シンフォギアの消えた世界で アナザー   作:現実の夢想者

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遂に上位世界と他の世界のズレが三か月程度になりました。
根幹世界のクリスマスシーズンは本編の最終回で描きましたが、彼女が久々の登場となります。


季節外れのクリスマスプレゼント 表

「三月、かぁ……」

 

 カレンダーを眺めて一人呟く。ドヴァリンと知り合ってもう半月が経過した。あれからドヴァリンはヴェイグへ自分の技術や知識を教え始めたらしく、その講習会は奏の世界で行われているそうだ。

 

 そう、ドヴァリンは奏と共に生活する事を選んだ。エル達と一緒に根幹世界で暮らす事も考えたそうだが、奏が一人で戦っている事がやはりドヴァリンには気になったらしく……

 

――奏、俺はヴェイグと違ってお前の役に立てる事は何もないかもしれない。それでもいいなら俺はお前の傍で孤独感を薄めてみたい。

――ははっ、薄めるか。うん、ありがとドヴァリン。じゃあ、あんたの気が済むまで傍にいておくれよ。

 

 というやり取りがあって、現在ヴェイグはドヴァリン用のグレイプニルを製作できるように修行中。それが出来るまではドヴァリンは奏の世界にはいるものの、主な生活圏は二課本部内となっている。

 ヴェイグはドヴァリンのために週二回の講習会で必死に学んでいるようで、セレナも奏と定期的に顔を合わせるからか姉妹のような仲の良さを見せているとの事らしい。

 

――俺に教えている時のドヴァリンはとても楽しそうなんだ。あれだけ笑顔のドヴァリンがまた見れるなんて思わなかった。

 

 つい数日前にセレナと共に遊びに来たヴェイグはそう言って嬉しそうに笑っていた。どうやらドヴァリンも本格的に教える側となった事で教える喜びや楽しさを見つけたらしい。

 元々ヴェイグの師匠らしいドヴァリンだけど、そのヴェイグの成長があってより教える事が楽しくなったんだろう。

 

「……教える事、か」

 

 俺も店長となって半年が経過した。元々あの店では古参だったけど、曲がりなりにも役職者となっての半年はそれまでとは違う密度と濃度だった。

 特にオーナーとの話し合いの時間が増え、本部の人とも話す事が出来たために色々と苦労も増えている。

 それまではオーナーが全て引き受けていた事を少しだけ俺がやる事になり、大変さも増えたが出来る事や言える事も増えたのでそこはよしとする。

 ただ、そうやって本部の人間と接していると思う事がある。やはりコンビニ勤務だけで家庭を持つのは難しいという現実だ。

 

「オーナーに軽くそういう話を振ったら難しい顔をしてたもんなぁ」

 

 俺は店長ではあるが社員じゃない。なので当然ながらその扱いは普通のバイトよりはマシ程度。

 しかもコンビニの時短営業があちこちで話題となっている事もあり、うちでもそれを視野に入れるべきかもとオーナーは考えているそうだ。

 

――深夜営業が赤字なのは只野君もよく知ってるだろう? もしそこを無くせるなら経営としては助かるんだけど……。

 

 現状夜勤は俺やオーナーを入れて四人。つまり時給が発生しているのは三人だ。その人件費が浮き、更に俺は店長故に夕勤へシフトさせられる。そうなればオーナーは早朝から夕方までの勤務でいい。

 

「けど、そうなると俺の収入は一気に減るし……」

 

 オーナーもそれを分かっているからこそ、視野に入れて考えている、で止まっているんだろう。夜勤帯の時給でなければ俺が勤務を続けないと分かっているからだ。

 実際そうなったら俺はあの店での勤務を考え直さないといけない。一番最有力は昼から閉店までの半日勤務、だろうな。掛け持ちは……正直辛いしな。でも最悪そうするしかないかもしれない。

 

 と、まぁそんな事を最近よく考えるのだ。俺を想い、慕ってくれる女性達のためにもと。

 

「とはいえ、このままじゃいつまで経っても変わらないどころか悪化するしかない、か」

 

 あの店というかオーナーには恩がある。だから例え夜勤がなくなるとしてもすぐ辞めるとは出来ないしするつもりもない。

 ただ、例えそうならないとしてもずっとこのままあそこで働き続ける訳にはいかないのも事実だ。

 

「今の俺は、一人じゃないからな」

 

 そう噛み締めるように呟く。例え響達が俺以外の男へ心移りしても、エル達との繋がりが消える訳じゃない。ヴェイグやドヴァリンだっている。この家で一生暮らすとも思えないし、考えないといけない事は沢山ある。

 いずれは両親の面倒も見ないといけないならその事も視野に入れて考えないとな。う~む、考えれば考える程嫌になってくるぞ。

 

「っと、いかんいかん。真昼間から気が滅入る事を考え過ぎるのは止めよう」

 

 ただでさえ寝起きなんだ。こんな鈍った頭じゃいい考えが浮かぶはずもない。とりあえずは買い物に行くか? そろそろ袋麺の買い置きもなくなってきてるし……。

 

「一度冷蔵庫の中も見ないとなぁ」

 

 期限が近い物や切れている物もあるかもしれない。冷蔵庫のチェックは時々来る調や未来がやってくれているのだが、彼女達とて毎日来てくれる訳ではないし来ると大抵ああいう事がセットになりつつある。

 翼や奏、マリアもそうなので、まず間違いなく俺との触れ合いに飢えてくれているのだろう。それが嬉しくもあり申し訳なくもある。

 

「強かったはずのみんなを、弱くしてる要因でもあるからなぁ」

 

 人と触れ合い、関わる事で人は強くもなるし弱くもなる。様々なヒーローやヒロイン達と同じく、みんなもそうらしい。俺がみんなの新しい強さにもなり、また弱点ともなっているんだ。

 

「そしてそれは俺も同じ、か……」

 

 あの頃はどこかで別れを覚悟していられた。けれど、みんなと肉体関係を持った今、きっと俺はあの頃のような強さは持てない。

 それが、別れを迎えさせてなるものかという強さなのか、別れを受け入れられない弱さなのかは分からないが、少なくても俺は一つの強さを失って、一つの弱さも失ったんだろうと思う。

 

「っと」

「へ?」

 

 とそこへ聞こえた声に振り返れば何とクリスが立っていた。

 

「クリス?」

「……おう」

 

 久しぶりに会うクリスは、どこか大人びいているように見えた。けどこっちを見つめる眼差しはあの頃よりも熱や寂しさが宿っていて、彼女の心の動きを伝えてくるようだ。

 なのでこちらから近付こうと思う。わざわざ来てくれたのだから、こちらは迎えるのが筋だしな。そう思ってクリスの体を優しく抱き締めた。

 

「久しぶり。それと、会えて嬉しいよ」

「…………あ、あたしも、嬉しい……」

 

 そこからしばらく会話はなかった。俺はクリスを抱き締め続け、クリスはクリスで俺を抱き締め返してくれた。

 そうやってどれぐらい過ごしていただろうか。やがてクリスが顔を上げて潤んだ瞳で見つめてきた。それが何を思っての行動かはすぐ分かった。

 

「んっ……」

 

 そっと触れるようなキスをすると、背中に回されていた腕にまた力が入ったのが分かる。

 静かに顔をクリスから離すと眼差しがかち合う。すると次の瞬間……

 

「んっ」

 

 再びキス。ただし今度はクリスから。その顔が赤くなってるのを見て、愛しく思って俺も抱き締める腕に少しだけ力を込める。

 舌を絡める事もなく、ただ互いの体温や存在を確かめ合うだけの時間。それはきっと長い間離れていた隙間のような感覚を埋める事なんだろうと思う。

 

 やがてクリスがそっと顔を離して恥ずかしそうに胸へ顔を埋めた。

 

「おかえり、にはまだちょっと早いかな?」

「……おう」

「えっと、もしかしてそっちも春になった?」

「さすがにそれはねーよ。冬期休暇ってやつだ」

 

 そこからしばらくはクリスからの状況説明が続いた。どうやら向こうは十二月の下旬に入り、クリスも留学先から一時帰国したとの事で、今根幹世界は十二月二十四日、つまりクリスマスイブらしい。

 で、クリスは帰国するなり本部へ直行。弦十郎さん達へ一時帰国を報告しついでに俺の様子を見てくると告げてこっちへやってきたとそういう訳だ。

 

 そこまでして俺と会う流れを作りたかったんだなと思うといじらしくて笑みが零れる。

 そんないじらしい少女は、今はこたつの中へ足を入れて温まっていた。

 

「それにしても、こっちはまだ三月か。てっきりそろそろ夏になるかと思ったぜ」

「開いてた感覚が短くなってきてるし、この調子なら遅くても夏ぐらいにはズレがなくなるんじゃないかな?」

 

 あの久々に装者全員がここへ揃った日から、俺の世界とみんなの世界とのズレは少しずつ減っている気がする。最初は時間のズレで、次が季節のズレなんだろう。

 これも、俺の世界がみんなの世界と本来なら繋がるはずがない場所だから問題ないんだろうな。ただ、だからこそ気になる事もある。

 

 考えないようにしてたけど、どうして未だに俺の世界へのゲートというか裂け目は存在してるんだろうって事だ。

 

 これ、うがった見方をすれば絶対良くない事だと思うんだよなぁ。だって、もうこの世界とみんなの世界が繋がってる意味、ないから。

 と言う事は、逆に考えると繋がってないと不味い事がある。あるいは起きるって事じゃないかと思うんだよ。特に例のULTRAMANの一件やドヴァリン絡みの事件はその一例だ。

 そして、そうなると俺には一つ心当たりのようなものがある。それは言うまでもなく世界蛇絡みのあの組織、ウロボロス。

 

 あいつら、全滅した訳じゃないんだよな。主要メンバーを失っただけで、今もどこかで潜伏してるはずなんだ。悪意は実体を持たないからそいつらと手を組む事はなかったけど、もしそうされてたら面倒だったはずだし。

 

 って、待てよ? それも警戒しての時間停止だったのか? だとすれば星の声って凄いな、やっぱ。

 

 そういう事をクリスへ話すと彼女も忘れてたって顔で息を吐いた。

 

「成程なぁ。ウロボロスの残党か。そいつらがまた何かしでかすからこことの繋がりは消えてないって?」

「じゃないかなってとこ。正直ベアトリーチェの残滓とも言える悪意が動いたんだ。傍付きの眼鏡こと石屋も妙な復活を果たしてないとは言い切れない」

「しかも、もう一つのギャラルホルンが存在してるのも確認されたしな。たしかに何が起きても不思議はないか……」

 

 考え込むようなクリスを見てると何となくあの頃に戻ったような錯覚に陥る。いや、ある意味では同じだ。悪意は倒せたかもしれないが、まだ全てが綺麗に終わった訳じゃない。

 ウロボロスの残党は存在し、今もまだ見ぬ平行世界では次なる悪が、闇が生まれてるかもしれないんだ。

 

「倒しても倒しても新しい悪はどこからか現れる、か……」

「あ?」

「ヒーロー物でよく言われる言葉だよ。悪っていうものは終わりがない。倒したと思ったら、すぐに次の悪が現れる。悲しいかな現実でも創作でもそういう展開が後を絶たない」

「……だな」

 

 二人して切ない表情で息を吐く。俺は幾多ものの作品で、クリスは実際の経験でそれをよく知ってるからだ。

 

「よし、この話はまた今度にしよう。少なくても今するべき事じゃない」

 

 そう言って俺はこたつから出るとクリスの横へ移動して再度こたつへ入り込む。

 

「んだよ?」

「少しでもクリスの近くにいたくてさ」

「っ……そ、そうかよ……」

 

 照れくさそうに顔を背けるクリスに思わず笑みが浮かぶ。本当に可愛いよな、クリスも。

 

「それで、クリスはどうするんだい?」

「どうするって……」

「泊まる? それとも夜までには帰る? ちなみに運良く俺は休み」

「なら泊まる」

 

 ならときた。じゃ、つまりそういう事だと思っていいんだな。

 そう思ってそっとクリスの腰へ手を回すと、チラリと視線だけが一瞬向けられただけですぐに彼女の視線は前へ戻った。触っていいとそういう事だ。何というか、これだけでも嬉しいもんだ。

 

「留学先ではどう?」

「まぁそれなりに楽しくやってる。やっぱ歌の力はすげぇって実感もした」

「そっか。音楽と絵は国境を越えるからなぁ」

「音楽は知ってたけど絵も、か……。言われてみればそうかもな」

「こう考えると統一言語なんてもんがなくても、人は通じ合えるものがあるんだよな。ただその上手い下手があるけどさ」

「違いねぇ。でも、下手でも心がこもってれば伝わる気がするぜ?」

「だといいね。想いは言葉にしないと伝わらない時もあるけど、伝え方は言葉だけじゃないって風にも言えるし」

 

 寄り添って会話していると何だか夫婦に思えてくる。実際は恋人が近いんだろうけど、この空気感は夫婦だと思う。

 そう思ってクリスへその事を告げるや顔が真っ赤になった。けれど以前ならそこで文句などが飛んできたのに、今はまったく飛んでこない辺りに変化がある。

 むしろそう言ったら俯いたまま俺の方へ体を寄せてきたぐらいだし。本当に可愛いよな、クリスって。

 

「晩飯はどうする?」

「あ、あたしが作ってやろうか?」

「いいの? じゃあ買い物は俺がしてくるよ」

「いや、そっちもあたしがって……そう、だな。じゃあ頼む」

「了解」

「で、何が食べたいんだ? 一応希望を聞いてやるよ」

「そうだなぁ……」

 

 このやり取りは恋人っぽいなと思いつつ食べたい物を考える。その間、俺はクリスの事を抱き締めたいと言って膝の間に座らせた。小柄な体をそっと抱きしめながら考えていると、クリスが恥ずかしいのか小さくなっていく。

 それでも逃げようとはしないので、今俺がやってる事は嬉しいようだ。出来るだけ胸を触らないようにしているのが大きいのかもしれない。

 

 ……正直触りたいけどそれはまだ早いと思うし。

 

 結局悩んだ結果、クリスに初めて作ってもらった料理にした。そう、回鍋肉である。それを告げた時、クリスが軽く驚いて、すぐに懐かしそうな眼差しを見せたのが印象的だった。向こうも覚えているんだとすぐ分かった。

 

「じゃ、行ってくる」

「おう。あたしは掃除とかして待ってる」

 

 こうして俺はクリスに見送られて買い物へと向かう事に。それにしても掃除をして待ってる、か。完全奥さんだな。

 

 でも、うん。やっぱり誰かが家で待っててくれるのは嬉しい。あの頃とはちょっと違うけど、一人じゃないって事は大事だと改めて思う。

 

「……俺、頑張ろう。少しでも早くこうなれるようにしよう」

 

 まだまだ遠い道のりだけど、少しずつでも前に進めるようにしないといけないな。とりあえず、まずはスーパーへ行って豚バラとキャベツにピーマン、それと回鍋肉の素を買わないと。

 

 

 

「美味いっ! 美味いよクリス!」

 

 目の前で心底美味そうに飯を食べる仁志を見てあたしは頬が熱くなるのが分かった。あの時は何て事なかった事が、肌を重ねた今じゃすげぇ嬉しくて胸の奥があったかくなる。

 

「そ、そっか。そこまで喜んでくれると作った甲斐もあるってもんだぜ」

「いやぁ、あの時の事を思い出すよ。昼寝から起きたら良い匂いがしたあの時をさ」

 

 あたしもよく覚えてる。まだあたしが響と二人だけで仁志と同じ部屋で過ごしてた頃の事だ。あたしの部屋から炊飯器を持って来て、初めてあの部屋で食事を作ったあの時。

 思えばあの時から仁志はあたしがおっさんに恋愛感情を抱いてるって知ってたんだよな。背中、押してくれたんだよな、あれ。

 

 ……そんな奴が気付けばあたしとスケベした、んだよなぁ。

 

「ん? どうしたのクリス。顔、赤いぞ?」

「っ!? な、何でもないっ。ほ、ほら、飯のお代わりどうだ?」

「あっ、じゃあ遠慮なく」

 

 ニコニコ笑顔で茶碗を差し出す仁志が旦那みたいに思えて胸が高鳴る。くそっ、昼間に仁志が夫婦みたいだとか言うからだ。

 

 ……嬉しかったけど、な。

 

 今この部屋にある炊飯器はあの時と同じあたしが使ってたやつだ。だから余計あたしと仁志が結婚したみたいな感じがしてくる。

 結婚、かぁ。あたしが仁志の嫁になったとして、だ。こっちで暮らすとすれば働き口を見つけないといけねぇ。となると、まぁまたあの店って事になる。

 

 い、いっそ夜勤になって仁志と二人で頑張るってのもありだよな。でもそうすると休みを合わせるのが難しいか……。

 

「えっと、クリス?」

「ん?」

 

 困惑したような声で仁志が声をかけてきたので振り返った。するとあいつはあたしを見て申し訳なさそうに頬を掻いて……

 

「そのぉ、お代わりはまだかな? 中華は冷めると不味くなるんだけど……」

「っ!? 悪いっ! すぐよそうっ!」

「お願いするよ」

 

 やべぇ。考え事しててすっかり仁志のお代わりを忘れてた。けど、仁志らしいぜ。多分少し待ってたんだろうな、あたしを見つめて。で、まったく動く気配がないもんだからおそるおそる声をかけた、か。

 

「ほら、待たせたな」

「ありがとう」

 

 心持ち多めに盛った茶碗を笑顔で受け取る仁志は、やっぱどっか子供に見える。けど、だからこそあたしは、あたしらは好きになっちまった。大人にも子供にもなれる、そんな男に。

 

 今も少し冷め始めた回鍋肉をおかずに飯をがつがつと食べる一回り近く離れた男を見つめ、あたしは笑みを浮かべる。

 

「あ~、ホント美味い。クリスも早めに食べなよ。もう冷め始めてるから」

「ああ」

 

 そこでふと気付いた。あの時はここに響がいた。でも、今はいないって事に。

 

「……な、なぁ」

「ん?」

 

 箸を口に入れたままでこっちを見つめる仁志。ったく、ホント子供かっての。

 でも、ま、そんなとこも嫌いじゃない。んな事を思いながら箸で回鍋肉を掴み、持ち上げて仁志へ差し出す。

 

「あ、あ~ん」

 

 いつかもした事だけど、あの時も響がいた。だからこれはあたしが初めて二人きりでやる事だ。

 なのにあの時は動揺した仁志は……

 

「あ~」

 

 平然と、しかも嬉しそうに口を開けやがった。ちょっと悔しいが、ここで止めたら何だか負けたみたいなのでそのまま口へ入れた。

 

「ど、どうだ?」

「……うん、美味しいよ。またクリスに食べさせてもらえるなんてなぁ。幸せだよ、本当に」

「……そっか」

 

 その言葉であたしも幸せになる。それと気付いた。仁志って本当に美味そうに飯を食うなって。だからこっちも幸せになれるんだ。響もそうだけど、やっぱ美味そうに飯を食べる奴ってのは見てていいもんだな。

 多分だが、マリアの奴がこいつの世話を焼く事を嫌がらなかったのはそこが一つの要因な気がする。

 

「じゃ、お返し。あ~ん」

 

 んなぁっ!? こ、事もあろうにあたし様へ仁志が同じ事をやり返してきやがった!

 そんな恥ずかしい事出来るかっ! って、きっと以前のあたしなら言ってる。でも今のあたしは……

 

「あ、あ~……」

「はい」

 

 口の中に軽く冷え始めた回鍋肉を入れられたのに、何でか知らないがあったけぇ気がする。その理由はきっと……

 

「どう? 美味しい?」

 

 こっちを子供みたいな笑顔で見つめる、大好きな相手がいるからだろうな。

 

「ああ、美味い」

 

 思い出した。こっちにいた時は絶対飯を食う時に誰かがいた。仁志や響、先輩がいた。だから食事が、飯が楽しみであり安らぎだったんだ。

 特に、週に一度は絶対全員で集まって過ごした。あれはすげぇあったかい時間だった。それを企画して実行してたのは仁志だ。

 あたしらを一つにして、結びつけて、あったけぇ絆を強くしてくれたのは、心を明るくしてくれてたのは、目の前のこいつだ。

 

「それは良かった。じゃ、急いで食べよう。そろそろ本格的に冷めるから」

「だな」

 

 少し冷えてきてもあったけぇ飯があればまだ何とかなる。だから二人で回鍋飯もどきにして食べ切った。

 後片付けは仁志がやると言ったがあたしも一緒にやると押し切り、流しに並んで立つ事に。

 

 ふ、夫婦みたいだから押し切ったんじゃねぇ。その、最後まで責任を持って仕事をやり切ろうと思っただけだ。

 

って、一体あたしは誰に言い訳してんだ

「ん? 何か言った?」

「何でもねぇよ」

 

 でも、ま、こういうのもいいもんだ。本当ならあの頃にやりたかった事ではあるけど、まぁ仕方ねぇか。

 ただ、どうもこの感じだとあたし以外は結構顔を出してる感じだな、これ。

 

 ……出遅れてる感が半端じゃねーが、それを埋めるぐらいの濃度を今夜過ごせばいい。てか、きっと仁志もそのつもりのはずだ。

 

「なぁ仁志」

「どうかした?」

 

 そのための第一歩だ。こ、この際恥ずかしさは忘れる事にするっ!

 だからあたしは決意を胸に隣の旦那候補(確定)へ顔を向けて告げる。

 

――い、一緒に風呂入ろうぜ……。




裏は……お分かりですよね?(苦笑

留学設定のために今まで出番がなかったクリスの登場です。
ただ、既にあの夜を共にした七人はドエロギアを獲得しているため……。
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