Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Ryuga
「はい、つーわけで反省会を始めます」
ごとごと揺れる馬車の中で、セントがオレ達全員を集めて話し始めた。
……いや、何だ?唐突に何言ってんだお前?
「いきなり何言ってんだお前…」
「反省会……ですか?」
「色々突っ込みたいだろうけど、まぁ待て…こっちも色々言いたいことがあるから」
じとっとした目で、セントはオレとラフタリアを見つめてくる。
ナオフミも似たような…若干咎めるような目を向けてくる。心当たりは…まぁ、確かにあるけど。
「お題は主にお前ら二人な」
「うっ」
「ぐぅ…」
「自覚があるようで何よりだ」
議題は、最近の戦いについて。
ナオフミの防御を待つことなく、オレやラフタリアが先に飛び出して、かなり大暴れしていたことだろう。
わかってる……わかってんだけどよ。
「リュウガが暴走しがちなのは今更だけど、最近ちょっと目立つよ? 何をそんなに焦ってんだ?」
「そんなつもりは…」
「守るのは俺の仕事だ。前に出て傷でもついたら、俺が辛いんだ。セオリーはちゃんと守ってくれ」
慰めるように言うナオフミ。
けどのその言葉は……オレの感情を逆撫でした。
「…そんな悠長なこと言ってられるかよ…!」
胸の奥にメラッと炎が灯る。それはみるみるうちに大きくなって、オレの頭を沸騰させ始める。
これ以上はいけない、と思ったけど……気づけば、体が勝手に動いていた。
「お前は優しすぎるんだよ! ケガする覚悟もなくて、いつまでたっても強くなれねぇ! ただでさえオレは、お前らより遅れてるってのに!」
「おい、いきなりどうしたんだよリュウガ」
セントやら二人あが驚いた顔で見つめてくるけど、もうそれどころじゃない。オレはキッと二人を睨みつけ、セントの方に向かう。
そして、足元に置かれていたベルトを奪い取った。
「待て! それはお前じゃ…!」
「オレだってこれが使えれば…!」
オレはアイツがしていたように、腰にベルトを当てて装着する。
適当なボトルを持って、ベルトに挿す。そして、レバーを思い切り回そうとした瞬間。
バチッ!と物凄い電流が、オレの体に走った!
「ぐあああああさああ!?」
「あーあー、だから言ったじゃんか」
電流に全身をやられ、オレはバタッと仰向けに倒れる。
なんだ、これ…!?
悶絶するオレに歩み寄り、ベルトを取り返したセントが呆れた様子で見下ろしてきた。
「他の人間に盗まれて使われないように、ロックをかけてあるんだよ。特定の条件が揃わないと使えないの」
「クッソ…!」
お見通しだったって事かよ、ちくしょう…!
オレは……弱いのに、もっと強くなりたいのに!
その資格さえないってのかよ…!
「…お前さ、焦んなよ。さっさと冤罪晴らして自由になりたいのはわかるけどさ、気持ちをはやらせたってどうにも……」
「そんなんじゃ…!」
思わず、オレはセントの慰めに反論しかける。
焦ってるのは……認める。だがそれはそんな理由じゃない!
だけどオレは…それを口にする勇気がなかった。
「……そんなんじゃねぇんだよ」
「やれやれ…」
そう言って、肩をすくめるセントやナオフミの憐れみの目が…今は辛かった。
そしてこんなオレを見て我が身を振り返っているのか、悔しげに俯くラフタリアの姿が、妙にまぶたに残っていた。
Side:Naofumi
若干気まずい空気になりながら、俺たちは次の目的地へと向かう。
薬を大量に運んでほしいという依頼だったんだが……その理由は、着いた直後に深く理解することになった。
「…なんか、空気悪いな」
すんすん鼻を鳴らして、セントが顔をしかめる。
着いた村はもう、燦々たる有様だった。
あちこちに具合の悪そうな村人がいて、苦しそうに呻いている。家の向こう側に見えるのは、多分簡易的な墓だろう。
「疫病が流行ってるって話だからな。死臭とかだろう」
「そうなんだろうけど…何かこう、何かが腐った匂いみたいな」
それは死臭と同じじゃないんだろうか……そう思ったが、遺体の処理はやっているようだし、違うものが原因かもしれない。
これは、原因を取り除かないとまた同じことが起こりそうだな。
「おい、疫病の原因について何か知らないのか?」
「そ、それは…」
村人の一人を捕まえて尋ねる、妙に歯切れ悪く口ごもる。
目をそらすそいつに質問を続けていると、ようやくそいつは口を開いた。
聞いてみれば、確かに呆れる話だった。
以前この近くには、財宝を山ほど溜め込んだドラゴンが棲みついていたらしい。
そいつをつい最近、剣の勇者である錬が討伐したそうだ。
素材を剥ぎ取れるだけ剥ぎ取って、残りは村人にやったりして錬は帰ったらしいが、放置された大量の肉が腐敗し、疫病を流行らせてしまったと。
……バカじゃないのか?
「一時期は村も潤ったのですが、時が経つにつれて病に倒れる者が次々と…」
「…身から出た錆ってわけか」
あいつ……腐るって発想がなかったのか?
いや…何かとゲーム脳な連中だ。そんなことまで頭が回らなかったんだろう。
「この状況をどうにかするには、元を何とかしないとな」
「死骸の除去か……全く、ここでも他の勇者どもの尻拭いをする羽目になるとは」
セントと一緒に深いため息をつく。
別に悪いことをしたわけじゃない。だがこう……考えが足りないっていうか、下手に手を出して自体が悪化してるだけにしか思えない。
…頭痛くなってきた。
「次に会ったらたらふく迷惑料をふんだくってやる」
「ケツの毛までむしってやんな!」
「せ、セントさん…」
鼻息荒く、セントは俺とともにどこぞにいるバカ勇者たちを睨む。
ラフタリアがセントの口調を諌めかけるが、内容自体は的を射ているせいか口を閉ざした。
言葉もないよな、この状況じゃ。
「なら、行くか」
「おう!」
「はい!」
「おう」
「はーい!」
俺は盾を、最も強力なものに変える。
するとそれを見た村人から、驚きの声が上がり出した。
「た、盾の勇者…!?」
「聖人じゃなくて悪かったな……あいにく他の勇者は、自分のことで手いっぱいらしくてな!」
こいつらの態度が変わろうが、今更知ったことじゃない。
俺は俺で、勝手にやらせてもらうだけだ。
「うっぷ…匂いがきつくなってきたな」
「話にあったドラゴンの巣ってのが、そろそろなんだろう」
山道を登って行くごとに、鼻に襲いかかる刺激がきつくなってくる。
一応マスクはしているが、これじゃ焼け石に水だな。セントやリュウガに至っては、涙目で堪えている。
俺もさっさと終わらせて帰りたい。
「…噂をすれば、見えてきたな」
お、やっと着いたのか。
さて、件のドラゴンとやらはどんだけデカイのか……って、これは。
「うっ…!」
「ひでぇ匂いだ…!」
凄まじい匂いに、俺たちは固まる。
首から先や、素材になる部分を全て削がれた哀れなドラゴン。そいつの体には屍肉を漁る魔物が集い、ぐちゃぐちゃと嫌な音を立てている。
これは……精神的にもくる光景だな。
「わー、おいしそー」
「アレが!?」
「…魔物の感覚とは相入れんな」
「同感」
ドン引きするセリフに、全員でギョッとフィーロを凝視する。
あんなもん食おうとするな! 食うなら前の村で手に入れた木の実でも食っとけ!
「うえっ…気持ち悪くなってきた。さっさと片付けちまおうぜ」
「とは言ってもこの巨体ではな…盾に入れるにしても、解体しないと」
「めんどくせぇから適当に燃やしちまおうぜ」
「何だその脳筋のセリフは」
思わずリュウガの案に賛成してしまいそうなほど、匂いが酷すぎる。
さて、まずどこから手を出すべきか…。
そう、思っていた時だった。
「…なんか今、あいつ動かなかった?」
「は?」
セントが不意に、訝しげな表情でドラゴンの死体を見上げる。
動いたって……あれがか? 首もないのにどうやって……ん!?
「GYAOOOOOOOOO!!」
鼓膜をつんざく凄まじい方向が、腐ったただの肉塊から迸る。
音もなく横たわっていたはずのドラゴンが…起き上がった!?
何だ!? 何が起こってるんだ!?
「ドッ…ドラゴンゾンビ!?」
「何で!?」
腐ったドラゴンの体が、四本足で力強く立ち上がる。
なくなった首も牙も爪も、そして翼も全てボコボコと肉が盛り上がり、あっという間に本来の姿と近くなっていく。
おいおい……どういう原理で蘇ったんだこいつは!?
「やべぇ! ゾンビ化した魔物は生前よりも強くなることがある!」
「やっぱりか…退くぞ! 今の俺たちにはまだ荷が重い!」
即座に退こうと走り出す俺たちだったが、それよりもドラゴンゾンビの方が速かった。
鞭のようにしなった尾が、フィーロに叩きつけられる。そして一緒に、ドラゴンゾンビはフィーロにニヤリとバカにするように笑った。
「むっかぁ!!」
「フィーロ!?」
あいつ…挑発に簡単に乗せられやがって!
ていうかこの光景前にも見たことあるぞ!? あれだ、元康とレースで勝負した時だ!
「そういえば、ドラゴンと仲が悪いんだったっけな…!」
種族的な因縁が絡んできた以上、逃げることは難しそうだ。こうなったらもう、撃退するしか生き延びる方法はない。
くそっ、今の戦力でどこまでやれるんだ!?
「やるしかねぇ! 変身!」
【鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェイ!】
険しい表情のまま、セントが鎧をまとう。
明らかに奴の攻撃力は、俺の防御を上回っているが……俺が耐えなければ、全滅する。
だがそんな俺の覚悟を無視するように、リュウガが飛びかかっていった。
「ナメんな! ドラゴンブロー!!」
ドラゴンゾンビの顔面に向かって、リュウガが拳を振りかぶる。
だが案の定、ドラゴンゾンビに翼で防がれ弾き飛ばされ、岩場に叩きつけられる。
何やってんだよ…! 力の差は明らかだろうが!!
「フィーロ! リュウガ! 体勢を立て直す! 戻れ!!」
「やーっ!!」
「おらあっ!!」
「俺の命令が聞けないのか!?」
あいつら二人とも、頭に血が上っているのかまともに聞きやしない。
リュウガは空中に飛び上がり、また頭部を狙って攻撃を仕掛けに行く。
それを察知したのか、ドラゴンゾンビは尾を振り回し、リュウガを吹き飛ばした……フィーロの方へ。
「ぎゃんっ!!」
リュウガが直撃したフィーロが、バランスを崩す。
そして空中で身動きが取れないまま、フィーロは落ちていく。
ドラゴンゾンビの、口の中に。
「……え?」
地面に落ちながら、リュウガが呆然と声を漏らす。
そして俺も……絶句する。
閉じられたドラゴンゾンビの口から、大量の赤い液体が、吹きこぼれたのを見て。
「フィーロぉおおお!!」