シンフォギアの消えた世界で アナザー   作:現実の夢想者

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予定を少し変更して次回で一旦〆ます。


Xmasキャロルをごいっしょに

「そ、それにしても驚いたよ。まさかエルとキャロルがこんな風に並び立つ日が来るなんて」

「ま、まったくだぜ。このために平行世界へ行ってたのかよ」

 

 場所はリビング。そこのこたつへ入りながら俺とクリスはエルとキャロルを見つめていた。

 時刻は十一時を少し過ぎていたが、俺の眠気はある意味で飛んでしまっていた。

 いや、本当に色んな意味で危なかった。

 あと少し気付くのが遅かったら、俺はエルに二度と兄様なんて呼んでもらえなくなっていただろう。

 

 ちなみに俺は眠気を飛ばすためと理由を付けてシャワーを浴びているし、クリスは俺が咄嗟に布団を干してもらい、それで埃を被っただろうし汗も掻いただろうとしてさっきまでシャワーを浴びてもらっている。

 

 ここで救いだったのはエルはともかくキャロルも所謂男女のそういうのに疎いのか、匂いへの気付きはあったもののそれが何の匂いかまでは分からなかった事だ。

 

「はい。その、司令にはお話していたんですが、僕が他の皆さんへは内緒にして欲しいとお願いしてましたので」

「どうやら驚かせようとしていたらしい」

「あっ、それはキャロルもじゃないか。真っ先に兄様へ見せようって提案してきたのに」

「それは、お前がこいつとの通信が出来なくなった事を気にしていたから」

「うん、ありがとうエル、キャロル。少し早いクリスマスプレゼント、たしかに受け取ったよ」

 

 そう心から告げて笑みを浮かべた。

 するとエルは嬉しそうに笑顔を返してくれたのだが、キャロルはプイッと顔を背けたのだ。

 

 ……嫌われてる? でも前に話した時は違ったはずなのに。

 

「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです。ね、キャロル」

「……そういう事にしておく」

「素直じゃねーな」

 

 それ、君が言うのかいクリス。

 ツンデレ具合で言えば君も未だに中々のものだと思うよ?

 そう思うも口にはしない。だって言えばこっちへ照れ隠しの言い訳が飛んでくると分かってるから。

 

 ただ、どうやら俺が思った事をキャロルも思ったらしい。

 クリスへ顔を向けて目を吊り上げていた。

 

「お前にだけは言われたくない」

「あ?」

「そこまで。素直にものが言えないのは美点ではないけど欠点でもないよ。ただし、それは周囲に迷惑をかけなければ、だ。キャロル、クリスもそれだけは忘れないで欲しい」

「「……ふん」」

 

 何というテンプレな反応だろうか。

 だけど、それを可愛いなぁと思う俺は十分おっさんだろう。

 

「こうなると次はあの四人も復活させてあげるのか?」

「あの四人って……ガリィ達ですか?」

「ああ。たしか平行世界のキャロルは四人を元通りにしてあげてたけど……」

「向こうとこちらでは事情が違う。こちらは完全に破壊された上にシャトーに残っていた廃棄躯体も失われている。第一、あの四人を再び作り出すには色々と足らない物が多すぎる」

「そっか。そういえばあのキャロルも材料集めに苦労してるみたいだったっけ」

 

 さすがの依り代もあの四人の材料を出してくれたりはしないだろうし、こうなるとキャロルが復活してエルと別々の体になった事だけで満足するべきか。

 そもそもそれさえもある意味で奇跡だしな。欲張り過ぎるのは良くないな、うん。

 

「そういう事だ。俺達の世界ではもう錬金術師の組織は失われている。材料集めは困難を極めるだろう」

「それもあったなぁ。うん、下手な事言ってごめん」

「気にするな。今の話で一つ思い付いた事がある」

「「「思い付いた事?」」」

 

 思わず俺達の声が重なる。

 キャロルはそれを聞いてフフンと楽しそうな笑みを浮かべて黙ってしまった。

 一体何を思い付いたんだろう? 雰囲気からするとあの四人のオートスコアラー達が関係するんだろうけど……。

 

 その後少しだけエルがキャロルへ教えてとお願いするも、帰ったら教えてやると言われてしまえば引き下がるのがエルである。

 クリスはさすがに自分が教えてもらえるとは思ってないようで聞く事はなかった。

 で、俺はきっと聞いたら聞いただけキャロルが機嫌を悪くすると踏んで話題を変える事にした。

 

「そういえば二人は今日はこれからどうするの?」

「えっと、出来ればお泊りしたいです」

「それはいいけど、お前ら着替えとかあるのか?」

「心配いらん。寝る時はそいつの服を貸してもらう」

「へ?」

 

 まさかの言葉に目が点になりそうだった。

 俺の服って……寝間着って事か?

 冬用の物は少ないとは言わないけど多くもないんだけどなぁ……。

 

「どうせ体の大きさ的にお前の上着なら俺やエルは全身が隠れる」

「それなら何とかなりませんか?」

「あ~、成程ね。それならまだ何とかなるか」

 

 学生時代のジャージとか残ってるし、厚手の寝間着も二着ある。

 でも、とりあえず洗濯しておこうかな。そう思って頑張ってこたつから出た。

 

「クリス、悪いんだけど頼みがある」

「洗濯するから取り込んでおいてくれ、だろ?」

「そういう事。頼めるか?」

「いいぜ。何なら洗濯自体やっておいてやるよ」

「ホント?」

「おう。てか、そろそろ寝とけって。そうだ、買い物はしてあるか?」

「してあるけど四人分はない」

 

 何せ今夜は一人鍋をしようとしてたからなぁ。

 

 こうして俺は、二人のための厚手の寝間着二着と財布をクリスへ託して仮眠を取る事に。

 

 寒さに震えながら階段を上がって、ベランダで寒風に吹かれながら干してあった布団を取り込み、まだマシな寝室へと逃げ込むように移動して布団を敷き直す。

 

「さむさむっ」

 

 急いで布団の中へ入ると、多少とは言え干していたおかげもあってかクリスの匂いが薄れていた。

 これなら寝れるな。そう思いながら目を閉じて少しすると布団の中があったかくなり、それと同時で眠気が押し寄せてくる。

 

 と、そこで聞こえてくる階段を上がる音。それも二つ。

 そう気付いた瞬間、ドアを開けた音が微かに聞こえた。

 

「……もう寝てるぞ」

「本当だ。やっぱり疲れてたんだね。あの頃もこの時間まで起きてる事は珍しかったんだ」

「そうなのか」

 

 ぼんやりと声がきこえるなぁ。

 エルと……キャロルだろうか?

 

 あ、いかん。もうからだがねろといっている。

 

 そんなことをおもってると、なぜかあったかさがふとんからすこしにげて、かわりにあったかいものがふたつりょうがわからはいってきた。

 

 かいろみたいだなぁっておもってだきよせると、やわらかくていいにおいがした。

 

「お、おい、何をするっ」

「えっと、寝惚けてるみたいだよキャロル」

 

 うでのなかできこえるかわいいこえをききながらおれはいしきをてばなした。

 いいゆめがみれそうだなぁって、そうおもって……。

 

 

 

 冬の寒さで顔が冷たい中、僕とキャロルは兄様と一緒の布団に入っていた。

 クリスさんは兄様から渡されたパジャマを洗濯機の中へ入れると、それが止まるまでの時間で買い物をしてくると言って出て行った。

 だから僕は最初リビングでクリスさんの帰りを待とうと思ったんだけど、キャロルが気になる事があるって言って二階へ向かうので僕もそれについてきたら、何故かこうなった。

 

 でも、理由は分かる。寒いからだって。

 多分換気のためだと思うけど窓が開けられていて、ここはとても寒い。

 だけど兄様のお布団の中はあったかくて幸せです。

 それに兄様が抱き締めてくれてるから余計あったかい。

 

「キャロル、どうするの?」

「どうするとはどういう意味だ?」

 

 小声で話しかけると兄様を挟んで向こう側からも小声が返ってくる。

 

「このままだときっと僕ら寝ちゃうよ?」

「…………それでも構わないだろ」

「それはそうだけど……」

 

 チラッと兄様へ目を向けると、そこには幸せそうに眠る兄様の寝顔がある。

 

「そもそも仮にここから出るにしても、だ。下手に動けばこいつを起こすぞ」

 

 そう言ってキャロルが兄様へくっついた、気がした。

 

「キャロル? 今、兄様にくっついた?」

「っ……暖を取るためだ。それにしても、この布団とやらはベッドとは違うんだな」

「うん。僕もこの世界で暮らしてた時に初めて使ったけど、ベッドと違って全部を洗って日光消毒出来るんだ。そうした後のお布団は、とってもふかふかであったかいんだよ」

 

 あの幸福感は忘れられない。

 初めて干したお布団を触った時、僕と姉さんにヴェイグさんは驚いたんだ。

 そしてそこで兄様から教えてもらった。お日様で干したお布団で寝ると、どんな疲れも消える程幸せなんだよって。

 

 その話をキャロルへもすると、何となくだけど分かってもらえたみたい。

 きっと今の状況でもキャロルには幸せなのかもしれない。

 

「エル、干したふとんというのはそんなに違うのか?」

「うん、そうだよ。キャロルにも一度体験してもらいたいぐらい」

 

 僕が言った言葉にキャロルは小さく頷くと顔を後ろへ、押入れへ向けた。

 そこにはこっちで僕らが使ってたお布団がある。それをキャロルも知ってるはずだ。

 

「もしかして、お布団を干して使ってみたいの?」

「……知識だけでは意味がない。そこに経験が伴うからこそ意味がある」

 

 うん、これはそういう事だ。

 そう思ってるとキャロルが兄様の腕の中から抜け出してお布団の外へ出ようとする。

 あっ、今絶対寒いって思ってる。だって動きが止まったから。

 

「キャロル、一人じゃお布団運べないよ?」

「心配するな。俺にはダウルダブラがある」

 

 そう言うとキャロルはお布団から出るなり、どこからともなくファウストローブを召喚すると身に纏った。

 

「……こんなもので足りるか」

 

 声には出さないけど、多分キャロルの中で一番無駄なファウストローブの使い方じゃないかな、これ。

 でも、それはきっと僕を通じて兄様達と関ったからかもって、そう思うと嬉しくて笑みが零れた。

 

 大人になったキャロルは、そのまま押入れを静かに開けると上に置かれてるお布団を持ち上げて歩き出して、何故か階段へと続くドアの前で止まった。

 

「……エル」

「ちょ、ちょっと待ってて」

 

 両手が塞がってるからドアが開けられないんだと気付いて、僕はすっごく辛かったけど兄様の腕から抜け出した。

 お布団から出た瞬間、体を刺すような寒さを感じる。ううっ、寒いよ……。

 

「早くしろ」

「せ、急かさないで」

 

 キャロルも寒いんだろうなって思いながら、僕はドアを開けてそのままベランダへのドアも開ける。

 

 その瞬間冷たい風が吹き込んできた。

 

「「寒い……」」

 

 思わずキャロルと声が重なる。

 だから少しだけ嬉しくなって僕は笑顔でドアを押さえ続けた。

 でも寒いものは寒いから早く家の中へ戻りたい。

 

「キャロル、早く」

「分かっている」

 

 キャロルがお布団をベランダへかけるのを見て、僕はお布団用の洗濯バサミを探した。

 

「あっ、あった」

 

 兄様の事だからここのどこかに置いてあるはずって思ったら、ベランダの隅の辺りに付けてあった。

 持つとすっかり冷え切ってて触るのも辛い。

 それを何とか二つ外してキャロルの方へ持っていく。

 

「これでお布団の両端を止めて」

「分かった」

 

 これでよし。あとはお日様にお任せだ。

 

「キャロル、早く中へ戻ろう」

「ああ」

 

 僕らは急いで家の中へと戻った。

 ベランダへのドアを閉めて、寝室へのドアを開けて中へと入る。

 うん、外よりはこっちの方があったかい。あとそろそろ窓を閉めておこう。

 

「そういえばキャロル、いつまでその姿でいるの?」

「もう戻る。……ふぅ、まさかファウストローブをこんな風に使う日が来ようとはな」

 

 そう言いながらキャロルは兄様のお布団の中へと頭から入っていく。

 それが何だかおかしくて思わず笑っちゃった。

 

「何だ? 何がおかしい?」

「えっと、今のキャロルがヴェイグさんみたいに見えたから」

 

 ヴェイグさんが眠たくてクッションへ上ってお昼寝する時の動きにそっくりだった。

 

「……正直ここで文句などを言ってやりたいが、俺とてこいつの眠りを邪魔するのは気が引ける。運が良かったな、エル」

 

 不機嫌そうな顔でキャロルはしっかり兄様の傍に寄りそうようにして目を閉じた。完全に寝るつもりだ。

 僕もそうしようと思ったけど、クリスさんは僕らが起きてると思って買い物へ行ったはず。

 なら、玄関の鍵は開いたままだ。そんな中で三人共寝るのは不味いかも。

 

「キャロル、僕は下へ戻ってクリスさんを待つよ」

「……そうか」

 

 返ってきた声が初めて聞くぐらい脱力してるのに気付いて、僕は耳を疑った。

 

「……キャロル?」

「ん~……はやくいけ」

 

 眠い時の切歌お姉ちゃんみたいだ。

 だから僕は小さく笑みを浮かべて寝室を出る事にした。

 

「おやすみキャロル」

 

 階段手前でそっと呟いて僕はドアを開けた。

 静かにドアを閉める時少しだけお布団へ目を向ければ、そこには幸せそうに眠る兄様とキャロルがいた。

 それが何だかとっても嬉しくて、僕は笑顔で階段を下りる。

 出来る限り音を出さないようにしながらリビングへ戻るとこたつへ入る。

 

「……あまりあったかくない」

 

 なのですぐに電源を入れる。

 クリスさん、いつ帰ってくるかな?

 そんな事を思いながらこたつに入っていると自然とまぶたが重くなってくる。

 そうだ、この中に体を入れたらあったかくて気持ち良く寝られるんじゃないだろうか?

 

「よいしょっと……ふわぁ」

 

 とってもあったかくて幸せです。

 あっ、ダメだ。こんなの眠るしかないよ……。

 

 で、気付いた時にはクリスさんに体を揺すられていました。

 何でもクリスさんが言うにはこたつで寝ると風邪を引くそうです。

 こんなにあったかいのに不思議だ。でも、理由を考えると納得しかなかった。

 

「じゃ、あたしはこれを干してくるからな」

「はい、僕はお風呂掃除してます」

「ん、頼むぞ」

 

 こたつに入っているとまた寝てしまうと思ったので動いていようと思った。

 でもそこでふと思う。

 

「……このお家なら、みんなで暮らせるかな?」

 

 二階には部屋が三つあって、それぞれでお布団を敷けばギリギリ何とかならないかな?

 えっと、今寝室にしてるところならお布団が頑張れば六つ敷ける。

 あとの二つだと……今の状態なら三つは余裕で敷けるはず。これで十二人寝れる。

 兄様に僕らを加えると……十三人だけど、ヴェイグさんはある意味で一人分いらないから引いて十二だ。

 

「うん、何とかなる」

 

 ただ、皆さんの服とかを置く場所を考えるとちょっと難しいかもしれない。

 その場合は……リビングにタンスとかを置く事にして、兄様の物だけ寝室かなぁ。

 

「……そう出来たらいいな」

 

 こっちでの暮らしは本当に僕にとっては驚きと発見の連続だった。

 誰かと一緒に暮らす事が、同じご飯を食べる事が、どれだけ楽しくて幸せかを教えてもらった。

 あの本部だけで過ごしていた頃には分からなかった“何でもない日常”というものを知った。

 

 そしてそれがどれだけ幸福かも。

 

 お風呂場に入ってスポンジを手にすると、あの家での記憶が甦る。

 ヴェイグさんとよく二人でお風呂場の掃除をした記憶だ。

 お家の手伝いで僕がしていたのは、居間とお風呂場の掃除に時々洗濯物を畳む事。

 

 人数も、最初は僕、姉様、姉さん、ヴェイグさんの四人で、その内切歌お姉ちゃんと調お姉ちゃんが増えて六人での暮らしになった。

 

 いつでも誰かがいてくれて、僕は一人になる事がなかった。

 研究も仕事もなく、ただその日その日を楽しんでいるだけで良かった日々。

 お昼寝なんてしたのもこの世界に来てからだ。

 外を護衛の人達もなく歩ける事も、色んなお店を見て回る事も、遠出するのもここだから出来た。

 

「……でも、もう僕は一人じゃない」

 

 今の僕にはキャロルがいてくれるんだ。

 司令にはキャロルが僕と一緒の部屋で暮らしてくれる事を伝えてある。

 キャロルもそれでいいと言ってくれた。

 

 そこからは無言でお風呂掃除を続けた。

 

「なぁ、あの布団干したのお前か?」

「クリスさん? えっと、キャロルですけど……」

 

 湯船の掃除が終わった辺りでクリスさんが顔を出した。

 でも、何故か僕の顔を見て小さく笑った。

 

「ははっ! エル、お前顔を洗った方がいいぞ」

「え?」

「泡が付いてるんだよ。鼻の頭だ。多分洗ってる時に飛んだんだろうな」

 

 言われて鼻の頭を指で撫でると泡が付いた。

 

「しまったな。さっきの顔を写真に撮っておけば良かった」

「だ、ダメです! 恥ずかしいです!」

「あははっ、そうだよな。でも、あたしには可愛いって思えたぜ。ま、ちゃんと顔洗ってからリビングに来いよ?」

「分かりました」

 

 そう言ってクリスさんはお風呂場から去って行った後、僕は湯船から出て洗面所で顔を洗う事にした。

 

「……可愛い、のかな?」

 

 鏡に映った自分を見つめて首を傾げる。

 鼻の頭に潰れた泡の名残を付けた自分に疑問を浮かべるように。

 

 顔を洗ってリビングへ戻るとクリスさんがこたつに入ってみかんを食べてた。

 僕もその向かいに入ってみかんへ手を伸ばす。

 

「キャロルの奴は寝たのか?」

「はい。兄様と一緒です」

「へぇ、あいつも仁志に絆されでもしたか?」

「兄様と話すのは楽しいって言ってました。この世界にはキャロルも知らない事が沢山ありますし」

「主にアニメや漫画だろうがな」

「でも、意外と馬鹿に出来ません。人間の想像力はふとした事で素晴らしい発見や気付きをする事もありますから」

「そういうもんか」

 

 こうしてクリスさんとゆっくり二人で話すのも新鮮だ。

 それに、今のクリスさんはここへ来る前よりもお姉ちゃん感って言えばいいのか、そういう優しい雰囲気が強くなった気がするし。

 

「それにしても、まだどこか信じられないよなぁ。あのキャロルが大人しくお前の姉ちゃんするなんて」

「キャロルは、僕を通して皆さんの事や世界の事、そしてきっとヒーロー達の事も知ったんです。だから、パパが本当に願っていた事や望んでいる事を叶える方へ生き方を変えてくれたんだと思います」

 

 兄様が言ってくれた、僕がキャロルの良心だったという言葉。

 あれは、逆を言えばキャロル自身もどこかでパパの願いや望みを分かっていたって事だ。

 だから、今のキャロルは復讐を捨てたんだと思う。

 

 世界の全てを識るために世界を分解再構築なんてせず、自分の目で、耳で、肌で、世界を感じて識る事。

 それこそが今のキャロルの目標なんじゃないかなって、そう思う。

 

「じゃ、あいつもその内ウルトラマンとかライダーに夢中になるってか?」

「どうでしょう? キャロルはそれよりもアニメや漫画の方が興味ありそうです」

 

 あとはゲームも、かもしれない。

 そんな風に僕はクリスさんとお話ししながら過ごした。

 お昼はキャロルも起きてこないから二人でお月見うどんを食べた。

 こたつに入りながら食べるあったかいうどんはとても美味しくて、クリスさんとずっと笑顔を浮かべながら過ごせた。

 

 それと、今夜はお鍋らしい。

 元々兄様がそうしようとしてたのをクリスさんが冷蔵庫の中身から察して、同じ材料を買い足してくれたみたいだ。

 

「エルにも手伝ってもらうからな」

「はい!」

 

 あの頃もよくそうしてた。

 野菜の皮むきとかは僕や姉さんの役目だったようなものだし。

 それからはクリスさんと二人で兄様の持ってる漫画を読んだ。

 僕は初めて見た“ウルトラマン超闘士激伝”というタイトルを。

 クリスさんは“キッチンの達人”というタイトルを。

 

「……ウルトラマンはゼットンという怪獣に負けたんだ……」

 

 絵はデフォルメされているけど、多分本当にそうなんだろう。

 そこからどうやってウルトラマンの物語は終わったのかな?

 よし、兄様が起きたら聞いてみよう。きっと色んな事を教えてくれるはずだから。

 

 

 

「……んっ」

 

 ぼんやりと目を開ける。

 心地良い温もりが傍にある事に安心感を覚えて目を擦ると、ゆっくりと意識が覚醒していく。

 

「…………ああ、そうか」

 

 見えたのはまだそこまで見慣れない男の顔。

 だが、決して嫌いではない相手だ。

 俺にパパの知らない情報を教え、興味を惹く物語や知識を教えてくれる存在。

 何より、俺の失ったはずの思い出を、パパとの時間を取り戻させてくれた存在だった。

 

「エルにとってはもう一人のパパ、か」

 

 おかしな話だが、俺が意識を取り戻した後、エルは俺が知っているエルフナインではなくなっていた。

 俺の知っているエルフナインは、正論を述べるが意思が弱く、こちらが強気になると引くような奴だった。

 それが、引かなくなっていた。俺が強気で何か言おうと、それを冷静に受け止めて言葉を返してくるようになっていたのだ。

 

 驚き戸惑う俺へ、エルフナインは、いやエルはこう言ったのだ。

 

――もう僕は逃げる事はしないよ。キャロル、これからは僕が君のブレーキになってみせるから。

 

 それは、あの頃の、チフォージュ・シャトーで過ごしていた頃の事を言っているのだと分かった。

 計画のため、俺は敢えてエルフナインが離反するように仕向けた。

 だが、あの時、もしエルフナインが一歩も引かず俺と議論を重ねていたらどうなっていたのかと、そうあいつは考えたんだろう。

 

 あいつの言った“逃げる”とは、俺の心を、考えを変えるために他者の力を借りた事だ。

 もう誰かを頼る事はしないと言う事なんだろう。あるいは、自分に出来る事を全てやり尽くすまでは他者を当てにしない、だろうか。

 

 とにかく、エルフナインではなくエルとなったあいつは俺へ様々な事を話してきた。

 そのほとんどがこの上位世界での話だったがな。

 

「……パパ、か。なら、俺からすればこいつは小父だろうな」

 

 ここで初めて会話した事やその日の夕食の事など、こいつは俺に色々な事を教え、世話を焼いてきた。

 パパとは違う、大人の接し方だった。

 

「おじさんとでも、呼んでやろうか?」

 

 そう呼ばれた場合、こいつはどう反応するだろう。

 驚くだろうか、嫌がるだろうか、それとも喜ぶのだろうか。

 

――おじさん、かぁ。まぁ間違ってないから気にしないよ。

 

 ……容易に想像がつくのもどうかと思うが、何となくこんな反応だろうなとも思ってしまう。

 

「ん……? える?」

 

 そうしていたらあいつが目を覚ました。

 俺を見てエルの名を呼ぶ辺り、まだ完全に俺とエルの顔を識別出来ていないんだろう。

 と、そこでふと思った。俺がエルを装ったらこいつは気付けるのか、と。

 

「……はい、おはようございます兄様」

 

 内心でほくそ笑みながらエルらしく振舞う。

 目の前の男はそんな俺を見て一瞬瞬きをしたかと思うと、すぐに嬉しそうに微笑んでそっと頭を撫でてきた。

 

 懐かしさもあってか、少し喜んでしまう自分がいる。

 まぁ今の俺はエルだ。なら喜んでも問題ない。

 

「おはよう。今、何時か分かる?」

「すみません。ここには時計がないので」

「あ~、そっか。今後を考えるとここにも時計がいるなぁ」

「そうですね。あった方が便利だと思います」

 

 エルの口調は真似しやすいので助かる。

 おかげでこいつも俺がキャロルとは気付いていないようだ。

 

「そうだなぁ。じゃ、その時計を選んでもらってもいいか?」

「お……僕がですか?」

「そうそう。俺だと値段の安い物っていう判断でしか買わないからさ。女の子のセンスで選んでもらおうかなって。ダメか?」

 

 正直断りたいが、エルならば返事は一つだろう。

 

「分かりました。僕で良ければ喜んで」

「そっか、それは嬉しいよ」

 

 満面の笑顔で俺の頭を撫でるこいつに、何というか妙な苛立ちが湧いてくる。

 

 どうして俺だと気付かないのか。

 エルの奴はいつもこうしてこの男に可愛がられていたのか。

 何故俺はエルと同じ接し方をされて嬉しくなっているのか。

 

 何とも言えない気持ちが俺の中で混ざり合って感情がおかしくなりそうだ。

 

「さてと、このままだと二度寝しそうだし、そろそろ下へ行こうか」

「え?」

 

 い、いかん。このままだと俺がエルではないと気付かれる。

 そうなったらエルやあの女が俺のした事を知り、他の奴らにまで言いふらされる!

 

「ま、待ってください」

「へ?」

 

 布団から出ようとするあいつを引き留め、俺は知恵を巡らせる。

 一番いいのはもう一度寝かせる事だ。その間に俺はここを抜けだし、エルの奴へ入れ替わればいい。

 あるいは、あいつへ今の会話を伝えるかだな。あいつがお前に伝えておいてくれと言っていたと。

 

「その、もう少し兄様と話をしたいです」

「……リビングでも出来ると思うけど?」

「ふ、二人だけで話がしたいんです」

 

 今はとにかく時間を稼ごう。この男は疲れているはずだ。なら、もう一度寝る事もあるかもしれない。

 

「二人で、ね。いいよ。どんな話がしたいんだ?」

 

 よ、よし、とりあえずは何とかなった。

 後はここからどうするかだが、こちらから話を始めるのは不安がある。

 

「兄様が最近気になっている事はなんですか?」

「俺が最近気になってる事、かぁ。そうだな……最近と言うか今日気になった事なんだけど」

「今日?」

「ああ。エルとキャロルは二人に別れただろ? 今後、キャロルはどうするんだろうなって」

「それなら心配いりません。一緒に暮らす事になっています」

「そうなんだ。じゃあ、キャロルもエルと同じで研究員をするの?」

「そうなると思います」

「なら良かった。これでエルも相談相手が出来るし、キャロルも自分の知識を教える相手が出来てより理解が深まるな」

「理解が深まる?」

 

 どういう意味だ。俺は既に自分の知識への理解など終えていると言うのに。

 

「人はね、誰かに知ってる事を教えようとすると、そこで自分の中で整理をするんだ。どう言えば分かり易いか。何をどう伝えれば自分の思っている事が伝わるのかってね。それが自分の中の知識をよりはっきりとさせてくれて、今までよりもしっかりとその事を理解出来るんだ」

「……そういうものですか?」

「そうなんだよ。自分の知識を人に教える経験なんて今まで出来なかっただろう?」

「はい」

「やってみると色々と発見があるもんだよ。だからちゃんと相手と色々意見を交わしてみるといい。きっと今まで見えなかった景色が見えてくるはずだから」

 

 言いながらあいつは俺の頭を優しく撫でる。

 それが一瞬だがパパに重なった。

 

――キャロルは賢いなぁ。この分だと錬金術の知識でも負けてしまいそうだよ。

 

 少しごつごつした手。男の、手。

 それが優しく撫でてくれる感触は、今もはっきりと覚えてる。

 不器用で、頼りなくて、優しかったパパ。

 それと似たものを、今、俺はこの男に感じている。

 

 ああ、そうか。これをエルの奴も感じ取ったんだ。

 だからこいつをもう一人のパパと思うようになったんだろう。

 

「ふわ~ぁ……やっぱまだ眠いな。悪いけどもう少し寝かせてくれるか?」

 

 気付けばあいつがそんな事を言っていた。

 慌てて我に返って頷いて布団から出る。

 かなり寒いが今は我慢してやる。千載一遇の好機だ。

 

「お、おやすみなさい、兄様」

「うん、おやすみ」

 

 あの男が目を閉じたのを確認し、俺は静かにドアを開けて寝室を後にする。

 あとはエルに時計の事を伝えておけばいいだけだ。

 そう思いながらドアを閉めて俺は階段を下りた。

 

 

 

 小さくなっていく階段を下りる音を聞きながら仁志は小さく笑みを浮かべていた。

 

――可愛いとこ、あるじゃないか。エルの振りをするなんて。時計、ちゃんと選んでもらうからな、キャロル。




ある意味オタクな仁志に声真似が出来ないなりきりは通用しません。
中の人であれば寄せたり出来るかもしれませんが、キャロルにそんな事は無理ですし。

それでも最後まで付き合い、途中で気付いているよとヒントを出す辺り、仁志も大人かもしれません。

今後の展開について

  • エロを描くために18禁へ続きを書く
  • 現状のような形式で続きを
  • いっそエロは削ぎ落してほのぼの重視
  • これからは番外編のような鑑賞会などを中心
  • いっそここからの新展開を
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