Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Raphtalia
リュウガちゃんと出会い、フィーロが生まれてから数日が経ちました。
目覚めた私が宿から出て目にしたのは、もう見上げるくらいに大きくなったフィーロと、それを見上げるナオフミ様とセントさんでした。
「……ラフタリアのことといい、夢でも見てる気分だな」
「たしかになぁ…」
「グア!」
まるでお二人のつぶやきに応えるように、フィーロが鳴きます。
言葉が分かっているんでしょうか? まだ生まれて数日だというのに…。
「知能も悪くはないし、何より元気がある。いい買い物をしたな」
「おいナオフミ! 次はオレにやらせてくれよ!」
どうやらナオフミ様は、拾った棒を投げてフィーロに取りに行かせるという遊びをしているようです。
むぅ…ナオフミ様が見たことのない爽やかな笑顔を浮かべていて羨ましいです。
「…なってしまいましたね、成鳥に」
「しかもまだでかくなってるらしい。どうなってんだ」
「ほんとにこいつフィロリアルなのか? なんか別のもん買っちまったんじゃねぇの?」
「…否定はできない」
元気に走り回るフィーロを見て、ナオフミ様たちは不安げに話しています。
ふと気づくと、私より先に起きていたリュウガちゃんが不機嫌そうにフィーロを睨んでいました。
あの……どうして、そんな敵愾心を?
「ぐるるるる…!」
「グアア…!」
「そういえば、フィロリアルとドラゴンって種族的に仲が悪いらしいぞ。リュウガはアオタツ種だし…」
「めんどくさいな、おい!」
そういえば、フィーロが生まれた時も睨んでいましたね…。
ケンカが始まらないだけましなんでしょうけど、今後が不安になりますね。
……? セントさんが何やら、村の広場の方に振り向きました。
何かあったのでしょうか?
「……なんか村の方が騒がしいな」
「何か聞こえるか?」
「ざわめきと…金属音、こりゃ鎧だな。あとは…」
そこまで言ったセントさんの表情が、苦虫を噛み潰したように歪みます。
なぜそんな顔に……その疑問は、セントさんのつぶやきによって解けました。
「……あのクソ女の声が聞こえる」
Side:Ryuga
「というわけで、俺が今日からこの村の新しい領主になる、北村元康だ。よろしくな!」
騒ぎが聞こえる広場の方に、ナオフミたちと一緒になって向かう。
そこには豪華そうな鎧を着た……チャラい金髪の優男が笑って話していた。
なんだあれ? 誰?
「元康…!? なんでお前がここにいるんだ!?」
「ナオフミ…? お前こそなんでこんなところに」
優男に気づいたナオフミが声を荒げる……なんだ、知り合いか? でもなんか、親しい雰囲気じゃねぇな。
ああいうチャラチャラしたやつ嫌いだからむしろいいけどさ。
「お前がここの領主になったってどういうことだ!?」
「波での功績をたたえて、領地をもらうことになったんだよ」
「功績…!? 避難誘導もほったらかしにしてたくせにか!」
「そんなのは騎士の仕事だろ?」
……だんだんわかってきた。
こいつはナオフミと同じ、四聖勇者の一人だ。あの槍を見ればわかる。
そんで、ナオフミが冤罪をかけられた時も信じないで、自分だけ美味しい思いしてやがった奴だ。
そういう奴たくさん見てきたからわかるぞ。
つーかなんだあいつ、喋ってるだけですげぇ腹立つぞ。
「とにかく、ここはもうモトヤス様の領地なの。犯罪者の盾の勇者は出て行ってくださらない?」
なんだよ! 優男より腹立つ声が聞こえてきたぞ!
思わず振り向くと、優男の隣に立ったケバい赤い髪の女がニヤニヤ笑ってやがるのが見えた……って、あ?
その瞬間、オレの視界は突然……赤く染まり始めた。
「恩知らずの亜人にうす汚ないトカゲなんて連れて、みっともないったらありゃしないわ。さっさと消えてくださらないかしら!」
「こ、この領地の責任者は私のはずです! そんな話は一度も…」
「だから今言っているのよ。あなたはクビよ、クビ」
「そんな…!」
村の村長とか、他の村人がなんか喋ってるけど……何も聞こえない。
オレの目は……あの女のことしか見えなくなっていた。
「フーッ……フーッ……!」
「リュウガさん…?」
隣の誰かがオレに声をかけてくるけど、それすら煩わしくなってくる。
息が荒くなって、目の前が真っ赤になって、頭の中で炎が渦巻いてる感じがする。
「そうねぇ……まずは資金として村の出入りに税をかけましょうか。入るのに銀貨50枚、出るのに銀貨50枚にしましょう」
「ご、合計金貨1枚…!?」
「そんな! 生きていけません!」
「そんなに大金か?」
ゴキゴキと拳の骨が鳴る。むき出しになった歯がギシギシときしむ。
体の中の何かが弾けそうな感覚に襲われて、体の自由がきかなくなってくる。
「この村で一泊するのにいくらかかると思う?」
「え…?」
「食事も合わせてたったの銀貨1枚。村の大人が一日暮らすのに、銅貨20枚あればおつりがくる」
「復興どころか村が干からびるっつってんだよバカ勇者とバカ姫!」
「お、おいマイン!?」
「痛みを伴う改革も必要です。苦しむ覚悟のない者は、しょせん野垂れ死ぬのがさだめですわ」
「てめぇ…!」
ナオフミが正論をぶつけるが、向こうは全然気にした様子もなくそんなふざけたことをのたまう。
……ああ、もうダメだ。我慢の限界だ。
あの女……ここで潰す。
「ぐるああああああああ!!!」
オレの喉から、オレ自身も聞いたことがないくらいの咆哮が飛び出す。
ギョッと目を向くあの女に向かって飛び出そうとしたが、横から誰かにしがみつかれて止められた。
だれだ!? オレの邪魔をすんじゃねぇ!!
「お、おい! 落ち着けリュウガ!」
「どうしたんですかリュウガちゃん!?」
「離せ! あの女は…! あの女だけはぶっ殺してやる!!」
それが、セントとラフタリアだとようやく気づく。だが、それでも止まるわけにはいかなかった。
離せ!! あの女だけはここで仕留めとかなきゃならねぇんだよ!!
「ヒィッ」
「なっ…なんなのよ!?」
優男がなんかビビってるけど関係ねぇ!!
オレを鬱陶しそうに見てくるあの女…! あの顔を見てるだけで、嫌な記憶が大量によみがえってきやがる!!
遠くでオレを見ていたナオフミが、ハッと目を見開いているのが見えた。
「まさか…アイツなのか!? お前をハメたのは!!」
「違う!! 違うけど…でも同じだ!! 同じ奴らの匂いがする!!」
おかしなこと言ってるのは自分でもわかる。
でも……本能でわかる! あの女とあいつは同類だ!!
ぶっ殺しておかないと、絶対にこの先また同じ目にあわされる!!
「無礼者が! この私に敵意を向けるなど……何よりその暴言! 王族に対する侮辱だわ! 処刑してくれる!」
「お、おい。そこまでしなくたって…」
「生ぬるいですわモトヤス様! こんな亜人の小娘といえど、噛みついてこようとする者には罰が必要です! さぁ、さっさと捕らえなさい!」
「ぐるあああああああ!!」
あの女の命令で、一緒に来ていた兵士が槍を向けてくる。
上等だ!! あの時張らせなかった鬱憤、お前らで解消してやる!!
群れるだけしか能がないコバンザメに負けるか!!
だが、兵士がそれ以上オレに近づいてくることはなかった。
「そこまでです」
あの女の周りに、全身真っ黒の謎の集団が現れる。
その瞬間、偉そうだったあの女の態度が一気に変わり始めた。
「とある方からの命で、こちらをお届けに参りました」
真っ黒集団の一人が、あの女に何か紙束を渡してる。
なんだ…? あの女、大人しく従ってやがる。
急な展開にオレの力も抜けたのか、セントとラフタリアに後ろに引きずられてしまった。
「フーッ、フーッ…」
「落ち着け、様子を見よう」
「こ、こんなことが…! チィッ……盾の勇者!」
セントになだめられていると、あの女がヒステリックな声をあげるのが聞こえた。
なんかこう…焦ってる? そんな重要なことが書いてたのか、あの紙。
「村の権利をかけて、決闘よ!!」
「……はぁ!?」
いきなりそんな事を言い出したあの女に、オレ達全員の目が点になった。
Side:Sento
「…面目ねぇ」
ナオフミがクソ女ともめているのを横目に、オレはリュウガと向き直る。
やっと頭から血が下がったのか、しおらしくなってオレとラフタリアちゃんに頭を下げてくる。
全く……何事かと思ったぞ。
「ああも敵意むき出しになるとは……お前を騙したやつはマジでどんだけ性根の腐ったやつなんだ?」
「悪い…なんかもう、頭がカッてなって止まらなくなっちまって」
「一旦落ち着いてくださって良かったですけど…」
ぶっちゃけ興奮しすぎて何言ってんのか全くわかんなかったけど、あのクソ女を見た途端にこれだからな。
まぁ、大体のことは察せた。
似てんだろうな、こいつを騙した奴と。いや、本能的に同類と悟ったのか。
「ていうか、あのケバい女は一体誰なんだ?」
「知らねーのかよ…マルティっていう、この国の第一王女だよ」
「性格は……見ての通りです」
苦虫を噛み潰したような顔で、オレとラフタリアちゃんで説明すると、リュウガも察したのか同じ顔になる。
…うん、嫌だよな。あんなんが王族とかこの国終わってるって思うもんな。
「顔は違う、名前も違う……でもやっぱ似てるんだ。あのなんていうか、自分以外の全部を下に見てるっていうか、物として見てそうな目が…」
「ふーん…」
どこにでも似たようなクズはいるもんだ。この先もしかしたら会うのかもしれないと思うと……激しく憂鬱になる。
……ん? いいこと思いついたぞ?
「…ってことはだ、リュウガ」
「ん?」
「あの女の言う勝負で連中の鼻をあかせたら…お前のイライラもマシになるってこったな?」
もしかしたら一石二鳥を狙えるかもしれない、オレの提案。
それを聞いたリュウガは一瞬呆けると、やがてニヤリと笑みを浮かべ始めた。