Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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虚飾の宴

Side:Naohumi

 

「勇者諸君! この度は誠に大儀であった! 前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せん!」

 

 杯を持った王が、うざったく笑いながらそう告げる。

 この場にいるのは、勇者を除けばほとんど今回の波に関わっていない連中ばかりだ。

 特に何もしていない貴族たちが、なぜか誇らしげにそこにいた。

 

「今宵は宴だ! 遠慮せずに楽しむがいい!」

 

 そこらに目を向ければ、どいつもこいつも我が物顔で集まっている。

 ほとんど無能でしかなかった騎士団長にいたっては、自分こそが村を守ったとうそぶいてやがる。

 何でこんなクズどもの集まりに顔を出さなければならないんだ。

 

「…呑気なもんだな。波の傷跡はまだ残ってるっていうのに」

 

 思わずため息がこぼれる。

 さっさと出て行きたいが、報酬の事もあるから城に残る必要がある。まったく、うまくいかないことだらけだ。

 

「ていうか、ラフタリアもセントもどこ行ったんだ?」

 

 さっきから二人の姿が見えない。どこで油を売っているんだ?

 と、思っていると……なんか、テーブルの一角に張り付いて、無我夢中で料理にかぶりついている奴がいる。

 あれ、セントだよな? 隣には困惑してるっぽいラフタリアもいるし。

 

「今のうちに食いだめしとけ!」

「えっと…はい」

「お前ら…」

 

 あのバカウサギ…なんかもう、見てられない醜態をさらしてやがる。

 いや、食いだめには賛成だし、量もあるようだからたらふく食ってもいいとは思うが……なんか、全力で女捨ててる感が半端ない。

 間近で見てるラフタリアも、さすがに拒否感が働いたようだ。

 偶然、反面教師みたいになっているな。

 

「とりあえずその貧乏くさい食い方はやめろ」

「ん? おおナオフミ! なんか包めるもの持ってないか? 少し持って帰ろうぜ」

「マジで貧乏くさいからやめろ」

「えー…じゃあ今食えるだけ食っとく」

 

 ぶーたれながら、セントはまた料理に視線を戻す。

 ……俺も一瞬、タッパーがあれば持って帰れそうだと思った事は言わないでおこう。

 

「ラフタリアも今のうちに食べておけ……もっとも、セントの真似はしなくていい」

「あ、はい…でも、たくさんあってどれにしたらいいかと…」

「食べたいものを食べればいいだろう」

 

 ちらちら料理を見るラフタリアが、なんかもじもじしながら俺を見てくる。

 何だ、そのしぐさは? あのクソ女を思い出すからやめさせたいんだが、どうも演技には見えないような気もしなくない。

 ……本気で太ることを気にしてるのか。子供でも女だな。

 

「な、ナオフミ様は……太った女の子はお嫌いですか?」

「……別に見た目の好みはない」

「そう…ですか」

 

 なぜかがっくり肩を落として、ラフタリアは俺から目を背ける。

 まともに返答されなかったのがそんなにショックか? …いや、そんな仲でもないだろうに、勘違いだな。何をやってるんだ俺は。

 ちなみに俺の見ていないところで、セントが何かラフタリアに耳打ちをしていた。

 

「ダメだよラフタリアちゃん、ナオフミってばえげつないくらいの鈍感なんだから。その程度の攻めじゃ落とせないって」

「うう…! でも正直に言ってしまうのは恥ずかしいです…!」

「その恥ずかしさを乗り越えろ! 傷つくことを恐れていちゃあ、恋愛なんてできないぞ! …オレも経験ないけど」

 

 なんかぼそぼそ話していたが、女子の会話の内容なんか毛ほども興味がない。

 同性同士でなきゃ離せない事もあるだろうしな、首を突っ込むのは野暮だ。もしくは藪蛇だな。

 こいつらの話がひと段落するまで待っててやるか。

 そう、思っていた時だった。

 

「おい尚文!」

 

 離れた場所で、ハーレムっぽいパーティメンバーと話していたはずの元康が、ずんずん肩を怒らせながら俺の方に向かってくる。

 思わず眉間にしわを寄せる俺の目の前で、元康は指を突き付けて睨みつけてきた。

 

「聞いたぞ! お前と一緒にいる二人は、奴隷なんだってな!」

「は…?」

 

 いきなりそんな事を言われて、俺は思わずぽかんと呆ける。

 料理を口にしていたラフタリアとセントも、こっちの騒ぎに気づいて振り向いていた。

 

「ふぇ?」

「むぐ?」

 

 …おい、頬にため込むな。行儀悪いだろうが。

 バカウサギもラフタリアに変なもの真似させるなよ。こいつが大人になった時、そのまんまになったらどう責任取るつもりだ。

 ていうか、何で元康がそんなこと知ってるんだよ。

 

「…それがどうしたってんだ」

「何だと…!? 人は隷属させるものじゃない! そんな行為、俺達勇者には許されないんだ!!」

 

 俺が面倒くさそうに答えたのが気に入らなかったのか、ますます元康はうるさく喚き散らしてくる。

 うるせぇな……お前のせいで関係のない貴族たちまでこっちを見だしてるじゃないか。うっとうしいなおい。

 

「許されない? 誰が許さないって言うんだ。この国は別に奴隷を持つことを禁止しているわけじゃないだろう」

「お前…!」

 

 俺がそう言うと、元康は自分の手袋を外し、俺に投げつけてきた。

 お前は何時代のどこの国の人間だよ。なんで素面でそんな気障ったらしいことできるんだよ。俺の方が恥ずかしくなってきただろうが。

 …なんて、現実逃避してる場合じゃなさそうだな。

 

「決闘だ! 俺が勝ったら、ラフタリアちゃんとセントちゃんを解放してもらうぞ! もしお前が勝ったらそのまま好きにすればいい!」

「断る。勝っても俺に一切メリットがないじゃないか」

「逃げるのか卑怯者!」

「逃げるも何も、受ける理由がないだろうが!」

 

 こいつは馬鹿なのか? 俺が奴隷を持っていようと何の関係もないだろうに。

 そういえばこいつ、教会でラフタリアとセントを見てかなり気に入ってたようだな……俺から引きはがして自分のハーレムに巻き込むつもりか?

 あほらし。放っておくのが吉だな。

 

「話の顛末は聞いた」

 

 あ? 何でこの場に王が出しゃばってくるんだ?

 しかも相変わらず俺の方を見下してくる目だし、なんか面倒なことを考えてる予感しかしない。

 

「まさか、勇者が奴隷を持っていようとは……所詮は盾ということか」

「何だよ。お前たちにとやかく言われるいわれはないはずだ」

「おおいにあるとも」

 

 フン、と鼻で笑った王は、意味深に元康の方を見やる。

 …いや、元康じゃないな。元康の隣にいる、憎たらしい笑みを浮かべているあのクソ女の方か?

 

「此度の決闘、ワシが許可する。逆らわずに応じるがいい」

「おい! ふざけるなよ!」

 

 ちょっと待て!

 こんな事にまで口を挟んでくるのかよ!? もはや暴君じゃねーか!!

 さっきから俺のメリットも欠点もガン無視しまくるし、付き合ってられるか!!

 さっさと二人を連れて出てってやる!! 報酬なんぞ知るか!!

 

「ナオフミ様…きゃっ!?」

「な、何するんだよ!?」

 

 俺が歩き出そうとしたその時、ラフタリアとセントの腕を兵士たちがつかみ、拘束するのが見えた。

 抵抗する二人だが、兵士の方がレベルが高いのか振りほどけていない。

 

「たとえ勇者といえど、女子を隷属するような行為を見過ごすわけにはいかん。応じぬのなら、国王の権限において強引にでも取り上げるまで!」

「待ってください! 私は…むぐ」

「かわいそうに……主人を擁護せねば苦しむ呪いをかけられているのだろう。待っていろ。すぐに槍の勇者殿がお前達を解放してくれよう」

 

 二人はさらに猿ぐつわまで噛まされて、反論もさせられなかった。

 ふざけんなよ…! ラフタリアたちの身を案じているような言葉を吐いておきながら、完全に二人の意志を無視してんだろーが!!

 無理やり拘束しておいて何がかわいそうだ!!

 

「……決闘には参加させるんだよな」

「勝負の景品を使わせるものがどこにいる? 決闘が終わりさえすれば2人は開放する。さぁ、早く準備を終わらせよ」

「おい、なに勝手なことほざいてやがる!!」

 

 俺の反論も無視して、連中はラフタリアとセントを引きずってどこかへ連れ去っていく。

 俺は二人を取り戻そうとするが、兵士に阻まれてそれもできない。

 馬鹿か!? 俺は攻撃力がないんだって言ってんだろうが!!

 しかも他の勇者に比べてはるかに弱いってのに…!! ただの出来レースじゃねぇか!!

 

「ナオフミ!」

 

 怒りに肩を震わせていた俺は、不意に届いたセントの声で我に返る。そして、空中に弧を描いて飛んできたものを慌てて受け止めた。

 これは……こんな物、あいつ以外に使えないのに何の意味が…。

 訝しげに見つめる俺に、セントはどうにか引き抜いた右手を伸ばし、俺に親指を上に立ててきた。

 

「やっちまえ! むぐっ…」

 

 それだけ言って、セントも猿ぐつわを噛まされる。

 あっという間に二人の姿は見えなくなり、残された俺はさっさと行けとばかりに兵士に小突かれる。

 何だこれ、この場には馬鹿しかいないのかよ。

 思わず渡されたものを握りしめ、拳を震わせる。

 

「……ん?」

 

 だが、その時感じた違和感に、俺の怒りは一瞬だけ薄らいでいた。

 手を震わせた時に生じた、俺の中の異変。

 これは……そういう事なのか?

 もしかしたら……いけるかもしれない。

 

「……ああ、任せておけ」

 

 …あいつらだって、俺よりも元康の方がいいと思うかもしれない。

 最弱の、勇者扱いされない奴のところよりも、他の奴の方がマシと……俺だって考えるだろう。

 だからって、あいつらに一方的にやられて黙っていられるわけがない。

 

「せめて一矢報いるぐらい、別にいいよな」

 

 ならまずは……あの顔だけの野郎に、一発ぶち込んでやる。

 そのためにこの力……使わせてもらうぞ。

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