シンフォギアの消えた世界で アナザー 作:現実の夢想者
悲しみなんかない世界。その夢を諦めたくない只野だからこそ依り代も……。
正直これはもうしばらく投稿を後にしようと思っていたんですが、公式が来週にも結末を描いてしまうのでその前に出さないと何か嫌だなと考えてこうなりました。
「ゲートリンクを神獣鏡をくれた世界にも、か……」
俺の提案に弦十郎さんが腕を組む。場所は根幹世界はS.O.N.G本部の発令所。何故そんな提案をしたかと言うと、俺は詳しく知らないのだが、どうもアナザーきりしらやアナザーイヴ姉妹と関わる事件があったらしい。
俺が詳しく知らないのは、みんなが余程じゃない限りツインドライブなどの便利な力を頼らないためだ。俺がみんなに見せたり教えたりしたヒーロー達の在り方や考え方。それをみんなが覚えていてくれたようで、安易に力に頼るのではなく、可能な限り自分達の力で事に当たろうとしたとの事。だから俺には平行世界関係の厄介事を進んで聞かせないようにしているらしい。
以前のドヴァリン絡みの一件は、依り代なしじゃドヴァリンの救出が無理そうだった事と、デュオレリックを阻止するような敵と通常ギアでは力負けしそうな物量に対処しなければならないという、その二つの理由で俺を頼ってくれたのだそう。
――兄様は僕らの最後の希望なんです。
そんなエルの言葉が今も胸に強く残っている。ヒーロー達だって最初から最強フォームで戦う事はしない。その強い力じゃなきゃ対処出来ない相手にだけそれを振るうんだ。
と、話がそれた。そういう訳で俺には事後報告のような形で情報が入ったのだが、そこでウロボロス残党などと共に新たな脅威が出現したと聞いた俺は、その事について考えている中で平行世界の中でも特に戦力に乏しく定期連絡などの接点を設けていない世界を思い出した。
それがあのアナザー響の世界。翳り裂く閃光の舞台となった平行世界である。
あそこは、色々と悪影響を受けるかもしれないと関わる事を避けている。だからこそ、せめて有事の連絡だけでも出来るようにするべきと思い、俺はここ根幹世界へやってきていた。
正直夜勤明けで眠くはあるけどこれぐらいなら平気だ。善は急げとも言うし、こういう事は早い方がいいと思う。
「ええ。今すぐ用意出来ないのなら俺の使っている物を渡してもいいです」
迷うような、あるいは渋るような弦十郎さんへ俺はそう告げた。それぐらい急いだ方がいいと思って。
「兄様……」
「それ程までに急ぐ、か。だがいいのか?」
軽く驚くエルと弦十郎さんに俺は頷く。現実としてウロボロスの残党がいて、それが誰かの指示で動いていた事は明らかだ。しかも、下手すればそれはあの石屋の可能性まである。なら、今は互いが及ぼす悪影響を気にしてる場合じゃない。
「俺の世界は基本的に超常現象なんかとは無縁です。本来繋がるはずのない世界だったし、今も裂け目としてしかゲートは存在しない以上それは間違いないかと。なら、どっちと連絡が取れないと不味いかは明らかですから」
「そうかもしれないが……」
チラリと弦十郎さんがエルを見る。多分だけど俺と連絡が取れなくなるのをエルが気にすると心配してくれているんだろう。でも、だからこそ俺は言わなきゃならない。
「依り代が今も使えて裂け目が残っている。これが意味するのはまだ危機は去ってはいないと言う事かもしれません。それにあの世界の立花響はガングニールを失っています。つまり装者は翼一人なんです。そんなところへウロボロス残党がやってくれば……」
「いかに翼といえど多勢に無勢、か。そうだな。ならばせめて緊急時の援軍体制だけでも可能にしておくべきか」
こうして俺は呼び出された未来と響を連れてアナザー響がいる世界へ向かう事となった。
ちなみにエルはこのままでは俺のゲートリンクを譲渡する事になると思い、密かに製作してくれていた俺の両親用のゲートリンクを渡してくれた。
どうしてこれがと尋ねたら、エルは笑みを浮かべながら弦十郎さんを見つめてこう言った。
――司令に聞いたら、もしもの際の予備機に使えるからと許可を頂けたので製作していたんです。
その答えを聞いて、俺は弦十郎さんは本当に大人だなと思った。普通に考えれば色々問題になりそうな事を機転を利かせて何とかしてしまったのだからな。そんな事を思い出しながら俺は手の中にある真新しいゲートリンクを見つめた。
「それにしても、本当に良かったのか? 折角の完全休みだったんだろ?」
既に響達の世界でも新年を迎え、三学期も始まっている。クリスもまた留学先へ戻り、響と未来は最後の学院生活を噛み締めるように過ごしているはずだ。今日など訓練などもない完全オフだったと聞いた。それを潰させてしまって申し訳ない気持ちの俺へ、二人は振り返ると満面の笑みを見せてくれた。
「構いません! それに、一度もう一人の私にも会ってみたかったんで」
「あの響に会うなら私がいた方がいいかなって思いましたし、響が行くって言った以上は一人に出来ませんから」
「成程ね。でもありがとう」
納得しつつ感謝を述べた俺へ、二人は意味ありげな笑みを浮かべるとそっと両隣に移動するや腕を組んできた。
「「それに、仁志(只野)さんと一緒にいられるし」」
……本当に敵わないなぁ。少女でありながら女でもあるって感じだよ、今の二人は。
と、そこで思い出す。今、彼女達は最上級生だ。しかも既に卒業を控えている。このままいけば俺の世界が夏になる前に間違いなく卒業となるだろう。
そうなった時、二人の進路はどうなっているんだ? まさかとは思うけど、こっちに来て生活するなんて言わないよな?
怖くて聞けない俺の両腕に温かく柔らかい感触が当たり続ける。その幸せを噛み締めながら俺は遂にアナザー響のいる世界へ足を踏み入れる事となった。
そこからは未来に案内されるまま移動し、あっという間に気付けば二課本部へと到着。と言うのも、リディアン音楽院へ着いた辺りでどこからともなく黒服さんが現れたのだ。
いや、本当にビックリした。こちらの事を監視してたんじゃないかと思うぐらいのタイミングだったからな。実際それに近かったらしい。今も二課はゲートからの来訪者がないかチェックしているそうだ。
それだけ別世界との関わりを警戒していると言う事だろう。普通に考えてそれは正しい。けれど、やはり状況があの時とは違うと分かってもらわないといけないと強く感じた。
「これがゲートリンクか……」
「はい。そちらが他の平行世界とあまり関わりたくないと思うのは理解出来ますが、先程お話したように世界蛇や悪意などという全ての平行世界を巻き込む闇が存在した以上、今後も同じような脅威が出現しないとも限りません。その時、それぞれが別々に動いては最悪の結末を迎える可能性があります。ですのでこれは、緊急時の援軍要請や情報収集に使ってください。それぞれの指揮官同士での話し合いならそこまでの悪影響はないはずですから」
俺の差し出したゲートリンクを見つめてもう一人の弦十郎さん、えっと風鳴司令は考え込んでいた。
その様は少し前まで接していた男性と本当に変わらないように見える。けれど、威圧感というか迫力のようなものがやはり異なるような気がした。
「……分かった。そちらの気遣いに感謝する」
「いえ。あっ、一ついいでしょうか?」
「何だろうか?」
「こちらの世界で使用されてるギアは、今はやはり天羽々斬だけですか?」
「いや、実はガングニールがもう一つあってな。それを響君が使用している」
おや、どうやら根幹世界でマリアが使っていたガングニールがアナザー響へ回ってきたらしい。と言う事は、こっちではマリア達F.I.S組は存在しないかもしれないな。
そういえば、ここはそもそも神獣鏡も残っていたな。じゃあやはりそういう事なんだろう。
「そうなんだ。じゃあ装者が二人なんですね」
「そういう事になる。それにしても……」
未来の安心するような言葉に頷いて、風鳴司令は響へ視線を向ける。
「本当に別人なのだな」
「えっと、そこまで違うんですか?」
そこで風鳴司令ではなく俺を見る辺りが響らしい。
「雰囲気とか目付き、口調なんかが全然違うからね」
「そうなんだ……」
さて、ここからどうするべきか。きっと向こうとしては早々にお帰り願いたいだろうけど、響も未来もアナザー響と会いたいだろうし……。
「あの」
俺がダメ元で声をかけようとした時だ。警報が鳴り響き、一気に発令所が慌ただしくなる。聞こえてくるのはどう考えても厄介事発生を意味していて、しかもノイズじゃないらしい。
ただ、以前から報告のあったと言う言葉が聞こえたのでどうやら何かあったようだ。
「あのっ! 私達もお手伝いしますっ!」
「どこへ行けばいいかを教えてくださいっ!」
「それは有難いが……」
「風鳴司令、二人も装者なんです。それに、こういう時は何事にも人命を優先するのが彼女達です」
「……分かった。なら頼む。指示はこちらから出そう」
「「分かりましたっ!」」
こうして響と未来もギアを纏って外へと出て行く。俺はここに残って状況を見守る事に。
念のため依り代を起動させ、二人が少しでも危なくなったらツインドライブなどで援護しようと準備も整えた。
こちらの世界の装者二人もそれぞれ現着し、謎の機械相手に四人のシンフォギアは優勢を保ちながら戦闘を続けた。
だけど、それがある時から変化する。謎の機械と共に動く女性が出現したためだ。スターリットとアナザー響が呼んだ彼女は、どうやら謎の機械を知っているらしく、その戦闘力はシンフォギア以上と言ってもいい程だった。
が、ならばと響と未来をリビルドへしたらやはりそこまで。通常状態には優位に立てても出力がエクスドライブ並のリビルド相手にはそうは出来ないらしい。
そうこうしていると今度は街中にも謎の機械が出現。しかもよりにもよって謎の炎の魔人が登場し、それを破壊するように街中で暴れ始めたのだ。
四人のいる場所からすぐに到着は不可能。なので俺はツインドライブを起動させて飛行能力のある未来に先行してもらう事に。
殿をリビルドギアツインドライブの響がこっちの翼と引き受け、アナザー響も未来を追う様に街へと向かう。
と、その時だ。依り代が淡く光ったかと思うと、まるで俺を導くように光線が発令所のドアへと放たれたのだ。
「只野君、それは?」
「分かりません。でも、どうやら無茶をしないといけないみたいです」
「何? それはどういう意味だ?」
「この光を追い駆けてみますっ!」
「なっ?! 待つんだ只野君っ!」
その場から駆け出した俺は発令所を出て依り代が導く方向へと向かう。
きっと、きっとそこに何かある。もしくは依り代が必要な何かが起きるんだ。
未来や響、あるいはこの世界の響や翼に何か恐ろしい起こるのだとしたら、それを防ぎたい。
「戦う力は無かったとしても……っ!」
あの頃と同じだけど、より強くなった想いを胸に俺は走る。
外へ出ると空の色が赤く変わっている場所が見えた。そこの下が戦場となっているんだろう。依り代の光はそちらを示すので間違いない。
急いでそちらへ向かう途中、見覚えのある三人組を見た。それが板場さん達だと気付いたが声をかける事はしなかった。何せ向こうは必死で逃げている上に平行世界の存在だ。
でも、きっと彼女達がいるならアナザー響の友人となってくれていると思った。小日向未来だけでなく、彼女達もこちらの響と親しくなってくれている事を願う。
そう思って俺は彼女達が無事に逃げられる事を祈りながらそれとは逆方向へと走る。すると、やがてあの機械の残骸が道に転がり始めた。
「……いたっ!」
未来が援護する形でアナザー響が謎の機械達と戦っている。その先には見た事のない謎の大型機械と炎の魔人がいた。
すると依り代の光はその魔人へ当たって消えた。どうやらあの魔人が何かある相手のようだ。
「只野さんっ!? どうして!?」
「あの魔人に依り代が反応してたんだっ!」
こっちに気付いた未来へそう言いながら依り代を見せると彼女は若干困った顔を見せた。きっと止めても無駄と察したんだろう。伊達にあの日々を共に過ごしてきた訳じゃないらしい。
「無理はしないでくださいねっ!」
「勿論だよっ!」
たったそれだけのやり取りに色々な思いを交わし合って、俺はそのまま謎の機械を殴り壊すアナザー響を追い駆けるように走る。
そして炎の魔人が周囲の謎の機械を破壊するのを見て足を止めると、相手もこちらを見た、ような気がした。
と、そこでアナザー響が隣へやってくるなりこちらを怪訝そうな表情で見てきた。本当に響とは思えないような目付きだな。
「あんた、誰?」
「只野仁志。見ての通りのただのおっさん」
「ただのおっさんはこんな場所に来ないよ。……あと、今司令から保護するように連絡があったから下手に動かないで」
ぶっきらぼうな声だけど、その声は聞きなじみのあるものだった。それと、口調の割には刺々しい感じは少ない。根は優しい辺り、響は響って事だ。ゲームで知ってるつもりだったけど、こうして直接接すると余計思う。
「それで? その手にしてる物は何?」
「簡単に言うと謎の便利アイテム。それがあの炎の魔人に反応してたんだ」
「……ホントに?」
「立花っ!」
「仁志さんっ!」
そこへ聞こえてきた声に振り向けば、響と風鳴さんがそこにいた。一瞬風鳴さんの足元に炎が見えたのであのジェット噴射を利用してここまで急いできたんだろう。
気付けば未来も俺達の近くへやってきて、その場には俺達と炎の魔人がいるのみとなった。謎の機械は全て破壊されたらしく、追加が現れる事もなさそうだ。
それでも周囲をそれとなく警戒する辺りはさすがって感じがするな。さてこうなると、だ。あの炎の魔人相手にどう動くかって事になるけど……
「只野さん、これからどうするんですか?」
「依り代があいつに反応してたんだ。それも、何となくだけど悪い感じじゃない。だから出来れば依り代をあいつに押し当てたい」
「押し当てたいって危険過ぎでしょ」
「でもあいつには悪意があるようには見えないんだ。何せあいつはあの機械だけを狙ってたみたいだし」
依り代を魔人へ向けたままで答える。と、魔人がこちらへ足を踏み出してきた。ゆっくりと踏みしめるような歩き方だ。それも先程までとは違っている。さっきまではまさしく戦闘速度って感じだったし。
「っ! 来るかっ!」
装者四人が瞬時に警戒態勢を取る。すると依り代から強い光が放たれて周囲を包んだ。これはいつかのキャロルの時と同じだと思いながら目を閉じていると、不意に何かが聞こえた。
「……今の音、何?」
「仁志さん、今のって……」
「ああ、通知音だ」
その光が治まった後に聞こえた音。それは久々の通知音だった。画面を見れば普通にステータス画面が表示されているのみ。だけどたしかに通知音が聞こえたんだ。
どういう事だろうと戸惑っていると、魔人がいきなり俺達の前で跪いた。まるで主君か主人を前にしたかのように。
「ど、どういう事だ?」
「分かりません……。けど、依り代が何かしてくれたのかも……」
戸惑う風鳴さんへ未来がそう返すのを聞きながら、俺は依り代を恐る恐る魔人へ押し付けてみる。
「……何も起きない、か」
「起きないも何も携帯端末でしょ、それ」
「立花、先程の光を見ただろう。あれはおそらく普通の携帯端末ではない」
「でも、だとしたら何でそんなのをこんなおじさんが……」
想像したような展開が起きずにガッカリする俺の後ろでアナザー響と風鳴さんが交わす言葉を聞き、妙な懐かしさのようなものを覚えた。
まるでアナザー響は昔のクリスみたいだなと、そう思ったからだ。
「し、信じられない……。スサノオが人にかしずくなんて……」
「スターリット……」
そこへ現れた禍々しい色のギアらしき物をまとった女性は、魔人を見てスサノオと呼んだ。スサノオって、日本神話に出てくる八岐大蛇を退治した神様と同じだなぁ。
ん? 待てよ? 日本神話……スサノオ……っ!
「って事はもしかして、お前ってツクヨミの仲間?」
「……頷いた!?」
「こちらの言葉が分かるのか?」
「……翼さんの問いかけは無視みたいですね」
調が使うデュオレリックはツクヨミと名乗る自我を有した聖遺物だ。あの時は漠然と月関係だからツクヨミなんだろうなと思ったけど、スサノオなんて名前の存在が出てくるなら話は別だ。こうなるとアマテラスもいるんじゃないか?
「なぁスサノオ。アマテラスももしかしている?」
「……頷いた」
「や、やっぱり仁志さんの言葉が分かってるんだ」
「だがどうしてこの人の言葉だけ?」
「その手にしてる物が理由じゃないですか?」
俺を囲むように響達が次々と喋り出す。それを聞きながら俺は目の前のスサノオへ質問を続けようとして、はたとある事を思い出して顔を動かした。
「えっと、スターリットさん、だっけ。君はどうしてこいつの事を知ってるの?」
「え?」
スターリットさんは俺からの問いかけに虚を突かれた顔を見せた。おそらくだが今起きてる事が信じられないのだろう。
多分だが、あの機械をスサノオが壊していた事から考えて、彼女は既に何度もスサノオと遭遇、戦闘した事もあったのかもしれない。
だとすれば、彼女にしてみれば人の前に跪いて質問へ答えるスサノオなど想像も出来なかったのではないか。故の困惑。故の戸惑い。今も呆然と立ち尽くしているのはそういう事なんじゃないだろうか?
そこでスターリットさんは簡単に語った。彼女はとある目的のためにあの機械と共に様々な平行世界を渡り歩いていた事を。だが、今はそれを止めてしまったのだそうだ。
で、その頃に行く先々で現れ邪魔をしたのがスサノオだった。だからこそスサノオは彼女にとって危険な存在以外の何物でもなかったらしい。
「ふむ、じゃあ聞いてみようか」
「「「「「え?」」」」」
スターリットさんはスサノオを危険だと判断していた。なら、何故スサノオがスターリットさんの邪魔をしていたのかを教えてもらおうと考え、俺は未だに跪くスサノオへ顔を向ける。
「どうしてあの機械を破壊する? 危険だから?」
「……頷いた」
「そんな……」
さっきから一言も喋らないからこっちで頷くか頷かないかで答えられるようにするしかないが、まさかいきなり核心を突いてくれるとはなぁ。
「じゃ、次だ。それは人を襲うから?」
「……違うんだ」
「なら……世界が危ないから?」
「……頷いた」
「っ」
スターリットさんが息を呑むのが聞こえた。どうやらぼんやりと見えてきた。ヒーロー物でも時々ある流れだ。
「成程なぁ。きっとスターリットさんがやっていた事は、実は世界を危険に晒す事だったんだろうね。それをスサノオは感じ取って阻止するべく動いていた」
「そ、それは……」
「だからスサノオは機械だけを狙った。街まで破壊したのは……まぁそこまで配慮はしてくれないって事だろうな。さっきも人を襲うから機械を壊したんじゃなく、世界を守るためって事みたいだし、人類守護が目的じゃなく世界保護が目的ってとこだ」
「で、でも仁志さんにはそうじゃないみたいですけど?」
「依り代があるからじゃない? それとも上位世界の人間だからかな?」
「「「上位世界?」」」
揃って疑問符を浮かべる三人の女性だけど、あまりこんなところで長話もな。
「とりあえず、今は場所を変えよう。風鳴さん、悪いけど風鳴司令に許可をもらってくれる? スサノオも連れて行きたいんだ」
「わ、分かりました」
ちょっと不安はあったけど、俺がついて来てと声をかけると頷き、スサノオは大人しくついてきた。それとスターリットさんも武装を解除して同行してくれる事となったのだ。
というのも、目の前で見たリビルドやツインドライブの凄さに興味を持った事もあるが、一番はやっぱりスサノオが跪いた事らしい。
二課本部へ向かいながら話を聞くと、どうも彼女はシンフォギアがあそこまで強いなど有り得ないと思ったそうだ。そこから簡単にではあるが、彼女がどうやってアナザー響と知り合い、そして今のような関係性でいるのかも教えてくれた。
その話を聞きながら思った。多分スターリットさんは薄々自分のしている事の恐ろしさに気付いていたんだと。けれどそれを止める事は出来なかったかする訳にはいかなかったって辺りだろうな。
スサノオの返答から考えるにそういう展開が一番しっくりくる。それと、あの機械が行っていた事を聞いてもう一つ思い付いた事があった。
あの機械は人間を消滅させているらしい。そう、殺すのではなく消滅。それも粒子のような形で、だそうだ。
おそらく人間を消滅させるなんてのはエネルギーを激しく消費するはずだ。それなら単純に殺す方が消耗は少ないだろう。なのにそれをしないでわざわざ粒子のような形で消滅させている。そこにきっと何か理由があるはずだ。
そう思った俺は二課本部内へ戻って一旦落ち着いたところを見計らってから、スターリットさんへ問いかける事にした。それである程度相手の事が分かるはずだと、そう思って……。
今、俺達は訓練用のシミュレータールームにいる。スサノオを警戒して、念のためにと風鳴司令がここを提供してくれたのだ。
現在ここには俺達の他に風鳴司令がいる。事後処理で色々忙しいはずなのにこうして時間を割いてくれている辺り、風鳴司令もスサノオとスターリットさんからの情報を重視しているって事だな。
「スターリットさん、一ついい?」
「何?」
「あの機械、えっと何て言ったけ」
「レーベンガー?」
「そうそう、レーベンガー。あれって、もしかして人間を分子分解とかしてる?」
「……近いわ。あれは、人間をデータとして吸収して保存しているの」
うわぁ、予想的中。でも、人間をデータ化して保存だって? 本当にただ殺す訳にはいかないって事か……?
こうなると、スターリットさん達がやろうとしているのはガンソのカギ爪の男達に近い感じがしてくる。誰もが幸せに平和に暮らす理想郷。その実現のために、あの作品ではカギ爪の男が自殺に近い事を行ってエンドレスイリュージョンの人間全てを善人にしようとしていた。
死んだ人間もそれで生き返ると、そう謳っていた。もしそれに近いとするなら、データ化させているのは後々再生させるためじゃないだろうか?
「まさかとは思うけど、君達の目的は今ある世界を一から作り直して理想の世界を作るとかじゃないだろうね? だから人間を一旦データ化して消滅から守ってるとか?」
「な、何でそれを……」
……こういう時程勘ってもんは当たるんだなと実感した。まさか本気でカギ爪の男みたいな事を考えて実行しようとする奴がいるなんてな。
周囲も俺の事を見つめているし、ここは俺の考えと一緒にガンソの話もさせてもらおう。そう思って簡単に俺が何故そんな結論に至ったかを話す。
あのレーベンガーというメカが人間を殺さず消滅させていた事から、俺はその目的が人間を殺す事ではないんじゃないかと思った事を。
人間を分解なんて非効率的だ。シンフォギアでも面倒な相手なら、普通の人間なんて物理的に片付ける方がエネルギー効率がいいはずなのに、わざわざ分解処理を選ぶって事はそうしないといけないって事で、そこには簡単に殺してはいけないという理由があるはずだと考えた。
で、今スターリットさんから聞いた事から考えれば、その人達も最終的には助ける相手だと考えているからではないかと、そう思った。
「俺の知ってるアニメで似たような事を考えた奴がいるんだ。どうしようもない世の中を変えるには人間そのものを根本から変えるしかないってね。そのやり方が簡単に言えば、とある力を利用して自分という存在を全ての人間の中に因子として宿し、存在する人間の在り方を自分と同じ平和主義者にするってものだった」
「そ、そんな事が可能なんですか?」
「ま、その世界ではって事で理解して。ただし、それは押し付けのものだ。人間が自ら成長や進化、改心をしての結果じゃない。もっと言えば、それはその存在の理想に他者を強引に従わせる事だ。それもそいつは、様々な犠牲を生み出しておきながら、自分の目的が達成されれば生き返るからと、そう犠牲者の遺族に対して平然と言い放ったんだ」
そこで響と未来が思い出したかのような顔をした。うん、そうだよ。あのカラオケの時に話した事だ。
失った悲しみや苦しみ。怒りや憎しみ。そしてそれらを乗り越えたり、受け入れたり、飲み込んだりした事まで奪うという、他者の心をこの上なく踏み躙る行為。それを平然と行う事。それもまた、悪のやり口だ。
そして俺の言葉を聞いてスターリットさんが俯いた。おそらく彼女も近い事を思ったか、あるいは俺の言葉に思う事があったんだろう。
「傲慢だな。生き返るからと言って犠牲にされた事を許容しろというのは違う。理想郷というものは人によって異なるし、どれだけ困難でもそれぞれが手を取り合って目指すべきものだ。正しいからと言って無理矢理では圧政と同じに過ぎん」
俯くスターリットさんの耳に風鳴司令の言葉はどう響いたんだろうか。顔を上げない彼女を見て、俺はスサノオへ顔を向ける。
相変わらずスサノオは俺の横に控えるように跪いていた。本当に臣下の礼を取るんだなぁ。
「スサノオ、君は平行世界の守護を目的とした存在?」
「……頷いた、か。本当に只野君の言葉だけには反応するようだ」
「そのようです。試しに依り代と呼ばれる物を他の誰かが持っても無駄だったし、こうなると只野さんがスサノオには特別な存在という事でしょう」
やっぱり俺が上位世界の住人、ある意味で神の世界の住人って事が関係してるんだろうな。これって下手すると、俺ってスサノオからは神様って括りかもしれないぞ。
「スターリット、あのギアみたいなのって……」
「あれはエレクライトって言うのよ」
「エレクライト、ね。見たところ聖遺物由来って感じじゃなかったけれど……」
「あれは純粋に科学技術だけで作られているわ。シンフォギアを参考に、ね」
「シンフォギアを参考に、か。良ければ詳しい話を聞かせてくれるか?」
そこからは技術者同士の話が始まったので俺はスサノオへ顔を向けた。
相変わらず大人しく跪いてるのを見て、俺はある決意をする。
「スサノオ、お前には世界を危険に晒す存在が動き出すとそれが分かるのか?」
静かに頷くスサノオ。その目的が平行世界を守る事ならば、今彼をここに留め置くのは不味いかもしれない。
「お話中申し訳ないんだけど、ちょっといいかな、スターリットさん」
「何かしら?」
だから俺はまず彼女へ確認を取る。
「スサノオにこれまでと同じ行動をして欲しいんだけど、構わない?」
その問いかけに間違いなく彼女の表情が曇った。成程。どうやら彼女以外にもいそうだな、エレクライト所持者。
「もしかして、君と同じような役目を負った人達が他にもいる?」
「…………ええ」
ビンゴ。そのかつての仲間達が危険な目に遭うかもしれないから頷けない、か。
「じゃあ、とりあえずスサノオはギャラルホルンがある世界へ連れて行くか。そこでツクヨミと会わせてみればもっと色々分かるはずだし」
「只野君、君は……」
俺の言葉に風鳴司令がどこか驚いた顔をしていた。まぁ俺はある意味一般人なんで感情優先でもいいかなって思うんですよ。
「多分ですけどレーベンガーってメカだけじゃなく、エレクライトって物を使う存在もいるんですよ、きっと。その辺の詳しい事はスターリットさんが話してくれないと分かりませんから、今はスサノオから得られるだけの情報を得ようって思います。何せスターリットさんがスサノオと戦わせたくないと思うって事は、そのエレクライトを使う存在は極悪人って訳じゃないんだろうし」
スターリットさんへ顔を向けると彼女は申し訳なさそうな顔をしていた。それがどういう意味かは考えない。もし彼女が悪人で、こっちを騙しているとしても確かめようがないし。
でも、もし本当に彼女が優しい人で、そんな人が心配するような相手をスサノオが万一殺してしまったら寝覚めが悪いなんてもんじゃない。
なので、俺は甘いとしてもこういう選択肢を選ぶ。信じてみなきゃ仲間は見つからないのだ。
「あの、風鳴司令、多分ですけど今後は悪影響が云々なんて言ってられる状況じゃないと思います。世界蛇や悪意の事を何とかしてまだ一年にもならないのにこれですし、こういう事が今後も起きるかもしれませんから。しかも、今回なんてここに響や未来が来ていなかったらどうなってたか……」
それと、口にはしなかったけど依り代もなかったら、だな。あの通知音はもしかするとスサノオを鎮静化出来た事を知らせたのかもしれない。少なくても戦闘になっていれば、ここの装者二人じゃ勝ち目は薄かったはずだ。
何せツクヨミと同じと考えればスサノオは完全聖遺物。戦うとすればシンフォギアは相性が悪い。エクスドライブならまだ勝ち目はあるかもしれないが、今のアナザー響や風鳴さんじゃ逆立ちしたってそれになれるはずはないだろう。
加えてレーベンガーも割と手強いみたいだった。あちこちに出現していたし、二人じゃ手が足りずに犠牲者が出ていたはず。その犠牲者の中にあの三人組の誰かがいたら、そしてそれをアナザー響が知れば、きっとその心にまた大きな傷を作っていたはずだから。
「……そう、だな。ああ、そのようだ。最早自分達の世界だけを考えていればいい状況ではないらしい」
「司令……」
「そちらから受け取ったゲートリンク、これから有難く使わせてもらう。ただ、それでも我々は積極的に関わる事は控えたいのだ。だが何か今回の事で分かった事や気付いた事があればそちらへ必ず連絡すると約束しよう」
「十分ですよ。その、ありがとうございます。それと色々とご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる。一般人なのに出しゃばってしまったからな。特に戦場へたった一人で行くなんて最たるものだし。
「気にしないでくれ。君のおかげで得た物も多い。それで、スターリット君はどうするんだ? 良ければ我々の方で面倒を見るが」
「……いいの?」
「もちろん。ただ監視はさせてもらうし、エレクライトも預からせてもらう。軟禁状態……辺りが妥当だろう。申し訳ないがしばらくは窮屈な思いをしてもらう事になるが、どうだ?」
「……十分です。お心遣いに感謝します」
こうして俺達はスサノオという思わぬお土産を連れて根幹世界へ戻る事となる。
ちなみにツクヨミのおかげでスサノオからの情報が翻訳され、思わぬ展開となっていく事になるのだが、それをこの時の俺は知る由もなかった……。
スターリット生存及びスサノオ正常化達成。アナザー未来? 彼女は寮で響の帰りを待ってました。だってもう響の誕生日過ぎてるので。
これにてLOSTSONG編第一章は終了。というか、そんなタイトルにはならないですね、これじゃ。
……本編の方では絶対無理な展開なので、その無理を通して終わりたいものです。