Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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奇跡の種

Side:Raphtalia

 

「来るんじゃなかった!」

 

 周りの惨状を睨みながら、ナオフミ様が叫びます。

 私自身、そのお言葉にはものすごく同意しますが、今はそれどころではないので我慢して下さい!!

 

「うるせえ! 黙って働け!!」

「わめいたって今更だぜナオフミ!」

「叫びたくもなるだろうが! この惨状全部……元康の馬鹿のせいだってんだからな!!」

 

 そう怒りをあらわになさるナオフミ様は、次々に向かってくる樹の根を防ぎます。

 そう、私達が今いるのは、異常な繁殖を遂げた異形の植物の中。町を一つ丸々呑み込んだ、とんでもない惨状の中にいるのです。

 

「まさか前回見つけた箱の中身がここできいてくるとは…」

「でもこの実、おいしいねー」

「お前はなにのんきに食ってんだ! オレにもよこせ!!」

「食べるんですね…」

 

 私は馬車酔いで倒れていたので知らないのですが、ナオフミ様とセントさん、フィーロはこの状況を生み出した存在に心当たりがあるようです。

 フィーロ…見慣れないものを何でも口にするのはやめて下さい。リュウガちゃんも!

 

「ん? おい、あれ見ろ!」

 

 その時、セントさんの声で、私達はあるものに気がつきます。

 あれは…町の子供の男の子でしょうか? しかも体に植物の一部が同化し、苦しそうな顔をしています!

 

「こいつ…寄生能力もあるのか」

「あれ効くかな? 前に一緒に作った除草剤」

「やってみるか…一応飲めるし」

 

 以前、ナオフミ様とセントさんが作った除草剤を取り出し、ふたを開けて男の子に飲ませます。

 すると、寄生していた植物はあっという間に枯れ、男の子の顔色が見る見るうちに良くなっていきました。

 

「おお、きいたきいた」

「結構な効能だな…」

「すごい…あ、ありがとうございます!」

 

 驚きもありましたが、ひとまず男の子が助かったことにホッと安堵します。

 本当はこれを大量に届けるお仕事だったのですが…こんな形で使うことになるなんて。

 

「君、復活した直後で申し訳ないんだけどさ、村の人たちどこにいるかわかんない? 注文の除草剤を渡したいんだけど」

「あ…はい、案内します」

 

 セントさんに問われ、歩けるくらいに回復した男の子が歩き出します。

 植物の広まる勢いは脅威ですが、まずはこの子の安全も確保しませんとね。

 

 

「さー、お薬だよー」

 

 セントさんと一緒に、町のはずれにできていた避難所に集まった人々に除草剤と薬を配っていきます。

 まさか町の人達も、こんなことになるとは夢にも思わなかったでしょうね…。

 

「遥々ありがとうございます!」

「ああ、しかしとんでもないことになってるな」

「ええ…槍の勇者様が奇跡のタネを持ってきてくださったときは、一時村も潤ったのですが……」

 

 町長らしき人が、後悔を滲ませながら話し始めました。

 何でも以前のこの町は、飢饉に苦しむ酷いところだったようです。日照りで不作が続き、毎日何人もの人が亡くなっていたとか。

 そんな時に現れた槍の勇者様は、確かに救世主だったのでしょう……始めのうちはですが。

 

「昔の錬金術師も余計なことしてくれたもんだ…」

「だから封印したんだろうけど」

 

 やれやれと肩を竦めるセントさんに、思わず苦笑してしまいます。

 その時、避難所にできた高い壁の向こうから突然、つんざくような悲鳴が聞こえてきました。

 

「…今なんかものすごい嫌な声聞こえなかったか?」

「村に来ていた冒険者でしょう。レベル上げに向かったようですが、あの様子では…」

 

 襲われ、返り討ちに遭った……と。

 先ほどの私達も、かなり危うい状況でした。まだレベルの低い冒険者さんが甘く見たまま挑んだなら…結果は目に見えていますね。

 そう思っていると、不意に私達の頭上に影が差しました。

 

「ただいまー」

「ったく! 余計な手間かけさせやがって!」

 

 ズシン、と私達の目の前に、数人の冒険者の方々を抱えたフィーロとリュウガちゃんが降り立ちました。

 いないと思ったら、助けに行ってたんですね。それにしても…多いですね。

 

「結構な人数拾ってきたな」

「一応これで全部だ、多分な」

「この人たちこんな弱いのに行くなんて、ばかだね〜」

 

 人型になれるようになり、よくしゃべるようにもなったフィーロがそんなきつい言葉を吐きます。まったく…二人とも可愛らしいのに口が悪いんだから。

 すると私達のやり取りを見ていた町の方々が、フィーロを見て慄いた様子を見せました。

 

「しゃ…喋る鳥…神鳥様!? ということはあなた様は……聖人様でしょうか!?」

「違う! そんなもんになった覚えはない!!」

 

 いきなり聞いたことのない敬称で呼ばれて、ナオフミ様が目を吊り上げています。

 まぁ、勇者扱いもされないのに聖人と呼ばれるのは、微妙な気分ですよね。

 

「お願いです聖人様!! 村をお救いくだされ!!」

「何で俺がそんなこと…!」

「謝礼はできる限りのことはいたします! ですからどうか…どうか!」

 

 とんでもなくいやそうな表情でナオフミ様は渋ります。

 ですがそんな必死な懇願を、この方が放っておけるはずもないのですよね。

 大きなため息をつき、踵を返すナオフミ様に、私達は思わず苦笑を浮かべていました。

 

 

Side:Naofumi

 

【ハリネズミ!】【マイク!】

「そいやっさ!」

 

 セントの左手から鋭い針が放たれる。それは右手のマイクによる音の振動で切れ味を増し、襲ってくる植物のつるを一方的に斬り裂いていった。

 その近くでは、腕に青い炎を纏ったリュウガが拳を振るい、樹の根を力任せに引きちぎっている。

 

「オラァ!!」

 

 青い炎で焼かれ、黒焦げになった樹がバキバキと倒れていく。

 だがすぐに別の枝が伸びてバリケードのようになり、町はまた元の状態に戻ってしまった。

 

「チッ…! 次から次へときりがねぇ!」

「バラバラになるな! 囲まれたら数の暴力で潰されるぞ!」

「クソ!」

 

 次から次へとマジでうっとうしい…!

 つい了承してしまったが、ここまで厄介だとわかってたら絶対引き受けなかったのに!

 なんで俺があの元康(バカ)の尻拭いをせねばならないんだ!!

 

「だったらこの組み合わせだ!」

ライオン!】【掃除機!

 

 機を見たセントが、ベルトに挿したフルボトルを入れ替える。

 前々から持っている掃除機のフルボトルと、この間の波の魔物から採取したライオンのフルボトル。

 それが刺さった瞬間、ベルトは光とともにいつものあの声を発した。

 

【ベストマッチ!】

「またかよ!?」

 

 なんでこう、窮地ごとにピンポイントで当たりが出るんだ!?

 このベルト、状況をわかってて声出してるんじゃないだろうな!?

 

「行くぞ、ビルドアップ!」

たてがみサイクロンライオンクリーナー! イェイ!】

 

 俺のツッコミも無視し、セントは新しく作られた鎧をその身に纏う。

 掃除機のついた左手に、獅子の顔を備えた右手を持つ、黄色と緑の鎧が強烈な蒸気を噴き上げて完成した。

 

「見よ! この吸引力を!」

【Ready Go!】

 

 セントが左手の掃除機を、周囲の樹々に向けて構える。するとえげつないくらいの吸引が発動し、絡まっていたそれらを根こそぎ吸い込んでいく。

 敵の全てを一点に集めながら、右手の獅子の口に光が集まった。

 

【ボルテックフィニッシュ!】

「おらあああ!!」

 

 一塊になった樹の根や枝に、獅子の形をしたエネルギーが飛び出し、激突して大爆発を起こす!

 あれだけ鬱陶しかった植物のバリケードが、あっという間に片づいた。なんかこう、清々しさを覚えるくらいだ。

 

「おーし、いっちょあがり…」

「おおおおおおお!!」

「はああああああ!!」

 

 一息ついたセントを追い越し、ラフタリアとリュウガが走り出していく。

 二人が向かう先には、バリケードの向こうで町の中心に我が物顔で鎮座している、ひときわ高く太い大樹の姿があった。

 

「ラフタリアちゃん!? リュウガ!?」

 

 セントが叫ぶが、二人は止まらない。

 するとそれまで沈黙していた大樹が蠢き、目玉のような花を咲かせてラフタリアとリュウガを睨み、毒のような煙を吐き出した。

 あいつ…もはや魔物化してやがるな!?

 

「うっ…!」

「くそっ!」

「先行しすぎだってば!」

 

 毒煙をもろに浴び、二人の動きが鈍くなる。リュウガのやつはともかく、ただでさえラフタリアは呼吸器系が弱いのに、あれでは戦闘能力も下がるだろう。

 何をやってるんだ、ここのところのあいつらは!?

 

「たー!」

「ま、負けません!」

 

 すぐさまフィーロが飛び出し、迫ってきた枝を蹴りちぎる。それを見たラフタリアが、負けじと剣を握りなおした。

 おいおい……なんかもう無茶苦茶だぞ。連携も何もあったものじゃない。

 

「あいつら…何張り合ってんだ」

「もー、世話がやけるなー!」

 

 思わず隣に近づいてきたセントとともに、がっくりと肩を落としてしまう。

 最近のあいつらは何かおかしい…俺が守るべき場面で、先に飛び出して退こうとしない。どう見ても、焦っている。

 

「しょうがねぇ……さっさと片付けますか!」

「ああ!」

 

 ここで立ち止まっていても仕方がない。

 あいつらが先走ろうが、それをしっかり守ってやるのが俺の役目だと…そう思って。

 

 

「一体どうしたんだ、お前ら」

 

 駆逐した植物の残骸……いや、魔物の死骸を探り、種かなんかを落としてまた再生しないようにしながら、俺は二人に呆れた目を向ける。

 ラフタリアとリュウガは、それにばつが悪そうな表情を浮かべた。

 

「無茶な攻撃ばかり…そう前にで続けられると守りきれないぞ」

「すみません…」

「…悪い」

 

 首を竦める二人だが、やはり不満と物足りなさを抱いているように見えるのは、俺がひねくれてしまったせいなんだろうか。

 どうしたものか、と思いながら集めた種を盾に入れ、現れた新しい項目に目を通した。

 

「ところで何やってんだ?」

「新しく出たスキルがあってな……解放するのに時間がかかるんだ」

「ほほーう…?」

 

 俺の説明を聞いたセントの目が、キラーンと光る……あ。

 しまった、最近ないからうっかりしていた!!

 

「だったらさっさと触らせろ!!」

「またか! 久々だなこのやりとり!?」

「あー! ズルい! フィーロもご主人様とあそぶの!」

「セントさん! フィーロ!」

 

 俺の盾に飛び掛かってくるセントが、女として浮かべちゃいけない顔になる。

 それにフィーロまで加わって、俺の周りはとんでもない騒ぎになった。くそっ! いい加減に懲りろよバカウサギが!!

 

「…こんなこと、やってる場合じゃねぇのに…!」

 

 俺達が騒ぐすぐ横で、そんな呟きをこぼすリュウガに、俺は最後まで気付けずにいた。

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