シンフォギアの消えた世界で アナザー 作:現実の夢想者
「本当に身勝手で申し訳ない」
そうやって俺はマリア達へ頭を下げる行動を始めた。謝罪行脚とでも言えばいいのだろうか。弓美達と関係を持った事を説明し、誠心誠意を以ってみんなへ会いに行ったのだ。
最初は奏やセレナへ、次に翼や切歌と調で、その後はマリアと、ここまでは何とかなった。問題はクリスである。さすがに俺も留学先へ行く程の冒険は出来ない――と思ったのだが、それぐらいの気持ちなくして誠意など伝わらないと思い、事前に風鳴さんや緒川さんへ根回しをしてもらい何とか強行軍でクリスへも謝罪を行えた。
――……ったく、ホントーに呆れる程バカ真面目だな。
俺の謝罪を受けてのクリスの第一声がそれだった。つまりはお許しをいただけたという訳だ。
そう、みんな思っていたよりもあっさりと今回の事を受け入れてくれた。理由はそれぞれで多少異なっていたが、概ねこれに尽きる。
黙っていれば分からないかもしれないのに正直に話してくれたという、この一点だろう。した過ちを包み隠さず話した事で俺の芯は変わりないと思ってくれたのか、あるいは他の何かがあったのか。どちらにせよ俺が想像していたよりもみんなの反応は良いものだったのだ。
ああそれと、忘れていたが響と未来も俺と同じようにみんなへ謝罪して回ったらしい。そちらはどうも俺と違ってそれぞれで反応が異なったそうだ。場合によっては当然怒られたり、あるいはお仕置き(エロくない意味で)をされたとの事。
で、弓美達も響や未来と同行し謝罪というか俺との関係を許可してもらおうとしたらしい。そちらは俺が既に説明などを終えていたためかあっさりとしたものだったと聞いた。
――何というか、惚れちゃって交わったのなら仕方ないって……。
――思ってたよりも簡単に終わって拍子抜けって言うか何と言うか……。
そう言って弓美と創世が戸惑っていたのが印象的だ。ただ詩織だけは違っていて……
――翼さんと前以上に仲良くなれそうですわ。
と、何故か翼と親しくなれそうだと言ってきたのだ。
……俺の事を貴方様と呼ぶようになった事が無関係ではないだろう。おそらく古風なところがある翼と意気投合出来る部分があった、という事だろうなぁ。
ここでいずれ翼と詩織で3Pをと、そう思う俺はやっぱりダメな奴かもしれない。
「おい、どうかしたか?」
「うん? あぁ、ちょっと考え事」
隣から聞こえる声に意識を切り換える。そこには愛らしい金髪少女がこたつに入って座っていた。当然キャロルである。エルはと言えば現在ゲーム中で、コントローラーを手に画面へ集中している真っ最中。やってるゲームがアクションともあってか、声さえ出さずにいると言えばその度合いが分かるだろう。
ちなみにやっているのはご存じ赤い服の配管工のゲームである。時々キャラと一緒にエルの体が動くのが可愛い。
「考え事、か。また将来の事か?」
どこか呆れるようなキャロルに言葉で返すのではなく苦笑で返事とする。その一面を否定出来ないためだ。そんな俺を見てキャロルがあからさまなため息を吐く。仕方ないと言ったところだろうか。
「あぁ、そうだ。エル、今話出来そう?」
「ちょっと……難しい……かもしれま、せんっ! ……やったっ!」
見事エルの手によって配管工がゴール。嬉しそうに笑顔を見せるエルはとても愛らしいです。
「おめでとうエル」
「はいっ! やっとクリア出来ましたっ!」
「見てると簡単そうだが、実際には意外と難しいようだな……」
「そうなんだよ。でも、切歌お姉ちゃんはこういうのを簡単にクリア出来るから人によるかも……」
ゲームに関しては鼻が高くなるのが切歌である。普段は色々教えてもらう事も多いエルへ自慢出来る少ない部分だから余計かもしれないけど。
我が家にゲーム機がやってきてからというもの、切歌は水を得た魚のようにエルやヴェイグへ自分のプレイを見せて称賛を浴びている。それに得意げとなる切歌をジト目で見つめる調というのが割とよくある光景だったりするしなぁ。
「まぁ人には向き不向きがあるからな。で、エルちょっといいか?」
「あ、はい」
「実はさ、前に話したガメラの映画を購入したんだけど」
その瞬間エルだけでなくキャロルまでも表情を変えた。
「「ガメラっ!?」」
「へ? う、うん。ほら、平屋時代に話しただろ? 平成三部作の事」
二人の反応に内心首を傾げながらも話を続ける。だがギャオスやレギオン、イリスの名を出すとその表情が更に驚きへ染まっていく事で俺はある事を察した。
「もしかして、平成ガメラの世界へ誰か行った?」
それに対する返事は揃っての頷き。まさかの反応に俺もどう返していいやら迷ったが、これだけは聞いておかねばならないと思って口を開いた。
「それ、誰が行ったんだ?」
「クリスさんに未来さんと翼さん、それと姉さんです」
「ただ、どうやらそこはかなり荒廃した世界だったそうだ」
「荒廃した、か……」
ガメラ3の後と考えれば納得出来る。イリスとの激闘直後に迎える大勢のギャオスとの戦闘。それに傷付いたガメラがどう対処したかは分からないが少なくても無事に終わったと思えないからだ。
じゃあ、そこは本当にあのイリス覚醒の後の世界か。ならきっとそこの人類はかなり追い詰められてるはずだ。そう思ってエルの話を聞いていると予想通りの内容が。
ただまさかの怪獣ギア再びに驚いたけど。ゴジラとガメラ、か。日本を代表する怪獣映画だし、こうなるとウルトラ怪獣ギアが出て来てもおかしくないなぁ。
とまぁ、そんな事を思いながら話を聞き終えた俺は、早速とばかりにこたつから出て二階へと向かう。そして寝室にある押入れから年季の入ったDVDボックスを取り出した。
あの頃はまだ隙間だらけだったそれも、少しではあるが賑わいを増しているのが何となく俺の人生みたいで感慨深くなる。
「これを、いつかいっぱいにしたいな」
みんなで相談したり、あるいは今回みたいに俺が見せたい物を購入したりして。そして、可能なら子供達のための物なんかも……。
兄様が持ってきたDVD三枚を見て僕とキャロルは感嘆するしかなかった。ガメラに関してはクリスさん達から聞いていたけど、実物を見せてもらって巨大なカメの怪獣というのがしっかり理解出来たからだ。
「信じられんな。これが本当に人類の味方なのか」
「そうだよ。正確には地球の守護神なんだけど、ガメラはそれだけに囚われず人類を守るかのような行動を見せるんだ」
「兄様、これはいつ見るんですか? 出来れば姉さん達にも見せたいんですけど」
そう、もし可能なら姉さん達と一緒に観たい。何なら平行世界の資料として司令達にも見てもらいたいぐらいだ。司令は兄様の世界にある特撮映画へ強い興味があるから、この事を知ったら僕の提案を了承してくれそうだし。
「いつでもいいぞ。ここで見るのが難しいなら貸し出すし」
「本当ですか?」
それなら司令達も見れる。でも兄様の解説が聞けない……。
「おい、俺達はお前の説明も必要なんだ。そこはどうするつもりだ」
「俺の説明、いや解説かぁ。正直ガメラ自体に関してはあまり詳しくはないんだよ。何せ平成三部作しかまともに見てないからなぁ……」
「あっ、そういえば昭和のガメラは子供の味方って兄様言ってましたね」
兄様がヒーローの事を話す時、よく昭和と平成という表現を使う。それぐらい年号が異なる事で描き方や設定などが変化しているからだそう。実際僕もそう感じた。ライダーの設定が改造人間という一種のサイボーグから様々な力で変身する方法へと変化していった事で。
ゴジラも一時期人類の味方に近しい描かれ方をした事があるみたいだし、それだけ時代背景というものは影響力が大きいのだろう。
「おー、よく覚えてたなエル。そうそう。だからガメラは基本人類というよりは子供の味方なんだ」
「子供の味方とはな。中々変わった怪物だ」
「まぁゴジラに対抗する形で生まれた存在とも言えるからなぁ。明確に人類と敵対するようなゴジラとの差別化を図ったのかもしれないな」
「あの、それで兄様どうでしょう? こちらで、例えば本部で見る事になっても一緒に観てくれますか?」
「本部で? 俺はいいけどさすがに怪獣映画を発令所で上映は問題じゃない?」
「分からんぞ。平行世界の資料と言えばあの男の事だ。実益を兼ねて許可する可能性がある」
キャロルの意見に兄様が驚く事もなく苦笑を浮かべた。そっか。兄様は司令の事を知ってるから。
「兄様、どうせならウルトラマンも持って行ったらどうでしょうか? 司令だけでも観てもらった方がいいかもしれません」
「あぁそっか。ある意味でウルトラマンの世界にも行ったんだもんな。うん、よし。じゃ、あの二つを渡すよ」
どこか嬉しそうな兄様に僕も笑みが浮かぶ。アヌンナキが地球外生命体である事は兄様が教えてくれた。なら、同じ存在であるウルトラマンの事を知っておくのは良いと思うから。
エンキのような善性が強いアヌンナキもいれば、かつてのシェム・ハのような悪性の強いアヌンナキもいる。僕らはどうしてもアヌンナキには良くない印象があるから、ウルトラマンのように人類と共に歩んでくれる存在もいるかもしれないという希望を持ち続けたいんだ。司令達もそれを共有出来るといいな。
そうしてその日はとりあえずウルトラマンの映画二つを持って本部へ帰った。ガメラに関してはクリスさん達も見たいだろうと判断したからだ。
本部へ戻った僕らが司令へDVDを渡して平行世界の映像資料ですと伝えたら、ある意味で想像通りの展開が起きた。
「そうか。つまり以前マリア君達が訪れた世界にいた巨人というのがこの存在なんだな」
どこか興味津々な眼差しで司令は手にしたDVDを眺めている。きっとこれを少年のような眼差しって言うんだろうな。
「はい。ですが、兄様が言うにはそこもウルトラマンがいる世界の平行世界みたいなものだそうです」
「……そうなると平行世界の平行世界が存在するという事になるかもしれない、か。やはり我々だけでは理解出来ない情報を上位世界は知れるのだな。これもそういう意味では重要な資料と言う訳だ」
「司令、お言葉ですが表情と声に見てみたいという内心が滲み出てますよ?」
「……これぐらいは見逃してくれ。最近中々そういう時間が取れなくて、な」
あおいさんの指摘に僕は笑った。司令がしまったって感じの顔をしたのもあるけど、まるであおいさんが兄様へ注意する姉様みたいに思えたからだ。
「だが実際にあの世界での創作物は平行世界として存在している可能性が極めて高い。俺もそういう意味では見ておくべきだと思うぞ」
そう言うキャロルもきっとちゃんとウルトラマンを見てみたいんだろうなぁ。僕と記憶を共有してる部分があるけど、出来れば自分の目でしっかり全部記憶したいんだろうし。
あるいは兄様と話す話題にしたいのかも。キャロルは気付かれてないと思ってるみたいだけど、兄様の事を慕ってるのはお姉ちゃん達も知ってるから。
ただ兄様のキャロルを見る目がどこか前と違ってる気がするんだ。キャロルが兄様を見る目も違う気がするし、何かあったのかな? 僕に対しては態度も対応も兄様はずっと同じだけど、姉様達へのそれは異なっていったようにキャロルへの変化も何か理由があるんだろうか?
……もしかして、キャロルは兄様から子供扱いされたくないって思ってるのが関係してる?
「あのっ、なら冒頭だけでも観てください。そちらのメビウス&ウルトラ兄弟ならウルトラマンという存在が基本どういうものかよく分かるはずです」
兄様が僕らに最初見せてくれたのはそういう意味もあったはずだ。実際あの冒頭の戦闘とそこでのやり取りで僕はウルトラマンがどういう存在が分かったから。
あおいさんや朔也さんも冒頭程度ならと言ってくれ、どこか嬉しそうな司令に苦笑しつつDVDが再生された。
「これは……」
「い、いきなり宇宙か……」
「それも月面、ね」
「これが光の巨人、ウルトラマン……」
Uキラーザウルスとの戦いはやっぱり迫力が凄い。司令だけじゃなくあおいさんと朔也さんも目を見張っている。キャロルもどこか興味深そうな表情でモニターを見上げてた。
兄様がいれば解説をしただろう部分を僕がする。ウルトラ兄弟の次男扱いだけどまとめ役でもあるウルトラマン、その補佐でもあり時にはリーダーもするセブン、ウルトラマンに似ているが技に長けたジャック、そして光線技に優れ仲間思い故に情熱的な一面を持つエース。
そんな彼らが戦う相手のヤプールは、邪悪という表現がピッタリの異次元からの侵略者。しかもその本質は闇であり故に不滅である事も。
「エルフナイン君、彼らはどれぐらい戦士として戦っているんだ?」
「えっと、僕も詳しくは知りませんが、兄様から聞いた話では百年単位じゃ足りないぐらい宇宙の平和のために戦ってるはずだと」
「つまり最低でも千年単位?」
「いや、下手するとそれ以上なんじゃないか? 何せ宇宙の平和だぞ?」
「そういえばウルトラマンの年齢は二万歳を超えると言っていた気がするな」
「あ、うん。そうだ。彼らは元々地球人と同じような姿だったそうです。それがとある事情で現在のような姿へ変化してしまってウルトラマンとなったんです」
そう告げると司令達が一斉に驚く。兄様が以前資料として提供してくれた漫画は全てじゃなくて一部だった。だから司令達は知らないんだ。ウルトラマン達が元々は地球人類に近しい事を。
既に場面はウルトラ兄弟がファイナルクロスシールドを使うところとなっていた。そこでの会話で司令達の息を呑む音が聞こえた。僕らもそうだった。地球のために、そしてそこに暮らす人類のために自分達の命を賭けてきた。しかも今回は二度と変身出来なくなるかもしれないと分かってもだ。
そこに込められた人類への強い信頼にきっと司令達は心打たれたんだと思う。あの時の僕らと同じように。
「……ここで止めてくれていいです」
メビウスの、ヒビノ・ミライさんのモノローグが聞こえてきたところでそう言った。モニターから映像が消えると司令達が息を吐くのが分かった。
「あの資料として提供された漫画で軽く知った気になっていたが、まさかそんな裏事情があったとはな」
「彼らはあのウルトラマンとしての力を平和のために使う事を決意し、宇宙警備隊という組織を結成しているんです」
「宇宙警備隊、かぁ。何と言うか規模が壮大だけど、防衛じゃなく警備ってとこがいいな」
「そうね。あくまで目的は宇宙の平和維持。だから有事が起きてから動くのではなく有事が起きないように見回るんでしょう。それも、きっと命懸けで」
「だろうな。しかし、あれ程の強大な力を平和のためにとは……装者達が気に入るのも分かる。それに、あの考え方と言葉には地球人として胸にくるものがあったしな」
そう、あの場面での会話こそ僕らがウルトラマンへ強い興味を抱いた瞬間だった。自分達がいなくなっても地球人は自らの手で平和を守ろうとしてくれるという信頼。それ故に自分達のエネルギーを大きく使用し、下手をすれば命に関わる行動を決断出来る覚悟。
どうしてそこまで地球人を信じ守ってくれるのか。それらの答えがあの後に詰まってる。それをメビウスと一緒になって映画の視聴者は理解していくんだ。
「エル、もう一本はどういうものだ?」
「え?」
隣から聞こえた声に振り向けばキャロルがこっちを見つめてた。その眼差しは早く言えって言ってるみたいでキャロルらしいと感じた。
「えっと、そっちはウルトラマンが作品として存在する世界へ本当に怪獣やウルトラマンがやってくる話だけど……」
「だそうだ。司令、つまり悪意が行ったような事がそちらでは見れるようだ。参考資料と言うならそちらの方がよりそうかもしれん」
「ふっ、そうだな。ならそちらはしっかり確認しなければならんか」
何かを察したような司令に僕は小首を傾げるしかない。キャロルはキャロルでどこか満足そうに息を吐いてる。あおいさんと朔也さんはそんな二人を見て苦笑してるし、ますます分からないや。
でもどこかその場で流れる空気感があの頃の家みたいで自然と笑みが浮かぶ。と、そこで気付いた。
「そっか……ここも僕の家だからだ……」
司令達を家族とは言い辛いけど、シャトーを出た後の僕が身を落ち着けたのが本部だ。ならここがこちらでの僕の家なんだ。でも、出来ればいつかはここを出ていきたい。何も本部が嫌になったとかじゃなく、ちゃんとした僕の家を手に入れたいから。
それか兄様と一緒に暮らせたらいいかな。出来れば姉様達も一緒がいい。あの頃のような日々にキャロルもいてくれたら、きっともっと楽しくてあったかいはずだから。
「おい、何を呆けてる。説明や解説はお前の仕事だろう」
「ぇ……? あっ! うんっ!」
ジト目のキャロルへ慌てて返事をして僕は意識を切り換える。既にモニターには“大決戦!超ウルトラ8兄弟”が流れ始めていた。
それを見ながら僕はこれを初めて見た日の事を思い出していた。そう、あの穏やかで幸せだった時間を……。
「マルチバースか」
「うん、兄様が言うにはウルトラマンの世界には多次元宇宙ってものが存在してて、その中の一つがティガやダイナの世界みたいなんだ。セブンの息子であるウルトラマンゼロは、ベリアルとの戦いを通じてその多次元宇宙を知るみたいで……」
就寝前のちょっとした会話。そんな感覚で始めた話は意外な盛り上がりを見せ始めていた。普段もエルは感情をコロコロと動かすが、こと話題が小父さん絡みとなると余計それに拍車がかかるからだ。
今もウルトラマン関連の情報を俺へ力説している。ティガとダイナは今回見た映画に出ていたから分かるが、ウルトラマンゼロは名前さえも知らん。セブンの息子と言う事はやはり正義感の強い奴なんだろうが……。それとベリアルというのも知らん。本当にこういう時のエルは情報量の多さを考えずに話してくるな。
「でね、多分Xの世界はメビウスと同じで……」
しかも既に話が当初のものから離れだしている。こういう辺りも小父さんに似てるな。まぁいい。楽しげに話しているし止めるのも野暮だ。このまま聞いてやろう。
そうしていると段々エルの瞼が下がってくる。眠いんだろうな。それでも話を止めたくないらしく、今も目を擦りながら俺へウルトラマンの事を話している。
「そこまでだ」
「ふぇ?」
まったく、見てられん。こいつの気持ちは分かるし嬉しくない訳ではないがここは大人しく寝かせるとするか。
「時間も時間だ。俺はそろそろ眠る。お前もさっさと寝ろ」
「あっ……」
言うだけ言って敷かれた布団へと向かう。この部屋には元々ベッドがあったのだが、あの世界での暮らしで布団好きになったエルがベッドではなく布団で寝たいと所望し現在の形となった。
まぁ俺も布団で寝るのは嫌いではないから許容している。小父さんのところで泊まる時と同じだし、な。
小父さん、か……。そう呼ぶようにしたけど、やっぱりどこか私はあの人を変に意識してる気がする。
あのお風呂場での態度に子供扱いされてると感じてやってしまった失態。自分を女として見ろと言ったも同然の、言葉。その根底にはあの夜の一件が大きく影響してるのは間違いない。
あの人の、男としての象徴。それが雄々しく屹立していた事。あれのおかげで私の中で何かが狂い出した。それまではエルのようにパパに近しい存在と思っていたのに、あれで一気に“養父”から“異性”へと変化したから。
「ふぁぁ……おやすみキャロル……」
そうこう考えていると後ろからエルの眠そうな声が聞こえた。無視しようかとも思ったけど、それで眠気が薄れたら面倒か。
「ああ」
聞こえているぞと言うように声を返して目を閉じる。程なくして後ろからエルの寝息が聞こえ始めた。何と言うか、本当に姉になったような気分になる。
……もし、もしも本当にあの頃の私に妹がいれば、パパは火あぶりなどにならなかっただろうか? あるいは、私は俺にならずに妹と共に慎ましく生きていっただろうか?
考えても仕方ない事と分かっていながら、どうしてもこの手の事を考えてしまうのは、それだけ今の私にとって現状があったかいからだろう。
ここの者達は優しく頼りになり、小父さん達は誰もが明るく包み込むように接してくれる。エルフナインさえ、エルという愛称となって可愛らしく見かけ相応な雰囲気だから。
静かな室内に微かなエルの寝息が聞こえる中、私はそっと目を開けた。今の私を揺さぶる事の一つが心を騒がせたからだ。本当に幸せだ、と、そう強く感じてしまうその度に私はこう呟いてしまう。
「……パパ、私、パパのお願い叶えられてるかな?」
世界を識るんだ。それがパパからの命題、ううん願いだ。私に憎しみや恨みなんていう醜く暗い感情を抱くんじゃなく、喜びや幸せといった明るい感情と出会い続けて欲しいという、願い。
響達との衝突と、依り代の光が俺に思い出させてくれた、気付かせてくれた、とても大切な事だ。優しいパパが私に復讐なんて望むはずがないと、どこかで分かっていた俺へ、強くはっきりとそれを教えてくれたあの出来事たち。そのあったかさが、今の私を包んでくれているから。
――復讐が間違ってるなんて言わないよ。でもね、それをして本当にキャロルの悲しみや苦しみは消えるのかい? 笑顔に、幸せになれるのかな?
自然と浮かぶパパの声。その問いかけに今の私は首を横に振る事しか出来ない。そう、そうなんだ。パパの復讐を果たしたとしても、私が笑顔になれるはずがなかったんだ。
エルの姿こそ、パパが願っていた私の姿だと思う。何にでも興味を示し、知識を得る事に素直で、人の心の光を信じて笑顔になれる、そんな生き方が。
「……人は誰でも光になれる、か……」
ふと思い出した言葉を呟く。エルが私達へ教えた言葉だ。
――兄様は言ってました。諦めなければ、希望を持ち続ければ、人は誰でも光になれる。凄い力がなくても、特別な技能がなくても、心を強く持ち続ければ、誰もがヒーローになれるんだと。
悪意との戦いを乗り切った一般人だからこその言葉だと思う。依り代を所持していただけの、ただの人。それ故に実感したんだ。闇と事を構える上で何よりも大切なのは、力でも何でもなく、心の光を絶やさぬ事だと。
俺も、なれるだろうか? 一度闇に身を落とした俺でも、光になれるんだろうか? なっていいんだろうか?
「こんな事聞いたら、小父さんならきっと頷くだろうな」
思わず笑みが浮かぶ。力強く頷いて、あの笑顔でこう言うはずだ。
――勿論っ! ヒーローの中には闇から生まれた存在もいるんだからさっ!
……何で思い出すだけで笑みが浮かぶんだろうな、私。これじゃ本当に小父さんに恋してるみたいじゃない。
「バカバカしいっ……」
自分へ呆れるようにそう呟いて私は目を閉じる。けれど、どこか私の顔は熱を持ったかのように熱かった気がした……。
現在、只野のエル・キャロルに対する認識は、エル=娘的存在で、キャロル=見かけ少女の成人女性となっています。
それに対して、エルはともかくキャロルの方はどうなっているんでしょうかね?(苦笑