Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Naohumi
「いででででで!」
もはや通いなれてきた気もする、奴隷商のテントの中。
襟を開けたセントの胸に奴隷紋が刻まれ、セントが痛みで悲鳴を上げている。
そういえば、ラフタリアもあんな感じだったな…。
「ナメてた! ごめんナメてた! 奴隷紋ってこんなにキツかったのね!? マジすんません!」
誰に謝っているつもりなのやら……とにかくこれで、セントは俺の命令を聞かざるを得なくなった。
寸前になって逃げ出すかと思えば、事が終わったらこいつ、満足げに笑ってやがる。本気でついてくるつもりか…。
「しかし奇特な方もいらしたものですな。信頼を得るために自分から奴隷になろうとは、ハイ」
「完全に信用したわけじゃない。あくまで雇用契約だ」
奴隷紋がどこまで完全なのか、そもそもどこまで信用していいかはまだ分からない。だが、また裏切られないためには必要なものだ。
禁止事項を設定しておいて……このくらいでいいか。
ステータスは……それなりに高いな。だがやはりさっきよりは低い。あの姿になっている間の能力の向上という事だな。
すると、奴隷商の奴がセントの顔をまじまじ見つめ始めた。
「実に惜しい、あれはあれで上等な商品になったでしょうに。勇者様にその気があれば金貨6枚でお引き取りしますがいかがでしょう?」
「金貨6枚か…」
「待て待て待て待て悩むな!」
確かに顔はいいし、体つきも健康的だ。売らないけど。
冗談ではのっかってみたが、さすがにそこまで堕ちたつもりはない。それこそあのクソ女みたいにはなりたくない。
セントも嘘だとわかったのか、あからさまにホッとした様子でラフタリアのそばに寄っていった。
「……大変だったねぇ、小さいのにこんなん食らわされて」
「い、いえ…」
まだ少しよそよそしさがあるみたいだな、当たり前か。
ぶっちゃけ、俺も雇ったはいいがうさん臭くて仕方がない。おかしなやつだという事しかわかってないし、記憶喪失というのもそれに拍車をかけている。
だが……枷も無しに放り出すのと、枷付きで傍に置くのなら、後者の方がまだ安心できる。
俺がじっと奴を睨んでいると、セントは何を勘違いしたのか頬を染めながら流し目をくれてきやがった。
「やだなぁ、そんなにじろじろとオレの胸見ないでくれよ。オレだって照れるじゃないか」
「……ここで売り飛ばされたくなければ黙ってろ」
「ゴメン! ふざけてマジゴメン! もう二度とこう言う冗談言わないから!」
その反応はあの女を思い出すからやめろ!!
クソッ!!
「ふん、いくぞ」
「は、はい!」
「あーもーそう急がせるなよ」
奴隷商に手数料を払い、俺はテントを後にする。
人数が増えたのはいいが……正直これでよかったのかと本気で不安になってきた。
…そういえば、ウサギとタヌキの組み合わせって、昔話的には最悪だったような。
まぁ、いいか。
Side:Sento
「ちぇすと!」
寄ってきた魔物、バルーンとかいう丸い奴を思い切り蹴り飛ばす。
あんまり強くない奴だったのか、オレの蹴り一発で割れてしまった。…でもまだまだいっぱいいるんだよなぁ、異常なほどに。
だったら…!
「細かくて多い敵にはぁ〜これ!」
オレはポケットから新しく手に入れたフルボトルを取り出す。
ホウキとかチリトリとか、掃除に関する物を吸収して作ったそれを、タンクフルボトルと入れ替えて差し込む。
【ラビット!】【掃除機!】
オレのまわりにラインとフレームが形成され、赤色と緑糸のアーマーが作られる。
気合いを入れて手のひらに拳をぶつけ、景気づけにオレは叫んだ。
「ビルドアップ!」
フレームが前後からオレを挟み込み、オレの体にアーマーを着せる。
ラビットハーフボディはそのままに、反対側には異世界の技術、掃除機を模した鎧が出来上がった。
【ボルテック・アタック!】
「どりゃあああああ‼︎」
オレはベルトのハンドルをぐるぐる回し、掃除機の吸引口を魔物たちに向ける。
とんでもない勢いで掃除機は魔物たちを吸い込み、吸引口の前でひと固まりにしてしまう。そこへオレが渾身の蹴りを放ち、一網打尽にしてみせた。
ん~、我ながらファインプレー!
「……思ってたんだが、お前のその妙なアイテムは一体なんなんだ?」
「ん? あーこれ?」
ラフタリアちゃんを守りながら、別の魔物の相手をしていたナオフミがオレに聞いてくる。…ていうかすごいね、思い切りかまれてるけど痛くないの?
そういえばこれについて説明してなかったか…。
…んふ、んふふふふ!
気になる? 気になっちゃう?
そりゃあ気になるよねぇ!?
「そこまで気になるならば耳をかっぽじってよーく聞け! これこそオレの最っ高の発明品! ビルドドライバー!」
バーン!と腰に手を当てて、オレは二人にベルトを見せつける。
…ちょっと引いてる気がしなくもないけど気のせい! 目の錯覚!
「フルボトルっていう、この道具に秘められた力を組み合わせ、自分の体に纏わせることで、爆発的な攻撃力を与えるちょーすごいアイテムなのだよナオフミくん」
「誰がナオフミくんだ」
こらそこ!ノリ悪いよ!
「フルボトルはこのエンプティボトルに魔物や物質を吸収させることで生まれ、その組み合わせは無限大に広がるのだ! すごいっしょ? 天才っしょ⁉︎」
「はいはい」
「なにそのぞんざいな反応⁉︎」
わざわざ説明してあげたのに……おかしいなぁ、ここはもっとこう「なん…だと…」ぐらいの反応があってもいいだろうに。
と、思ってたらナオフミは別の事を考えてたみたいだった。
「……それを俺やラフタリアが使うことは?」
「あ、それ無理。うっかり誰かに盗まれたりしたときのことを考えて、オレ以外使えないようにしてあるから」
あー……すげぇって事じゃなくて、使えるかどうかを考えてたのね。
いや、まァ勇者ならその考えも間違ってないんだろうけど……あんた、男の子だよね? ワクワクとかしないの?
しない? しないの? マジで?
「…ならいい。次の獲物を探すぞ」
「…あいあいさー」
ドライすぎるぜナオフミ……何でこんなにひねくれてんだ? 過去に何があったの?
不完全燃焼気味に歩き出そうとした時、オレは大事なことを思い出した。
そうだ。別にあれはそんな制約設けてなかったんだっけ。
「あ、でも武器単体なら使えるから、必要なら貸すぞ? 一応オレ、持ち物も含めてナオフミのものってことになってるんだし」
「…どっちにしろ、俺は使えないだろうがな」
「へ?」
「…貸してみろ」
ナオフミに促されるがまま、オレの武器ドリルクラッシャーを渡す。
あ、剣術とかが使えないとかそういうの? もしくは運動音痴でうまく戦えないとかそういうの?
そんなの別に恥ずかしがらなくっても……ってうお!?
何だ!? ナオフミがドリルクラッシャーを持った瞬間、弾かれた!?
「うっわぁ……マジか」
「この…忌々しい伝説の武器以外は使えないようにできているらしい。だからお前は、自分の道具は自分で使え」
「難儀だなぁ…」
そりゃあ……仲間、っていうか戦う奴が必要不可欠だわ。
だったらその人間不信直せよって思うけど、普通の冒険者とかは近づいて来なさそうだしな、あんな噂があるんじゃ。
…っておい。
「ちょっとは待てっての!」
空気を読まずに襲ってきた魔物をまた蹴り飛ばす。
おい!なんか今日は妙に多いなクソ!
「ラフタリア!」
「やあっ!」
ナオフミが攻撃を受けて、ラフタリアちゃんが剣で突き刺す。
まだちょっとおっかなびっくりな感じかな? しょうがない、お姉さんがもう少し手伝ってあげなくちゃね!
「どるりゃあああああ!!」
その日の狩りは、日が暮れるまで行われた…。
Side:Raphtalia
「うんめぇ…!」
ご主人様と一緒に日が暮れるまで魔物と戦って、そのあとはご飯の時間。
新しくご主人様の奴隷になったセントさんが、狩った魔物のお肉をかじって幸せそうに笑っています。
やっぱりそうですよね! おいしいですよね!
「うんめぇなこの肉! お前どっかで料理人でもやってたのか!?」
「お世辞か? おだてても何も出んぞ」
「イヤイヤ本心だって!」
「ご主人様のご飯は、なんでかすごく美味しいんですよ」
「みたいだな! ……こりゃいい雇用主に会えたな」
セントさんがニコニコ笑っていると、私も嬉しくなります。
ご主人様は怖いけど、でも本当は凄く優しい。それを知ってくれてる人が増えるのはとても嬉しくて……。
でも何でだろう、胸がもやもやする…?
「一人増えると、やはり収穫量も段違いだな……」
私達がご飯を食べている間、ご主人様は薬草を混ぜて薬を作っています。
私もお手伝いしたいけど、難しそうで手が出せません。
「何やってんだナオフミ?」
「…明日売る薬の調合だ」
「色々やってるのね〜」
セントさんは頭がとてもいいみたいで、すごいものを一杯作っています。
きっと、すごくご主人様のお役に立ってます。
…いいなぁ、私とは大違いだな。
気分が落ち込んでいると、胸がまた苦しくなって、今度は咳が出てきてしまいました。
「けほっ…けほっ」
「ん? 風邪かい?」
「いや、こいつはもともと呼吸器系が弱いらしい。…薬だ、飲め」
「う…はい」
ご主人様は売り物である貴重な薬を私に与えてくれます。
でも……この薬、すごく苦くてきらい。よく効くのはわかるけど、飲むのがすごくつらい…。
「うわあ、苦そう…」
「貴重な商品なんだ。無理にでも飲ませないと治るものも治らん」
ご主人様は厳しいけど……これも私の事を想ってくれるから。
頑張って飲みきったら、ご主人様は私の頭を撫でてくれた。そうするとなんでかな、胸がきゅって締め付けられる感じがする。
さっきの苦しいのとは違って、これはいやじゃない。
「飲んだらさっさと寝ておけ。明日も早いぞ」
「はい……」
「へーい」
ご主人様に言われて、私とセントさんは寝る準備をする。
本当は、まだ寝ていたくない。
だって、あの悪夢をまた見てしまうかもしれないから……。
Side:Sento
ナオフミの奴、そんなにやることがあるならオレに手伝わせりゃいいのに。
…まだまだ信用してもらえるには程遠いか。
「……ぃゃ、いやぁ…」
ん?
先に寝たと思ってたラフタリアちゃんが起きた…いや、これはうなされてるのか? …って思ってたら。
「きゃあああああああああああああ!!!」
いきなりラフタリアちゃんが悲鳴を上げて跳び起きた。
耳っ…耳! 自慢の耳が余計に音を拾いすぎて…! キーンてなったキーンって!!
「なっ、何だ!?」
何事かと思ってたら、ナオフミが作業の手を中断して、手慣れた感じでラフタリアちゃんを抱き寄せてあやし始めた。
「大丈夫だ……大丈夫だから」
「いやあああ…いやああ、お父さん……お母さん……!」
「どうしたんだ…?」
「夜中になると、パニックを起こすらしい。理由はわからんが、奴隷になってたぐらいだ。辛いことでもあったんだろう」
…うん、まぁ、こんな小さな子が奴隷になってるぐらいだしな。いろいろあるだろうさ。
ていくかこの人、オレが来る前もこんなことずっとやってたのか。
とか思ってたら、ラフタリアちゃんの悲鳴に呼び起されたのか魔物が集まってきた。
……正直まだ眠くなかったし、いいか。
「…あいつらの相手はオレがやるよ。ナオフミは休んでて」
「…わかった」
ナオフミにそう言って、オレはベルトとフルボトルを取り出して装着する。
…ついでに、言っておくか。
【ラビット!】【タンク!】
「……あのさ、ナオフミ。あんたが街で色々噂されてるような奴じゃないのは、なんとなくだけどわかってきた。でもオレは、あんたのことを何も知らない」
ナオフミはラフタリアちゃんを抱いたまま、振り向かない。
聞いてるとは思うけど、何も答えない。でもオレは…言っておきたい。
【ベストマッチ!】
「だから…できるだけ知りたいと思う。そのために、オレはこれからお前のそばで力になるよ」
「…好きにしろ」
ぶっきらぼうに言って、ナオフミは落ち着き始めたラフタリアちゃんの頭を撫でる。
……オレは馬鹿か。
こんなに優しい奴が、仲間を襲ったりなんてするもんかよ。
【Are you ready?】
「変身!」
誰が流した噂かは知らないけど、こいつを貶めた奴は絶対に許さない。
こいつに今、味方がいないんなら……オレが絶対に助けてやる。
「おりゃあああああああああああ!!」
とりあえずお前らは、オレの八つ当たりの相手になりやがれ!