Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Sento
ゴクン、と。ドラゴンゾンビがのどを鳴らし、それを呑み込む。
それはエサなんかじゃない…さっきまでオレ達と普通に会話していた、フィーロちゃんだという事が、オレは一瞬理解できずにいた。
「ウソ、だろオイ…!?」
すぐそばでは、尻餅をついたリュウガが呆然とドラゴンゾンビを見上げている。
無理もない、先走ったあいつがフィーロちゃんにぶつかっちまった結果、こんなことになったんだから。だけど、それを責めてる場合じゃない!
「ぼけっとすんな! 離れてろ!」
【ゴリラ!】【ダイヤモンド!】【ベストマッチ!】
「ビルドアップ!」
俺は現状、もっとも破壊力に優れたベストマッチを選択し、ベルトに挿して鎧を生み出させる。
それを纏いながら、ドラゴンゾンビに向かって飛び掛かった。
【輝きのデストロイヤー! ゴリラモンド! イェイ!】
「それ吐き出しやがれ!!」
一発顔面に食らわせて、あの子を吐き出させる。そんなつもりで思い切り振り下ろした巨腕だったけど…オレの一撃は奴の鱗に防がれ、弾かれてしまった。
「硬っ…!?」
「GYAOOOOOOO!!」
空中で身動きの取れないおれに向かって、ドラゴンゾンビが尻尾を振るう。
オレはそれをまともに食らい、小石みたいに軽々と吹っ飛ばされ、岩場に背中から激突させられた。
一瞬、意識が混濁して吐き気がする。視界も真っ暗になったけど、結構な量の血を吐いたのだけはわかった。
「セントさん!」
「大丈夫…! 致命傷じゃねぇ…!」
いってぇけど、我慢できないほどじゃない…!
硬さに定評のあるダイヤモンドフルボトルを使っていてよかった。じゃなかったら多分死んでた、マジで。
よろよろしながら起き上がると、リュウガがまだ呆然としているのが見えた。
「あいつが…オレを助けて……オレのせいで…!」
「反省は後にしとけ! 今はそれどころじゃねぇ!」
たぶん、オレも同じ状況になったらそうなるけど! でも今はやめろ!
ドラゴンゾンビの奴は、相変わらず太々しく俺たちを見下ろしている。本気出さなくてもいつでもやれるってか…舐めやがって!
「ラフタリアちゃん! もうこうなったらやるっきゃない! 覚悟決めといて!」
「は、はい!」
こうなったらもうとことんやってやる!
なんとかして奴に一泡吹かせなきゃ気がすまねぇんだよ!!
「ナオフミ! オレがどうにか奴を仕留めてみせるから、それまであいつの攻撃を受け止めててくれ!」
「……」
「おい、どうしたナオフミ!」
まさかお前まで正気を失ってんじゃねぇだろうな!? お前の防御が無かったらどうしようもないんだぞ!?
そう思い、若干イライラしながら振り向いたオレだったが……それが、全くの勘違いだったと思い知った。
「……憎イ」
…え?
何だあれ……ナオフミの体に、へんな模様が。っていうか、何だあの…禍々しい雰囲気は。
小さな、しかしおぞましい声を漏らしたナオフミの目は…恐ろしく見えた。
「こノ世界の全てテのモノが…憎イ…!」
「ナオフミ…!?」
ナオフミの盾が…変化していく。
炎の形を模したような、そして竜の姿を描いた、見るからにヤバいとわかる一つの盾。
それから勢いよく……業火が迸った!?
「何だ…あの炎は…!?」
炎はドラゴンゾンビに食らいつき、ナオフミの伸ばしていた腕を焼き払う。
オレ達があれだけ攻撃しても傷ひとつつかなかった奴の身体が…たった一発で。
それはナオフミの…盾の勇者ではありえない、異様な光景だ。
「あのドラゴンゾンビの体を…!」
「…ハ、ハハハ! ハハハハハ!」
ボロボロと腕を炭化させ、悲鳴のような咆哮を上げるドラゴンゾンビを、ナオフミは悪魔の様に笑う。
絶対ヤバイ…今のナオフミは絶対味方じゃない、一度見ただけでそう察した。
「ナオフミ様!」
正直恐怖を感じて、あとずさりかけた時。
悲痛な表情になったラフタリアちゃんが、炎を纏うナオフミの腕に縋りついた。まるで、どこかへ向かいそうになっているナオフミを引き留めるように。
「ダメだ! 離れろラフタリアちゃん! 黒焦げになっちまうぞ!」
「イヤです! 今離れたら…ナオフミ様がもう手の届かないところへ行ってしまいます!」
「だからって君が傷ついてたら…!」
実際今、ラフタリアちゃんは炎を受けた所から火傷を負っていく。
いや、ただの火傷じゃない。見るからに体に悪そうな、真っ黒い痣が広がっていく。
動きを止めている二人に、狙ったように奴がまた別の腕を伸ばしてきた。
「ちっとは空気を……」
【Ready GO!】
「読みやがれトカゲ野郎!」
【ボルテックフィニッシュ!】
オレは苛立ちを込めて、ドラゴンゾンビの顔面にもう一度渾身の一撃を叩き込む。
さっきよりもいいのが入った…でもやっぱり弾き飛ばされて、今度こそ動けなくなってしまった。
ヤバいってこれ…! どうすりゃいいんだよ!?
「止まれ……ナオフミ!!」
すると、もう一人…炎に焼かれるラフタリアちゃんの反対側の腕に、縋りつく人影が。
ラフタリアちゃん以上に悲痛に…そして苦しそうに顔を歪めたリュウガが、ナオフミの腕にしがみついて叫んだ。
「もうやめろ! やめてくれナオフミ! わかった…もうわかったから!!」
邪魔をされるのが気に入らないのか、ナオフミはうなり声をあげながら進もうとしている。
既に正気の失せたその横顔に、リュウガは涙を滲ませながら叫び続けていた。
「お前は…お前はオレだ。オレと同じで…怒りと悲しみで壊れちまった…! だからオレはお前についてきた…同じ目的を果たそうって! でも、ダメなんだよそれじゃ!」
ラフタリアちゃんと同じく、リュウガの身体が火傷を負っていく。
相当な痛みがあるだろうに…二人ともじっとその場を動こうとせず、ナオフミにしがみついたままだった。
「オレの怒りはオレのもんだ…お前の怒りはお前のもんだろ! お前の苦しみで、大事な仲間を傷つけるな! オレみたいに…だれかれ構わず傷つけたりするな!」
その声から…リュウガの苦しみが伝わってくる。それにオレは、激しい後悔に苛まれていた。
あいつは…自分の復讐が果たせないことに焦ってたんじゃない。
自分が復讐心に囚われたまま、何も変われずにいることが苦しくて仕方なかったんだ。変わろうとしているナオフミとの差に、焦ってたんだ。
何だよ……何でそんなことに気がつかなかったんだよ、オレは。
「オレももう…二度と先走ったりしないから! ちゃんということ聞くから! だから……戻ってきてくれ、ナオフミ!」
「ナオフミ様!」
炎に包まれながら、必死に呼びかけ続けるラフタリアちゃんとリュウガ。
その声にやがて、ナオフミの目に光が戻り始めた。
「…! ラ、ラフ…タリ、ア……リュウ…ガ」
ナオフミの意識が…戻りかけている!
だがそんな流れをぶち壊すように、ドラゴンゾンビが手を伸ばし、三人を一緒くたに掴んで捕まえやがった!
「ぐぅ…! もう…これ以上…俺から、俺たちから奪うんじゃねぇ…!」
締め付ける力に苦しみ、ナオフミが呻き声をあげる。
どうに片手で締め付けを防ぎ、抜け出そうとしているが…奴の力はそれ以上で、ぎしぎしといやな音が聞こえだした。
「うおおおおおおおお!!」
それでもナオフミは諦めない。隣にいる二人を助けようと、凄まじい声をだしながら抗い続ける。
オレも何かしねぇと…でも、やっぱ痛みが走って動けねぇ!
どうしようもないのか、とあきらめかけたその時!
「GUAAAAAAAAAA!!」
ごぼっ、とドラゴンゾンビが腐肉を吐きかけて、動きが鈍くなる。
何だ?今奴の胸の中で何かが動いた気がしたけど……ってそんな場合じゃねぇ!チャンスだチャンス!!
「今だ! ビルドアップ!」
ズキズキ痛む体に叱咤して、オレは立ち上がってフルボトルを入れ替える。
必要なのは、パワーじゃない。急所を正確に貫く、鋭さだ!
【鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェイ!】
「これまでの分、まとめて食らいやがれ!」
【Ready GO! ボルテックフィニッシュ!】
レバーを回し、オレは空中に高く飛び上がる。
左右から数式のラインが狭まり、ドラゴンゾンビの首をがっちりつかんで固める。そこに、オレの全力のひっさつキックが炸裂する!
渾身の一撃を食らったドラゴンゾンビの首が、胴体から勢いよく離れた。
「GUO…!」
最後に小さくドラゴンゾンビが吠えて、首が地面に墜ちる。
巨体もそれにつられるように倒れた直後、オレの身体も限界を迎え、力なく落下した。
めっちゃくちゃいてぇ…けど、やった、みたいだな。
「ナ、ナオフミ…!」
一瞬気絶しそうになったけど、まだそれは早い。
オレは体を引きずり、倒れ込んだラフタリアちゃんとリュウガに懸命に魔法での治療を施しているナオフミのそばに寄った。
「火傷が引かない…魔法がきいてないのか…!?」
「これは…」
近くに寄ってみた二人の症状は、あまりにひどかった。
全身にあの痣が広がって…痛々しいことこの上ない。これは……まさか。
「…ナオフミ、ここじゃ応急手当てが精一杯だ。一旦村に戻って医者に預けよう」
「あ、ああ…!」
「ダメ、です…!」
オレは呆然とするナオフミを促す、けどその前に、ラフタリアちゃんが弱々しい声で待ったをかけた。
リュウガも痛々しい姿のまま、オレたちを咎めるように見つめてきた。
「まだ、依頼が…完了していませ…!」
「しゃべるな! 重症なんだから!」
「気にすんな、かすり傷だ…」
「それに…フィーロが」
あ…そうだ。あの子のこと、弔ってやらないとな。
…産まれて数日しか経ってないのに、オレたちの未熟のせいで。
本当に……ごめんな。
「フィーロちゃん…!」
「な〜に〜?」
激しい後悔で、うつむいたまま動く事ができないオレたち…だったけど。
…ん? 今なんか、この状況に似つかわしくない間の抜けた声がきこえた気がしたぞ?
え?
「は?」
「ぷぁ〜! やっと出られた〜」
どばっ!と音がして、後ろに会ったドラゴンゾンビの腐肉が弾ける。
そしてその中から……無傷のフィーロちゃんが顔を出した。
……は?
「……お前、生きてたのか」
「ぶー、フィーロそんなに弱くないもん!」
「いやだって、お前…血吐いて」
「さっき食べた赤い実、吐いちゃったの」
…マジか。
え、さっきあんだけ落ち込んだのに、泣き損?
ていうか紛らわしいんだよコラ…!
「…は、ははは」
「んー? ごしゅじんさま、フィーロのこと心配してくれたの?」
「うるさい…!」
おいおい…ナオフミも思いきり呆れてるよ。
ただ…その目ににじんで見える滴については、オレは見ないふりをしておくことにした。
あー…いってぇな、クソ。