Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Sento
兵士たちに拘束され、オレとラフタリアちゃんは闘技場っぽいデカい建物の中に引きずられていく。
何だここ、ものすごく使いどころが難しそうな場所だな。
こんなんに金かける余裕あったら復興に金出せよ!!
「これより、槍の勇者と盾の勇者の決闘を行う!」
そしてオレたちの意志もガン無視して、進行役が声を張り上げる。
闘技場にはすでに、余裕綽々と言った様子の槍の勇者が待っていて、少し遅れてナオフミが現れる。
その途端、ざわざわと辺りから小馬鹿にするような声が聞こえてきた。
「もはや勝負にもならないだろうな」
「盾が槍の勇者に勝とうなんて…」
…たぶんナオフミにも聞こえるくらいの声量のつもりでしゃべってるんだろうな。
わざとらしい小声ってめっちゃ腹立つなオイ。
「んんっ…!」
「んー! んんんんー!」
正直、こんな茶番は今すぐにでもやめさせたいところだけど、むっちゃくちゃきつく縛られてて身動き一つとれない。
隣のラフタリアちゃんを見れば、悔しいのと悲しいのですげぇ辛そうな顔をしてる。
あいつら、ウチのかわいいラフタリアちゃんを泣かせるたぁいい度胸じゃねぇか!! あとで覚えてろよ!!
「盾と矛がぶつかったらって昔話があるけど、この場合は結果は明確だな! あの娘たちのためにもさっさと負けちまえ!」
槍の勇者はすでに勝利を確信してるみたいだな。
確かに、はっきり言ってナオフミは防御力以外はザコだし、勝てる要素は一つもない。
…もし勝てるとすれば、オレが渡したあれを使えば、だな。
ちゃんと持ってるのか、そしてちゃんと使い方に気づいてくれたのか、オレは一度抵抗をやめてナオフミの方にじっと目を向けた。
「……お前がどう言ったって話を聞かないのも、俺の負けが確定してるのもわかってるよ、だがな…! ただでやられると思うなよ…!」
槍の勇者を睨むナオフミの目が、いつにも増して険しい。
当たり前だよな、こんな決闘言いがかり以外の何ものでもないし、あんだけイライラしてるのも当然の話だ。
よし、決めた。
結果がどうなろうと、あの野郎の顔面思いっきり殴る。
「それでは……試合、開始!!」
「うおりゃあああああああ!!」
レベルによる補正か、槍の勇者が構えだけは立派な突きを放つ。
ナオフミはそれを盾で防ぎ、キーンと甲高い音があたりに響き渡る。
レベルに差があっても盾の勇者だ、あんな舐め切った攻撃が通るはずもない。
「矛盾…辻褄が合わないことを意味する言葉だ」
「はぁ?」
「これが本当に盾と矛の戦いなら……俺の盾を貫けなかった時点でお前の負けなんだよ」
うまい! 座布団一枚!
思いっきり笑ってやりたいけど、猿ぐつわが邪魔でうまく声が出せない。
ああ……マジでうっとうしい。
「そ、そんな屁理屈で納得できるわけないだろ! 乱れ突き!」
「くっ…!」
揚げ足を取られた槍の勇者が、今度は本気を出して攻撃を始める。
攻撃力がナオフミの防御を上回り、突きを受けたナオフミが血を流す。が、やっぱりまだ決定打には至らない。
「くそっ…! 無駄に高い防御力しやがって!」
「今度はこっちの番だ」
攻撃が止んだ隙に、ナオフミが拳を振りかぶって接近する。
それを見て、周りの観客から馬鹿にするような失笑が聞こえてきた。
「フン、盾のパンチなんて毛ほども痛くないわね」
赤髪の女が腹立つこと言ってるけど、その余裕がいつまで続くかな?
案の定、ナオフミが手に持っているものに気づいていない。ついでにナオフミが、走りながらそれを上下に振っていたことにも。
そしてオレの予想通り、逆に大勢の人間の予想を裏切り、ナオフミの拳が当たった瞬間、槍の勇者が大きく吹っ飛ばされた。
よっしゃあ!
「モ、モトヤス様!?」
「げふっ…!? な、何で、ナオフミの攻撃なんかでダメージが…!?」
イェーイ! その顔が見たかったんだよ!!
見下すことばっかしてるから、こうやって足元をすくわれるんだよバーカ!!
ラフタリアちゃんもちょっと驚いてるな。サプライズ成功って事で、ラフタリアちゃんにウィンクしておこう。
「んー! んー!」
このままならいけるかもしれない…!
通じるとは思わないけど、せめて応援する気持ちだけは届けておこう。
だが槍の勇者もさすがに勝手が違うとわかったのか、ナオフミから警戒するように距離をとり始めた。
あっ、逃げんなお前! 大人しく殴られやがれ!
「ちっ…同じ手を何度も喰らうかよ!」
「なら別の手だ」
言いながらナオフミは懐に手を入れ、オレンジ色の何かを取り出す。
槍の勇者に向かって投げられたそれが…口を開けた!?
え!? あれってバルーンか!?
懐にそんなん入れて大丈夫なの!?
「いでっ、 いでででで!? なんでバルーンが!?」
ナオフミに投げつけられたバルーンが、槍の勇者にガブガブ噛みついている。
ルール的にはどうかと思うけど、もともとアンフェアな勝負を持ち掛けてきたのは向こうだしいいよな!!
……ていうかナオフミ、魔物使いみたいになってない?
「反則だわ! 魔物を隠し持っていたなんて!」
「んーんーんー(うるせぇなアバズレ)」
「ちょっと! 今なんかムカつくこと言ったでしょ!?」
いやマジでうるせぇから黙れ。あいつの苦労も知らないくせに好き勝手言いやがって。
これぐらいの嫌がらせ許してやれや。魔物を使うなってルールもなかっただろうが。
ていうか結構離れてるのによく聞こえたな。
「エアストシールド! シールドプリズン!」
「ぐあっ!?」
バルーンの相手で苦戦している槍の勇者に、ナオフミがたたみかける。
半透明の盾を腹にぶつけ、盾でできた檻で閉じ込める。その中でやりの勇者は、ガブガブとバルーンたちにあちこち噛まれまくっているようだ。
「ちくしょう! イテェ! 離れねぇし出られねぇ!」
うっわぁ……想像するだけで鬱陶しそう。
こういういやらしい戦法よく思いつけるな。オレがやられたら早めに降参しそう。
けっこう息も絶え絶えになっている槍の勇者に、ナオフミはなんか…物凄い悪役っぽい笑顔を浮かべて近づいていった。
…なんか、生き生きしてない?
「さーて、今度はテメェの自慢の顔と股間に……今一番活きがいいこいつらを食らわせてやろうか…!」
「や、やめろぉ!!」
「不能になりやがれぇ!!」
オレはよくわかんないけど、男の急所?に狙いを定められて槍の勇者が真っ青になる。
やり方はアレだけどいいぞ、このまま降参まで持っていかせれば勝てる…!!
そう思った直後。
ナオフミの背中で、見えない風の爆発が起きた。
「て、てめぇ…!」
倒れこむナオフミを凝視し、何が起こったのかわからず、茫然となるオレとラフタリアちゃん。
するとオレの視界に、にやりと憎たらしい笑みを浮かべた赤髪の女の姿が映る。
あいつ…何かしやがったな!?
「俺の勝ちだ!」
怒りがわき出すオレたちを放置し、バルーンを蹴散らした槍の勇者がナオフミの首元に槍を突き付ける。
誰も納得しない形で……決着がつけられてしまった。
Side:Raphtalia
「ふざけるなよ…! 今のは無効だろ、完全に横槍が入ったじゃねぇか!」
「はぁ? 勝手によろけただけのくせに何言ってんだ」
「違う!」
歓声が轟く中、地面に倒れたナオフミ様が抗議の声をあげます。
それも当然です。あのままいけば……もしかしたらナオフミ様が勝てていたかもしれないのに、邪魔が入ったのですから。
おそらく使われたのは、周りからは気づかれにくい風の魔法。
そして使ったのは、槍の勇者様といつも一緒にいる赤い髪の女性でしょう。
「盾のいうことになど耳を貸す必要はありませんわ。これは紛うことなきモトヤス様の勝利……」
ナオフミ様の声を一方的に否定し、宣言するあのマインという赤い髪の女性。
何が勝利ですか…! こんな決着で納得できるわけないじゃないですか!!
怒りをあらわにしたい私達ですが、この状態では声も出せません。
ですが、その怒りを一瞬忘れるほどに、衝撃的な言葉を聞かされました。
「そうよね、パパ?」
え? パパ…?
マインさんの言葉に応じてやってきたのは……王様?
という事は……マインさんはこの国の、王女様?
「ああそうだとも、我が娘マルティ。卑劣な盾の勇者の勝利などあるはずもない」
「ほら、パパもこう言っていますわ」
「だよな! よくそんな負け惜しみが言えるもんだな」
国王が味方に付いたことで、槍の勇者様は完全に勝利を確信しています。
私もセントさんも、言葉が出ませんでした。
「まさかマインが王女だったなんて……言ってくれればよかったのに」
「私も世界平和のために働きたかったんです! 色々ありましたけど、今はモトヤス様のそばにいられて幸せですわ」
わけが、分かりません。
王女がなぜ……勇者のパーティーに。あのような方が、本心から平和を願うようには思えません。
戸惑う私達を無視し、槍の勇者様たちが近づいてきます。
「さぁ、二人の奴隷が待っていますよ? お前たち!」
魔法使いらしき人たちが、私達の衣服の胸元を開き、奴隷紋をあらわにさせます。
そして何かの液体を垂らした途端、私達の体を痛みが襲い、奴隷紋を見る見るうちに消していきます。
これは…奴隷契約を消している…!?
こんな……勝手な!!
「俺が…盾だからか…!?」
奴隷ではなくなった私達を見たナオフミ様が、項垂れながら切ない声を上げています。
人を信用できなくなった、そして誰かと共にいなければ戦えないナオフミ様にしてみれば、私達を失う事は武器を失くすことと同じこと。
その悔しさは、一体どれだけの事でしょうか。
「さぁ、モトヤス様が待っていますよ」
「ラフタリアちゃん! セントちゃん!」
周りで好き勝手話している人たちの姿など、私の目には映りません。
私にはただ、黒いオーラを纏って慟哭するナオフミ様の姿しか見えません。
…もう、我慢の限界でした。
「この……卑怯者!!」
恩着せがましい笑顔で駆け寄ってくる槍の勇者様に、私は声を荒げて平手を振るいました。