Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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憤怒の盾

Side:Raphtalia

 

 空に浮かぶ幽霊船、その上には槍の勇者様と剣の勇者様、そしてそのお仲間さんたちが集まり、戦っていました。

 

「尚文!? お前なんでこんなところに…!」

 

 船から生えている巨大な…タコ?イカ?のの足を相手にしている槍の勇者様が、私達に驚きの目を向けています。

 ですがナオフミ様はそれに答えることなく、苛立ったご様子で声を張り上げました。

 

「状況はどうなってる? なんでお前らバラバラの敵を相手にしてるんだ!?」

「盾の分際でしゃしゃり出てくるんじゃないわよ! 命令するなんて何様のつもり……」

「お前は黙ってろ!」

 

 マルティ王女が偉ぶった様子で言ってきますが、ナオフミ様はそれを一蹴します。

 まったく……まさかとは思いましたが、全く下の状況を分かっておられません。このままではどちらも危ないというのに…!

 

「お前らがさっさと敵を倒さないと、下じゃいつまでも戦いが終わらないんだよ! 少しは考えろ!」

「なんだと!? だからこうやって…」

「どうにもできてないからこうなってるんだろ!!」

 

 ナオフミ様の怒鳴り声に腹が立ったのか、槍の勇者様が言い返しますが、ナオフミ様はまったく引く気はないようです。…当たり前ですが。

 

「いつまでゲームの気分を引きずってるんだ!? 下の連中も、お前らの仲間も、みんな最初から命がけで戦ってんだろうが!!」

「ナオフミ様……」

 

 心の底から怒りの感情をあらわになさるナオフミ様に、私は思わず唇を噛み締めます。

 私にもっと力があれば、この方々に頼ることなく、こんな状況も打破できたのでしょうが…。

 

 すると、船の上にいるもう一体の魔物……海賊の姿をした骸骨と戦っていた剣の勇者様が声をあげました。

 

「…こいつだ! こいつを倒すとボスであるソウルイーターが出現するんだ!」

 

 なるほど…だから剣の勇者様はずっとその骸骨と。

 え? ちょっと待ってください。

 それでは、ずっと船に攻撃していた弓の勇者様や、大ダコと戦っている槍の勇者様は…?

 

「何言ってるんだ! その条件を持ってるのはクラーケンだろ!?」

 

 剣の勇者様の言葉に、やはり槍の勇者様が噛みつきます。

 待ったをかける槍の勇者様を、剣の勇者様が睨んだその時、、もう一人の勇者様が船の上に乗り込み、お二人を睨みながら告げました。

 

「いいえ、船です! 船を攻撃しないとボスが出現しません!」

「何を言ってるんだ、お前は!」

「そっちこそ!」

 

 どういうことでしょうか…?

 三人の勇者様が、それぞれ違う方法でナミのボスをおびき出そうとしています…一体、誰が正しいのでしょうか。

 

 言い合いを始める三人に戸惑っていると、不意にセントさんがぴくりと耳を動かしました。

 

「ん? おい、ラフタリア! 奴らの陰になんか潜んでるぞ!」

「え!?」

 

 セントさんの指摘で、私も思わず船にできた影を見渡します。

 姿は見えませんが…確かに、何かが嗤っているような、嫌な音が聞こえた気がいます。

 

「炙り出せるか?」

「…やってみます!」

 

 ナオフミ様に言われ、私は魔法の準備に取り掛かります。

 無意識に尻尾が膨れ、私の中から魔力が流れ出します…直接攻撃が通らなくても、サポートで後れを取るわけにはいきません!

 

「ファスト・ライト!」

 

 私の発した強い光で、船の上が眩く照らされます。

 その結果、マストや骸骨、そしてタコ足の下にできた影が強く現れ、その中に潜んだものの姿を照らし出すことに成功しました。

 

「お前ら! 敵の本体は影の中だ!!」

「そういうことか……雷鳴剣!」

「助かったよ、ラフタリアちゃん! ライトニングスピア!」

「感謝します…! サンダーショット!」

 

 ナオフミ様の合図で、勇者様たちが一斉に、それぞれの近くで蠢く影に攻撃を仕掛けました。

 雷の力が影の中に迸り…それが外の世界に現われます。

 

 いくつもの影に別れ、私達を嘲笑うように身を潜めていたそれ―――半透明の幽霊のような姿をした、凶暴な顔つきの怪魚。

 次元のソウルイーターという名の魔物が、私達に吠えかかります。

 

「SHAAAAAAAAAA!!」

「こいつが……ソウルイーター!」

「さぁ…あとはお前らの仕事だ!」

 

 役目はこなした、とナオフミ様が他の勇者様たちに告げた直後、強力な攻撃が放たれ、次元ノソウルイーターに殺到します。

 轟音と閃光が走り、魔物の巨体が爆炎に呑まれます…が、少しすると煙は晴れ、無傷の次元ノソウルイーターが再び現れ、高々と咆哮をあげました。

 

「…って効いてないじゃん!!」

「使えねー!!」

 

 期待外れだと言わんばかりにセントさんとリュウガちゃんが声を上げ、それを聞いた勇者様方がばつが悪そうな顔をします。

 

 ですが、そんなこちらの事情など魔物には関係がありません。

 突然、次元ノソウルイーターの口の中に炎が吹き荒れ、こちらに向けて放たれました。

 

「ヤベ…のわあああ!!」

 

 防御が間に合わなかったセントさんが、炎を食らって吹っ飛ばされ、その衝撃で変身が解除されてしまいました。

 しかも、ベルトも外れ、セントさんの近くから離れてしまっています。

 

「セントさん!」

「これ…まずいな」

 

 痛みに呻きながら、セントさんは顔を引き攣らせます。

 無防備なセントさんに、次元ノソウルイーターが顔を向け、再び炎を口の中にため込み始めました。

 

 動く事ができず、焦りを顔に出すセントさん。ですがその寸前、その手を引いて後ろに下がらせ、ナオフミ様が庇いに入ります。

 その直後、放たれた炎が炸裂し、凄まじい衝撃が辺りに撒き散らされました。 

 

「尚文!」

「ナオフミ様!」

 

 ナオフミ様は少し苦悶の声をあげましたが、すぐに大丈夫だと頷きます。

 それに少し安心しますが…状況が好転したわけではありません。攻撃を防ぐばかりで、一体どうすれば…!?

 

「どうすりゃいいんだ……打つ手なしかよ」

「こうなったら…!」

 

 すると、意を決した様子のリュウガちゃんがベルトとフルボトルを手にし、えっと…クローズドラゴン?ちゃんを掴みます。

 確か、あの子を使えばリュウガちゃんもあの鎧を纏えると……ですがあの方のレベルではまだ…!?

 

「へんし……いっだぁ!!」

 

 やっぱり思った通り、ベルトにクローズドラゴンちゃんを差し込もうとした時点で電流が走り、リュウガちゃんは倒れ込んでしまいました。

 何度見ても痛そうです…!

 

「だからまだ早いってのに!」

「くっそぉ! 今がその時だろうが!!」

 

 悔しそうにじたばたするリュウガちゃんですが、こればかりはどうしようもありません。

 セントさんも、別に意地悪で変身できないようにしているわけではなく、リュウガちゃんの安全を考えての事なんですから。

 

 …ですが、反撃手段がないままなのはその通りですね。

 事態が好転しないまま、追いつめられるばかりだったその時でした。

 

「…ラフタリア、お前ら。離れていろ」

 

 次元ノソウルイーターを睨んでいたナオフミ様が、ぼそりとそう言って、構えた盾に手を添えました。

 

「お前、まさか……あれを使う気か!?」

「それしかないだろう」

「待て待て! あれはお前…前回思いっきり暴走してただろうが! 危ないって!」

「このままならどちらにせよ全滅だ!」

 

 そんな…! ナオフミ様があんなことになってしまう力なのに、また使うなんて無茶です!

 ですが、こちらに目をやったナオフミ様の目は……私達の説得を聞き入れてはくれそうにありません。

 

 …それしか、逆転できそうな手段がないのは、事実ですものね。

 

「……逃げねぇぞ。お前がもし暴走したら、誰が止められるんだよ」

「最後まで、お伴します」

「…頼む」

 

 ナオフミ様の手に触れながら、私達は覚悟を決めます。

 また、呪いの炎にこの身を焼かれる事になろうとも……この方を決して、放っておきはしません。

 いつだって私達は…一緒に戦うんですから。

 

 私達に頷いたナオフミ様は―――禁じられたその力を、解放しました。 

 

「ぐっ……ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 ナオフミ様の全身に赤い模様が浮かび、盾が赤黒い炎に包まれます。

 同時にナオフミ様は、あまりにも痛々しく悲しい、憎悪と怒りをこれでもかとこめた咆哮を上げます。

 そして次第に、ナオフミ様の纏う鎧まで変貌し始めました。

 

「なんだアレ…!?」

 

 竜の身体を思わせるトゲが全身に生え、憎しみと怒りを表す黒に染まる、ナオフミ様の鎧。

 獣のような唸り声をあげるナオフミ様がぎろりと、剣の勇者様を見据えます…って、ダメです! ナオフミ様!

 

「ナオフミ様! 敵はそちらではありません!!」

「ナオフミ……しっかりしろ!」

「ナオフミ!」

 

 あの腐竜の怒りが…ナオフミ様の心に侵食している!? 自分を殺した剣の勇者様を、ナオフミ様を使って殺そうとしている…!?

 いけません! その方は、あなたの道具などではありません!

 あなたは憎しみを振りまく魔物なんかじゃありませんよ、ナオフミ様!

 

「ご自分を…しっかり保ってください! あなたは盾の勇者…人を傷つける方ではありません!」

「…ラフ、タリア」

 

 私の声に、ナオフミ様が少しずつ反応を返します。

 大丈夫…! 完全には飲み込まれてはいません…まだ、こちら側に戻って来られる!

 ですが、敵は私達にそんな余裕も与えてはくれません。

 

「SHAAAAAAAAA!!」

 

 ナオフミ様を脅威と認識したのか、次元ノソウルイーターが咆哮と共に向かってきます。

 この状況で…! なんとか応戦しようと、私が剣を構えた時でした。

 目を血走らせたフィーロが、とてつもない力で次元ノソウルイーターを蹴り飛ばしたのです。

 

「グガアアア!!」

「フィーロちゃん!?」

 

 フィーロは、いつもの天真爛漫さなど微塵も感じさせない凶悪な姿で、再び次元ノソウルイーターに襲い掛かります。これは…暴走してしまっているの!?

 

「なんでフィーロまで…!?」

「! アレだ、前に食った腐竜の核! アレに当てられてんだ!!」

 

 ! そうでした…フィーロは腐竜に飲み込まれた際に、肉体を操っていた核を食べてしまったのでした。

 だからフィーロも、あの腐竜の憎しみに影響されて…!

 

 その時、しがみついていた私の手に、ナオフミ様が優しく触れました。

 

「…大丈夫だ、ラフタリア」

「ナオフミ様……」

「少し……離れていろ」

 

 恐ろしい気配を発するナオフミ様を見て、すぐには頷けません。

 ですが…私は、ナオフミ様を信じ、しがみついていた手を離しました。

 

 そしてナオフミ様は、ゆらりと次元ノソウルイーターを前に立ち塞がります。

 

「これは俺の怒りだ……お前ごときが、抗えると思うな! シールドプリズン! チェンジシールド!」

 

 盾の力で、次元ノソウルイーターを盾の檻が囲い、その中に無数の棘が生やされます。

 苦悶の声をあげる次元ノソウルイーターの上に……巨大な、女性を模った棺のようなものが現れました。

 

『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は鉄の処女の抱擁による全身を貫かれる一撃也。叫びすらも抱かれ、苦痛に悶絶するがいい!』

「アイアンメイデン!!」

 

 中身がトゲだらけになったその棺の中に、封じ込められた次元ノソウルイーターが吸い込まれていきます。

 開かれた扉が、ぎしぎしと軋みながら閉じられたその瞬間……耳をふさぎたくなるような絶叫が、辺りに響き渡りました。

 

 棺が再び開かれると…ボロボロになった次元ノソウルイーターが落下し、甲板の上に横たわりました。

 

「…く」

「ナオフミ様!」

「…ふにゃ?」

 

 棺が姿を消すと、ナオフミ様の姿ももとに、そしてフィーロも元に戻りました。

 窮地は脱しましたが…なんて恐ろしい技なのでしょう。

 

「なんだよ……攻撃力がないとか言って普通に戦えてるじゃないか」

「…今回は勝ちを譲ってやる」

「今までサボっていたんですか? まったく…」

 

 倒れ込んだナオフミ様を見下ろし、他の勇者様たちが呆れた様子を見せます。

 何ですか…! ナオフミ様がこんなにも体を張ったというのに、その言い草は!

 

 私は思わず、怒りの声をあげようとしました。

 

 

「―――この程度の敵に苦戦するとは無様だな、勇者よ」

 

 

 ですが、そんな聞きなれない声が響いてきて、私の頭は一気に冷やされました。

 そして、音もなく現れたその人物達を目の当たりにして…私達全員が、呆然と立ち尽くしました。

 

「嘆かわしい……眷属器が泣いていますよ」

「まったくだ…蒸血」

『Bat!』

 

 蒸気の中から現れたのは、見慣れない格好の女性と、あまりにも奇妙な姿をした一人の戦士。

 その手にあったもの―――フルボトルを凝視し、私達は、動く事ができませんでした。

 

『ミストマッチ! Bat・B・Bat…Fire!』

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