Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Ryuga
「呪詛ですね…それもかなり強い」
村に戻って、治療院に運び込まれた後のこと。
オレとラフタリアが二人して全身に包帯を巻き、ベッドに腰掛けて医術士に治療を受ける。
その時言われたのが、さっきのセリフだ。
「そのドラゴンゾンビが、これほど強力な呪いを?」
「あ…えっと」
「そ、そうです。私達が誤って腐肉を浴びてしまって…」
言いよどむナオフミに代わって、ラフタリアがそう答える。
わざわざ本当のことを言う必要はない…ナオフミも傷つくし、村の連中も怖がるだろうしな。
そしたら医術士のおっさんは、小さい透明なビンを持ってきた。
「これは私ではどうにもなりません。王都の教会でもっと強い聖水を購入されたほうがいいでしょう」
「…それは?」
「低級の聖水です。気休めにしかなりませんが…」
おっさんはそれに包帯を浸して、オレたちの傷の上に巻きつける。
ジュッと音がして痛みが走ったけど、オレもラフタリアも耐えて口を閉ざす。ナオフミやフィーロがハラハラしながら見てるしな。
「痛むか…?」
治療を終えると、おっさんは部屋を出て行った。
それでナオフミが、恐る恐るといった感じで問いかけてきた。
「…平気だ」
「大丈夫です。…ナオフミ様こそ、おケガは大丈夫ですか?」
「ああ…俺は何も。あとはセントが戻ってくれば…」
ちょっと安心してるっぽいけど……これはかなり堪えてるな。
あのバカウサギ…さっさと戻ってきてこの空気粉砕してくれよ、何のためのお前のうざさなんだよ。
「ナオフミ、村の連中に食料もらってきたぞ…せめてもの礼だってさ」
ちょっと経ってから、セントの奴が戻ってきた…って。
オイ、なんかお前も若干落ち込んでないか? いつもの無駄なテンションの高さがどっかいってるぞ?
「…その、大丈夫か?」
「はい、少し体がだるいですが…それだけです。ありがとうございます」
ラフタリアにかける言葉も、どこか弱々しい。
…それからはしばらく、誰も口を開かなかった。重い空気だけが、肩にのしかかってくる感じがしていた。
「……すまねぇ」
耐えきれなくなったオレが声に出したのは、そんな言葉だった。
なんか他にあるだろってオレ自身思ったけど、そんなことしか言えなかった。
「オレが先走って、無謀な突撃ばっかりしたから……こんな目に」
「リュウガちゃん…それは」
「いや、お前のせいじゃない」
俯いていたオレは、ナオフミのつぶやきで顔をあげる。
ナオフミはオレと同じような…いや、オレ以上に苦しそうに顔を歪めていた。
…何でお前がそんな顔するんだよ、これはオレが…。
「悪いのは俺だ…俺の心が弱かったせいで、お前達を巻き込んだ」
「それも違います! ナオフミ様の心配を無碍にしてしまったのは私で……」
「だからそれはオレのせいで…!」
「落ち着けお前ら。きりねぇよ」
ラフタリアまで自分を責め出してもう無茶苦茶になってきた。
何だこれ、責任の押し付け合いならぬ奪い合い? 意味わかんねぇよ。
フィーロも自分が悪かったと思ってるのか、落ち込んで見えた。
「…今回の失敗は、オレが言うのもなんだけど全員にあると思う。ナオフミは心配が過ぎて、ラフタリアちゃんとリュウガは焦り過ぎ、フィーロちゃんは勝手すぎて……オレは、楽観視が過ぎた。ごめん…」
セントまでもが悔しそうに頭を下げてくる…くそっ、お前だけでもいつもの調子でいて欲しかったのに!
さっきよりもズーンと重くなった空気の中、ナオフミが拳を握りしめる音が妙によく聞こえた。
「そうだ。勇気と無謀が違うように、慎重と臆病も違う……お前たちは俺を信じてくれたのに、俺は…」
「…反省会を開くべきだったのは、オレたちの方だったかもな」
それ以降、誰も何も言えなくなっちまった。
誰が一番悪いとか、誰のせいかとか、このお人好し連中が言えるはずないもんな…。
……そういえば。
「ところでよ、あのドラゴンゾンビ…急に苦しみだしたからなんとかなったけど、一体どうしたんだ?」
「ナオフミの火が効いたんじゃねぇのか?」
「お前の拳じゃないか?」
「セントさんの攻撃が急所をついたのでは?」
「フィーロがゴリっとしちゃったからかも」
今回のMVPについて、誰も理解してなかったらしい。全員、自分の攻撃が決定打になったと少しも思ってない…って。
ん? なんか変なセリフを口走った奴がいなかったか?
…お前か、フィーロ。
「…ゴリっと?」
「うん、食べられた時にね、こんなの見つけたの」
ごそごそと服の中を漁り、フィーロが何かを取り出す。
なんか紫色の…危険っぽい雰囲気を持つ宝石みたいな何かだった。
「セント、こいつは…」
「…核だな、あのドラゴンの」
…え、マジで?
あ…そりゃあ、ゾンビだから普通に心臓で動いてるわけじゃなくて、こういう核で動いてたってわけで。
え、そんな手で良かったのか? じゃあオレたち、やられ損?
「…フィーロちゃんの食い意地がこんな場面で役に立つなんてな」
「えっへん!」
「お前って奴は…」
思わず全員で呆れて、言葉も出ない。そのうち誰かが噴き出して、全員に笑いが伝播していった。
もちろん、ナオフミにも。
「あ! ごしゅじんさま笑った!」
フィーロに指摘されて、ナオフミがキョトンとした顔を見せる。
あー、こいつのこういう顔初めて見たかもな。最近はいっつもしかめっ面で、難しい顔ばっかしてたから。
…レースで槍の勇者が吹っ飛ばされた時以外は。
「ずっと心配だったんです。いつも気を張っておいででしたから…」
ホッとした顔で、ラフタリアがナオフミに笑いかける。
思えばずっと、ナオフミには心配ばっかかけちまってたからな…。
「リュウガ、これ」
「ん?」
不意に、セントがオレに何かを…青いフルボトルを投げ渡してきた。
ドラゴンの意匠が施された…見たことがないやつだ。
「…お前、これ」
「そのうち、お前のための武器も作ってやろうって思ってたんだ。これはその前準備」
ちょっと目をそらしながら、セントはオレにそう語る。
…そうか、オレのことそこまで考えてくれてたのか。なのにオレは、あんな醜態まで晒して…。
気恥ずかしくなって、オレはセントから目をそらした。
「…こっからだ。こっからオレたちは、立ち上がろう。失敗も後悔も全部背負い込んで、積み上げていこう。そしていつか…もっと強くなろう」
じっとセントが、強い決意を目に秘めてオレたちを見つめてくる。
その通りだ…つい駆け足で行きたくなるけど、急いだってどうしようもないんだ。
強くなるのに、近道なんてないんだから。
「…ああ、そうだな」
前よりもずっと穏やかになった顔で、ナオフミが笑いかける。
それに安心したように笑うオレや、ラフタリアにフィーロ。
「…なんかの役に立つかもって思ったけど、どうしたもんかなぁこれ」
…その横で、何か黒いフルボトルを持ったセントが、難しい顔で考え込んでいることに、オレは気づいていなかった。