Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Ryuga
現れたそいつらに…オレ達の目は釘付けになった。
なんとなく半透明に見える扇を持った女と、肩から煙突のような何かを生やした、コウモリの仮面をつけた…男? 女?
あまりにも唐突な、前触れのない登場に…誰もが言葉を失くしていた。
「…!? なんだ、あいつら…」
他の勇者共はそいつらの登場事態に驚いている様子だが……オレやナオフミ、ラフタリアとセントは、全く違う理由で絶句していた。
だってそうだろ…何であいつらが、アレを持っているんだよ!?
「…おい、セント。あいつの持ってるアレ…」
「ああ……間違いねぇよ! なんで…なんであいつ、フルボトルを持ってんだよ!?」
コウモリの仮面の奴が手にした…あれは、銃か? 妙な形をした武器の手元には、コウモリの意匠のフルボトルが装着されている。
あれは、セントが作ったものなんだろ!? なんでそれが…!?
すると、驚愕で言葉を失くしたオレ達に気付いたコウモリ男が、フッと鼻で笑ったような声をもらした。
「……なるほど、そうか。そういうことか」
…何だ、そのこっちの知らない事実に気付いてほくそ笑んだ的な悪役面は。
お前、絶対なんか知ってるだろ!
黙って笑ってないで何か言え! なんか物凄いムカつくんだよ!
「答える義理はない……ここで死ぬものに説明したところで、時間の無駄だ」
コウモリ男はそう言って、オレ達を……いや、セントを見たままそれ以上口を開かなかった。
…マジで何を知ってんだよ、こいつ!?
だが、そんなオレ達の目に飛び込んできたのは、また驚きの光景だった。
散々苦労して倒した巨大幽霊魚が、もう一体現われたんだ。
「! ソウルイーターがもう一体!?」
オイオイオイオイ…!
ナオフミの奴、あのヤバイ盾使っちまってもうヘロヘロなんだぞ!? どうすりゃいいんだよ!?
けど……そいつがオレ達に襲い掛かる事はなかった。
コウモリ男と一緒に現われた女が扇を振るい……巨大幽霊魚を真っ二つにしちまったからだ。
「なっ…!?」
「…崇高な戦いの邪魔をしないでいただきたいですね」
あの化け物を瞬殺して、あの女…まったく疲れた様子を見せてねぇ。
何なんだ…!? 何なんだよ、あいつら、ヤバすぎるだろ…!
「名を…聞いておきましょうか」
「…人に名前を聞くときは、まず自分から聞くもんじゃないのか?」
「これは失礼…」
警戒し、盾を構えたままのナオフミが、若干青い顔であいつらを睨む。
挑発して大丈夫なのかと思ったが、二人とも大して気にしていない…ていうか礼儀正しく礼をして、名乗りだした。
「私の名はグラス。あなた方の敵です」
「同じく……そうだな、ナイトローグと呼んでもらおうか」
「…盾の勇者、岩谷尚文だ」
互いに名乗り合って、また辺りが緊張感に包まれ始める。
相変わらず、あいつらが何者なのか全くわかんねぇけど……これだけはわかる。
下手に動いたら―――死ぬ。
「では……始めましょうか」
「ああ…真の波の戦いをな」
言うが早いか、半透明女ことグラスとコウモリ男ことナイトローグがこっちに向かって突っ込んでくる。
すかさず構えた時、グラスが急にふわりと舞い上がる。横から割って入った剣の勇者の攻撃を避けたらしい。
あいつらも連中を新たな敵と認めたみたいで、他の勇者やその仲間が次々に攻撃を加えていく…が、今のところひとっつも当たってねぇ!
ほんとに使えねぇな、お前ら!!
「ちょこまかと…!」
「どきなさい! 私が…」
挙句の果てに、ちょっとした喧嘩にもなりつつある勇者共。
それを見たナイトローグが、仮面越しでもわかるぐらいにイラついた様子を見せた。
「……鬱陶しい雑魚どもめ」
そう言って奴は、どこからともなく妙な武器を取り出す。
へんな機械がごちゃごちゃついた短剣みたいなそれをナイトローグは構えて、途中に付いたバ、バルブ?を回し始めた。
【デビルスチーム!】
「セント、ラフタリア! 下がれ!」
途端に迸る蒸気に、嫌な予感を覚えたオレがすぐに二人を呼ぶ。
すぐに戻ってきた二人を、ナオフミがオレやフィーロと一緒に後ろに庇う。
その直後、ナイトローグが放った強烈な斬撃が、周りにあった何もかもを吹き飛ばしてみせた。
ナオフミの防御力があっても、無傷ではいられなかった。
「ぐっは…大丈夫か、お前ら…!」
「くそ…こいつら強ぇ!」
呻くオレ達は、再びこっちを見てきたナイトローグ達を見据えて歯を食い縛る。
くそ…余裕シャクシャクみたいな顔しやがって! なんかつまんねぇって顔に書いてんぞコラ!
「ここまで弱いと……戦い甲斐がないな。弱いものいじめは趣味じゃないんだ」
「言ってくれるぜ…見てろ!」
「待て、リュウガ!」
オレは覚悟を決め、ナイトローグに向かって拳を振りかぶる。
効くとはハナから思ってねぇ…少しでも隙ができれば、逆転の機会は見つかるはずだ!!
「吠え面かきやがれ! 爆竜拳!!」
渾身の力で振るったオレの一撃……だけどそれは、横から割って入ったグラスに防がれ、逆に吹っ飛ばされて終わっちまった。
「ぐあっ!?」
「たー!」
「はあっ!」
オレの後に、フィーロやラフタリアも続くが、どっちも簡単に防がれ、あっけなく弾き飛ばされちまう。
思った通り、普通に攻撃する程度じゃだめか…!
だったらやっぱり、
「なるほど、先ほどの方々よりは手練れのようですね……ですが、甘い」
扇を閉じて、グラスはそれをラフタリアの首元に添える。
…お前ら程度いつでもブッ殺せるってか? 実際そうできそうで、全く笑えねぇ…! 急がねぇと…。
「ナオフミ、なぜ先ほどの盾を使わないのですか? …私たちを侮辱しているのですか?」
「くっ…!」
ナオフミがさっきのヤバい盾を使わない事を、なめられていると思ったのか、グラスがものすげぇ殺気を込めて睨んでくる。
…向こうの注意は、オレには向いていない。
今なら…いける!
「ナオフミ! セント! これ使え!」
オレは声を上げ、ナオフミとセントに向かってある物を投げる。
さっきまで漁っていたクソ女の持ち物、魔力回復薬と、セントのビルドドライバー、そしてオレのドラゴンフルボトル。
それぞれを受け取った二人は、にやりと不敵に笑ってみせた。
「ナイスだ…リュウガ」
「……非道な。倒れた者の装備を漁るとは」
「うっせぇ、そいつにゃ散々辛酸?を飲ませられてんだよ!」
なんか引いた様子でこっちを見てくるけどいいんだよ、この女に関しては!
さぁ…! 反撃開始だぜ、ヒーロー共!
オレの期待に応えるように、ナオフミは回復薬を飲み干し、セントは腰に巻いたベルトにフルボトルを差し込む。
【ドラゴン!】【ロック!】【ベストマッチ!】
「このタイミングでまさかのベストマッチかよ!?」
いや、狙ってたわけじゃないけど、都合がよすぎじゃねぇか!?
セントの奴ツキすぎだろ!
「ビルドアップ!」
【封印のファンタジスタ! キードラゴン! イェイ!】
オレの叫びも知らない振りをし、セントはハンドルを回して、鍵とドラゴンを模した新たな鎧を身に纏う。ナオフミもその横で、あの刺々しい格好に変わる。
…これで、少しは優勢になりゃあいいが。
「グガアアアアア!!」
その時、さっきと同じように暴走したフィーロが、グラスに襲い掛かる。
けれどその突撃は簡単にいなされフィーロはその勢いのまま甲板に突っ込み、動かなくなっちまった。
「まるで手負いの獣…」
「よそ見厳禁だぜ!」
呆れたように呟くグラスに、左腕を掲げたセントが吠える。
落ち着いたまま振り向くグラスだが、セントの動きの方が早かった。
「はっ!」
セントが鍵の形をした腕を伸ばすと、何本もの太い鎖が現れ、グラスとナイトローグをひとまとめに縛り上げる。
なるほど…封じる事に特化した能力って訳か!
「小癪な…! しかしこの程度!」
がんじがらめになった連中だけど、地の力の違いか、拘束できるのはやっぱ数秒が限界だったらしい。ぎしぎしと音を立てて、鎖に罅が入り始める。
だがなぁ……そのくらいオレ達には予想通りなんだよ!
「龍火衝!!」
「ぐぅっ!?」
奴等が解放されるより先に、オレは拳から青い炎の一撃を放ち、二人を攻撃する。
対して効いちゃあいないが、それでもちょっとくらいは怯ませられた。
その隙に、セントがもう一方の腕―――ドラゴンの力を秘めた方に力を込め、オレより数倍でかい炎の塊を生み出した。
「はぁぁぁぁ!!」
【ボルテックフィニッシュ!】
「食らいやがれえええええ!!」
セントの咆哮と共に、放たれた炎が連中に炸裂し、呑み込まれる。
ゴウゴウと昂る、青い炎の中に奴らの姿が消えた頃合に、セントはナオフミに振り向いて叫んだ。
「ナオフミ、今だ!」
「アイアンメイデン!!」
セントが注意を引いている間に、さっきのデカい拷問箱の用意をしていたナオフミがスキルを発動させる。
燃えたまま盾の檻に閉じ込められ、さらにトゲで串刺しにされた連中が、さらにデカいトゲの中に封じ込められる。
ぶっちゃけ物凄い怖ぇけど、これでどうにか…?
「ぐっ…ぐあああああ!!」
「セント!」
直後、セントが急に叫び声をあげたかと思うと、鎧が電流を放って解除される。
フルボトルが弾け飛び、セントがどっとその場に倒れ込んだ。
「大丈夫か!?」
「ハァ…ハァ…! やっぱりダメだ。ドラゴンフルボトルの力が強すぎて、ベストマッチでも安定しない…」
「反動がでかいのか……なかなかの威力だったんだがな」
「だが、流石にこれで……」
あんだけえぐい攻撃を食らえば、さすがにな……?
だが、そんな考えは甘かったと、空に浮かぶ拷問箱を見上げたオレ達は、思い知らされることとなった。
閉じられた拷問箱が、轟音と共にべこべこに歪み始めたんだ。
「ウソだろ…!?」
驚愕で目を見開くオレ達の前で、拷問箱はさらに歪んでいく。
そして次の瞬間―――拷問箱は粉々に砕け散り、無傷の連中が余裕の顔でその姿を現した。
「……やってくれたな」
どこか苛立った様子で、グラスとナイトローグがオレ達を睨みつけてくる。
あ、あれの他に強力な攻撃なんてねぇぞ…!?
「もう十分だろう…お前達はよく戦った」
もう、為す術がない。
ナオフミも、セントも、ラフタリアも……オレも。
みんな完全に心を折られ、諦めそうになる…ウソだろ、こんなところで、オレたちの戦いは終わっちまうのかよ。
膝をつきそうになった、その時だった。
「…! もう時間か…!」
不意に、グラスとナイトローグが空を見上げ、悔しげな様子を見せる。
それは……明確な隙だった。
「ラフタリア!」
「ファストライト!」
我に返ったナオフミが叫ぶと、即座に応じたラフタリアが魔法を発動させる。
その瞬間、辺りは凄まじい光に飲み込まれ、連中の視界を一時だけ奪い取った。
「くっ…目潰しか!」
流石の連中も、目を潰されてはすぐには反応できなかったようで、忌々し気にしながらもこっちに向かって来ない。
今しかない……逃げるならな!!
【ビルドチェンジ!】
「フィーロちゃん起きろおおおお!! そして走れええええ!!」
「ふにゃ!?」
バイクを起動したセントが、甲板にめり込んだまま気絶していたフィーロを叩き起こし、オレを後ろに乗せて発進させる。
何が何だかわかっていないフィーロを走らせ、ナオフミとラフタリアも船の上を走った。
「走れ走れ走れ〜!!」
迷うことなく、オレ達は宙を舞う船から飛び降り、何とか地面に着地してそのまま逃げ去る。
追ってくるか、と後ろを見るが、船もグラスたちもどんどん遠くなってくるばかりで、こっちに来る様子はない。…諦めた、のか?
「…ナオフミ様! 皆さん! あれを!」
「空の亀裂が…」
ラフタリアの指摘で空を見上げ、オレ達は波の亀裂が徐々に消えていくのに気がつく。
「……一応、あれで波のボスは倒したってことか」
「じゃあ、あいつらは波とは関係なかったのか?」
「わからんが…そうかもしれん」
連中が気付いたのは、もしかしてこれか…? …災厄の波に、助けられるなんてな、くそ。
…わからない事が多すぎて、疲れてきた。
「生き残れたはいいが……あれで勝てたとは思いたくないな」
ナオフミの呟きは…その時のオレ達の心に、重くのしかかるのだった。