Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
後悔はしていない。
ウサギと戦車
それは、遠い昔から伝わる伝説。
世界を蝕む「波」と呼ばれる災害、空に走った亀裂から現れる無数の魔物が、たくさんの人々を苦しめる。
その災いに慈悲などなく、人々は抗うことなどできはしない。
しかし人々には希望がある。
世界を守る聖なる四つの武器。それらに選ばれた四人の戦士が、異世界より現れ人々を魔物から救うからだ。
波に唯一対抗できる彼らがいる限り、人々に絶望はない。
謳われるその名は、四聖勇者。
Side:???
「……へー、それがこの世界の常識なのか」
一冊の本を読み終えたオレは、用は終わったとばかりに適当にそれを放り捨てる。
とある本屋で立ち読みしているオレの足元には、同じように読み終わった本が山になって積み重なっていた。
どれも四聖勇者、特に四聖武器について書かれたものばかりだ。
オレの名前はセント。
とある理由であちこちの国を回っている、根無し草の旅人だ。
この国の本屋に立ち寄った理由は、最近召喚された四聖勇者について調べるためだ。
なんで調べてるかって? 決まってんだろ。
聖なる武器が一体どんなものか、隅から隅まで調べるためさ!
「勇者を選ぶ聖なる武器…一体どんな素材でできているんだろうな! いやぁ〜、気になって仕方がない!」
思わず声をあげてはしゃいでいたオレだったが、ふと聞こえてきた咳ばらいについビクってなった。
見ると本屋の店主のおっちゃんが、すっごい目でオレを睨んできてる。
あの、すみません。
騒ぎすぎたのと散らかしたのは悪かったんで、そんなに怒んないで…。
…ダメ? 今すぐ出てけ? マジ?
「ぐへぇっ⁉︎」
「ったく…亜人のくせにご立派に本なんて読んでんじゃねぇよ!」
いってぇ!
ほんとにあのおっちゃん叩き出しやがったな。乱暴だなまったく!
…いや、確かに売り物を粗末にしたオレが悪いんだけどさ。
後ろ姿からも分かるほど怒ってるおっちゃんを見てると、すっごい申し訳なくなってきた。
でも亜人のくせにってのはひどくない?
「でもまぁ……欲しかった情報はもう手に入ったしいいか」
パンパンと土を払って、ついでに乱れた耳と尻尾も整えて、立ち上がる。
あとは……噂の勇者様を探しに行くだけだ。
メルロマルクで勇者召喚が行われたのは知ってる。しかも今回は四人全員を召喚したって話だ。
なんか各国が怒ってるって話だけど…その辺はどうでもいいか!
「問題はどの勇者様に会うかってことだな」
聞いた話じゃ、四人の勇者のうち盾の勇者は相当な悪党らしい。
召喚された翌日に、わざわざ仲間になってくれた女の子を襲ったって聞いたし、それで城を追い出されたとか。
……うん、探すなら盾の勇者以外のやつだな。
オレだって普段はか弱い女の子だもん、強姦とかノーセンキュー!
…で、誰のところに行くべきか。
仲間思いで有名な槍の勇者様か。
冷静沈着な剣の勇者様か。
正義感に溢れる弓の勇者様か。
う〜ん、迷う。
「……とにかく、どっかその辺歩いてみるか」
オレの故郷(?)でもよく言われてたしな。
『案ずるより産むが易し』とか『千里の道も一歩から』とか。
…あれ、使い方違った?
いやいや合ってるよきっと、ダイジョーブ。
勇者様だってそこらの宿とか飯屋とかで休んだりするだろうし、きっとそのうち見つかるさ!
…その前に。
「こいつの調子を確かめておかないとな」
Side:Naohumi
俺の名前は岩谷尚文。
金欠で図書館で暇つぶしをしていた時にふと見つけた、四聖武器書という本を読んでいると、いきなり異世界に「盾の勇者」として召喚された。
最初は期待していた俺だったが、現実は最低だった。
思い出すのも、気分が悪い。
地位も名誉も金も、何もかもを奪われてこんなクソみたいな世界で生き延びる羽目になっている。
帰りたくても、世界を救うまでは叶わないときた。
ふざけやがって!
仕方がないからお望み通り、力をつけて波に挑むしかない…だが。
防御に特化した盾の勇者である俺には……攻撃力がない。
「ご主人様!」
だから俺は、戦うための剣の代わりとして奴隷を購入した。
ラクーン種…狸っぽい耳が生えた10歳くらいのラフタリアという女の子だ。
病気持ちで夜中にパニックを起こすというこちで非常に安く売られていたのを、俺が選んで購入した。
だが今……俺もラフタリアも窮地に追いやられている。
「離れるなよ! 守れなくなる!」
「は、はい!」
もはや日課のようになっている、魔物相手のレベリング。
もう少し手応えのある相手を探そうと草原に入ったら、とても捌き切れない数の魔物に取り囲まれてしまった。
くそっ! なんでこうなるんだよ!?
「ぐっ!」
「ご主人様!?」
「だ…大丈夫だ。お前はお前の心配をしろ!」
一体一体はそれほど強くないが、それでもこの数だ。
袋にされたらたまんねーぞ!
俺の防御力なら、これくらいゴリ押しで抜け出せるかもしれない。
だがラフタリアはまだ弱い……隙をついてやられたら目も当てられない。
なんとしてでも、こいつだけは守らなくては!
そう、覚悟を決めた時だった。
「手を貸そうか、お兄さん!」
「は?」
どこからか声が聞こえたと思ったら、俺の目の前にいたキノコっぽい魔物が勢いよく吹っ飛んだ。
俺もラフタリアも、魔物達も何が起こったのかわからず、ポカンとなる。
そんな俺たちの前で、そいつは蹴り上げた足を下ろして、振り向いた。
「危ないところだったね?」
そいつを一言で言うなら、ウサギだった。
灰色の髪から同じ色の長い耳が立ち、メガネをかけた整った顔立ちの中の黒い瞳が俺を見つめる。
尻からはふわふわの丸い尻尾が見える。
かなりの美人なんだが、顔を見ただけで変わり者っぽい雰囲気を感じる。
何だ、こいつは?
「誰だ、お前」
「自己紹介はあとあと! とにかくこの窮地を乗り越えなきゃ始まらないよ」
そう言ってそいつは、腰に巻いたポーチから何か黒い、妙なものを取り出す。
歯車とハンドルが付いた…なんだアレ?
それを自分の腰に当てると、黄色いベルトが巻きつく。
「さぁ、実験を始めようか」
そう言ってそいつは、赤と青ののヤ○ルトみたいな容器を取り出し、シャカシャカと上下に振る。
そしてキャップをひねると、逆さにしてベルトにはめ込んだ。
【ラビット!】【タンク!】【ベストマッチ!】
…なんか機械っぽい声が変なことを言ってる。
ウサギ? 戦車? なんでその二つがベストマッチ?
混乱する俺たちをよそに、そいつはハンドルに手をかけ、ぐるぐると回し始めた…って。
「うおっ!?」
奴がハンドルを回すと、ベルトの歯車が回って管が生えてきた。
それは工場のパイプのように張り巡らされ、奴の前後でプラモデルのランナーみたいになる。
いや、マジでなんだこれ!?
【Are you ready?】
「変身!」
奴がそう言った瞬間、ランナーがそいつを挟み込み、一つになる。
赤色のウサギと青色の戦車をモチーフにしたような、機械的な鎧に。
【鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェイ!】
蒸気を放つ鎧をまとったそいつは、これまたウサギと戦車を模したでかいサングラスを指で撫で、ピンと弾く。
そして、赤と青のオッドアイとなった目を光らせ、不敵な笑みを浮かべた。
「オレの名は、セント…そしてこの鎧の名は、ビルド。『作る』『創造する』って意味のビルドね」
とても中世っぽいファンタジー世界には似つかわしくない、とんでもない変身をやらかしたそいつ…セントに俺は釘付けになる。
ラフタリアなんて口を開けて突っ立ってるし。
そんな俺たちを放置し、セントはものすごい跳躍で魔物に接近し、恐ろしく思い蹴りを放った。
「どっせい!」
それだけで、何体もの魔物がまとめて吹っ飛ばされて行く。
ウサギの速さと戦車のパワー。
まったく合わなそうで相性がいい二つの力が、面白いぐらいに魔物を蹴り飛ばしていった。
すげぇな、特撮ショー見てる気分だ。
「! ご主人様!」
「ちっ!」
だがボーッと見ているわけにもいかないらしい。
半分くらいは奴に引き寄せられていったが、他は変わらず俺たちを狙ってくる。
だが、この数なら…!
俺はすかさず襲ってくる魔物を押さえつけ、ラフタリアの方に投げ飛ばした。
「今だ、いけ!」
「はい!」
ラフタリアはすぐに応じ、空中で逃げ場をなくした魔物をナイフで両断する。
それほど強くはないそいつらは、簡単に仕留められた。
「勝利の法則は、決まった!」
【Ready go!】
気づけば、ゴリラっぽい大型の魔物を相手にしていたセントの方も、いつの間にか出したドリルっぽい武器を振り回している。
それがギュインギュインと回転し、魔物の腹を思いっきり切り裂いた!
【ボルテックブレイク!】
「ゴァアアア!!」
ドリルがなんかものすごい力を発したのか、まともにそれを受けたゴリラが地面に倒れこむ。
白目を剥いていて……完全に仕留められたみたいだな。
とか思ってると、セントはゴリラに向けてさっきのやつみたいな容器を構えた。
なんだ? 縦に素材を吸わせたみたいにゴリラが粒子みたいになって吸い込まれていったぞ。
「うっし!」
満足したらしいセントが、ガッツポーズとともに容器をポーチにしまう。
そうしてそいつは、ベルトの容器を外して元の姿に戻り、俺たちの方に近づいてきた。
…なんかオタク的に心が踊る瞬間を見た気がするが、正直いってそれどころじゃないな。
「…で、お前は何者だ?」
背中にラフタリアをかばいながら俺が言うと、セントは苦虫を噛み潰したような顔になった。
おい、俺の方が空気が読めてみたいじゃないか。
やめろその目!
「普通さぁ……ここはありがとうじゃないの? 自分で言うのもなんだけど、オレ一応恩人だよ?」
「どうだかな。信用を得て後で裏切るようなやつかもしれない」
「な、なんつー疑心暗鬼の塊…」
頭を抱えて唸るセントだが、知ったことか。
俺はそうやって、親切そうに話しかけてきたやつに裏切られてんだ。
もう油断なんかしない。
「…まーいいや。お礼が欲しいわけじゃないし、ピンチっぽかったから手助けしただけだし、気にしないで」
ヘラヘラ笑ってそう言うが、どこまで本気なんだか。
本気だとしたら……相当お人好しだな、こいつは。
「あの…だったらどうしてこんなところに?」
空気を読んだのか、ラフタリアが俺の後ろから覗き込んで尋ねている。
たしかに、俺たちを助けたのは偶然っぽいからな……こいつにもここにくる目的があったんだろう。
「あ、オレ? ちょっとした人探しの途中でさ、よかったら教えてくれたら……」
人懐っこそうな笑みを浮かべて聞いてくるセント。
だがその顔が、急に固まった。
…俺を、じゃないな。俺の……盾を見てる?
そのうち、盾を凝視していたセントの表情が引きつり始めた。
「…………もしかしてさぁ」
「あ?」
恐る恐る、なんか信じられないって感じで俺に聞いてくる。
…ああ、やっぱそういうことか。
「君って……盾の勇者?」
「…それがどうした」
「おーぅまーいがーっ‼︎」
不機嫌な声で答えた俺の前で、セントはがくーっと膝をつき、天に向かって悲痛な悲鳴をあげていた。
悪かったな、クソ!!