シンフォギアの消えた世界で アナザー 作:現実の夢想者
……色んな意味で。
「それじゃ、教えた通りにやってみて」
そう言うと板場さん達は小さく頷き、それぞれ腕に着けたリング状の物を口元へ近付けた。
「「「電装っ!」」」
キーワードである“力ある言葉”が三人の口から発された瞬間、その体を紫電が包むように展開する。
それはほぼ一瞬の出来事で、俺の目の前には赤、青、黄それぞれの色を基調として作られた新型エレクライトを纏う板場さん達が立っていた。
ちなみに板場さんが赤、安藤さんが青、寺島さんが黄という、響風に言うならメックヴァラヌスと同じ配色だ。
「うわぁ……ホントにヒーローみたい……く~っ! 燃えるわっ!」
「はいはい落ち着きなって。でも、本当にこんな物もらっていいのかな?」
「構わないと思います。使用についても、司令さんがこちらでならいくらでも展開してくれていいと言ってましたし」
興奮している板場さんとは違い、安藤さんはやはりまだ抵抗感があるようだ。寺島さんはそれに理解を示しつつも優しくその感覚を薄めてあげている。
何というかよく出来た組み合わせだなぁ。平行世界でもトリオとして戦っていたのが納得出来るバランスだよ。
俺がテスラさん達へ板場さん達用のエレクライト製作を頼んで既に一か月が経過していた。つまり一か月でテスラさん達は新型エレクライトを完成させた訳だ。
それを早いと見るか妥当と見るかは人によって分かれるだろうけど、俺は正直早いと思った。まさか響達が卒業するまでに間に合うとは、ね。
それと、起動プロセスは俺が趣味を加えて変えてもらった。スイッチオンじゃ変身感が薄いんだよ。キカイダーのようなアンドロイドならアリなんだけども……。
「只野さんっ! これであたし達も歌えるんですよねっ!」
「そのはずだよ」
シンフォギアシステムの一部を組み込んだエレクライトが今三人が身に纏っている物だ。まぁフォルテちゃんやララちゃん、スターリットさんのにも組み込まれたらしいけど。
「じゃ、ちょっと試してみよっか?」
「ナイスです。試運転、みたいなものですね」
「それじゃ声量は控えめで頼むよ」
俺の情けない言葉に三人は小さく苦笑しながら頷いてくれた。
そして始まる三人の胸の歌……だったはずなんだけど……。
「……う、歌えない」
「だね。やっぱり感情が乗らないとダメなのかな?」
「かもしれません。こうなるとどうすればいいのでしょうか?」
そう簡単には歌えず、三人揃って困惑顔。そこで揃ってこちらを見てくれるのはプロデューサーでもあるから、だろうか。
「そうだね……よし、まずは一人ずつ歌ってみようか」
「「「一人ずつ?」」」
「そう。今の板場さんの素直な気持ちと安藤さんや寺島さんのそれはまったく同じじゃないはずだ。それでいきなり合わせて歌うのは難しいと思うんだよ。だから、最初は個別に挑戦だ」
「「「なるほど……」」」
こちらの意見に納得してくれたらしく、三人はふんふんと頷いた。
で、そうと決まればと切り込み隊長はやはり板場さん。
「ユミ、リラックスだよ」
「今の気持ちを素直に歌えばいいんですわ」
「わ、分かってるってば。そう言われると余計緊張するのよ」
すっかり観客気分となった二人に板場さんがやり難そうな顔をする。まぁ気持ちは分かる。でもこんな事で乱されるようじゃこれから先が不安だ。
「板場さん、周囲の事は一旦忘れてくれていい。今は自分の心に正直になってみて」
「自分の心に……正直に……か」
小さくよしと呟いて頷き、板場さんは深呼吸一つする。するとエレクライトから音楽が流れ始めた。
思わず俺も安藤さんや寺島さんも息を呑む。その音楽は意外と言ったら怒られるかもしれないが、板場さんにしては静かなものだった。
「……小さな一歩だとしても~」
その出だしから一気に音楽が変わる。静かな雰囲気から激しさを感じさせるものへと。
でも不思議なのがそれでも音量としては劇的な上がり方じゃない辺りか。これ、無意識に俺の家の防音性を考慮してくれてる気がするなぁ。
こうして歌われた板場さんの胸の歌はある意味ヒーローソングだった。ちっぽけな力かもしれないけど、それで守れるものが、未来があるのなら勇気を持って踏み出そうって感じの、そういう歌だった。
「小さな一歩だとしても! 諦めない! それだけでいい! それで何かが変わるからっ!」
見事なまでのヒーローソングだ。主題歌でもあり挿入歌でもありな感じがして燃える歌詞だし。
「……ど、どう?」
音楽が止まると同時に板場さんが恥ずかしそうに問いかけてきた。その答えは……
「すごいよユミ。ユミらしいって感じした」
「はい。ナイスな歌でした」
「そ、そう?」
「ああ、良かったよ板場さん。君らしさが感じられた」
「そ、そっか。よし、じゃあ次はどっちよ?」
嬉しそうに笑うと板場さんは安藤さんと寺島さんへ目を向ける。俺達の感想が好印象なものだったから一気にテンションが上がったらしい。
そんな板場さんに親友二人が苦笑しつつならばと順番を相談し始めた。そんな様子を見た板場さんがこちらへちょこちょこと近付いてきて……
「只野さん、出来ればなんですけど」
「カラオケ、だろ? ついでに動画も撮ろうか」
「さっすが分かってる。いつならいいですか?」
「そうだなぁ……」
卒業間近の彼女達はある意味でフットワークが軽い。登校も自主登校で、既に受験も終えているためだ。
そうそう。響と未来は進路を異なるものへ決めた。響はそのまま装者として自由に動けるようにS.O.N.G職員へ、未来は短大生となるそうだ。
板場さん達にはまだ聞いてないけど、おそらくバラバラになるんじゃないかと思う。
そんな事を考えながら板場さんと打ち合わせていると……
「じゃ、次はあたしが行かせてもらうよ」
安藤さんがその胸の歌を披露しようとしていた。
ならば当然俺と板場さんもそれを聞こうと意識を切り換え、打ち合わせは一時中断。
やがて音楽が流れ始める。それは明るい印象を受けるものだ。
「楽しい時間は早く過ぎるって言うけど、だからって早過ぎじゃない?」
板場さんがヒーローソングっぽいなら、安藤さんのは青春ソング、だろうか。
彼女の歌は終わりが見えている学院生活への想いを歌ったものだった。
それでも湿っぽさはなく、明るく少し切ないそれはどことなく安藤さんらしい気がした。
「ゼッタイ“さよなら”なんて言うもんか。“じゃあね”だって言う気はないよ。いつだって、どんな時だって、あたしが言うのは“またね”一択なんだから」
……寂しい学生生活を送った身としては色々複雑になる歌だなぁ。
「創世さん、とってもいい歌です……」
「……そうね。胸にくるものがあったわ」
「や、やだなぁ。二人して止めてよ。目、潤んでるって」
照れくさそうな安藤さんだが、そんな彼女の瞳も潤んでいる。本当に響と未来とは違う形で彼女達も仲が深いようだ。
この三人での時間が安藤さんにとっては安らぎであり、時に苛立ちでもあり、色々なものをくれるかけがえのないものなんだろう。
「で、では、私ですね」
そして最後のトリを飾るのは当然寺島さんだ。
若干潤んだ瞳のままで立ち上がると安藤さんと位置を交代して、彼女は一度だけ深呼吸をした。
で、何故か一瞬だけ目があった、気がした。そして何故か寺島さんが少しだけ頬を赤らめた。
それを合図にするかのように流れ出す音楽は、心が弾むようなそんな印象のものだった。
「これは一体何なのでしょうか? 自分の心が分かりません」
その出だしは、何となくラブソングっぽいなと思った。好きな男か気になる男でも出来たんだろう。
まぁ、彼女は俺と響達の事を不完全ながら知っている。それもあって俺の事を見たのかもしれない。自分の気になる相手は俺みたいな奴でないようにって。
三人の中では一番異性を強く意識させられた寺島さんらしい歌と、そう言えなくもないな。
そんな風に思いながら俺は視線を落ち着きなく彷徨わせる寺島さんに笑みを浮かべた。
「あの子へ微笑む貴方を見てると不思議な気持ちになるんです。彼女と寄り添う貴方を見てると不思議な気持ちになるんです。だけど一番不思議なのは、そんな事に気付く自分だったりするんです」
ラブソングのような、そうじゃないような、でも甘酸っぱさのようなものを感じる歌だなぁ。
何というか、相手に好意を持ってるのに自分が気付いてないみたいな歌だし。
……いや、この場合は関心、が一番近いんだろうか。とにかく意識しているのは間違いない。それがどういう意味なのかが自分では分からないってところだろうな。
「テラジ、乙女だねぇ……」
「よねぇ。あれ、完全に揺れる乙女の歌じゃない」
親友二人の感想は俺よりもきっと寺島さんの心境を言い当てているような気がする。
乙女ってところは全力で肯定するけども。
「いかが、でした?」
「いや、三者三様で非常にいいと思うよ」
恐る恐るといった感じの寺島さんへそう返して、俺は視線を板場さんや安藤さんへ向けた。
「な?」
「ですね。じゃ、この調子で三人曲に再挑戦、する?」
「いいわね。今ならやれそうな気がするわ」
一度歌った事で二人の中で何か動き出したのか、安藤さんも板場さんも乗り気となって寺島さんへ視線を向けた。それを受けて寺島さんは……
「ナイスです! 私も同じ事を思ってました!」
と、とてもいい笑顔で応えた。こうして三人はもう一度スイーツパラダイスとしての歌へ挑戦する事となった。
なので俺からも一つだけアドバイスをする事に。何て事はない。シンフォギアを見ていたからこその簡単なものだ。
「三人共、今度は手を繋いでみたらどうかな? 響達もそうする事で胸の歌を共鳴させた事があるんだ」
「「「手を……」」」
「そう。板場さんを中心に、がいいかな? スイパラのリーダーは板場さんだし」
「あ、あたしがリーダー?」
突然の指名に驚く板場さんだが他の二人は驚きもなくむしろ納得するように頷いていた。
「適任だと思うよ。君達三人でいる時は基本板場さんが行動を起こすしさ」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「いいじゃん。ユミ、やりなよ」
「そうです。この中だと一番弓美さんがリーダーシップに溢れていますわ」
「そ、そう?」
「「うん(はい)」」
まだ不安げな板場さんを勇気づけるように答える安藤さんと寺島さん。本当にいいチームだ。
リーダーのレッドをブルーとイエローがしっかり支えるなんて……まるでレスキューポリスみたいだなぁ。
とにかくこれで板場さんも腹が決まったのか堂々とした雰囲気で中央に立ち、安藤さんと寺島さんと手を繋いだ。
「いい? いくわよ?」
「オッケー」
「はい」
揃って深呼吸をするスイパラ。凄いな、もうシンクロし出してるのか?
すると三人の身に纏っているエレクライトから音楽が流れ出す。これは……本当に出来るのか?
「「「Takeoff」」」
「おおっ!」
三人の声と共に音楽が変化する。これはあの曲じゃないか!
Girls Take off!! 三人に歌詞を考えてもらったアレだっ!
そこからは、まるでライブのようだった。最初の躓きはどこへやら。スイパラの三人は見事なまでのパフォーマンスを発揮し、その輝きはドライディーヴァとはまた異なる眩しさだった。
歌い終わった後、しばらく三人して放心状態となっていたが、やがてジワジワと実感がわいてきたのか三人して喜び合ってはしゃぐ様はいかにも学生、いや青春って感じがした。
こうして俺は三人を連れてカラオケへ向かう事に。今の感じを忘れない内にと思ったのもあるし、何より俺が本気でのスイパラを見たいと思ったからだ。
到着したカラオケで再度エレクライトを展開してもらい、もう一度今度は全力での歌唱をやってもらった。
で、その動画や個人曲を上げて反応を待つ間、板場さんに頼まれてヒーローソング(しかも映像付き)を歌ったりしたけれど、その後は当然ながら説明や解説を求められた。それも主に板場さんに。
「えっ!? べ、ベルトが喋る、んですか?」
「というよりは音声ギミックが絶対になった感じ。まだクウガやアギトは従来のライダーベルトに近い感じだったんだけど、龍騎やファイズで音声ギミックがウケてね」
ライダーは映像としてはクウガしか知らない板場さん達。だからかドライブのOPを歌った際に俺が言った決め台詞“Start your Engine”というものはどういう事だと聞かれての答えに驚いたらしい。
「へぇ、でもその方がなりきり度は高いかも」
「ですね。おもちゃとしてもその方が売れると思います」
「そ、そうだけど……」
「元々ライダーベルトはなり切り道具だからね。在り方としては正しいとは思うよ。でも、さすがにちょっと喋り過ぎが過ぎるとは思うけど」
特にウィザードやゴーストは待機中さえも喋るから煩いの何の。個人的にせめてそこは音だけで声はなしにして欲しかった。
「でもドライブ、かぁ。見た感じライダーっぽくなかったけど必殺技はちゃんとキックだったのはらしいよね」
「そうね。それにあのトリプルキックはカッコ良かったしっ!」
「只野さん、あれもクウガと同じでライダーの方は重たい宿命を背負うんでしょうか?」
「え? あ~……」
正直平成一期のクウガと二期のドライブではライダーというものの定義自体が異なるからな。
「えっと、響達にも軽く言ったんだけど……」
平成一期は主に人間が人外へ近付いていく感じで、二期は人間が人外の力をどう使うかを主軸にしている。そう教えると板場さん達が理解したように声を漏らした。
と、そこで教えられたのは三人が仮面ライダーSPIRITSを読んでいるという事。
だから余計に俺の話を聞いて色々と感じる事があったらしい。
「悲哀のヒーローって感じだったのに……」
「時代が変わったって、そう言っちゃうとそこまでだけど……ねぇ」
「で、でもそれでも悩みなどと無縁ではないはずです。そこはどうなんですか?」
「そこは大丈夫。ちゃんとそれぞれ悩む姿や苦しむ事はある。ヒーローとしてだけじゃなく、人としてもね」
そう告げると板場さんが安心するように息を吐いた。まぁヒーロー物の醍醐味みたいなところだもんなぁ。
「っと、そろそろコメントとかある程度付いた頃だろうし、見てみようか」
話題と空気を変えるようにそう言って俺はスマホを操作する。板場さん達も俺の周囲へ近寄り、ふわりと良い匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
まずは先にアップした個人曲。最初は板場さん。
「……あっ! 高評価多い!」
「コメントも良い感じだよ。一気に変わったって」
「弓美さん、やりましたね!」
「ま、まぁこんなもんよ! でも、やっぱこれの、ツインテクターのおかげかな?」
「「「ツインテクター?」」」
聞き慣れない単語に俺だけじゃなく安藤さんと寺島さんも反応した。
ツインテクターって事は……きっとツインとプロテクターの合成語だよな? じゃ……あぁ。
「シンフォギアとエレクライトの合わせ技で出来たプロテクターでツインテクターか」
「さっすが只野さん! そうっ! この新型はツインテクターって名前にしたのっ!」
「「ユミ(弓美さん)らしい……」」
俺の言葉を板場さんが元気よく肯定するのを見て安藤さんと寺島さんが苦笑する。
でも、うん。悪くない名称だ。シンフォギアとエレクライトの融合である新型には相応しいかもしれない。
「板場さん、それもらってもいいかな?」
「へ?」
「開発者のテスラさんや弦十郎さん達へその新型の正式名称として提案したいんだ。呼び方も新型じゃかっこ付かないし、何より分かり易くて意味合いとしてもバッチリだと思うから」
その言葉に板場さんの目が見開いた。
「ええっ!? そ、それはちょっとさすがに」
「いやいや、これ以上ないってぐらいの意味合いだよ。シンフォギアとエレクライトの両方の特性を有した鎧。だからツインテクター。きっとテスラさんやスターリットさんも納得してくれるさ」
心の底から太鼓判を押す。そして願わくばこれも平和を、みんなの笑顔を守る力であり続けてくれる事を。
その想いも伝えると、板場さんは照れくさそうに、でも仕方ないって感じで了承してくれた。
ちなみにツインテクターという名称は特に反対もなく受け入れられ、新型エレクライトの正式名称となった事を追記する。
「……只野さん、か」
ポツリと呟く。あの後カラオケでまた新しい三人曲を歌って、それの評価やコメントがある程度出るまで四人で楽しんでから帰ってきて、あたし達は寮へと戻った。
勿論その前に一度最後の曲である“友達以上ヒーロー未満”への反応を見て、だけどね。
おかげで創世も詩織も結構興奮してたけど、あたしはもっとだった。それはかなりの高評価を受けたのが原因。それまでのマリアさん達とは違った雰囲気の歌詞だったのも大きかったみたいで、良い意味であたし達スイパラは今後に期待される事になったし。
で、そんなあたし達へプロデューサー的存在の只野さんがこう言ってくれた。
――三人共、あまり周囲の評価や意見を気にしなくていいよ。これは君達が楽しむためにやってる事なんだ。だから、まずは自分達が楽しいって思える事を目指してごらん。
あの言葉に、あたしは思わず胸を押さえた。忘れそうになってた事を、ちゃんとしっかり教えてくれたからだ。
アイドルっぽい事がしたい。そんな軽い気持ちで始めた事だけど、動画を上げて、コメントとかもらって、ツインテクターまで用意してもらって、気付いたら大事みたいになってきて、だからこそ只野さんはあたし達へちゃんと言ってくれた。
これは、遊びみたいなものだからって。真剣になってもいいけど気にし過ぎちゃダメだって。
「…………大人、だなぁ」
普段は情けないとこもあるのに、あーいう風に大人を出来るってヤバい。響達が好きになって、え、エッチまでしちゃう理由分かったわ。
「創世も似た事言ってたし……」
そう、創世も部屋に帰ってきてから呟いてた。
――参っちゃうなぁ……。あれが只野さんの大人の顔、かぁ。
優しくて情けない感じもするのに、いざとなると頼もしくておっきい感じがする人。
それだけじゃない。あたしの趣味に理解や同調をしてくれて、あったかく包んでくれたりもする。
……うん、不味い。これ、あたしも完全意識しちゃってる。
で、でもでも仕方ないじゃない! 相手は大人で、あたしと趣味を同じくする人で、それで優しくて頼りになるんだから!
「………………只野さん、か」
四人もの女の子を相手に隠す事無く交際して、なのにあんなに慕われてる。それって、只野さんの人柄? それとも……え、エッチがスゴイ、とか?
「ぁ……」
お腹の下辺りがムズムズし出した。これは、不味いやつだ。
あの夜から覚えてしまったいけない遊び。それをしたいって体が言い出したって事だから。
ダメだって、そう分かってるのに勝手に手があそこへ伸びてく。そっと割れ目になっている部分をなぞるように指で触るだけで……っ。
「んっ……」
響達が話してた事を思い出しながらあたしは体の欲求に素直に従った。もう、本当にダメかも。あたし、いつからこんなにエッチな子になったかな。
「……っはぁ……んんっ」
出来るだけ声を押し殺しながらあたしは快楽を味わう。火照りだした体と頭のまま、ぼんやりと気になりだしてる大人の男性を思い浮かべて……。
中々寝付けないなぁ。そう思ってたら微かに聞こえてくる押し殺した声に気付いた。
しかも、それはユミのだ。で、間違いなくああいう事してるって感じの声。
「……マズイなぁ」
こっちもそれにあてられて疼き出してるのが分かる。あの夜に久々にしちゃった一人エッチは、あっさりとあたしの中にあったそれへの忌避感や嫌悪感を粉々に砕いてしまった。
それどころか、それがもっていた快感や中毒性をこれでもかとばかりに味わわせてきたんだ。おかげですっかりエロエロな女子高生になってしまったんだけどさ。
「うぁ……もうこんなに……」
そっと確かめれば指に感じる熱と滑り。あたしの体が発情してる証拠だ。
う~っ、これって鎮めないと寝れないんだよねぇ。でも、ユミやテラジがいる場所で出来る程あたしはぶっとんでないし……。
「……仕方ない」
出来るだけ静かにベッドから離れて移動する。向かう先はトイレ、ではなくてバスルーム。
トイレだと誰か来る可能性がゼロじゃないけどバスルームならそれはないからだ。
……一人エッチ終わった後のユミが来るかもしれないって、そう気付いたのはパジャマを脱いで浴室に入った直後だったけど、ね。
「それにしても……」
思い出すのは最後に聞こえたユミの呟き。
「只野さんの名前、呼んでたよね……」
無理もない、かも。あたし達の通うリディアンは女子校で、教員から用務員さんまで女性だ。
そんな中で出会った年上の男性。しかも特別カッコイイとか凄いとかじゃなく、どこにでもいそうな感じの優しい人だ。
けど、そんな人がビッキー達四人とエッチしてて、しかもそれを四人が嫌がってないなんてとんでもを成し遂げてるんだから人って分からない。
で、ユミは趣味が通じるからかどんどんあの人に惹かれていってるし、テラジはテラジで変に意識してるっぽい。
「そしてそれはあたしも、か……」
親戚のお兄さんって辺りが妥当かなって思ってたのに、あの夜、あの人の隠された男の顔を知ってあたしの中で印象が変わった。
つまりあの人は、いざとなるとどこまでも男らしくなるんだって分かったから。それは良くも悪くもだって事も。
何せビッキーとヒナの二人と、ねぇ。それだけじゃなくて切歌ちゃんや調ちゃんも、だし。それなのに四人が只野さんを好きなままなのって……
「え、エッチが上手、だからかな?」
正直想像も出来ないんだよね。あの夜に聞いただけじゃどういう風になるのか、とか、どんな感じなのか、とかはさ。
正直エッチに興味はある。もっと言えば複数の相手とそういう事してる只野さんに。
何でもそうだけど経験値って重要だもんねぇ。それと、ビッキー達を見てればエッチが悪いものじゃないってのはすぐ分かるし。
休み明けとか、あるいは平日でも朝から機嫌が良い時は、ビッキーはそういう事してきたんだろうなってぐらいに幸せオーラ出してるから。
「……おちんちん、大きいらしいし」
一度だけ興味本位でビッキーに聞いた事がある。ヒナだとこっちがからかわれる気がしたからだけど、ある意味ビッキーに聞いて失敗したとも思った。
――ええっ!? え、えっと……た、多分だけど、大きい方、だと思う、よ?
そう言ってビッキーは手で大きさが分かるようにこれぐらいってやったんだよね。
おかげでそれ以来あたしの中で勝手に只野さんのおちんちんを仮想して一人エッチするようになっちゃった。
ヤバイんだよね、あれ。おちんちん想像してする一人エッチ。
最近じゃ想像の中で、あたし、本当のエッチしちゃってるから。
「んっ……うわ、すご……」
自分で軽く触れるだけで分かる興奮状態。何というか、どんどん深みにはまってるような気がしないでもない。
ユミは趣味が合うからってのがあるから分かる。でも、あたしは何でだろう? そう考えると浮かぶのはあの夜に見たビッキーやヒナの顔。
「そっか……。あたしもあんな顔になれるか試したいんだ……」
エッチな事を話してるのに、どこか幸せそうな顔をしてた二人。学院で軽く只野さんとの事を聞くだけで笑顔が深くなる二人。
そんな風に自分もなるのか。ううん、ならせてくれるのか気になってるんだ。エッチってどんなものか知りたいんだ。
「あっ……ヤバっ……想像するだけで……もう……っ」
大きなおちんちんで貫かれる自分を想像するだけで気持ち良くなるあたしがいる。
だって、その相手は絶対あの優しい笑顔であたしを見つめてくるからだ。
――可愛いよ安藤さん。
ああっ、絶対言ってくる。そこで名前じゃない辺りが本当にらしい。
「んんっ。た、只野さん……っ♡」
ユミの真似をして只野さんの事を呼んでみると、それだけで何だか気持ち良さが増した、気がした。
理由はきっと頭の中で相手が明確になったからだ。一回りも年上の、知り合いってレベルを超えた男性。その性格や言動もある程度把握しちゃったからこそ、あたしの中で具体的に、リアルな只野さんが想像出来ちゃうからだ。
――安藤さんはむっつりスケベだな。こんなに濡れてるよ?
「やだぁ……むっつりなんかじゃないからぁ」
――いやいや、こんなにしといてよく言うね。ここにおちんちん欲しいんだろ?
「そ、そんな事っ……ない……っ」
勝手にあたしの中の只野さんがエッチな事を言ってくる。その度にあたしの手が気持ち良くなろうとして動いてそれを後押しする。
あぁ、本物のおちんちんを入れたらどうなるんだろう……? 最初は痛いって聞くけど、どんな感じなんだろうな……。
そんな事を考えてるとこみ上げてくるあの感じ。あっ、これはイクやつだ。
「ああっ……~~~~~っ!!」
プシャって音がして、あたしはその場に崩れ落ちるように座った。
……何か、ビッキー達の彼氏、奪った気分で微妙な気持ちだ。
「でも、現実だとあたしがきっと……」
あの人にものにされる、んだろうな。だって相手は四人もの女子高生をエッチで夢中にさせてる人なんだから……。
「……弓美さんも創世さんもやはり」
出来るだけ気配などを殺すようにベッドから出ていく弓美さんを見送り、私は小さく呟いた。
あの夜、途中から小日向さん達の話を聞いてしまったお二人はすっかり自慰に目覚めてしまった。
私は……その前からだったのでお二人の様子からすぐに察する事が出来てしまったのだ。
創世さんはお風呂場で、弓美さんはこの後トイレで自慰行為をするはずだ。
「でもこれで……」
お二人がいなくなった事で心置きなく私も自慰が出来ます。そう思った時には既に両手がパジャマの中へ滑り込んでいた。
そのまま右手は下へ、左手は上へ移動し、それぞれの目的の場所へ到着するや優しくそこを刺激する。
「んっ♡」
あぁ、すっかりアソコがトロトロになっていますわ。乳首もしっかりと硬くなっています。
「はぁぁ……早くセックスしてみたいですわぁ」
お二人がいないからか少しだけ大きな声を出してしまいました。でも仕方ないのです。今の私はすっかりいけない子。ペニスを想像して自慰に耽るイヤラシイ娘なのですから。
「只野さんの大きくて立派なペニスで私を女にしてください……っ♡」
あの夜聞いてしまった装者の方達の淫らな告白。マリアさんや翼さんさえも性欲の虜としてしまった只野さん。そのペニスはとても立派でした。
優しく、穏やかで、少年のように笑い、大人としての凛々しさも持つ、そんな男性。しかも複数の女性を受け止め、その関係を隠さず受け入れさせてしまっている器の大きさ。
「私も……私も抱いてくれるでしょうか? 女の喜びを教えてくれるでしょうか?」
何も私は立花さん達のようになろうとは思いません。ただ経験したいのです。男性を、セックスを、その快楽を。
「まさか私にこんな面があるなんて……」
自分でも知りませんでした。まさかこんなにイヤラシイ顔が眠っているなんて。
でも仕方ないじゃありませんか。初めて見た性行為が複数でのもので、それも誰もが幸せそうにしていたんですから。
あんな風になりたい、と、そう思ってしまっても仕方ないじゃないですか。
「……や、やっぱり普段何か抑圧しているものがあるんでしょうか?」
無意識の内に性欲を抑え込んでいたのかもしれません。それがあれを切っ掛けに噴き出した。いえ、目覚めてしまったと表現した方がいいかもしれませんね。
とにかく、今の私はあの光景を見る前の私とは別人と言ってもいいです。けれど、それも元々私が持っていた一面ならば受け入れていくだけですわ。
……きっと、きっとこういう風に立花さん達も現状を受け入れたんですね。それ程までに只野さんの事を慕い、想い、寄り添いたいと。
「立花さん達を装者から、シンフォギアから解放したい。それが只野さんの願いであり目標ですもの」
それが根底にあるから立花さん達は只野さんに惹かれていったのでは? 自分達を一般人へ戻したいと、戦いなんてものと無縁にしたいと、そう心から願い、目指す人だから所謂ハーレム状態を許容している気がします。
「だから私達の事だって……」
思い出すのは今日の事。思っていた以上の評価と期待に興奮しどうしようとなっていた私達へ只野さんが言ってくれた言葉。
――これからどうするかは三人で考えてくれていいよ。俺はそれを聞いて助言とかをさせてもらうから。主体は君達で、俺はそれを支える。やりたい事はまず口にしてくれていいからさ。実現出来るか否かは度外視で考えてごらん。
本当に、あの人は大人ですわ。私達が好きにしていいと改めて言葉にしてくれ、更に実現困難な事でも言って欲しいと言ってくれた。
私達はマリアさん達のように必要に迫られての行動ではありません。だから只野さんもそこを考えて色々と心を配ってくれているはず。
それがあのツインテクターと弓美さんが名付けた物だったり、あるいは今日の言葉だったりなんでしょう。
「……惚れて、しまったんでしょうか……?」
そっと胸へ手を当てて呟く。私達の周囲には異性が少ない。学院は皆無ですし、所謂ナンパというものもされた事がありません。
精々が自分達の家族や親戚ぐらいで、まったくの他人で異性と触れ合う事など本当にない。だから、という訳ではありませんが只野さんの事を意識してしまうのは自然な流れでした。
で、でも、やっぱり一番はあの行為を見てしまった事でしょうね。あの雄々しくて立派なペニスが今もはっきり思い出せますし。
「ぁ……」
そんな事を考えたからまたアソコから愛液が流れ出してしまいました。
もう本当に駄目みたいです。私は、思っていた以上に淫らな面を持っていたようですわ。
「……初めては痛いと聞きますし、経験豊富な方ならそれをどうにかする術もご存じのはずです。ならやはり……」
頭の中で浮かび上がる淫らな計画。それを実行に移すにはどうすればいいかを考え、私はまずお風呂場へ向かう事にした。
「創世さんから説得出来れば……」
おそらく弓美さんも創世さんもその性的欲求は強くなっているはず。なら、それをもう一押し出来れば……。
時刻は午前七時を過ぎた辺り。勤務を終えて帰宅し一息ついた頃だった。そこでゲートリンクが微かに振動したのである。
こんな時間に通信呼び出しの合図とは珍しいな。そんな事を思いながら俺はゲートリンクを口元へ寄せた。
「はい、こちら只野」
『あっ、只野さん。おはようございます。寺島です』
相手はまさかの相手。まぁ個人でゲートリンクを所持しているのは装者の奏とセレナを除けばスイパラの三人なので当然ではあるんだが。
「ああ、おはよう寺島さん。どうかしたの?」
『その、直近の只野さんのお休みを教えていただきたくて』
「休み? それはいいけど何で?」
『え、えっと、スイパラ関係と思ってください』
ふむ、今回の事で色々と彼女達の気持ちがノリに乗り始めたのかもしれないな。ならそれに水を差すのも悪いか。
「いいよ。一番近い休みは……」
この時は思わなかった。まさか寺島さんが、いやあの三人がとんでもない事を胸に秘めてやってくるなんて……。
もうかなり前のアンケートになりますが、三人娘の今後について皆さんに意見を窺った事がありました。
その結果を踏まえてここまでやってきましたので、こうなります。
……ただこの続きがアチラになるかはまだ未定。