シンフォギアの消えた世界で アナザー   作:現実の夢想者

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これで全ヒロイン登場です。
それと今作の今後の参考にするためのアンケートがありますので、もしよければ投票してくださると幸いです。


雪の音がきこえるクリスmas

「すっかり冬になったなぁ」

 

 言って甘栗を口に入れる。好物だからか口に入れた瞬間何とも言えない幸福感を覚える。

 いや、スーパーに店頭販売が来てたからついつい買ってしまったけど、懐かしいなぁ皮剥いて食べるの。

 

 先月末に購入したこたつは絶賛フル稼働。

 ただ、今のところその恩恵に与っているのは俺一人という寂しさ。

 

 ゲートリンクを手に入れたとはいえ、俺がみんなの世界へ一人で行くのは少々危険だし、かといってみんなもそうそうこっちへ遊びに来れるはずもなく、そうなると残された手段は通信のみ。

 でも通信出来るのは装者個人とではなく、それぞれの世界の発令所と他のゲートリンクだけだ。

 

 つまり、エル、セレナ、奏以外とは現状連絡は取れない。

 そんな中で俺が自発的に通信してもみんなから不満が出ないのは必然的にエルとなる。

 

 だからかエルとは定期的に通信していた。

 まぁやはり時間のズレがあるようで、大体最大で6時間、最少でも2、30分程度の時差が生じるみたいだ。

 

 日にちのズレは今更なので聞いてないが、こっちの一週間がエルには一日程度だった事もあるのでまぁそういう事なんだろうとは思う。

 

 で、もっぱらエルとするのは“今日何をした?”か“今日は何をする?”というもの。

 

「でもなぁ……」

 

 そんな小さな楽しみでもあり安らぎも、先月末のこたつを購入した辺りで途絶えている。

 

――すみません兄様。僕、しばらく通信などに出る事が出来なくなります。

 

 そう言われたのがもう半月近く前。

 理由を聞いてもまだ言えないと言われてしまい、しょんぼりとしたのを覚えてる。

 だけど、楽しみにしててくださいと言われたんだよな。あれ、どういう事なんだろう?

 

「あ~、そういえばそろそろクリスマスか。ケーキの予約数、去年と同じならまだ救いがあるんだけど……」

 

 ダルンと頭をこたつ机へ乗せてため息を吐く。

 店長となって初めてのクリスマスシーズン。そこで改めて知るあの店の予約実績の酷さ。

 チキンはともかくケーキは片手で足りる程しかないのだから笑いも出ない。

 去年が4つで一昨年が5つ、そして一昨々年が6つと順調に減っているのだから目も当てられないとはこの事だ。

 

「せめて響達がバイトでいてくれたら巻き返せそうだが……」

 

 可愛い女の子からケーキのご予約いかがですかと、そう聞かれてその気になる客が出てこないとも限らないのだ。

 実際、近藤姉妹は頑張ってくれていて、既にそれぞれ一件予約を勝ち取っている。

 

 まぁ、それには予約を取ってくれたら俺とオーナーのポケットマネーでボーナスを支給するとしたのもあるかもしれないけど。

 

 一件につき5百円で、五件取ってくれたら3千円。十件なら5千円と時給アップというものだ。

 

 正直こんな事してもそこまで効果はないだろうと思っていたのだが、朝勤の主婦層が意外とやる気を出してくれたのには驚いた。

 

 何でもたった5百円でも取っ払いでもらえるのなら助かるのだとか。

 もしこれで効果があれば、オーナーと今後予約関係は似たような事をやっていこうと話している。

 

――いやぁ、只野君から提案してくれて助かったよ。僕だけじゃあまりにも懐が……ね。

 

 俺が試しにと今回の事を提案した際のオーナーの台詞である。

 要はオーナーも出来る事ならそういう事を試してみたかったらしい。

 

「よっと……うわっ、マジだ。変わってやがる……」

 

 と、俺がこたつでヌクヌクしながら甘栗を食べていると現れる銀髪の天使。

 俺の位置からはクリスの大きな胸の形がはっきり見えている。

 

 ……セーターってこうして見ると意外とエロいんだな。

 

「ん? な、何だよ。いるならいるって言えっての」

 

 こたつ机からボケ~っとクリスを眺めていると目が合った。

 で、その目が俺からこたつへと移る。

 

「……こたつ?」

「そ。入るか?」

「…………おう」

「じゃ、適当にあそこの座布団かクッションを使ってくれ」

 

 言いながらリビングの隅を指さす。そこにはみんながこっちで使っていた座布団やクッション、そして俺が買ったクッションが置かれている。

 ちゃんと時々日に当てているので大丈夫だと思うが、果たしてクリスの厳しい審査に耐えられるのだろうか?

 

「……懐かしいな」

 

 そう言ってクリスが手に取ったのは彼女が最初に使っていた座布団だ。

 

「もし良かったら持って帰ってくれてもいいよ。代わりのクッションとか買っておくし」

「……いや、これはここに置いておく。その、あたしのこっちでの思い出のもんだし」

 

 小さく笑みを浮かべると、クリスは座布団を手に俺の向かい側へ座ってこたつへと入った。

 

「あったけぇ……」

「そっちは春だから違和感凄いんじゃないか?」

「まぁな。でも先輩達から聞いてたから平気だっての。ちゃんと冬服着てるだろ?」

「うん、それはそうだ。それにしても、よく来れたな。忙しいんじゃないのか?」

 

 とっくに留学先へ出発したと思ってた。翼がやってきたのもう半月以上前だし。

 ただどこかで、見送りの誘いが来ないからまだかもしれないとは思っていたけど、この様子じゃマジらしい。

 

「まぁ忙しくない訳じゃねーけど……」

 

 そこからは互いの近況報告となった。

 クリスが言うには留学準備は既に完了していて、あとはその国へ向かうだけに近いらしい。

 ちなみにあの同級生の友人達とも友情を深めてるらしく、必ず見送りには来ると言われたそうだ。

 

 で、今度はこっちの番とばかりにもう何度目かの説明をすると、やっぱりここが二階建ての借家である事に驚かれた。

 そうなるとまぁ軽い御宅拝見となる訳で、クリスは一人キッチンや風呂場から二階までを見て回り、再びリビングに戻ってきてこたつへと入った。

 

「どうだった?」

「ん? 正直思ってたよりも広かったな。てか、これ、一人暮らしが選ぶ家じゃねーぞ」

「否定しないよ。でも、さ。ここならあの時の馬鹿話、実現出来るだろ?」

 

 そう言うとクリスは軽く驚いた顔をしてから恥ずかしそうに頷いた。

 

「だな……。あたしと先輩の部屋があって、仁志は強いて言うならここが部屋みたいなもんか」

「あるいはここをリビング兼寝室にして、あの広い部屋を半分俺の部屋半分共用スペース、かな」

「……それも、いいかもしれねぇ。ああ、うん。それがいいな」

 

 どこか遠い目でそう呟くクリスには、あの頃とは違う迷いのようなものが見えた。

 もしかして、留学関係で何かあったのだろうか?

 

 そう思ってクリスへ単刀直入にそう聞いてみると、思った以上に深刻な表情が返ってきた。

 

「……正直迷ってるんだ。このまま留学するべきかって」

 

 そう告げるクリスの声には、あまり聞いた事のない程の重みがあった。

 だから俺も姿勢を正して彼女と向き合うようにする。

 

「迷ってる、か……」

「ああ。勿論留学するって決めたのはあたしだ。その選択を間違ってるとは思ってねぇ。だけど、それでいいのかって思い始めてもいるんだよ。あたしが今本当にやりたい事はそれなのかって」

 

 若干俯くクリスはまるで進路相談をしている生徒のようだ。

 なら、俺は自分の経験を踏まえて助言を与えてみよう。

 

「つまりクリスは自分の中で選択肢がいくつも浮かんできてて、それらの中で選ぶ事が出来ないってなり出してるんだな?」

「……そう、だな」

「そっか。何とも羨ましい話だよ」

「は?」

 

 俺の言葉にクリスの顔が上を向いてこっちを見た。

 

「俺が君の年齢の時には、選択肢なんて悩む程なかった。精々がどんなバイトしようか程度さ。将来の事を見据えて悩むなんて、出来なかったしする気もなかった」

 

 そう言ったらクリスが息を呑んだ。

 もしかしてもう気付いたのかな、俺の言いたい事に。

 

 だとしたら、そこでも俺とは差があり過ぎるよ、本当に。

 

「クリス、悩めるなら悩めばいい。その答えを自分の中でちゃんと出せるまで悩んでごらん。留学するべきかどうかで悩んでいるなら、まず最初に自分が選んだ道を歩いてみればいい。そこでこの道で本当にいいのかどうかを悩み続けていいんだ」

「悩み続けて……いい?」

「そうだよ。そして、もしもその道じゃないと心から思えたのなら留学を止めればいい。何も絶対卒業しないといけないなんて決まりはないし、中退して別の進路を選んでいけないなんてないさ。周囲の目なんてその後の頑張りや結果で黙らせばいいし、何より大事なのは自分が納得出来るかどうかじゃないか?」

 

 俺には出来ない事でも彼女なら出来るだろう。

 何せあの立派なご両親の遺志を継ごうと決められた子だ。

 なら、きっと自分の信じた事や決めた事は貫けるはず。

 

「若い内は何でもやってみればいいさ。三十までバイトしかした事のない奴でも、何とかこうして生きてて、しかもコンビニとはいえ店長になってるんだ。何があっても、生きてさえいれば何とかなるもんだよ」

「……仁志が言うと説得力があんな」

 

 そう言って小さくクリスは笑った。その笑顔にもう影は見えない。どうやら少しは役に立てたようだ。

 

「なぁ、みかん一つくれよ」

「ああ、いいよ。てか、別に許可を取らなくても食べてくれていいから」

 

 こたつの上には当然だけど甘栗の袋が置かれているのだが、それとは別にみかんの入った器もあった。

 体のためにと一日一個は食べようと思って大袋で買ったのだが、これが気付くと結構食べててヤバい。

 

 おこたでみかんの相性の良さを実感したのは一度や二度ではないのだ。

 

 が、何故かクリスはみかんを取ろうとしないで、俺の事をジッと見つめてきた。

 

「ど、どうした?」

「…………ひ、仁志の食べてるやつ、にする……」

「へ?」

 

 プシューっと聞こえそうなぐらい真っ赤になって俯くクリスを見て、俺は手元へ目を落とす。

 そこには皮を半分に割られて姿を見せた甘栗が置かれている。

 どうやらクリスはこれが食べたいらしい。と、ここまでくれば俺だって彼女の気持ちは分かると言うもの。

 

「分かった。じゃあ、クリス。顔上げてくれよ」

「は?」

「ほら、あーん」

「んなっ!?」

 

 真っ赤になって動かなくなるクリスを見て、俺は内心首を傾げた。

 あれ、こういう事を望んでるんだとばかり思ったんだが、違うんだろうか。

 

 こうして、甘栗を一つ摘んで差し出したままの俺と、それを見つめて真っ赤な顔をするクリスという光景が沈黙の中でしばらく続く。

 

 さてどうしようと、そう思って手を引っ込めるべきかと思案した瞬間だった。

 

「あ、あ~……」

 

 目を閉じて真っ赤なままのクリスが口を開けたのだ。

 正直言おう。何かエロい。

 

 これがAVとかならそこへとんでもないものを入れるとこだが、俺はそこまで鬼畜でもなければ壊れてもいない。

 ちゃんと持っていた甘栗をその可愛い口の中へと入れました。

 

 ……ちょっとだけ惜しいような気もしたけれど。

 

「どう?」

「……思ったよりも甘い、な。あたしの、好きな味だ」

 

 どこか照れくさそうに言いながらクリスはこっちを見つめてきた。

 

「その、さ。もう一つ、くれよ」

「いいよ。少し待ってくれ」

 

 袋の中から栗を一つ取り出して、つるつるした平らな方の皮へ爪を立てる。

 そうして割れ目を作ってから、両側面を指で押して皮を割って上半分を取り除けば……よし、綺麗に剥けた。

 

「はい、あーん」

 

 もう一度甘栗を摘んで差し出すと、今度はクリスが身を乗り出すように咥えにきた。

 で、甘栗を半分ぐらい口に含んだかと思うと、そのままクリスは俺へ近付いてきて……口の中に甘い味が広がった。

 

「……ど、どうだ? さっきのお礼だ」

「…………うん、きっとこれを超える甘栗はないってぐらい甘かったよ。だから……」

「んっ……」

 

 そこからしばらく会話はなかった。

 俺達がお互いの甘栗の味を堪能したからだ。

 そして、栗の味が消えた後も俺達はその行動を続け、お互いが元居た位置に戻った時にはクリスの瞳が艶を秘めていた。

 

「仁志……」

 

 熱っぽい吐息混じりの呼びかけには、クリスらしからぬ色気があるように思えた。

 

「……何だ?」

「こたつで寝ると、風邪引くって言うよな?」

「そうだな」

「じゃ、じゃあさ? 寝ないなら大丈夫なんだよな?」

 

 それがどういう意味かを、俺は敢えて聞かなかった。

 ただ、その問いかけに対して俺が取った行動は座っている位置を少し横へずらす事だけ。

 

 それに気付いて、クリスがどこか嬉しそうに笑ってくれたので、多分俺の行動が正解って事にする。

 

 

 

 隣り合ってこたつに入ってる。これだけでも幸せなのに、今、あたしは仁志に抱かれながら舌を絡め合ってる。

 正直もう何もいらないってぐらい幸せだ。幸せ過ぎて、この時間が終わるのが怖い。

 

「……クリス、可愛いよ」

 

 こんな言葉だけで今のあたしはすぐ嬉しくなっちまう。

 この人にだったら、仁志にだったら何されてもいいって、そう思うぐらいに。

 

「仁志……あたし、もっと触れ合ってたい」

「触れ合う……」

「ああ、もっと仁志を感じてたいんだよ。なぁ、ダメか?」

 

 本音を言えば、ああいう事をしたい。だけどそれを言ったらヤバい気がした。

 だってここはあの頃とは違う。そこそこの広さもあって、何より戸建だ。

 しかも寝室は現状二階。そんなとこへ行って始めたら……

 

「ぜってぇ止まらなくなる」

「何が?」

「っ?!」

 

 む、無意識の内に口に出してただぁ!?

 ど、どうする? どうやって誤魔化す?

 

 んな事を考えてるあたしを見て仁志が不思議そうな顔をしてる。

 と、その顔がゆっくりとニンマリと笑い始めた。

 

「な、何だよ?」

「いや、もしかしてなんだけど……」

「あ、ああ……」

 

 嫌な予感がする。心臓がバクバク煩いぐらい鳴ってやがる。

 あたしの考えてた事が仁志にバレてんじゃねーかって、そう思って気が気じゃねぇ。

 

「一日中、密着してたい?」

 

 心臓を掴まれた気がした。

 顔が熱くなっていくのが分かる。

 

「だ、ったら……どうだってんだよ?」

 

 カラカラに乾いた喉で絞り出すように何とか声を出した。

 だけど全然誤魔化せてねぇ。

 それでも何か言わねーとって、そう思って言葉を紡いだ。

 

「あたしは、仁志と夫婦になって、パパとママになりてーんだ」

 

 そう言った瞬間、あたしの体はグッと力強く抱き寄せられた。

 目の前には仁志の優しい笑顔がある。

 

「嬉しいよクリス」

「んっ……」

 

 ああっ、このキス好きなんだ……。優しくて、あったけぇキス。

 あたしの、初めてのキスと同じだから、このキスが一番好き。

 

「仁志、もっと、もっとキスしてくれよぉ。あたしに仁志の気持ち、ぶつけてくれていいからぁ」

 

 あったけぇキス、して欲しい。そうあたしの心は思ってる。

 なのに、あたしの体は違った。あたしの体はあったけぇキスじゃなくて強いキスをして欲しいって思ってる。

 

 だけど恥ずかしくて、とてもじゃねーがんな事言えねぇ。

 精々出来るのは仁志をその気にさせるぐらいだ。

 胸を押し付けて、そっと片手で仁志の股間を触る。

 

「ぁ……」

 

 そこにはしっかりとした感触があった。

 そこには逞しいって思える硬さがあった。

 

 そこにはあたしが今一番欲しいものがあった。

 

「クリス、今夜は泊まってくか? 俺、今日は休みなんだよ」

 

 ドキンと胸が高鳴る。あたしを見つめる仁志の目付きは、どこか鋭い。

 けど、それは大人の男の目だ。欲望に塗れたような目じゃない。あたしを欲しいって思ってるけど、無理矢理はしたくねぇって想いの籠ったもんだ。

 

「い、いいのか?」

「むしろこっちの台詞だって。クリスも色々忙しいんだしさ」

 

 いっそもうこっちで仁志と二人で暮らしたいって、そう言いそうになる気持ちを必死に抑えた。

 もしそう言ったら、あたしは二度と自分の世界へ帰れないって気付いたからだ。

 だ、大体、す、スケベしたくて留学止めるなんて、天国のパパとママになんて言えばいいんだよ?

 

「い、一日ぐらい平気だっての」

 

 それでも、今夜だけ、今夜ぐらい、あたしはただの女になってもいいよな?

 心底惚れた男に全てを委ねて、任せて、抱き締められてもいいよな?

 

 何もかも忘れて、裸になっても……いいよな?

 

「そっか。なら、行こうか」

「……うん」

 

 パパ、ママ、あたしは今日、大人の女になります。

 

 そう思いながらあたしは仁志と一緒にリビングを出て階段を上がる。

 一段一段を踏みしめてあたしは歩く。まるでそれが本当に大人の階段みたいに思いながらだ。

 

 寝室へ来ると敷かれっぱなしの仁志の布団が目に入る。

 これからあたしはあの上で抱かれるんだなって思うと顔が熱くなるし、その、子宮辺りが疼く。

 

「クリス、ここへ座って」

「あっ……」

 

 仁志に手を引っ張られて、あたしは布団へと座る。

 するとその後ろに仁志が座って、あたしの体を優しく抱き締めてくれた。

 

「ひ、仁志……」

「クリス、一つだけ断っておくよ。その、俺は最後まではしない」

「な、何でだよ?」

 

 あたしはそこまで覚悟してんのに。そこまでして欲しいのにっ!

 そう思って振り返ったあたしを、仁志は凛々しい表情で見つめてきた。

 

「……知ってるかもしれないけど、クリス以外の装者のみんなは一度ここへ来てるんだ。そして今回クリスが来てくれた事で全員一度ずつ来てくれた事になる。だから、最後の一線はその後で俺自身からみんなへ会いに行って越えたいって思った」

 

 真っ直ぐな眼差しで、仁志はそう言い切ってあたしの頬をそっと触る。

 

「いつだって、俺は君達から近付いてもらっていた。なら、せめてそういう事ぐらい俺から君達へ近付きたいんだよ。君達の大事なものを奪いに、さ」

「奪いに……」

 

 ジワリと子宮が熱くなるような気がした。

 初めてキスした時よりも強く激しいのに、あの時よりも優しくあったかい気持ちをあたしは今、仁志から感じてる。

 

「そのために、今日は最後の一線は越えずに終わらせて欲しい。駄目、だろうか?」

「…………本音を言えば、それもあたしが最初になりたい」

 

 キスも、せ、セックスも、あたしが仁志の初めてがいい。

 それなら、もしあたし以外に仁志が夢中になったとしても、そういう時にあたしの事を思い出してくれるから。

 

「クリスは珍しいな。初めてになりたがるのは男だと思ってたよ」

「そ、それだけじゃねぇ。可能なら、最後にもなりたいっての」

 

 これも本心だ。仁志の初めても最後もあたし。

 何から何まで全部あたしと経験してもらいたい。あたしも仁志に経験させて欲しいんだ。

 

「あたしのそういう事の初めては、全部仁志がいい。仁志じゃなきゃやだ。そう思っちゃ、ダメかよ?」

 

 そう告げたあたしの体を仁志は優しく抱き締めてくれた。

 言葉はなかったけど、伝わった、気がした。

 ダメじゃない。俺だってそうしたい気持ちはあるんだって。

 

「なぁ、あたしの全部、仁志で染め上げてくれよ。雪音クリスは只野仁志の女だって、そうあたし自身が強く思えるようにさ」

 

 だからもっと伝える。あたしの気持ちを、想いを。

 あたしを只野クリスにしてくれって、そう思って仁志の手を動かして胸へ置いた。

 

「……クリス・Y・只野、って出来ないのかな?」

 

 ボソッと呟かれた言葉の意味を少しだけ考えて、あたしは言葉を失った。

 仁志の奴、あたしの苗字を残そうとしてるって。

 それは、つまり、あたしにパパやママとの繋がりを残したいって事だ。

 

「ひ、仁志、いいのか? あたし、そう名乗っていいのか?」

「可能ならその方がいいと思うんだよ。その、クリスとご両親の繋がりってもうあまり残ってないだろ? なら、その少ない繋がりは奪いたくない。それにさ、クリスを妻にもらうのなら君の部屋へ行って仏壇に手を合わせたいし、出来れば平行世界のご両親にも挨拶したいからね」

「っ!」

 

 思わず瞳が潤む。胸が熱くなる。

 あたしの事をある程度知ってるからだとは思うけど、だからってここまで考えてくれるとか、本気でこいつは大馬鹿だ。

 

 あたしの大好きな、世界一の大馬鹿野郎だっ!

 

 気付いたら、あたしは仁志へ向き直って抱き着いてた。

 この温もりを、このあったかさを、この幸せを離したくないって思って。

 

「クリス……少し痛いよ」

「るせぇ……っ。自分のせいだ。我慢しろ」

 

 今あたしは仁志の傍にずっといたいって、そう思ってんだ。

 もうこのままここで暮らして、仁志の妻になって、子供を産んで、慎ましく暮らしたいって。

 

 そこからしばらくあたしも仁志も口を開かなかった。

 けど、あたしの事を優しく仁志が抱き締め返してくれたのだけはすごく嬉しかった。

 

「クリス、顔を上げてくれないか?」

 

 不意にそう言われて、あたしは顔を上げた瞬間――仁志にキスされた。

 

「な、何すんだよ?」

「こうしたらいつものクリスに戻せるかなってね」

 

 悪戯を成功させたみたいな顔で笑う仁志が、何だかすっげぇ子供に見えた。

 でも、今はその無邪気な感じが有難かった。思えば、仁志があたしを探しに来た時、おっさんの真似してあんぱんと牛乳買ってたな。

 

 そっか。あたしはこの人に“大人の男”と“同年代の男”を感じてたんだ。

 その時に頼もしくて大きくて、大抵は情けない感じをさせるこの人に、おっさんにはない隙を見つけて、ときめいたんだろうな。

 

「いつもの、でいいのかよ?」

「へ?」

 

 だからちょっとからかうように笑う。

 あたしはもうあの頃のあたしじゃねぇ。そうだ、もう悪意なんぞに監視されてたあたし様じゃねーんだ。

 

「え、エロいあたしにしてくれても……いいん、だ、ぞ?」

 

 ジッと仁志の目を見つめる。

 最後の一線は越えないって言ったけど、ならその手前まではしたいって事だろ?

 あたしも、そこまでして欲しい。だってそうすりゃ、仁志が我慢出来なくなってあたしを抱きたいって思うかもしれねーし。

 

「……なら、試しに」

「ぁ……」

 

 ムニュっと仁志の手があたしの胸を掴む。

 そのまま優しく揉み始めて、あたしは妙な感覚に包まれた。

 

「嫌になったり怖くなったりしたら言ってくれ」

「う、うん……」

 

 仁志の優しい声でそう言われるだけでもあたしは嬉しくなっちまう。

 気付けば仁志があたしの服を捲り上げていた。

 

「……セクシーなブラだな」

 

 あたしが今着けてる奴は、こういう事もあるかもって考えて着けてきた真紅のブラだ。

 しかも、フロントホック。こ、こっちの方が色々と楽だし男の受けが良いって思った。

 

「ま、前で止めてるからさ、は、外してくれよ」

「…………わ、分かった」

 

 あたしの言葉で仁志が喉を鳴らすのを聞いた。

 へへっ、思った通りに興奮してくれたみてぇだ。

 仁志が若干ぎこちない手付きでホックを外そうとするのを見てあたしは確信した。

 まだ誰もこういう事を仁志としてねーんだって。

 

「こ、こうか……っ!?」

 

 ブルンって感じで揺れる胸に仁志の目が釘付けになった。

 でかいだけで邪魔に思ってたもんだけど、こうなるとでかくて良かったぜ。

 ゴクっと生唾を飲んでる仁志を見ながら、あたしはブラを脱ぐように肩ひもを腕から抜いていく。

 で、片腕で胸を隠しながらブラを片手で摘んで床へ落とす。

 

「クリス……腕をどけてくれないか?」

 

 ギラギラした目で仁志がそう言ってきたのを聞いて、あたしは急に怖くなってきた。

 今まであたしがこういう方向へ行こうとすると、仁志は何だかんだと落ち着かせたり考え直させたりしてきた。

 それが、今はないって気付いたからだ。望んでた事ではあるけど、やっぱちょっと怖い。

 

「わ、分かったからちょっと待てって……」

 

 それでも、あたしは止まるつもりはなかった。

 だって、初めて仁志があたしへ欲望全開になってるからだ。

 今だけは、あたしが仁志を独占してるって実感出来るからだ。

 

 そっと腕をどかすとまた胸が揺れる。

 それを見て仁志の息が荒くなった。押し倒されるんじゃねーかって、そう思ってドキドキする。

 

「クリス、とっても素敵だ。俺、もう死んでもいいぐらい幸せだよ」

「お、大袈裟なんだよ……。でも、その……あ、ありがと」

 

 顔を見てられねぇ。

 恥ずかしいのと嬉しいので顔が熱い。

 そうやって顔を背けてると、体中を電流みたいなもんが走った。

 

「ひゃんっ!?」

 

 勝手に体が動いて変な声が出ちまう。

 

「可愛い声だねクリス。もっと聞かせてくれ」

「あっ、や、止めろって……ふにゃあぁぁぁっ!」

 

 いつの間にかあたしの胸に仁志が吸い付いてやがる!

 しかも優しくあたしのち、乳首を舐め回してきた。

 くすぐったいような、でも気持ちいいような、そんな不思議な感覚にあたしは頭の中が真っ白になった。

 求められてる事が嬉しくて嬉しくて、だけどほんの少しだけ怖くて。

 

「んくっ……こ、声、抑えられないってのぉ……」

「っぱ……いいんだよ、出してくれて。俺にクリスの可愛い声を聞かせてくれよ」

「そ、そんな事言ったってぇ……ひゃっ!? な、舐めたとこに息吹きかけるなぁ……」

「すっごく可愛いよ、今のクリス。エロ可愛いっ!」

「はぁんっ! ち、乳首を甘噛みすんじゃねぇ……」

 

 もうそこからは仁志にされるがままだった。

 あたしは気付けば布団に横になってて、胸を揉まれたり乳首を吸われたり舐められたり、あるいは軽く噛まれたりと、まぁ好き勝手された。

 

 ……あとは正直何をされたかあまり覚えていない。

 ただひたすら押し寄せる気持ち良さに、快感に身を委ねて声を出す事しか出来なかったから。

 

「っはぁ……っはぁ……」

 

 喉が渇いた……。視界がぼやける……。

 あまり考えたくねーけど、下着が張り付いて気持ち悪い。

 これ、汗だけじゃねーな……。まぁ、そりゃそうだよな……。

 

「クリス、大丈夫か?」

 

 あたしの視界の中に仁志の少し申し訳なさそうな顔が出て来た。

 ったく、んな顔するぐらいならここまですんなよ。

 そう思うけど声は出ねぇ。本気でこんな風になるまで弄られるとは思わなかったぜ。

 

 ……何回目の前がチカチカしたか覚えてねぇもんな。

 

「ホントごめん。クリスの反応が可愛くて、感じてる顔をもっと見たくて、君の事を考えないでやり過ぎた……」

 

 その言葉にあたしはむしろ嬉しくなった。

 だって、これってあたしに夢中だったって事だ。

 

 だからあたしは無言で気持ち悪くなった下着を脱ぐために少しだけ腰を浮かせた。

 仁志の意識があたしの下半身へ向くのが分かる。視線をメチャクチャ感じる、から。

 

「く、クリス……それは……」

「汗とかで濡れて気持ち悪いんだよ」

 

 と、そこであたしはある事を思い付いた。

 

「なぁ仁志……」

「な、何だ?」

 

 頭の中がフワフワしてきた。胸はドキドキしてるけど、これはきっと期待のドキドキだ。

 

――脱がして、くれよ……。

 

 

 

 仁志とクリスが互いに歯止めを失い最後の一線を越えてしまいそうになっている頃、リビングにあるノートPC内のゲートからとある少女達が姿を見せようとしていた。

 

「と、到着です!」

「そうだな」

 

 まず姿を見せたのはエルフナイン。ただ、その姿はよく見ればかつての頃と同じであると分かる。

 キャロルにあった泣き黒子がないそれは、紛れもなくエルフナインが本来持っていた体と同じであった。

 そしてその隣にいるのが、依り代の力によって完全に記憶を取り戻したキャロル・マールス・ディーンハイムである。

 

 そうやって二人が並び立つ事がどれ程の奇跡か。それを誰よりも知るのが彼女達二人だ。

 そんな双子の姉妹とも言える二人の手首にはゲートリンクがしっかりと装着されている。

 

「……兄様はいませんね」

「仕事か? エル、今何時だ?」

「その、兄様の部屋には時計がないから……」

「ちっ、そうだったな……ん?」

 

 項垂れるエルフナインから顔を背けたキャロルは丁度そこにあった時計に気付いた。

 

「……おい、時計があるぞ」

「え? あっ、本当だ」

「どうやらあの男が購入したようだな。午前十時近く、か」

「それなら寝てるんじゃないかな? 兄様の勤務時間は夜からだし」

「となると今回は諦めて帰るべきか……」

 

 二人がここへ来た目的は、当然ではあるがエルフナインとキャロルの分離成功を報告するためである。

 依り代による記憶の復元。それによってエルフナインとキャロルの奇妙な同居は否応なく終わりを迫られた。

 元々記憶をほぼ失っていたキャロルと生命の灯を失いそうになっていたエルフナインが、互いの足りない物を補うように一つになったのが以前までのエルフナインだ。

 

 そこでキャロルが記憶を復元させた事により、徐々にそのバランスが狂い始めたのである。

 元々体はキャロルのものだった事もあり、我の強くないエルフナインはその存在を危うくしてしまったのだ。

 ただ、そうなる事を予見していたキャロルがエルフナインを動かして対策を講じた。

 

――僕の、体を?

――そうだ。平行世界の俺に上位世界の情報を報酬にお前の体を作らせる。廃棄躯体ではなく、最初からお前の、エルの体としてな。

 

 そうして平行世界の自分との会話を経験する事になったもう一人のキャロルは、その口から語られる上位世界の錬金術話に興味を覚え、エルフナインのための体を製作したのだ。

 

――これでどうだ? そちらの注文通りだと思うが。

――……うん、本当に以前の僕の体と同じだ。ありがとうキャロル。

――礼はいい。それよりも記憶の転写を始めるぞ。

 

 見事エルフナインの記憶をその体へ移す事に成功し、キャロルは本来の姿を取り戻して現在へと至る。

 

「あれ? これは何だろう?」

 

 そんな時、エルフナインがこたつに気付いて小首を傾げる。

 キャロルもその声にこたつへ目をやり、同じように小首を傾げた。

 

「机……の割には妙に低いな」

「それに布団みたいなものがかけてあるみたいだ。それと……これはみかんと……甘栗?」

「あまぐり?」

「えっと、たしか栗を炒めて」

「辞書のような答えはいらん。食べ物らしいが、簡潔に味を教えろ」

「名前の通り甘いと思うけど……」

 

 その答えに満足そうに頷き、キャロルは袋の中から甘栗を一つ手に取った。

 瞬間、甘栗特有の香ばしい匂いがその鼻腔をくすぐる。

 

「……中々いい匂いだ。悪くない」

「本当? ……すんすん、うん、本当だ。若干甘い気もするね」

「そうだな。どれ、食べてみるか」

「い、いいのかな?」

「構わん。どうせあの男の事だ。俺が食ったと言えば仕方ないの一言で済ませる」

「ひ、否定はしないけど……」

 

 仁志の性格をある程度知ったキャロルの予想は正しいとエルフナインも思っていた。

 きっと自分やキャロルなら、余程の事をしない限り仁志が激怒する事はないと。

 

「あっ、キャロルダメだよ。せめて座って食べないと」

「……分かっている」

 

 立ったまま甘栗を食べようとするのを見て、しっかり日本式の考えを仕込まれたエルフナインがやんわりとキャロルを注意する。

 まるで妹に注意された姉のような気持ちになりながら、キャロルは憮然としたまま仁志が座っていたクッションへ座り、何となしにこたつの中へ足を入れた。

 

「……若干だがあったかいな」

「え?」

 

 電源を落としたとはいえ、保温効果を利用して温かくする物故にまだこたつの中は温もりを残していたのだ。

 

 キャロルの言葉にエルフナインもクリスが座っていた座布団へと座り、こたつの中へ足を入れる。

 

「本当だ。じゃあ、これがこたつなのかな?」

「こたつ?」

「うん。兄様が今度来る時までに用意するって言ってた暖房器具。えっと……あっ、これかな?」

 

 周囲をキョロキョロと見回し、電源であるスイッチを見つけたエルフナインはそれを“入”へと切り替える。

 すると、中の機械へ電気が流れて熱を発生させた。その熱に二人は思わず表情を緩めて呟く。

 

「「あったかい……」」

 

 その瞬間、顔を赤くするキャロルと嬉しそうに笑顔を見せるエルフナイン。

 と、そこでキャロルがある事に気付く。

 

「おい、ここにあるのはあまぐりの皮か?」

「え? あ、うん。多分そうだね」

「……じゃあ、意外とあの男はついさっきまでここにいたんじゃないか?」

「……そっか。だからこたつがまたあったかさを残してた?」

「ああ。で、ごみを捨てずに動いたと言う事は……」

 

 そこで二人は互いの顔を見合わせた。

 

「「眠気でその事を忘れて動いた」」

 

 その瞬間、二人の頭上で音が聞こえた。

 反射的に二人の顔が上へ向く。

 

「やはりいるな」

「まだ寝てないのかな?」

「確かめてみればいい。それで寝ていたら帰るぞ」

「そうだね」

 

 そう言うもののキャロルは一向にこたつを出ようとしなかった。

 エルフナインも同じくだ。二人は揃ってこたつに入ったまま動かなかったのである。

 

「きゃ、キャロル? 動かないの?」

「……お前だけで見てこい。俺はここであまぐりを食べている」

「ず、ズルいよ。僕だってみかん食べたい」

「安心しろ。全部は食べない。戻ってきたらお前にも食べさせてやる」

「い、一緒に行こうよ。兄様もキャロルがいた方が分かり易いし」

「面倒だ」

「さっきまでは一緒に会って驚かせようって言ってたのに……」

「気が変わった」

 

 エルフナインへ受け答えながら甘栗の皮を剥こうと手を動かすキャロルだが、初めての事でどこからどうやればいいのかが分からずその手を止めてしまう。

 それに気付いてエルフナインが甘栗をそっと奪うと、平らな面へ爪を食い込ませて割れ目を作っていく。

 

「……そうやるのか」

「えっと、兄様の剥いた皮を見て何となくこうかなって」

 

 実はこの時、偶然にも上と下でくりの皮むきが行われていた。

 

 ただ、下ではそれを興味深そうに眺めているのに対し、上ではそれに両手で口を押さえながら快感を味わっているという大きな違いがあったが。

 

「これでいいかな」

「……この薄い皮は食べても平気なのか?」

 

 初めて見る甘栗にキャロルは疑問符を浮かべるばかりであった。

 

「どうだろう? 多分食べない方がいいと思う。実際兄様の剥いた皮にはそこの部分が残ってるし」

「……よし、取り除いた。食べてみるか」

「あっ、僕にも少しくれる?」

「いいだろう。皮を剥いた褒美だ。今半分に割ってやる」

 

 こうして二人は甘栗を口に入れ、その甘さに表情を綻ばす事となる。

 

 ちなみに甘栗を合計三つ食べ終えた二人は、後ろ髪を引かれる想いでこたつから脱出。

 寒さに身を震わせながら二階へと階段を上る事となり、その話し声と足音で仁志とクリスは我に返る事となるのだった……。




今回はヒロインパートがいつもよりは大人しいかもしれませんね。

次回で一区切りの予定です。

今後の展開について

  • エロを描くために18禁へ続きを書く
  • 現状のような形式で続きを
  • いっそエロは削ぎ落してほのぼの重視
  • これからは番外編のような鑑賞会などを中心
  • いっそここからの新展開を
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