Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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信頼は買えない

Side:Erhard

 

 …あんな悲しそうな背中、見た事ねぇな。

 第二王女さんの顔は久しぶりに見たが、アンちゃんの返事であんなに落ち込むとはな……よっぽど鳥の嬢ちゃんと仲が良くなったんだな。

 アンちゃんの気持ちもわからんでもないが、ちっとばかし口を挟みたくなるな。

 

「……アンちゃんよぉ」

「あれはどうなんだよナオフミ」

「そうですよ、いくらなんでもかわいそうだと思います」

「ごしゅじんさまー、メルちゃんいい子だよ」

「問答無用で突っ返すのもな…」

 

 おっと、俺の他にも同じ感想を抱いた奴らがいたようだ……って、こりゃ全員だな。

 みんなしてアンちゃんをじとっと睨んで、味方が一人もいねぇ。

 

「あいにくだが、あのクズの娘ってだけでも信用ならない。カエルの子はカエルって言うだろ」

「いやいやいや…とても一緒とは思えなかったけどな」

 

 ウサギの嬢ちゃんが言うように、あの王女さんは違うと言える。

 なんせ、あの女王の娘だからな。

 ……もう一人は、まぁ、あれだけどよ。

 

 ん?

 ふと入り口を見ると、一人の若い兵士がうちの店を覗き込んでるのが見えた。

 

「あの…」

「! お前、まだいたのか…!」

 

 若い兵士が遠慮がちに話しかけようとした矢先に、アンちゃんが即座に追い出す姿勢を見せる。

 オイオイ…流石にそりゃあ過剰反応ってやつだろ。

 

「ま、待ってください! 僕の話を聞いてください!」

「この国の兵士のか!? あいつ以上に信用できないがな!」

「聞いてくれるまで、ここを動きません!」

 

 噛みつくような勢いで怒鳴りつけるアンちゃんを前に、若い兵士は一歩も退く様子を見せねぇ。

 その様子があんまり必死に見えたのかねぇ…アンちゃんもそのうちトゲを引っ込めて、ため息をつきながら向き直った。成長したじゃねぇか。

 

「……わかった。で、何の用だ?」

「は、はい! 実は…」

 

 若い兵士が言うところによると……どうやらアンちゃんと一緒に波で戦いたいんだという。

 聞けばこいつは、前にアンちゃんが助けたリユート村の出身で、生き残った奴の中にはこいつの家族もいたらしい。

 で、その恩義に報いたいってんで、有志を募って瞳孔の許しを得に来たんだとか。

 

 ……くぅ、泣かせるじゃねぇか!

 恩義で戦いたがるこいつもそうだが、アンちゃんを助けたいってやつが一人でも出てきてくれたんだからよ!

 

「び、微力ながら、勇者様のために戦いたいんです! どうか、我々の同行をお許しください!」

 

 深々と頭を下げる若い兵士だが、こりゃあアンちゃんとしても渡りに船なんじゃないのか?

 人手不足でいっつも頭抱えてたろ。

 

 するとアンちゃんは、何か考え込む様子を見せると、懐から一つのアクセサリーを取り出し、若い兵士に突き付けた。

 

「え? こ、これは…」

「俺が作ったアクセサリーだ。値段は銀貨150枚……そいつを買うなら、信用してやる」

 

 あ……あぁ!?

 銀貨150枚って……いや流石にそのアクセサリーじゃ高すぎるぞ!

 思わず、アンちゃんを見る目が険しくなっちまったよ。

 

「それ、売れ残りの…」

「おい、ナオフミ…!」

「そりゃちょっとボリすぎだろ兄ちゃん…」

「黙ってろ」

 

 嬢ちゃんたちも見過ごせないのか、アンちゃんに咎めるような目を向けている。そりゃあ、お前さん達なら言い咎めるわな。

 だが、アンちゃんはそれを気にせず、兵士だけを見据えて続けて告げる。

 

「どうした? そいつを購入するだけで俺の信用が得られるんだぞ? …それとも、口だけか?」

「…! わかりました! なんとか工面してきます!」

 

 若い兵士はそう叫ぶと、俺の店を飛び出して何処かに走り去っていく。

 …あれ、大丈夫かねぇ。

 せっかくくれた厚意が無駄になっちまうんじゃねぇのか?

 

「ナーオーフーミーくーん?」

「お前な」

 

 ウサギの嬢ちゃんと龍の嬢ちゃんも、さっきより厳しい目を向けてアンちゃんを詰る。が、やっぱりアンちゃんは気にしてねぇな、はぁ…。

 と思ったら、急に出口に向かって歩いていっちまった。

 

「おい、あいつ待たねぇのか?」

「来たら待たせておけ。先にクラスアップに向かう」

 

 …本気で来ると思ってねぇのか?

 あの感じは嘘や冗談で話しかけてきた感じじゃなかったんだけどなぁ……いつになったら、あの人間不信が治るんだか。

 

「ナオフミ様ったら…」

「…まー、あいつなりの考えがあるんだろ。待ってやろうぜ」

 

 呆れる嬢ちゃんだが、アンちゃんがどうするのか信じて、もうちっと様子を見てやろうと俺は思う。

 嬢ちゃん達が、アンちゃんの心を溶かしたように、な。

 

 

「……って、感じで行ってきたかと思えば」

 

 俺にあの兵士への言伝を託し、今度は教会にクラスアップをしに行ったアンちゃん達だが、無茶苦茶不機嫌そうに戻ってきた。

 

「どうしんた? 何そんなイライラしてんだ?」

「どうしたもこうしたもあるか! くそっ! この国の連中は本当にクズばかりだ…!」

「まさかあんな手を使って嫌がらせしてくるとは…」

 

 何をそんなに、と思って聞いてみれば、その内容に思わず俺も顔をしかめた。

 なんと教会のシスター連中、クラスアップに金貨十五枚を要求したあげく、盾の勇者には許可を出さないとかほざいてきやがったんだとか。

 …流石の俺も、そりゃあ無理矢理が過ぎると思うぞ、国王様よ。

 

「いっそ他の国に移住すっか……」

「奴隷商から聞いたが、他の国にもあるんだってな? 龍刻の砂時計は」

「あ、ああ…アンちゃん知らなかったのか」

 

 望まれず召喚されたアンちゃんは、普通なら教えられるあらゆることが伝えられてないらしい。

 まったく…嫌うにもほどがあるよなぁ。

 

「だがまぁ……クラスアップするには国の信用を得ないとだしなぁ、時間と手間はかかるだろ」

「また一からコツコツとって感じか…それはまぁ、仕方ないか」

「どっちにせよ、今すぐには無理だ。準備が必要だな」

 

 ほんと、何でこの国の連中は四人もいっぺんに召喚しちまったんだか。

 しかも、よりによって盾の勇者をこの国にだぞ?

 しばらく険しい顔で愚痴っていたアンちゃんだったが、やがて諦めたように肩を落とした。

 

「……なら、しばらくはその準備に取り掛かるか」

 

 そう言って、今後の事も相談しようとした時だった。

 俺の店を再び訪れる奴が現れた。

 

「盾の勇者様!」

 

 興奮気味な声に振り向くと、そこには息を切らせたさっきの若い兵士の姿があった。

 そいつだけじゃなく、仲間らしき別の兵士や、亜人の魔法使いの姿もある。

 来ると思ってなかったのか、呆気にとられた様子のアンちゃんに、若い兵士は中身が詰まった袋を差し出してきた。

 

「こ、これ…! みんなでカンパし合ってかき集めて来ました! どうぞ、お受け取りください!」

「早いな! さっき別れてまだ一時間たってないぞ!?」

「先に事情を話したら、みんな手分けして集めてきてくれたんです」

 

 若い兵士が言うと、同士らしき後ろの連中も誇らしげに頷いている。

 アンちゃんはしばらくそいつらを見つめて、小さく頷いてみせた。

 

「…わかった」

 

 アンちゃんは袋に手を伸ばすが、受け取らずに若い兵士に押し返す。

 そしてさっき見せたアクセサリーを渡すと、ステータス魔法をいじって若い兵士に何かを送り付けた。

 ありゃあ、多分パーティ申請の通知かなにかだな。

 

「勇者様!」

「そいつは信用した証にくれてやる。ただ…もし裏切ったら承知しないぞ」

「は、はい!!」

 

 嬉しそうに笑う若い兵士に、アンちゃんは鼻を鳴らす。

 それを見た俺や嬢ちゃん達の顔にも、たまらず笑顔が浮かんでいた。

 

「…やっぱり試してやがったな?」

「信用は金では買えないからな。わかりやすい誠意ってもんを見せてもらおうと思っただけだ」

 

 ぶっきらぼうに言うアンちゃんが、そう言って店を後にする。

 ったく……素直じゃねぇな、この勇者様はよ。

 

 

Side:Raphtalia

 

「…どうした、ニヤニヤして」

「せめてニコニコと言ってください!」

 

 ナオフミ様に味方したいと言ってくれた兵士さん達の事を思い出していた私に、ナオフミ様はそんなことを言います。

 あれを見て何も思わなかったのでしょうか、まったくもう…!

 

「さっきの兵士達の中に…亜人の子もいらっしゃいました。きっと、この国では肩身の狭い思いをしているはずなんです」

 

 私の台詞に、セントさんもリュウガちゃんもうんうんと強く頷いています。

 同じ亜人として、あの姿には感じ入るものがあったのでしょう……私も今、胸が熱くて仕方がありません。

 

「本気でこの国の力になりたい、そう思っているはずなんですよ」

「……俺だって、何でもかんでも疑うつもりはない。ただ…見極めが必要なんだ」

 

 …そうおっしゃるナオフミ様ですが、気付いていますか?

 どこか、嬉しそうな顔に見えますよ。

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