Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Sento
「うおらあああああ!!!」
ものすごい雄叫びとともに、リュウガの拳が振り抜かれる。
それは草原にいたバルーンを容易く貫き…そのままその後ろにいた奴らをも割ってみせた。
…なんつーか、すげぇな。
「…おい、あれでまだレベル3か」
「オレらの力とタメ張ってんじゃねぇか…?」
「つ、強い…!」
よかった、オレの感覚がおかしかったわけじゃないのか。
さすがはアオタツ種ってことか…低いレベルであれとは、頼もしいじゃないの。
負けてられないな……って!?
「私も行きます! はぁ!」
「おい待て! 先行しすぎだ!」
ラフタリアちゃんがいきなりバルーンに斬りかかる…けど、何だ?
ナオフミの指示も待たずに飛び出していったぞ? やる気があるのは結構だけど…なんからしくないな。
って、見てる場合じゃないなこれ!
「もう〜しょうがねぇな。変身!」
【鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェイ!】
手早く鎧を纏い、ナオフミの横に立つ。
さぁ、狩りの始まりだ!!
「防御は任せるぜ!」
「わかってる!」
この後滅茶苦茶狩りまくった。
だが……やっぱりラフタリアちゃんの様子が気にかかったかな。
⌘
その時が来たのは、数日後の朝だった。
レベル上げと採集と薬作り…その繰り返しをしてコツコツ手持ちの金を増やし続けていたある日の朝の事だ。
「ナオフミ様! セントさん! リュウガさん!」
何やら興奮した様子で、ラフタリアちゃんがオレたちを起こした。
疲れてんだけどなぁ…と思ったけど、ラフタリアちゃんが指さしたものを見て、オレたち全員の眠気が吹っ飛んだ。
「卵が…!」
! 奴隷商のとこで買った卵にヒビが…!?
ピキ、パキ、と空が徐々に割れていき、その中からふわふわの毛が覗く。
その光景に、オレやリュウガは思わずごくりと息を呑む、そして。
「ピィ!」
「おぉ〜…!」
可愛らしい鳴き声とともに、そいつは空の中から生まれ出た。
白い羽毛に、ところどころピンク色が混じった鳥の魔物……こいつは確か!
「コイツは…フィロリアルの雛だな」
「フィロリアル?」
「前に言った、馬車とかを引く魔物だよ。ていうかむしろ引いてないと落ち着かないんだってさ」
「…それは生物としてはどうなんだ?」
ん? なんかおかしいか?
ナオフミの世界とは微妙に常識が違うっぽいしな……まぁ、そういう生き物だってことは理解してくれてるみたいだし、いいか。
生まれたヒナは、ナオフミの頭に乗ってピヨピヨ鳴いている。
うん、かわいいじゃん。
「ふふ、ナオフミ様のことを親だと思ってるみたいですね」
「よっ、頑張れお父さん」
「うるせぇ」
そう言って、ナオフミはしかめっ面になる。
しかし何だろうな……妙にこいつ、こういう姿が似合うような。
「でかくなったら馬車でも買って……移動手段として連れていけるな。ある意味当たりなんじゃねぇか?」
「それまでどれだけかかることやら…」
確かになぁ……レベルに合わせて成長するとはいえ、そう短時間でレベルが上がるとも思えないし。
とか思ってたら、ナオフミはおもむろにヒナが残した卵のカラを盾に吸い込ませる。あ、なんかスキルが出た?
「成長補正…これで多少は早くなるか」
「便利な盾だよな、それ」
いや、マジで不思議だわこれ。
欲しいと思ってた能力がわりと早く出てきたな。狙ってんのか?
…ん? 何だ、こっちでは妙に刺々しい雰囲気が……。
「ぐるるる…」
「ピィ…」
「……何を睨んでるんだお前は」
「いや…別に」
なんかリュウガが、フィロリアルのヒナを相手に唸り声をあげてた。
…ああ、生物の本能的に? ドラゴンとフィロリアルって、基本的に相いれないっていうしな?
でもお前魔物じゃねぇだろ。
「…ところで、そいつの飯はどうするんだ?」
「何がいいんだ?」
「雑食だからなんでも食べるけど……はじめのうちは煮詰めた豆とかだな。貰ってこようか?」
「いや、俺が行く」
頭にヒナを乗せたまま、ナオフミが部屋を出て行く。
…あの、せめて降ろしていったら? なに、オレを笑わせたいの?
村にいた、他のフィロリアルの飼い主に事情を説明すると、喜んで持っていた餌を分けてくれた。
ああ…やっぱこの村の奴らは好意的だわ。
「なるほど…そういうことでしたらどうぞ、もらってください」
「なに? 金ならちゃんと…」
「いえ! もらえませんよ」
財布を出そうとしたナオフミを、飼い主は慌てて止める。そしてにっこりと、本気でありがたそうな笑顔を見せてきた。
「勇者様には村を救っていただいた大恩がありますから…せめてこれくらいさせてください」
…なんか、うるっときた。
ナオフミはこう、必死に生き残る事しか考えてなかったとかいうけど、やっぱり見ず知らずの村人を助けようと必死になってた。
それをちゃんと見てくれてたやつはいるんだなぁ…!
でもナオフミは、差し出された餌の袋を押し返した。
「…村も甚大な被害を受けたはずだ。少しでも復興の足しは必要だろう?」
代金をどうにか受け取ってもらって、オレたちは宿に戻る。
その途中で、痛々しい波の傷跡が残る村を見やり、それぞれの眉間にしわを寄せた。
…復興、なかなか進んでないな。
そりゃそうだ、村人の全員を守れたわけじゃないもんな。
「…なにもやれることがないというのは、歯がゆいな」
「ああ…今のところ、買い物して金を落とすかちょっと手伝うくらいしかできねぇ」
「何か、私たちにもできることがあればいいのですが…」
…どうしたもんかねぇ。
オレの作った鎧は基本、戦うために、身を守るための機能しか持ってない。こういう時に役に立つ能力は、まだ作れてないんだよなぁ…。
無力感に苛まれていた時、オレの後ろでギリッと歯を食い縛る音が聞こえてきた。
「…〜っ! ああもう! うだうだ考えてるだけで意味なんかねぇだろ!」
「は?」
ん? リュウガの奴が急にオレの隣を通り過ぎて…復興作業中の奴らの所へ。
おい、お前、何するつもりだ?
「おら! その角材貸せ! 運んでやっから」
「え? だ、だが…」
「いいんだっつの! こちとら力だけは有り余ってんだよ!」
リュウガはそう言って、作業をしていた奴らから半ば強引に角材を受け取り、ずんずんと運び始めた。
おお…さすがのバカ力。けっこうな速さで木材が運ばれていく。
…そうか、そうだよな。
やれる事なんか、考えるより先にいくらでもあるよな。
「…ったく、カッコつけやがって」
【ゴリラ!】【タンク!】
思わず呆れた口調になるけど、オレもすぐに歩きだし、鎧を纏う。
ナオフミからはため息が、ラフタリアちゃんからは苦笑が聞こえるけど気にしない!
お前だけにいいところ見せつけられてたまるか!
「おらあああああああ!!」
「どっこいしょおおお!!」
吠えながら、片っ端から復興作業を手伝いまくる。
フィロリアルのヒナの声を声援に、オレたちは日が暮れるまで働き続けたのだった。
Side:Raphtalia
「ぐへぇ…」
「っは〜、つっかれた〜」
「お疲れ様です、セントさん。リュウガちゃん」
復興作業のお手伝いから戻ったセントさんとリュウガちゃんが、ものすごく疲れた声を上げてベッドに倒れ込みました。
へとへとのようですが、どこか満足げにも見えるから不思議です。
「くそ……そんなにレベル上げられなかった」
「まぁそう落ち込むなって。焦ったってなんもいいことないぞ」
悔し気に唸るリュウガちゃんに、セントさんが気楽に笑いかけます。
そうですよね…焦ってもいい事はありません。
ですがナオフミ様は、最近あまり私達を前に出そうとしません。私達を思っての事だとはわかっているのですが…それでも、私は。
「明日は今日できなかった分もレベル上げをするつもりだ。今晩のうちにしっかり休んでおけ」
「はい」
「あ〜い」
「…おう」
ナオフミ様の決めた方針に、私たちみんなで頷きます。
悩んでいても仕方ありません。ナオフミ様のお役に立つため……そのためになら、私はどんなに辛いことだって。
すると急に、セントさんが勢い良く起き上がりました。
「じゃあメシの時間だな!」
「わかった。作ってやるからその辺で待ってろ」
「は〜い!」
とてもキラキラした目でナオフミ様を見つめています。
ナオフミ様の料理はとてもおいしいですからね。アレを食べられるなら、確かにすぐに元気になるのも納得です。
「ピヨ!」
生まれたばかりのあの子も、お腹が空いた!とばかりに力強く鳴きます。
…えっと、ですがその、何か、違和感を覚えますね。
「……なんかコイツ、でかくなんの早くねぇ?」
そう、フィロリアルのヒナは、いつの間にか最初の数倍ほどにまで大きく育っていました。
この成長速度は…正直、不思議を通り越して不気味です。
「まだ1日経ってねぇってのに…」
「成長補正が効いてるんだろう」
「本当か?」
「……た、多分」
自信なさげにナオフミ様が仰いますが、そのお気持ちはわかります。
伝説の盾の能力なのは確かでしょうが…この子は本当に、フィロリアルなのかと不安になります。
「それにしたって…」
「成長が異常だよなぁ…」
このもやもやを解消してくれる方は、残念ながらこの場にはいませんでした。