Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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メルの正体

Side:Naofumi

 

「姉上、随分とお戯れがすぎるようですね」

 

 堂々とした……俺が想像していた以上の身分を感じさせる佇まいで、メルがビッチに話しかけている。

 そして…ビッチがあいつに、押されて見える。

 

「戯れなんかじゃないわ。私は勇者様の補佐として仕事を……」

「民の往来で決闘をさせ、無駄な被害を出すことが仕事だと?」

 

 ビッチはいつもの詭弁で煙に巻こうとしているけど、メルには通じていない。

 と、思っていたら、雰囲気にのまれていた元康が我に返り、ビッチを庇うように前に出てきた。

 

「お、俺もやりすぎたかもしれない。だが聞いてくれ! そこにいる尚文は本当に危険な奴で…」

「戦えない民の多くいるこの場で刃を振り回す貴方と比べてもですか!?」

「ひぃっ! ごめんなさい!」

 

 が、メルの気迫に圧されてすぐに引っ込んだ。何がしたかったんだ、あいつ…。

 

 て言うか……俺もさっきから流されっぱなしだ。

 何が起こってる? 今この場で…何が起こってる?

 

「ナオフミ様!」

「ごしゅじんさまー!」

 

 するとそこへ、さっき別れたラフタリアとセント、メルを送り届けにいったフィーロが戻ってきた。

 三人とも、この状況に驚きを隠せないようだった。

 そりゃそうだ、ビッチがあんなに気圧される姿なんか、前のレース以来想像だにしなかったからな。

 

「…なんかえらいことになってきたな、あれ」

「あれは一体どういうことだ? あのビッチが押されてるぞ?」

「あいつらのあの反応を見るに…間違いないな」

 

 ん? セントがなんかメルを見て唸っている……お前、何を知ってるんだ?

 

「あの子の本当の名前は、メルティ=メルロマロク。この国の第二王女で、正当な王位継承権第一位の持ち主だ」

「は!?」

 

 え……あ、あいつが?

 いや…そういえば確かに姉上って言っていたから、そうなんだろうけど、でも…え!? 衝撃の事実に理解が追い付かないぞ!

 ……ん? 今なんかおかしなこと言わなかったか?

 

「…第一位? 妹っぽいが?」

「上があれだからな。姉より権力があるんだよ」

「はっ、ざまぁねぇな」

 

 ああ……流石にあれに国を任せるつもりはないわけか。

 あのクズ王もそのへんの分別はある……のか? ぶっちゃけ同レベルに思えるが……どうなんだろうな、そのへん。

 

「ごしゅじんさまー、なにかあったの?」

 

 状況を全く理解していない様子のフィーロが、首を傾げて話しかけてくる。

 伝わるかはわからんが、一応説明してやろうとした時だった。

 

「お嬢さん、お名前は?」

 

 元康が来た。

 なんか、以前にラフタリアとセントをナンパしてきた時よりもキラキラした顔で、キザったらしく手を取って……うわ、気持ち悪っ。

 

「この状況でも見境なしかこのスケコマシ!!」

「フィーロのこと? フィーロの名前はフィーロだよ!」

「答えんでいい!!」

 

 お前…! そいつはお前の股間を蹴っ飛ばした奴だぞ。

 わからないのは仕方ないが、恐いもの知らずというか面の皮が分厚いというか。

 

「デブ鳥に神鳥なんて呼ばせて、成人なんて言われていい気になってるみたいだが……もうそうはいかないぞ!」

 

 なんか急に激昂した元康が、ぶんぶん槍を振り回して……って危なっ!?

 いい加減にしろよ! あいつに止められたばかりだろうが!!

 

「フィーロちゃんは俺が救ってみせる!」

「こいつは…!」

「やりの勇者様! ですから武器をお納め下さいと…」

「そこをどいてくれ、フィーロちゃん! 俺は君を助けたいんだ!!」

 

 メルが止めようと再度声を張り上げるが、元康の奴状況に酔って聞いちゃいない。

 くそっ…いっぺんボコって黙らせるか?

 そう思い、ラフタリアたちに目配せしようとした時。

 

「……フィーロのことデブ鳥って言った」

 

 そう、聞いたことがないくらい低い、感情を押さえつけた声が、フィーロから聞こえてきた。

 …今、初めてこいつのこと怖いって思ったぞ。

 

「なっ…お前女の子に向かってなんてことを!」

「いやそれお前だから」

「お前が言ったの、その子に、デブ鳥って」

「? 何を…」

 

 セントとリュウガが呆れた目で説明するが、元康は全く理解していない。

 すると、奴の目の前でフィーロが変身し―――フィロリアル・クイーンの姿で立ち塞がった。

 

 その瞬間、元康の顔がおもしろいぐらいに引き攣った。

 

「…え? き、君があのデ―――」

 

 元康が再びその単語を言いかけたその瞬間。

 

 ゴッッ!!と俺も思わず内股になるぐらいの轟音が鳴り響き、元康が再び天を舞う。

 白目を剥き、泡を吹いた奴はそのまま放物線を描きながら吹っ飛ばされ、近くにあった屋台に頭から突っ込んだ。

 

「モ…モトヤス様〜!?」

 

 ビッチが慌てて駆け寄るも、元康はぴくぴく震えるだけで反応がない。

 

 俺とセントとリュウガは、滑稽な姿を晒す元康を見つめた後、ボフンッと人型に戻ったフィーロに振り向き、にやりと笑みを浮かべる。

 

「「「イェ〜イ!!」」」

「わ~い!!」

 

 歓声を上げた俺達は、三人がかりでフィーロを抱え上げ、わっしょいわっしょいと宙に放り上げる。

 俺達の熱烈な喝采に、フィーロも満足げで満面の笑顔になる。

 ははは! ここに発泡酒やビールがあったら思いっきりぶかっけてるんだがなぁ!!

 

「だから喜んではダメと……胴上げ!?」

 

 ラフタリアが無茶苦茶戸惑ってるが、今はそれに構っている暇はない!

 フィーロ、やはりお前を買って正解だったぞ! こんなに爽快な気分になったのは久しぶりだ!!

 

「ナオフミ様! やりすぎですってば!」

「いいじゃないかラフタリア……女の子にデブなんて言ったあいつが悪い」

「そ、それは…」

 

 ラフタリアも思うところがあるのか、注意を止めて目を逸らす。

 そうだろうそうだろう、お前だってあいつにあんなことを言われたら腹が立つだろう!

 歓喜に沸く俺達だったが、続いてかけられた声に一気にテンションを引き戻された。

 

「…あの、聖人様。少しだけ、お話をよろしいでしょうか」

 

 そう、遠慮がちに話しかけてくるメル―――いや、メルティを見下ろし、俺は自分の思考が冷えていくのを感じた。

 

 

Side:Sento

 

「…で、なんでウチなんだよ?」

 

 連絡も無しに舞い戻ってきたオレ達を前にしたおやっさんがそう言い、オレ達はたまらず苦笑をこぼす。

 うん……でもさ、なんか行きつけみたいになってて他に思いつかなかったんだよね。

 

「悪い悪い…おやっさんのとこ以外に思いつかなくってさ」

「はぁ…厄介ごとはほどほどにしてくれよ」

 

 ため息をついたおやっさんは、カウンターに肘をついてそれ以降口を閉ざす。

 店が静かになったタイミングで、ナオフミがメルに……メルティ第二王女様に向き直った。

 

「メルティ・メルロマロク…だったか?」

「はい…以前は名乗ることができず、申し訳……」

「謝罪ならいらん。話もする気がない」

 

 丁寧に礼を述べる王女様だが、それをナオフミがズバッと遮る。

 オイオイ…と注意しようと思ったが、ナオフミの奴ムチャクチャ敵意剥き出しで、言葉を挟めなかった。

 この勇者、恐い。

 

「フィーロ、もうこの子と遊んではいけませんよ」

「えーっ」

「なんで親目線…?」

 

 へんな言いつけに、リュウガも呆れた目を向けている。

 まぁ、立場的に親っぽいけど、不良と付き合い出した子供を叱るみたいな……その台詞はどうなの?

 

「名前を隠して近づいてきた目的はなんだ? また俺を貶めるためか、それともフィーロか」

「そんな…! 私はっ」

「問答する気はない。悪いがお前が王族ってだけで、俺はお前を信用できない」

 

 きっぱり、微塵も会話をする気を見せないナオフミの態度に、さすがの王女様もムッとした様子を見せる。

 これに関しては王女さんの方が正しいが…ナオフミも事情が事情だしなぁ。

 

「す、少しくらい私の話を聞いてくれたって…!」

「お前の父親は、ハナから俺を悪人と決めつけた上で一切話を聞かなかったぞ」

 

 うん、そうなんだよね。

 ぶっちゃけそのせいで、ナオフミの心はまだ凍ったままなんだよね。

 …でも、やっぱ王女様に来れはかわいそうかな。

 

「わかったらさっさと行け。もううんざりなんだよ、お前ら親子に振り回されるのは!」

 

 言い返そうとするメルティ王女様だが、ぎろりと睨みつけるナオフミに気圧されたのか、立ち向かう様子がない。

 いや…流石にこんな幼い子供にガチギレすんのはどうなのよ、ナオフミ。

 

 そうこうしているうちに、王女様の護衛で改めて送られて来たのか、メルロマ六の兵士達が店にやってきた。

 

「姫様、そろそろお時間です」

「…わかったわ」

 

 兵士に促され、王女様が渋々店を後にする。

 それを心配そうに見送っていたフィーロちゃんが、ぶんぶん手を振って声をかけた。

 

「ま、またね。フィーロちゃん」

「うん! またね、メルちゃん!」

 

 パッと明るい顔になり、すぐにまた暗い顔になったメルティ王女様。

 …これは、うん。

 ちょっと後味わるいなぁ。

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