シンフォギアの消えた世界で アナザー 作:現実の夢想者
それと戦闘描写はカットとしました。こっちはそういうのがメインではない方向性ですのであしからず。
ある日の午後、昼飯をどうするかと考えていた俺は突然聞こえたとある音に耳を疑った。
「……今のって」
音を発しただろう依り代へ手を伸ばし、おもむろにゲームを起動する。だが何か通知のような表示はない。それでも嫌な予感を覚えて俺はすぐにステータスを表示させると……
「なっ!?」
そこで表示されたのは、クリス、奏、セレナ以外が全員ギアを展開しているという状況。もしこれが先程の通知音と関係しているのならそれが意味する事は一つ!
「ツインドライブ起動っ!」
まず響のツインドライブを、次に未来、マリアに翼と次々にツインドライブを起動させていき、迷う事無くリビルドギアツインドライブへ変化させる。
エルからの通信などは一切なかった。そこから考えると、これはもしかしたら厄介事の真っ最中で、それも俺へ通信出来ない状況なのではと思う。
「……どこかの平行世界で戦ってる? しかもこれだけの人数でも苦戦するような相手と」
確かめようがないので想像するしかないが、例のテックの件だろうと思う。きっと俺の手助けなどなくてもみんななら何とか出来ると思うけど、ならわざわざ依り代が教えてくるはずはない、か。
もしくは、それだけ危機的状況なのかもしれない。とにかく俺に出来る事はもうない。そう思いながらも俺はそのままステータス画面を見つめ続けた。
やがて未来がギアをジュエルに変えたので、そのツインドライブがいいのだろうと判断しジュエルギアツインドライブへと変えた。
「そうだ……」
ふとそこで以前聞いた事を思い出して、マリアのアイコンをタッチし使えるギアを眺めて……見つけた。
「本当にある……」
それはウルトラマンギア。そのツインドライブなら、もしかすればリビルドを超えるかもしれない。何より、飛行能力が付与されるのは大きいはずだ。状況が分からない今は、使える能力が多い方がいいだろう。
「マリア、切歌、調、頼んだぞ」
ウルトラマンギアを使える三人をそのツインドライブへと変化させる。どうなっているかは分からないが、きっと状況を一変できるはずだ。
そうやってしばらく俺はステータス画面を見つめていたのだが、ある時に全員がギアを解除したのが分かり、何とも言えない気持ちになった。勝ったから解除したのか。負けたから解除させられてしまったのか。それが分からないためだ。ツインドライブまで使ったのだ、負けたとは思えないし思いたくない。だけど、もしそれ以上の力を持った奴が相手だったらと、そういう不安がない訳じゃない。
と、その時ゲートリンクが鳴った。
「はいっ!」
『只野君か。まずは協力に感謝する。先程戦闘が終了したらしく、やっと通信が回復した』
相手は弦十郎さんだった。どうやら以前あったドヴァリンの一件と同じようにゲートリンクによる通信が阻害されていたようだ。
弦十郎さんからの話によると、またスサノオがレーベンガーの反応を感知したらしく、切歌と調がそれに付き添ったのだが、何とそこでフォルテとララ、更にテスラと遭遇した。
で、相手の事を考えすぐに調はツクヨミへ頼んでスサノオを帰還させ、響と未来を連れて再度平行世界移動を行い、翼は運良く帰国していたマリアと共にまずスターリットさんの協力を求めに行ったらしい。
――貴方の仲間、なのだろう? なら、蚊帳の外でいたくはあるまい。
――私達と一緒に来てくれる?
――……分かったわ。その、呼びに来てくれてありがとう。
そうしてスターリットさんと共にマリアと翼も響達へ合流。けれど相手の、特にテスラの力は凄まじく、人数の差も物ともしなかったそうだ。
で、それが俺への通知音に繋がるんだろう。ツインドライブとなった響がテスラの攻撃を無力化、更には逆に封じるのを皮切りに大反撃を開始したとの事。
結果、テスラだけでなくフォルテやララという子達も戦闘継続能力を失い、捕縛したとの事だった。今はスターリットさんが翼やマリアを連れてテックの本拠地がある世界へ行っているらしく、響達はテスラ達と共に帰還し現在に至るようだ。
それとウルトラマンギアツインドライブはまさかのグリッター化ではなかったそうだ。聞いた話から考えるに昔あった漫画の“超闘士激伝”のメタルブレストを装着した姿となったらしい。
たしかに聞いた瞬間これ以上ないギアとウルトラマンのコラボだと思ってしまった。おそらくだがライダーギアと似たような変化だったんだろうな。俺の持つギアっぽいウルトラマンのイメージと三人が出会ったULTRAMANのイメージが強く作用したんだ。
「じゃあ、もう全て片付いたんですね?」
『ああ。まぁ、彼らの世界の事など問題がない訳ではないが……』
『一つの世界が滅びたとしても、それはまた別の世界の誕生に繋がるはずです。それに、世界を滅ぼしてしまうのは結局そこに住む命です。なら、僕らはそれを教訓として、これからの事を考えていかなければならないかと』
「そうだな。人類もまた天然自然の中から生まれたものだ。なら、同じ星、同じ世界に生きる者としてちゃんと考えていかないとな」
『はいっ!』
Gガンを一緒に見ているエルには俺が言いたい事がきっと伝わったはずだ。マスターアジアの考えに対するドモンの返し。あれこそが人類が忘れてはいけない事であり、また胆に銘じなければならないものだ。俺達は地球という星に生まれた、その星の一部だと。
だからこそ地球の事を考え、思い、労わらなければいけない。自分達の事だけを考えていると、その足元から滅んでいくのだから。
とりあえず話はそこで終わりとなった。向こうも色々と忙しくなるためだ。なので俺は一旦根幹世界へ向かう事にした。テスラという人物と会って話をしてみたいと思ったのもあるが、一番はみんなを労いたいと思ったからだ。
久々となるゲート内を移動し、ギャラルホルン前に出た俺はまず発令所へと向かった。既に何度か来た事もあり、道も覚えていたので発令所へ辿り着けたまではいいのだが……
「悪いねキャロル」
「気にするな。俺はあまり事務仕事の類は好きじゃないから抜ける切っ掛けになって助かった」
当然のように弦十郎さん達は色々と忙しかったので、キャロルが俺の案内を買って出てくれたのだ。エルさえも今回の事で得られたデータの解析などで忙しいらしい。
まぁ、新しい技術などに目を輝かせていたそうなので、本人としては苦労などとは思っていないだろうけど。
そうしてキャロルの案内で向かった先にはゲームでよく見た休憩所があり、そこには響達の姿があった。
「やぁ、お疲れ様。大変だったらしいね」
「「仁志(只野)さんっ!?」」
「「ししょー(師匠)っ!?」」
俺がそう声をかけると響達が驚いた顔をして、すぐ嬉しそうな顔へと変わってこっちへ駆け寄ってきた。そこで彼女達からまず聞いたのはテスラという人の事だ。
何でも彼はかつて心許した人を不幸な事故で失ったらしい。それが今回の理想郷の出発点だそう。愛する人と死に別れる事がない世界。それがテスラという人の計画の目標であり、彼の願い。
「……気持ちは分かるよ。でもなぁ……」
「ししょーはどう思うデス?」
「誰だって死にたくないと思うし、大切な人には生きてて欲しいと願うものさ。けれど、それはね、死という事が平等に誰にも訪れるからこその気持ちなんだ」
死という出来事がなくなれば、それはやがて生きるという事の素晴らしさや尊さを忘れる事に繋がるはずだ。何でもそうだけど、人間ってのは結構簡単に堕落する。死ぬ事がなくなれば、それは命の尊厳というものや人権という事をあっさり忘れてしまうだろう。
「テスラって人が思い描いた世界は、今の俺達からすればまだ理解出来る世界だ。けれど、それが実現して百年もしてからは下手すると理想郷ではなく生き地獄かもしれない」
「どうしてですか?」
「そうだなぁ……例えばだよ? 例え死ななくなったとして、新しく命を生み出して繋いでいく事は出来るのかな? 治せない病気を持った人はその苦しみや辛さを永遠に抱えながら生きなきゃいけないんじゃない? そして、誰も死なないとなると今度は食料の問題が生まれる。今だって食料が足りなくなるかもって俺の世界でも言ってるのに、それをどうするつもりなんだ?」
「おそらくだが食べるという行為を必要としない体にするのだろう。つまり成長などもしないし出来ない。新しい命を生み出す事などもだ」
「……それって、生きてるって言える?」
俺がそう問いかけると響達は静かに首を横に振った。答えは出た。ただ、これが本当にテスラという人の考えていたものと同じかは分からない。それもあるので本人に直接聞いてみたいのだが……
「どうかな? 無理そう?」
「俺には判断がつかん。まぁおそらく話す事ぐらいは許可が出そうだが……」
キャロルの意見にみんなも同意らしく無言で頷く。とりあえず様子を見るぐらいはいいだろうとキャロルが言ってくれ、テックの三人がいるという部屋へ向かう事に。
そこは、一般的にイメージされる独房ではなかった。けれど監禁するための場所ではあるのだろう。ドアの上には中の様子が見えるように窓が設けられていた。
「トランスコイルなどの武装は没収されている。あと、テスラとやらの使っていた極小レーベンガーも完全破壊してあるから今の奴らに脱出は不可能だ」
「そっか……」
当然だが室内の雰囲気は暗い。と、こっちを睨み付けるように赤い髪の子が顔を向けてきた。
「アタシらを笑いに来たのかよっ!」
「ああ、ごめんね。そういうつもりじゃないんだ。ちょっとテスラって人に聞いてみたい事があってさ」
「聞いてみたい事だ?」
「うん。その、今まで犠牲にしてきた世界にいただろう別の可能性の自分や愛する人を殺していた事はどう思っていたのかって」
間違いなくその言葉にキャロルでさえも息を呑んでいた。勿論目の前の少女もだ。多分だけどこういう意識が彼らにはなかったんだろうな。
平行世界を犠牲にするというのはそういう事だ。そこにいるだろう別の可能性の自分。それを殺す事でもある。
「……中々痛いところを突いてきたな」
「テスラ様……」
ゆっくりと静かな声が聞こえ、中にいた男性がこちらへ顔を向けた。端正な顔立ちで知性を感じさせる雰囲気の彼こそがテスラさんなのだろう。
「だが、それは私であって私ではない。私は」
「その中には貴方が大切に思った相手と幸せに結ばれて一生を寄り添えた可能性があったとしても?」
間髪入れず問いかける。平行世界とはそういう事だ。
「……私がアメリアとそうなれていないのなら関係ない」
その返答を聞いて俺はテスラさんがとあるアニメキャラに似ていると気付いた。
「……俺の知ってる作品に愛する娘を事故で失った女性がいる。彼女はその愛娘を生き返らせる事を目指し、娘そっくりのクローンを作り出した。何と記憶まで転写したんだ。けれど、やはり細かな違いが生まれ、女性はそれを失敗作として記憶を消去し次なる蘇生方法のための道具としたんだ」
「酷い……」
調の呟きを聞きながら俺はテスラさんの反応を見つめていた。彼は俺の告げた内容に興味を思ったのか視線で続きをと促してきている。
「そうして彼女が考えた方法は失われた超技術があるという世界へ行くというものだった。そのために彼女は多くの世界を犠牲にする事を躊躇いなく行い始めた。だがそれを阻止されるんだ。そうしてその最中にこう言われる。いつだって世界はこんなはずじゃない事ばかりだと」
「こんなはずじゃない……」
「みんな、多かれ少なかれそういう想いや出来事を経験する。だから自分だけが不幸だと思うなって事だろうと思う。ましてや、不幸だからって他の人間を恨み、嫉み、憎んでいいはずがないし」
そう言った瞬間赤い髪の少女が俺を睨み付けた。
「んな事はそういう境遇にねーから言えんだっ!」
「かもしれない。でも、それを君達もしていたって分かってるかい?」
「は?」
やっぱりよく分かっていないみたいだ。でも仕方ない。俺は客観視出来る立場でいられるから分かるだけで、これが当事者だったら彼女のようになっていたはずだから。
「簡単だ。そいつの言った事を聞いていたか? お前は言ったな。そういう境遇にないから言えると。ならばお前達に犠牲とされた者達はお前達に同じ言葉をぶつけただろう。お前達は理想郷を実現するために幾多もの世界を犠牲にしてきたはずだ。違うか?」
「それは……」
「犠牲にする側だったお前達は犠牲にされる側に今の言葉を言われるだろう。理想郷実現のために多少の犠牲は必要だと言えるのは、自分達が犠牲にする側だからだとな」
「地獄のような世界だってあるんだっ! 生きてる事が辛いって世界だってゴロゴロしてるっ! なら」
「滅ぼした方がいいとでも言うつもりか? ふん、それこそが傲慢で思い上がりな考えだ。滅ぼしてくれとその世界の者達が言ったのか? 死なせてくれと頼まれたのか? お前から見れば地獄でも、そこを天国だと思う者が、生きていたいと思う者がいなかったと断言出来るか? 滅ぼす前にその世界の者達全員から意見を聞いた訳でもないのなら黙っていろ。貴様らのやった事はどれだけ言葉を並べたところで自分勝手の独善だ」
キャロルの言葉に赤い髪の少女は何も言えなくなったのか黙り込み、その場で俯いてしまった。
「キャロルちゃん……」
「俺も似たような事をしようとしたから分かる。所詮どれだけ賢くても人は自分の主観でしかものを考えない。それが他者からはどう思われどう映るかを分かっても、だ」
世界を分解・再構築しようとしたキャロルだからこそ分かる事なんだろう。超がつく程の天才と言われるテスラさんも結局は自分の主観だけで動いてしまった。それが人間らしさと呼ばれるものなんだと思う。
何せその彼が今回の事を発案、実行した理由こそが、その人間らしい感情の動きなのだ。愛する人を失い、その甦りを、復活を望んだ事。それが転じて全ての世界を一つにし、死という出来事からの解放を目指したのだろう。
「テスラさん、貴方が望んだ事や願った事はある意味で間違っていないとは思います。けど、それでもやはり生命の理は手を出しちゃいけないんだと思います。誕生と死を繰り返すからこそ世界は循環し、他者への思いやりや命の尊さを説き、理解する事が出来るんじゃないでしょうか?」
「君は大切な存在を失った事はあるか?」
唐突にテスラさんはそう尋ねてきた。表情は未だ無表情のままで。
「ありますけど貴方が経験した程の喪失じゃないです」
「……ならば私の気持ちは分かるまい」
「そりゃそうですよ。どれだけ頑張ったって人の気持ちなんて分かりっこないです」
そう言った時、俺の周囲から響達装者四人の「ぁ……」と言う声が聞こえた。気付いたんだろうな、俺が言おうとしてる言葉がどういうものか。
「人の気持ちが分かるなんて神様でもなけりゃ無理ですし、下手すれば神様にだって出来ないかもしれない。何とか分かろうと頑張って、頑張って、それでも絶対に読み切れない事もあるのが人間の心ってやつですよ。時には自分にだって分からない時がありますから」
俺の言葉にテスラさんは何も言わない。ただ俺の顔をじっと見つめている。だからこそ、俺は伝えたい。きっとこの人もかつてはやっていただろう事を、思い出してもらうために。
「思いやる事、なら、何とか出来ますけどね」
「……思いやる、か」
「はい。それがきっと限界です。相手の気持ちになって考えてみる。これが人間が可能な最大限の歩み寄りかなって思います」
テスラさんはその言葉で目を閉じた。そこからしばらく無言が続いた。誰も何も発しなかった。どれぐらいそうしていたかは分からない。一分か、五分か、あるいは十分かもしれない。長いような、短いような、そんなどちらとも取れる静寂の中、その終わりを告げたのは……
「彼女も、そうだったんだろうな」
テスラさんの、噛み締めるような呟きだった。
そこから彼は話し出した。アメリアという女性との触れ合いを。それは短編映画のような内容だった。全てを失い夢さえも奪われそうになっていた青年を、一人の女性が支え、立ち直らせてみせたのだ。
けれど、その結末は映画のような幸せなものではなかった。唐突な幕切れ。後味の悪い最後。手を取り合って歩いていた男女は、無慈悲にその繋がりを断ち切られた。
そして、それが今回の事件への発端となった訳だ。
「アメリアは、私の大切な支えであり、研究と対を成す程の生きがいとなっていた。彼女を取り戻すために私はあらゆる手を尽くし、考え、試した。そして最後に残ったのが……」
「平行世界全てを一つにし、その命の力でアメリアさんを甦らせる?」
「……それも一つの目的だった。アメリアの蘇生はもうそれしか残されていなかった」
「貴方にそれだけの知識や情報を与えたのは誰ですか? いや、何です? さすがに平行世界なんてものやその命の力を利用するなんて一個人で発見したり気付くはずがない」
「アヌンナキの情報を手に入れたのだ。正確には、その知識だろうか。そこで私は超技術と呼べるものを知った」
それで全てが納得出来た。結局はまたアヌンナキのせいか。こうなると災いの神様だな、本当に。
テスラさんはまるで全てを懺悔するかのように語ってくれた。エレクライトの事から今回やろうとしていた計画の全容までを。
いや、まさかエレクライト装着者まで計画のために利用しようとしていたとは思わなかった。下手すれば犠牲になっていたかもしれないと、そう思う程の内容だった。
しかも神の領域へ至ろうとしていたとはなぁ。これ、完全にバベルの塔の話に近いじゃないか。本当にどこまでも人ってやつは同じような事を考えるんだな。
「あ、あの、仁志さん?」
「ん?」
テスラさんの話が一段落ついた辺りで響が俺の尻辺りを見つめて声をかけてきた。
何だろうと思っていると、響は俺のズボンの尻ポケットを指さした。
「何か、その、光ってます」
「……依り代?」
言われて尻ポケットから依り代を取り出すと、そこから光が放たれた。周囲を包むその光はかつてキャロルを、スサノオを包んだ時の光だった。
「どうして急に依り代が……」
「それはきっと私のためです」
突然聞こえた声に俺達は顔を動かす。そこにはずっと黙っていたもう一人の女の子がいた。彼女は悲しげな表情を浮かべテスラさんを見つめていた。
「テスラ様、本当にありがとうございました。私のために色々と苦労をかけて、そしてこんな事になってしまうなんて……」
「……まさか、アメリア、なのか?」
その問いかけに少女は頷いた。えっと、どういう事だ? 俺が聞いた情報だと、二人の少女はフォルテとララだったはず……。
「先程の光がこの子に宿った私の記憶を鮮明にしてくれました。テスラ様、もう恐ろしい事はやめてください。私の事をテスラ様がそこまで思っていてくださったのは嬉しいです。けれど、そのために多くの人達を苦しめ、悲しませ、犠牲にしてしまうなど、私は耐え切れないんです」
「だが私にとっては」
「私が支えたいと思ったテスラ様は、その発明で、研究で、多くの幸せを、笑顔を作っていました。私は、私はそんなテスラ様だからこそ支えたいと思ったんです。だから、お願いです。もう私のために誰かを犠牲にするような事はやめてください。あの頃の、誰かを笑顔にしていた頃のテスラ様に戻ってくださいっ!」
「アメリア……」
……何だかよく分からないがどうやらあの子はアメリアさんの記憶があるらしい。じゃ、まさか人造人間? 嘘だろ。ここまで似てるのかよ、テスラさんとプレシアって。
「最後にこうしてまたお話できて良かった……」
「最後……?」
「……もう私は、テスラ様がここまで想ってくれたアメリアは死んだのです。そしてこの子はアメリアではなくララ。別の存在で、テスラ様を強く想う優しい子」
「しかしっ!」
「私もっ! ……私もテスラ様と一緒に生きていたかった。一緒に生きて、寄り添っていたかった。でも、それはもう叶わぬ事なんです。いえ、叶ってはいけない事です」
「アメリア……」
静かにだけど確固たる意志を感じさせる声だった。それと、おそらくアメリアさんの気持ちが出させたのだろう涙がララという少女の目から流れていた。
「テスラ様、今からでも遅くありません。本来のテスラ様に戻ってくださいませんか? そして、いつか私のいる場所へ来た時に、沢山お話を聞かせてください。どんな事をして、どれだけの笑顔を作れたか。それを楽しみに、私は待ち続けます」
優しい微笑みを浮かべるアメリアさんにテスラさんは言葉を無くしたようで、ただ黙り込んでしまった。でも、ゆっくりと歩き出すと静かにアメリアさんの体を抱き締めた。
「ああ……テスラ様にこうされるなんて夢のようです。もう、これで本当に何の心配もなく眠れます」
「……約束する。必ず、必ずアメリアが喜んでくれる話を沢山持って会いに行く事を」
「はい、楽しみにしています」
「アメリアさん」
正直割って入るのは気が引けたのだが、ここまで“なのは”じみてるのならこの言葉で見送ろうと思う。こちらへ顔を向けたアメリアさんとテスラさんへ、俺は笑顔を浮かべてこう告げた。
「良い旅を」
「……旅、ですか。ありがとうございます。では、テスラ様、いってまいります」
「ああ、気を付けてな。私も、いずれ追い駆ける」
「ふふっ、出来る限り遅く来てくださいね? 出迎える準備をしたいので」
その言葉を最後にアメリアさんは目をゆっくりと閉じて、そしてその体がグラリと揺れた。倒れるかと思ったが、それをテスラさんが支えるように受け止める。するとそれを合図にしたかのように彼女は再び目を覚ました。
「……テスラ様?」
聞こえた声は先程と同じようでどこか違う。きっとこれがララという少女の声なんだろう。
「ああ、私だ。ララ、どこにも異常はないか?」
「ヤー、全て正常」
「そうか。ならばいい」
優しくララから手を離して、テスラさんはこちらへ顔を向けた。
「依り代と、そう言ったな。不思議な物だ。可能ならばこの手で調べてみたい」
「いいですよ。ただ、そのためには色々と片付けないといけない事がありますけど」
「……そうだな。アメリアとの約束もある。まずは、私がやった事とやろうとしてきた事について向き合う事か」
「それと、そのララって子とも、ですかね」
「ララと……」
多分だけど、テスラさんは今までララって子をちゃんと見てなかったはずだ。それこそプレシアがフェイトを道具としてしか見てなかったように。
っと、そうなるとあの赤い髪の子がフォルテか。名前の通り気が強い子なんだな。そんな事を考えているとこちらへ近付いてくる足音が聞こえてきた。振り向けばそこには翼とマリア、それとスターリットさんがいた。
「仁志……それに貴方達も」
「やはりここにいたか」
俺達を見て微かに苦笑する二人とは違い、スターリットさんは俺達ではなくテスラさん達へ意識を向けているようだった。
「テスラ……」
「スターリット……」
ここからは部外者はいない方がいいかもしれないとそう思った。
「みんな、ここはスターリットさんだけにしないか?」
そう言うとみんなは俺の意図した事を察してくれたらしく無言で頷いてくれた。
「いいの?」
「構わない。我々は貴方を信じている」
「そうね。スターリット、私もかつては今の貴方達と同じだった。罪を犯し、一度は囚われの身となった。だからこそ言える。ここから胸を張って日の光を浴びれるか否かは貴方達次第よ」
マリアの言葉にスターリットさんの目が見開いた。うん、あれなら心配いらないだろう。きっとこれからテスラさん達は日の光の下へ歩き出せるはずだ。時間はかかるかもしれないけど、必ずまた歩き出せる。そこに他人の手助けは……今は必要ないだろう。
「行こう」
キャロルを先頭に俺達はその場から離れた。後はテックの人達で話し合い、決める事だと、そう思って……。
「それでこれからどうするの?」
「そうだな……。とりあえずはワールドシステムの見直しだろうか」
そうあっさりと述べるテスラにスターリットは小さな驚きを浮かべた。
(テスラが……微笑んでる……)
アメリアとの会話がテスラの荷物を下ろした事で、彼は本来あるべき状態へと戻れたのである。不器用だがあったかい人の心を持った、そんな状態へと。
「スターリット、もし良ければまた私に手を貸してくれないか? 残念ながら君も知っての通り、私は研究を始めると身の回りの事が手に着かなくなる」
「お前がいなくなった後はララがやってたんだが、これが結構酷かったんだぜ。特に食事が」
「ヤー……ララ、やっぱりお料理下手……」
「その、いいの? 私はみんなと……」
「スターリットは、何もやってねー。アタシらと戦ったのは装者達だ。スターリットは、アタシらと戦ってねーよ」
「フォルテ……」
それは、ぶっきらぼうではあるが強い意志を感じさせる声だった。たしかにスターリットはフォルテ達と直接戦闘していない。だが響達の援護をし、計画を邪魔した事に変わりはないのだ。
「ヤー、スターリット、ララ達へ攻撃してない。だから何も悪くないっ!」
「ララ……」
力強くフォルテへ賛同するララの言葉にスターリットの瞳に涙が浮かぶ。
「そうだな。我々へ刃を向け、計画を阻んだのはシンフォギアだった。スターリットはその中にはいなかった。それは、紛れもない事実だ」
「テスラ……っ」
「それで、いいだろう。それだけで十分だ。ああ、十分だ」
何かを噛み締めるようなその声にスターリットは無言で何度も何度も頷いた。涙は、もう流れていた。それは喜びの涙。どこかで流せないと思っていた、歓喜の涙だ。
(良かった……っ。本当に、本当に良かったっ!)
ヒビキと出会い、迷いを抱いたまま出会ったもう一人の響。その二人の“立花響”がスターリットの運命を変え、現在へと繋げた。それを思い、スターリットは一人感謝した。
そうしてスターリット達がこれからの事を考えて話し出した頃、仁志達は発令所で弦十郎へ先程起こった事などを報告していた。
「……そうか。依り代がな」
「はい。アメリアさんの言葉がテスラさんの心を動かしてくれました。それにスターリットさんもいます。きっと今回のような事はもうしないと思いますよ」
「そうだな。それにしても驚きだ。まさかあの魔法少女達さえも知っていたとは」
そう、仁志がテスラへ語った話は“魔法少女リリカルなのは”と言う作品であり、そのメインキャラである魔法少女達と響達は出会っていたのだ。
それが発覚した事で仁志もまた驚いていた。想像も出来ない出会いであり、ある意味で危険な問題を彼に気付かせてもいたのだから。
「それなんですけど、彼女達はかつての巨人事件の時のエレン達みたいに事故のような形で来てないんですよね?」
「ああ」
「しかも、リンディさんまで動いていた?」
「そうだ」
「……やっぱりあの頃言ってた事は正しいのかもしれない」
「あの頃と言うと?」
「その、以前みんなと俺の世界にあるアニメや特撮、漫画やゲームなどの創作物は平行世界ってもので存在しているかもしれないって話した事がありまして……」
これまで響達が出会った“戦姫絶唱シンフォギア”ではない作品の人物達。それらは事故のような形で出会う事もあれば、アラートとして行った世界で出会う事もあった。だが共通するのはただ一つ。彼らは実在し、しかもそれぞれの作品として描かれたのと同じような出来事を経験しているという事だ。
弦十郎達も仁志の口から語られた可能性を聞き、希望よりも不安の方を抱く事となる。
「……頼もしい存在達がいると知れたのはいいが、それと同じぐらいの脅威が存在し、また遭遇する可能性があるというのは……」
「そもそもウロボロスがそれでした。そしてそれはまだ生きています。幸か不幸かそれはシンフォギアで対処出来た相手ですが、だからと言って相性が良かった訳でもないですし」
「うむ、たしかにそうだ。だが、それでも」
「分かっています。そうだろうとやるしかないってのは。俺が言いたいのは、依り代が今も力を貸してくれている事の意味はそれなんじゃないかと思うって事です」
「……依り代は、今後シンフォギアでは対処や対応がし辛いあるいは不可能な時に備えていると?」
その問いかけに仁志は頷き依り代を手にした。彼は語った。あの悪意との戦いの日々で依り代が起こしてきた様々な出来事を。諦めず足掻いた時、依り代はその想いに応えるようにして新しい力を授けてきた事を。
そして、依り代が星の声で生まれた物ならば、今後も自分達が正しく生きていく限り力を貸してくれるのではないか。そう仁志は締め括った。
「俺の知る限りでもギャラルホルンのような物を有しているヒーローは少ないですし、また別の世界へ行ってそこで戦うというのも多くはありません。おそらくですが、ここはそういう意味では最前線です。だからこそ、ここが陥落してしまう事があれば幾多もの世界が滅びの危機に瀕するんだと思います」
そう言いながら仁志の脳裏にはあるヒーローの姿が浮かんでいた。
(ある意味ウルトラマンがいる世界へマリア達は行ったのなら、本当にいつかイージスの力を使っているゼロとも出会うかもしれない)
多次元宇宙の平和を守るために戦う銀色の巨人、ウルトラマンゼロ。ある意味でギャラルホルンのアラートなく装者達と似たような事をしている彼なら、遠くない未来で遭遇するかもしれないと思えたのだ。
「それに幾つもの宇宙を移動しながら平和を守るヒーローや、平行世界を渡り歩いて旅をしているヒーローもいます。彼らはその行く先々での出会いで得た力や絆で凶悪な闇を倒しています。それも、これまでの響達と同じじゃないでしょうか? 不安があるのは分かりますし、それが拭えないのも分かります。でも、どんな時だって希望を信じ、笑顔を守る。それを貫けば、忘れなければ、いつだって奇跡はそこにあります。それを皆さんは掴み続けてきたじゃないですか」
仁志にとって、ここにいる者達はヒーローだった。前線に立っていようと立っていなかろうと、平和を、未来を守るために持てる力を振り絞って戦い続けてきた者達なのだから。
憧れのヒーロー達に会った少年のように、仁志は弦十郎へ想いを述べた。負けないで、戦って。そんなヒーローの背中へ声援を送る子供のような表情で。
「…………そうだな。どれ程の危機が、危険が待っていようと、諦めず抗う事が俺達に出来る唯一の事か」
フッと微かに笑みを浮かべ、弦十郎はそう答えた。それは自身へ言い聞かせるようでもあった。
目の前の男が心から告げた言葉。それに込められたものに気付き、受け止め、しかと返したのである。
「只野君、今回の事で君の懸念している事は現実であるとよく分かった。世界蛇に悪意、そしてテスラの計画。全てが一つの世界で収まらず、全ての平行世界を巻き込むものだ。俺達が目指すべきは依り代の力が失われ、ただの携帯端末に戻る事だろう」
「弦十郎さん……」
「ただ、それを果たすには俺達だけの力では届かない。君の力も引き続き貸してほしい。俺達の世界だけでなく、全平行世界の平和のために」
「はいっ! 俺で出来る事なら全力で手伝わせてくださいっ!」
「ああ、頼りにさせてもらう」
仁志は分かっていた。自分の力とは依り代の力である事を。それでも、彼は捻くれも卑屈にもならなかった。自分にしか出来ない事があるというのはそれだけ凄い事だと分かっていたからだ。
(いつか、いつか依り代が必要なくなった時、俺はそれとは別の自分にしか出来ない事を見つけておかないといけないな)
弦十郎の大きな手と握手しながら仁志はそう思った。こうしてワールドシステム事件は終わりを迎える事となった。
テスラ達は全員揃ってスターリットと共にヒビキの暮らす世界で世話になる事が決まり、フォルテとララは装者の一種としてノイズ対策へと動く事となる。
「そういう訳で、今後は私達の同僚だ。立花、いいな?」
「はい」
「ったく、どーしてアタシらがこんな事を……」
「フォルテ、働かざる者食うべからず。あったかいお部屋、あったかいご飯のため、一緒に頑張る」
「ぐっ……」
「へぇ、ララはちゃんと分かってるじゃん」
「そうだな。これからよろしく頼むぞララ」
「ヤーっ! ララ、頑張るっ!」
「フォルテもね」
「……まぁ、飯抜きにされても困るしな」
笑顔のララを翼が優しく撫で、それを横目にしながら微かにヒビキとフォルテが笑う。まるで以前からそういう関係だったかのような穏やかで優しい光景がそこにはあった。
一方テスラはスターリットと二人で二課所属研究員として勤務する事となり、風鳴司令や帰国した櫻井了子らと意見を交わしながら第二の人生をスタートさせる事となった。
「ふむ、この道具は中々いい。エレクライトに組み込んで飛行能力ないし跳躍能力を向上させよう」
「それはいいんだが、そいつは制御が難しいぞ?」
「そうねぇ……組み込んだはいいけど制御出来ずに使えないなんてならないかしら?」
「フォルテなら使ってる内に何とかしそう。ララは……意外としれっと最初から扱うかも」
「シンフォギアには組み込まなかったのか?」
「それが出来れば苦労はない」
「作っておいて何だけど、あれはエレクライトと違って純粋な科学力だけで出来てないのよ」
「それにテスラ、シンフォギアは飛行能力を秘めているのを忘れた? 普段使えないだけでない訳じゃないから組み込む必要はないと思うわ」
テスラという天才が加わった事により弦十郎と了子のテンションは今まで以上の高ぶりを見せ、スターリットはその二人に刺激されるようにテスラがその頭脳を稼働させていると感じて微笑む。
孤独な天才は愛する者の言葉を受け、更に自身へ躊躇いなく議論をぶつけてくる相手を得た事で更なる高みへと歩き出していた。
無論これまでやってきた事への贖罪の気持ちはある。だからこそ、テスラ達は誓ったのだ。
――これまで我々が出した犠牲を無駄にしないために、それよりも多くの者達を助け、救い、笑顔にしたいと思う。そのために、君達の力を貸してほしい。
――ヤー、ララ、テスラ様のお手伝いする。それはこれからも変わらない。
――私も同じよ。目的はどうであれ、犠牲を出した事は無くせない。なら、それを忘れず、次に活かし続けて、二度とそれを繰り返さない事が償いだもの。
――……あの頃のアタシを助けたいって気持ちは変わらねーよ。付き合ってやるさ。
犠牲を出さず、犠牲にされる者達を助けられるようにその力を使う事。それがT.E.Cと言う名の組織に属していた四人の生き方だった。
それは形こそ変えたが、テスラが、そしてスターリット達が目指した理想でもある。誰もが笑顔で暮らせる世界。その実現を目指して、今の自分に出来る精一杯を。
そうしてテスラ達が新しい一歩を歩き出す裏では、一つの別れが起きていた。
「ではな。世話になった。あの人の子にもよろしく伝えておいてくれ」
ツクヨミがスサノオと共に根幹世界を離れたのである。元々平行世界を守護するために作られた存在である彼らは、その脅威が一先ず去ったと判断し姿を消したのだ。
その事を後から知った仁志はこう呟いた。
「一先ず大きな危機は去ったって事か」
出来る限り平和であって欲しいと願いながら、仁志はどこかで思っていた。その内にウロボロス残党が動き出すだろうと。だがしかし同時にこうも思っている。
(それでも、みんなは負けない。シンフォギアとエレクライトは関係性としては兄弟、いや姉妹か。それが手を取り合ったんだ。例え石屋が復活していても何とかしてみせるさ)
この想像通り、この後現れたウロボロス残党はシンフォギアとエレクライトの協力により完膚なきまでに打ち負かされ、完全にその名を葬られる事となる。
幾多もの平行世界と繋がりを持ち、幾多もの人々との出会いを力とした今の装者達には、世界蛇を失い、ベアトリーチェさえも失ったウロボロスが勝てる可能性など残されていなかったのだから……。
ゲームでどうされてるのか知りませんが、今作ではアナザーマリアに呪いをかけた奴=復活した石屋としています。
で、今後ゲームでどう描かれるか分かりませんけれど、ウロボロス残党は今作では敗北確定の上出番はありませんのであしからず。
……正直今回のはあまりにもアナザー響やスターリットら操者達の扱いが酷過ぎたので書いただけなので。
これでこちらは本来の在り方通り、平和な感じだけに戻します。