Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜   作:春風駘蕩

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謎の多い女

Side:Naohumi

 

「ほー…おもしれぇ仕掛けだな」

 

 セントが俺の奴隷になった翌日。

 俺たちは武器屋の親父の店に訪れていた。

 セントが持っているドリルっぽい武器の整備を頼むためだ。

 

「専門外ってこともあるが、ここまで精巧な道具は見たことねぇな。ホントにこんなもんをお前さんが作ったのか?」

「おう。なにせ天っ才なもので」

「はー、確かにこりゃ匠の技だ」

 

 親父が興味深そうに武器を褒めると、セントの奴は鼻を高くしている。

 ファンタジーっぽい世界にあんなもんがある時点で相当異常だが、やはり親父も知らない技術だったのか…。

 あいつホントに何なんだよ。

 

「にしても度胸のあるやつだな。兄ちゃんの信用を得るためにわざわざ奴隷にまでなるたぁ」

「まだまだ壁があるけどなー…」

「その辺はお前さんの努力次第だろうよ」

 

 親父とセントが何かしゃべっているけど、そんな未来はきっと来ないだろう。

 来ないに決まっている……俺はもう、誰も信用しないと決めたんだからな。

 

「んで、俺はこいつの整備をやっておけばいいんだな?」

「うん。作ったのはオレだけど、素材自体の整備は専門の人に任せといた方がいいと思ってさ。頼むよ」

「ふむ……まぁやれるだけのことはしておくぜ」

 

 セントとの交渉が終わった親父が、俺とラフタリアの方を向いた。

 わざわざ町に来たからには何かやっておきたいが……特に用事はないんだよな。

 

「アンちゃんの方は何かあるかい?」

「俺はいい…前にもらった研ぎ石が役に立ってるからな」

 

 親父には相当驚かれたな。

 ん? 当のラフタリアは……何を見てるんだ?

 子供が遊んでいるのは……バルーンの皮を使ったボールか。

 

「…あれが欲しいのか?」

「っ! ち、ちがいます…」

「…そうか」

 

 …こいつは前々から欲しがらないな。

 前の主人がかなり雑に扱っていたらしいが……。

 俺は少し考えると、セントに小銭を本当に少しだけ渡した。

 

「セント、これであいつにあのボールでも買ってやって、一緒にしばらく遊んでこい」

「ん? いいのか?」

「たまには休ませるのも奴隷使いの義務だろ。いいからさっさと行ってこい」

 

 しっしっと俺が手を振ると…何だ?ものすごく憎たらしい笑みを浮かべやがった。

 おい、何だその「素直じゃないな」的な眼は。

 うっとうしいからさっさと行け!

 

「ラフタリアちゃん、休憩がてらオレとボール遊びしようぜ?」

「い、いいんですか…?」

「ナオフミからお許しはもらってるからさ! いこいこ」

「わわっ…!」

 

 にやにや笑ったまま、セントが半ば無理やりラフタリアの手を引いて店を出て行く。

 どこかそこらの空き地にでも行ったんだろう。あとで迎えにいけばいいか。

 そう思ってたら、親父までもがさっきのセントのような目を向けてきた。

 おい、その目は何だ。よくわからんがめっちゃ腹立つな。

 

「どうなることかと思ってたが、心配するほどじゃなさそうで安心したぜ」

「は?」

「あの亜人の嬢ちゃんだよ」

 

 …親父が言っているのはラフタリアはもちろん、セントの事もだろう。

 俺だって連れて来たかったわけじゃないが……断ってもしつこそうだったしな。

 まぁ、戦力的には助かってるかもしれないけど。

 

「アンちゃんのところにまた奴隷が増えたって聞いて、金欠にでもなってねーかと心配してたんだよ。実際は、俺の予想を大きく超えてきてたけどな」

「……まぁな」

 

 実質奴隷紋の手数料を考えてもほぼタダだったし。向こうの要望も盾を調べたいとかそんなんだったし。

 安上がりな女だよ、まったく。

 にやにや笑っていた親父だったが、不意に真剣な表情で首を傾げた。

 

「にしてもホントに何者なんだ? あれだけの代物を作れるなら、相当有名になっててもおかしくなさそうなんだが…」

「さぁな……記憶がないの一点張りだからな。出身も正確な年齢もわからん」

 

 ついでに名前も本名かどうかあやしい。

 キャラクターとしてはありふれた設定だが、実際遭遇するとこうもうさん臭く感じられるとはな。

 すると、親父が突然聞き捨てならない事を口にしてきた。

 

「ん? 生まれはフォーブレイなんだろうなと思ってたが、違うのか?」

「は?」

 

 今なんつった? フォーブレイ?

 どこかの国なんだろうが…俺はこの世界には詳しくないんだよ。

 勝手に納得してないで最初に説明しておけよ!

 

「フォーブレイってどこだよ」

「ああ、知らなかったのか…この世界で一番でかくて栄えている国だ。高い技術力を誇ってることで有名でな……そうか、あの国の人間ならあの技術も納得できるか」

 

 そう言って親父は、カウンターに地図を出して位置を教えてくれる。

 メルロマルクからはかなり離れていて…そんでとんでもなくデカい。確かに世界一の大国らしい。

 そんで技術も高水準だと……この国に召喚されてりゃ、もっとマシだったかもしれないな。今さらどうでもいいが。

 

「フォーブレイについてはわかったが……なんで親父はいきなりそう思ったんだ?」

「だってあの嬢ちゃん、ナオフミにはずっとフォーブレイ公用語を話してただろ。俺と話すときはメルロマルク語だったけど」

「なに!?」

 

 キョトンとした顔で応える親父だが、俺はそんなの初耳だぞ!

 どうなっている!? ラフタリアとも普通に話してたはずだぞ!?

 

「アンちゃん、いつの間にフォーブレイの言葉を覚えたんだ? 大したもんじゃねぇか」

「いやいや待て待て。俺がいつそんな言葉を使っていた」

「いやいや、むしろ俺はアンちゃんが自覚してなかったことにびっくりなんだが…」

 

 どうにも親父との会話がかみ合わない。

 いや…そもそも考えていれば、異世界の住人である親父とこうして話していることがおかしい。

 考えられる原因といえば……この盾しかない。

 そしてあいつの目的はこの盾を調べること……という事は。

 

「すまん親父。ちょっと確認してくる」

「お、おいアンちゃん!?」

 

 親父の制止も聞かず、俺はどこかにいるはずのセントを探す。

 この辺りはほとんど店で、遊べるような場所はほぼない…となるとあいつらがいるのは。

 いた……こじんまりした空き地、子供が秘密基地とか作ってそうな場所でバレーみたいな遊びをやっていた。

 

「うまいうまい! んじゃあそろそろオレも本気出して…!」

「おい」

「うひゃあお!?」

 

 俺がちょっと苛立ちを込めた声で呼ぶと、セントの奴は文字通り飛び上がって驚く。

 そして俺に気づくと、恨めしそうな目で睨んできた。

 おい、被害者面すんな。

 

「い、いきなり後ろから声かけるなよ! ビビったぁ〜」

「お前、今何語で話してる?」

「ん?」

 

 汗を拭うしぐさを見せるセントに構わず、俺はずいっと顔を近づけて尋ねる。

 ラフタリアが目を白黒させているが、それは後回しだ。…なぜかは知らんがショックを受けている顔をしているような。

 セントはぽかんと口を開け、訝し気におれを睨み返してきた。

 

「え、いきなり何?」

「いいから答えろ。お前、この国のものとは違う言語で言葉で喋ってたんだってな」

「あ」

 

 俺がそう言った途端、セントはさっと目を逸らした。

 こいつ…案の定勝手に何か仕掛けてやがったな。

 

「あははは…悪い。ちょっと実験してたんだよ」

「実験だぁ?」

「ああ、聖武器には言語を翻訳する力があるって聞いてたからさ。どれだけ対応できんのかなってちょっと興味が湧いてきて……」

 

 舌を出して誤魔化そうとしてくる目の前の馬鹿。

 最近なんか妙になれなれしくなってきたかと思えば、科学者らしいマッドな部分を見せてきやがったな。

 イラッとしたから、つい奴隷紋を発動させてしまっていた。

 

「騙そうとしてんじゃねーよ」

「あだだだだだだ!! ごめん、ごめんってナオフミ! ちょっとした出来心だったんだよ!!」

 

 そういう出来心は我が身を滅ぼすんだ。覚えておけ。

 まぁ……実害のない悪戯のようなものだからこの程度で済ませてやるけど。

 それはそれとして、だ。

 

「おい、どれだけ対応できるかってことは、他にも違う言葉を使っていたのか?」

「え? おう。今日はフォーブレイだったけど、昨日はシルドフロリーデンとシルトヴェルトのだったぞ」

 

 そんなにいろいろ使ってたのか……というか、そんだけの言語を流暢にしゃべれすぎだろ。何者だ以前のお前は。

 一応、ラフタリアにも確認をしてみよう。

 

「…本当か?」

「は、はい。時々聞いたことのない言葉を使ってましたけど…」

「それは多分これのことだねー。驚かせて悪かったねー」

 

 ラフタリアにセントが話しかけ、ラフタリアがめっちゃオロオロしてる。

 これは……ラフタリアも知らない言葉で話してからかっているんだな。

 盾の翻訳すげぇな……そしてそれすら流暢にしゃべれるこいつもすげぇな。

 

「で、ナオフミはこれも普通に聞こえていると」

「あ、ああ…対応できる言語に限界はなさそうだな」

「ますます興味深いじゃないか…! そういえば今日はまだ調べさせてもらってない! 触らせろコラァ!!」

 

 睨みつける俺を全くおそれず、セントはいつぞやの様に盾に飛び掛かってきた。

 やめろ! お前さっきの奴隷紋で学んでないのか!? もっぺん食らわせるぞコラ!

 

「鬱陶しいんだよ、このバカウサギ!!」

 

 

 結局、何十分も粘り続けるセントに根負けし、思う存分触らせてやることになってしまった。

 その間、なぜかラフタリアが不安げな表情で俺の腕にしがみついていたが……一体どうしたっていうんだ? セントの事も若干睨んでたし。

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