Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Ryuga
あのうざったいレースから何日か経って……商人として旅をしながら、レベルを上げる毎日が始まった。
そしてその最中に少しずつだけど、セントが講師をやる文字の勉強も始まった。教室は宿じゃなくて、フィーロのいる厩舎だけどな。
「…これで合ってるか?」
「おう、上出来だ」
ナオフミがちょっと形がいびつな文が書かれた紙を見せて、セントが満足そうにうなずく。
こういう時、セントの頭の良さがとんでもなく羨ましくなる。ちょいちょいウザいのが玉に瑕だけどな。
「これで文字も読めれば楽なんだがなぁ…」
「あまり武器に頼るのもよくありませんよ?」
「そうだぞ〜、もしかしたらなんらかの力で聖武器が封じられて、翻訳機能が効かなくなったりするかもしれないぞ〜」
「なんだその具体的なもしかしては…」
何だそれ? 未来予知かなにかか?
そのうちホントになりそうで怖いんだが……。
「で、リュウガの方はどうなんだ?」
「ダメだこいつ。簡単な文字しか覚えられねぇでやんの」
「悪かったな!」
オレを引き合いに出すな!! こういうのは根本的に向いてないんだよ!!
そりゃあ……読めるに越したことはないけど!
でも人には向き不向きがあるんだよ!!
「さ、さて、勉強はこのくらいにしておいて、明日に備えてもう寝ちまうか! 明日も頑張らねぇとな!」
「お前…いや、そうだな…さすがに疲れた」
オレが思いっきり目を逸らして言うと、ナオフミも同意して手を止める。
その時めっちゃくちゃ呆れた目を向けてた気がするけど気のせいだ! 絶対に気のせいだ!!
ナオフミが眠そうに宿に戻ろうとした時、セントがニヤケ面を向け出した。
「なんだったらオレが添い寝してあげてもいいんだぜ!?」
「いらねぇ」
「セントさん、あなた疲れてるんですよ」
「なんか冷たいよ二人とも!?」
いつもはナオフミの口の荒さを諫めるラフタリアも、冷めた目でセントを見てやがる。疲れてんだな、二人とも……。
「えー、まだ眠くねぇよー。もうちっとなんか会話しようぜ〜」
「めんどい」
「私ももう眠たいです…」
そういや、さっさと読めるようになって新しい調合や、魔法を覚えたいって詰め込んでたみたいだしな。
オレはまだそれどころじゃないけど……よくやるぜ。
「グアー…」
「なんだよ…お前体温高いんだよ、あっちぃな」
ナオフミ達が立ち上がろうとすると、フィーロがすりすり寄ってきた。
何だ、じゃれたいのか? そう思っていると、なんかムッとした顔のラフタリアがナオフミの反対側の腕に抱きついた。
……何やってんだ、お前ら?
「何やってんだお前ら…」
「…いえ、別に」
「グア!」
なんかこいつら、ナオフミを挟んでバチバチ火花を散らせてる。
チッ、見せつけやがって。
「いや〜なんだか熱うございますなぁリュウガさんや! とくにこのお三方は!」
「うるせぇ」
「……誰もツッコンでくれなくてお姉さんさみしい」
関わるのが面倒くさくて、からんでくるセントを適当に追っ払う。
お前…自分でお姉さんっていうわりにはおばさん臭く感じるぞ。黙ってりゃ顔は良いのに、口を開いた瞬間残念になるな。
「グアー」
「…こいつもさみしいんじゃねぇの? まだ生まれて数日経ってねぇんだし」
「そうかもしれませんね…」
そう言えば、こいつ赤んぼとおんなじなんだっけ。成長速度が異常すぎて完全に忘れてた。
そりゃあまあ……一人で寝るのはいやだわな。オレは物心ついた時には一人で寝てたけど、それでもやっぱ寂しくはあった。
「…んじゃあ、オレはここで寝るかな」
「ん?」
「四人もおんなじ部屋で寝たら狭そうだし、でかい部屋借りるのも金かかるだろ? 節約せつやく」
セントがそう言って、適当な干し草を集めてベッドを作り始める。
…こいつアホっぽいけど、なんだかんだお人好しなんだよな。聞けば、ナオフミに信頼させるために、自分から奴隷になったって聞くし。
……くそ、しょうがねぇな。
「だったらオレもここでいい」
「お、マジ? だったらしばらく話すか。ガールズトークしようぜ」
「うるせぇっての…」
隣の奴がうざったいけど、自分で言い出した手前なかったことにもできない。
つーかセント、多分だけどオレもナオフミもお前のこと、女だと思ってないと思うぞ、性格的に。
ふて寝気味に横になると、ナオフミの奴ため息交じりにその場にまた腰を下ろした。
「…俺たちもしばらくここにいる。フィーロとリュウガが寝たら宿に戻るがな」
おい! なんかナチュラルに子供扱いしてねぇか!?
そう抗議したかったけど、最近けっこう働きづめだったせいかすぐに瞼が重くなってきた。
「…まぁ、いいか」
干し草って意外とあったけぇ……そんな事を思いながら。
オレの意識は、スーッと遠くなっていった。
Side:Sento
「…ん、ああ。朝か…」
チュンチュン、と鳥のさえずりが聞こえて、オレの目が覚める。
姿勢が悪かったせいで若干体が痛いけど、まぁまぁぐっすり眠れたな。
「意外とぐっすり寝れるもんだな、厩舎って…」
「ぐおー…」
隣ではリュウガが爆睡してる。涎まで垂らして幸せそうに。
こういうところは、年相応に見えてかわいく見えるんだけどな。普段が荒っぽすぎるんだよ、こいつは。
「クエ!」
「おーおー、フィーロちゃんは朝から元気だねぇ……って」
なんか前とちょっと違う鳴き声を上げるフィーロちゃんに挨拶しようとして……オレの動きが止まる。
え、ちょっと待ってちょっと待って。
え? え!?
「…! …!?」
「いだっ…いだだ! なんだ!? 何しやがんだ!?」
思わず眠りこけてるリュウガを思い切り叩き起こし、ぶるぶる震えながら指をさす。
すっげぇ不機嫌そうに睨んできたリュウガだけど、オレと同じものを見て一瞬固まって、大きく目を見開いて口も前回になった。
「なっ、ななな、ナオフミ〜〜!!」
「なんじゃこりゃあああああ!?」
慌てて宿に向かい、ナオフミ達を引っ張り出しに行く。
厩舎に舞い戻ったナオフミとラフタリアちゃんは、さっきのオレ達と全く同じ反応を見せ、思い切り叫ぶのだった。
⌘
「おや、これは盾の勇者様。本日はどう言ったご用件で…」
奴隷商のテントにずかずか入っていったナオフミは、奴隷商のあいさつもほとんど聞かずに詰め寄る。
壁ドン? 壁ドンすんのか?
…オレまだテンパってるな、やめよう。
「おい奴隷商。お前、俺に一体なんの卵を売った…?」
「ハイ?」
ナオフミに聞かれても、奴隷商は本気でわからない様子で首を傾げる。
マジか、こいつでもわかんなかったらもうお手上げだぞ。
「何を、と申されましても確かに勇者様にはフィロリアルの卵をお渡ししたはずで…」
「これのどこがフィロリアルなんだよ!」
そう言ってナオフミが、オレたちの横に立っている巨大な鳥……立った一晩で横にも縦にも一回りは大きくなったフィーロちゃんを示した。
案の定、奴隷商の奴もぽかんと呆けて、わなわなと震え始めた。
「こ、これは…! たった数日でここまで育てられるとはさすがは盾の勇者様で…」
「そういうのはいい! どういうことか説明をしろ!」
もう見た目からしてフィロリアルじゃないだろこれ。いや、途中まではちゃんとフィロリアルだったけど。
これでフィロリアルだって言われても絶対誰も信じないだろ!
あれ? フィロリアルって言いすぎてフィロリアルが何かわかんなくなってきた!?
「考えられる可能性としては…フィロリアルのキングかクイーンかもしれませんね」
「キング? クイーン?」
「それってまさか…フィロリアルの主って伝説の?」
旅の途中、勇者の伝説について調べてた時に見た記憶がある。
自然界に存在するフィロリアルの中には、群れを統率する王や女王のような個体が存在するって。
でもそれは、あくまで伝説で信憑性はなかったような……。
「私もよく知らないんですよ。何せ伝説の存在ですし…」
「だよなぁ…」
「くっそ…結局わからずじまいか」
わりかし謎が多いからなぁ、フィロリアルって。
どういう進化を遂げてきたのかとか、何でドラゴンと仲悪いのかとか、挙げればきりがないくらいに出てくるしな。
「よろしければ詳しくお調べしても?」
「バラさなきゃわからないとか言わなければな」
「クエ!?」
ナオフミがそう言うと、フィーロちゃんがものすげぇ狼狽えだした。
逃げようとしたけど、それより先に奴隷商の部下たちが拘束して連れて行ってしまう。…出荷、という単語がオレの脳裏をよぎったけど、多分気のせいだな。
「クエーッ! クエーッ!!」
「…ちょっとかわいそうじゃないか?」
「ああ…あんなんだけど、まだ生まれたばかりのヒナだぜ?」
「そうは言っても、わからないままではな…」
左右を屈強な男達に囲まれて、檻に連れていかれるフィーロちゃんの姿に、さすがにリュウガも同情の目を向けている。
その後、嫌がっているのか怒ったんばったん暴れる音が聞こえていたんだけど…。
「クエエエエ!!」
ひときわ大きなフィーロちゃんの声が響き渡った、直後の事だった。
ボフンッ、と何か変な音がして、辺りにうっすら煙が漂い始めたのに気がついた。
え? 何?
「こっ、これは…!?」
奴隷商たちが慄く声が聞こえてくる……って、え?
さっきまでフィーロちゃんがいた檻の中に……翼が生えた、金髪碧眼の美少女が入っていた。全裸で。
「ごしゅじんさま…!」
「なっ…なんじゃそらあああああああ!!?」
本日二回目のオレ達の絶叫が、どこまでもどこまでも響き渡った。