シンフォギアの消えた世界で アナザー   作:現実の夢想者

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ストッパーがある意味いない状態での夜。

……まぁお察しと言う事で(汗


ヴェイグはきいていた

「……うめぇ」

 

 噛み締めるように、しみじみと呟く。

 久しぶりのマリアの手料理は五臓六腑に沁み渡る程美味かった。

 

「大袈裟よ。でも、そう言ってもらえると作った甲斐があるわ」

 

 俺の向かいで微笑む女性は、とても綺麗な笑顔をしている。

 その隣にはこれまた可愛らしい笑顔を浮かべる少女がいた。

 

「うん、私も頑張ったんだからね、お兄ちゃん」

 

 そう、今夜の俺の食事はマリアとセレナの合作、でいいんだろうか?

 メインの唐揚げはマリアが、サブにはセレナが作った野菜たっぷりの味噌汁があるのだ。

 大根、人参、ほうれん草、そして豆腐。見た目も彩りよく出来ていて、ナスターシャさんへ作っていると言う言葉がよく分かる。

 

「ああ、味噌汁も美味しいよ。セレナは良いお嫁さんになれるぞ、日本人相手なら」

「ホント?」

「ホントホント」

 

 可愛く小首を傾げるセレナへ自信をつけるように肯定する。

 味噌汁作るのが得意な外国人女性って、結構日本人男性のツボな気がするんだけどなぁ。

 

「ならタダノがセレナをよめにもらってやれ」

 

 唐揚げを刺したフォーク片手にヴェイグが俺を見上げてそう言った。

 名前を出されたセレナは赤い顔でこっちを見てくる。どうなの?って感じで。

 

「うーん、そうしたいのはやまやまだけど、セレナにこの世界で暮らしてもらうのは難しいからなぁ」

「えっと、こうやって時々来るお嫁さんじゃダメ?」

 

 まさかの通い妻発言である。嬉しくはあるけど、それも色々と面倒な気がするんだが……どうなんだろうか?

 

「マリア、君の目から見てセレナのアイディアはどう?」

「そうね……」

 

 味噌汁の入ったお椀をテーブルへ置いて、マリアはセレナを見つめた。

 心なしかセレナが緊張してるような気がする。

 

「……まずマムが許可するかどうかね。まぁゲートリンクが出来た今なら許可を出してくれそうではあるけど」

「そ、そうかな?」

「ええ。でも、いつ呼び出しが入るか分からない以上、出来ても短時間滞在かしら。食事を作ってあげて、一緒に食べたら帰る。それが無難だわ。ね、仁志?」

「うん、それなら俺も可能な気がする」

 

 ただ、それって現状装者のみんなに言える事なんじゃないとは言わないでおいた。

 きっとマリアもそれは分かってると思ったし。

 じゃなかったら、こっちへ意味ありげな笑みを向けないよ。

 あれ、私も同じ事出来るんだからって顔だ。

 

「そっか。じゃあ、帰ったらマムに相談してみる」

「まぁもしダメなら大人しく諦めるんだぞセレナ。その場合は、ナスターシャさんがセレナの事を心配してるって事だから」

「うん、分かってる。マムもお兄ちゃんも大事な人だから、心配させたくないもん」

 

 にっこり笑顔で言い切ってくれるセレナに俺は成長を感じた。

 初めて出会った頃よりも笑顔が力強いし声にも自信や安定感が滲んでる。

 焦りのようなものがなくなって、しっかりとした芯のようなものが出来たと感じられる笑顔だ。

 

「そういえば、相変わらずヴェイグは向こうじゃセレナの前でしか姿を見せないのか?」

「……時々マムとも話す」

「「えっ!?」」

「そうなんです。ヴェイグさん、マムだけは構わないって言ってくれて」

「今のマムは優しい匂いを時々させる。そういう時のマムなら、俺も話をする事は嫌じゃない」

 

 そう言ってヴェイグは唐揚げを一口齧る。

 で、その瞬間とびきりの笑顔を見せるのが愛らしい。

 マリアもセレナもヴェイグの笑顔に笑みを浮かべている。

 本当に幸せそうに食べるよな、ヴェイグ。

 

「ヴェイグ、美味いか?」

「ああ、やっぱりマリアのからあげが一番美味い。向こうのも不味くないんだが、これには勝てない」

「ふふっ、嬉しい事言ってくれるわね。ヴェイグ、遠慮しないで食べていいわよ。仁志もね」

「「ああ」」

 

 気分は完全に子供に料理を褒められた母親なマリアである。

 そんな風に本当に家族のような夕食は終わり、俺は洗い物をしていた。

 美味い飯を作ってくれた二人を労うためである。そんな俺の事をヴェイグが足元で若干難しい顔をして見上げていた。

 

「何かあったか?」

 

 向こうから話を切り出すのかと思って待っていたが、何も話しかけてこないのでこっちから水を向けると、ヴェイグは難しい顔のまま小首を捻った。

 

「いや、タダノの匂いが分かりそうなんだ。正確には、タダノからも匂いが出てる気がする……」

「それは……ちょっと怖いな」

 

 正直俺は嫌な匂いがしていてもおかしくないと思ってる。

 実際、エル達と再会した当日に四人の少女と淫行スレスレな事をやったし、今日だってイヴ姉妹相手にあまり褒められた事ではない行為をしたと思うからなぁ。

 

「そうか? 俺はタダノは優しい匂いだと思うぞ」

「ならいいんだけど……」

 

 最後のお椀を洗い終えて、俺はそれを洗いカゴへと立てかけるように置く。

 これで洗い物は終了だ。次は風呂掃除でもしますかね。

 

「ヴェイグ、俺は風呂掃除するから」

「そうか。なら俺も手伝おう」

「え? ヴェイグが?」

「ああ。あの家の頃、たまにやっていたぞ。風呂の上の方をエルがやって、下を俺がスポンジでゴシゴシするんだ」

「へぇ」

 

 想像すると何とも和む光景ではないか。

 あの平屋のマスコット二人が額に汗しながら湯船を磨いているのだから。

 

 ともあれ、せっかくヴェイグが手伝ってくれると言うのだ。ならそれに甘えない訳にもいくまい。

 なので二人で風呂場へと向かう。風呂掃除用のスポンジは一つしかないので、それをヴェイグへ手渡して、まずは下の方を磨いてもらう事に。

 

「じゃ、頼む」

「分かった。任せろ」

 

 フンスと聞こえそうな感じで頷くヴェイグに笑みを浮かべつつ、俺は空の湯船の中へと彼を送り込む。

 

「あの家のよりも若干深いな」

「ああ、うん。そうだな」

 

 ゴシゴシと湯船を磨き始めるヴェイグ。もうそれだけでラブリーな光景だろう。

 許されるのなら写真に収め、どこかにアップしたいぐらいだ。

 きっと大人気間違いない。そんじょそこらの癒し画像など蹴散らせるはずだ。

 

「ごしごしっ!」

 

 ……こんな掛け声まで出してるんだもんなぁ。動画で配信したら再生数爆稼ぎしそう。

 

「あら、お風呂掃除?」

「何か手伝う事ある?」

 

 と、そこへ顔を出すのはマリアとセレナ。

 

「いや、特にないよ。ヴェイグが手伝ってくれてるし」

 

 その視線が俺から湯船の中へと動き、同時に止まって姉妹の表情を緩ませる。

 

「ごしごしっ!」

 

 丁度こちらへ背中を向けて掃除中のヴェイグ。

 それが姉妹の心を撃ち抜いたようだ。

 

「「可愛い……」」

 

 漫画とかならホワワ~とかの効果音が書かれている事だろう表情だ。

 そのまま二人はヴェイグが湯船の中を一周するまでそこにいた。

 で、俺と交代した後はいなくなったので、やはり俺に癒し効果や愛らしさはないようだ。

 

 まぁ、分かっていたし、もしあったとしたらそれはそれで怖いけど。

 

「そうだ……っと。ヴェイグ、今日一緒に風呂入ろうか」

「うっ……風呂、か」

「嫌か?」

 

 ヴェイグ曰く風呂自体は嫌いじゃないそうだが、濡れた体を乾かすのが好きじゃないらしい。

 まぁよくドライヤーでやられてるのでその温風が苦手なんだと思う。

 ヴェイグは生ぬるい風というのが新鮮だったらしいし。

 

「風呂はいいんだが……」

「その後がって事だよな。うし、じゃあ今夜はタオルで拭いた後にドライヤーはしないよ」

「ホントか?」

「ああ。どうせ暖房が入ってるし」

「だんぼう?」

 

 そこからは風呂掃除をしながらヴェイグへ暖房について教える。

 どうもヴェイグは四季の移り変わりという概念がないらしく、そこでようやくこっちが寒い状態だと知ったらしい。

 試しにと体を持ち上げて、ヴェイグに風呂場の窓を開けてもらうとその寒風で体の毛を逆立てた。

 

「な?」

「ああ、よく分かった。これがふゆか」

「正確に言うなら晩秋、秋の終わりだけどな」

 

 窓を閉めて風呂の蓋を戻せば風呂掃除終了である。

 ヴェイグと共にリビングへ戻れば、マリアとセレナがお出迎え。

 

「「お疲れ様」」

 

 うん、ヤバいなこれ。一気に旦那さんな気分だ。

 

「そうでもないよ。それで、風呂はいつ頃がいい?」

「そうね……セレナ、どうする?」

「あの頃と同じぐらいでいいよ」

「「じゃ、九時か(ね)」」

 

 俺とマリアの声がハモる。

 それにセレナが笑い、ヴェイグが笑みを見せ、俺とマリアは苦笑した。

 

 そこからは四人でみんなが揃った時の事を話題にした。

 既にエル達へ考えておいてくれと言ってあると告げると、セレナは近い内にエル達と会わないとって笑顔を見せた。

 ただマリアはどこか影のある顔をしていたので、きっと難しいと思ってるんだろう。

 

 だから俺はそんな事はないよと言うように明るい言葉を言い続けた。

 きっとまたみんなで旅行に行ける。願い続けていれば必ず叶うと。

 

「今度は泊まりで温泉とか行きたいなぁ」

「温泉?」

「そう。雪が降る中で入る露天風呂とか風情が合っていいと思うんだよ」

 

 酒は得意じゃないけど、そんな中で熱燗を飲むってのもオツだろう。

 

「あら、いいじゃない。それにしても、こっちはもうすぐ一年が終わるのね」

「うん、驚き。まだこっちは春なのに」

「俺はこっちで初めて人間の世界を知ったからよく分からなかったが、こんなにも違うものなんだな」

「俺が小さい頃はもっとはっきり四季が分かったんだけどな」

 

 と、そこでふと思いついた。こたつ、買おうって。

 それと石油ストーブも買ってもいいかもしれない。

 きっとエルやセレナは昭和な雰囲気ある方が珍しくて喜んでくれそうだし。

 

「ヴェイグ、セレナ、こたつって分かる?」

「「こたつ?」」

 

 やはり知らないらしい。

 

「マリアは?」

「さすがに分かるわよ。使った事はないけどね」

「そっか。じゃあ今度来た時にはここにこたつがあると思ってくれよ」

「お兄ちゃん、こたつって何?」

 

 セレナから当然の質問がきたので説明開始。

 一度入ると出たくなくなると言うと、セレナとヴェイグが興味を強くしてくれた。

 マリアはそんな二人に微笑みを浮かべ、そんな彼女と一緒にセレナやヴェイグと接していると本気で親になったような錯覚を覚える。

 

 で、気付けば八時半を過ぎていたので風呂の準備をするべく立ち上がった。

 

「どうしたの? トイレ?」

「風呂の準備。今からなら九時には入れるはずだから」

「そういう事。じゃあお願いするわ」

 

 小さく微笑むマリアに見送られ、俺は風呂場へと向かう。

 リビングを抜けてキッチンへ来ると若干寒さがきて、風呂場に入ると割と寒い。

 いっそ風呂の蓋、少し開けておくか? そうすれば湯気で多少はあったかくなるかもしれないし。

 

 そうして風呂の支度を終えて若干寒いキッチンを経由してリビングへ戻る。

 

「「「おかえり(なさい)」」」

「ただいま」

 

 たったそれだけのやり取りなのに、心があったかくなるのを感じて笑みが浮かぶ。

 そこから風呂が入れるようになるまで、行きたい場所ややりたい事を話題に話した。

 ほとんど俺が話すばかりだったけど、それをセレナもヴェイグも喜んでくれたので良しとする。

 

 マリアだけは若干苦笑してたけど。

 

「じゃ、お風呂入ってくるね」

「マリアも一緒に入ってきなよ。俺はヴェイグと入るしさ」

「そうね。じゃ、一緒に入りましょうか」

「姉さんと一緒?」

「ええ。どう?」

「嬉しい! じゃあ、私が背中洗うね!」

「お願いするわ」

 

 仲良く姉妹が動き出すのを見て、俺は嬉しく思った

 あの姉妹が、いつの日か一緒に暮らせるようになればいいのにと、そんな事を思いながら俺が顔をヴェイグへと戻すと、ヴェイグはマリアとセレナを見つめて笑顔を浮かべていた。

 

「ヴェイグ、どうした?」

「ん? ああ、今の二人からはとても優しい匂いがしてるんだ」

「……そっか」

 

 本来であれば揃って成人してるはずの姉妹。だけど、ある意味で今のような関係になったからこその何かもあるはずだ。

 

「おっ! 今、少しだけタダノから優しい匂いがしたぞ」

「えっ!? マジ!?」

「まじだ。もう消えたけど、たしかに微かにしたぞ。やっぱりタダノは優しい奴だ」

 

 満面の笑みでこっちを見つめてくれるヴェイグに照れくさいものを感じるけど、そこまで俺が良い奴だと信じてくれるヴェイグに嬉しさも覚える。

 なので、出来るだけヴェイグに幻滅されない人であろうと心に誓う。

 

 ……だけど、どうして俺の匂いが分かるようになったんだ? それだけこの世界から悪意の影響が消えたって事かね?

 

 

 

「……あったかいな」

 

 暗い部屋で小さく呟く。

 今、俺はタダノの住家の二階にある寝室でセレナと一緒に布団で寝ている。

 クッションでいいと言ったんだが、タダノがきっと寒いから布団にした方がいいと言ってセレナと一緒に寝る事となったからだ。

 

 ただ、やはりちょっと慣れない感覚だ。

 ベッドとは違うのは知っていたが、寒くなってくるとこんなにも布団の中はあったかくて心地いいと思うんだな。

 

「ねぇ仁志、起きてる?」

 

 そんな時、マリアの声が聞こえてきた。

 

「どうかした?」

 

 タダノの声も聞こえる。俺は二人の会話へ耳を傾けた。

 普段なら俺も会話へ参加しただろうが、これはあれだ。あの家でたまにあった二人きりにしてやった方がいい状況だと思って。

 

 マリアから不思議な匂いがする時はそういう事だからな。

 

「セレナ達、寝たわ」

「……みたいだな」

 

 俺は二人からはセレナが邪魔で見えないんだろう。

 だけど、たしかにセレナはスヤスヤと寝てる。てんしの寝顔、だったか。そういう感じの幸せそうな顔で。

 

「そっち、いってもいい?」

「マリア、それはさすがに……」

「いいじゃない。ねぇ、一緒に寝るだけだから」

 

 凄いな。今のマリアからは不思議な匂いが凄くするぞ。こんなの初めてだ。

 

「……寝る、だけ?」

「ええ、寝るだけ」

「セレナが起きるような事はしないか?」

「貴方次第よ」

「…………おいで」

「っ……ありがとう」

 

 ゴソゴソとマリアが布団から出てタダノの寝てる布団へと入っていくのが見えた。

 少ししか見えなかったが、マリアが初めて見るような顔をしていたな。

 嬉しそうな、恥ずかしそうな、妙な顔だ。

 

「ちょっと、あんな事言いながらこんなに硬いじゃない。期待、してるの?」

「あのな? むしろこのシチュエーションで男がこうならないと、そっちは女としてどうだよ?」

「……きっと自信を無くすわ」

「じゃ、いいだろ」

「ふふっ、本当ね」

 

 そこからしばらく二人の声は聞こえなくなった。

 いや、時々聞こえていたが、あまり意味のある言葉には思えなかった。

 “おっぱい”とは何だ? マリアのそれは大きいと言っていたから、多分胸の事だとは思うが……?

 そこをタダノが触っているらしい。マリアはそれにくすぐったいような声を時々出していた。

 

「あっ……」

 

 と、突然タダノの姿が消えてマリアだけになった。

 

「んっ……あんっ……そ、そんなに強くしちゃ……声、抑えられないわっ」

 

 どうやらタダノは布団の中に潜ったらしい。切歌やセレナみたいな事をするんだな。

 ただ、こうして顔を出してると寒いからそうしたのかもしれない。

 それとも俺が知らないだけで、別の目的もあるのだろうか?

 

「き、気持ちいいわよ? でも、あっ、ダメ……そこを……んんっ!」

 

 マリアが目をキツク閉じて軽く震えたのが見えた。

 だが、何故口を手で押さえたんだ? もしかして、俺とセレナを起こさないように声を抑えるため?

 

「……マリア、大丈夫か?」

 

 マリアがクタッとなったのと同時にタダノが顔を出した。

 俺からは顔が見えないが、声が若干申し訳なさそうに聞こえた。

 

「え、ええ……。けど、本当に今ので火が点いたみたい」

「……マリア」

「んっ……じゅるっ……っぱ、仁志……んぅ」

 

 火が点く? どういう意味だ? 俺には理解出来ないやり取りだ。

 そこからしばらくタダノとマリアは“きす”を続けた。

 俺から見えるのはマリアの表情だけだが、どんどんその顔が緩んでいくのが分かった。

 瞳は潤んで、タダノの事だけを見つめているような眼差しになっていったのもだ。

 

「んっ……ひ、仁志……そこは、ダメよ」

「でも、マリアのここはそう言ってないみたいだぞ?」

「あぁ……だ、ダメぇ……。優しく刺激しないで……っ」

 

 一体何をしてるんだろうか? さっぱり俺には分からない。

 その後もタダノはマリアを優しく刺激し続けたらしい。

 時々マリアが声を抑えるような声を出していたから、きっとくすぐってるんだと判断した。

 

 やめてとかダメとかタダノへ懇願するように言うようになってたし、多分間違いないはずだ。

 

「はぁはぁ……っはぁ……仁志ぃ……んっ」

 

 荒い呼吸のマリアの息遣いが聞こえると思ったら、またタダノの事を呼んでそれが消える。

 水音のようなものが聞こえるから、多分きすしてるんだな。

 それも強く愛してると伝えるものだ。たしか“でぃーぷきす”だったか。そんな名前の行為だ。

 

 今日タダノから教えてもらったから間違いない。

 

「マリア……提案があるんだけど」

「はぁ……はぁ……っ何?」

「……シャワー、浴びないか? ほら、お互い汗も掻いたし」

 

 そこでマリアが息を呑むのが聞こえた。

 それと、不思議な匂いが今までにないぐらい強くなった。だが、その中に優しい匂いも混ざってる。

 タダノからも微かに似たような匂いがしてる。不思議な匂いと優しい匂いが混ざったような、そんな匂いが。

 

「……いい考えだわ。ついでに下着も替えようかしら。汗、吸ったみたいなの」

「俺もだよ。風邪引かない内に汗を洗い流した方がいいな」

「本当にその通りだわ。じゃ、行きましょ?」

 

 そこで二人は布団から出て静かにドアを開けて階段を下りていった。

 俺はその音を聞きながら、何となくこの事は誰にも言わない方がいい気がした。

 

「あるいは、タダノに聞くか」

 

 とりあえず俺も寝よう。そう思って目を閉じると、下から微かに優しい匂いが漂ってきた。

 きっとマリアがタダノに嬉しくなる言葉でも言われてるんだろう。

 

 あの家でタダノがマリアへ食事の感謝を告げている時もこんな風だったしな。

 そんな事を思いながら俺は眠りに就いた。

 微かに感じる不思議な優しい匂いに包まれるように……。

 

 

 

 翌朝、見るからに上機嫌なマリアと共にセレナとヴェイグは仁志の世界から去って行った。

 

 ただ、その去り際、マリアは仁志へこう告げるのを忘れなかったが。

 

――今度来る時は、昨日の約束を果たしてくれるんでしょ?

――……二人きりなら、な。

 

 それは二人だけの秘密の約束。

 

――マリア、その、ここまで来てなんだけどさ、最後の一線はちゃんとした場所で越えないか?

――私はここでもいいんだけど?

――あと、きっと一度始めたら夜通しする気がするんだよ。特に、相手がマリアだと。

――…………もう、本当に貴方って人は……。ふぅ、いいわ。じゃあ、今度来たら、その時はしっかり最後までお願いね?

――ああ、約束する。

 

 シャワーの音が浴室内に響く中での、微笑ましくもエロティックな会話。

 それを思い出して仁志は一人になった部屋の中で短く息を吐いて呟いた。

 

「前回はエルが、今回はセレナがいたから踏み止まれた。だけど、もしその二人がいなかったら、きっと俺は……」

 

 悪意というある意味で強力な抑止力がいなくなった事は、仁志だけでなく響達装者達にも大きく影響していた。

 何せもう恋を成就させようとしても問題はないのである。

 

「ある意味で正しい姿なんだろうけど、本当にこれでいいのかね?」

 

 その問いかけへの答えはない。

 けれどどこかで仁志も分かっている。このままだと自分が世間的に最低な男となる事を。

 それでも、最早止まれないとばかりに彼は息を吐くと、風呂の水を抜くためにその場を離れた。

 

 すると、誰もいなくなったリビングに置かれたノートPCから一人の女性が姿を見せる。

 

「っと。あれ? 部屋が違う? ま、いっか」

 

 赤い髪をなびかせ、女性はギアを解除すると部屋の中が暖かい事に気付いて視線をエアコンへ動かした。

 

「そっか。こっち、もう冬なんだね」

 

 と、そこへ水の流れる音が聞こえてくるなり、女性はその音がする方へと動き出す。

 それは当然風呂場からの音。仁志が風呂の栓を抜いたのだ。

 そのまま女性はキッチンを抜け、風呂場で湯船を見つめる仁志を見つけて……

 

「仁志っ!」

「へ? っ!? 奏っ!?」

 

 後ろから抱き着いたのだ。

 奏の来訪に仁志は慌てふためき、そしてどこか不安を抱く。

 

――これ、下手すると下手するんじゃないか、俺……。

 

 そんな事を知る由もなく、奏は久しぶりの愛する男との再会に喜びながら密かに笑みを浮かべる。

 

――やっとこの時が来たね。悪いけど、あたしが仁志の嫁になるんだから……。

 

 抑止力となり得る者もなく、広い一軒家に互いを想い合う男女が二人。

 ある意味で、仁志に最大の危機が訪れようとしていた……。




というところで次回へ続く。
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