Be the one 〜盾と仮面のベストマッチ〜 作:春風駘蕩
Side:Sento
「…ふはー、ひっさびさにいい飯食った〜」
「オレとしては正直、ナオフミの作る飯の方が好きだけどな」
「はいはい…」
領主とかいう優男の家で、オレ達はごちそうになった。
そんで今は、客室に入って少しばかり寛いでいるところだ。
横を見ると、なんか上等そうって事だけわかるベッドに寝転がって、リュウガが満足そうに腹を摩る。
なんかこうやって、気を抜けたのは久々だな。
じゃあオレも…って思ってたら、ナオフミの奴、まだ外を警戒してる。
「ちょっとナオフミ、少しくらい落ち着いたらどうなの?」
「いつどこに奴らの目があるかわからん。あの領主が、俺達を裏切る可能性だってあるんだからな」
「そんなこと…!」
「領民を人質にでも取られたら、流石に引き渡せと言われたら応じないわけにはいかないだろう」
ナオフミの言葉に思うところがあったのか、メルティが黙る。
まぁなぁ……国全体が「盾の勇者殺すべし!」みたいな状態なのに、いつまでも手を貸してくれるわけじゃないだろうし。
「ナオフミ様…私達がここにいることは、まだ伝わっていないはずです。今のうちに少しくらい休んでおくべきかと」
ずっと気を張ってるナオフミ。
それを見かねたのか、ラフタリアちゃんが宥めるように話しかける。
ナオフミはしばらく悩んでたけど……そのうち肩から力を抜いて、窓から離れた。
「…そうだな」
「オレ、見張っとくよ。ラフタリアちゃんも休みな」
「よろしいのですか?」
「いーからいーから」
オレが見張りを買って出ると、ラフタリアちゃんは申し訳なさそうにしながら引き下がる。
すると、それを見たメルティがなんか目を吊り上げてきた。
「なんでラフタリアさん達の言うことは信じるのよ!」
「あ? こいつらは信用できるからに決まってるだろうが」
「むー…!」
「何なんだよ…」
おやおやぁ…?
オレが思わずにやにやしながらその様子を見ていると、気付いたメルティが気まずそうに目を背ける。
おい、ほっぺ赤いぞ。どうかしたのか、ん?
さて……からかうのはこれぐらいにして、と。
「メルティちゃんも休んどきな。なんかあったらすぐにでも動けるようにしておいて」
「…ええ、わかったわ」
オレが言うと、メルティは素直にベッドに入る。
全員が(リュウガとフィーロちゃんはいつのまにか寝てた)ベッドに入ったのを確認して、俺は窓辺に立って、外の様子を伺う。
それからしばらくの間、オレ一人で見張りを続ける。
すると不意に、一つのベッドがごそごそと動いて、メルティが体を起こした。
「…眠れないのか?」
「…そう、かも」
一緒に寝ていたフィーロを気遣ってか、小声で答えるメルティ。
まぁ、色々あったからなぁ……休めっつって休めるもんでもないか。
「…ねぇ、セントさん」
「ん?」
「私…このまま父上の元に戻ったほうがいいのかしら」
……いきなり何を言い出すんだ、この子は。
え、マジでどうしたの?
いや、確かにそうできたら手っ取り早いとは思うけど……できないからこうしてるわけで。
「でも、そしたらあんたの身が…」
「もちろん、捕まるつもりなんてないわ。だけど…このまま逃げ続けるより、自分のやるべきことがあるんじゃないかって」
いや、うん、気持ちはわかるよ?
たださぁ…自分の身、もうちょっと大事にしとこうよ、お姫様。
「ナオフミに言ったら、浅はかだって怒られるかもしれないけど……」
「んー…まぁ無謀とは思うだろうな」
そういう手段は、ないわけじゃないんだよな。
国中の監視の目を掻い潜り、城の中の兵士を全員突破して、あらゆる困難を突破しながら、国王の元にメルティを連れていく……うん、無理だな。
あれだな。
女王のとこまで行く方法がダメになったら、そっちに変えるって感じだな。
「でもまぁ、メルティちゃんがちゃんと考えて言うことなら、ちゃんと聞いてくれると思うぞ?」
「そうかしら…」
「そうだとも。あいつは結構、優しいやつだからさ」
おいおいナオフミ……王女様からの信頼がどっか行ってんぞ。
日頃の行いの所為だし、自業自得だから直接は何も言わんけど、もうちょっとこの子の扱い考えた方がいいぞ。
フォローするオレの身にもなってほしいもんだぜ…。
キューピッド役は辛いな!
オレがそんなことを考えていたら……なんかメルティの奴、オレにすっげぇ羨ましそうな視線を向けてきた。
「…セントさんやラフタリアさんみたいなお姉さんが欲しかったな」
「あれと比べるのはやめとくれ」
「ごめんなさい、そういうつもりはないの! ただ…」
それ、ある意味侮辱に等しいからな?
あの性悪腹黒最低嘘吐き女と比べられるのって、無茶苦茶傷付く事だからな?
『君、ウ〇コより良い匂いがするね!』とか『君の美しさはゴキブリとは比べ物にならないよ!』とか言われて嬉しいかい?
そういう事なんだよ、あいつと比べられんのは。
んー、だけどもメルティは、そういう事が言いたいわけじゃなさそうだから、これ以上はやめとこ。汚いし。
「……最近私、どんどんわがままになってる気がして。王女らしくしなくちゃいけないのに、ナオフミの前だと感情を抑えられなくて」
……あー、うん、なるほどね。
そういうアレで、そういう心情なわけね、はいはい把握しましたよ。
「……なんですか、その目は」
「いや? 別に?」
いつ頃になったら自覚するのかなぁ~?とか。
自覚したらしたでどんな面白い反応みせてくれるのかなぁ~?とか。
全然考えておりません事よ?
これはアレだ……下手に口を挟まずに、様子を見守るのが吉だな。
ラフタリアちゃんには悪いけども!
しかしあれだな……この子はこう、色々背負いこんじゃうタイプなんだな。
今回の冤罪も、自分に責任あるって考えてそうだし……どうしたもんかなぁ、オレこういう話題苦手なんだよな。
「セントさんみたいに、落ち着いた人になれたら…」
「んにゃ……オレはそこまで大したものじゃないよ」
「そんなことは…」
なんかこう評価下されてて気恥ずかしい……全然、そんな、尊敬されるような生き方してないし。
……うん、いい加減話しておくべきかな。
「メルティちゃんにはまだ言ってなかったっけな……オレ、記憶喪失なんだわ」
「え…」
「ナオフミと会うまで、どこで何やってたのか全然覚えてないんだわ、これが」
オレが語ると、メルティは驚きの表情でオレを見てくる。
知らない奴が聞けば、確かに驚くわな。
けど正直に言えば、本当に戸惑ってんのはオレの方なんだよな……気がついたら、今のオレになってたわけで。
今に至るまでの全部がきれいさっぱり消えちまってんだもん。
「覚えてるのは、自分が人より頭がいいってだけ……セントって名前も、昔助けてくれた人がつけてくれた名前なんだ。オレがオレであることを示すものは……ほとんど残ってない」
あるのはこの天っ才的な頭脳と、人より強い好奇心、あとはラブ&ピースの精神くらいか?
持ってるのはそれくらいで……オレには、何もなかったんだ。
「時々思うんだわ―――お前は誰だ、何でここにいるんだ? …って」
メルティは息を呑みながら、オレの話を聞いてくれている。
こんな話、いきなり話したら不気味がるか、怪しんで距離をとられてもおかしくない……けど、ただ心配そうにオレを見てくれるだけ。
ほんっと……なんであの女の妹がこの子なんだか。
「不安で不気味でたまらなくなる……もしかしたらオレは、過去に何かやらかした大罪人なんじゃないのか、なんて」
「そんな…ことは」
「いーのいーの、怪しいのは本当のことだから」
気を遣ってくれて、マジでありがたいわ。けど、今更考えたってしょうがないんだよな。
きっかけも何もないんじゃ、過去なんて思い出しようがない。
オレが犯罪者だったかどうかなんて、今の状況じゃ調べようがないんだ。
「でもあいつ、そんな怪しいオレでもふっつーに受け入れてくれてさ……正直、オレの方こそ救われてんだよ」
そのへんのベッドで横になってるあいつを見やる。
全く……疑心暗鬼になってるくせに、オレみたいな奴を受け入れるなんて、お人好しが過ぎるっての。
……だからこそ、オレはお前の力になりたいんだよ、ナオフミ。
「……ナオフミには、内緒な?」
「…わかったわ」
ふっと微笑んだメルティが、また布団の中に戻る。
今度はちゃんと眠れるといいな……また起きたら、話し相手になってやるか。
……ところでナオフミ? 起きてんなら一声かけてくれてもいいんじゃないの?
寝息で起きてんのバレてんだよ、バカ。
ほんっと……手間のかかるご主人様だよ、お前は。