着が置いてあった。
俺はそこへ着ていた服を置いていく。正直隠すためのタオルが欲しいが今の俺は子供の体だ。なら気にする方があいつに笑われる。
一度だけドアの前で息を吐いて、俺は意を決して中へと入るべくドアを開けた。するともうあいつは湯に浸かって情けない顔をしていた。
「はぁ~……」
しかも俺が来た事に気付いていない、だと?
「お、おい」
「ん? えっ? キャロル?」
仕方ないから声をかけてやっても、あいつはこちらを見て不思議そうにするだけ、か。どうやら向こうは俺を子供としか見てないようだ。何となく癪だが、まぁいい。
「背中を洗ってやる。一度出てこい」
「へ? 背中?」
「そうだ。いいから早くしろ」
気恥ずかしいのを我慢してそう言うとあいつは苦笑して何故か湯船の端へ寄った。
「嬉しいけどキャロルが風邪引いても困るから先にまずあったまった方がいい。隣においで」
「…………いいだろう」
本当にパパのようだ。でも、もう今の俺はあいつを、小父さんを父親のようには思えない。
色々と複雑な気持ちを抱きながら湯へ浸かる。少し熱めの湯が心地いい。
「それにしても驚いたよ。まさかキャロルが背中を流してやるなんて言ってくれるなんてさ」
「……小父さんには色々と世話になってるからな」
「気にしなくてもいいんだけどなぁ」
そう言って苦笑する小父さんは、やっぱりどこかパパに似ている。そう思うだけで鼓動が高鳴った。
俺は、ううん私は小父さんを年上の異性として見ているからかもしれない。生きた歳月だけで言えばこっちの方が長い。けれど、多分心の年齢で言えば小父さんの方が年上だ。
だから頼もしさのようなものを感じる事がある。単に背丈だけじゃない。その在り様や考え方に私はパパを感じ取っているからだと、思う。
「っと、そろそろいいか」
今の私はこの時代風に言えばファザコンと、そう言うらしい。ファザーコンプレックス、だったか。否定出来ないのが何とも言えない。
エルの奴が小父さんに懐き、今も時間が出来れば会いに行くのはそれなんだろう。私が幾分素直だった頃よりも、エルは自分の気持ちに素直に動けるみたいだし。
「キャロル~? そろそろ背中洗ってもらってもいいか?」
「っ!?」
気付けば小父さんが湯船から出ていた。で、こっちに背中を向けてバスマットに座っている。
「わ、分かっているっ!」
慌てて俺も湯船から出た。小父さんはまったく気にもしないで平然としているのが何だかちょっと気に障る。
「少しぐらいは動揺しろ」
小声でそう呟きながら俺は片手にボディーソープを出す。両手を使ってそれを泡立てると小父さんの背中を洗い始めた。
大きくて広い背中は、やっぱりパパを思い出させる。ただあの頃の生活にこんな事はなかった。そう考えるとこの生活は十分贅沢だ。その気になればいつでも熱い湯を沸かせ、温風も冷風も自在に出せる物が存在している。
「こんな感じでいいか?」
「うん、十分だよ。それにしても何だか妙な気分だなぁ」
「どうした?」
「いや、こんな事は自分の子供でも出来ないと経験出来ないって思ってたからさ」
何故かその言葉に目頭が熱くなった。きっと、きっとパパも私とこういう事があったら喜んでくれたんじゃないかって、そう思って。
「今の小父さんならその内出来るだろ」
「あ~……どう、だろうな。難しい事を考えないでいいならそうかもしれないけど」
泣かないために無理矢理話題と空気を変える。背中を向けられていて良かった。じゃなかったら今頃私が泣きそうになっている事を気付かれていた。
「難しい事、か。世界の差?」
「それもあるけど、一番は経済面だよ。要は俺の収入面。そこをどうにか出来ない限り子供なんて無理なんだ」
「子供にお金がかかるのは分からないでもないが、そこまで?」
私がパパと生きていた頃も養育するのは何かと金が要り様だった。けれど、貧しいながらも子供を持つ家庭は多かったはずだ。
「キャロルがよく知ってる頃とは違ってね、今のこの国は人づきあいがほとんどなくなってしまったんだ。だから子供を育てるとなると周囲の協力は得られない事が当然でさ」
「……理解した」
そういう事か。つまりかつては大勢の者達が手を貸し合って子供を世話していたが、今や人の繋がりが希薄となり子育ての負担が一気にのしかかる訳か。
だからかつてよりもかかる費用などが増え、貧しい者達は子を持つ事を避けるしかない訳だ。だが、そうなると余計貧しくなるのではないだろうか? 子供は言っては何だが将来の働き手であり稼ぎ手だ。それを持てない以上、その家庭はゆっくりと衰退するしかないと思うんだが……。
そう思って小父さんへ聞いてみると、小父さんは苦い声で肯定した。実際そのせいでこの国は衰退の一途を辿っているそうだ。
「とはいえ、簡単に収入を増やす術なんてないからなぁ。色々と頭を悩ませてるんだよ」
「動画収入はどうだ?」
エル達がこの世界にいた頃小父さんが始めた悪意への対抗策にして収入源。それらは今も存在し、多少は収入を得ているはずだけど……。
「あれは俺が何かやってアップしてる訳じゃないからね。正直あれをあてにするのは危険だ。あくまでもあれは稼げたらいいなって感覚でいないと。あれで生計を立てるなら、俺はドライディーヴァを確実にこっちへ引っ張ってこないといけない」
「小父さんだけじゃ稼げないと?」
「そういう事。悲しいかな俺にはそういう才能は欠片もないんでね」
自嘲気味に笑う小父さんに何だか無性に腹が立った。だって小父さんがあの日々でエル達を支え続けられたのも、私がこうしているのも、全てはこの人が依り代に選ばれたからだ。
それは一種の才能だ。非常の才だとは思うけど、それでも小父さんには才能がある。それがなければ今頃どうなっていたか分からない。
私もそうだしドヴァリンだって助けられなかったはずだ。依り代を小父さんが手にしたからこそ、今に繋がっているんだから。
「あるから」
「え?」
「小父さんにも才能はあるから。ただそれがお金を稼ぐのに向かないだけ」
「キャロル……今、喋り方が……」
不意に口調が昔のようになった事に気付き、私は慌てて小父さんの背中から手を離した。
「こ、これで終わりだ。俺はもう出る」
手の泡を落としてお風呂場を出ようとすると、そっと後ろから抱き締められた。
「ありがとうキャロル」
その声はとても優しくて、両腕に感じる感触はとても温かくて、何とか堪えていた涙が流れ出しそうになる。でも止めてとは言えないし言いたくない。
結局黙り込むしかなかった俺へ、小父さんはしばし黙った。多分俺の反応を待ってたんだと思う。そうやって少しの間沈黙が続いて、きっと小父さんはその雰囲気に耐えかねたのかわざとらしく咳払いをした。
「それとキャロル、体が冷えてきてるからあったまり直すように」
何とも不器用で、どこかパパに似ていて、けれど異なる声と雰囲気。それが私の心をそっと撫でていく。
「まったく、何だその情けない父親のような言い方は。まぁいい。分かったから離せ。このままでは湯に入ろうにも入れない」
「おっとごめん」
パパにどこか似てるけどやっぱり違う。そう改めて感じて俺は笑う。
うん、やっぱりこの人は小父さんが丁度いい。父親じゃないけど父親っぽくもある、そんな人だから。
「小父さん」
「ん?」
シャワーで背中を洗い流し出した小父さんへ俺は向き直って小さく笑いかける。それも、きっと悪人顔に見えるような表情で。
「忘れてるかもしれないが、俺は錬金術を駆使して長く生きてきた。だから子供扱いはあまりしない方がいいと思うぞ」
「えっと……?」
「な、何だったらここでダウルダブラを展開してもいいんだぞ? そういう事だ」
「なっ!? そ、そういう事ね! ご、ごめんごめん。そうだよな。エルと違って君は十分成人女性だった」
俺の言葉を聞いて小父さんが慌てて体の向きを変えた。そこで思い出す。そういえば小父さんは思い込みが激しい性格だった、と。
おそらく無意識に俺をエルと同じような枠へあてはめていたんだろう。そこへ俺が大人にもなれる事を言われ、その意識が切り替わったのだ。
……も、もしかすると今の小父さんはあれか? 男として俺に反応しているのか?
ならここで引く訳にはいかん。
「ふふん、どうした? もしや、この凹凸の無い体に性的興奮でもしたか?」
「きゃ、キャロル、いいから早く風呂に入った方がいいぞ」
「情けない。お前も男なら開き直ってみせろ。あれだけの数の女を抱いたのだろう」
「それとこれとは別だろ? というか、キャロルだってそういう方面はからきしなの知ってるから無理しなくていいよ」
「っ!?」
ま、まさかの返しに言葉が出ない。そ、そんな事まで知られているのか? くそっ、ガリィとは違った意味で厄介だ。
だ、だが何となくこのままでは負けたようで腹が立つ。こ、こうなったら仕方がない。小父さんに負けを認めさせるためには……っ。
俺は意を決して小父さんの横から顔を出して反応を確かめた。そして……
「「っ?!」」
二人揃って顔を赤くするという結末を迎え、俺は無言で湯船へ逃げるように入って心の中で十数えて風呂場を後にした。
……密かに製作中のエル用ファウストローブにも成人状態になれる機能を搭載してやろう。きっと小父さんが驚くはずだ。
そんな事を考えていないといけないぐらい、俺が見た物は衝撃的だった。あの夜見た時よりも鮮烈に、強烈に脳裏に焼き付いた残像を忘れようと、俺はエル用のファウストローブへ意識を向け続ける。
けれど、けれどどこかで私は考えていたんだ。いつかあれで私も本当の大人の女にしてもらう時の事を……。
個人的にキャロルのママは成人キャロルの目がたれ目になった感じだと思っています。
クリスママがそんな感じですし、アナザークリスはママそっくりな感じでしたしね。
まぁ某らき☆すたの柊姉妹の母親は、つり目なのにおっとりというキャラでしたのでもしかするとキャロルママもつり目で穏やかな人だったのかもしれませんけど(汗