Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Ryuga
それは、ある事件があってから少したってからの事だった。
武器屋の親父の店を後にしたところで、ナオフミが急に妙な事を言い出した。
「……俺はお前の美的センスを疑うぞ、ラフタリア」
「どうしてですか!? カッコいいじゃないですか!」
「いやでもこれはなぁ……」
険しい顔で、ナオフミは自分の鎧を見下ろす。
今身に纏っているのは……蛮族の鎧+1だっけか?
うん、胸当てに付いた例の腐竜の核とか、なんかゴツゴツしたところとか、首周りのふわふわとか、色々ついてるけど…。
それを見て目をキラキラさせるラフタリアに、ナオフミがぐちぐち文句を垂れだして…いや、何が気に入らないんだ?
「山賊のボス」
「ワイルドでいいんじゃねーか?」
「フィーロもそう思うよ?」
「まともなのはセントだけか……まぁ、親父の善意でできてるしこれ以上文句は言えん」
ぼそっとセントが呟いた一言にえらく頷いてるけど……オレ達の評価に言いたい事があるなら聞こうじゃねーか。
最終的に諦めたのか、ナオフミは深いため息をついてその場から去ろうとする。
波まであと少し、できる事をいろいろしておこうかと思っていた時だ。
「見つけましたよ!」
なんかちょっと偉そうな声が聞こえて、オレ達は胡乱気に振り向く。
あれは……誰だ? 知らねぇ男が二人、こっちに向かってきている。
持ってんのは剣と弓? …って事は。
フッとオレの頭に思い浮かんだ考えを当たりだというように、セントが訝しげな目を向けて呟きをこぼした。
「…弓の勇者?」
「へー、あいつが……何でここにいんだ?」
「あなたですね! 僕達の報酬を横取りしたのは!」
じっと見つめるオレ達に構うことなく、剣の勇者と弓の勇者?がナオフミに詰め寄ってきた。
あ? 何だお前ら、いきなり出てきて偉そうに。
「……いきなり何の話だ」
「とぼけないでください! 僕はギルドの依頼で悪徳領主の不正を暴き、町に平和を取り戻したのに、依頼料は別の誰かに支払われたと…!」
「…俺は、ドラゴン討伐の依頼がキャンセルされたと聞かされた」
…弓の勇者が言ってるのは、あれだ。
前に行商しに行った、やたら汚れた連中が食べ物を欲しがりに来ていた土地の事だ。置物と交換したがってたやつもいたな。
何でも、反乱が起きて領主が変わったはいいが、重税に次ぐ重税ですっかり生活が苦しくなっちまったんだとか。
…その反乱を率いていたのが、こいつって訳か。
もう一人の方は…ああ、そういえばあの腐竜、元は剣の勇者が討伐したやつだったっけ?
ふーん、ほーう?
こいつ、まだ何にも知らされてないわけか。
「そんなことをするのはあなたぐらいなもんです!」
「どういう推理だ!?」
「冤罪にもほどがあるだろ…!」
これはオレでもよくわかる。
こいつら……自分がやらかしたことにも気づかないで、ナオフミを元凶と思い込んで言いがかりつけに来やがったな?
「…お前、依頼を受けるときちゃんと身分を明かしたのか? 何者かもわからないのに、本人かどうか証明できるわけないだろ」
「ぐ…!」
セントがもっともなことを言って、弓の勇者が声を詰まらせる。
何だっけ……コーモン様とか何とか、ナオフミが言ってたな。身分を隠して世を忍び、悪を捌く…とかそんな物語なんだって?
……それ、なんか意味あんの?
「善行を自分から主張しろとでもいうんですか!? そんなの…僕の正義に反します!」
「矛盾してるんだよ、お前のやり方は。賞賛されたいなら名乗ればいいだろうが」
いつになく、セントの口調が刺々しい。
なんだ? 弓の勇者のやり方っつーか…あり方そのものにいやな目を向けてる感じがするな?
なんかあったのか? こいつと。
「ついでに剣の勇者。お前にも言いたいことあるぞ」
「…なんだ」
「お前の受けた依頼だが…お前がドラゴンの死骸を放置したせいで疫病が蔓延したんだ。キャンセルされたのはそのせいだ」
「なに!?」
セントに言われて、剣の勇者が愕然とした反応を見せる……あれ?
なんかこう、気取った奴だから「そんなこと知るか!」とか言うのかと思ってたが、予想とちがったな。
「ちなみにこいつら、その時に腐肉を浴びて呪い食らって、今治療中な」
「そんな…!」
急によろめき出したと思ったら、剣の勇者の奴、オレ達に頭下げてきた。
…なんか、調子狂うな。一方がめっちゃ上から目線な分、余計に妙な感じだ。
「……それは、すまなかった」
「錬さん! この人のいうことを真に受けるんですか!?」
「嘘をつく理由がない…」
こっちを責める材料が減ったからか、弓の勇者がちょっと焦ってる?
はっ! ちゃんと考えもしないで勝手にオレ達を悪役扱いするからこんなことになるんだよ!
「くっ…ぼ、僕は認めませんよ! あなたには、僕の功績を妬む理由が…」
「あのさぁ、弓の勇者様」
なおも言い募ろうとする弓の勇者を遮るように、セントが呆れた様子でもう一度口を開く。
胡乱気な顔で振り向く弓の勇者をセントは…すげぇ鋭い目で睨みつける。
これは……怒ってる? いや、嫌悪してるのか?
「あんたは報酬が欲しいから依頼を受けたのか? 町の人間が苦しまないようにとかそういう目的で戦ったんじゃないのか?」
「そ、そうですよ!? 僕は正義のために…」
「だったら怒る前に嘆けよ。頑張ったけど役に立てなかったって」
ああ、そこか。
そういえばこいつ、報酬が支払われなかったことにばっか拘ってて、町の困窮ぶりには触れようとしなかったな。
自分の不甲斐なさより先に、自分が、しょ…しょう……褒められなかったことの方が重要そうな物言いだった。
睨み返す弓の勇者に、セントは聞いたことがないくらい低い声で告げた。
「見返りを求めたら、それは正義とは言えないぞ」
…ちょっと、ゾッとした。
何だ? 今、セントが知らねぇ別人みたいに見えたが……気のせいか?
弓の勇者もその辺の威圧感を感じ取ったのか、若干後退ったけど、すぐに元に戻って歯を食い縛ってる。
でも否定できないのか、それ以上何も言ってこなかった。
「わかったらさっさと帰れ。無駄な時間を潰してる暇なんてないだろうに」
「…! ぜ、絶対に認めさせてみせますからね!」
さっきから沈痛な顔で俯いている県の勇者と一緒に、弓の勇者はどっかに立ち去っていった。
…なんだかなぁ。
勇者ってもっとこう、希望の象徴っぽいキラキラしたやつを想像してたんだが…。
今の奴らはなんか、ギラギラしてたな。
ただの人間そのままだった…いや、ガキだから仕方ないのか?
「弓の人、そんなにお金欲しかったのかな〜?」
フィーロの純粋な感想がえらく重く聞こえる……これ、大丈夫か?
この国の子供とかに見せたら、勇者信仰が衰退したりしないか?
そういえば、この国の宗教って確か……やめとこう、考えたら頭痛くなってくる。
「……あれが、波を控えた勇者の今の姿か」
「やれやれ、って感じだな」
ナオフミもセントも呆れた感じで言ってるだけだけど…大丈夫なのかねぇ?
…まぁ、オレも今はあいつらの事はどうでもいいんだけど。
さっき聞いちまった一言が……オレの心に、結構深々と突き刺さった気がしてたから。
「…セント、今のセリフは、結構胸にきたぞ」
「ええ…カッコよかったです」
「セントお姉ちゃんすごーい!」
弓の勇者を言い負かしてやったセントの台詞に、ナオフミもラフタリアもフィーロも、みんな褒め言葉を……あ、称賛!の言葉を贈っている。
そんで称賛された本人はというと……顔を真っ赤にして目を逸らした。
「く、口に出すなよ! 小っ恥ずかしい!」
珍しい、こいつの照れる姿に笑い声をあげ、ナオフミ達は歩き出す。
「さてと…あいつらと同類扱いされないよう、俺達も準備に取り掛かるか」
ナオフミの言葉に強く頷き、三人がナオフミの後に続く。
その背中を見つめたまま……オレは、動けなかった。
…自分が正義の味方だとか、思っちゃいない。
だけどオレが戦う理由は……弓の勇者と同じで、誇れるようなものじゃないんじゃないのか。
そう思うと…オレの拳には、うまく力が入らなかった。