Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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聞きたかった言葉

Side:Naohumi

 

 なにも、聞きたくなかった。

 俺は何もやっていないのに、誰もが俺を犯罪者と決めつける。

 俺を裏切り、その上強姦の汚名まで着せてきたあの女に、何でここまでされなくちゃいけないんだ。

 勇者共は現実を見ない、王や貴族は波なんて人ごと、民衆まで俺を敵と見る。

 何で、何でこんなクソったれな世界を守らなくちゃならないんだ…!?

 

「私たちが、いつ、助けてくださいなんて願いましたか!?」

 

 どす黒く濁っていく世界の中で、ふとそんな声が聞こえた。

 何か、破裂するような音の後、誰かが誰かに起こっている声が聞こえる。

 これは……ラフタリアか?

 

「なっ…だって二人とも、尚文に酷使されて、辛い目にあってたんだろう!?」

「そんなものはあなたの勝手な妄想です! ナオフミ様が私たちを苦しめたことはありません! いつだって、ナオフミ様は私たちを守ってくださいました!!」

 

 ラフタリアに押されているように、元康のおどおどした声が一緒に聞こえてくる。

 何か、すごい剣幕で怒鳴りつけているが、わからない。

 なにも聞きたくないから、何も聞こえない。

 

「そんなのは結果論だ! 現に尚文のやつは、君たちを隷属させてるじゃないか!」

「私が怯えて怖がった時だけ、セントさんがやりすぎた時だけ奴隷紋を使っていただけです!」

「無理やり戦わせてることには違いないだろう!? そんなのは間違ってる!!」

「それは私に必要なことだったんです!!」

 

 ラフタリアの言葉を否定し、元康は引き下がらない。

 そうだ、誰も俺のことを信じてはくれなかった。

 どんなに違うと言ったって、誰もおれの声を聞いてさえくれなかった。直接関係のない奴さえ、俺を敵のように扱って来たんだ。

 これ以上何を言ったって、何をしたって無駄なんだ…。

 

「…お前さ、オレたちの幸せを考えてるってんなら、なんでオレたちの声を無視するんだ?」

「え?」

「オレたちの答えを、お前否定してばっかじゃん。それは違う、間違ってるって、オレたちやナオフミの言うことにいっぺんでも耳を傾けたことあるのかよ」

 

 深いため息をついて、また別の誰かが元康に話しかけているのが聞こえる。

 心底呆れている様子で、面倒くさそうに言葉を吐いている。

 そのうち、ガッと何かを掴む音も聞こえた。

 

「人を舐めるのも大概にしろ! あいつのそばにいるのも、戦ってるのも、全部オレたち自身の意志だ! それを勝手に否定すんじゃねぇ!!」

 

 ひっ、と息を呑む声がする。

 元康か、観客の誰かかは分からないが、少なくともセントの剣幕に気圧された奴がいるのは確かだ。

 勝手に勝負の景品にされたあいつらが…怒りをあらわにしていることだけがわかった。

 

「お前の独りよがりな自己満足に、オレたちを巻き込むんじゃねぇ!!」

 

 元康からの反論の言葉はない。

 自分の善意が全部否定されたのが堪えたのか、何も言えずに後退るような音がする。

 

「…あなたは小汚い、病を患った子供に、ご飯を提供できますか? 恐怖で泣き喚いても怒らず、優しくなだめ続けることができますか? 血だらけになっても、その子を守ることができますか? 病を治すために、高価な薬を与え続けられますか?」

 

 不意にラフタリアが、何かを懐かしむような声音で問いかける。

 何を、聞いているんだ?

 俺が飯を食わせたのは善意じゃない、俺の武器として使うために育てようとしただけだ。

 お前を、守られるべき子供のお前を、戦場に立たせようとしていたんだ。

 何故それを……誇らしいように語る?

 

「で、できる!」

「だったらなんで、お前のそばにはそういう奴隷がいないんだ?」

 

 最後に元康に吐き捨てると、セントはそれっきり口を閉じる。

 すると次第に俺の方に、ラフタリアとセントの足音が近づいてきた。

 

「ナオフミ様…」

「ナオフミ…」

「…何の用だ」

 

 何でこっちにくるんだよ。

 お前らはもう、奴隷じゃなくなったんだ。俺のところにいる必要はなくなったんだ。

 なのになんで来るんだよ…何で俺を心配するような声で呼ぶんだよ…!?

 

「お優しい元康に救われたんだろう。だったらもう近づくなよ、放っといてくれよ!!」

 

 どうせお前らだって、俺を裏切るに決まってる。

 ラフタリアもあの噂を知らないだけで、いつか俺を見限ってどこかへ逃げるに決まってる!

 セントだって、俺のところに居続ける理由なんてないはずだ!!

 この世界の連中にとって、俺はいらない奴なんだろうが!!

 

「なんでこの世界の奴らはみんな俺を敵としか見ないんだよ……なんで勝手に呼ばれたのにこんなに苦しまなきゃならないんだよ。誰も信じてくれない…誰も助けてくれない…!」

 

 勝手に召喚されて、勝手に犯罪者に仕立て上げられて、勝手にこんな目にあわされて…。

 もう嫌だ…元の世界に帰りたい。

 こんな、誰も味方がいない世界になんていたくない。

 

「俺は……そんなことやってない」

 

 濁っていく視界に逃げ込みたくて、俺はその場に伏せ続ける。

 もういっそ、このまま永遠に眠ってしまいたい、そんな事を考えた時だった。

 

 

「知っていますそんなこと!」

「知ってんだよそんなこと!」

 

 

 聞きたかった言葉を、二人から聞いた。

 その途端、俺の視界の全てがクリアになり、明るい光が俺の目に飛び込んできた。

 

「お前が誰より優しいやつだってことは……オレたちが知ってる」

「この盾で、ナオフミ様は私を何度も守ってくださいました。その事実は…揺るぎません」

 

 そう言ってセントと、見覚えのない、17歳くらいの可愛らしい女の子が、俺の前に跪いていた。

 本当に、見たことがないくらいかわいい、だが狸の耳と尻尾には見覚えがある、ピュアな瞳をした女の子だ。

 

「裏切らない奴隷しか信じられませんか? でしたらもう一度、私に呪いをかけてください。あなたがそばに置いてくださるように、私は何度だってあの痛みをこらえて見せます」

「どんだけ過酷な道だって、一緒に乗り越えてやる。どんな敵とだって、一緒に立ち向かってやる。この先オレたちは、歩き続けるよ」

 

「「偉大なる、盾の勇者様と」」

 

 呆然と言葉を失くす俺の前で、セントとその子はふっと優しい笑みを見せてくる。

 本当に、誰だ。

 セントと一緒にいたのは、ラフタリアのはず。

 でもどう見てもこの子は、あのチビでやせっぽちだったラフタリアとは似ても似つかない。

 

「改めて…よろしくお願いします。ナオフミ様」

「…だ、誰?」

 

 俺が思わず尋ねると、二人とも訝し気に首を傾げた。

 いやいや、本当に誰なんだよ。

 俺がおかしいみたいな反応されると困るだろうが。

 

「あ? 何言ってんだお前」

「いやだって…ラフタリア、なんだよな? こんなにでかくなかったはずじゃ…」

「…あー、亜人の性質知らなかったのか」

 

 俺が困惑しながら答えると、セントは目を逸らしながら頬を掻いた。

 亜人の性質…? そういえば、武器屋の親父が何か、そんな感じの事をチラッと言っていたような…?

 

「あのですね、亜人は幼い頃にレベルを急にあげると、体もそれに合わせて急成長するんです」

「差別される理由の大半でな、魔物と同類扱いされたりするんだわ」

 

 それは、この世界の人間にとっては当たり前の事なんだろうか。

 考えてみれば、元康も親父も、国のやつらも最近よく、ラフタリアの外見を褒めるようになっていた。

 …気付いていなかったのは、俺の方だったのか。

 

「…こんなに大きな変化もわかんねぇくらい、お前は苦しんでたんだな」

 

 セントはその表情を切なげに歪め、俺の肩をポンポンと軽く叩く。

 同じように表情を歪めたラフタリアが、豊満に育った胸に俺を抱き寄せてきた。

 

「ごめんなさいナオフミ様……ずっと苦しんでいたのに、気づかなくて。もう、お一人で背負う必要はありません。私たちが一緒に、ずっと一緒に頑張りますから」

 

 子供のように、以前とは逆の立場のように抱き寄せられ、俺の胸が熱くなる。

 それを皮切りに、目から涙があふれ出して止められなくる。気付けば俺は、ラフタリアの胸の中で恥も忘れ、大声で泣き出してしまっていた。

 周りにいる誰もの視線も、忘れながら。

 

「俺は…俺は認めないぞ…! 今だって二人が、尚文に洗脳されてる可能性も…!」

 

 元康が何かわめいていたようだが、その時のおれの耳には全く届かない。

 元康の姿を隠すように、セントが間に入ってくれていたからだ。

 

「せいぜい言ってろ、お前に理解なんてされたくないっつーの」

 

 嘲笑うように吐き捨て、セントはその場に座り込んで脱力する。

 いつの間にか疲れて眠ってしまった俺の髪を撫でながら、セントはほっと安堵の息をつき、空を見上げていた。

 

「…あ〜あ、月が綺麗だなぁ」

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