Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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やさぐれドラゴン

Side:Raphtalia

 

「なんだ…!?」

「ああ、これはいけません! もう鎮静剤が切れてしまったのですか!」

 

 突然響き渡った声に、私達だけでなく奴隷商さんまで慌てます。

 セントさんにいたっては、苦しそうに耳を抑えて悶えていました。耳がよすぎるのも考えものですね…。

 

「がるるるる…!」

 

 走っていった奴隷商さんの後を追いかけると、それを見つけました。

 とても大きな…私が入れられていたものとは比べ物にならないほど大きく頑丈な、鋼鉄の檻です。

 その中で一人の女の子が、太い鎖に繋がれながら、私達を睨みつけていました。

 

「あの檻か…何がいるんだ?」

「罪を犯して奴隷落ちした、亜人の拳闘士です。アオタツ種で性別はメス、レベルダウンの刑に処され、現在の外見は10歳程度になっております」

「レベルダウン?」

「文字通り、罪人をレベル1まで弱体化させちまう刑だ。キツイらしいぞ」

 

 あんな女の子が、罪を…?

 と思ったところで、私も大体同い年であることを思い出してやめました。

 私は罪人ではありませんが、同じ奴隷ですからね。

 

「それがなんであんなゴツい檻の中に閉じ込められてるんだ」

「実は、レベルダウンの刑に処されてなお、あの強さでして……普通の檻では抑えきれないのです、ハイ」

 

 奴隷商さんの言う通り、女の子が暴れるたびに檻が軋んでいます。

 すごいですね…私でも、まだ持ち上げあられるかどうか。

 

「ぐるるる…! がああああああああ!!」

 

 ですがやはり、そんなに頑丈な枷をつけられては、脱出することはできそうにありません。

 何度も体を揺らし、皮膚が擦れて傷ができたのか、血を滲ませています。

 それでも檻を壊そうとする姿は、何て痛々しいんでしょう…。

 

「…見覚えがあるな、あの目」

「はい…以前のナオフミ様と同じ目です」

 

 セントさんが呟いて、私も気づきます。

 私達を睨むあの目、あれは怒っているだけではありません。

 声を聞いてもらえなくて、苦しんでいる目です。

 

「…アイツは、どんな罪を犯したんだ」

「人を殺めたとか……それも他国の要人だったそうで」

 

 ナオフミ様が尋ねると、奴隷商さんはポリポリと頭をかきながら答えます。

 あんな子が、人を殺したのですか…?

 

「オレはやってない!!」

 

 ですが、私の疑問を払いのけようとするように、女の子は悲痛な叫びをあげます。

 その声は……どうしようもなく、ナオフミ様に似ていました。

 すると不意に、ナオフミ様が女の子に向かって近づいていきました。

 

「ナオフミ様…?」

「お、おいナオフミ!」

「ゆ、勇者様!? あまり近づかれては危険ですぞ!!」

 

 私は魔物の卵を押し付けられ、その場にとどまってしまいます。

 セントさんが奴隷商さんと一緒に止めようとしますが、ナオフミ様は構わず進んでいき、女の子の前でしゃがみ込みました。

 

「おい、お前」

「ぐるるるる…!」

 

 ナオフミ様が話しかけますが、女の子は威嚇をやめません。

 むしろ近づいてきたナオフミ様に殺意を抱いているように、ガチガチと歯を打ち鳴らし始めました。

 あれは…震えているんでしょうか。

 

「ち、近づくな!!」

「やってないってのはどういうことだ? お前は人を殺してないと?」

「お前に関係ないだろう!!」

「ああ、ないな。だがお前は、伝えたいからそうやって吠えてたんじゃないのか?」

「ぐっ…」

 

 女の子は目を逸らし、ばつが悪そうに唸ります。

 ナオフミ様はしばらく女の子を見つめ、唐突に檻を開けて中に入りました…って!

 

「何やってるんですかナオフミ様!?」

「いいから聞かせてみろ。愚痴ぐらいなら付き合ってやってもいい」

「うるさい! お前もどうせ、あいつらみたいにオレをハメて、踏みにじるんだ! オレはもう騙されないぞ!!」

「いいから聞けよ。俺は……」

 

 女の子の目と鼻の先まで近づいたナオフミ様が、手を伸ばします。

 すると女の子は、ギラリと目を光らせ、伸ばされたナオフミ様の手にがっぷりと噛みつきました。

 

「ナオフミ様!!」

「ナオフミ!!」

「盾の勇者様!?」

 

 突然の事に、私達は慌てます。

 いくら弱体化しているとはいえ、あれだけ力を持ったものに噛みつかれたら、ナオフミ様の手が食いちぎられるかもしれません!

 ですがナオフミ様は…少し痛そうにするだけで、より顔を寄せました。

 

「…! いいだろう、そのままでいいから聞けクソガキ…! お前がどんな目に遭ってきたかは知らないがな、そうやって引きこもって噛み付くだけのところを見てるとなんかムカつくんだよ!!」

 

 怒鳴りつけられ、噛みついた女の子がびくりと肩を震わせます。

 構わずナオフミ様は、硬直する女の子に向けて叫び続けました。

 

「自分に近づくもの全てを攻撃できたらそれで満足か? そんなわけがないだろう! ここで誰彼構わず噛み付いたところで、お前の心が満足するわけじゃない!」

 

 背を向けたナオフミ様の顔は、今の私達には見えません。

 ですが…きっとあの方は今、泣きそうな顔をしているように思えてなりませんでした。

 

「お前を貶めた奴らは、いまものうのうとどこかで笑っているはずだ……どうだ、許せるか? そのままにできるか!?」

「っ……」

「噛み付く相手は選べ……少なくとも俺は、裏切りは絶対に許さない。俺を陥れた奴らと同じには絶対にならない」

 

 そのうち、ナオフミ様を見つめていた女の子の顎から力が抜け、噛みついていた歯が離れました。

 それでもナオフミ様は、女の子に手を差し出します。歯が肉を裂き、血を流した手を、見せ続けました。

 

「選べ。ここでずっと敵を待ち、飢え死にするか! それとも……俺についてきて、憎い敵を討つ力を手に入れるか」

「ナオフミ! お前まさか…」

 

 ナオフミ様の意図に気づき、セントさんが慌てた声をあげます。

 私や奴隷商さんがはらはらと見守る中、女の子はナオフミ様を見つめ、やがて肩から力を抜きました。

 

「……お前、嘘はついてないな」

 

 ナオフミ様を見つめる目に、もう敵意はありません。

 戸惑いながらも、縋るような目をナオフミ様に向けていました。

 

「本当だな? 本当にお前は……俺にあいつらをぶっ潰させてくれるのか?」

「それはお前の努力次第だ。あいにく俺は攻撃ができなくてな、連中を直接やれるのはお前だけだ」

「なんだと?」

 

 ナオフミ様の言葉に、女の子は訝し気に眉を寄せます。

 そしてすぐに、ナオフミ様の手に備わった盾に気がつき、目を見開きました。

 

「その盾……おまえ、まさか勇者、なのか?」

「戦えなくて、この世界の連中に妙に毛嫌いされてる盾の勇者だ。だから俺は、どうしても戦力が欲しい」

 

 女の子は、ようやく気付いたようです。

 どうしてナオフミ様が、罪人とされている自分に歩み寄ろうとしてきたのか。

 呆ける女の子に向けて、ナオフミ様は不敵な声で告げました。

 

「世界を救うついでだ。胸クソ悪いそいつら、掃除するのを手伝ってやる」

 

 女の子はそんなナオフミ様を、じっと見つめて考え込んでいる様子でした。

 そして数秒がたった後、何か、決意を秘めた眼差しでナオフミ様に答えました。

 

「……鎖を解いてくれ。もう暴れない」

 

 その答えに、背中越しでもナオフミ様が笑ったのがわかりました。

 ですがその……見るのが少し怖い笑みのような気がしました。

 

「奴隷商! こいついくらだ?」

「お代は結構です。私共も、その奴隷の扱いにはほとほと困り果てていたので……」

「そうか、なら遠慮なくもらっていくぞ」

「ぜひそうしてくださると助かります…!」

 

 あからさまにホッとした様子で、奴隷商さんが檻の鍵を取りに行きます。

 …あの、そちらは良くてもこちらは、その…すごく不安になってきたのですが。

 

「盾の勇者、オレはお前についていくぞ。だがな…もしさっきの言葉が嘘だったなら、オレは必ずお前をぶっ殺す」

「ああ、わかった……お前、名前は?」

「リュウガ。お前は?」

「岩谷尚文だ。まぁ、期待はしておけ。いい光景を見せてやるさ」

「ああ…楽しみだぜ」

「くくくく…」

「はははは…」

 

 戸惑う私やセントさんを放置し、ナオフミ様は女の子……リュウガちゃんと笑い合っています。

 ですがやはり、その…言い表せない危ない感じがしました。

 

「な、なんか…組み合わせちゃいけない二人を組ませちゃった気がするんだけど…!?」

「爆弾を前にしているようなとても危険な予感がします! 大丈夫なんですかナオフミ様!?」

 

 ナオフミ様はそれに、答えてはくれませんでした。

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